正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
ワノ国……いや、新世界では時折、予測不可能な災害が発生する。
「──うおっ!! 警報!!?」
「お、おいおいこの警報が鳴るってことは……!!」
一度起きれば対処は不可能。元より……災害とはそういうものだ。
「おいやべェぞ逃げろ!!!」
「えっ、何だってんだ……?」
「いいから逃げろ新入り!! 死にたくなけりゃあな!!」
ワノ国を本拠地とする四皇の一角、百獣海賊団には“災害”と称される最高幹部がいる。だが、
「──おいジョーカー!! お前さっさと帰ってこい!! もう近くにいるんだろ!?」
『急に何? どうしたって言うのよ』
「ああ、それが……あー……あれだ。ちょっと用事があってよ……」
「ぎゃああ~~~~!!?」
「や、止めてくださいカイドウ様!!!」
「ぬ、ぬえ様も!! お願いですから鎮まってください!!!」
『……今、聞こえたんだけど……』
「おおっ!? いや、今のはちょっとした……余興の最中だ!! それもお前に早く見せたいからよ、早く帰ってこねェ──」
『──嫌』
「か……」
だが──その災害と称される者達もまた、その災害と比べれば他の者達同様、ただ避難し、防災を尽くすしかない。
『私、急用を思い出したわ、クイーン。しばらく帰らないから、収まったら連絡して。──それじゃ』
「おい待てフザけ──ってあの女!! 切りやがった!! クソ──うおおっ!!?」
「クイーン様!! 瓦礫がこちらにまで飛んで……!! どうしましょう!?」
「逃げるに決まってんだろバカヤロウ!! 全員鬼ヶ島の地下か外に出て避難するぞ!! 急いで部隊を分けろ!! 船を出せ!!」
「は、はい!!」
災害と称される男が全力で逃げの1手を打ち、災害と称される女はそれを感じ取ってワノ国に近づいていた船を引き返した。
もう1人も、
「今回のはさすがにヤバそうだな……!!」
「──キングの兄御!!」
「ジャック、部下共を纏めてさっさと下がるぞ。今回の喧嘩は今までで1番規模が大きそうだ……!!」
「ああ……野郎共!! 今すぐ避難しやがれ!! 早くしろ!!!」
「はっ!!」
やはり誰もが、その対処を諦め、自らの命を守ることを第一に考える。
百獣海賊団で最も恐ろしい二つの天災。それらはお互いに、暴れればお互いでなければ止められない程だ。
だが真に恐ろしいのはどちらか一方が暴れた時ではない。
「「オオオオオオオオオオ!!!!」」
──その両者が激突した時だ。
四皇は、そのトップの圧倒的な力とその威光によって勢力を維持出来ていると言っても過言ではない。
それゆえ、四皇本人とそれ以外──たとえ全戦力と対峙したとしても、四皇には敵わない。
だが百獣海賊団においては事情が違う。四皇カイドウとその兄妹分であるぬえはトップこそカイドウではあるがほぼ同格であり、たとえカイドウとぬえのどちらか一方が相手だったとしても、大看板以下、百獣海賊団一万人の誰一人として2人を止められず、結集したとしても止めることが出来ない。
ゆえにその2人の喧嘩は──それこそ、伝承の中にある伝説の怪物同士の喧嘩だ。
人間では止められない。もはや自然現象にも等しい。まさに“災害”。
「あ……あ……!!」
「ね……姉様!! 早く逃げないと……!!」
「これ、が……四皇……!?」
そしてそれを初めて見る者達は、そのスケールの違いに愕然とする。
先程まで賑やかに行われていた宴の場は散乱とし、船員達が一斉に逃げ出す。
「お、おい!! 何してんだお前ら!! さっさと逃げねェと死ぬぞ!!!」
「それにしても確かに、どっちが上メェね。私は意外とぬえ様が上だと思うメェ」
「姉貴は姉貴で呑気過ぎんだよ!!!」
だがそんな中、空を埋め尽くすほどのその災害を見上げ、棒立ちしてしまう3人がいた。
彼女達の視界には、伝説上の生き物がいる。
しかもそれは、圧倒的な巨躯を持っていた。
「おい、ぬえェ……!!! もう一度言ってみろ……!!! 幾らお前でもその発言は許さねェぞ……!!!」
