正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
四皇
──大海賊時代。
史上初めて“海賊王”ゴールド・ロジャーが“
海賊達の数は今なお増加の一途を辿っている。彼らを衝き動かす夢とロマン。冒険と宝の山を夢見て
つまりどんな目的であれ、海賊というのはつまるところエゴの塊。自分の夢や欲望、それを求め生きる信念を自らの海賊旗に掲げて自由に生きる者達である──良くも悪くも。
世界政府はそんな海賊達の台頭を防ぐため、正義の軍隊である“海軍本部”ならびに政府公認の海賊である“王下七武海”によって“
だが彼らが支配し、強い影響を持っているのは主に4つの海と
それこそが
“海軍本部”と“王下七武海”でさえ、“四皇”の前ではその恐ろしさを霞ませる。
何しろ四皇の一勢力とその二つの勢力が互角。均衡が保てているのは、四皇同士が敵対関係にあるからである。
それでも“新世界”では海軍本部も王下七武海も幅を利かせることは出来ていない。新世界は四皇の統べる海だ。世界政府に加盟する国家でさえ、四皇のいずれかの旗を掲げ、庇護を得るのが普通である。その二重支配の構造も認めざるを得ないのが実情であった。
だが海軍本部も王下七武海も新世界では影響力が薄いとはいえ、そこが海賊にとっての天国であるとは限らない。むしろ、大多数の者達にとっては真逆。
新世界にやってきた海賊達の大半は全てを失い、仮に命を拾ってもすぐにこう叫ぶ──おれ達は“楽園”に帰るんだ!
“楽園”とは“
何しろ“楽園”には“新世界”の様にメチャクチャな気候や島は存在しないし、何より“四皇”がいない。
そう、新世界は四皇を始めとする本物の海賊達による覇権争いが行われる海。その戦いには法も仁義も存在しない。負ければ全てを失い屍を晒すだけ。
ゆえに弱者が新世界で生き残る方法はたった一つ──四皇の支配を受け入れることだ。
そのため新世界に入った新顔の海賊達はいずれかの四皇に挨拶に行き、傘下に入ってその庇護を得ることから始まる。
それをせずに四皇を切り崩そうとする海賊はほんの一握りである。本物の強者である彼らは頭を使い、あるいは結託し、四皇の一勢力のいずれかに挑んでみせるのだ。
「──本気ですかお頭!! 四皇を……しかもあの百獣海賊団を相手にするなんて……!!」
「ビビってんじゃねェ!! 四皇とはいえ相手は人間だ!! 心臓か頭を撃ち抜いて死なねェ人間はいねェ!! こっそり領海に忍び込んで暗殺すれば一発よ!!」
「なるほど……!!」
そして──新世界にやってきて四皇に挑もうという海賊は誰もが自分の実力に自信を持つ危険な連中ばかりである。
「確かに領海に入り込んだって言っても陸にさえ上がらなきゃ割と安全っすね」
「おうよ。それに部下くらいなら潰しちまえばいい。奇襲を掛けて情報を聞き出せば頭の居場所くらいすぐに聞き出せるだろ……あ?」
「あれ……? あの空に浮かんでるのってもしかして……UFO!!?」
──だが、彼らは気づかない。自分達が井の中の蛙であることを。
「ま、マジか……新世界は常識が通用しねェとは言うが、UFOにまで出くわすとはな……!!」
「本当ですね……ん? あれ? でもあのUFOこっちに向かって来てません?」
「おお。確かにこっちに……──!!?」
──“四皇”は皆規格外の怪物で、通常の人間とは別次元の生き物であることを。
「うあああ~~~!!?」
「撃ってきやがった!!」
「船がやべェぞ!!」
「くっ……慌てるな!! たかがUFOの一つや二つ、撃ち落としちまえば──」
──今までの海賊とは規模の違う巨大な組織。強大な戦力。層の厚さ。個人の戦闘力。
どれを取っても、自分達では到底敵わない。それが“四皇”であると。
「ゆ、UFOが……どんどん集まって……!!」
「お、お頭!! 東から船が!! 百獣海賊団です!!」
「なっ……!!」
「船長!! 奴等大砲を……!! なんであの距離で届くんだ……!!?」
「UFOも砲撃も止められねェ!!」
ただの一海賊団が四皇に挑んだところで、船長の顔どころか幹部の顔すら拝めないで終わることもある。
特にそのとある海賊団が挑んだ相手──百獣海賊団は、四皇随一の武闘派、凶悪さで知られていた。
「くそっ!! やめろ!! 仲間を殺すな!!」
「助けてくれェ~~~!!」
「こんなとこで死んじまうのかよ、おれ達……!!」
「やっぱり四皇に挑むのなんて間違いだったんだ……!!」
だが彼らもまた、勢力の拡大を図る四皇の一角。
特に強い海賊の勧誘に力を入れている彼らは潰す前に必ず告げるのだ。
──部下になるか否か。
──拒否するならそのまま殺す。あるいは捕まえ拷問する。
支配を受け入れるか、受け入れずに地獄を見るか。
骨のない者であればすぐに諦め、支配を受け入れるだろう。
だが骨のある者であれば、仲間になるまで地獄を見ることになる。
四皇の中でも挑んできた相手に最も厳しく、しかし部下になることを受け入れた強者はどんな相手であろうと受け入れる。
それが最強生物と称される四皇、“百獣のカイドウ”のやり方だった。
──“ワノ国”。
そこはかつて黄金の国と呼ばれていた世界政府非加盟の国。
自然の要害と侍達の強さによって鎖国を敷いてきた自然豊かな国。それがワノ国だった。
だが今、そのワノ国は様変わりしている。
