正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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狂想曲

 シャボンディ諸島の1番GRで、私の可愛い歌声が響く。

 

「──ミーンゴミンゴ♫ ミンミンゴ♫ 取引いっぱいするミンゴ~♫ 暗躍いっぱいするミンゴ~♫」

 

「…………」

 

「政府を脅迫するミンゴ~♫ 国盗りメチャクチャするミンゴ~♫ おれの名はドンキホーテ・ドフラミンゴ~♫ ミーンゴミンゴドフラミンゴ~♫ 背後にトレーボル、ンゴ~♫」

 

「…………フ、フフッフッフッフッ……そろそろ返答を聞かせて貰えねェか?」

 

「──は? せっかく私が話を分かりやすくまとめたあなたのテーマソングを作ってしかも生歌披露してあげたのに“そろそろ?” ガキの分際で私に催促するなんてナメてるの? そこはちゃんと、“歌を歌ってくれてありがとう”でしょ?」

 

「っ……!! ああ……すまねェ。配慮が足りなかったな……」

 

「ホントだよ。ノリ悪~い。そんなんじゃ新世界でやっていけないよ? ──あ、串焼き盛り合わせおかわり~」

 

「──はい、ぬえさん」

 

 私は用意してもらったソファーに寝転がり、目の前のひよっこにアドバイスをしてあげつつ、両隣に立つジャックとブラックマリアに串焼きのおかわりを言いつけた。目の前にいるひよっことはドンキホーテ・ドフラミンゴ28歳だ。彼も同じくソファに足を広げて座り、背後に最高幹部である汚い見た目の男、トレーボルが付いている。他の幹部達も一緒だ。

 だがそんなに頼もしいファミリーを後ろに引き連れているのに先程からドフラミンゴは額に汗を掻いている。笑みを絶やさないのは良いことだが、なぜ汗を掻いているのか。熱いのかな? それとも……私を恐れているのかな~? 

 でもせっかく可愛がってあげてるんだからもうちょっと楽しそうにしたらいいのに。今も並べられた料理には一切手を付けずに注がれたお酒を申し訳程度に飲んでいる。最初は飲もうともしなかったので私が“飲め♡”って可愛く言ってあげたら飲んだ。私のお酒が飲めないなんてダメだもんね。うんうん。

 

「……料理はお気に召したようで──」

 

「──あ、さっきの話だけど別にいいよ~。好きにしたら?」

 

「…………」

 

 おっと、おべんちゃらを言おうとしたところで思わず話を戻してしまった。うーん、私ったらお茶目で話が早い! マイペース! ドフラミンゴは思わず無言になっているが、再び表情を若干引き攣った笑みに戻すと、

 

「それなら助かる……互いにメリットのある関係を築き上げようじゃねェか……フッフッフッ……!!」

 

「でも勘違いしないでね~♡」

 

「……勘違い?」

 

 そうそう、と私は追加の串焼きを手にとってそれらをぱくついて答える。笑顔をドフラミンゴに向けて、

 

「今はまだあなた達、なんでもない訳だし、上手くいけば良いかな~ってくらいで放置してあげるだけよ。失敗したならそれはそれで別に良いし……だから新世界にやってきて、上手くいくようだったらまた正式に取引してあげるわ」

 

「……ああ、それで構わねェ。具体的な話は今はまだ出来ねェからな」

 

「そうそう、だから頑張って……それと気をつけてね♡ 私達のシンボルに泥を塗ったり……あなた達の取引があまりにも面白くなかったら殺すからね? カイドウにも一応伝えとくけど、カイドウがなんて言うかまでは責任持てないから交渉材料集めて必死に説得してね♡ 失敗したら部下になるか死ぬかの二択を選ぶ羽目になるよ~? あはははは!!」

 

「!! ……頭に叩き込んでおくとしよう……フッフッフッ……!!」

 

