正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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バカンス

 大海賊時代の頂点と言えば、私達“四皇”である。

 4つの海や“偉大なる航路(グランドライン)”前半の一海賊団なんてものはどれだけ数が多くとも1000人にも届かない。10人以下から100人程度。大所帯でも200人から500人程度。中には1000人を超す海賊団も存在するが、それでも1000から5000くらいが限度だろうか。七武海ともなれば四桁にも乗せてきたりする。

 だが新世界の海賊。四皇ともなれば船員の数は5桁はなければ話にならない。中にはかつてのロジャー海賊団や白ひげ海賊団の様に少数精鋭でやっていた海賊団もあったが、それでは広大なナワバリを治めることは難しいし、他の四皇との小競り合いを考えると数は幾らでもほしい。実際白ひげだって今は幾つもの領海を治めて守る必要上、幾つもの傘下を従え数万の勢力を築いている。私達が今いる場所だって、白ひげの旗を掲げているナワバリだ。四皇の旗を掲げる島を襲うバカはいないからね。四皇に喧嘩を売れば必ずその代償を払わされる。偉大なる航路を出ても無駄だ。私達は地の果てまで追いかけて命知らずなバカにこの業界の暗黙の了解と言うものを分からせる。即ち──海の皇帝に逆らえばどうなるか。

 これをよく“新世界の洗礼”と言う。新世界に“楽園”でイケイケだった時の過信を持ち越す勘違いクン達。その自信と信念をバッキバキに折るととっても楽しい。中には幼児みたいに泣き喚く可愛い子もいる。四皇の恐ろしさを知れば、大の大人でもみっともなく命乞いをするのだ。

 とにかく四皇という大勢力に私達百獣海賊団がなってからというもの、海賊としては完全に勝ち組でどんなことがあっても対応を出来るくらいの勢力を持ってはいるし、限りなく自由な覇者に近いが……それでもままならないことは存在する。

 

「──は~~~……四皇海軍本部王下七武海全員どこかの島に偶然集まったりしないかなぁ~~~そしたら戦争するのになぁ~~~……」

 

「そしたら皆ぬえ様の可愛さでイチコロになって世界が救われるザウルスねェ」

 

「世界の終わりだろ!! 後いつにもまして変な語尾やめろ!!」

 

 私は島のビーチに船を停泊させ、ちょっとしたバカンスを楽しんでいた。私の水着姿に皆見惚れている。周囲には連れてきた真打ちの2人、同じく水着を着たうるティとページワンの姉弟に百獣海賊団の船員達──私の船、“アンノウン号”に乗ってる連中も含めて1000人の海賊がいる。

 ちなみにアンノウン号は百獣海賊団の旗を掲げつつ、私の可愛い顔と羽をデフォルメにしたような帆と“妖”と書かれた帆を張っているし、甲板の建物はUFOを模しているダークでキュートな雰囲気がたまらない黒い大きな船でとっても可愛い。こんな大人数で来る意味はないのだが、私の船を動かしたいし、何かあった時のために動かしている。ワノ国の職人に私の注文を全て取り入れさせて造らせた私の理想の船なのだ。ちゃんとステージもあるし、お風呂もあるし、楽しい拷問部屋やワノ国製の質の良い兵器も取り揃えている。

 ちなみに船員には女の子も多い。百獣海賊団は白ひげみたいな女の子お断りみたいな男女差別をするような一味じゃないので、女の子だって子供だって余裕で戦闘員として船に乗せる。うるティやページワン、後はジャックなんかも子供の頃から船に乗ってる生え抜きだしね。未だに年齢一桁の子供だけどそこらの戦闘員よりは強いから立派な幹部だ。私が育てた。ふふん。

 そして今の発言の意味は私のここ数年感じてる鬱屈さを表したものだ。私は部下に作らせた料理とカクテルを口にしながら溜息をつく。

 

「だってどいつもこいつもほんのちょ~~~っと。ほんとにちょび~~~っと動いただけで過剰に反応してくるしさぁ。皆漁夫の利突こうとしてくるし、海軍とかは露骨に均衡保とうとしてくるし鬱陶しいんだよね」

 

「確かに海軍は本当に鬱陶しいザウルスね」

 

「わかるけどよ……それよりぬえさん。そろそろなんで魚人島にやってきたかを教えて欲しいんだが……」

 

