正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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脱獄

 “偉大なる航路(グランドライン)”の前半の海。それと新世界を隔てる“赤い土の大陸”付近には、世界政府の三大機関が存在する。

 1つは形だけの裁判機関が置かれた世界政府直属の“司法”の島──“エニエス・ロビー”

 1つは世界政府唯一の海底大監獄。世界中の犯罪者が行き着く島──“インペルダウン”

 1つは世界中の“正義の戦力”の最高峰。聖地への玄関口でもある島──“海軍本部”

 そして、当然だが政府所有の島であるため、それぞれの島にあるその戦力は一海賊団で敵うようなものではない。……元より政府所有の島を襲うなどよっぽどバカでイカれてなければやらない。何か理由があっても、普通は諦めるだろう。

 エニエス・ロビーであれば“CP9”と政府の役人達、及び駐屯する海兵1万人。インペルダウンであれば大勢の看守、獄卒。そもそも凪の帯に存在することもあり、まさに“鉄壁”と称される布陣。そして海軍本部は当然、大勢の海兵達が勤務する海軍の本拠地だ。どこも普通なら落とせる筈はない。攻め落とそうと考える者すらいないだろう。

 だが数年前には海軍本部をあの“金獅子のシキ”が半壊させたように、時には予想を大いに超える大事件が起きるものである。

 世の中に絶対などない──それをまたしても証明するかのように、再び事件が起きた。

 

 ──インペルダウン初の脱獄者!! 海賊艦隊提督“金獅子”のシキ!! 

 

 その日の新聞の見出しには世界中が驚いた。

 海底大監獄インペルダウンの“不敗神話”は世間にも知られたものである。

 なぜならその歴史上、ただ1人の侵入者も脱獄者も出すことなく“鉄壁”を守り抜いてきた大監獄である。それゆえ、一度インペルダウンに送りこまれればその者は一生をその暗く深い檻の中……地獄で過ごすことになる。

 しかし“金獅子”のシキは脱獄した。

 彼は錠に繋がれていた自分の足を切り落とし、代わりの足として自分の二刀の愛刀を足に埋め込み、そのままインペルダウンから飛び去ってしまった。

 無論、インペルダウンの獄卒に看守、そして海兵も追いかけたが、自由に空を飛ぶことの出来るシキに追いつける筈もなく、脱獄は成就されてしまった。

 だが既に新世界にかつて4強と称された金獅子海賊団はシキの逮捕によって力を落とし、ナワバリごと他の海賊や海軍に奪われてしまっていた。

 ゆえにシキの行方は脱獄して1週間たった今でもわからない。彼は今どこにいるのか……。

 

 ──その答えはやはり“新世界”にあった。

 

「──あはははは!! 何よその頭と足!! 頭に舵輪が刺さって……しかも両足に刀って……ぷっ、くくく……あはは!! びっくり人間にも程があるでしょ!! ひょっとしたら私より正体不明なんじゃ……ぷぷっ、くすくす」

 

「ぬえてめェ笑いすぎだ!! 言うほどおかしくねェだろう!!」

 

「…………」

 

 とある船の甲板の上。大男を挟んで黒い髪の少女と頭に舵輪が刺さった男が軽くやり取りを交わしていた。

 そしてそれを挟まれた男と周囲の船員達は無言で見守る。特に、その挟まれた大男──この船“モビーディック号”の船長でもあり、今や世界最強の海賊と称される“白ひげ”エドワード・ニューゲートは手土産の酒をボトルごと口にしながら眉間に皺を寄せていた。

 だがそんなことは関係なく、2人は酒を飲んで白ひげを間にやりとりを続ける。白ひげに全く臆さないのはやはり、彼らが白ひげと同じく世界に名だたる大海賊であるからだろう。

 

「いやいやおかしいから!! 何をどうしたらそんな面白人間になれるのよ!! あはははは!!」

 

「頭の舵輪は事故!! 足は脱獄するために切り落としてきたんだよ!! で、代わりの足に刀を使っただけだ!!」

 