各郷の大部分は荒野となり、武器工場が建てられている。
各郷の下々民は皆貧乏であり、常に腹を空かせ、明日を生きられるかも分からない状態が続いている。
「腹ァ減ったなァ……」
「んなわかりきったこと言うな……さっさと働くぞ。働かなきゃ死んじまう」
武器工場や農園、採掘場で働く各郷の住民達は、その生活に必要な物全てをワノ国の将軍“黒炭オロチ”率いる黒炭家と、国を守る“明王”と称される“百獣のカイドウ”及び百獣海賊団に支配されていた。
彼らのために働かなければ食い物は手に入らない。少しでも反抗的な態度を見せれば見せしめに拷問か処刑される。何か策を試みて反抗を企てる者も居ないことはない。だが、そういった者達は常に空を見上げるのだ。
「!! お頭、UFOだ!!」
「早く武器をしまって身を隠すど!! 林の中に!!」
オロチとカイドウに逆らい、農園の食料などを盗んで生活するような盗賊はワノ国の上空と近海を飛ぶ空飛ぶ円盤──UFOを常に注意する。
カイドウとオロチが光月おでんを始めとする各大名を潰し、ワノ国の支配が盤石になった4年前から、そのUFOは見られるようになっていた。
赤、青、緑──それらのUFOは異常を検知すると襲いかかってくる。その法則はワノ国の住民には未だ解明出来ていないものだが、オロチとカイドウの配下以外の者達。それも支配を受け入れない反抗的な者だけを狙い撃ちにしてくるという。
ゆえに盗賊は空を見上げる。そしてUFOを見つければすぐに刀を隠し、身を隠す。その場から一目散に逃げる。UFOを撃ち落とすことも出来るが、そうするとUFOを撃ち落とした場所に百獣海賊団の幹部──“真打ち”が大勢の兵隊を引き連れてその場に現れる。そしてUFOを撃ち落とした者を捜索し、見つければそれを捕らえようとするのだ。
ゆえにそのUFOは支配を拒む者達にとってはこれ以上ないほどに厄介な代物だ。さすがにワノ国全域を全てカバーするほどではないが、UFOは常に巡回しているのかどこにでも現れるとされている。
今のワノ国でUFOは珍しいものではなかった。それはオロチの庭とも言えるワノ国の首都──“花の都”でもそうだった。
「今日はUFOが少ないねぇ」
「知らないのか? 今日は宴会だよ。何でもUFOは国を守るために海外に出払ってるんだとさ」
「正体不明の~~~エイリアン!!」
「あ~~!? ストラップだ!! いいなぁ! 羨ましい~~~!!」
「ははは!! 今日は飲むぞ!!」
「幾らでも飲んでも良いんだとさ!!」
「鬼ヶ島では今日公演があるんだってね!!」
「いいなぁ~、私も城の女中になるか花魁になるかしたら見に行けるのかな」
「もしくは百獣海賊団に入るとかね!!」
花の都は他の郷とは違い、富に溢れている。
食べる物にも困らない。生活にも困らない。娯楽に興じる余裕すらある裕福な都。
彼らの殆どはオロチとカイドウの支持者でもある。それは寺小屋での思想教育や幾つかの工作、プロパガンダによるものでもあったが、花の都が富んでいることは事実。生活に困らず、良い思いが出来ている彼らにオロチやカイドウを恨む必要はない。そもそも民衆は支配者に逆らえるような気概はなく、仮に何かがあっても仕方ないで済まされる。文句は言っても行動は起こさない。
それが出来る侍はオロチやカイドウに反感を持っていても思想はバラバラだ。何しろ反乱の旗印であった故人、光月おでんの評価がそもそも賛否両論。民衆からの評価はないに等しいのだ。
侍は光月おでんを支持する者が多かったが、その彼らでも思うところがないとは言い切れない。そもそもおでんも赤鞘の侍達も誰もいないのに反抗することは出来ない。
そしてこれから侍になる若者達は皆オロチやカイドウにつく。役人になって見廻組やお庭番衆になるのが今のワノ国の子供達の主な夢だ。中には海賊と言い出す者もいるが、ワノ国では国を出ることは犯罪である。通常はそれを認められていないため、なることは難しかった。
そしてそんなカイドウとオロチ。ワノ国を支配する二大巨頭はワノ国、“兎丼”の沖にある島──“鬼ヶ島”にいた。
──“鬼ヶ島”。
鬼ヶ島は鬼の形をした巨大な岩山、洞窟があるワノ国の無人島であったが、今は無人ではない。
そこは今や四皇の一角、百獣海賊団の本拠地である。
「ギャハハハハ!! 今日も酒が美味ェ!!」
「飯もだ!! ワハハハ!! 百獣海賊団最高!!」
鬼ヶ島の目の前、海に建てられた巨大な鳥居を抜け、外の海から入ることの出来る鬼ヶ島内部の湖に入れば、そこは港でもあり、鬼ヶ島の玄関口。
ワノ国の腕の良い職人達が造った意匠を凝らした建造物の数々。そこは既にカイドウの屋敷であった。
洞窟内部に続く長い階段を登ればそこは洞窟内部。巨大な屋敷……城の中だ。
その城では現在、外と同じ様に宴会が開かれていた。
百獣海賊団の構成員1万人に加えて黒炭オロチ配下の侍達1万人も優に収納出来る広間では大量の料理と酒が並べられ、陽気な音楽が奏でられていた。
そして何層にも重なる階層の最上段。そこでは巨漢の男がバックダンサーを並べて歌い、踊っていた。
「丸く見えるが筋肉だから♫ 歌って踊れるタイプの~~~~~♫」
『FUNK!!!』
「ウオオオ~~~!!! QUEEN~~~~!!!」
「QUEEN様~~~♡」
「OK百獣海賊団~~~!!! これでおれのステージは終わりだァ!!!」