「バカンスついでの協力者探し」

 

「バカンスがメインなんすか……」

 

「もう、ぺーたんも魚ばっか釣ってないでバカンスを楽しむでザウルス。せっかくぬえ様と楽しめる機会ザウルスよ」

 

「ぺーたん言うなや!! ってか協力者探しってまさかこれからやることの……」

 

「そうそう。だからこうやってバカンスをしながら網に引っかかるのを待ってるのよ。魚人島にはピッタリでしょ? ここにいるのは魚だし♡」

 

「なるほど!! ぬえ様の見聞色なら余裕でザウルスね!!」

 

 そうそう、と私はけらけら笑いながらページワンの質問に答えてあげる。するとページワンは地味にその言葉が気になった様子で私に純粋な疑問を投げかけてきた。

 

「見聞色……そういやぬえさんの見聞色ってどんくらい広いんすか?」

 

「んー、島一個分くらい? ワノ国全域はギリギリ行けるけどそれ以上は無理かなー」

 

「ヤバいっすね……それで、何故態々魚人を協力者に?」

 

「ぺーたんは馬鹿でザウルス。そんなの後で楽しむために決まってるでザウルスよ」

 

 続く質問に私は見聞色で魚人島にいる生き物の気配を感じ取りながら答える。強い奴の気配は分かりやすいからやってくればわかる。それまでは待つしかなかったし、暇なのだ。こうやって可愛い部下達とお喋りに興ずる程度の余裕はある。

 

「知ってる? 魚人ってのは今までずーっと、長い間世界政府から差別されてきた可哀想な種族なのよ♪」

 

「ええ、それはまァ……」

 

「馬鹿みたいでザウルス。生まれつき人間より強いなら人間を殺せばいいザウルスのに」

 

「ふふ、ほんとそうよねー。でもそれは出来ないのよ。強いって言っても普通の人間より強いだけで新世界のレベルにはついていけないような雑魚ばっかりだし、世界政府の差別に立ち向かえる筈もないじゃない?」

 

「なるほど。ぬえ様は頭も良いザウルスね!!」

 

「まあ確かに魚人で強ェ奴ってあんまり聞かねェな……それこそジャックとかササキくらいか……」

 

 うるティやページワンも私の言葉に頷く。そう、魚人は弱い。人間の亜種だとは言うが、陸地に上がれば人間より弱いのだ。水の中の方が適してる種族。そういう意味では魚類と言われるのも納得出来る。

 ただ、私は別に差別主義者ではない。どんな種族も皆平等だと思ってる。だからこそ、どの種族が憎いとかそんなくだらない感情も考えも持ち合わせていない。

 しかし彼らは違う。人間を強く憎んでいるのだ、と私はストローから口を離し、笑みを浮かべ流し目でそれを確認して言う。

 

「でもやっぱり……そういう考えではないのよ。対立ってのは根深い。こうやって人間の集団がやってきて滞在してるだけなのに敵意や恐怖を持ってやってくるほどにね♡」

 

「!」

 

「──おいお前達!!」

 

 そしてとうとう、覚悟でも決まったのかのこのことやってくるのは槍を持った大勢の兵士達だった。

 だが声を出したのは兵士ではない。兵士を率いる巨大な人魚だった。もじゃもじゃの髭を生やしたこのリュウグウ王国の国王。

 

「“百獣海賊団”……それとお前は副総督のぬえじゃな……!!」

 

「うォわァ!!? なんだこのでっかい人魚!!?」

 

「なんだやりあおうってのか……!?」

 

「ぎゃはは、誰に口利いてんのかわかってんのか? このモジャ髭人魚はよォ!!」

 

「なっ──国王様を侮辱する気か!!?」

 

「こいつら……!!」

 

「──待つのじゃもん!! 絶対に手を出すな!!!」

 

「っ……!! し、しかし……」

 

 ウチの連中の馬鹿にするような下品な笑いに兵士達が怒りを見せるが、その兵士達の敵意と戦意を感じ取りでもしたのだろう、国王様は兵士達に強い口調で厳命する。それを見て私は思わず楽しいと笑ってしまった。

 

「へ~? さすがに国王してるだけあって、ちゃんと相手の強さを見極める目を持ってるんだね? それで、何の用かな? ネプチューンさん♡」

 

