正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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九里のバカ殿

 ──新世界、“ワノ国”。

 

 勢力の拡大は極めて順調だった。

 

「船も屋敷ももうちょっとで完成みたいね」

 

「ええ。ワノ国の職人はとても腕が良くて……武器工場も順調に稼働していると、オロチは感謝していました」

 

「まあ私とカイドウで結構ボコボコにしたからねー。そりゃ順調じゃないと困るわ」

 

 けらけらと笑いながら鬼ヶ島中央の巨大な洞窟内。工事と建設が進み、多くの木材、資材が船で運び込まれ、大工達がせっせと働くところを見て部下と話す。今はまだ船で寝泊まりしたり、こうやって寛ぐ時も洞窟内にソファーとテーブルを置いて、そこで寛ぐしかない。早く出来ないかなー。大工には私やカイドウがこういう部屋をつけろと色々と要望を聞いて貰ってるし、船の方もかなり巨大で性能の良い……というか、装備が充実したものを作る予定だ。その為に態々最新鋭の海軍の軍艦まで奪って船大工に見せてあげた。大工達は皆当然職人気質。新しい知識にも貪欲でこぞってその知識と技術を取り入れ、ワノ国に元々あったものと組み合わせて良い船を作ろうと快く協力してくれている。これに関しては本当に。嫌々やってる訳じゃない。兵器、例えば大砲だって喜んで凶悪な性能のものを作ってくれるしね。というかそもそも花の都の住人は裕福な者が多いので政治の不安定さとかそこまで興味がないというか、自分達が安全に幸せに暮らしていればそれが光月だろうが黒炭だろうがどうでも良さそうな者も多い。他の郷が苦しんでいようが関係ない。自分は嫌な思いしてないからね。どんな世界でも民衆なんてこんなものだ。他人を慮れる者は限りなく少ない。──まあ私はそれで全然良いと思うけどね。凡庸な人間ばかりってのも味気ないし。と、私はソファで寝っ転がりながらおつまみの串焼きを摘み、ノートにペンを走らせる。

 すると傍らの部下、女性船員が気になった様子で、

 

「あの……何を書いていらっしゃるので?」

 

「組織図だよ~」

 

「組織図?」

 

「これから組織が大きくなった時の為に色々と考えてるの。どういう指揮系統とか、体制にするのかとかさ。例えば、白ひげ海賊団とかは隊を分けてその上に隊長を作って指揮を取らせてるし、ビッグ・マム海賊団は子供達を大臣、後は戦闘員“騎士(ナイト)”、“僧正(ビショップ)”、“(ルーク)”でランク付けしたり、リンリンの能力で作られたホーミーズとかにして、マフィアみたいな組織構造を作ってるでしょ?」

 

 と、私は視線をノートに向けたまま、部下に問われたことを親切に答えてあげる。別に怒ることでもないし、隠すことでもない。気分も良いし、私は続けて周囲にいる若い船員達や見習いの子達にも聞こえるように説明してあげる。

 

「大きな海賊団はどこもそうしてる。そうした方が船長とかの負担も減るし、幹部とか階級とか作ってあげると下の子達のやる気も出るでしょ? ──それに、こういうの考えるの楽しいしね♪」

 

「な、なるほど。それでは、また幹部の数も増えると……」

 

「そうだねー。誰を幹部にしようかなーとかも考えてるから、覗いちゃ駄目だよ? 幹部になりたかったら、あなた達も強くなってしっかりとアピールしてね♡」

 

「! はい……!!」

 

 うんうん。部下達が露骨にやる気を出した。良いことだね。さっすが私。やる気を出させるのが上手。──ただここにいる子で幹部に出来そうな子は今の所少ないけどね~。皆まだまだだからなぁ。悪魔の実食べたら化けるのも出てきそうだけど、出来れば無くても化けるくらいの強い子がいて欲しい。ロジャーや白ひげのところなんて悪魔の実の能力者全然いないのに船員のレベルが高くて嫌になる。戦闘経験は負けてないと思うんだけど何故か負けちゃうのよね。上の幹部の強さは勝ってる気もするけど、総合的な戦力で負けてると苦戦しちゃうし。

 てな訳で拠点に船。そして最近は各地で船員を増やそうと頑張ってる。叩き潰して勧誘の連続だ。そうして数が揃えば組織の形もガラッと変えようと思ってる。この辺りはカイドウとも摺合せをしておいた。