マイクを手に歌い踊るその男は丸々太った8メートルを超える巨漢。
『百獣海賊団大看板 ブラキオサウルス号船長 “疫災のクイーン” 懸賞金10億2000万ベリー』
百獣海賊団でもたった3人しかいない最高幹部、“大看板”の1人であるクイーンだった。
百獣海賊団で行われる宴会の幹事や盛り上げ役を務める彼は新世界でも知らぬ者はいない10億超えの大海賊。兎丼にある囚人採掘場の元締めでもある。
その公演は百獣海賊団の船員達には大人気であり、彼の歌と踊り、コール&レスポンスで宴会を始めるのが百獣海賊団のお決まりだ。
だが中にはそれに応えない生意気な幹部や、その幹部を恐れない奴も存在する。
「……おい。終わったぞ姉貴。そろそろ起きとけよ」
『百獣海賊団“真打ち” ページワン』
白黒の帽子に角を生やした黒いマスクの男──ページワン。
まだまだ子供といった年齢でありながら百獣海賊団の中でも見習いではなく戦闘員として扱われている彼はそれに相応しい鋭い目で隣の少女に声を掛ける。するとその少女は起き上がった。
「ん……ふわぁ……やっとクイーンのつまらない歌が終わったでザマスか?」
「つまらないとか言うのやめとけよ!! その変な語尾もな!!」
「ぺーたんは心配性でザマスねェ。それより早く勉強するザマスよ」
「宿題ならもう終わったからその口調やめてくれ!!」
『百獣海賊団“真打ち” うるティ』
口元に可愛らしいデザインのマスク。2本の角を頭に生やした少女──うるティ。
彼女もまた子供ながらに百獣海賊団で教育されており、そこらの戦闘員よりも強い子供だ。目元を手で擦って欠伸するような仕草をしながら起き上がる。すると今度はそれを見下ろして煙管を吹いた巨大な美女が声を発した。
それは幹部達の中でも上位の連中。現在は4人しかいないが、真打ち最強の6人である“飛び六胞”に属する者達だ。
「うるちゃんも成長してもっと可愛くなってきたわね♡」
「あァ!!? 誰が可愛いだとォ!!?」
「落ち着け姉貴!! よく聞いてみろ!! そこは噛みつくところじゃない!!」
「あっ、そうでザマスね」
「噛みつくところはいつもと変わらないわね」
『百獣海賊団“飛び六胞” ブラックマリア 懸賞金2億1200万ベリー』
花魁姿の巨大な美女……実年齢においては少女だが、大きい彼女はやはり2本の角が生えている──ブラックマリア。
その3人の会話に、また別の角度から声を掛ける者がいる。
「それよりだ。ちゃんと仕事は片付けて来たんだろうな?」
「終わってるわよ」
「そうか。まあお前らが仕事をしくじろうがどうだって良いけどな!! おれの仕事にも影響が出ちまう場合もある。気をつけて貰わないとな……ぺーたんも、おれに迷惑は掛けるんじゃねェぞ?」
「あァ!!? ぺーたんって呼ぶな!!」
『百獣海賊団“飛び六胞” ササキ 懸賞金3億4400万ベリー』
バンカラ風の衣服に帽子。帽子からは角。下駄を履いており、鋭い牙のような歯が特徴的な男──ササキ。
彼は他の連中に仕事の進捗を確認した。だがそれを快く思わない者もいた。
「──おいササキ。何でてめェが仕切ってんだ」
「そりゃ当然だろ。……言わなきゃ分かんねェか?」
「力関係も理解できねェか新入り。立場としては同格だが実力は同じじゃねェぞ」
「そりゃあそうだな!! だがどっちが上かは分かりきってると思うけどな」
「ああ、直に分かるだろう。その時を首を洗って待ってるんだな……」
『百獣海賊団“飛び六胞” フーズ・フー 懸賞金4億2800万ベリー』
二本角がついた顔の半分を隠すメットを被った剣士らしき男──フーズ・フー。
彼はササキが場を仕切ったのが気に入らなかったのか、鋭い声をササキに向け、ササキも言い返す。元々は海賊団の船長であり、上昇志向の強い2人は仲間ではあるが昇進を掛けて争うライバルでもある。だが言い合っていても空気は悪くない。これくらいは百獣海賊団ではいつものこと。自分の強さに自信がある者達、我の強い者達が多少言い合うのは仕方のないことでもある。
そしてその上昇志向の高さは飛び六胞全員に言えることであり、百獣海賊団全体に言えることだが、百獣海賊団は完全な実力主義。古参の船員だからといって立場が高いことはない。実力の高い者がより上の地位につく。新人だろうが女だろうが子供だろうが関係ない。飛び六胞であるこの場の3人とここにいない残り1人は大看板を除く百獣海賊団の幹部の中で最も強い4人であり、残り2人も空席状態の飛び六胞の候補でもある。
宴会の中でありながらバチバチにやりあうフーズ・フー。しかしそこであることに気づいて別の者に声を掛ける。席から少し離れた場所に座る別の幹部だ。
「そういえば“ジャック”はどうした。──おいドゥラーク」
「──何かしら」
『百獣海賊団考古学者“真打ち” ドゥラーク 懸賞金8000万ベリー』
白いコートを身に着け、顔の半分を隠す角の生えた仮面を被る美女の名はドゥラーク。
百獣海賊団の考古学者でもある真打ちであった。彼女はフーズ・フーの問いかけを耳にすると静かに傾けていたグラスを置いてバーカウンターのような席から飛び六胞の方に向き直った。フーズ・フーがもう一度問いかける。
「ジャックはどこにいる。お前知らねェのか?」
「……さぁ、私は知らないわ」
「相変わらず素っ気ねェ女だな!! おいドゥラーク、そういやてめェの仕事は終わったのか?」