「……用を問いたいのはこちらの方じゃもん。四皇の一角である百獣海賊団……お主達程の大海賊がこの魚人島に何をしにやってきたのじゃ……!?」

 

「用がなくちゃ来ちゃいけないの? それと、そんなに怖いなら放っておいてくれてもいいんだけどな~♡」

 

「放置しようにも何日もビーチを占拠されてはこうやって出ていくしかないじゃもん……!! 人魚達も困っておる。まさかこの魚人島に手を出すとも思えんが……」

 

 私はこの国でおそらく1番強いかもしれないネプチューンを目の前に刺し身を食べながらやり取りを続けるが、その言葉にちょっとした違和感を感じて首を傾げる。え、どういうこと? 

 

「──ん? なんで私達がこの国に手を出さないとか思ってんの?」

 

「……知らぬ筈がなかろう。ここは“白ひげ”の旗が掲げられた島じゃもん。手を出せばタダじゃ──」

 

「…………は? 何言ってるの?」

 

「!!!」

 

 私はその発言を聞いて思わず、気絶しないように加減して威圧してしまう。意図的でしかないが、ちょっと中々に舐められた発言だったので威圧して怖がらせるしかない。気絶したらそれ以上恐怖は与えられないからね。ちゃんと私達も恐れてくれないと。

 

「私達が“白ひげ”の旗を恐れて絶対に手を出さないとか……そうやって決めつけられると手を出したくなっちゃうんだけど~~~わかるかな? この天邪鬼な気持ち♡」

 

「っ!! 本気で言っておるのか!? 戦争になってもよいと……!!」

 

「あはは♪ 戦争出来るならしたいな~♡ もしかしてこの島を滅ぼせば戦争になったりする? そうだとしたら手を出すんだけど──」

 

 と、私は軽く槍を立てて告げる。ネプチューンもそうだが、特に相手の兵士達の動揺と恐怖が凄かった。このままもっと怖がらせることも実際に襲うことも出来る。

 だが私は……槍を置いた。

 

「──ま、そうはならないだろうし……なったとしてもやるべき時は今じゃないからやらないかな。結構有能だとは聞いてたけど私達四皇については勉強不足だね、ネプチューン王」

 

「っ……どういう意味じゃもん」

 

「私達は白ひげを恐れて行動を起こさないんじゃなくて、行動を起こした時に起きる()()()()について警戒してるのよ」

 

 そう……それが私が最近少しままならなさを感じてる理由だった。

 四皇という圧倒的な力を持つ私達の様な勢力に、基本的に恐れるものはない。たとえ同じ四皇であっても、正面対決になれば討ち倒すと誰もが自信を持っている。カイドウもそうだし、私もそうだ。たとえ白ひげ相手でも戦えば私達が勝つと自信を持っている。

 しかし、だ。同じ四皇の一勢力を倒したからといって事が有利に運ぶとは限らない。むしろその逆。共倒れになる可能性が高いのだと私は説明する。

 

「白ひげも私達も、敵がお互いだけなら戦争したって構わない。相手を倒せばそれで終わりで敵はいないでめでたしめでたし。──でも現実はそうはいかないのよねー。私達くらいになるともう勝っても被害が尋常じゃない。その疲弊した隙を他の四皇や海軍本部に狙われたらダメなの。漁夫の利って奴。わかるかな?」

 

「……勢力の均衡というものか」

 

「そうそう。なーんだ、わかってるじゃない♡ だったら、私達が白ひげの旗なんか、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……!!」

 

 私は再度ネプチューン王とその他の兵士を威圧する。別にこの程度の奴等もこんなちっぽけな島も、滅ぼそうと思えば今すぐ永久に海底の塵屑にしてやれるのだ。

 四皇による四竦み。圧倒的な力を持つ四皇を滅ぼすのは難しい。たとえ同じ四皇であってもだ。仮に勝っても甚大な被害を受けてしまい、そうなれば他の四皇にその隙を突かれ、漁夫の利を得られてしまう。