「へー……それじゃその変な眉毛も?」

 

「おう。幼少の頃から普通の眉毛を必死に矯正してこの形に──って誰が後天的な眉毛だ!! この眉毛は生まれつきだ!! 放っとけ!!」

 

「あはははは!! おっかしー!! ねぇ白ひげもおかしいよね?」

 

「おい白ひげ!! お前まで笑う気じゃねェだろうな!?」

 

「…………そもそもてめェら2人、何でここにいやがる」

 

「え? えーっと……」

 

「あ? あー……」

 

 白ひげの言葉に、少女も男も首をひねりだす。そして迷った末に、揃った声で、

 

「「……何となく?」」

 

「帰れアホンダラァ!!!」

 

 

 

 

 

 ──そういう訳で、白ひげの船には今、私と白ひげ、そして脱獄してシャバに出てきたばかりの“金獅子”のシキがいた。

 

「いやー、久し振りにこういうノリも楽しいね!! ──ってことで隙あり!!!」

 

「楽しくねェし隙もねェよ!!!」

 

「ああん」

 

「!!?」

 

「なっ──あいつ、オヤジに攻撃しやがった!!」

 

 私は軽く槍に覇気を込めて白ひげに攻撃してみるも、それは読まれきっていたのかあっさりと受け止められる。うーん……なるほど。相変わらず化け物だねー。差は縮まってきてるのに──いや、差が縮まってるからこそわかる。海賊“白ひげ”はこのロジャーのいない海において間違いなく世界最強の海賊だ。化け物過ぎてもはや笑える。

 私やカイドウもかなり強くなった筈で、今や私達より強い海賊なんて数えられるほどしかいない筈だが、それでも白ひげとはまだ差がある。戦いにはなるだろうが、勝てる確率は良くて1、2割程度ってところだろうか。カイドウも似たようなものだろう。2割くらいだろうか。相性は私の方が良いので私の方が長く戦えるかもしれないが、カイドウの方が力量自体は上だからね。2人がかりでなら……結構頑張れるかな? それでも私達の方が劣るだろうし、まだまだ白ひげロジャーの域には届いていない。ただ……後少しだ。特にカイドウは。それがわかっただけでも来た甲斐はあったね──って外野がうるさいなぁ。

 

「もー、一々騒がないでくれる? これくらいただのスキンシップなんだから」

 

「だったら覇気なんか込めるんじゃねェよい!!」

 

「あ、マルコー♪ 久し振りー♪ あなたの能力好きよ、私。ウチに入らない? ──へいマコたん!! マコたんインしたお~♪」

 

「誰がなるか!! あと変なあだ名つけるなよい!!」

 

「テ~テレレッテ~♫ テレレテ~レ~テ~レ~テ~♫ テ~テレレッテ~レ~♫ テレテレテレテレテレレレレン♫ ──これがあなたのテーマ曲よ!! さあご一緒に!!」

 

さあご一緒に──じゃねェよい!! くそ、妙に耳に残る……!!」

 

 白ひげを攻撃したことに騒いだ外野に声を掛けるとパイナップルみたいな頭の男、“不死鳥”のマルコが絡んできた。懐かしい。なのでマルコのためのテーマ曲を歌ってあげる。不死鳥の曲だ。しかしせっかくテーマ曲を授けてあげたのにマルコは気に入らないみたい。でも耳には残ったみたいなので良しとする。仲間になってくれないかなー。無理だろうけど、不死鳥とかロマンの塊だよね──などと考えていると、

 

「ジハハハハ……相変わらずだな、ぬえ。だが実力の方は前会った時とは比べ物にならねェ……その力でおれのナワバリを荒らしてくれたのか?」

 

「えっ、当たり前じゃない。私とカイドウでちゃんとボコボコにしてあげたわよ。思ったより歯ごたえなくて残念だったけど」

 