 幹部の名前を“真打ち”。そして真打ちの中で最強の六人を“飛び六胞”。“ナンバーズ”は別枠。古代巨人族の戦闘部隊って感じで。

 その上に船団、軍団を率いる最高幹部の船長達、“大看板”。ここに内定してるのは当然“キング”、“クイーン”、“ジョーカー”だね。あと一人、“ジャック”が欲しいけど、それはそのうちってことで楽しみにしておこう。

 それで百獣海賊団の頂点に“総督”としてカイドウ。私は“副総督”ってところかな? 特に捻る必要もないし、こんなところだろうね。

 ……とはいえ、この組織図が現実になるのには後数年は掛かるかなー。屋敷も船もまだ出来てないし、船員の数もまだまだ少ない。そろそろ時代の節目でもあるだろうし、もうちょっと強化を早めたかったけど──などと考えていると外から部下が戻ってきた。

 

「──ぬえ様!! 今日の新聞です!!」

 

「あ、ご苦労様~……って、随分と顔色が悪いね? どうかした?」

 

「い、いえ、それが……!!」

 

「?」

 

 私は血相を変えて新聞を持ってきた部下を見て首を傾げる。ワノ国は鎖国国家で、外の情報は入ってこない。──だけどまあ、何事にも例外、もしくは抜け道はある。鬼ヶ島に新聞を持ってこさせるように色々と手筈を整えたので、ワノ国で外の情報が知れるのは私達百獣海賊団と黒炭家くらいだ。──という訳で私は今日の新聞を確認する。あ、“海の戦士ソラ”が更新されてる!! 新連載されて人気が出たと思ったら作者急病により休載とかだったからね。ちょっと残念だったけど、また見れるなら良かった。モデルの彼らにも、いつかちょっかい掛けてあげたいね~♡ ──と、それは置いといて見出しを確認する。

 

「さーて、今日はどんな面白ニュースが書いてあるかなぁ~~~……おお!! ──偉大なる航路(グランドライン)を制覇!! 最後の島“ラフテル”に行き着いた、“富”、“名声”、“力”、全てを手に入れた男“海賊王”ゴールド・ロジャー!! ──なーんだ!! 今日の記事は大したことな…………ん?」

 

『!!!?』

 

 ──その瞬間、この場にいる全員の時が止まった。私も思考が止まる。いきなり過ぎて、脳に落とし込むのに時間が掛かっていた。

 誰もが絶句し、声をあげる僅かな間。私は一度落ち着いて息を入れる。周囲を見れば皆が絶句していた。

 

「んー……? あー……ええっと何々……前人未到の世界一周を達成した……世界最高の海賊団ロジャー海賊団……“海賊王”ロジャーが手に入れたその全ての物……それが──」

 

「──何だと?」

 

「!!!」

 

「あっ!」

 

 私はそれを声に出して読み上げようとしたその時、背後から凄まじく低く威圧感のある声と共に、新聞が奪い取られる。私が読んでたのに!! 別に良いけどさ!! 一声掛けてくれてもいいのに。いや、掛けたから部下達が死ぬほどビビって後退りしてるんだけど。

 そして当然、この場で部下達全てをビビらせる程の存在感を放つのは私の姉弟分の大男。百獣海賊団船長、“百獣”のカイドウだ。

 そのカイドウは新聞を手に取ると、歯を食いしばり食い入るようにそれを見る。そしてギリギリと歯を軋ませると、怒気を激しく身体から放ちつつ、

 

「“海賊王”ゴールド・ロジャー……!!! 世界最高の海賊団だと……!!?」

 

 そして怒りで新聞をそのまま破り捨てる──ああっ!? まだ全部読んでないのに!!? 

 

「ふざけやがって……!!! ──おい何してるてめェら!!!」

 

「は、はははははい!! 何がですか!!?」

 

 明らかにブチギレた様子でカイドウは告げた。

 

「さっさと船を出せ!! ロジャーの奴を討ち取るぞ!!!」

 

「え~~~~~!!? そんな!! 相手はロジャー!! 海賊王ですよ!!?」

 

「それがどうした!!! あの野郎……!!! ぶっ殺してやる……!!! ──早くしろ!!! ロジャーの奴を見つけ出せ!!!」

 

『は、はいっ!!!』

 

 カイドウの怒りの声……もはや咆哮とも言える程の怒声に部下達はもう従うしかない。逆らったら殺されるどころかこの場で暴れかねない。ちょうど良くか悪くか知らないけど酔ってるし。

 だが……確かに、この破れた新聞の記事を改めて見るとちょっと震える。

 “海賊王”の誕生のニュース。私達だけじゃない、世界中が騒いでいるだろう。

 そして海賊ならば──いや、海軍や民衆であっても、その“宝”に誰もが興味を持つ筈だ。

 私が声に出そうとしたその宝の名前は、新聞に書かれていたものだ。

 