「カイドウ……!!! あんたこそ、フザけたこと抜かしてんじゃないわよ……!!!」
そこにいたのは──2体の怪物。
数百メートルはあろうかという長く巨大な身体を持つ伝説上の生き物──龍。
百メートル超えの巨大かつ複数の獣を掛け合わせたような異形の妖怪──鵺。
史上最強の生物と称される二体の化け物は、新世界の多くの猛者達の心を折ってきた現実の怪物である。
動物系幻獣種。龍と鵺の力を持つその2人は政府、そして多くの海賊達からこう称される──存在すること
気分で国すら更地に変えてしまう怪物2人は、鬼ヶ島上空の天候を激しく乱し、対峙していた。
「ウ……!!」
「お、おい!! しっかりしろ……!!」
「や、やべェ!! 覇王色だ……!!」
「気絶したヤツは放っといて逃げろ!!! 助けてる暇なんてねェ!!!」
そしてその2人が発する覇王色の覇気は鬼ヶ島全体を揺らし、海を越えた先、ワノ国本土にまでその衝撃を届かせる。
「──うおっ!!? 何だ!?」
「獣達が逃げてくぞ……!? 何があった……?」
「……まさか……」
ワノ国にいたとある侍達もまた、その異変を察知する。
ワノ国に生息する狒々や狛犬、猪といった凶暴な獣達が一斉に北に向かって大移動を始めた。
動物の感覚は鋭い。彼らの本能は確かにそれを感じ取り、生き残るために自分達が出来る最大限の逃避を行っていた。
海に生息する生き物も同じ。鬼ヶ島から少しでも離れようと魚達が一斉に移動を始める。
──だがこういったことは今までにも何回かあった。
カイドウとぬえ。2人が些細なことで喧嘩し、あるいは争い合って周囲の者達が避難することはままある。
だがこれほどの怒りを見せたことは今まで一度もない。
「今回は一体何が原因で……!!」
「1週間くらいで終わってくれればいいけどな……!!」
「ぬえ様が聖地で暴れたらしいし、そのことが原因か……!?」
ゆえに喧嘩の原因が分からない百獣海賊団の船員達は安全だと思われる場所まで移動してからようやく声を震わせながらもその原因を推察し合う。
だが彼らは聞いた。空からの声を。
「いいか、ぬえ……!!! おれが──」
「いい、カイドウ……!!! 私が──」
相手を睨みつけ、ドスの利いた声で告げる。互いが互いの牙を剥き、爪を相手に叩きつけ──とうとうその理由は判明した。
それは、
「──兄に決まってんだろ!!!!」
「──姉に決まってるでしょ!!!!」
「え~~~~~~~~~~~~~!!!?」
「そんな理由!!!?」
そう──カイドウとぬえの今回の喧嘩の理由は……どちらが兄、もとい姉か。
数十年に渡って掘り出されることのなかった問題が、とうとう噴出したのだ。
「──お前が姉な訳ねェだろう!!! どう見てもお前が妹だ!!!」
「──はぁ!!? 見た目は関係ないでしょう!!? あんたのムチャクチャっぷりを考えたらあんたが弟でしょ!!! 私の方がしっかり者なんだから!!!」
「何言ってやがる!!! おれが船長だぞ!!! おれがお前を引っ張ってやったんじゃねェか!!!」
「何言ってんのよ!!! 見習い時代は私が面倒見てたでしょうが!! そもそもあんた、最初会った時歳は10幾つかって言ってたでしょ!!? ってことは私の方が年上!! だから私が姉よ!!!」
「あァ!!? フザけんじゃねェ!! お前だって同じくらいつってたじゃねェか!!」
「うるさい!! あんたが弟で私が姉!!! 何回飯作ってあげたと思ってんのよ!!!」
「関係あるか!!! いい加減にしろ!!! お前が妹だ!!!」
百獣海賊団のトップに立つ2人の口論──“きょうだい”喧嘩はそこから始まった。
ぬえが新入りのハンコック達三姉妹を見て、続けてうるティとページワンという姉弟を見て、何気なく発した言葉がカイドウの耳に留まり、それに異を唱えた。
そして2人は睨み合い、気づけば武器を取り、気づけば巨大な獣型に変型した。
2人が喧嘩することはある。そういう場合、口喧嘩だけで事が収まることはない。
そして今回の喧嘩の原因から考えても、やはり直接手を出し合って喧嘩する方法を取るのは自然だった。
