正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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――人の夢。ってつけたい。あのOPが1番好きです。というわけで本編どうぞ


時代のうねり

 ロックス海賊団が海賊島ハチノスから出航して10日目の朝。

 とうとう船長ロックスが狙いをつけた……海軍基地と世界政府加盟国の島に辿り着いた。

 そして船長命令により、即座に戦闘準備を整える血気盛んな船員達。

 ──だが、そんな中でロックス海賊団の見習いである私は何をしているかと言うと……、

 

「──ギハハハハ……聞いたぜぬえ……お前、()()()()()()()()()()()()()()……?」

 

「は、はい……船長……!」

 

 ──何故か、ロックス船長に船長室まで呼び出されてしまっていた。

 “海の悪魔”とまで恐れられる大海賊のロックス船長とサシで向かい合うとか落ち着かないどころのレベルじゃない。何をされるのかと不安になってしまう。

 どうやら私の能力について聞きたいみたいだけど……なんなんだろうか。私はビビリながらも頑張って直立不動のまま耐えていたが、

 

「ギハハ、そんなにビビるんじゃねェよ。おれァ味方を態々取って食いやしねェ。見習いとはいえ、お前もカイドウも、おれの大事な部下の1人さ」

 

「……はい、すみません……」

 

 ロックス船長の一見優しそうな言葉に、敵なら取って食うんだろうか……と別の部分で恐れてしまう。さすがにない──とは言い切れない。味方以外には容赦ないからな……この人……。

 だけど私やカイドウみたいな見習いの名前も態々憶えている辺り、大事な部下と思っているのは間違いないのかもしれない。もっとも、利用価値のある駒みたいな感覚だろうけど。

 まあそれでも部下と思われているだけマシだよね、と私は謝りつつも何の用だろうと思い、ロックス船長の言葉を待つ。すると直ぐに、

 

「まァ話ってのは簡単さ。ちょっとお前にお願いがあるのさ……お前にしか出来ねェ、な」

 

「……私にしか出来ない……?」

 

 屈んだ上で視線を合わせてくるロックス船長の言葉を反復する。私にしか出来ないというのは、もしかして……。

 

「ギハハハハ……! ガキの癖に察しが良いじゃねェか……! 頭の回る奴は嫌いじゃねェぜ……?」

 

 ……えっ? まだ何も言ってないのに──あっ!? ()()()……! 

 

「……『()()()()()()()()()?』って? へェ……! その答えはイエスだが、よく知ってるな? 見聞色の覇気を極めれば、少し先の未来が見えるってことをよォ……」

 

「あっ……い、いえ、その……」

 

「ギハハハハ! そう焦んなくても構わねェさ、お前がどこで覇気のことを知ったかなんて聞く気はねェし、興味もねェ……だが……そうだな、やっぱりお前を使うことにしよう」

 

 あ……危なかった~~~!! 失敗したと思ったし、めちゃくちゃヒヤヒヤした。でもそりゃそうだよね、ロックス船長が覇気を極めてない筈はないし、見聞色の覇気の上位技術とも言える未来視が出来たって何もおかしくない。むしろ出来ない方がおかしいまである。ロックス船長が寛大で良かった……けど、私を使うって……何か嫌な予感が……ぶるるっ。

 

「『何をするか』は今から教えてやる……なァに、ちょっとばかし危険はあるがうちの船よりは危険じゃねェし、お前のその見た目とこの間見せた能力なら上手くいくさ……!! ギハハ、上手くいったら“お駄賃”をくれてやるからよォ……ちょいと“お使い”を頼まれてくれねェか……? ギハハ、お前はこう言う……『わ、わかりました……』」

「わ、わかりました……」

 

 ロックス船長のその意味深な“お願い”に、私は頷くしかない。いやほんと、こんなの断るつもりだったとしてもロックス船長の怖さで頷かされる奴じゃん……と、私は諦めてロックス船長からその“お使い”の内容を頭に叩き込むことにした……。

 

 

 

 

 