 そう。これから先、世界を一周したロジャーが手に入れたこの世の全てを総称し、こう呼ぶことになるのだ。

 

「──“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”」

 

 

 

 

 

 その報せは間違いなく、ここ数十年で1番の大ニュースだった。

 

「ロジャー海賊団がやりやがった!!」

 

「前人未到の世界一周!! あの“偉大なる航路”の完全制覇だ!!!」

 

 4つの海と“偉大なる航路”。世界中のあらゆる国、都市、辺境の島々や村落にまで、その報せは届いた。

 そもそも“海賊”とは──世界政府とその加盟国の許可なく、航海を続ける者達の総称である。

 その多くは髑髏の旗を掲げ、略奪や殺人などの犯罪行為に手を染める者が多いが、仮にこれらを行っていなかったとしても、許可なく航海を始めればそれは海賊だ。

 これは約800年前。世界政府が誕生してから長い間、常に施行されてきた世界の法であり、常識である。

 この世の何人たりとも、この海を自由に渡ってはならない。その意志を今まで世界政府は封じてきて、実際に約800年間、誰もその偉業を達成出来なかった。

 しかしそれを成し遂げた。ゆえに──“海賊王”。この世の全てを手に入れた者の称号。

 そしてだからこそ、世界中がざわついた。

 

「ロジャー……遂にやりおったのか……!!」

 

 当然、海軍にもそれは知れ渡る。世界の海を守る海軍は、その実、世界政府とその彼らの秩序を守るための軍隊であり……ゆえに海軍は過剰に動き始めた。

 

「ロジャーを何としてでも見つけ出せ!!」

 

「全支部にも通達!! 動ける海兵、軍艦はほぼ全てロジャー海賊団の捜索、追討に充てる!! 他の海賊は見つけても無視せよ!!」

 

「センゴク大将!! 元帥閣下がお待ちです!! 大将殿!!」

 

「……これも“D”の意志か……?」

 

「は? 今なんと──」

 

「…………何でもない。すぐ行く」

 

 聖地マリージョアから海軍本部マリンフォードまで。偉大なる航路にある全ての支部に、4つの海にある支部まで。上は海軍元帥、海軍大将の海軍本部最高戦力。下は雑用まで、多くの海兵が動員され、ロジャー海賊団を捜索する。

 過剰な動き。しかし、事情を僅かでも知る一部の海兵にはそのニュースと世界政府の動きに複雑な思いを浮かべる。

 そして“海賊王”が生まれたのだから、海賊だって動くのが道理である。

 

「オヤジ!! ロジャーの奴が!!」

 

「……グララララ……!! ロジャー……あのバカ、本当に……!!」

 

 海賊もまた、世界中に存在する。

 財宝を求め、あるいは名声や力を求め。ただ縛られるのが嫌いでなった者や、純粋に悪人である者。冒険を志し、それを実行したが故に海賊と呼ばれるようになった者。

 多くの海賊が4つの海と“偉大なる航路”に存在する。

 

「ロジャーの野郎を討ち取るぞ~~~!!」

 

「偉大なる航路へ向かえ!!」

 

「あの野郎は全てを持ってるんだとよ!!」

 

「まさかこの海から“海賊王”が誕生するとはな!!」

 

「あいつを殺して海賊王の座を奪ってやる……!! 行くぞ“新世界”に!!!」

 

 海賊達はこぞってロジャーを狙った。ロジャーを探した。

 だがその争奪戦に勝つ者は誰もいない。ロジャーも、ロジャー海賊団も見つからない。

 それどころか、同じくロジャーを探す格上の海賊団に潰される始末だ。

 探せど探せどロジャー海賊団は見つからない。謎の失踪を遂げた──が、それもその筈。ロジャー海賊団は人知れず解散していた。

 1人、また1人とどこかの島に降りて伝説の海賊達がバラバラになっていく中で、血眼になって彼らを追う海軍に海賊。それらが衝突し、多くの犠牲を出す。

 しかしそんなことが起きているとは露知らず、また1人──ロジャー海賊団の一員であった男が故郷の土を踏んだ。

 仲間達とはまたいつか会える筈と男の別れを告げて、帰ってきた男の名は──光月おでん。

 ワノ国の将軍の跡取りであった侍。九里を治める大大名でありながらもかつて大海賊、“白ひげ”の一団で隊長を務め、その後ロジャー海賊団に参加し、世界の秘密を知った男。

 その男が、また次なる夢……“開国”を目指し、久方振りとなる故郷の人々と顔を合わせた。

 

