正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
──ワノ国。
ワノ国の前将軍、光月スキヤキが死去し、黒炭オロチが将軍代理になって8年。オロチに雇われたカイドウ率いる百獣海賊団がワノ国を根城にして8年。
そして光月おでんが帰還して5年。大海賊時代が始まって4年──ワノ国はオロチとカイドウの手によって作り変えられ、おでんの帰還によっても何も変わらなかった。
おでんは毎週変わらず裸踊りを続け、少ないおひねりと花の都の住人の冷たい視線とカイドウ、オロチの配下の嘲笑を受け取って九里へ帰っていく。これも何も変わらない。
唯一変わったものがあるとすれば、一度は破壊された九里の町がある程度建て直されたこと。
これはおでんが帰ってきて5年。おでん自ら木材を集め、釘とトンカチを手に日々働いたおかげでもあった。
そのおかげか最初は評判の悪かったおでんの人望も僅かに回復し、住民達は何とか暮らしてゆけるようにはなっていた。相変わらず、貧しさの方は変わらないが。
そして未だ変わらない者の中には、ワノ国の侠客……やくざ者達もいた。
「──“花のヒョウ五郎”!! オロチ将軍がお呼びだ!! 至急城まで来られたし!!」
「うるせェ!! 帰れ帰れ!! どうせ下につけってんだろ!! 何度言われようがお前の腰巾着にはならねェ!! オロチの奴にそう伝えとけ!!」
花の都の一角。ワノ国の裏の顔、ヒョウ五郎一家の親分である“花のヒョウ五郎”はやってきたオロチ配下の役人をぞんざいに恐れることもなく玄関先で追い返そうとしていた。
彼はその高い実力とワノ国の裏社会を取り仕切るその人望から、オロチに部下になるようにと熱い求愛を受け続けている。
しかしオロチが将軍代理となってから約8年。ただの一度もオロチの要求を受け入れることはなく、オロチ政権に反抗的な態度を取り続けている勢力の1つだった。
無論、他の各郷の大名や侠客達のように、武力蜂起するようなことこそなかったが、依然として毅然な態度を取り続けている。──何しろ正式な跡取りである光月おでんが何もせず耐え続けているのだ。それを無視して動くようなことは出来ない。筋が通らない。口にこそしないが彼らにとっての将軍は光月おでんただ1人であるのだ。
だからもし彼が決心し、動く時は自分達も力になる。それまでは力を使うことなく研ぎ澄まし、ただ耐え続けるのみだった。
「姐さん!! 下がってておくんなせェ!!」
「黙りな!! あんな腰抜け共にビビってんじゃないよ!! どうせ何も出来やしないさ!!」
そしてそのことを、周囲の者達も理解している。ヒョウ五郎の妻や子分達もまた、手を出すことはなく、口や態度だけでオロチへの抵抗を続けていた。
「おいヒョウ五郎!! オロチ将軍の命令だぞ!! 逆らったら罪だってことわかってんのか!?」
「うるせェ腑抜け共!! 将軍が怖くて仁義も通せねェようなら侍なんてやめちまえ!! ──それとも実力行使でもしてみるか?」
「くっ……!! 忠告はしたからな!! もうどうなっても知らねェぞ!!」
「おお!! 帰れ帰れ!! 自分の尻も拭けねェようなガキになったつもりはねェよ!!」
ヒョウ五郎はオロチの役人──元々は同じ……と言ってもヒョウ五郎一家ではない別の一家だが、同じ侠客だった侍を強気に追い返してみせる。
相手は腕も立つし、将軍の命令という大義すらある。
だがそれでもヒョウ五郎相手に実力行使が出来ないのは、それだけヒョウ五郎に“力”があるからだ。
“豪剣”でならしたヒョウ五郎の実力はおでんには届かずとも、ワノ国で五本の指に入る達人である。そこらの侍が束になっても彼には敵わない。彼の“流桜”の強さはワノ国でも広く知られていた。
そして彼と彼の配下という戦力があるからこそ、オロチも口で命令するだけで実力行使はしてこない。それをヒョウ五郎も理解していた。もしオロチが強硬手段を取ってもそれを跳ね除ける力もある。オロチに屈するような侍にヒョウ五郎は打ち取れない。
