正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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聖地襲撃

 世界を分かつ赤い土の大陸(レッドライン)

 偉大なる航路(グランドライン)前半と新世界を結ぶ中間地点である魚人島のちょうど真上に位置する世界貴族が住む聖地。それがマリージョアだ。

 そこは通常、世界政府の許可が無ければ立ち入ることすら出来ない。海軍本部マリンフォードと新世界側海軍本部G-1支部の裏にある赤い港からでなければ出入りすることも困難なのだ。

 ──だがその標高数千メートル。雲によって頂上が見えないその聖地へ向かって、たった一つの信念を胸にその大陸に1人挑む者がいた。

 

「…………!!」

 

 その男は、肌が赤い大柄な男。水かきやヒレを持つタイの魚人。

 冒険家フィッシャー・タイガーはその鍛え上げた肉体を以てして、赤い土の大陸を素手でよじ登っていた。

 彼が何故このような行動に出るのかを知る者は少ない。

 ただ彼の心の奥底には、かつて虐げられてきた過去の心的外傷。それによる恨みと聖地で未だ苦しめられている同じ境遇の者達に対する義心があった。

 彼の胸には未だ“爪痕”が刻まれている。それは消えない呪いの様に彼の心を苦しめ、彼の心を鬼にする。

 タイガーは決心し、世界の禁忌を犯そうとしていた。すなわち──聖地の襲撃と、奴隷たちの解放である。

 それを遂行することに一点の曇りもない意志を持っている。……だが、彼は手足を動かしながらつい先日出会った別の“鬼”について、僅かな不安を持っていた。

 

『私もかつてはあなたと同じ“奴隷”だった。この事実だけであなたに協力する理由になるでしょ?』

 

『あなたが襲撃をかけるタイミングでこっちもメチャクチャに暴れてあげる。目的達成に大きな助けになると思うけどな~?』

 

『ん? 奴等への恨み? あはは!! 恨みなんてある訳ないじゃん。あれは私が──』

 

 そう。先日、自分の秘密と企みを看破され、その上彼女自身もそうであると明かしてきた。その会話を思い出す。

 だがその時彼女に抱いた感情は言いようのない“恐怖”だった。

 彼女の発言にはウソはなかったように思える。彼女は、自分と同じ想いを全く抱いていない。

 怒りなど垣間見えず、むしろ嬉々としてその過去を話し、楽しそうにやり方を話す彼女は純粋な少女の様にも見えた。

 そこに狂気すら見えない。だが、それこそが恐ろしい。

 狂気すらなく、平常心で残虐なことを行える人物など、それこそ狂っている。

 彼女は天竜人を全く恐れていない。それどころか、弱いからという理由で見下してすらいる。傷つけることに何の躊躇もない。

 彼女の手を借りることは酷く恐ろしかったが、タイガーは悩んだ末に受け入れることを決めた。彼女の提案を拒んだ後が怖かったからだ。

 それにタイガーは奇跡的に彼女という人物を理解した。タイガーは人間には屈しない。しかし、彼女は人間ではない。人間という生き物に分別してはいけない。

 彼女は自分の心の奥底に眠る者と同じ──“鬼”だ。もしくは“怪物”か、“化け物”か。あるいは“獣”である。

 人間も魚人も、ふとした切っ掛けでそれらに変わるのかもしれないとタイガーは思った。そして自分は、その一歩手前にいることも自覚した。

 だが同類にはならない。彼の目的はあくまでも奴隷解放。それを強く自分に言い聞かせた。殺戮が目的ではない。悪魔の力を借りたのは、あくまで奴隷を解放するための混乱を引き起こすのに有用だから。それ以上でも以下でもない。

 そうして夜闇の聖地に、彼はとうとう辿り着く。目的を見失わないように自分に強く言い聞かせながら、拳を握り、彼は襲撃を開始した。

 

 

 

 

 

「父上~、明日は奴隷を買いに行きたいえ!!」

 

「私も新しい奴隷が欲しいアマス」

 

「またかえ。もうこれ以上は檻の中に入らんからしばらくはやめなさい」

 