「終わったわよ。つまらない作業だったわ」
ササキが悪い笑みで答えに満足する。よく見ればドゥラークが飲んでいるのはワインだった。だがその言葉にはササキは険しい顔を向ける。
「つまらない?」
「……ごめんなさい。失言だったわ」
「…………口には気をつけろよ。それとてめェも海賊なんだ。仕事はきっちりこなせ」
「そうでザマスよドゥラーク。ちゃんとやらないとダメでザマス。カイドウ様やぬえ様の為にも」
「ああ、そうだ。仕事はきっちりこなせ。じゃねェとおれ達が代わりに始末をつけることになる」
「まあそれでも構わないけど」
ページワンを除く面々が順番にドゥラークに注意する。仕事の話だった。ドゥラークは前々からよく飛び六胞から仕事を頼まれることもあり、関わりは普通の幹部よりも多い。そもそも考古学者として勧誘された彼女はある意味特別であり、見ようによっては最重要とも言える幹部である。飛び六胞でも容易に手を出していい存在ではない。
だが立場上では飛び六胞の方が上だし、そもそも彼らの我の強さはたとえ立場が上の相手であっても衰えることはない。例外はトップの2人だけだ。
「──あら、今日も賑やかにやってるみたいね」
「!」
そんな時だ。その場にカツカツと靴音を響かせて現れる者がいた。
白と赤が基調のドレスにガーターベルトを身に着け、白い帽子を被り、肩には赤い上着を掛け、赤い傘を持ったその美女に飛び六胞もドゥラークも皆目を向ける。
『百獣海賊団大看板 バンパイア号船長 “戦災のジョーカー” 懸賞金9億4000万ベリー』
「ジョーカー……!」
「お前も戻って来てるのか」
「久し振りでザマスね!!」
「確かにお久しぶりね。皆相変わらずのようだけど」
百獣海賊団の大看板の1人であるジョーカー。
彼女は大看板の1人だが、その役割もあってワノ国や海賊団から離れている時も多い。ゆえに飛び六胞の面々も一年に一回会うくらいでそれ以外では滅多に顔を合わせない相手だった。
「おいジョーカー。ジャックがいねェのはどういう理由だ? あいつは今日仕事はなかった筈だが」
「フフフ、ジャックはライブの方ね。多分裏方でもやらされてるんじゃないかしら」
「……ライブの裏方だと……?」
「地味に羨ましいでザマス!!」
「──って、よく考えたらそろそろ始まるってことか」
『あっ』
ページワンの一言で飛び六胞の面々が間の抜けた声を上げる。仕事の話やらなんやらで忘れかけていたが、クイーンのライブが終わったということは、次のプログラムはいつものだと──
『──さあ、一年に一度の金色神楽~~~!!! 待たせたな野郎共!! 大トリを飾るのは今年もあの人だぜ!! 騒いで登場を盛り上げろ~~~~!!』
『オオオオオオ~~~~!!!』
「あっ、やべェ!! 姉貴!! 呼びかけに備えねェと──って、もういねェ!?」
「もうそんな時間か……しょうがねェ」
「乗らねェと露骨に不貞腐れるんだよなあの人……」
進行も務めるクイーンのマイク越しの声と広場にいる船員達が声を張り上げる。それを聞いてページワンやフーズ・フー、ササキもまたそれに構える。特にページワンは棒を取り出してそれに備えた。見ればうるティなどはさっさと広場に出ていってしまっている。
そうして鳴り響くのは──まず楽器の音。ワノ国特有の三味線や琵琶の音、それと一緒にキーボードやドラム、ギターの音まで鳴り響く。
ステージには先程まで踊っていたクイーンの部下のバックダンサー達の第二陣とワノ国の住民と思わしき着物を着た女達。扇子を手にステージに出てくる彼女達もバックダンサーだ。
広場の明かりが消えて暗くなり、スポットライトが広場の一点を指し示す。そして同時に少女の声が聞こえた。
「──立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花……歌えば天使、殺せば悪魔、飛んで現れる正体不明の可愛い私♫ その名は~~~~~~?」
天井近くに幾つものUFO。それも虹色のそれがスポットライトの様に音楽に合わせて点滅し、広場をチカチカと動いて照らす。
そして観客に呼びかけるその声を出すのは同じく空を飛ぶ白い光だった。誰かは分からないそれはステージにまで行くと、スタイル抜群の美女のシルエットの姿で現れ、次に観客のレスポンスに合わせてその名を現す。
『ぬえちゃ~~~~~~~~~ん!!!』
「そう!! この私!! 新世界一のアイドル!!! 封獣ぬえちゃ~~~~ん♡ IN!! 鬼ヶ島~~~~~~~~!!!」
『ウオオオオオ~~~!!!』
『キャ~~~~~~♡ ぬえ様~~~~♡』
「イェ~イ♫ 私が現れたからには今日も、そして次の年も最高に殺伐に盛り上がっていくしかな~~~~~~~い!!! 皆覚悟しなさ~~~~い♡」
『百獣海賊団副総督(大トリ) “妖獣のぬえ” 懸賞金23億8010万ベリー』
ステージ上に片膝を折って上げるアイドルのようなポーズと愛嬌たっぷりの笑顔で現れたのは、どの生き物とも知れない不可思議な赤と青の羽に、三叉槍の石突にマイクを括り付けた黒髪の美少女。四皇の一角、百獣海賊団の副船長に当たる副総督。四皇カイドウの兄妹分でもある大海賊、ぬえだった。