「……そうか。そりゃそうだろうな。おめェでこれならカイドウはもっと強くなってるんだろう。ジハハ……おれの目に狂いはねェ。こんなことなら強引に誘っとくんだったぜ。──それか、()()()()も兼ねて今からやっとくか」

 

「ん~~~? ふふふ、それは別にいいけどせっかく脱獄したばっかりだってのに──()()インペルダウン送りになっても知らないよ~?」

 

「ジハハハハ!! おめェも言うようになったなぬえ!! ……いや、生意気なのは昔っからだったか……!!」

 

「昔っから可愛かったの間違いでしょ♡ ふふふふふ……!!」

 

 シキが軽く突っついてきたので、私もそれに応えて応酬してやる。お互いに覇気を視線に乗せて相手を威圧した。うーん、さすがシキ。2年のブランクと頭の舵輪……は負傷と捉えていいのかわからないけど、足も失ってるのにその力は未だ4強に数えられるに相応しいものだ。でも──ふふふ♡ こっちはもう勝てるかな? 勿論、油断しちゃ駄目だし、実力はまだそれほど離れてない。やっぱり足がなくなったことと……後はやっぱりあれが理由かなぁ。シキはかなり拘ってたしねー。でもまあ昔馴染みとはいえやる気なら容赦しない。などと楽しんでいると──やはり白ひげがツッコんできた。

 

「──ウチの船に喧嘩でもしに来たのか? だったら追い出すぞ」

 

 ──なーんて言われたら威圧もやめるしかない。というか、元々お互いにやる気はなかったし、白ひげだってやる気がないのは気づいていただろう。ただ不穏な空気に家族が不安がってたから解消したかっただけだ。私は気を抜いて笑みを浮かべ、シキも大笑いする。

 

「いやいや、ただの冗談よ。私は久し振りにお酒でも飲んでお話に来ただけ。ほら、大海賊時代が始まってから会ってないし、色々話したら楽しそうかもって♪」

 

「ジハハ、おれも別にやり合いに来た訳じゃねェさ。脱獄したからな。ちょっとシャバの知り合いに挨拶しに来た。ぬえがいるのは予想外だったが」

 

「……構わねェが、戦争しに来たんじゃねェなら大人しくしてろ」

 

 と、白ひげがシキの持ってきた酒を呷るように飲んだので、私も“おっけーおっけー”と軽く了承して飲んでおく。ん~、悪くない。ササキの酒も良いけど別の酒も良いね! 

 

「あ、そういえば最近七武海が出来たの、あれどう思う? シキは知らないかもだけど」

 

「ああ……政府に従えば海賊が出来るあれだな」

 

「聞いてるぜ。獄中でも噂になってた……要は政府の犬だろ? あんなのはおれに言わせれば海賊じゃねェ。政府に支配されながら海賊をやるなんざ海賊になった意味がねェ。死んでもごめんだぜ」

 

 という訳で私は昔っから海賊をやってる2人にも聞いてみたかった話題を口に出してみる。“王下七武海”設立の話は白ひげは当然知っているし、シキも獄中で聞いていたらしい。ふむふむ、白ひげは割とどうでも良さそうだけどシキは笑ってはいるけど嫌いみたいだね。まあ下に見てるってかバカにした反応だ。実際格下だしシキの思想からしても七武海なんてありえないだろうからね。そもそも誰かの下につけるような男じゃないし。まあ例外はあったけど、それは良いとして私は補足として情報を付け加えてあげる。感づいてるというか、知ってるとは思うが、

 

「海賊の抑止力になることと、今いる海賊を潰してくれることを期待してるみたいだね~」

 

「ハッ!! そんなので潰れたり大人しくするのは宝目当てのミーハー共だけだろう。くだらねェにも程がある」

 

「……まあ七武海に選ばれた連中はそこそこ知れた奴みてェだがな。おれのとこにもこの間活きの良さそうなワニ小僧がやってきた」

 

「あっ、それってクロコダイル?」

 