 世界貴族──天竜人の生活には何一つ不自由がない。

 生活は全て世界政府加盟国から献上される莫大な天上金によって保証されており、多少の豪遊ではなくならない財産を持っている。聖地に立派な屋敷を構え、騎士や役人、CP0などが護衛として付き従い、天竜人の住まう街、“神々の地”を警備している。

 彼らは多くの、そして様々な種族の奴隷を所有しており、人以下の扱いをして虐げている。

 見世物、晒し者、拷問に殺害。奴隷に限ったことではないが、彼らは何をしても許される。下界に降りてはそこらの人間を奴隷として攫い、気に入った女を妻として攫って飽きたら捨てる。四肢を千切り、目を潰し、身体に傷をつけても彼らは罪に問われない。

 海軍もまた、彼らの味方だ。人身売買は本来、世界政府が禁じているのだが、それらも黙認。天竜人に傷をつけようものなら海軍大将が軍艦を率いて報復する。彼らの暴走を止める者は誰もいない。

 

「そうだえ!! いらない奴隷を処分するえ!!」

 

「殺すならあまり汚さないようにな。それなら構わんえ」

 

「せっかくだから奴隷で遊ぶアマス。この間やった舌を抜く拷問が楽しかったアマス」

 

「…………!!」

 

 そして彼らに飼われる奴隷は毎日が地獄だ。

 趣向はその天竜人にとって様々だが、良いことなんて一つもない。悲鳴を上げたら殺されることもあるし、逆に声をあげなかったからと殺されることもある。気に入られなければ消耗品の様に使い潰される。気に入られてある程度長く奴隷としていられることもあるが、どちらにせよ心と身体に深い傷が残る。解放されたとしてもトラウマは消えず、自殺する者さえいる。

 奴隷になったが最後、人として真っ当な人生は歩めない。表向き平然としていたとしても必ずその過去に悩まされる。

 

「──おじゃましま~す♪」

 

「!!?」

 

 ──()()()()()()()()()

 

「……? 誰だえ? どこの家の──」

 

「! 貴様逃げ出した奴隷かえ!? ここをどこだと思ってる!!」

 

「あら、可愛らしいアマス。捕まえて奴隷にしたいアマス!!」

 

「あ、ただいまって言った方が良かったかな? あはは、懐かしいなぁ~♡ あの頃は私もクソ雑魚で毎日拷問されまくったよね!!」

 

「!! お前、まさか──」

 

「? 父上、この奴隷を知ってるアマスか?」

 

 その天竜人の屋敷にやってきた少女は、屋敷の中を見渡し、懐かしんでいる。天竜人の一家の長はその少女を見て何かを思い出したが、少女のその手に持った槍に滴る血とこの状況をおかしく思った。

 

「いや……それより貴様、外の衛兵はどうしたえ!?」

 

「──皆死んだよ♡」

 

「は……?」

 

 少女は笑顔でそう言ってみせる。護衛と警備の衛兵は皆死んだと。

 思わず天竜人達は間の抜けた声を出してしまう。こんな少女が衛兵をあっさりと殺せるものなのかと。

 だがその身からは確かに血の匂いがする。耐え難い死臭がする。

 それに気づいた時、彼らは一様に身体を震わせていた。その感情が何かはわからない。

 しかし天竜人とて人間だ。彼らの本能は未だ残っている。

 

「いやまああなた達に用がある訳じゃなくて、適当に暴れ回るだけなんだけど、ここが1番奴隷の数も多いし、面白そうだったから来ただけなんだけど……まあせっかくだし、あなた達は虐めてあげるね♡」

 

「な……あ……?」

 

「何を……!!」

 

 そう。己を害する外敵──怪物と出会った時に感じる怖気と震え。

 天竜人達はその日、確かに“恐怖”という感情を知るのだ。

 

「ぎゃああ~~~!!?」

 

「とりあえず1人~♪」

 

「ひっ……あっ、ああ……!!」

 

「や……やめるえ!! それ以上近づくな!! か、海軍大将と軍艦を呼ぶえ!! 今すぐやめるならそれだけは勘弁してやる!!」

 