その登場に先程のクイーンのライブで盛り上がっていた会場が更に熱狂する。大看板であるクイーンもまた、彼女の前では盛り上げ役。会場を事前に温める前座でしかなく、その人気ぶりは先程は全く反応していなかった一部の飛び六胞ですら立ち上がり、他の下っ端と同じ様に事前に配られたサイリウムを振ったり、手拍子をしたり、レスポンスを返したりするレベルだった。
「合計2万人の百獣海賊団と黒炭家の皆~~~!!! 私のライブで楽しんでいってね~~~!! さあ声出して~~~!! 手叩いて~~~!! せーの──ハイハイハイハイ♫」
「キャ~~~♡ ぬえ様ざます~~~!! ぬえ様最高~~~~~♡」
「ハイハイハイハイ!!」
「……姉のお守りが大変そうだな、ぺーたんは」
「うるさいほっとけ!! やんなきゃ姉貴に後でシバかれんだから今は話しかけるな!!」
「…………」
「あら、耳障りとは言わないの?」
「バカ言うな……あの人地獄耳なんだからそんなこと言ったらおれが殺されんだろ……」
うるティとページワンが──ページワンはノリが悪いと姉がキレるのでササキにからかわれながらも仕方なくレスポンスを返す。声を上げて騒ぐタイプではないフーズ・フーですらそれには何も言えず、ブラックマリアの冗談にも軽く汗を掻きながら答える。
そして最後の1人の飛び六胞は──舞台裏にいた。
「CLAP!! CLAP!! 同じ鬼なら叩かなきゃ損損♫」
『DANCE!! DANCE!!』
『CUTE&UNKNOWN~~~~!!』
「……問題はねェみたいだな……」
顔の下半分を鉄仮面で覆ったガタイの良い少年。彼はその舞台の裏から機材や大道具、小物などが問題ないことに内心息をついた。
彼は今日のステージのセッティング、裏方という名の雑用に運悪く駆り出されてしまった百獣海賊団の幹部である。しかもただの幹部ではなく、飛び六胞の1人だ。
『百獣海賊団“飛び六胞” ジャック 懸賞金2億ベリー』
「…………」
「! どこに行かれるので? ジャック様」
「……カイドウさんへ挨拶しに行く。ライブが終われば兄御達や姉御達も集まるだろう」
「!!」
ジャックが去り際に発した言葉に部下は息を呑む。ジャックの言う兄御や姉御というのは大看板の3人と今ステージに出ているぬえのことだ。
加えてジャックや他の飛び六胞も集まる。それは滅多にないことだ。
四皇のひとつに数えられる百獣海賊団は新世界に広大なナワバリを持つ。ワノ国を始めとし、それらを支配し、シノギを行ったり、アガリを徴収したり、ナワバリに侵入する海賊を始末して勧誘したりと百獣海賊団の幹部“真打ち”ともなれば何かしらの仕事は任されている。真打ちの中で最強の6人──飛び六胞ともなれば当然重要な仕事を任される。そのため全員が集結することは少ないし、何より今は4人しかいない。
だが一年に一度の火祭りの日。金色神楽が行われる百獣海賊団の本拠地、鬼ヶ島では大看板も飛び六胞も全員帰ってくる。
それはつまり──百獣海賊団の大戦力、その全てが集結することに他ならなかった。
屋敷の中にあるとある部屋はこの国を守る明王に謁見するための神殿の様な様相と化している。
柵で仕切られた台座の上。注連縄で周囲を囲っているその場所に座ることが出来るのは1人、あるいはもう1人しかいない。
「…………あァ~~~~……」
巨大な瓢箪を呷り、酒を飲むその男を称する言葉は幾つもある。
曰く──存在することそのものが恐ろしい男。
曰く──殺しても死なない不死身の男。
曰く──この世における最強生物。
一対一で戦うなら四皇最強とも称される10メートル近い巨漢の男。その名は、
『“四皇”百獣海賊団総督“百獣のカイドウ” 懸賞金36億1110万ベリー』
「──おう、ジョーカーにお前らも……よく帰ってきたな……!!」
「ええ。ライブも終わったので直に全員集合する筈です。ジャックも──今来たみたいね」
背後に飛び六胞とぬえの身の回りの世話をしている子供2人を連れてやってきた大看板のジョーカーがカイドウの座る上座の前まで行き、横の扉を見て告げる。するとちょうど飛び六胞の1人、ジャックがやってきた。
「おう、ジャック。またぬえの奴に連れ回されてたのか?」
「ええまァ……」
「あァ!!? なんて羨ましいことをジャック!! てめェシバキ殺すぞ!!」
「うるせェ。てめェがおれをやれる訳ねェだろう、うるティ……!!」
「やれる訳ねェだとォ!!?」
「やめとけよ姉貴!!」
ジャックがぬえに連れ回されてたと知って噛みつくうるティにジャックが子供とは思えない威圧感で言い返す。
するとうるティが巨大な獣型に変型し、ジャックもそれに合わせて変型をして睨み合った。ページワンの注意にも聞く耳を持たない。
「──やめろお前ら」
だがまた別の場所から注意する声が響く。その声にジャックははっとして人型に戻る。うるティもそれを見て変型から戻った。
「キングの兄御……」
やってきた男はカイドウに次ぐ巨漢だった。全身黒尽くめの衣装。背中に黒い翼と炎を持つ剣士である大看板の1人。
『百獣海賊団大看板 プテラノドン号船長 “火災のキング” 懸賞金12億3000万ベリー』
「あらキング、久し振り」
「ジョーカー。お前は何黙って見てやがる。ガキ共の注意を一々おれにやらせるな」
「フフ、見てて面白いものだから。ごめんなさい」
ジャックとうるティに注意したキングはそのままジョーカーにも一言注意をする。悪びれる様子もないジョーカーは薄く微笑んだだけで反省の色は見えない。だがキングもそれ以上茶々を入れることはなく、カイドウの横に並んだ。そしてカイドウに報告をする。