──だが相手の侍にもそんなことはわかっていた。だからこそ、同じ侠客だった男は言うのだ。
「……おいヒョウ五郎……てめェ……思い知ることになるぜ」
「あァ? まだ何か言いたりねェのか? それともやる気か?」
「……ハッ……確かに、おれ達じゃお前には敵わねェ……いや、ワノ国中の侠客や侍を集めてもお前に敵うのはおでんかその家臣……あるいは霜月牛マルみてェな本物の達人くらいだろうな……実際、おれにとっての最強はお前達だったさ……お前達以外に負ける訳がねェとも思ってた……」
「……お前、何が言いてェんだ?」
先程までとは打って変わった様子にヒョウ五郎も訝しげに問いかける。それはオロチの配下の役人としての言葉ではなく、かつて同じワノ国の裏社会で生きてきた仲間としての言葉に聞こえたからだ。
そう、それはまるで忠告だ。既に心が折られてしまった男の、情けない忠告。その口には笑みが浮かんでいるが、かすかに手が震えていた。
そして彼は横目でヒョウ五郎を見やると、別れを告げる。
「おれ達は“井の中の蛙”って奴さ……へへへ……精々楽に死ねよ……?」
「…………」
それだけ言って、オロチの配下となった侍は去っていった。そして、ヒョウ五郎はその後ろ姿を見て予感する。
おそらくもう彼は、二度とヒョウ五郎の前に現れることはない。勧誘もしに来ることはないだろうと。
何となく、もしかしたら“流桜”だったのかもしれないが、そう感じた。
──だがさすがのヒョウ五郎にも……その理由が
「!!」
「! 親分!! あいつら……!!」
「……ああ。気づいた。──おめェら何があっても手を出すなよ」
「えっ!? でも──」
「──いいから下がってろ!!」
「っ……へ、へいっ!!」
ヒョウ五郎はそれに気づく。子分たちも気づき、ヒョウ五郎の前に出ようとする。
だがそれをヒョウ五郎は押し留めた。一喝し、子分達を下がらせる。
何しろ立ち去っていった役人達と入れ替わりにやってきたのは、今この国にいる余所者達だからだ。
「へへへ……あれがヒョウ五郎一家か……!!」
「命知らずで有名なんだってよ」
「ぎゃはは!! そりゃあいい!! これは見ものだな!!」
やってきたのは──“百獣海賊団”。
オロチの背後につく海外の海賊達。この国の人間がオロチに楯突くことが出来ない元凶とも言える奴等。
その人相は皆凶悪。まさに海賊といった出で立ちでやってくる彼らはワノ国の住人を怯えさせる。
だがヒョウ五郎は彼らにビビりはしない。イキリ散らす彼らに負ける気もしない。実際、何をしにきたかはまだ断定出来ないが、襲ってきたところで返り討ちに出来る自信があった。
──だがたった1人……その集団を引き連れてやってくる大男は例外だった。
その大男1人のためだけに子分を下がらせ、手を出すなと命令する。
「──お前が“花のヒョウ五郎”か……」
「……ああ、そうだが、お前さんは……カイドウの手下か?」
ヒョウ五郎でさえ見上げる程の大男は部下を引き連れて立ち止まると、まずはヒョウ五郎を確認するように呟く。ヒョウ五郎は警戒し、いつでも刀を抜けるように、流桜を纏わせられるように感覚を研ぎ澄ました。相手も刀を腰に差している。だが人間というより、凶暴な獣を目の前にしている様だった。見た目も人間というよりは妖怪か天狗の類にすら見える。
ただ確かなのは、只者ではないということだけ。三白眼から見下される視線は酷い威圧感を伴っていた。
「──単刀直入に言うぞ。カイドウさんの部下になれ」
「……断らせてくれんのか?」
「大人しくついてこい」
「帰れ。何と言われようがおれはお前たちの部下になんてならねェ」
大男は会話をしてこなかった。単刀直入と言ったが、単刀直入が過ぎる。