 ──1人。その三叉槍が腹に突き刺さる。

 まるでソーセージにフォークを突き立てるようにして持ち上げ、彼女は近づいてくる。海軍大将と軍艦という脅しにもニッコリと笑顔を浮かべた。

 

「海軍大将~? あはは、そんなので止められると思われるのは心外だけど~~~……来たら来たで暴れられそうで面白そうだよね──っと♡」

 

「ウガアアァアァ~~~!!!」

 

「良い悲鳴をありがと~~♪ ──さて、後1人~♪」

 

「っ……や、やめ……なんでも、なんでもするから……!!」

 

 2人目は手足を千切られた。高価な絨毯やソファ、テーブルが真っ赤に染まっていく。彼女はそこに並んだディナーをつまみ食いし、最後の1人を見下ろした。

 そしてその命乞いを聞いて、優しく笑みを浮かべる。

 

「残念♡ 弱いからいけないんだよ~♡ だからこれを教訓に……来世では強くなってね♡」

 

「い……ああああああァァァ~~~~~!!!?」

 

 最後の1人も身体を切り刻んでバラバラにした。少女はその惨状を見てやはり懐かしむ。

 

「う~~~ん。こんな弱いのに痛めつけられてたなんて昔の私ってホントにクソ雑魚でダメだったなぁ。そりゃ奴隷にもされるよね~~」

 

 少女は赤い羽と青い羽を持っていた。浮かび上がり、奴隷を捕らえる首輪や錠の鍵と牢の鍵を持って、暖炉の火を壁に点ける。

 

「さーて、たまには人助け人助け~♡ ──ぬえちゃんIN聖地マリージョア!! チャリティーゲリラライブの始まりだよ~~~!!!」

 

 ──聖地を恐怖のどん底に陥れる“妖獣”の宴が始まった。

 

 

 

 

 

「何が起こっている!!?」

 

「どうやら襲撃者がいる模様です!! 神々の地が燃えて……ぐあっ!!?」

 

「空に浮かぶ……あ、()()はまさか……!!」

 

「──至急海軍本部へ応援要請を!! 天竜人の身を守ることを最優先に行動せよ!!」

 

 聖地マリージョアは景観も豊かな美しい街だった。

 だが今は火の海。夜のマリージョアは建物が燃え、爆発し、倒壊し、悲鳴が聞こえる惨劇と化していた。

 そんな中で聖地を守る衛兵と役人は奔走する。CP0が天竜人の身柄を守るために行動を起こす中、彼らは襲撃者の対応を迫られた。

 だが襲撃者の強さは、彼らが対応出来るレベルを超えていた。

 

「いたぞ!! 赤い肌の魚人だ!!」

 

「どうやってここに……!!」

 

「とにかく捕らえろ!!! 殺しても構わん!! どの道聖地を襲った大罪人だ!!!」

 

「……!!!」

 

 赤い肌の魚人──フィッシャー・タイガーは力の限り暴れ、奴隷達を解放する。

 魚人は生まれつき人間の10倍の腕力を持つが、荒くれ者が集う魚人街をその強さでまとめた彼の腕力はその程度で収まらない。

 

「ウッ……!!」

 

「速い!!?」

 

「クソッ……魚風情が……!!」

 

「!!!」

 

「ガッ……あ……!!?」

 

 魚風情と言った男の顔がタイガーの拳に殴り飛ばされ、建物に激突する。タイガーはそちらに目もくれず、衛兵達に建物を投げつけて撹乱すると、背後の奴隷達に声を掛けた。

 

「早く逃げろ!!! もう二度と捕まるな!!!」

 

「うっ……あ……」

 

「走れ!!!」

 

「……あ、ありがとう、ございます……!!」

 

 タイガーは奴隷を解放して回り、自分を囮とするために暴れ回る。

 奴隷達にとって街が燃えて、次々に倒壊する光景は恐怖ではあったが、奴隷の日々と比べればまだマシなものであり、彼らは一目散にその街から逃げる。

 しかし衛兵や政府の役人、そして海軍本部の海兵達もそれを見逃す筈もない。

 

「逃げ出した奴隷を捕らえよ!!!」

 

「はっ!!!」

 