「何だ、知ってんのか?」

 

「ううん、名前だけ。ワニ小僧って聞いたから」

 

 何気なく白ひげが言った言葉に私は反応する。ほうほう。どうやらクロコダイルは白ひげの首を狙って返り討ちにあったらしい。前々から思ってたけど、正直バカだよねーと心の中で思い、それが口にも出てしまう。

 

「あはは!! いやいや、さすがにそれはないって!! 海賊始めて数年のルーキーが白ひげを討ち取れる訳ないじゃん!! それで討ち取れるくらい弱かったらもうとっくに私達が殺してるよ!!」

 

「ジハハハハ!! 全くだ!! 面白ェこと言うな、ぬえ!! 確かに、それくれェ弱かったらとっくにおれは海賊王だぜ!! 笑わせやがる!!」

 

『物騒な内容で笑ってんじゃねェよ!!!』

 

 私とシキが可笑しくなって笑ってると外野からツッコミが来る。まったく、冗談が通じないなぁ。これくらいのやり取りなら別に普通だと思うんだけど。昔だったらここから本気で殺しに来る奴とかもいたし、もっと口が悪くて挑発してくる奴もいた。だからこれくらいは大したことないよね。殺気を込めてる訳でもないし。

 

「ジハハ……だが……やっぱりミーハー共がのさばってるみてェだな……」

 

「ん~? まあそうかもね~」

 

「別にどこの誰が海に出ようが構わねェよ。誰かが阻めるものでもねェ……」

 

 とかなんとか思ってるとシキが何やら呟く様にそう言った。私はその言葉を適当に流し、白ひげは白ひげで酒を呷りながら今の時代を特に否定しない。

 するとシキは不敵に笑みを浮かべて問いかけた。今の時代の覇者である“白ひげ”に対しての問いだ。

 

「──ロジャーのいねェ海はどうだ? おれ達を阻む壁はなくなった。今はお前の時代の様だな“白ひげ”……」

 

「──つまらねェ事言いに来たんなら今すぐ海に沈めるぞ。“金獅子”」

 

「こらぁ──!! 私を無視するな変な眉毛!! 今は“白ひげ”かもしれないけどこれから私達、百獣海賊団の時代になるんだからね!!」

 

「ジハハハハ!! 相変わらずムカつく奴等で安心したぜ」

 

 聞いてない? シキは白ひげや私の言葉を聞いて笑い飛ばした。ムカつくとは言ってるが愉快そうである。そして何を思ったか、意味深に笑みを深くし、再び葉巻を咥えると、

 

「──しばし姿を消そうと思う……生ぬるいこの時代に本物の海賊の恐さを見せてやる」

 

「──また何か企む気だな……」

 

「──え、何? 眉毛でも矯正するの? 良い整形外科医教えてあげよっか?」

 

「眉毛の矯正はしねェよ!!! いい加減眉毛気にするのやめろ!!!」

 

「変わんねェなお前ら……」

 

 私がガチ目にそう言ってみると良いツッコミがシキから返ってきた。うんうん。相変わらずシキはノリが良い。こう見えてノリが良くてボケもツッコミも出来るのがシキの良いところだ。それを見て白ひげは軽く呆れている。ちょっとは毒気が抜けただろうか。私とシキが続けてやってきた時はさすがに警戒してたけどね……あ、酒なくなった。うーん、それじゃそろそろお開きかな? もっと長居して同窓会したいのは山々だけど、シキも帰るみたいだしね──という訳で立ち上がったところで、しかし白ひげから声をかけられた。

 

「……おいぬえ。おめェとカイドウもまた何か企んでるんじゃねェだろうな?」

 

「え? そりゃ企むよ。海賊だし、当然でしょ? ──あ、でも安心して!! あなたの()()()()()に手を出すつもりはないし、しばらくは大人しくしてるからさ!!」

 

「……まあおめェとカイドウには言っても無駄だろうが……おれの家族やナワバリに手を出すようなら海に沈めるからな」

 