ただ用件を、彼らにとっての決定事項を伝えるだけ。こっちの質問にも答えなければ、返答すら繋がってない。ヒョウ五郎は感じ取る。──こいつには話が通用しねェ、と。
侠客でもここまでイカれた奴はいねェと感じ取った。だが毅然として断る。
──だが、それがヒョウ五郎にとっての間違いだった。
「……はっきり言っておくが……お前に拒否権はない。おとなしくついてくる気がねェなら──“地獄”を見せるが構わねェんだな?」
「っ……そんな脅しに屈するとでも思ってんのか?」
大男はそこでようやくヒョウ五郎と会話を行った。
だがしかし──それが最後の会話にもなった。
「──なら地獄を見ろ」
花の都。オロチの城では、今の今までオロチに仕えることを拒否していた連中がいた。
光月家に仕えてきたワノ国が誇る“忍び”の集団──“お庭番衆”だ。
再び光月の世になることを夢見てオロチに仕えてきた彼らだが……今日その日、彼らはとうとう諦めた。
「──これは決定だ」
「そんな!! あんな奴に……オロチに仕えるなんてそんなこと……!!」
城の一室。対面し、2つに分かれて対峙する声がある。
1つは多くの忍び。お庭番衆を背後にして強い声で告げるお庭番衆の隊長、福ロクジュ。
対するはただ1人。オロチに仕えられないと声を荒げる若手のくノ一、しのぶだ。
とうとうオロチに仕えることを決めた福ロクジュと他のお庭番衆の面々は落ち着き払っており、逆にしのぶは納得がいかないと説得を続けていた。
「これは不忠です!! 仕えるべき主君を裏切るなどありえない!!」
「我らが仕えるべきは光月ではない。ワノ国の将軍だ」
「なら正当な跡継ぎであるおでん様に仕えるべきです!!」
「弁えろしのぶ。あのバカ殿に国は治められん」
「そんなことはない!! おでん様はこの国を背負って立つべきお方だ!! ましてやオロチなどよりはよっぽどマシでしょう!!?」
断固としてそれを認めないしのぶに、福ロクジュはそこで溜息を吐く。光月に拘り続ける、優秀だが情に流される部下に教えを説くのも忍びの上司としての役目だった。彼もまた、断固として告げる。
「そうか? 現にそのおでんが国の跡取りとしての責務を果たしてこなかったからこそ、オロチ様が台頭したのではないか?」
「そんなことはない!! それはオロチが汚い手を使わなければ──」
「おでんが海外などに出ず、九里の大名としてワノ国に居続ければそれも防げただろう。あのバカ殿の勝手に、これ以上国中が振り回されても良いと思うか?」
「勝手など……!! それを言うならオロチだって国中を振り回している!!」
「──あら、それはどうかしら?」
「っ……!!? 誰……ぐっ!!?」
しのぶと福ロクジュの言い争いに、突如として異を挟んだ女性の声にしのぶは驚いた。その気配が感じ取れず、しかも容易に腕を取られ捕まってしまったから。
しのぶはまだ若いとはいえ、忍びとしては優秀である。そのしのぶが気配を感じ取れず、しかも一方的に捕まるなど本人にとっても驚きであったが……それは相手が悪すぎるゆえのことだった。
「っ、離せ!! あぐっ……!?」
「無駄よ。諜報員としての格が違うんだから♡」
「っ……ジョーカー……!!」
そう、しのぶの背後にいたのはジョーカーという名の美女であり、この国に巣食う海賊達の最高幹部。
『百獣海賊団大看板“戦災のジョーカー”』
「これはジョーカー様……いらっしゃっていたのですか」
「フフフ、ちょっと暇潰しにね。──それで、しのぶちゃん? さっきの意見だけど……今やおでんがいるからこそ、国は混迷を極めてるの。わかるかしら?」
「わかってたまるか……!! お前達とオロチはこの国に巣食う害虫だ……!!」
福ロクジュは今や上司となったジョーカーに恭しく傅く。他の忍びも同様だ。
そしてしのぶも、態度は毅然として反抗を続けているが、心の底では歯がゆさと同時に恐怖を覚えてもいる。