 海軍本部と王下七武海もまた、その均衡を維持するために動いてくる。四皇が動けば過剰な程に警戒し、四皇同士の接触を何としてでも避けようと試みる。鬱陶しいほどに。

 勝利するには圧倒的に勝たなければならない。ゆえに戦力を、勢力を拡大させるのが1番の近道。

 だがその活動は地味でもある。傘下の海賊や領海を増やし、他の四皇の勢力を削るためにちまちまとせこい裏工作を続ける必要がある。

 何が面倒って、白ひげだろうがリンリンだろうが誰だろうが、生半可な策には引っかかってくれないことだ。四皇に昇りつめるだけあって、どこも大海賊としての老獪さ、戦略眼を持ち合わせている。下手な動きはむしろ逆効果になる可能性もあるため、やはり相手が少しでも弱まることを期待して工作をし、自分達の勢力の拡大を図るのがベター。そんなことはしないが、仮に私達が相手のシマで何か事を起こそうとしたら、それを止めるのに相手もまたちょっとした工夫をする。それが白ひげだ。

 例えば私達のナワバリを襲って、今ここにいる私達が戻らなきゃいけないような状況に陥らせる。そんなクレバーな策も白ひげはやってくる。あれで知略にも秀でているのだ。真正面からぶつかっても厄介なのに謀略にも引っかかってくれないしで面倒なことこの上ない。遠回しかつ迂遠な工作で地道に勢力を削ぎ落としていくマスゲーム染みた削り合い。それが四皇が争う新世界の海。それ以外の有象無象など眼中にない。

 

「わかったらさっさとどっか行ってくれる? 私達だって面子で商売してるの。王様として私達を放置しておけないのもわからないでもないけど、大人しい私達にここで滞在されるのと、刺激して滅ばないまでも何百人ものお仲間が死ぬの、どっちがいい?」

 

 だから白ひげの旗があれば安全とか言ってあんまり舐めてると──()()()()()

 視線と威圧で言外にそう告げてやれば、兵士達が露骨に後退りし、その瞳を恐怖の色に変えていた。うーん、青褪めててもわかりにくいよね。まあそんな中でも、ネプチューンは顔を青褪めさせながらも冷静だ。計算でもしてるのかややあって、

 

「……この国の者を傷つけないと約束するのじゃもん」

 

「国王様!?」

 

 兵士達は驚くが、きちんと現実的な判断を下した。まあ実際に出会ってわかったんだろう。私達は排除出来ないし引き下がらない。なら譲歩してでも国民を守ろうという判断だ。私は頷く。

 

「約束は出来ないけど、こっちからは殺したり痛めつけたりはしないよ。相手から襲われる場合もあるしねー。それと、滞在している間食料とか燃料を寄越してね♡」

 

「自分達から手を出さないというのじゃな。それなら善処するじゃもん」

 

「交渉成立~♡ それじゃ雑魚の群れはさっさと帰ってくれる? 今から浜辺でバーベキューしてビーチバレーしてショーをするの。それとも見ていく?」

 

「ぬえ様とビーチバレーしたいザウルス~~~♡」

 

「バーベキュー用の魚足りてねェぞ!! お前らもうちょっと気張れや!!」

 

「は、はいっ!!」

 

「……皆の者、城に戻るぞ」

 

「っ…………はっ」

 

 私がビーチチェアから立ち上がりながらそう言えば、ネプチューンに命令されて兵士達は歯噛みするような悔しそうな表情で去っていこうとする。現実をわかってて良い王様だね。人間だからといって私達に食ってかかるような王様だったら魚人族や人魚族は今以上に酷い立場だったろうから、リュウグウ王国の王様ともなると判断力は非常に求められるし、普通の王様よりも辛いだろうな。

 ──ましてや、分を弁えないバカだっているものだからね♡ と、私はそれを感じ取って口端を歪めた。その直後、

 

「──フザけんじゃねェ!!!」

 

「!」

 

「あ? なんだあいつ……」

 

 帰ろうとするネプチューン軍を見て、その場に出てきて大声を上げる者が1人。何人かの魚人が止めるのを振り払って出てくるのは私には見覚えのある魚人だ。その特徴的な鼻とその姿を見て思わずニヤリとしてしまう。まさか突っかかってくるのかな? と魚人のやり取りを見てやることにする。魚人はかなり怒っている様子だった。

 

「四皇だかなんだか知らねェがあんなガキ共が幹部をやってる連中を追い出せねェ程に腑抜けたのかァ!! ネプチューン軍!!」

 