「……ふふふ、はーい♡ まあ今は別の海賊団なんだし聞く義理もないけど安心してよ。ナワバリに手を出す時は沈められないくらいに強くなった時だからさ♡」

 

「お前……」

 

「ジハハ、おいおい“白ひげ”。まだ見習い扱いか? 肩を持つ訳じゃねェがこいつらも今や立派な海賊だ。注意したってどうせ聞かねェだろ」

 

「そうそう!! 私は世界一可愛くて正体不明のアイドル海賊だからね!! なので言うことは聞かなーい♡」

 

「チッ……ああ、そうだったな」

 

 白ひげが珍しく舌打ちをする。まあ一度こうやって船に腰を据えて酒を飲んだのだ。ここで私がなんと言おうが敵対の意志を見せない限りは手を出す訳にはいかない。それが“仁義”。海賊の世界。渡世の流儀って奴だ。特にそれを重んじる“白ひげ”がここで背中から攻撃してくるなんて絶対にありえない。そんな奴なら元仲間の連中も私も彼の家族も“白ひげ”を認めたりはしない。──たとえ私が将来の危険因子だとしてもだ。

 そもそも白ひげはこう見えてかなりの頭脳派で慎重派。下手な動きはしないからね。……とはいえだからと甘く見てると痛い目を見る。白ひげは甘いが、その甘さに付け入れば怒りを買ってしまう。油断はいけない。

 とはいえ、もう少し勢力を広げて実力をつければ、白ひげも下手に私達に手を出す訳にもいかなくなるだろう。逆もまた然りではあるが、そこら辺は上手くやって良い感じに楽しい勢力争いをしたいと思う。ふふふ……今から楽しみだね~♪ 

 

「ジハハハハ!! じゃあな“白ひげ”、ぬえ!! 久々に話せて良かったぜ!! ──だが次に会う時はおれが世界を“支配”する時だ!!!」

 

「べ~!! やれるものならやってみなさいよ!! 私とカイドウは負けないんだからね!! 変眉頭舵輪足刀おじさん」

 

「事実だが全部混ぜて呼び名にするな!!」

 

「あ、そういえば白ひげのテーマを教えるの忘れてた!! 行くよ!! とりあえず1フレーズだけ!! ──テレレテレレレ~テ~テ~テ~テレレレテンテテン♫」

 

「おい無視するんじゃねェよ!! そしてまた妙に耳に残るリズムだなおい!! ……それとおれのテーマ曲はねェのか?」

 

「ないよ」

 

「ねェのかよ!!」

 

「…………いいから早く帰れ。お前らと話してると頭が痛くなってくる」

 

 そっけない返しをした私にシキがツッコミ、白ひげが頭を抱えたところでようやくお開きとなる。──あ~楽しかった!! 久し振りに白ひげとシキを弄り倒せたしね!! ……まあシキなんかはネタにしにくいというか、なんかロジャーに対する妄執というか拘りが捨てきれてなくてちょっと呆れたけど……でも気持ちは分からないでもないので、ネタにはしないでおいてあげた。私の予想を超えてくるようであれば相手になってあげるけど、それまではもう脅威でもなんでもないしね。放っといてあげよう。

 そして白ひげの方は相変わらず強いことが確認出来た。まー、でもこっちもちょっと可哀想かもね。

 ──何せ後2年もすれば、白ひげにとってかけがえのない“弟”を失うことになるのだから。

 

 

 

 

 

 ──“ワノ国”

 

 海外でシキの脱獄がニュースとなり、ぬえがワノ国を留守にしている頃。“九里”を歩く人影が2つあった。

 

「さあきりきり歩くれす!! この先は工場と農園が()()()()()!!」

 

「……ないの?」

 

「そう、ないんれす!! だから早く行くれすよ!!」

 