「それとだカイドウさん。この間ウチのナワバリに入った海賊団が降伏してウチの傘下に入りてェと報告が入った」
「おう、遂に折れたか。適当に島の守護でもやらせとけ……あ~~~……なんて名前だった?」
「アイアンボーイ“スコッチ”。懸賞金7700万の海賊ね。この間、酔った勢いで自ら潰しに行ってたでしょう?」
「──ああ、そうだったか」
「フフ、全滅させといて忘れるなんて酷い人ね」
「雑魚の顔は覚えにくい……」
「わかるでザマス!! 私もこの間潰した海賊の顔を忘れて、ついでに報告も忘れてたでザマス!!」
「おい!!!」
報告忘れといううるティのカミングアウトにページワンが何してんだという意味の声を上げる。だがそれらのやり取りを無視して、フーズ・フーはカイドウに話しかけた。
「それよりカイドウさん。あの話は?」
「ああ……4人目の大看板か。まだ決まってねェな。おれは誰か入れても構わねェんだが、ぬえの奴が実力が足りてねェってよ。誰か昇格したきゃぬえに言え。昇格試験をクリアすりゃ問題ねェそうだ」
「やっぱりまだそれか……」
「ぬえさんの昇格試験か……」
「…………」
フーズ・フーとササキがその話を聞いて思案顔になる。彼らは元々、別の海賊団の船長であり、カイドウのスカウトによって百獣海賊団に入った外様の海賊である。それだけに、より上の立場である大看板の座を狙っていた。自分の実力に自信がある彼らにとって、実力で上にいける百獣海賊団という組織は悪い場所ではない。
すぐにでも大看板になれるならなりたいと思う2人だが、ぬえの昇格試験と聞くと躊躇せざるを得ない。ただでさえぬえの特訓や修行は死にかねないものが多く、受けるには覚悟がいる。それこそ、現大看板に勝てる程の実力をつけてからでないと厳しいだろうと。
口には出さないがジャックなども大看板を目指し、そのことを考える者の1人だ。だが彼の場合は物心ついてすぐに百獣海賊団に入った生え抜きであり、大看板の兄御、姉御らの恐ろしさと強さをよく知っているため、大看板に昇格するにはまだ早いと思っている。
だが同時に次の大看板は自分だとも思っている。ジャックは大看板以上の者達には決して逆らわないが、敵であれば誰に対しても挑んでいくイカれた少年であり、かなりの命知らずでもあった。
だがその任務遂行のためのがむしゃらさ、ある種の真面目さを評価されてもいた。──まあ自分の実力を信じ切って格上だろうが無茶な任務にも挑むため失敗も多く、それゆえに大看板のキングやクイーン達からは“ズッコケジャック”とからかわれてもいる。そして子供の時からそうやって怒られているため、怒られると未だに萎縮してしまうのだ。ジャックの残忍さ、凶悪性を知る部下からすると意外に思えるかもしれないが、それ以上に恐ろしく強い百獣海賊団の最高幹部陣には頭が上がらないのも必然であった。
そうして3人が大看板への昇格について考えていると、また入り口から入ってくる影が二つあった。しかもその一つは今まさに話に出ていた人物であり、
「──あれ? 誰も受けないの? 皆結構慎重派だね!!」
「ムハハ、そりゃ合格する実力がねェって自覚してるからだな!!」
「ぬえさん……」
「あァ!? 何だとクイーン……!!」
ライブが終わり、やってきたのは百獣海賊団の副総督であるぬえと、大看板のクイーン。ぬえの登場とその発言には飛び六胞の野心ある2人も文句を言うことは出来ないが、クイーンに対しては食って掛かった。
クイーンはそのままカイドウの隣、しかしキングとは反対側まで移動して向き直り、ぬえは空中を浮遊した状態でカイドウの座する上座の柵。その上に座る。
だがぬえの姿に他の者達は注目した。何故ならいつもと違い──身長も高くスタイル抜群の大人の美女の姿だったから。
「おい、ぬえ。お前いつまでその姿のままでいるつもりだ?」
「え? ──あっ、ごめんごめん。私の最強に可愛い美少女姿を隠しちゃってさ。──はい」
カイドウの問いかけでぬえがそれに気づき、能力を解除したのか、幻の様に歪んだぬえの姿が小柄な美少女の姿に戻る。そして軽く腕を伸ばし、
「ん~~~!! やっぱ本物の姿の方が可愛いし、皆も助かるよね!! 可愛い方が癒やされるだろうし!!」
「当然ザマス~~♡ 本物の姿の方が美少女ザマスよ!!」
「いつ見ても可愛くていいと思います♡」
「フフ、良い女っぷりに磨きがかかってるわね♡」
「え~~~♡ 照れる~~~♡ いやぁ、それほどでもないけど……そりゃ世界一可愛いとは思うけどさ~~~♡ あ、せっかくだからサインあげるね♡」
「キャ──♡ ぬえ様のサイン!! もう18枚目になるけど嬉しいでザマス!!」
「18枚も貰って嬉しいのか……?」