それはある意味、2人の中にある暗黙の、そして絶対的な価値観から来るものだ。それは──
「「──なら勝ったほうが上だ(よ)!!!」」
──強い方が……勝った方が正しいということだ。
異なる意見や価値観、信念がぶつかり合うことなど海賊なら……いや、この世界ならよくあること。
この海で道徳的に正しいだけの信念にそれほどの意味はない。
どれだけ正しく、多くの人の賛同を得られる、人の価値観に沿った真っ当な信念があったとしてもだ。
──力が無ければ何の意味もない。
カイドウとぬえはその強さで、力で、多くの信念を叩き潰し、従わせてきた海の覇者だ。
己の腕っ節のみで四皇にまで昇りつめた海賊界きっての武闘派。
ゆえに力で解決することに両者ともに異論はなく、極めて自然なことであった。
「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」
“百獣”と“妖獣”の咆哮が島を揺らす。
そしてその咆哮と激突。覇王色のぶつかり合いに、百獣海賊団の船員達は耳を塞いでただ避難することしか出来なかった。
確かに彼ら2人にとっては当然の帰結だが、はっきり言おう──巻き込まれる方はたまったものではない。
カイドウとぬえの喧嘩など、島一つ滅んでお釣りが来るレベル。国が幾つか吹き飛んでもまだ終わらないだろう。
「ぎゃあああ~~~~!!!?」
「逃げろ!! とにかく逃げろ!! 巻き込まれるぞ!!!」
カイドウが炎を吐き、雷を起こし、氷塊を叩き落とせば、ぬえも黒雲を生み出し、UFOで攻撃させ、複数の獣の身体で攻撃する。
両者ともに飛行しているが、地面に落ちただけでもその巨躯に叩き潰され、大規模な破壊が巻き起こる──この時、鬼ヶ島が口を開けて、まるで“やめてくれェ~~~~!!!”とでも言うかのように叫んだ姿を幻視した者も出る程だが、言うまでもなく幻覚であった。現実と思えない戦いは見る人の心に酷い恐怖を植え付ける。恐慌し、幻覚を見る者くらい出るだろう。実際に炎に焼かれる者もいるのだ。
「おい、ぬえェ!!! てめェがおれに勝てるとでも思ってんのかァ!!? お前の能力も手の内もおれは全部知ってる!!! 勝つのはおれだ!!!」
「うっさいカイドウ!!! こっちだってあんたの力も戦い方も全部知ってんのよ!!! ……というかあんた、分かってても分かってなくてもどっちにしろ突撃するだけでしょうが!!!」
「あァ!!? ──うブ!!? 何だと!!!?」
上空にいるぬえが黒雲の中から飛び出して龍の身体のカイドウに飛びかかる。巨大な虎の爪がカイドウの長い胴体の一部を捕まえ、そのまま牙でも噛みついた。
だがカイドウの屈強な肉体にはそこまで爪も牙も刺さらない。爪は軽い切り傷になり、牙は僅か数センチは刺さるが、表面を僅かに傷つけた程度。
しかし普通なら無敵とまで言われるカイドウの肉体に傷なんて付かない。百獣海賊団の最高幹部、大看板ですら傷を負わせることは不可能だ。傷を負わせるだけでも凄いのである。
「その程度の攻撃が通じるか!!!」
「! ぐ──通じてるには通じてるでしょうが!!!」
だがカイドウも負けてはいない。噛みついてきたぬえに顔を向け、至近距離で“
その攻撃でぬえの身体の表面がほんの僅かに黒ずむ。火傷……には違いなかった。
しかしぬえもまた怪物。精々表面が軽く火傷した程度であり、普通の人間で言うなら水膨れすら起こらない程度の火傷だ。
だがそれもまた、ぬえの異常な耐性を考えるとありえないことである。拷問用の熱湯油風呂に温泉感覚で浸かり、火炙りにされようが鼻歌を歌って点数を付ける化け物だ。それを考えれば、軽度であっても火傷を負ったというのはカイドウの攻撃の威力が異常であるからだ。
「落ちろ!!!」
「ならあんたも一緒に落ちなさい!!!」
「! やりやがったな……!!!」
そしてそれは両者共に同じだ。
ぬえの攻撃は本来、鉄を豆腐の様に粉々に砕いてしまうものであるし、カイドウもまた城塞を一息で消し飛ばしてしまうものである。