 ──“偉大なる航路(グランドライン)”にあるその裕福な島は、世界政府加盟国の中でも“天上金”を多く納めている。

 天上金とは世界政府加盟国が世界貴族である天竜人へ納める貢ぎ金であり、早い話が税金のようなものである。

 実際には違うが、納めるのは一般市民であり、天上金を納められなかった国は世界政府非加盟国の烙印を押されることになる。

 その莫大な金を納めるためだけに、国が滅んだ事例もあるが、世界政府非加盟の貧しい国などは、海賊や人攫いが横行する無法地帯となるため、多少無理をしてでも天上金を納め、世界政府直属の海上治安維持組織──正義の軍隊である“海軍”に守ってもらおうとする。

 故に多くの天上金を納めるこの国には世界政府による優遇措置により大規模な海軍基地が置かれており、この島を海賊から守っているのである。

 この国の治安は至って平和そのものであり、海賊もこの島に停泊することは殆どない。

 

「──あの……ちょっといいですか?」

 

「……ん? なんだい、お嬢さん」

 

 そんな平和な海軍基地の入り口に……小さな少女が現れ、見張りを行う海兵に向かって声を掛けた。

 少女は後ろ手に包みに包まれた何かを持っており、海兵が用を尋ねるとそれを目の前に差し出してお願いする。

 

「これ……お父さんのお弁当!」

 

「──……! ああ、お父さんに弁当を届けに来たのか。偉いね。名前と階級は分かるかい?」

 

「えっと……エディ。階級は……ごめんなさい。分からないの……」

 

「! そうか……いや、それじゃ調べて渡しておくよ。お弁当、渡して貰っても構わないかな?」

 

「! ──うん! おじさんありがとう!」

 

 階級が分からなくて不安そうな少女だったが、調べて渡しておくと言うと、少女はホッとしたような、しかし純粋な笑顔を浮かべてお礼を言い、そこから走って立ち去っていった。

 少女の眩しい笑顔に海兵は癒やされ、平和を噛みしめると同時に、自分があの笑顔を守っているんだと海兵の仕事を誇りに思う。

 自然と笑みを浮かべ、少女を見送るともう1人、見張りの海兵が近づいてきて、

 

「頼まれてたな?」

 

「ああ。でも困ったな。せめて階級が分かれば良いんだが……エディって知ってるか?」

 

「いいや聞いたことないな。地道に聞いて回るしかないんじゃないか?」

 

「それしかないよな~~~! ああ、格好つけて引き受けるんじゃなかったぜ……」

 

「仕方ねェさ。あんなお父さん思いの可愛い金髪の少女に頼まれたらおれだって引き受けちまう」

 

 見張りをしていたもう1人の海兵は、そう苦笑して相方の肩を叩き、ご愁傷さま、と、昼休みは人探しだな、と茶化すように労う。

 だがしかし、その相方の話に海兵はややあって疑問を口にした。

 

「……は? 可愛い……()()()()()?」

 

「ん? そうだったろ? 今の娘。金髪の可愛らしいツインテール。多分、8歳くらいの」

 

 相方が詳しくその容姿の特徴を口にすると、海兵の顔がぎょっとして驚きのものに変わった。

 

「いやいやいや! 茶髪のショートカットの女の子だったろ!? 歳ももう少し上くらいの! お前、見てなかったのか!?」

 

「ええ!? お前こそ大丈夫か!? ありゃどう見ても金髪の女の子だろ!! どうかしちまったのか!?」

 

「お前こそ目がおかしくなったんじゃないのか!?」

 

 と、そこまで言い合ったところで、別の場所からそれを見ていた海兵が慌てた様子で近づき、止めに入る。

 

「──おいおい! 待て待て!! 仕事中に何を言い争ってんだ!?」

 

「……だってこいつが、さっきの女の子を金髪だのなんだの……」

 

「いや違う。聞いてくれ……! こいつの様子がおかしいんだ! さっきの女の子はどう見ても茶髪だったのに……!」

 