どこから取り出したのかぬえが色紙やペンを手にサインを書き始め、うるティが喜ぶ姿を見てページワンが小声でツッコミを入れる。というか、ぬえを褒めてぬえの本当の姿に黄色い声を上げているのは女性陣だけで、男性陣は微妙な表情のままそのやり取りを見るしかなかった。別に可愛くないとも言わないのだが、ぬえが能力で変化した大人の姿と普段の姿、どちらが良い女かと言われると口を噤まざるを得ない。まあどちらにせよ、元々アイドルにどうこうするような質ではないのだが、ちょっぴりツッコミたくなる気持ちを誰もが抑えていた。実際人気があるにはあるのだが、いわゆるファンの間ではたまにライブで出す大人の姿の方が……という層もいる。しかし彼らは割と邪道扱いされており、こっそりとその思いを抱えたまま同好の士とだけその思いを共有しているらしい。そんな情報はあるが、どうでもいいことだった。うるティなどは王道のファンであるため、大人の姿の方が人気が出るんじゃと言った部下やページワンはシバかれたことがある。もっと言うとぬえに聞かれるとマズいため、そういう趣旨の発言をしないというのは暗黙の了解でもある。この状況にツッコめるのはカイドウくらいだ。カイドウもその活動やぬえの容姿について何か言うこともないが、言いたいことを止めることもない。酒を呷った後に、
「おう、そういやお前らに話してェことがある」
「今サイン貰ってんだから後にしろよ!!」
「優先順位って知ってるか姉貴!!!」
「まァそのままでいいから聞け。近頃ウチのナワバリも含め新世界で暴れてる連中がいるだろう。その話だ」
カイドウにすら噛みつくうるティにページワンが必死にツッコむが、カイドウはそれをあっさりと流して話を続けた。
だが飛び六胞の面々も新世界で暴れている連中と聞けばある程度想像はつく。この四皇が統べる海、新世界で最近入ってきて名を上げるルーキーなどかなり絞られる。大半は無様に逃げ帰るか死ぬか、どこかの傘下につくものだ。支配を拒み、四皇のどの旗も掲げずに新世界を渡り歩く者。その中で最も有名な海賊といえば。
「──“赤髪のシャンクス”とかいうルーキーのことだ」
「! 赤髪海賊団……」
「中々手強いと聞きますが……もしかしてそれを潰せとのご命令で?」
“赤髪”と聞いて誰もがその左目に3本の傷がある男を思い浮かべる。
“赤髪のシャンクス”。近年、急速に名を揚げはじめた赤髪海賊団の船長であり、あの王下七武海の1人“鷹の目”ジュラキュール・ミホークとの決闘により新世界を騒がせている海賊だ。
百獣海賊団のナワバリにも侵入したことがあるため、ブラックマリアはもしかしてそれを始末しろと任務が下されるのかと聞いてみたが、そうではなかった。
「そうじゃねェ。逆だ。
「!! それは……」
カイドウの発言にその場の面々は意外そうに驚く。逆らう奴は容赦なく叩き潰し、骨があればそのまま勧誘するカイドウが手を出すなと言う。それはよっぽどのことだった。
「……赤髪を潰しちゃならねェ理由が?」
「いや、おれもさっさと潰して引き入れてやろうかと思ってたが……とある情報を耳にしてな。──ジョーカー、教えてやれ」
「ええ」
フーズ・フーの質問にカイドウがその理由となる情報を言えとジョーカーに告げる。ジョーカーは政府の諜報員でもあり、百獣海賊団の情報面を担っている存在でもあった。ゆえにその調べ上げた情報を微笑を携えて披露する。
「赤髪のシャンクスは……元ロジャー海賊団の
「!!?」
ロジャー、という名前を知らない者はいない。だからこそそれを初めて聞いた者達が絶句した。
海賊王ゴールド・ロジャーの名はもはや知らない者の方がおかしい。大海賊時代の切っ掛けとなった男だ。
かつては百獣海賊団にも土をつけた伝説の海賊。ロジャー海賊団といえば少数精鋭ながらも屈強な船乗りが揃った、やはり伝説の一味だ。
赤髪がその一員であったという。それを聞いてフーズ・フーらは納得した。元ロジャー海賊団であるならば、あの“鷹の目”との決闘も、近年の新世界での活躍ぶりも納得がいく。確かに警戒が必要な相手であった。
「まあ見習いだったけどね~。でも見習い時代もそこそこやれたし、今はもっと強い。だから手を出すにしても大看板くらいの戦力じゃないとちょっと危ないかなーって。だから皆気をつけてね!!」
「そういうことだ。ぬえは覚えてるみてェでな。確かに、言われてみればロジャーの船には赤い髪のガキがいた……赤い鼻のガキもいた気がするが……」
「……つまり、おれ達じゃ手に負えねェと?」
「あァ!!? 何だとォ!! 出来らァ!!」
「おいよせ姉貴!!」
ぬえとカイドウの発言にササキが手に負えないのかと冷静に質問をすれば、うるティが噛みついてページワンがそれを止める。そして補足としてキングが腕を組みながら続けた。
「ウチのナワバリの警戒網も突破されてる。もし見つけたら手を出さずに報告しろ。そしたらおれ達の誰かが向かう」
「あ、そういえばライブのために一部海域のUFOを撤退させたの忘れてた。てへっ♡」
「え~~~!!? 何やってくれてんだぬえさん!!! てへじゃねェよ!!!」
「原因不明かと思ってたのに一瞬で理由が解明したわね……」
ぬえの突然のカミングアウトにクイーンが驚きとツッコミの声をあげる。ジョーカーが軽く溜息をついてキングが真顔になった。だがそれも気にせずぬえは首を傾げ舌を出してウィンク。誤魔化そうとしたが、誤魔化せてない。カイドウも息をついた。
「おいぬえ、ライブのUFOはワノ国に飛ばしてるのを使えって言っただろうが」
「だって新しい演出に必要だったんだもん!! それに一応その海域には代わりに傘下の海賊を置いたし、まさか突破されるとは思ってなかったんだからしょうがないでしょ!!! 多分UFOを置いてても突破されたと思うし!!」
「あ~~~~……いやまァいいが、とにかく赤髪に手を出す時はお前らでも2人か3人以上だ。一応用心しろ」