「ネプチューン王!! 魚人街のアーロンです!!」

 

「ああ……海賊をやっておる者じゃな。……アーロンだったか。お前達もここに近づくのはしばらくやめるのじゃもん。このビーチはしばらくの間封鎖することに──」

 

「人間に屈するってのか!! こんなガキ共に!! そこまで腑抜けだとは思わなかったぜ!!!」

 

「アーロンさん!! 相手はネプチューン軍と四皇だ!! 止まってくれ!!」

 

 あ、はっちゃんだ。タコの魚人。なんか見たことある顔ぶればっかりだと懐かしくて良いね。クロオビにチュウといったアーロン一味の連中がアーロンを止めようとしてるが、アーロンは何故か私達やネプチューン軍が気に入らずに荒れている。気性が荒いなぁ。弱くてバカだと痛い目を見るってのをまだわかってないらしい。そういう無鉄砲なところは見てて面白いんだけどね。

 

「てめェらが出来ねェってんならこのおれがやってやる!! こんなガキ共……!!」

 

「──あァ!!? ガキだとォ!! 私やぺーたん、それにぬえ様まで舐めやがって……!!!」

 

「!!?」

 

「うるティ様!?」

 

 あ、こっちの血気盛んな子まで連鎖反応しちゃった。うるティちゃんはアーロンの言葉にキレて向かってくるアーロンに真っ向から突撃していく。しかも変形までしてアーロンの攻撃を受け止め、そのまま頭突きで鼻を叩き折ってしまった。

 

「グァアア~~~!!?」

 

「今すぐシバキ殺してやる!! この雑魚サメ野郎ォ!!!」

 

「アーロンさん!!!」

 

「あの娘……恐竜の能力者か……!!」

 

「っ!! アーロン!!!」

 

 あーあー、うるティがアーロンに噛みついて地面に押さえつけたまま地面にボコンボコンと殴って蹴って頭突きして叩きつけて……中々に見応えのあるバトル──ではない。一方的な暴力だ。まあうるティちゃんに噛みついたのが悪いし、まだ7歳の子供に、油断したとはいえ一方的にボコられる方が悪いよね。

 そしてそれに反応したのはネプチューン軍の兵士の1人だった。あ、もしかしてあれは……親分さんじゃん!! 親分さんがアーロンが殺されそうになってるところを見てさすがにじっとしていられなかったのかそれを止めようと迫る。強そう。これはマズいかな? さすがの子供2人もジンベエ親分には勝てなさそうだし。でも経験値得られるからいっか。

 

「おいおい、せっかく見逃してやろうっつってんのにやる気かよ!」

 

「そこをどけ!! 貴様ら、誰も殺さんと言うたのはウソか!!」

 

「向こうから来てんだから正当防衛だろ……で、どうするんですかぬえさん。あのままじゃ姉貴は()()()()を殺しちまうし、おれも戦っていいのか?」

 

「やるなら殺さない程度にねー。後、何もしてない他の兵士には手を出さないように」

 

「──そうか。なら向かってきたてめェには……おれ達の経験値になってもらうぜ!!」

 

「!!」

 

「ジンベエ親分!!?」

 

 ページワンが能力を解放し人獣型になって親分ことジンベエを殴って思い切り吹き飛ばす。民家が幾つか倒壊したが、さすがのジンベエ。ガードはしてたし、子供と油断して食らいはしたもののアーロンみたいに一蹴とはいかない。すぐに立ち上がってページワンに向かっていく。うーん、強いなぁ。ぺーたん弱くないんだけど……というかジンベエが強すぎるだけか。幾らぺーたんが真打ち並に強いとはいえまだまだおこちゃまだし。最強クラスの魚人のジンベエには敵うわけがない。むしろほぼ不意打ちとはいえ最初の一発を当ててぶっ飛ばしただけでも将来有望だ。

 

「はー……ネプチューン王さぁ……こんな連中がいたんじゃ人間との融和なんて絶対に無理なんじゃない? それに私達も矛を収めるのが難しいんだけど~~~どうするつもりかな?」

 

「っ、すまん!! ──ジンベエもやめるんじゃもん!!」

 

「……!! しかし……!!」

 

「なんだ? あのサメのことを気にしてんのか? だったら諦めろよ。ありゃ姉貴に殺されるのがオチだ」

 