 あ、頑張って笑ってる。本当は私にバカにされて内心ちょっとイラッとしてるだろうし、ビビってもいるだろうけどそれ以上に四皇との取引の足掛かりを得ることが出来たから結果オーライで笑ってる感じかな? さすが覇王色。多少は度胸があるみたいだ。

 私達は基本、新世界に来る海賊は部下に勧誘する。頷くならそれで良い。傘下でもまあ構わない。私達の軍門に下るならば細かいことは抜きだ。何か被害を受けたとしても水に流す。強者であれば尚更だ。

 だが部下にならないって言うなら拷問して心を折る。それで部下になるなら良し。どうしてもならないって言うなら殺すしかない。私達の仲間にならないってことは敵になるってことだ。まあその海賊が脅威な訳じゃなくて、他の四皇の部下にでもなられたら鬱陶しいので殺しておくって感じだけど。

 だからまあドフラミンゴもウチに与するって言うなら許してやるのだ。カイドウもドフラミンゴの取引の内容にも依るがまあ断らないだろう。利用出来て旨味があるなら別に構わないし、ドフラミンゴのやり方は確かに有効だ。

 何しろ“七武海”になってその立場を利用した闇取引をするって言うなら、傘下に加えたり部下に入れることはその旨味を消す羽目になってしまう。四皇に対抗するための七武海が四皇の配下になるなんてありえないのだ。政府は許さないだろう。

 だが表向きは独立しており、裏で取引をする程度なら政府も黙認する。政府は政府で自分達に旨味があれば良いし、ドフラミンゴに弱みを握られてるっぽいしね。それがあるから多少の取引は容認してしまうし、表に出ないように工作や情報操作すらするかもしれない。

 だからドフラミンゴを部下にせずそのままの立場で手を組んだ方が良いと思わせれば取引は成立する。──カイドウだってバカじゃない。その方が都合が良いと思えばそうするし、話も通じるだろう。多分、酔ってない時ならね。

 

「──それじゃあ私達は行くから、精々“上”に帰れるように頑張ってね~♡」

 

「……!! フッフッフッ……ああ…………一つ聞いてもいいか?」

 

「何かな?」

 

「これからどこへ行くつもりなんだ?」

 

「ふふふ、それはね~……」

 

 ドフラミンゴは一瞬何を思ったのか表情を凍りつかせたが、すぐに額に手を当てながら表情を元に戻して立ち去ろうとする私に尋ねてくる。

 その内心の驚きを心地良く受け止めながら、私は答えてあげた。指を上に向け、

 

「──空♡」

 

「!!!」

 

 可愛い笑顔で目的地を教えてあげた。

 

 

 

 

 ──聖地マリージョア。

 

「──五老星!! 五老星!! ご報告が!!!」

 

「何だ……騒々しい。一体何があった?」

 

「しゃ、シャボンディ諸島で空飛ぶ船とUFOを目撃したとの情報が!!!」

 

「何……!!?」

 

 その海兵からの報告を聞いて、彼らは海兵と同じく顔が一気に青褪める。

 空を飛ぶ船とUFO。それらから連想出来る海賊は一人しかいない。

 ゆえにその報告があった直後、聖地マリージョア及びに海軍本部には最上級厳戒態勢が発令された。

 

「シャボンディ諸島で百獣海賊団の通過を確認した模様!!」

 

「“妖獣”が前半の海に何の用があって……!!?」

 

「何が起こるか分からん……!! 大将3名を呼び戻し、偉大なる航路(グランドライン)全支部に通達しておけ!!!」

 

「はっ!!!」

 

「“妖獣”め……今度は何をする気だ……!!」

 

 四皇の一角。百獣海賊団の副総督が動いたともなれば、五老星にまで報告が行き、海軍本部が頭を悩ませる。

 それだけ危険な連中である上、“妖獣”の出現は神出鬼没で捉えることが難しいものだ。

 そして態々新世界から前半の海にやってきたその目的を政府は推察し始めるが、到底予想出来るものではない。ただでさえ“妖獣のぬえ”は新世界のトリックスター。何をするかわからない行動が読めない海賊で有名だ。