 奴隷を捕まえることが正義であるかと言われれば迷う者もいるだろうが、海兵にとって上官の命令は、世界政府の命令は絶対である。

 それに奴隷達を捕まえてこの襲撃の真相を解明し、犯人を捕まえる。そのためにも奴隷を捕まえることは正義に繋がるのだと言い聞かせ、彼らは弱者に向けて銃を構えるのだ。

 

「構え──ぐあっ!!?」

 

「大佐!!」

 

「っ……!!! うわァァァ!!? きょ、恐竜!!?」

 

 ──だが彼らもまた弱者であり、強者によって叩き潰される運命にあった。

 海兵達の列を力ずくで吹き飛ばし、奴隷達の前に現れたのは古代の生き物──恐竜。

 しかしその恐竜は人語を解した。2体の恐竜は奴隷達を見下ろしながらやり取りをする。

 

「暴れるのはいいけど弱すぎてつまらないザウルス。ぺーたん、これはどうするでザウルスか?」

 

「いや姉貴、これはどう見ても奴隷だろ。手筈通りさっさと船に案内しちまった方がいい」

 

「そうでザウルスか。それにしても……」

 

「? どうしたんだ」

 

 恐竜が人型に戻り、少年が少女に疑問符を浮かべる。少女は先程吹っ飛ばした連中を思い出し、

 

「天竜人って初めて見たザウルスが変な語尾ザウルスねェ」

 

「──お前が言うな!!!」

 

「お前だとォ!?」

 

「こ……子供……?」

 

 奴隷達が軽く怯え、困惑しながら問いかける。一応は助けられた様だった。

 しかし相手はどうにも凶暴。少女と少年だが、どうやら海賊にも見えるし、能力によって巨大化した姿はそれなりに凶暴で脅威に映る。恐る恐る声を掛けたが、すると少年の方が後ろを指差して答えた。

 

「おい、一々立ち止まってねェで行け。船で下まで送るよう命令されてんだよこっちは」

 

「ぬえ様とタイ……タイなんだったザウルス? まあぬえ様に感謝するザウルス!!」

 

「あ、ああ…………感謝する」

 

「ありがとうございます……!!」

 

 解放された奴隷達は2人に指示されて、赤い土の大陸の崖──偉大なる航路前半側に寄せられた船へと向かう。

 どういう訳か空に浮かんでいる船に次々と逃げた奴隷が乗り込む。だが船はまだ出航しない。

 

『──は~~~ぁ~~~い♡ 聖地マリージョアの皆~~~見てる~~~!!? 奴隷も天竜人も衛兵も海兵も役人も皆注も~~~く!! まあ見てる余裕なんてないかもしれないけどね!! あはははは!!』

 

「!! キャ~~~♡ ぬえ様ザウルス!!」

 

「おいおい……まさかまた惨殺ライブか?」

 

 奴隷解放というイベントはまだまだ終わっていないのだと、うるティもページワンもその声を聞いて感情は別々だが理解した。

 聖地マリージョア、神々の地。パンゲア城の目の前に広がるその街を燃やしながら、彼女は広場に広がる死体の山をバックに映像電伝虫での配信を行おうとしていた。配信先は聖地限定。各所に持たせ、あるいは設置した受信先の映像電伝虫が映す先に、彼女は愛嬌ある笑顔をお届けする。

 しかし実際にその映像をまじまじと見る余裕のある者は少ない。天竜人はこの非常事態に必死であり、衛兵や役人も海兵も同じ。奴隷達も解放活動を行っているフィッシャー・タイガーも、ぬえの指示通りに動いてる百獣海賊団船員も忙しいことには変わりない。

 しかしその異様な光景と、一見似つかわしくない美少女とその明るい声の配信に目を向けてしまう者も少なくない。何より、政府側の人間にはその少女の姿はあまりにも有名過ぎた。奴隷であっても、知らない者の方が少ない。

 

「おいウソだろ……!!?」

 

「なんでこんなところに四皇のNo.2がいるんだよ……!!?」

 