 ネプチューン王に暗に、このまま続くようだったら喧嘩を売ってるとみなすけど? と脅してやる。

 しかしネプチューン王の言葉は届かない。ジンベエはアーロンを気にしてるようだ。実際、このままじゃ死んじゃうね。このままじゃ。

 

「ウグ……アァ……!」

 

「やめろ!! ホントに死んじまう!!」

 

()()()だとォ!!? お前らもシバキ殺されたいってことか!!!」

 

「あー……そこのアーロンとかいうサメさーん? 一言、僕たちが愚かでしたごめんなさい──って言えば許してあげるけどどうする~?」

 

「っ……黙……れ……この、クソ人間共……が……!!」

 

「あはは、度胸あるね~♡ それじゃ恐怖のきの字も残虐のざの字も知らないよわよわのお魚さんに色々教えてあげることになっちゃうけど良いのかな~~~?」

 

「ギャハハハ!! ぬえ様の残虐ショーが見れるなんて今日はツイてるなお前ら!!」

 

「ゆっくり見物していけよ!! おれ達百獣海賊団に逆らうとどうなるかをなァ!!」

 

 ウチの船員が私の言葉で盛り上がる。下っ端ムーブが凄いけど、私の言葉一つで盛り上がったり盛り下がったりする辺り可愛いところはある。まあこれでも四皇に所属する新世界の海賊だし、私が出なくてもこいつらくらいで仕留められる。ネプチューンとジンベエはキツそうだけどね。

 でもまあ殺す気はないので、私はアーロンに近づいて優しく笑顔で彼らに言ってあげることにした。

 

「──ほらほら、皆静まって。今王様に言ったじゃない。ここにはバカンスに来たんだから、手荒な真似はしないって」

 

「えっ、殺しちゃダメザウルスか!?」

 

「ダメよ。まあでも、タダで生かすのは私達の面子に関わるし……そうだ、こうしましょう!」

 

 と、私はうるティちゃんを止めてあげて、アーロンに言う。屈んでウィンクしてあげて、

 

「──()()()()()()でいいよ♡」

 

「……!!? 100……ベリー……だと……!?」

 

「!? どういうつもりだ……? 100ベリーなんて簡単に払えちまうが……」

 

「ニュ~!! でも良かった!! これでアーロンさんは助かる!!」

 

 私の言葉に今度はアーロンが驚愕し、一味の連中もネプチューン軍の兵士達もそのやり取りを見て困惑する。まあ四皇の一角がそんな子供のお小遣いみたいな金額で引き下がることの意味がわからないのだろう。

 実際金をふんだくることは出来ると思うけど……正直、10万だろうが100万だろうが貰っても端金だし、それ以上はこんなシケた連中が持ってるとは思えないし別にいらない。

 だから楽しませてくれることと引き換えに命を助けてあげることにした。私は笑顔で言ってあげる。

 

「私、魚人も人魚も大好きなの♡ だから優しくしてあげるね♡ 魚人のあなたの命の値段は100ベリーよ♡ と~っても安くていいでしょ? たった100ベリーで自分の命を買えるんだからさ♡」

 

「……!!! おれの命が……たった100ベリー……!!?」

 

「そうそう、優しいでしょ? 缶ジュース一本分しかしないね♪ パンよりも安いわ。うわぁ、そう考えたらすっごいお得だね!!」

 

「さすがぬえ様!! 優しいザウルス!!」

 

「~~~~っ……!!! フザけるなァ!!!」

 

 死に体のアーロンが何故かガチギレして怒声をあげる。せっかく絶対払える金額にしてあげたのに、何が不満だったんだろ。私にはわからないなぁ。そんなに死にたかったんだろうか。それとも、魚人の命にそんな端金のような値段を付けられたことにキレちゃったのかな? 別に魚人の値段というか、それくらいどうでもいいってだけで魚人の値段が100ベリーと言ってはないんだけど、よっぽど劣等感というか種族コンプレックスがあるみたいだね。こういう差別されてきた種族にありがちだけど、差別的な意図のない相手の発言を、自分の方から異常に騒ぎ立てたりする。

 

「え~~? 払わないの? たった100ベリーが払えない訳ないと思うんだけどなぁ」

 

「クソがァ……!!! どこまでもコケにしやがって……!!!」

 