 だがそのすべては碌でもないことであるというのは分かる。今まで起きた事件は全て背筋がゾッとし、吐き気を催すような残虐な事件ばかりだ。

 

「ただでさえ、こちらの海は魚人海賊団を始めとする海賊達の対応で手一杯だというのに……!!」

 

「センゴク大将!! 九蛇海賊団に軍艦を落とされました!!」

 

「九蛇だと!?」

 

「はいっ!! それも船長が入れ替わっており……とてつもない強さを持つとんでもない美女という報告が……」

 

「……!! まったく……七武海に穴が空いたこの忙しい時に……!!」

 

 海軍本部大将、センゴクは頭を抱えた。ここ最近、偉大なる航路(グランドライン)は荒れ狂っていた。

 “赤髪”という新世界を掻き乱すとんでもないルーキーの登場に始まり、聖地を襲撃し奴隷達を解放した主犯の一人である“フィッシャー・タイガー”率いる魚人海賊団の台頭。

 更には戦闘民族“九蛇”に新たな猛者が現れ、海賊団を率いて遠征を行っているらしい。センゴクにとっては因縁ある“ドンキホーテ海賊団”もまた偉大なる航路(グランドライン)に入ってきて勢力を増しているとのこと。

 そして極めつけは“四皇”。百獣海賊団の副総督である“妖獣”の襲来。

 あまりにも手に負えない、手が足りない。“赤髪”が東の海(イーストブルー)に行ったらしいが、それを追いかけるような余力は今の海軍本部にはなかった。

 

 

 

 

 

「──ふーん、最近は“偉大なる航路(グランドライン)”が荒れてるみたいねー。大変そう」

 

 甲板でビーチウェアに寝転がって日課である新聞を読みながら、私は呟いた。最近は新聞も賑やかで見ていて面白い。

 

「ほら見て!! 私達のことも書いてる!!」

 

「本当ですね♡ ぬえ様の可愛いお顔が一面に」

 

「……それにしてもぬえさん。“空島”へは何をしに行くので?」

 

 私は新聞の一面をブラックマリアとジャックに見せつける。飛び六胞の2人である、私が連れてきた真打ち3人の中の2人だ。もう一人は黙ったまま突っ立っている──が私はそちらを気にせずジャックに返答した。

 

「バカンス。──と、調べ物かな♪」

 

「ここまで来る程、その島には魅力が?」

 

「ふふん♪ 魅力はあるけどね~。でも違うんだよブラックマリア。私の調べだと、その空島には“歴史の本文(ポーネグリフ)”があるっぽいんだよね~♡」

 

「! なるほど」

 

「……なるほど。だからドゥラークがいるのか」

 

「……そういうことよ」

 

 ブラックマリアとジャックがその答えに納得し、もうひとりの真打ち──“ドゥラーク”の方を見る。ドゥラークもその視線を受けて頷いた。自分がここにいるのはそのためだと。

 何しろウチで唯一歴史の本文(ポーネグリフ)を読めるドゥラークはその中身と内容の研究をしてる考古学者だもんね。歴史の本文(ポーネグリフ)を読むならドゥラークがいた方がいい。だから連れてきたし、こうやって空の上をふわふわと浮いているのだ。

 

「それで、空島へはどうやって?」

 

「そんなもん、このまま浮いて行くに決まってるじゃない。場所は大体分かってるし」

 

「“ジャヤ”という島のエターナルポースを手に入れたのはその為ですか……」

 

「そういうことよん。“空島スカイピア“はその周辺にあるらしいからー、私の見聞色とUFOでそれっぽい積帝雲を探したら一発ってことね♡」

 

 と、私は船の上に何機か飛んでいるUFOを指を回してくるくると旋回させながらウィンクする。私のUFOは探知に非常に有用なのだ。

 何しろナワバリの監視や侵入者や反乱分子への攻撃、居場所の特定とかも出来る。

 能力の成長もあるが、私の見聞色の覇気とも組み合わせてやっていることだ。自分で言うのも何だけど、超便利! 