何せこの女は8年前。福ロクジュ達お庭番衆を1人で制してしまった化け物だからだ。
しのぶもまだ幼かったが、その裏で生きる諜報員、工作員としての隔絶した実力を感じて恐ろしさを覚えた。今なおその実力の底は見えず、怪物っぷりに陰りはない。だが言い返さない訳にはいかなかった。
しかしジョーカーは余裕を見せ続け、しのぶに向かって語りかける。
「1つの国に2人の君主なんて争いの種でしかないわ。民衆は寄る辺に迷い、外には付け入る隙を与える。国を安定させ、平和にしたいなら国内の不穏分子は排除した方がいいと思わない?」
「黙れ!! どの口が……!! ならオロチとお前たちが出ていけばいい!! そうなれば国は平和になる!!」
「あら、私達はこう見えて平和主義よ? 私達が通った土地は争いなんてなくなるわ。フフフ……いずれこのワノ国からも争いをなくしてあげるから感謝しなさい」
「何を……!! お前達なんて……おでん様や他の大名様……!! ヒョウ五郎一家の手に掛かればすぐにこの国から──」
「──ああ。ヒョウ五郎ならこれから
「!!? な、何を……何を言っている!! 説明しろ!! 一体何を……!!?」
ジョーカーが突然言い放った言葉に、しのぶは驚きに顔を歪め、一瞬言葉を失いかける。しかしすぐに声を震わせながらも気勢を取り戻して問いを投げた。それに対してジョーカーは軽い調子で告げる。
「フフ、別に説明する義理はないけれど……特別に教えてあげる。つい先日、オロチが諦めてね。ヒョウ五郎は手に負えないから私達に譲るって。きっと今頃お迎えが来てる頃よ。可哀想に……相手はあの“キング”だし、きっと地獄を見るわね」
「っ……ヒョウ五郎親分が負ける筈がない!! あの人はワノ国最強の侠客だ!!」
だがそんなことは信じないとしのぶは気丈にも言い切る。だが鼓動は強く脈打っていた。
そんなしのぶを見たジョーカーは面白い物を見る目でしのぶを見下ろしていたが、突然──その腕を解放した。
「それなら見に行ってみれば? フフ、きっと楽しい光景が見れるはずよ」
「……!! くっ……!!」
「しのぶ!! お庭番衆を裏切るつもりか!?」
腕が解放されるなり、その場から去っていったしのぶに福ロクジュは声を掛けたが、しのぶは振り返ることなく一目散に城を出ていってしまった。よほど、不安なのだろう。
そんな焦燥感に溢れる少女の表情と行動。そして彼女はその光景を見たらどんな風に表情が歪むかを想像し、ジョーカーは楽しそうに笑ってみせた。
ワノ国の一角。そこに、1つの影が倒れた。
「っ……ウ……!!」
「フン……口ほどにもないな。──おい、さっさと錠でも付けてやれ」
「はっ!!」
地面に倒れた男は──花のヒョウ五郎。
ワノ国でも5指に入る凄腕の侍であり、裏社会の顔役でもある男は、全身に斬撃の痕と火傷を負って倒れていた。
そんな男が倒れるとはワノ国の住人なら信じられない光景だろう。ヒョウ五郎の強さはそれだけ有名だった。
しかしそれを成した巨漢もまた、百獣海賊団随一の剣豪。天狗の羽を黒くしたような巨大な翼を持ち、炎を背負った見るも恐ろしい最高幹部の1人だ。
『百獣海賊団大看板“火災のキング”』
「キング様!! 手錠に足枷、付け終わりました!!」
「ならさっさと運べ。行くぞ」
「了解です!!」
倒れたヒョウ五郎に海楼石の手錠と足枷という頑丈なそれを付けて部下に運ばせる。
そしてそれを遠目に見ているのは、まさにその元凶とも言える人物だ。
「ざまァねェなヒョウ五郎!! ムハハハハ!!」
「全くですな!!」
「だから言ったのによ……」
ワノ国の現将軍代理──黒炭オロチ。
そしてその配下の侍、役人達が大怪我を負って運ばれていくヒョウ五郎を指差して笑う。あの生意気な男がとうとう捕まり、これから不幸になると思えば楽しくてしょうがないのだろう。