「おでんさん!! 会いたかった!!」

 

「トキ~~~!! モモの助!! 日和!! おれもお前達に会いたかったぞ──!!」

 

 おでんは一年ぶりに見る自分の家族と抱擁を交わす。その再会は確かに、一時の感動を生んでいた。

 だが……強い違和感を覚えたのはその後の家臣の反応からだった。

 

「お帰りなさいませ!! おでん様……!!」

 

「おう!! お前達も久し振りだな!! ──って、どうした? ははは、泣くほどおれが帰ってきたのが嬉しかったか?」

 

「っ……いえ、その……」

 

「? どうした歯切れが悪いな……?」

 

 おでんはその家臣達の様子に訝しげに首を捻る。錦えもんや雷ぞう。河松にカン十郎。菊の丞にイヌアラシにネコマムシ。アシュラと傅ジローを除く家臣が揃ってはいたが、彼らの顔はどこか申し訳無さが漂っており、顔色は悪かった。

 

「……おでんさん。その……」

 

「トキ! 皆どうしたんだ? てっきり、もうちょっと茶化されるかと……」

 

「……おでんさん。これから何を見ても……彼らを責めないであげてください」

 

「──は? 責める? おれがこいつらを?」

 

 挙句の果てにはいつも明るく気丈で、芯のある強い女性であるトキまでが顔に影を落とす。

 その意味がおでんにはまだ理解出来なかった。──しかしそれは、九里の城下町に入るまでのこと。

 いや……正確には、九里の城下町があった場所を目の当たりにするまでのことだった。

 

「な──何だこれは……!!!?」

 

 おでんはその有り様に絶句する。

 九里の城下町。かつて自分についてきた頼もしい家臣達。愛すべきバカ達と共に作り上げた博羅町。

 そこは──かつての荒れ果てた土地に逆戻りしていた。

 

「何が起きればあの町が……こんなザマに……!!」

 

「っ……申し訳ありません!!! 我らの……我らの不用意な行動が……この様な惨事を招いてしまい……!! 預かった領地を守り通すことが出来ず……!!」

 

「ウッ……ウウ……!!」

 

「お、おい泣くな!! 説明しろ!! 何か……何かあったんだろう!! 地震とか竜巻とかの災害にでもあったのか!!?」

 

「……おでんさん。それも含めて順を追って説明しますから……今はとりあえず城に」

 

「トキ……わかった」

 

 その町を……ボロ小屋や藁で出来た家。まだ建設中の、しかし一応は人が住める町。

 だがそこは、ただ住めるだけであり、かつての様な笑顔は殆ど消え去っていた。

 家臣達が涙ながらに謝罪をし、それを止めたところでトキから城へ向かおうと提案があったため、おでんは自らの城へと真っ直ぐ戻っていく。

 しかしその途中、その町の人々はおでんを見て、様々な反応を見せた。

 

「おでん様が帰ってきた……!!」

 

「でも、あいつがちゃんとしてれば……!!」

 

「おでん様ならきっと……!!」

 

「無理に決まってる……誰も()()()()には敵いっこない……」

 

「…………」

 

 その声におでんは声を掛けることも出来なかった。何と言えばいいか分からなかったからだ。

 自身の帰還を喜ぶ声もある。逆に、恨めしいといった視線を向けて陰口を叩く者もいる。

 だがおでんはもっと罵詈雑言で迎えられると思っていたのだ。昔からそうであり、特に気にしたこともない周囲の反応だが、今回のものはいつもとまた少し違う。

 喜ぶ声も恨む声にも、一様に何かへの恐怖を抱えている様子だった。喜ぶ声はこちらに祈るかの様だったし、そうでない者は逆に呪うかの様に絶望していた。

 それはかつての九里に似ている。貧しい無法地帯。罪人の流刑地であった頃の九里に。

 一体何故、こうなってしまったのか。自分がいない間に何が起こったのか。おでんは城へ戻ると、その事情を家臣達から耳にした。

 ここにいないアシュラは荒くれ者共が暴れないようにまとめ上げ、傅ジローは国中から金や人足を借りて回っているらしい。そして、何故そうなっているのかと言うと──

 

「父の身体はやはり悪かったのか……!! 死に目に会えず残念だ……!!」

 

「はっ……そして、難解なことに……その跡継ぎには父上スキヤキ様の推薦であのオロチが……」

 

「!!? 何!? 何故そうなった!?」

 

「それが我らにも不可解でありまして……オロチはおでん様の弟分であり、将軍代理を務めさせるに相応しい人物だと……」

 