 お互いに第三者に向かって理由を説明する。しかしそうすると、今度は3人目の海兵が間の抜けた声を出した。

 

「……は? さっきの女の子って……黒髪のポニーテールの娘か? 結構年頃の」

 

「……え?」

 

「……何?」

 

 その発言に、最初に言い争っていた2人の海兵が唖然とし、混乱する。どういうことなのかと。

 

「いやあ、確かに可愛かったけどなァ……それで喧嘩をしちゃ海兵としてどうかと──って、ん? その箱はなんだ? 何かの荷物か?」

 

「……ん、あ、ああ……これは……あの娘から預かった弁当で……」

 

「……弁当? ()()()()()()()()──」

 

「え──」

 

 ──3人目の海兵がそれを弁当に見えないと言ったところで、3人の思考はそこで永遠に中断させられた。

 

「!!!?」

 

 ──海軍基地の入り口が、大きな爆発で吹き飛ばされる。

 

「っ!!? ──何事だ!?」

 

「少佐!! 入り口が……! ケホッ、ケホッ……! 爆発して……!!」

 

「っ……!! 大砲か何かか!?」

 

「砲撃音は聞こえませんでした!!」

 

「くっ……とにかく、被害状況を調べろ! それから、警戒態勢を──」

 

 爆発の衝撃と音を聞いて、近くに居た海軍将校が険しい表情で周囲に指示を出そうとする。

 ──だがその瞬間、誰もいないはずの場所から、誰も聞こえない程度の正体不明の声が響いた。

 

…………“ダーククラウド”

 

「!!? 黒い霧!?」

 

「少佐ッ!! 何も見えません!!」

 

「分かっている!! くそっ……! とにかく、一旦離れて──」

 

 ──そしてその視界が制限されて混乱した、狙いすましたタイミングで今度こそ、その音は鳴り響いた。

 

「!!!」

 

「うわあああああああ~~~~!!!」

 

「ッ……!? これは……大砲の音か!?」

 

 まさか、という悪寒が海兵の身体に走る。その直後、予想通り悪夢の報告が駆け巡った。

 

「か……海賊船だ!!? 海賊が……襲撃を掛けてきました!!!」

 

「ッ!! 本当に海軍基地に……!!」

 

 最悪の報告とは……海賊の襲撃……それだけではない。

 次々に鳴り響くのは大砲の音と爆発音。そして……異常を知らせる海兵達の悲鳴と叫ぶような報告の声だった。

 

「あの海賊船、真っ直ぐこっちに……──ッ!? いや違う!! 町の方に向かってるぞ!!」

 

「直ぐに部隊を編成し──がふっ!?」

 

「も、もう乗り込んできやがった……!!?」

 

「また爆発だァ~~~!!?」

 

「!! リストにのってない印です!! ですがあ、()()()()()──っ、ぎゃああああああああああ!!?

 

「!!?」

 

 その時、近くで一際大きい悲鳴──断末魔が基地内に響いた。

 そして直ぐに轟音と共に、海軍基地の壁が破壊される。衝撃は基地内部にまで及ぶほど。

 少なくない海兵達が吹き飛ぶ中、駆けつけた海軍将校ら……その基地でトップの地位にある海軍本部中将の男も含めて、彼らは見た。

 瓦礫と煙の中から……徐々に、複数の海賊達の姿が浮かび上がってくる。

 大男、大女も多数。鋭利な武器や特徴的なシルエット……中には人間の形ですらない者もいる。

 そんな中、傍らに見える大男や大女と比べると小柄なシルエットの男が、声を発した。

 

「──うるせェなァ……一々叫ばなくても、自分で名乗ってやるから安心しな……!! ギハハ……まァ、その後で幾らでも叫べばいい……どうせ嫌でも叫びたくなる……!!