 こうやって私の船を浮かすことだって出来る。UFOは人や物を引き寄せることも出来るので、それの応用で船を浮かせているのだ。

 だから空島に行くことも簡単。一々どっかの島を経由したり、“突き上げる海流(ノックアップストリーム)”に乗る必要もない。まああの海流は見た目派手だから見るの楽しいんだけど、実は偉大なる航路(グランドライン)じゃそこそこ見られる現象なので、何回か見て遊んだことはあるし、そのブームは私の中では去っている。花火くらいの感覚だ。遊ぶとなれば楽しいんだけどね。

 

「その島、“突き上げる海流(ノックアップストリーム)”で行くルートもあるんだって!! 誰か試してみる?」

 

「“突き上げる海流(ノックアップストリーム)”……ああ、()()……」

 

「ぬえ様が以前、遊んでらした海流ですね」

 

「そうそう、捕まえてきた海賊とか海兵を投げ入れてみたり、カイドウと一緒に縦や横に割ったり……あっ、魚人とか人魚を投げ入れて遊ぶのが楽しかったな~♡ すごいんだよ? 空まで押し上げられた段階では生きてるし、割と平気そうなんだけど、海面に叩きつけられて死んじゃうんだから!!」

 

「…………」

 

「ぬえ様らしい……」

 

「……随分と趣味の悪い遊びをしてるのね」

 

「そうかな? ドゥラークも今度一緒にやってみる? やらないで否定するのはよくないし、やってみると意外と楽しいものだよ!!」

 

「遠慮しておくわ」

 

 私が昔を懐かしむようにそう言うと、ジャックは無言になり、ブラックマリアは微笑のままそう呟き、ドゥラークは趣味が悪いと言った。他の聞いていた船員達は割と楽しそう。ウチの船員はそういう残酷な話聞くの大好きだからね! この程度じゃ笑い話だ。まあたまーに私の本気の拷問とか虐めの話になると顔が引き攣ったりするけど、ウチに入るような人達はそういう残虐行為に耐性がある人が多いし、人を虐げる話も笑って聞ける楽しい人達が多いからね! 眉をひそめるのはドゥラークくらいのものだ。とはいえ、彼女も表向きには笑っている。本当は楽しんでないけど、ミステリアスな雰囲気のまま楽しんでいる風に見せているのだ。こう言っちゃなんだけど、毎日が日曜日なエージェントっぽい振る舞い。やっぱり母娘だねぇ。いつか再会出来るといいね!! 

 

「──あ、あったあった。あっちだね~」

 

「もう見つけたの?」

 

「見つけたよ~。南西に20キロってところかな? それじゃ──空島観光へレッツゴー!!」

 

「ウオオオオ!!! さすがぬえ様だ!!!」

 

「キャ~~~!!! ぬえ様~~~♡」

 

 私は可愛い部下達の歓声を一身に受けながら、空島の方へと船を動かした。ふふん、ドゥラークが何て言うか楽しみだね♪ 

 

 

 

 

 

 ──空島スカイピア。

 

 それは偉大なる航路(グランドライン)に存在するれっきとした島の一つ。空に浮かぶ巨大な積帝雲。

 白々海と呼ばれる高度1万メートルの雲の海に浮かぶ巨大な島雲。そこをスカイピアと呼ぶ。

 厳密にはその近くの島──大地で出来た“アッパーヤード”もまたスカイピアの一つだが、その島はまた複雑な事情と問題を抱えていることで知られていた。

 だがその“神の島”には“神の社”が存在する。それはこの国の首長である“神”が住む場所だ。

 そして現在、このスカイピアを治める神の名はガン・フォールと呼ばれる老人であった。

 

「今日はシャンディアとの交渉の日だったな……」

 

「神様……彼らとの交渉も限界では? 彼らは聞く耳を持たない……獣の様なものです」

 