 その話におでんは混乱する。オロチは知っていたが、弟分ではない。ただの知り合い。おでんにとって親しい間柄の霜月康イエの家臣であった事から、頼みを聞いて金を貸してやっていただけであった。

 まさに寝耳に水の話。しかし、話は更に深刻になっていく。

 

「今ワノ国の各郷には幾つかの武器工場が建てられ……そこで働きを監視されながら、郷の男達は毎日暮らしてゆけぬ程の安い賃金で酷使されているのです……」

 

「何だそれは!! なぜ皆オロチみてェな奴の言うことを聞くんだ!?」

 

 道中見かけた煙を排出するその建物の詳細を聞かされて憤るおでん。しかし、そこでまた家臣達の顔が暗くなった。手を震わせ、バツが悪そうに下を向き始める者もいるが、主君の質問にはきちんと答えた。

 

「それが……オロチのバックには“カイドウ”という海賊がついており……」

 

「その強さ、まさに怪物並みで……逆らえば“災害”と呼ばれるカイドウの部下達が見せしめを行うようになっております……!!」

 

「それを良いことにオロチはやりたい放題……!! そして、その脅威を知らずに我々も……!!」

 

 と、そこまで話したところで、再び家臣達は強い後悔の色を顔に滲ませ、口を噤んでしまう。だがそこで、先にトキが口を挟んできた。

 

「おでんさん!! 彼らは……彼らは町の人達や、私達を守ろうとして──」

 

「いえトキ様!! 言い訳不要!! どのような理由があろうとも……結果的に守りきれなかったのなら同じこと……!! 我ら、如何なる処罰も受ける腹積もりであります……!!!」

 

「っ、でも……!!」

 

「…………? おい、話を勝手に進めるな!! 話せ!! 何があったんだ!!?」

 

 おでんは徐々に不穏になっていくその話を、彼らの口から語られるその事の真相を聞いた。

 

「半年程前……武器工場で労働を拒否した男とその家族が処刑されました」

 

 そう──彼らは確かに、守ろうとしたのだ。

 度重なるオロチの蛮行に義憤に駆られ、怒りのままに刀を手に花の都へ向かった。

 だがそれが、悲劇の始まりだったのだ。

 

「オロチの下に攻め入ると同時刻に、裏から手を回され、カイドウの部下達がこの“九里”へ!!」

 

「この城に侵入しており……跡取りであるモモの助様の命を狙われ……!!」

 

 そこで家臣達は一斉に土下座を行う。畳に額を擦りつけて、身体を震わせた。

 

「城の番に残った我々も、敵にやられてしまい……!!」

 

「!!? 負けたのか!! お前達が……!!」

 

「面目次第もございません……!!」

 

 イヌアラシに河松。城に残ったという彼らの強さはおでんもよく知るところ。並の侍を凌駕する彼らの強さはワノ国一と言っても過言ではない。

 しかしそれもカイドウの部下に負けたという。カイドウではない部下にだ。そのことにおでんは驚く。

 そしてその結果は──見ての通りだった。

 

「トキ様に矢傷を負わせ……目の前で、空飛ぶ不思議な円盤に町を破壊されてしまいました……!!」

 

「っ!! 見せろトキ!!」

 

「……いいえ、おでんさん。確かに怪我は負わされたけど、傷は治ってるの。──傷跡も()()()()()()()()()……」

 

「ウソつけ!! そんな訳があるか!!」

 

 おでんはトキが傷つけられたと聞いてその身体を確認するが……確かに傷を負ったという足には何も痕がなかった。矢が刺さったなら傷跡は残る筈。半年前なら尚更だ。消える筈はないが、実際に消えている。

 

「九里を襲った敵達に治療をされたのです……奇妙な妖術を使う少女で……もしかしたらその力かもしれません」

 

「!! 能力者か……!!」

 

 おでんは何年も海賊をやっていた。だからわかる。この国で言うところの妖術使い。悪魔の実の能力者。

 その力があれば、到底理解出来ない不思議な現象を起こすことも可能だ。どういう能力かは知らないが、トキの足の怪我を消したのもその力に由るものだろう。

 何故治療したのか、その意図がわからないが、治療されたことは良かったと思う。しかし襲ったのがそいつらで、町をメチャクチャにしたのもそいつら。素直に感謝することは出来なかった。

 

「……オロチのやり口がよくわかった……!!」

 

「おでん様!!?」

 

「何を……!!」

 