 

「っ!!? お、お前は……ま、まさか……!!」

 

 煙が晴れていき、その男と……周囲の者達の姿が浮かび上がっていく。

 その誰もが……海兵なら知っていなければならない海のならず者達。

 そしてその先頭に立つ男は……その者達の中でも、次元が違う覇気を漂わせる男だった。

 

「──ギハハハハ!! さァ!! 準備はいいか!!? よ~く聞いて上の馬鹿共に報告しな!!! おれ達は…………“ロックス海賊団”!!! 目的は────“破壊”だ!!」

 

「!!! ロックス!!? ロックス……“海賊団”だと!!?」

 

 歴戦の海軍将校達が青褪める。先頭に立つ者──ロックス。“海の悪魔”の異名を持ち、政府が手配した手配書の中でも、最高額の賞金を懸けられた最悪の海賊が目の前に現れた。

 そして……その凶悪極まりない男が、この“偉大なる航路”で悪名を轟かせる、多くの海賊達を従えて、海賊団を結成したという事実。

 認めたくないほどの現実は、まるで悪夢を見せられているかのようであり、その名を聞いた多くの海兵達の心に、恐怖を与える。

 

「な、なんだあの顔ぶれ……!!」

 

「し、“白ひげ”に“シャーロット・リンリン”……!! “金獅子”もいます!!」

 

「ほ、他にも複数!! 高額賞金首を確認!! 目に見える海賊……そのほぼ全員が賞金首です!!!」

 

「わ、悪い夢か何かだろ……! そうだ……そうだと言ってくれ!!!」

 

 泣き崩れ、絶望して膝を折る海兵すら出てくる──が、だからといって彼らは容赦はしない。

 

「ハ~ハハハマママママ……!! 悪い夢ならこれからもっと沢山見せてやるよォ!!」

 

「ジハハハハ……まァ、運が悪かったな、お前ら……! 船長に狙われたのが運の尽きだ……! 悪ィが命は諦めるんだな……!!」

 

「…………」

 

「ウォロロロロ!! さァ!! 海軍!! おれと戦争を楽しもうぜ!!」

 

「はぁ……ドキドキした……」

 

「!! 少女……?」

 

 多くの海賊達が声を荒らげて荒々しい覇気を纏わせ、あるいはその能力を開放して凶悪な力を覗かせる中──横から、不思議な羽で空を飛んで合流する少女の姿に、とある海兵は疑問符を浮かべる。

 だがそのことを多く考える時間はない。先頭に立つ船長──ロックスが言葉を紡いだからだ。

 

「ギハハハハ!! よくやったな、ぬえ!! 見習いにしちゃ上出来だ……!!」

 

 そう言って、少女をぬえと呼び、ロックス直々に何かを褒め称える。その少女は軽く会釈して船長の言葉を受け取り、空中で僅かに下がって先程まで大男であった龍の頭上辺りに移動する。

 そのタイミングで、再びロックスが凶相を深めて海兵達に絶望の言葉を放った。

 

「さァて……そろそろやるかよ、海軍……!! あァ、それとな……町の方にもおれの部下達が襲撃を掛ける手はずになってるんだが……ギハハ……そろそろ応援にいかねェと危ねェかもなァ……? まァ、ここに残るのも町に行くのも誰に挑むのも好きにしな。どうせ死ぬんだ。せめて……誰に殺されるかだけは選ばせてやらァ!!!」

 

「ッ……!! く、クソォ……!! ロックスゥゥゥ!!!

 

「ギハハハハ!! お得意の“正義”とやらで止めてみな……!! おれ達を止めれるもんならよォ!!! 野郎共!! 戦闘の時間だ!!!」

 

「おお!!」

 

 海軍中将が歯を噛み締め、そして憎しみを込めてロックスの名を呼ぶと、ロックスはより一層笑みを深め、腰のカトラスとピストルを引き抜いた。そして部下達に開戦の号砲代わりとして引き金と、喉を震わせる。

 

「おれ達の名を海軍と全世界に知らしめてやれェ!!! 行くぞォ!!!」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 ──その戦いはこの時代……最強最悪と言われた凶悪な個性の集団……“ロックス海賊団”の名が世界に知れ渡った最初の事件であり、

 

「ギハハハハハハハ!!! 世界を“支配“するのはお前らじゃねェ!!! このおれだ!!!」

 

 ──世界政府が……長らく恐れていたたったひとつの脅威。それを思わせるものであり、

 

「さァ止めてみろ!!! ここからはおれの“時代”だ!!! お前らに、おれの作る時代のうねりを止められるか!!?」

 

 ──この時代の名を象徴するものであり、

 

ウォロロロロロロ!! ごフッ! ウォロロ……!! 最高だァ……!!