実際、カイドウに捕まったのなら、もうその先は破滅しかないことをオロチは知っていた。強い兵隊を欲しがるカイドウは、強者を中々殺そうとはしない。仲間にしたがるからだ。そのため、心を折って屈服させる。そして部下にしようとする。
だが折れない場合は死ぬ。しかも死ぬ時はその過程に幾つもの地獄を見てから死ぬだろう。
──そしてその最初の“地獄”はすぐに訪れた。
「ヒョウさん!! ヒョウさんを連れていかないでおくれよ!!」
「あァ!? 離れろババア!! 死にてェのか!?」
「親分!! 親分!! おいてめェら!! 親分をどこに連れて行く気だ!?」
それはまず、ヒョウ五郎が連れて行かれるところを見て耐えきれなくなり、縋り付くヒョウ五郎の妻。続いて子分達が止めようとしたことから始まった。
「チッ、鬱陶しい。どうします? キング様」
「…………おい」
「っ……!」
部下がその対処をキングに仰ぐと、キングはその妻や子分達に向けていた目をヒョウ五郎に向けた。彼を冷たく見下ろして、告げる言葉は──地獄の始まり。その宣言だ。
「よく見とけ。これがお前がこれから味わう地獄だ──
「はっ!!」
「!!! や、やめ──」
──パンッ。
鳴り響く銃声。倒れるのはヒョウ五郎の妻。
胸に風穴。血飛沫を撒き散らして死ぬその光景を多くの者が見ていた。
その瞬間、子分達は激昂し、同じ様に撃ち殺された。
陰で見ていたしのぶは怒りにうち震えた。
遠目に見ていたオロチは指を差して爆笑していた。
そしてヒョウ五郎は顔を青褪めさせ、その手を伸ばそうとし、届かなかった。
地面に倒れた妻と、戦おうとして蹴散らされ、殺される子分達。
それに怒り、悲しむ男の涙を見て、キングは鼻を鳴らした。部下に声をかけ、
「──おい、まだ息がある。殺すならちゃんと頭を撃つか、首を斬れ」
「えっ? あっ、すみません!!」
「──!!?」
二度目の、妻に対しての発砲。しかも今度は、まだ辛うじて息があった妻を確実に殺すための頭への一発。
その一発で、ヒョウ五郎の妻は完全に死亡した。ヒョウ五郎は思わず声を震わせたが、動くことも抵抗することも叶わない。
「うっ、おおおおお……!!」
「──これからこれと同じことを何度も繰り返し、それ以上の責め苦を何度も味わわせてやる。お前の心が完全に折れるまでだ。カイドウさんとぬえさんに逆らった事をゆっくりと後悔するんだな」
「っ……許さねェ……!!! お前達は──ガッ……ァ……!!?」
「フン……悪いがお前の御託を聞いてる暇はねェ。──帰るぞ」
「おお!!」
言葉の途中でヒョウ五郎の頭を殴りつけたキングは、再び部下に命令して動けなくなったヒョウ五郎を運ばせる。
──そして残ったのは、ヒョウ五郎一家の子分達の死体と、ヒョウ五郎の妻の死体。
容赦も慈悲も一切ない百獣海賊団による惨劇の痕にそれを見ていたワノ国の住人は恐れ、残された子分達は慟哭する。
それは逆らえばあのヒョウ五郎でさえこうなるのだとワノ国の住民に広く知らしめる事件であり、この後に続く戦いの切っ掛けともなる事件でもあった。
──その事件の数時間後。
オロチ将軍がお庭番衆を含む侍達とカイドウの部下を引き連れてワノ国、九里へとやってきた。
「ここに新しい武器工場をいくつか建てたい。協力を頼むぞおでん」
「いや将軍。船の方は……!? カイドウと……」
地面に手と膝をついて平服する九里大名、光月おでんに対し、黒炭オロチはその頭をガンガンと叩きながら何気なくそう頼む。
するとおでんがあることを質問した。何気ない問いだが、おでんにとっては何よりも重要と言っていいものである。
しかしオロチはそれを聞くと、
「──何の話だ?」
「!!!」
その返答におでんは絶句する。
オロチはそんなことは知らないと言う様に自分の用件を伝える。表情を一変させたおでんを嘲笑うかのように口元を歪めて笑った。
「ワノ国を武器の生産国にするぞ!!」
「…………!?」
「ああ、それとヒョウ五郎だがおれの手には負えねェんで、カイドウに譲った……まァじき殺されるだろうな!!」