 おでんは自らの刀を手に取る。彼は怒っていた。

 当然だ。皆で作り上げた町を破壊され、妻を傷つけられ、部下も傷つけられた。

 そして何より──その話を聞いていた子供達の怯えっぷりにブチ切れた。

 愛すべき存在に怖い思いをさせ、トラウマを植え付けた。どれか1つでも、おでんが怒り暴れるには十分な理由だった。

 

「お前達、おれの家族を守れ!! 九里を守れ!!!」

 

「! 待っておでんさん!!」

 

「おでん様!!?」

 

 おでんは城から文字通り飛び出し、諸悪の根源の下へ向かう。疾風の如き速さで花の都──そこにいる黒炭オロチを斬らんと、その全身に覇気を滾らせて。

 

 

 

 

 

 ワノ国の大名。侍、住人達は知らないが、各郷にはオロチとカイドウの部下が常駐しており、何かが起きれば国内用の電伝虫とも言えるスマートタニシで連絡をすることになっている。ゆえに──その情報は一瞬で届いた。

 

『おでんが花の都へ向かっています!!』

 

『オロチ様に報告をしていますが繋がらず!!』

 

『今確認しました!! ……うおっ!!? す、凄まじいスピードです!! 花の都に辿り着くのは時間の問題かと!!』

 

『如何しましょう!!? このままではおでんがオロチ将軍の下に……!!』

 

「──だってさ。どうするの?」

 

 そして私は、ちょうど鬼ヶ島でその報告を聞いた。つい先程、戻ってきたばかりだが、まさにこのタイミングとは。危ない。殆どニアミスだ。

 もう少し寄り道をしていたり、捕まってる時間が長引いていたら間に合わなかっただろう。はー……さすがに20隻の海軍艦隊との連戦はキツかったけど、何とかなってよかった。ロジャーを探すためかバカみたいに軍艦がうようよしててびっくりする。負けてはないけど久しぶりに捕まっちゃったしね。拷問もされて死刑も受けたけど、それは大した問題じゃない。今はこっちが最優先だ。おでんが降りたってことはロジャー海賊団はこの近海にいるけど、ロジャー自身はいないだろうし、私はカイドウに問いかけた。おでんが帰ってきたし、どうするのかと。すると未だ怒っており、

 

「ロジャーのところのおでんが帰ってきたってことは……ロジャーもついさっきまでワノ国に来てたってことじゃねェかクソッタレ……!!! フザケやがって……!!!」

 

「いやまあそうなんだけど、それじゃどうする? おでんは放置してもっかい海に出る? 私はそれでもいいけど」

 

「バカ言え!!! オロチをここで殺されるのは面倒だ……!!! それにおでんとやらにも興味がある……!!!」

 

「ということは?」

 

「──行くに決まってんだろ!!!」

 

「──そうこなくっちゃね!!!」

 

 カイドウは溜まりまくってるフラストレーションを解放するように吠え、獣型──龍に変身して鬼ヶ島を出る。私も同じく空を飛んで花の都へ。

 その道中、私は自分用に黒く塗ってUFOのストラップをつけたスマシで花の都の部下達の報告を聞く。

 

『ぬえ様!! こちら花の都!! 先程光月おでんが侍達を薙ぎ倒して城の中へ!!』

 

「速っ!! さすがおでんだね~!! 行動力が段違い!! 白ひげとロジャーの船にいただけはあるなー、侍じゃ相手にならないか」

 

『それより住民達が集まってきています!! 凄い人気で……!! 通りは人混みでいっぱいです!!』

 

「そんなの、クイーンの疫災(エキサイト)弾でも撃ち込んだら勝手に離れるんじゃない? ウィルス感染するってのに集まるバカはいないでしょ?」

 

『さ、さすがにそれは……』

 

「あはは!! うそうそ!! 何本気にしてるの? 花の都はワノ国の急所だし、そんなことする訳ないじゃない!! 適当に毒矢でも放って追っ払ったら?」

 

『は……ではそのように!!』

 

 あ、今こいつ、私ならやりかねないと思ったな。まあ確かに、楽しそうだけど、花の都は美味しいお店もあれば楽しいお店も沢山あって面白い町だし、百獣海賊団の生活にも欠かせない場所。あまり壊したり暴れたりはしたくない。なので花の都だけは穏便に統治してあげる。暴れるのは他の郷や島々で十分だ。

 

 ──と、そんなことをしている間に、私とカイドウは海を渡り、兎丼を越えて、花の都へ到着する。

 

 私達が到着する頃には民衆は通りからいなくなっており、皆建物の中から様子を窺ってる様だった。

 

「あらら、あんなに賑やかなのに今は閑散としちゃってるね~。やっぱり、なんだかんだでおでんの人気は根強いみたい」

 