 

 ──そして……これは、ほんの小さな切っ掛け。そう……ほんの小さなひとつの切っ掛けに過ぎないが……

 

「ぎゃあっ!? な、んだ…………? 刺され……──」

 

「…………ふふ

 

 ──その少女が……“海賊”として、“男”と同じ“楽しみ”を覚える……その兆しをほんの僅かに垣間見せた……そんな戦いであった。

 

 

 

 

 

 ……ロックス海賊団として、初めて海軍を相手にした初陣とも言うべき戦いは、まさしく“完勝”と言うべきものだった。

 そしてその戦いは一応、ちょっとだけだが、私も役に立っている。

 予め、ロックス船長に言われて爆弾を持って島に忍び込み、正体を隠して海兵に接触。そして爆弾を持たせた。

 その後も正体を隠して海軍基地に忍び込み、視界を暗雲で曇らせたりして、ロックス海賊団の面々が先制攻撃する最初の隙を作り出した。

 まあロックス船長曰く、正面突破も訳ないらしいが、楽になるならその方が良い、と恐らくだが部下の消耗を僅かにでも減らすためにそんな策を取った……のかも知れない。

 実際、海軍の報告が遅れたおかげで街の方でもかなり暴れられたらしいし、海軍基地にいた海兵は数十名を残した後に皆殺しにした。

 これは何でも、ロックス海賊団の名と事件を報告させるため……そして、少しでも目撃者を増やすためらしい。

 そのため、町での殺戮は言うほど行われず、どちらかというと略奪に重きが置かれていたとのこと。

 そして一応、海軍基地が終わった後はロックス船長らと一緒に皆で町の方でも多少暴れまわり、それが終わって略奪した物資を積み込み終わり、直ぐに船を出して海に出た。

 そうして奪った物資で多少飲み食いし……そして気がつけば夜になったのだが、

 

「うおおおおお~~~~ん!!!」

 

「……それで……なんでさっきからあんたは泣いてんのよ?」

 

 一応私達も料理や酒に手を出し、この10日ですっかりねぐらになってしまった船倉で、酔うなり泣き始めたカイドウに私はジト目を向けた。

 するとカイドウは酒瓶を傾けごくごくとラッパ飲みすると、目元を手で押さえて涙を止め……止めれてないけど、一応押さえながら、震えた声で話し始めた。

 

「だってよォ……ぬえェ……!! せっかくの戦争だってのに……おれァ全然暴れたりねェんだ……!!」

 

「……えっ、そんな理由?」

 

「しかもおれよりもぬえの方が活躍してやがる……!! これもおれがひとえに弱ェせいだが……おれはそれが情けなくてよォ……!!」

 

「あ、あ~~~……いやでも私はちょっと能力使って爆弾渡してきたり、目を眩ませたりしたくらいで、直接ナイフ使って殺したのは3人だけだから……」

 

「充分じゃねェかよォおおおおお~~~!! おれなんて……何人殺ったかなんざ一々憶えてすらいねェ!!」

 

「いや、そっちの方がいいじゃん……ヒック」

 

「うおおおおお~~~~ん!! おれァ、どうすればいいんだァァ!!?」

 

 あー……もう駄目だ。完全に泣き上戸になってる。これじゃ酔いが醒めるか、別の酒癖が出るまで泣きっぱなしだ。

 ……でもまぁ今は不思議と面倒とは思わない。というか、面白いからいっかな? って気がしている。普段は面白かったとしても面倒臭さが勝ったりしてるのに。なんだろう。やっぱ酔ってるんだろうな、とその感情が浮かび上がった理由を決定付ける。

 

「……あはは! 泣いてる~~~!! カイドウってば泣き虫~~~!