 “四皇”の一角、百獣海賊団副総督、“妖獣のぬえ”。30億を超える懸賞金を懸けられた新世界の怪物。特級の危険人物だ。

 そしてより彼女を知る人物であれば、やはり、と思う。空に浮かぶUFOの群れ。聖地を襲うそれらを見て、一部の者達はすぐに彼女を連想した。

 四皇カイドウの兄妹分であり、起こした凶悪事件は数知れず。

 残虐過ぎる事件の多くは表には出せず、政府による情報操作によって隠蔽されることが多々あるが、彼女はそれの常連である。

 しかし大きすぎる事件と、彼女が気まぐれに行う映像配信は、完全な情報操作が出来ずに政府の頭を悩ませていた。

 島や国を滅ぼすことは百獣海賊団ならザラにある。だが……彼女のそれは生で現地の映像を新世界に届けてしまう。

 

『今日も楽しく可愛く残虐に!! 恐怖のゲリラ配信を皆にお届けしま~~す♡ あ、でも安心して!! ここにいる皆は分かってると思うけど、今日の配信内容はな、ななななんと!!! 奴隷解放という正義のイベントをお届けしちゃいま~~す!! つまり今日の主役は冒険家フィッシャー・タイガーに、これから逃げる奴隷の皆さん!! そして天竜人だ~~~♪』

 

「キャ~~~♡ ぬえ様今日も可愛いザウルス!! 可愛さ百億万ルス!!」

 

「おい姉貴!! 見てねェでさっさと積み込んじまうぞ!!」

 

 百獣海賊団の面々にとってそれらは見慣れたものだが、それでも毎回ぬえのやることには末恐ろしさを感じる。

 天竜人の住まう聖地を襲撃し、あんなに堂々と配信を──しかも今からやるであろうことを考えると笑みも引き攣りそうになる。

 だが彼らはぬえの命令が最優先であるため、奴隷をもう一つの船に、そして略奪した様々な物を自分達の船に積み込んでいく。その傍らにその配信を見るのだ。刺激的な映像がそこには流れる。ぬえの可愛らしい笑顔と明るい声と共に。

 

『奴隷の皆は良く見てね!! 今日の配信は~~~~~~……あの天竜人の!! お料理配信となりま~~~す♡ メニューは皆大好き!! 手軽で簡単!! 焼き肉だ~~~♡ ──ということで熱々の鉄板と材料の皆さんがこちら!!!』

 

「……っ!! ……っ!!!」

 

 映像の中でぬえが態々持ってきたのか巨大な鉄板と、背後にあった縄でぐるぐる巻きにされ、猿轡を噛まされて捕まっている何名かの天竜人の姿が映る。

 その映像を見た奴隷達は、まさか、と思い、政府関係者は顔を青褪めさせた。その間にも配信は続く。

 

『そして試食係は可愛い怪物、ナンバ~~~ズ!!!』

 

『ジュキキ~~!!』

 

『は~い!! それじゃ巻きで行くよ~~!! 何をするか説明するより、見て貰った方が早いよね!! ──ってことで最初のお肉投入~~~♪』

 

『っ……ぷはっ!! ハァ……ハァ……や、やめるえ……!! こんなことをして、タダで済むと──ギャアア~~~~!!!』

 

 猿轡を外され、ロープも外された天竜人の男が、熱い鉄板の上に落とされる。海兵達が思わず口元を手で覆いながらも上官の命令を受け動いた。

 

「マズいぞ……あれをさっさと止めろ!!!」

 

「は、はっ!! しかし暴れている魚人と逃げる奴隷は──」

 

「あれを止めない方がもっとマズい!! 良いから行け!!」

 

「は、はいっ!!!」

 

 海兵達は動く。しかし燃える神々の地は空に浮かぶUFOの弾幕と炎によって侵入すら容易ではない。その間にも配信は続く。

 

『熱っ、熱いえ~~~!!?』

 

『まだ活きが良いので、ちゃんと上から押さえて焼いてあげましょうね~~~♡』

 

『アガッ、ウガッ、アア゛ァ~~~!!!』

 

「うっ……」

 

「あの天竜人を生きたまま……!!」

 

「は、ははは……やべェ……や、やっちまえ!! そうだ!! そんな奴等どうなろうと構いやしねェ!!」

 

「人の痛みを思い知らせてやれ!!」

 