「アーロンさん!! 今は堪えてくれ!! 助かる命だ!!」

 

「うるさいザウルスね。もうさっさと殺してしまおうザウルス」

 

「っ、やめろ!!!」

 

 アーロンの手下やジンベエが声を張り上げる中、うるティが手を下そうとする。

 だがその直後──割って入ってきた影に、私はうるティの肩を掴んで少し下がる。

 

「!!」

 

「何だ!?」

 

「! タイガーさん!!?」

 

「タイのアニキ……!!」

 

「タイの大アニキ……!!」

 

 頭上から飛び込んでくるように現れ、私達に攻撃しようとしたその赤い大柄な魚人は、まさに私が探していた人物だった。

 魚人街のリーダー。冒険家──フィッシャー・タイガー。

 

「ジンベエ! アーロン! それにネプチューン王も……ゆっくり話したいところだが、今はそれどころじゃねェみたいだな……」

 

「あァ!!? いきなりしゃしゃり出てきて何様だ!!」

 

「ステイ、うるティちゃん。──あはは、あなたが冒険家のフィッシャー・タイガーね!! よろしく!! 私も名乗った方がいい?」

 

「いやいい。名乗らずとも知ってる。これでも冒険家だ。怪物の情報も押さえてねェとこの海は渡れねェからな……」

 

「ふーん。それで、私達と戦りたいの?」

 

「同胞を助けるために割って入っただけだ!! お前達と戦う気はない!!」

 

 と、タイガーは私達から目を逸らさずにそう言う。そう言うが……それにしては臨戦態勢って感じだよねぇ。

 まあ私からしたらタイガー1人増えようがどうにでもなるけど、私抜きだと結構手こずりそうでもある。このまま流れに任せて楽しんでみてもいいけど……暇潰しはそろそろお開きかな、と私は笑顔を向ける。

 

「おっけ~♡ それじゃ皆見逃してあげる!!」

 

「! ……そうか。それなら助かる」

 

「ただし!! 条件って訳じゃないけど~~~ちょっと2人きりで話さない? 私、冒険家のあなたの話が聞きたいの♪」

 

「なっ……ふざけるな!! タイガーさんにそんな提案を呑ませて──」

 

「──わかった」

 

「タイのアニキ!? そいつらは……!!」

 

「いや、いいんだジンベエ。お前らも。アーロンの介抱を頼んだ」

 

 と、タイガーは警戒はしつつも、周囲の連中を抑えて提案を呑み、前に進み出てくる。うーん、さすがはみ出しものの魚人達をまとめるリーダーだ。中々の器。度胸もある。

 だけど……私は見逃さない。その心の奥底に秘めている恐怖と嘆き、憎しみなどの負の感情を。

 

「ふふふ……それじゃ、私の船に一名様ごあんな~い♪ あなた達ははしばらく遊んでてね。うるティ、ページワンもバーベキューの準備でもしといて」

 

「了解ザウルス!! そうと決まればぺーたん、さっさとお魚を捕まえるザウルスよ!!」

 

「うおっ!? 引っ張るな姉貴!! あと血がついてんぞ!! 先に拭け!!」

 

 と、私はうるティとページワンにバーベキューの準備を任せ、タイガーとのお話に臨む──これから行う“襲撃”と“解放”についての話し合い。そして協力を申し出るために彼のことを()()()知ってあげることにしたのだ。




魚人島でバカンス→皆で水着を着て遊んでるだけです。ぬえちゃんもうるティちゃんもぺーたんも皆水着。
ネプチューン→そこそこ強い。でも短絡的な行動はしない
ジンベエ→強い。魚人だと最強クラス。でも今はまだそこそこ
タイガー→強そう。素手で昇るのは何気にヤバい気がする。
アーロン→ジンベエと肩を並べる魚人。弱い
100ベリー→ジュース=魚人のぬえちゃん式スーパー煽り尊厳破壊術。でも本当はもっと高いし価値があるとぬえちゃんも思ってます。マーケット()でよく買ってるので
今日のうるティ→変な語尾ザウルス
ぬえちゃん→四皇としての勢力争いは意外と地味だというお話。可愛い

と、こんなところで。次回はゲリラライブです。今日もぬえちゃんは可愛かったね! ってことで次回もよろしく

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