 

「うォおおおおお~~~~~~ん!!! 酷ェ……でもそうだ……おれァこのままじゃ駄目なんだ……!!」

 

「あははははは!! カイドウの方が沢山人殺してるのに、なんで悲しんでるのさ!! むしろ私の方が泣きたいよ!! もっと()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「うぐ……おおおお~~~ん!! なんだそりゃあ……!? 初めて聞くぞ……!!」

 

聞きたい!? というか聞いて!! あいつら……天竜人が子供の奴隷を探してるってことで、今よりもっと幼かった私を捕らえて天竜人に引き渡したのよ!!

 

 ……あれ……? 私……何言ってるんだろ……? 

 なんか滅茶苦茶駄目でヤバいこと言ってる気がするけど……あ~……お酒美味しい~~~天竜人死ねばいいのにな~~~……──

 

逆らったら殺されるのは分かるけど、どうせ黙ってたって分かりゃしないんだから見逃してくれたっていいじゃない!! なのに態々逃げようとした私を捕まえてさ!! おかげで私は何年も拷問三昧よ!!

 

ウオオ~~~!! なんだそりゃあ……!! 酷ェ……!

 

そうでしょ!? 酷すぎるのよ!!

 

うおおお~~~ん!!! かわいそうなぬえ……!! だがそれもおれと同じで、ひとえにてめェが弱ェせいさ……!!

 

「うっさい!! そんなの分かってるのよ!! あの時は弱かったの! 弱すぎたのよ!!」

 

「今もそれほど強くはねェが……」

 

「ふん! これから強くなるからいいもん!!」

 

 ──そう、弱かった。そして、弱いせいだった。

 そういうのが嫌だから強くなろうとしたが、それが出来なくて駄目だった。

 奴隷だった時間はずっと地獄で、何度も天竜人を……いや、世界を呪った。

 あの時のことを考えると未だにどうしようも怒りが湧き上がってくる。頭の血管がブチ切れそうなほどに。

 

「あァァ~~~!! 思い出したらムカついてきたわ!! なんで私があんな目にィィ!!」

 

「うおおお~~~ん!! そりゃあそうさ……!! ぬえが怒るのも当然さ……!! ぶっ殺しちまえよ、()()()()()()……!!」

 

「! そうよ!! 天竜人なんて殺しちゃえばいいのよ!! ついでに海軍も!!

 

「そうだ……!! …………そうさ!! 目障りなもんは全部壊しちまおう!!」

 

「! そうよ!! 楽しむために邪魔なものは全部壊れてしまえばいい!!」

 

 急に泣き止み、怒りの声を上げるカイドウに合わせて私も怒る。どっちが先に怒り始めたかなんて些細でどうでもいいことだ。

 

「そうさ……!! おれァ最強になって最高の戦いがしてェ!! 死のスリルが何よりもゾクゾクするぜ!! それができねェくらいなら何もかも壊しちまいてェくらいさ!!」

 

()()()!! 強ければ強いほど面白いに決まってるもん!! めちゃくちゃ出来るし楽しそうよね!!」

 

「ウォロロロロロ!! 前々から思ってたが、やっぱり話が分かるじゃねェか!! ぬえ!!」

 

「あはははははは!! カイドウもさすがぁ!! めちゃくちゃ矛盾してる~~~!! でも最高~~~!!」

 

 ──もう頭も殆ど回ってないが、楽しいことだけは分かる。お酒も美味いし、話も弾む。気がつけばカイドウも楽しそうだし、私も怒りは一旦鳴りを潜めた。

 

「よっ!! この狂人!! 戦闘馬鹿!! 死にたがり!!」

 

「ウォロロロロ!! そんなに褒めるな!! お前こそ中々に悪ィ性格してるぞ!!」

 

「ああん! 褒めなくてもいいわよ! だって私、大妖怪だからね!! 当然よ!! でもカイドウの無茶苦茶っぷりには負けるわ!! きゃー! その無茶苦茶っぷりで海軍も天竜人もぶっ壊してー!!」