 配信を見ている奴隷達は色々な意味で唖然とし、それに見入ってしまった。神をも恐れぬ行為。それを成したことによる感動や自分達を苦しめていた天竜人が更に苦しむことに残虐性を覗かせ喜ぶ者達もいれば、その残酷な仕打ちに気分が悪くなる者もいる。しかし、多いのはどちらかと言えばそれを”ざまあみろ”と思い、あるいは口に出す者達。それが奴隷という闇の深さを物語ってもいた。

 配信は続く。

 

『皆は焼き加減はどれくらいが好きかな? 私は基本レアかな~♡ 良いお肉はレアでいただくに限るよね!! まあ焼き肉だとしっかり焼いた方が良いかもだけど、これはどっちかっていうと丸焼きだしステーキみたいなものだから……と言ってる間に声があんまり聞こえなくなっちゃったので実食タ~~~イム♪ はい、どーぞ!!!』

 

『ジュキキ♪ ジュキキ♪』

 

『良い食べっぷりだね~~!! なんて言ってるかわからないけど、美味しいみたいだよ!!』

 

『~~~っ!!!』

 

「あの怪物……天竜人を……!!?」

 

 映像の中で肌が赤くなった天竜人が怪物の口に放り込まれ、バリバリと音を立てながら噛み砕かれてしまう。

 奴隷達はその光景を息を呑んで見ていた。海兵も役人も、映像の中、彼女達の背後で縛られている天竜人も皆卒倒する。

 何せ──天竜人を殺したのだ。世界の創造主の末裔。逆らうことは許されない相手。

 傷つければ海軍大将と軍艦がやってくる。それは承知の筈だが、映像の中の彼女はそれを全く恐れる様子はない。配信を嬉々として続ける。

 

『はいはい、それじゃ次は~~~じゃじゃ~~ん!! このダーツに運命を委ねて貰うよ!! ほら、手だけ解放してあげるからダーツを取って!!』

 

『っ……!!』

 

『あ、逃げようとしても無駄だよ~~~そしたらダーツを投げさせるまでもなく殺すから大人しくしててね♡ ──えーと、要はこの人型の的に当たった部位を切り取って焼くから、5回投げて頑張って生き残ってね♪ ちなみに頭と心臓は大当たりでどこにも当たらない場合は大外れだからよく狙ってね!!』

 

『……!!!』

 

 映像の中の天竜人が残酷なゲームに挑戦する。今しがた同じ天竜人が残酷に殺された。それを目の当たりにしたため、彼らの表情には分かりやすい恐怖が浮かんでおり、身体も手も震えている。二番目に選ばれた女性はダーツを手に持たされるが、こんなことしたこともないし、たとえあったとしても狙いなんて上手く定まらない。投げるしかないとわかってはいる。しかし、どこへ投げる? 

 仮に手や足に当たっても手を千切られる。腹に当たればお腹の肉を削り取られるのだろうか。それとも内臓を抉り取られるのか。天竜人は容易にそれらを脳裏に想像する。何せ、残酷な仕打ちなど奴隷でやり慣れているのだ。まさか自分達がやられる側になるとは思いもしなかったが、この時初めて、彼らは濃厚な死と暴力の恐怖を理解した。

 

『早く投げないとさっきみたいに丸焼きだよ~?』

 

『ジュキキ~!!』

 

『っ……!!!』

 

 少女のからかうような言葉と怪物の舌舐めずりに天竜人は意を決してダーツを投げる。

 しかし、その矢は的を捉えることはなかった。それを見てぬえがけらけらと笑う。

 

『残念!! 大外れ~~~♪ それじゃ丸焼き、いってらっしゃ~い♡』

 

『はっ……や、やめるアマッ──イアアァァ~~~~!!!?』

 

『ジュキキ~~♪』

 

 そして……そこからはまた惨劇に次ぐ惨劇。

 天竜人を次々に焼き殺して食べる怪物達の映像に、吐き気を催す者も多数。

 奴隷達にとっては魚人と同じく自分達を助けてくれた恩人ではあるが、神をも恐れぬ残虐な行為を行うその海賊に畏怖を覚える。

 天竜人という特権階級を殺しているというのに、その行動には一切の躊躇いがない。そこらの虫でも殺すかのように、あるいは本当に焼き肉でもしているかのように1人、また1人と殺していく姿に誰もが戦慄してしまう。