カイドウがぬえを地面に叩きつけようと攻撃を加えると、ぬえが尾の蛇をカイドウに巻きつける。そしてそのまま、両者共に揉み合った状態で地に落ちる。
すると地上では、災害が起きた時のように大規模な破壊が起こった。
「──うおおお!!? やべェ、走れェ~~~!!!」
「カイドウ様とぬえ様が落ちてきたメェ~~~~!!!」
「……!!!」
「うわああああ~~~~~!!!?」
そして偶然その付近にいたページワンやうるティ、ハンコック達三姉妹や他の船員達が全力で走って離れようとする。
身体の大きさが文字通り百倍以上違うため、ただ落ちてきただけでも彼らにとっては凄まじい攻撃になりえるのだ。止めることは不可能。逃げるしかない。逃げ遅れた者は下敷きになった。
「本当に同じ動物系なの……!!?」
「カイドウ様は龍でぬえ様は鵺でメェよ!! どっちも幻獣種で化け物でカッコいいメェね!!!」
「大きすぎる……悪夢でも見てるの……!!?」
サンダーソニアやマリーゴールドといった、初めてカイドウとぬえの能力。獣型を見た2人も逃げながら戦慄する。
ヘビヘビの実を食べた2人の能力も弱くはない筈だが、この化け物2体と比べれば霞む。
「くっ……!! この喧嘩はいつまで続くのじゃ!! どうにか止める方法はないのか!!?」
「あるわきゃねェだろ!!! 無理なこと考えてねェで逃げることだけ考えろ!!! 1週間かそこらもすれば多分収まるかもな!!!」
「「「い、1週間!!?」」」
ページワンの返答に、ハンコック達は驚愕した。戦いが長すぎると。
まるで嘘のような話であった──が、嘘ではなかった。カイドウとぬえは喧嘩をすれば1週間前後は軽く戦い続ける。
そもそも一ヶ月以上、不眠かつ不休。何も飲まず食わずでも戦うことが出来る異常なタフネスを持つのだ。
つまり、一ヶ月近くかかる可能性だってあり得る。それでいて止める方法はない災害。それが2人の喧嘩だ。
「ならその間ずっと逃げ回るのか……!?」
「避難するって意味じゃそうだな!! だがその間何もしない訳ねェだろう!!」
「私達を狙ってる訳じゃないメェから、兎丼にでも避難して普通に過ごすメェ」
「ええっ!!?」
続けてのハンコックの質問に答えるページワンとウルティ。だがその答えにソニアとマリーが驚愕した。
この状態のまま放置して、普通に海賊生活を送れるのか? いや、実際普通ではないのだろうが、災害を止める手立てがないため、放置するしか方法がないのだ。
だから一先ずは逃げて、様子を見ながら普通に過ごす。まさしく災害が起こった時の対処法だった。
「……その間、わらわ達はどうすればいいのじゃ? ぬえに修行をつけてもらう約束だったのじゃが……」
「知るか……!! なんなら後ろに戻って割って入ってみろ!! 結果的に修行にはなるかもだぜ!!」
「…………」
ハンコック達は大分結構な距離を走ってきていたが、ページワンの発言に僅かに振り返って後ろを見る。
「グオオオオオオオ!!!!」
「ガアアアアアアア!!!!」
「…………」
そこには、大きさのせいで未だ近くに感じる怪獣2体の激突が見られた。
ぬえに強くしてもらう約束を結んでいたが、ハンコックは頭を押さえる。すると横からうるティが、
「割って入ったら死ねるメェ」
「……そこのお主……代わりに行って──いや、無理か……」
「あァ!!? ぺーたん舐めんなよ!!? 喧嘩に割って入って生き残るくらい簡単メェ!!!」
「む、無理に決まってんだろ!!! アホか姉貴!!! 死ぬぞ!!!」
「
──やはり無理。
強くなることを目的としたが、さすがに自殺願望はないし、物事には順序というものがあるだろう。いきなりあの戦いに交ざるなどただの自殺過ぎる。せめてもうちょっと強くなってからじゃないと無理だ。
だがしかし、そうなってくると喧嘩の間、何をするのかという話になってくる。
ようやく鬼ヶ島の正面の湖まで来たところで、後はここから船に乗って脱出するだけでいい。膝に手をついて息を乱す者が多い中で、ハンコックは2人の妹に向けて諦めたように告げた。
「しばらく普通に過ごすしかないようじゃな……」