 その影は2つ。だがシルエットは明らかにこの国の人間ではない。

 片方は角の生えた仮面と黒紫色のコートを羽織ったスタイルの良い白髪の女性。

 そしてもう片方はその女性の肩に乗り指示を出す小さい人間の少女。赤の衣装。着物にも似たそれを身に着け、頭から2本の角が突き出ており、尻尾も生えていた。

 どうやら小さい方が上役の様で、指示を出している。その指示の仕方が妙で、女性は仮面の下で眉をひそめたが、不快という訳ではない。だが感情は少し動いていた。

 

「着いたれす!! ここが九里の農園れすよ!!」

 

「……ないんじゃなかったの?」

 

「あ、間違えた……ないんれす!! ここに見えるのは全部農園じゃないれすよ──あっ、何サボってるれすか!! キリキリ働くれす!!」

 

「うあっ、こ、小人!!?」

 

「す、すみません!!」

 

 そしてしばらく歩いて辿り着いた九里の農園。そこで働かされているワノ国の人々を見てダダっと走って近づいてサボるなと注意する小人。ワノ国の住人。彼女を初めて見る者は驚いたが、初めてでないものは即座に謝る。

 何しろ、この小人もまた、百獣海賊団の一員だからだ。

 

「さあ働くれす!! ほら、右の畑の作業が終わってないれす!! ()()()()()()()!!」

 

「わ、わかりました……」

 

 と、大人しく右の畑へ向かおうとする労働者を見て、小人は怒った。

 

「違うれす!! 右とは言ったけど右()()()()れす!!」

 

「えっ? じゃあ……あっちの左の畑ですか?」

 

「そうれす!! 左の畑()()()()れす!!」

 

「ええっ!? ど、どっちなんですか!?」

 

「嘘れす!! ──あっ、違う。これは嘘()()()()れす!! ……あれ?」

 

「えっ……?」

 

 小人が自分で言ったことに首をかしげると、労働者も訳が分からず頭に疑問符を浮かべる。

 だがややあって小人は頭を振って気を取り直すと労働者の頭めがけて跳躍し、

 

「──いいからさっさと向こうへ行くれす!!」

 

「へブっ!!?」

 

 と、左に向かって労働者を殴り飛ばした。小さいのに凄まじいパワーだった。

 その騒ぎを見て周囲の監視員。百獣海賊団の船員達が軽く慌てて近づいてくる。

 

「──ちょっとダウト様!! 見せしめ以外で労働者を殺ると怒られますよ!?」

 

「だってこいつの物分かりが!! 物分かりが()()()()んれす!!」

 

「えっ……なら良いのでは?」

 

「あーもう!! お前も物分かりが良いれす!! アンポンタン!!」

 

「うわァ!!? ちょっと、斬り刻むのだけはご勘弁を!!」

 

「バカヤロウ気づけ!! ダウト様はウソつきなんだよ!! 言ってることは大体その反対が正しい!!」

 

 ある程度事情を知る部下が新入りにそれを教える。するとその“ダウト”と呼ばれた小人族の少女は途端に怒りを収めた。

 

「そう……私はウソつき!! そして(ワル)!! トンタッタ族一の(ワル)とは私のことれすよ!!」

 

『百獣海賊団幹部“真打ち”(自称トンタッタ族一の悪 ウソつき) ダウト』

 

 ダウトは自慢気に胸を張ってそれを告げた。すると部下達がそれを聞いて頷く。

 

「なるほど……つまり今のもウソか!!」

 

「本当は(ワル)じゃねェんだな……なるほど」

 

「それはウソじゃないれすよ!! アンポンタン!!」

 

 その言葉まで嘘だと疑われて怒るダウト。

 そしてそれを背後で見ていた百獣海賊団の新入りでもある彼女は思った。こんなこと思う資格はないし、思ってはいけないのに思ってしまった。

 

(かわいい……)

 

『百獣海賊団幹部“真打ち”(考古学者) ドゥラーク』

 