 

「ウォロロロロ!! 任せろォ!! だがお前も手伝えェ!! “海賊”として、めちゃくちゃに暴れてやるのさ!!」

 

「誰に言ってるのよ!! やるに決まってるでしょ!! この大妖怪で大海賊になるぬえ様に任せなさい!!」

 

 お互いに大笑いしながら語り合い、酒をがぶ飲み──そろそろフラフラしてきた。

 だがそのタイミングで、カイドウが床に散らばった酒の中から1つと2つのそれを私達の前に置き、

 

「ウォロロロ!! それなら“盃”を交わすぞ!! 本物の海賊として暴れてやろうぜェ!!」

 

「いいわね!! 望むところよ!!」

 

 と、2人の前に置かれた盃に酒を注ぎ、私達は同時にそれを口をつけ、一気に飲み干す。

 そして再び顔を見合わせると、お互いにニヤリと笑った。

 

「ウォロロロロ……!! これでぬえ!! お前はおれの“供”で“相棒”で“兄妹分”だ!!!」

 

「あははははは……!! “姉弟分“ね!! 分かった! それじゃいつか海賊団を立ち上げたらカイドウが船長ね!! それで私が副船長!!」

 

「ウォロロロロ!! 任せとけ!! 最強の海賊になってやるからよォ!!」

 

「あははははは!! なら私もサポートしてあげるわ!! 最強の海賊の腹心としてね!!」

 

「ウォロロロロロロロロ!!!」

 

「あははははははははは!!!」

 

 ──その馬鹿な笑い声は、最悪の船の底で確かに交わされた……他の誰かにとっては最悪だとしても、私にとっては確かな繋がりの証明だった。

 

 気がつけば、酔い潰れたのか笑い疲れたのか眠たかったのか……はたまたそのどれもか、私もカイドウも……酒瓶が大量に転がる船倉の床で、大の字になって眠っていた。

 

 それは久方ぶりの──心の底から楽しかった時間だった。

 

 

 

 

 

 ──海賊見習いの朝は早い。

 

「……ん……」

 

 朝だ、と船倉でも僅かに漏れる外の光を感じて理解し、少しずつ身を起こす。

 

「ん、ん~~~……! っ──はぁ。もう朝かぁ……って、うわ……」

 

 起きて直ぐに、酒瓶が大量に転がる周りを見てげんなりする。これ、全部私とカイドウが飲んだんだよね……さすがにヤバすぎる。

 呑気にカイドウはぐーすかと寝ているが……まあ、この分だとしばらく起きないだろうし、私が片付けるしかない。

 

「それにしても……なんかいつもよりすっごく身体が軽いわね……?」

 

 目覚めがめちゃくちゃ良いのか、身体が軽い。

 昨日は戦闘があったり、略奪があったり、夜はほぼ一晩中飲み明かしたというのに、疲れが全くないし気分的にもスッキリしているのだ。

 この理由はなんだろう、と首を捻る。何かあったような……ま、いいかな。後でカイドウに聞くか、そのうち思い出すだろうし。

 

「今は酒瓶を片付けて~……──ん?」

 

 カイドウの無駄にでかい身体をまたいで酒瓶を拾っていると、不意に目の前を通り過ぎた赤い飛行物体を見て声を上げる。それは私のよく知る物体だ。

 

「あ──“()()()()()()”。なんであるんだろ。夜のうちに出しちゃったのかな……?」

 

 私はふよふよと浮かぶ、私が生み出したであろう赤一色で僅かに光る未確認飛行物体の1つ──レッドUFOを手を振って軽く消す。

 そして再び仕事を再開。はー、というか私、いつの間にUFOなんて出して……そもそもこれは以前まで出来なかった初めての──

 

「…………あれ?」

 

 ……あれ? と言葉でも心でも同じことを思い、動きが止まる。

 そしてしばらく無言のまま考え込んだ末に、何気なく適当に、

 