「どうでもいい。それより──城の中に強ェ気配がありやがる……!! あれがおでんか……!!!」

 

「あー、わかるわかる。凄い覇気よね。結構楽しめそう♡」

 

「手を出すんじゃねェぞぬえ……!!」

 

「え~~~? まさかの独り占め? まあいいけどさ」

 

 そうして、私とカイドウが城の中へ、オロチがいる天守閣へ乗り込む。カイドウは人型に戻ると直ぐ様金棒を手にして、おでんに向かっていった。

 

「──てめェが光月おでんか……!!!」

 

「っ!!? お前……お前がカイドウって奴だな……!!」

 

 カイドウが金棒を振り被り、おでんがそれに気づいて二振りの刀でカイドウの金棒を受け止める。──二者の間で覇気がぶつかり合い、黒い稲妻のような衝撃波を撒き散らした。あー、やっぱおでんも覇王色か。というかやっぱ強いねぇ……カイドウに張り合える相手なんて久し振りだ。それこそ、もうロジャーや白ひげ、リンリンやシキ。海軍だと海軍大将にガープくらいじゃないとカイドウを倒すことは出来ないくらいには強い筈だけど、おでんは普通にカイドウの攻撃を受け止めたし、これはやっぱキツいかもね──と、私はオロチの近くへ行きながら。

 

「さっすが天下無敵の光月おでん!! やるねぇ!! でもウチのカイドウも中々負けてないでしょ?」

 

「羽の生えた少女だと……!?」

 

「美少女!! そこは間違えないでよね~。世界一キュートでクールでパッションでアンノウンなアイドル海賊、百獣海賊団の副船長、封獣ぬえを、今後ともよろしく~♡」

 

「っ……まさかお前か!! 九里を破壊した少女って奴は……!!」

 

 私が可愛くウィンクとポーズを決めて自己紹介したのに、おでんはそれに目もくれず質問で返してきた。だから美少女だって言ってるのになー? まったく……まあでも答えてあげよう。私は可愛い笑顔を浮かべて、

 

「それは私だね~♪ でも、見せしめとしては大分手加減したし優しくしてあげたんだよ? あなたの部下も殺さなかったし、町の人の死者も少ない。おまけにあなたの妻の怪我まで治療してあげたんだから、むしろ感謝して欲しいな!! ──私のファンにでもなる?」

 

「……!!」

 

 あらら、無視された。いや、無視されたというか、特に否定をしなかっただけかな。特にそのことに言うこともないのだろう。さすがにあの侍達の大将は違う。別にそのことを否定も肯定もせず、単純に私達を倒そうと戦意と敵意だけを向けてきている。うーん、さすが。海賊やってただけはあるね。舌戦も良いんだけど、結局海賊同士──いやこの海を生きる信念を持つ強者なら、最後には信念のぶつかり合い。力と意志で相手を討ち倒すしかないことを知っている。海賊同士の舌戦は相手を言い負かすためのものと言うよりは、互いの信念を提示して確認しあっている様なものだ。そもそも話し合いで納得して自分の信念や意志を曲げるくらいなら海賊になどなっていない。相手を言い負かしたければ弁護士にでもなればいいのだ。海賊の信念に正しいも間違いもない。力がある方がそれを押し通して生きることができ、負けた者は何もかもを奪われ死ぬ。ただそれだけだ。

 そしてそんな世の中で自由という信念を貫き通した男が“海賊王”ゴールド・ロジャー。わがままかつ短気。自分のやりたいことを何が何でも押し通すあの男の行動はメチャクチャだが、それでも生き残り勝ち続けた結果が海賊王。

 その船に乗っていた男、おでんが信念を全う出来るかどうかも、結局は力である──筈だが、この場においてはその力を発揮出来ない。

 それは上座。せみ丸のバリバリの実の力で安全なバリアの中にいる黒炭オロチのせいだった。オロチは大量の人質と武器を背後にしながら提案する。──どうでもいいけど、お腹減ってきたし、後でお惣菜でも持ち帰ろうかな。

 

「人攫いを止めたいか。おれ達と戦争しても失うものはあまりにもデケェぞ」

 

「何……!?」

 

 おでんの目に僅かに迷いが生じる。カイドウから一切目を逸らさず、しかしオロチの言葉に耳を傾けていた。──後、これもいいんだけど、天井裏の可愛い鼠さんも部下になってくれないかなー。ステューシーがいたらここで捕まえてたかもしれないけど、ステューシーは今忙しくてこちらにはこれない。CPもまた、ロジャーの動向を探るために総動員されているため、相当忙しいらしい。というか、これだけ動員してもロジャーの行方がわからない辺り、あの男はどれだけスニーキングスキル高いんだとツッコミたくなる。何か秘密でもあるんだろうか……とまあそういう訳で天井裏の鼠は放置かな。別に捕まえても良いけど、聞かせて放置した方が面白くなりそうだし、脅威でも何でもないしね。私は宙で頬杖をつきながらそのオロチとおでんのやり取りを聞く。