「そ、そうよ。それがいいわ姉様。アレに突っ込むなんて死にに行くようなものよ」
「ひっ!? まだ近くに聞こえるわ……!!」
そうして、ハンコック達は他の者達と一緒に船に乗ってワノ国本土、兎丼にまで避難する。
何気なくページワンとうるティと一緒にいれば、そこに先程会った真打ちや飛び六胞。会ったことのない者も含めて集まって来て、遂には大看板の2人までやってきた。
「──で、今回はどうするんだ……?」
「やることはいつもと変わらねェ……おれとクイーンが交代で鬼ヶ島に詰める。他はそれぞれの持ち場に戻れ」
「おう……当然だな……!! ……はァ……」
「クイーン様が露骨にイヤそう!!」
フーズ・フーが幹部の集まる中でそう尋ねると、キングがそうやって今後の動きを説明する。慣れている様に見えることから、どうやらこういうことはままあることらしかった。
キングの指示を受けて散っていく真打ち達。しかしハンコック達はどうすればいいか分からず立ち往生するしかない。知らない者ばかりな上、男もそれなりに多いので居心地が悪かった。
「……ん? お前らは……ぬえさんが連れてきた新入りか」
「! ……そうじゃ。それで……わらわ達はどうすればよい」
だが真打ちが離れていったところでハンコック達はキングの目に留まる。まだ怯えている妹達に話させる訳にもいかないのでハンコックは見上げ、自分達はどうすればよいのかを率直に尋ねた。するとキングは近くにいた飛び六胞や真打ちの4人を見て、
「おいお前ら。こいつらに仕事を教えてやれ」
「……チッ、しょうがねェな……」
「ああ、わかった」
フーズ・フーが露骨に舌打ちをする。ぬえの連れてきたハンコック達だからこそキングに命令されるのが嫌ながらも渋々受け入れた。
逆にジャックと呼ばれる者などは素直に頷く。ページワンは「やっぱりそうなんのか……」と軽く息を吐いていた。それに対しうるティがまたからかっているが、フーズ・フーがハンコック達に近づいて見下ろしたところで、その余裕はなくなった。
「──ならさっさと付いてきやがれガキ共……お前ら小娘に海賊の仕事ってものを教えてやる……」
「……!!」
フーズ・フーの言葉に3人は緊張感を得た。海賊の仕事。それは略奪や荷運びなどだろうが、仮に荷運び程度であろうとその中身によっては危険な仕事となり得る。ぬえが連れてきたからといって手を緩めたり、贔屓をするような生易しい相手とも思えないため、気を引き締める必要があった。
背後の鬼ヶ島では未だ災害同士の喧嘩が続いている──そしていきなり恩人と一応自分が所属する海賊団のトップがいない状態から気の休まらない百獣海賊団での生活が始まった。
「ウオオオ!!! 良い攻撃だ!!! 新しい技でも作ったのか!!?」
「そうよ!!! あんたじゃなかったら消し炭にしてやれるのにね!!!」
──それは曇天の、火が降り注ぐ日でも。
「──さあ!! しっかりやるごわす!! もっと腰を入れるごわすよ♡」
「ハァ……ハァ……意外とキツいわね……!!」
「甘ったれるなマリー……!! こんなもの、とっくに子供の頃にやり慣れておろう!! さっさと終わらせるのじゃ……!!!」
「それより私は後ろの咆哮とたまに飛んでくる熱線が気になってしょうがないわ……」
「お前らよォ!! ウチの作物ナメたらシバキ殺すぞ!!!」
──彼女達は、うるティについて行って働いた。
「ううっ……!! やるじゃない!!! 私を的確に捉えるなんて!!!」
「お前のスピードは中々だが、おれなら捉えられる……!!!」
──それは荒れ狂う豪雨の日でも。
「ヒヒヒ……!! 今日は大量じゃねェか……!!! おいお前ら……全部狩っちまえ……!! 半端は許さねェぞ……!!」
「……ソニア姉様。急にあいつ、キャラが変わったんだけど……」
「姉がいないからかしらね……それとも、この作業がよっぽど楽しいのかしら……?」
「──この魚群の動きは……? いよいよ怪しいな……てめェ一体どこのどいつだ!!!」
「しかも海に向かって話しかけてるわ……」
「ええいっ!! くだらぬ!! これもさっさと終わらせるぞ!!!」