「…………レッドUFO」

 

 呟き能力を使う。すると──ブゥン、という特徴的な音と共に、ふよふよと浮かぶ小さな赤いUFOが現れた。

 それは確かに、私の能力で生み出したものに間違いなく、

 

「…………いつの間に、どうやって使えるようになったの……?」

 

 ──困った。全く思い出せない。

 

 ……落ち着こう。昨日の戦闘の時点では全く出来なかった。まずやってないし。

 なら昨日の夜だ、と記憶が曖昧な昨晩の記憶を眉間にシワを寄せて、むむむ、と思い出そうとしてみる。

 すると、めちゃくちゃに怒ったり、カイドウと色々と言い合ったことを思い出し──

 

「…………あー……んー? 怒った時……途中……? それともその前……? ……というか……」

 

 私はそのレッドUFOを生み出せるようになった理由より、大事なことを思い出してしまい、なんと言っていいか分からなくなってしまう。

 でも、妙にすっきりしてる理由はそれかも知れないと、

 

「……ま、いっか……」

 

 どんなことを言ったにせよ、今はまだ、ただの弱い私……封獣ぬえでしかない。

 地道に生き残り、努力して、楽しもうとするしかないのだと、私は呑気に寝ているカイドウとぷかぷかと浮かぶレッドUFOを見て……今だけは、かつての苦しみと恐怖を忘れ、苦笑のため息をついた。

 

 

 

 

 

 ──その場所は、“正義”の二文字を掲げる戦力の最高峰。

 

「──総員、敬礼!!!」

 

 世界の平和と秩序を守る……“正義”の象徴。

 

「──中将!! ()()()()()がお着きに!!」

 

「! そうか……直ぐにここに来るよう伝えてくれ」

 

「はっ!!」

 

 そして……海の秩序を乱す海賊にとって──最大の敵。

 “絶対的正義”の名の下に……彼らはその強大な戦力を容易に、無法者共に向ける。

 

「──遅ェ!! 何をやっていたんだガープ!!」

 

「ぶわっはっはっは……! そう怒るな、()()()()。──あ、せんべい食うか?」

 

「いるかァ!! てめェ……今日こそは──」

 

「やめな! あんた達、こんなとこで喧嘩するんじゃないよ!!」

 

「ぐっ……すまん」

 

「おー、()()()()()()久し振り。せんべい食うか?」

 

「いらないよ……それより、アンタ呼ばれてるよ」

 

「あ? なんでだよ?」

 

「……あんた、聞いてないのかい?」

 

「だから何をだおつるちゃん!?」

 

「……“ロックス”だ、ガープ」

 

「!」

 

 そして今──生み出された“巨悪”に対し、そのための戦力が招集されていた。

 

「……ぶわっはっはっは……ったく、こっちは“あの馬鹿”追っかけるので忙しいってのによ……!」

 

 その場所の名は――“海軍本部”。

 “偉大なる航路”にある島――マリンフォードに居を構え、正義を掲げるもう1つの海の男達……海兵が集う場所。

 

 ──その中で……あの“ロックス”の名を聞いて、不敵に笑う海兵が1人。

 

「ようし……それじゃあ、聞きにいこうじゃねェか……!!」

 

 その男の名は──モンキー・D・ガープ。

 奇しくもロックスと同じ……“D”の名を持つ者。

 この男とロックス。そしてもう1人の“D”の名を持つ男が交わる時──この海は、大きなうねりを巻き起こすことになる。

 




というわけで色々と動き始めました。色々言いたいこともあるんですが、あんまり言い過ぎると楽しみも減りそうだし、態々言わなくても皆さんなら色々読み取ったり予想してくれそうなので自重しておきます。とりあえず、ぬえちゃんに変化がありました。でもまだ吹っ切れてはいません。酔って本音を吐き出した感。
ということでまた次回からは色々と。海軍もそうだけど、ロックス内でも色々とやりつつ、時間がちょいちょい経っていきます。それではお楽しみに

感想、評価、良ければお待ちしております。

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