「え……」
「それにすがりつくババーが撃ち殺されてた!! ムハハハ、侠客の妻がみっともねェ!!」
とんでもない言葉を次々と吐いていくオロチに、おでんは間の抜けた声を出すことしか出来ない。
おでんはしばらく、放心状態だった。
オロチが去り、おでんが城に戻れば、おでんは自分が慕うヒョウ五郎とその妻を想って泣いた。
家族と家臣に見守られ、今までやってきたことの全てが無意味であったことを遂に悟った。
そして彼は涙ながらに告げた。
「──カイドウを討つぞ!!!」
──そうして、光月おでんとその家臣……後に“赤鞘九人男”と呼ばれる忠義の侍達は夕刻の陽に照らされながら、怪物カイドウを討つための戦いに向かっていった。
……しかしその報はおでんがカイドウを討つと決意した直後、
──“鬼ヶ島”
『おいやべェぞカイドウ!! これからお前を討ちに行くらしい!!』
「──ほう……ウォロロロ……
『は? い、いや、とにかく気をつけ──』
スマートタニシによるオロチからの情報を聞いたカイドウは、最後までそれを聞くことなく通話を切った。
それを見て、私は楽しみに笑う。その気持ちをカイドウにも尋ねてみた。
「とうとう攻めてきたね~。いつかはこうなるとは思ってたけど……で、どうするの?」
「兎丼で迎え撃つぞ。
「同感だね~それじゃ、さっさと行って布陣でもしてよっか!!」
私は浮かび上がり、カイドウもその巨体を立ち上がらせたので、その左肩に乗って運んでもらう。
そうしながら部下達を集めて指示を出すのだが、今の状況はそこまで万全じゃない。
「ん~~~ナンバーズと幹部連中は殆どナワバリ守りに行っちゃってるけど、一応呼び戻しとこっか。戦いには間に合わないだろうけど、後で何が起こるかわからないし」
「──キングとジョーカーは戻ってきたか?」
「それは大丈夫。さっき鬼ヶ島の前に辿り着いたって報告が入ってたし、キングは多分料理中。2人とも呼び戻してそのままクイーンと一緒に指揮させる?」
「おう。それでいい」
と、カイドウに許可を取ってから指示を出すことに。そうしながら、私はちょっとした感慨深さを感じていた。
何せ……とうとうここまで来た訳だからね。
この戦いは私達にとって気の抜けないものだ。戦いで気を抜くことなんてないけど、今回は特に危うい。
何せ相手は光月おでんとその家臣である侍達9人。数は少ないとはいえ、家臣は皆強いし、特におでんはメチャクチャ強い。負ける可能性だって十分ありえる。
──だが、敗北なら幾らでも経験してきたし、格上だったとしても格上との戦いには慣れている。恐れることなんて何もない。
「カイドウ」
「何だ」
「──負けたらブチ殺すからね♡」
「──ウォロロロ!! こっちのセリフだ。負けたら殺すぞ、ぬえ!!!」
私とカイドウはそう言い合って笑い合う──なーんて、どっちも殺せたことなんてないけどね!!
──そうして、私達もまた、光月おでんと赤鞘九人男との決戦に赴いた。
花のヒョウ五郎→あんだけ逆らってて連れて行かれる時だけ無抵抗ってのもよくわかんないから多分誰かに力ずくで連れて行かれたんじゃないかなってことでキングさんに出張ってもらいました
お庭番衆→イマイチまだ強いのか分からないけど、多分強い。でも諜報員としては圧倒的にステューシーが格上です。CP9とどっちが強いのか
しのぶ→ワノ国掌くるっくるの切っ掛け。申し訳ないがバカ殿だと思います
百獣海賊団→ナンバーズと飛び六胞は不参加。カイドウとぬえちゃんと大看板で正々堂々頑張ります!
とまあ決戦前の前座ってことでネタ要素少ないですがこんなもので。次回はとうとうVSおでん&赤鞘九人男です。久し振りに一話で収まらないかもしれない。という訳でお楽しみに
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