──彼女達は、ページワンと一緒に海に出て獲物を狩った。
「中々痺れるわね!!! でも私も負けないわよ!!!」
「まだだ!!! おれの力はまだこんなものじゃねェ!!!」
──それは稲光が頻発する雷の日でも。
「──はっきり言っとこう……!! きちんと掘り出せば残業はやめる!!! 掘り出せねェのは……“罪”だ!!!」
「……って、言ってるけど……掘り出しても掘り出しても終わらないわね……」
「というかこの石、触れると力が抜けるんだけど……もしかして──」
「まったく……なんでわらわがこんなことを……!!」
「もう一つ言っとこう!! おれァ破壊が好きだ……!!!」
「うおおお!! すげェ!!! さすがジャック様だ!!!」
「あの速さはジャック様ならではだぜ……!!!」
「そしてこやつらも……なぜこんなにテンションが高いのじゃ……!! ただの労働じゃろう!!」
──彼女達はジャックの破壊活動を手伝った。
「そろそろ疲れてきたんじゃない!!? ──まあ私は後一ヶ月は戦えるけどね!!!」
「バカ言うな!!! ならおれは二ヶ月だ!!!」
「なら私は三ヶ月よ!!!」
「口が減らねェな!!! ウォロロロ!!!」
──それは降り積もる雪の日でも。
「──もし……おれの
「……まさか自分だと思ってるのかしら……?」
「わらわは興味ない……もう考えるのも疲れたわ……」
「まあこの仕事がなくなるんなら助かるけど…………なくなるわよね?」
「いや、なくならないでしょ……今までの飛び六胞皆こういうシノギしてたじゃない……」
「──おい、何ブツクサ言ってサボってやがる。さっさと逃げ出したおれの獣達を探して生け捕りにしろ……!! 北の方に逃げたのはわかってる。必ずこの雪山にいる筈だ……!!」
──彼女達はフーズ・フーについて行って、逃げた獣を生け捕りにした。
そして……そんな日々を過ごして一ヶ月が経った頃。
「──キング様!! 鬼ヶ島にいるクイーン様から連絡が!!」
「静かになったな……やっと終わったか──おい」
「くっ……おのれ……この生意気な……わらわの目を染みさせるとは……!!」
「姉様……思ったより不器用なのね……」
「皮剥きと微塵切りに苦戦してるわ……」
「ええい、黙れ!!! こんなもの……切り刻んで獣の餌にしてくれる……!!!」
「──おい、一旦終わりだ。さっさと行くぞ……!!!」
鬼ヶ島の喧嘩の音が収まり、キングは鬼ヶ島にいるクイーンからの連絡を受け、部下達や3人を連れて鬼ヶ島へ移動する。
盛大な喧嘩があったが、幸いにも鬼ヶ島は原型をしっかりと留めていた。そして、その門前には地べたに座って酒を飲む2人の姿があった。
「──ウォロロロ!!!」
「──あはははは!!!」
──カイドウとぬえ。
一ヶ月近く争っていた2人は、どういう訳か肩を組んで笑い合っていた。それを見て、百獣海賊団の船員達は疲れた表情で2人を見る。
「なぜ仲良くなっておるのじゃ……」
「喧嘩の後はいつもこんな感じだ……今回は長かったな──カイドウさん、ぬえさん」
「ウォロロロ!! キングじゃねェか!!! 久し振りだな!!!」
「あはははは!! ほんとほんと!! 他の皆も久し振り!!!」
「……解決したのか……?」
呑気に久し振りと言って笑う2人に、クイーンが困惑気味に呟く。するとカイドウが皆を見て、
「おう──先に一応伝えとくが……ぬえは姉だ!!!」
「!!」
まさか、カイドウが負けた!? 誰もがそう思う。カイドウが兄の座を譲るのか!? と。
しかし直後、ぬえからも。
「──そしてカイドウは兄よ!!!」
「!!?」
今度は矛盾する逆の発言。やっぱりぬえが負けた? いや、でもカイドウはぬえが姉と言っている。
一体どういうことだと皆が更に頭を混乱させる中、2人は言った。
「つまりだ!! よくよく考えたらおれとぬえは盃を交わした五分の兄弟分!!!」
「そこに弟も妹もないのよ!!! 強いていうなら、兄と姉と書いて
「ウォロロロロロ!!! 違ェねェな!!!」
(え、ええ~~~~~~…………!!?)