カイドウがそう言って纏めれば、飛び六胞の面々も渋々了承する。手柄を立てるチャンスでもあるが、出し抜くには難しい相手でもある。ただでさえ今は同じ四皇相手の小競り合い。勢力拡大競争が忙しい。手を出すなと言われて出すにはリスクも高かった。
「──ああ、そうだカイドウさん。アガリを持ってきたから後で確認してくれ」
「おう、そういや俺もだ」
「もう持ってきたでザマスよ!」
「ああ……そういや忘れるところだったな」
「仕事はきっちりこなしてこないとねェ」
「……先に渡してある」
大看板以外の面々がフーズ・フーの言葉を皮切りにアガリの話となる。彼らが普段やっている仕事。シマのシノギ。もしくはみかじめ料で貰った物などのアガリを納める。
儲ければ儲けた分だけ自身も潤うことから、この活動は地味に重要でもある。アガリが少ないと叱責され小言を貰うこともあるのだ。そしてあまりにも酷い時は罰が下る。実際に傘下の海賊や旗を貸している島の中にはアガリを納めきれずに滅んだところもある。
だが飛び六胞ともなればシノギで酷い損害を出すこともない。任務もシノギも成功させる最強の真打ち達だ。他の真打ちに比べてもアガリの量は多い。それだけ儲けているということだ。
「ウォロロロ……そうか。後で確認しておく」
「やっぱりみんな優秀だね~。何を任せても始末してくれるし、毎年助かってるよ♡」
カイドウもぬえもその報告に喜ぶ。海賊団の利益を出してくれる優秀な部下がいるとこうまで助かる。特にぬえは持ってこさせた料理や酒を口にして喜ぶのだ。
「このお肉美味しくて頬が蕩けるね~♡」
「──おれの牧場の最高A5和牛だ……」
「このお野菜もシャキシャキして美味しい!!」
「──私の畑の野菜でザマス!!」
「お魚もぷりぷりしてて美味しいし」
「──それはおれがこの間一本釣りした幻の魚だ!!」
「お酒も喉越しが最高♡」
「──ここ5年で最高の出来栄えだ。雑魚共に飲ませる酒じゃねェ!! カイドウさんとぬえさんに飲ませるための酒だ!!」
「よく見たらこの木鉢は花柄ですっごく綺麗ね!!」
「──ぬえさんに使って貰おうと丹精込めて作りました♡」
「…………」
「あれ? どうしたのジャック。何か言いたいことでもあるの?」
「……いえ……強いて言うならその箸は……」
「ん……? あっ!! これ良くみたら純金じゃない!! 道理でちょっと重いと思ったわ!! これはジャックが掘り当てた金で作ったってことね!!」
「フン……その料理は全ておれが作ったものだがな……」
「! キングてめェ……!! 手柄を横取りするつもりか……!? おれの牧場あっての料理だろうが……!!」
「それは卑怯ザマス!!」
「……お前ら何かおかしくねェか……?」
クイーンが軽く困惑しながらツッコむ。いつものことではあるのだが、飛び六胞の面々やうるティにページワンも妙に自分のシノギに力を入れていた。いや、それは良いのだが──自分でやる必要はあまりない気がしてならなかった。キングもいつの間にか料理をしているし。
だがクイーンも自らショーに出たりするので、そういうものかと思ってあまり強くは言えない。
そんな僅かに賑わう中、カイドウが徐ろにぬえに目を向けて話しかける。
「そういや、お前も何か言うことがあるって言ってなかったか?」
「あ、そうだった。ちょっとマリージョアで暴れてくるけど誰かついてくる?」
「え~~~~~!!? 軽っ!! 大事件過ぎねェか!!?」
「はいはい!! 行くでザマス!!」
「いや待て姉貴!! 発言内容を良く聞け!! 買い物に行くんじゃねェんだぞ!!?」
「はい!! それじゃうるティとぺーたんに決定!!!」
「おれまで巻き込まれた!!?」
「……隠蔽して行くのよね……? というか本気……?」
「メチャクチャだぜ……この人は……」
とんでもないことを言い出したぬえに大看板も飛び六胞も困惑気味な様子で汗を掻く。新世界に大海賊時代の新しい風が入る中、今年もまた百獣海賊団は世界を震撼させることになるだろうと幹部達はそれを自覚し、火祭りの夜は更けていった。
四皇→白ひげ、ビッグ・マム、カイドウと誰か1人。シャンクスの前に誰かいるんじゃないか説です。
新世界→いつもの。カイドウのナワバリは特に酷い
ワノ国→UFOが飛び交うディストピア。詳しくはそのうち作中で
飛び六胞→ジャックIN 3人も少年少女がいる若い組織です。
ジャック→「おれァ破壊が好きだ……!!」(鉱業の為にダイナマイトで発破しながら)
赤髪→この時期は赤髪と鷹の目の決闘及び赤髪が名を上げ始めている頃。東の海出身のヤソップが赤髪海賊団に入団するのが原作より17年前で東の海に戻ってきたのが13年前なので
カイドウ→割と寛大。うるティちゃんにツッコまれても普通に流す。
ぬえちゃん→大人にもなれる。二つ名に妖獣が追加。相変わらず変災でもあるし、妖獣でもあります。二つ名が二つあるレッドみたいなもん。ちなみに大人だとワンピース体型の美女。でもライブのパフォーマンスみたいなもので、普段の姿が1番可愛くて魅力的だと誰もが思っている(思え)
お待たせしました。今回から第三部ということになります。四皇の百獣海賊団の活動をしつつ、色々イベントをこなしていきます。お楽しみに
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