 配信は約1時間、奴隷達の解放が終わるまで続いた。海軍本部の増援が広場にやってきたその時、広場には──

 

「っ……!! これは──」

 

「あ、遅かったね~♡ もう撤収するから、後片付けはよろしく~~♪」

 

「貴様……自分が何をしたのか分かっているのか!!!?」

 

 ──天竜人の姿は、()()()()()()()()

 広場に確認出来た10名近い天竜人はどこにもいない。全て、血肉と化してしまったのだ。

 そして怪物は空へ浮かび、海兵達に手を振る。

 

「弱い方が悪いんだからしょうがないよね!! それじゃ、まったね~~~!!」

 

「! ……待て!!!」

 

 そして妖獣は夜の空に消えていく。海兵達は空を飛んで逃げる彼女を追いかけることすら出来ない。

 それに未だ聖地は火の海だ。こちらの対処、そして残った天竜人の護衛を彼らはしなければならない。

 

「逃げられたねェ~~~~……」

 

「っ……いかがしましょう。ボルサリーノ中将」

 

 鍔広の帽子を被った海軍中将は空を見上げ、ぬえの姿がどこにもないことを確認して呟く。彼は海軍大将と共に派遣されてきた増援の海兵の1人だ。空に僅かに残るUFOを指から発射したレーザーで撃墜しながら、彼は顎を擦り部下に向かって間延びした言葉を続ける。

 

「戦わずに済んだ……なんて言ったら天竜人に怒られるねェ~~~ただこれほどの前代未聞の事件とはいえ……四皇に挑む訳にもいかないしねェ……大将1人で済むような相手でもない訳だし……政府はどんな判断を下すのか……?」

 

「あ、あの……追いかけないので?」

 

「今から追いかけても無駄でしょうが……それより今はUFOの処理と生存者の救出と保護に徹すると良いよォ……!!」

 

「はっ!! 了解しました!!」

 

 ボルサリーノの指示で海兵達が幾つかの隊に分かれて聖地を駆けていく。ボルサリーノもまた、空に浮かぶUFOを撃墜しながら報告で聞いたことと、これからの動きについての独り言を呟いていた。

 

「主犯は百獣海賊団副総督……“妖獣のぬえ”と──魚人族の冒険家フィッシャー・タイガーねェ……片方は我々でも迂闊に手を出せない愉快犯の大物……片方は差別された種族の男1人……ともなれば、これは政府の()()()が出るかもねェ~~……まあわっしはやるべきことをやるだけですが……」

 

 何にせよ、天竜人の虐殺など新聞に載せられる訳もない。残虐も度が過ぎれば闇に葬られる。

 しかしかといって聖地襲撃と奴隷解放という大事件を全く報じないというのも無理がある。天竜人も騒ぐだろう。事件を起こした首謀者を捕まえろと。

 そうなれば、政府の体質とやり方を知る海兵にとって、今後の行く末は予想しやすくもあった。

 ボルサリーノは肉片一つも残っていない広場で、次に下される任務と始末のつけ方を思い、軽く息をついた。どちらにせよ、彼は淡々と自分のやるべきことをこなすだけなのだと。

 

 そうして複数の天竜人の死亡と奴隷達の解放、聖地の約7割を燃やし尽くしたその大事件は幕を閉じた。




聖地→ライブ会場
タイガー→ぬえちゃんに恐れ
天竜人→お肉
奴隷→畏怖。ちなみにネームドは大体います。絡むのは次回
ボルサリーノ→めちゃ強い中将。今後を予想しました。戦わずに済んで良かったと言えば良かった
ぬえちゃん→聖地で焼き肉配信の大事件。映像は聖地限定。今日も可愛い

とまあこんな感じでやべー事件でお送りしました。次回はまた可愛い女の子の奴隷とか将来お金持ちになりそうな奴隷と絡んだり、事件の結果どうなったかとか、まあ色々。お楽しみに

感想、評価、良ければお待ちしております。

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