その時、百獣海賊団の船員達が口には出さず、心で思う──1ヶ月掛けて出した結論がそれかよ!!! と……。
そして一気に疲れた顔をする百獣海賊団の船員達を見て、カイドウとぬえが首を傾げながら言った。
「……? おい、お前らなんでそんな疲れた顔してやがる。しかもやたら地面に転がってる奴が多いみてェだが」
「何か気を揉むことでもあったのかしらねー。どうしたの?」
「──あんたら
((((それな……!!!))))
カイドウとぬえに対して即座に噛みついてツッコんだうるティに、今回だけは誰もが心の中で頷いた。そしてページワンも今回は止めずに見たままだ。若干怒らないだろうかとビクついてはいるが、それだけだ。
そしてそれを見ていた三姉妹も溜息をつく。
「……中々に大変そうね……」
「ええ……まあ強くはなれそうだけど……色んな意味で」
「そうじゃな……わらわ達も、この1ヶ月で以前とは比べ物にならないほどレベルアップした……!!」
そう。3人が強くなるために必要なものはここに全て揃っている。
そして彼女達は1ヶ月で多くの技術を習得し、成長したのだ。それは──
「農業と漁業と鉱業と畜産業……!!!」
「様々なことを教わったわ……!!!」
「そうじゃ!! これだけ手に職つければ、食いっぱぐれることはあるまい…………って、違うわ!! そうではなかろう!!! 海賊じゃ海賊!! つけるのは腕っ節の方じゃ!!!」
(こいつらも大分染まっちまってるな……1人まだ正常だが)
ハンコック達三姉妹は今や時に軍手と鍬を手に、時にツナギの服を着て網を手に、時にツルハシを手に、時に再び軍手とツナギの服を着て生産業に勤しみ、最近はエプロンを身に着けて料理もする……立派とはまだまだ言い切れないが、一通りの作業を経験した立派な百獣海賊団の船員になっていた。
それを見てクイーンは思う。こいつらもそのうち飛び六胞みたいになるんだろうな……と。将来の戦力になればいいが、またやべー奴が増えることになると一抹の不安を覚えるクイーンであった。
日常回
きょうだい喧嘩→1ヶ月の本気の殺し合いの結果、どちらが上も下もないという結果が出ました。基本的に戦えば喧嘩は終わります。仲良し
鬼ヶ島→この世のありとあらゆる島の中で、最強の島と呼ばれる無人島……!!
ページワン→漁業中……というか姉のいない場所では割とヤンチャな感じを出す
ジャック→おれァ発掘が好きだ(迫真)
フーズ・フー→カイドウとぬえちゃんが暴れたことで獣達が逃げたのでそれを捕まえに。ぬえちゃんの食べる食材は大体がフーズ・フーが管轄してるので、結構重要。飛び六胞は大体そうだけど
うるティ→カイドウとぬえちゃんに容赦なくツッコめるので、肝は冷えるが船員達の声を代弁することもある。喧嘩中にブームがごわすに
キング→キングのお料理教室開催中
ジョーカー→ここは逃げの1手
蛇姉妹→百獣海賊団の新人研修を半工程終えました。やべー仕事と生産的な仕事のギャップに苦しむ予定ですが、どうせそのうち慣れる
ササキ&ブラックマリア→「まだ仕事は残ってるぞ」
ぬえちゃん→今日も可愛いぞ! 可愛い!
という訳で今回は百獣海賊団の日常回、蛇姉妹を添えて――でした。ハンコック達もこれで立派な百獣の一員になれそうですね!
次回は……フッフッフッ!! フッフッフフッフッフッ!! フッフッフッフッ!!
感想、評価、良ければお待ちしております。