 そう。彼女は可愛いものが好きだった。

 だが彼女は罪深い。許されてはならないと自分で思ってるため、可愛さで癒やされる自分に罪悪感を感じてしまう。

 その結果軽く溜息が漏れた。そして思う。少しは気を引き締めようと。

 これからは酷いことを、人を苦しめる酷いことをしていかなければならないのだ。心を鬼にして。躊躇してはいけないし、悲しんでもいけない。冷静に実行しなければならないと。

 そう思っていると、農園の視察なのか、また何人かの部下を連れてやってきた者がいた。その相手……ドゥラークも見たことのある巨漢を見上げる。

 

「──ダウトにドゥラークか。こんなとこで何をしてる」

 

「今は新入りの案内中れす!! あ、新入り。こっちはキング様れす」

 

「……知っているわ」

 

「……フン……」

 

 紹介され、一度出会ってはいるが軽く挨拶。海賊の世界でどういう挨拶が良いとかそういうのは知らないため、普通に挨拶をしてみたが、鼻を鳴らすだけという辛辣な返し。やはり、入団していきなり幹部待遇というのは反感を買うのだろうか? それとも、これくらいの言葉の応酬は大したことでもないのだろうか。ドゥラークにはわからない。

 ……だが1つだけわかることがある。それは、

 

「紹介し終えたら次のところへ行くれす。私も早く自分の仕事に戻りたいれすし」

 

「……そういえば、彼に聞きたいことがあるのだけど」

 

「あ?」

 

 キングを見たドゥラークが仮面の中で眉をひそめる。向こうはこちらを歓迎していないようだし、あまり長々と話すのも突っ込み過ぎるのもよくないとは思うが、考古学者としての性なのか、疑問を疑問のまま放置することは出来なかった。

 

「……聞いてもいいかしら?」

 

「……言ってみろ。もっとも、答えるとは限らねェがな」

 

「聞いちゃ()()れすよ」

 

 ……まるで拒否られているようだが、これは別に聞いても良いのだろうか。いや、良いのだろう。多分。自信はなかったが、気にはなっていたので聞いてみる。それは、

 

「──なぜあなた達は農業に勤しんでるの?」

 

「!!?」

 

 聞いた。聞いてみた。すると何故か周囲の船員達の顔が驚きに歪んだ。もしかして聞いてはいけないことだったのだろうか。

 でも海賊なのに、なぜ農業に勤しんでるのかは気にはなった。しかも結構しっかりしている。

 それは何故かと聞いてみたのだが……だがしかし、返ってきたのは失笑だった。

 

「ハッ……何も分かってねェな……」

 

「新入りだから素人でも仕方ないれすが……でもここはきっちり教えてやらないといけないれすね……」

 

「……え?」

 

 ──その数時間後と翌日。ドゥラークは地獄を見る。

 全身、()()()()()()()()()()()()()ようなそれを感じ、ドゥラークは百獣海賊団の訳の分からない恐ろしさの一端を思い知るのだった。




三大機関→暴れるバカはいる
インペルダウン→飛行能力者や魚人だと牢と枷さえ抜け出せばそこまで不可能でもない
白ひげ→まだまだ最強。テーマ曲は地震繋がり。白ひげの怒りが有頂天になりそう
マルコ→この頃には既に強そう。テーマ曲は不死鳥繋がり。さ○んらっぷじゃない
シキ→ロジャーにこだわってる変な眉毛。テーマ曲はない
ダウト→トンタッタ族出身。ウソつきだけどウソが下手。トンタッタ族で1番の悪というのは間違いじゃない。あのトンタッタ族の中では1番悪い子です。能力者でもあります。
ドゥラーク→困惑中。この後メチャクチャ耕した。
全身の痛み→それってもしかして→筋肉痛
ぬえちゃん→今日もアイドル
今日のオチ→農業堕ち

という訳で元仲間との同窓会でした。いつも平和だけど今回は特に平和でしたね。
次回からはとうとうあのイベントに近づきます。お楽しみに

感想、評価、良ければお待ちしております。

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