 

「毎週定時刻……!! おれ達黒炭家への謝罪として“裸踊り”をしろ!!! そうすれば一回踊る度に100人の人質を解放してやる!!」

 

「っ……その話は本当だろうな……!?」

 

「ムハハ!! 話を呑む気か!? やればお前の人気も誇りも地に堕ちるぞ!!」

 

「いいから聞かせろ……!!」

 

 おでんが背後を睨む。顔は向けてない。だが、その気迫は確かにオロチの方を向いている。うーん。やっぱり勿体ないなぁ。これだけ強いのに、誰一人死なせないとかいう甘い考えで、しかもこれまた甘言に乗っちゃう辺り、やはり為政者には向いていない。犠牲を顧みずに戦えば、それだけ多くの人を救えるかもしれないのにね。でもそのやり方自体が悪いっていうより、弱い癖にそんなやり方を選ぶから駄目なんだと思う。これがロジャーや白ひげくらい強くてその道を選ぶなら、どれだけ甘くてもそれを成し遂げてしまうだろうし、偉大な男だと誰もが認める。でもロジャーや白ひげほど強くないのに、バカな道を選ぶから結局はただのバカ。バカは知恵者の掌の上で踊り続ける。今のおでんの様に。

 

「今造っている船が完成したら……そうだな。5年後にこの国を出てやる」

 

「……それまで、踊り続ければ良いんだな?」

 

「ああ、国を守りたければお前のおれ達への謝罪の気持ちを見せてみろ……!! そうすりゃおれも復讐を諦めてやる……!!」

 

「…………わかった」

 

 オロチの言葉に、おでんが長い間を置き、そして頷く。刀を納め、カイドウの横を通り、その場から立ち去ろうとする。

 約束なんて守る訳ないのにバカだなぁ、と少し残念に思いつつ、これはこれで面白いと思って私もそれを見ようと思ったが──その前に、カイドウは小さくおでんが通り過ぎるその瞬間に呟いた。その発言を私は耳で拾った。

 

「チッ……腑抜け野郎が」

 

「!」

 

 その言葉は、おでんの耳にも届いた……筈だ。だがしかし、おでんは立ち止まることなく城を出ていく。

 すると後に残ったのは黒炭オロチにひぐらし、せみ丸の黒炭家と、私とカイドウだけだった。

 

「くくく……あのバカ、本当に条件を呑みやがった……!!」

 

 と、オロチ達がおでんをバカにするように笑う中、カイドウはつまらなさそうに軽く嘆息する。──拍子抜けだ、という感じがありありと出ていた。

 

「本当に行っちゃったね~。やっぱり、戦いたかった?」

 

「戦ってたら分が悪い勝負になってたな。だが──結局はロジャーやニューゲートの奴と同じだな。強ェ癖に甘ェ……ムカつく野郎だ。ああいうバカは笑いものにしてやるのがお似合いだな」

 

「まあそうだね。私達は平気でも部下が沢山死んじゃうだろうし。……で、裸踊り見ていく?」

 

「ふん、そうだな。それを見届けたら帰って飲み直すぞ」

 

 そう言って、カイドウと私は城下町を見下ろしてその時を待つことにする。……まったく、最近はイベント目白押しで忙しいなぁ。帰って飲み直したらまた探さないとだしねー、と私はこれから到来する新たな時代を思い、ちょっとした感慨深さを心に浮かばせた。

 

 ──そしてしばらくして、おでんは城の前で、多くの民衆の前で……裸となっておどけていた。




勢力拡大→順調。組織図一身まで後数年
ロジャー→スニーキングスキル高すぎ。航海スキルも高すぎ。この後南の海まで自力で行く
おでん→バカ殿。海賊としては強いし悪くない。
ステューシー→ロジャーのせいで社畜中
カイドウ→おでんにガッカリ
ぬえちゃん→今日も可愛い。この後オロチからお惣菜を持たされました。

遂に海賊王の誕生。そして次回はとうとう時代の終わりと始まりです。会いに行きます。百獣海賊団の節目としては、おでんとの戦いの後に四皇になるくらいかなと思ってるので、そこで第二部終了って感じです。何気にまだまだイベントが沢山残ってますのでお楽しみに

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