「そう言うでない。歪み争い、掲げる志は違えど同じ人間だ。どんな輩とて襟を開いて赴けば話は通じるものだ」

 

「しかし……」

 

「──失礼します!!!」

 

 神ガン・フォールが住まう神の社にて、彼に仕える神官とのやり取りが響く。ガン・フォールは故郷を取り戻そうと戦うアッパーヤードの先住民族、シャンディアとの戦いを望まず、それでいてスカイピアの民にとっても“大地”は必要なものとして捨てきれないため妥協点を探り合おうと戦いの中で交渉を続けていた。

 神官がそれを無茶なことだとして意見を口にしようとしたが、そのタイミングで慌てた様子の神兵が現れる。この国の軍隊でもある神隊に所属する戦士だ。

 

「? そんなに慌てて……何かあったのか?」

 

「敵襲です!!!」

 

「! まさかシャンディア……」

 

「いえシャンディアではありません!!!」

 

「!! 何!!?」

 

 敵襲ときけば真っ先にシャンディアを思い浮かべる。それであればこう言ってはなんだがいつも通りではあった。

 だがしかし、神兵の顔は更に青褪めている。いつものシャンディアが来たという敵意や忌々しさに満ち溢れたものではない。

 そこには──“恐れ”があった。

 

「現在スカイピアとアッパーヤードが襲われています!! 神隊、ホワイトベレーに……シャンディアもそれを見て迎撃に出ている様ですが、このままでは──」

 

「っ!!! 一体何者だ!!!」

 

 ガン・フォールは血相を変えて問う。

 神兵はそれに答えた。震える声で、襲撃者の正体を。

 

「青海の海賊です!!! “百獣海賊団”と名乗る者達で……!!!」

 

「海賊……!!?」

 

 彼らは未だ知らない。

 大義を掲げる戦士シャンディアは獣ではない。獣と呼ばれようと誰しもが人間であり、確かな心を持つのだと。

 ──いや違う。本物の“獣”は存在する。

 彼らはその日、話が通じない獣とはどういうものなのかを知ることになった……百獣海賊団の手によって。

 

 ──そして神の島での戦いは一瞬でケリが付いた。

 

「──何だ貴様らは!!!」

 

「青海人……!!! 我らが故郷を踏み荒らす気か!!!」

 

 シャンドラの地を取り戻そうと戦うシャンディアの戦士達は、突如としてやってきた青海の海賊達を相手に敵意と戦意を滾らせる。

 

「不法入国者か!!? 報告は受けていないぞ!!」

 

「ここをどこだと心得る!! ここは聖域であるぞ!! 即刻立ち去れ!!!」

 

 神隊もまたスカイピアの地を守ろうと武器を構える。

 シャンディアも神隊も、その手には空島特有の武器。“(ダイアル)”と呼ばれる様々な効力を持つダイアルが使われた武器を持つ。

 青海人は高度1万メートルを超えるこの島では弱い。空の戦いを知らず、薄い空気に適応出来ない彼らなど恐るるに足りない。

 

 ──はずだった。

 

「ぎゃははは!!! おいお前ら!! おれ達を知らねェのか!?」

 

「ぎゃはは!! 故郷だか聖域だか知らねェがそんな言葉で止まるわきゃねェだろう!!」

 

「本当に神がいる訳でもあるめェし!! 神なんざ恐るるに足りねェなァ!!!」

 

 青海の海賊達は全く恐れることもなく、下卑た声で彼らを嘲笑う。

 だが不幸にも、空に住む彼らはその“二本角の髑髏”を掲げる海賊の名を知らなかった。

 知っていれば、彼らも逃げることが出来た。そう──力で敵わない彼らには、ただ逃げることが最善の方法だった。

 

「!!!」

 

「お、おい!! 何だこの地響きは!!?」

 

「! 今空を横切ったのはもしかして……!!!」

 

 彼らはその異様な気配を感じて汗を掻く。

 森を裂き、大地を響かせ、上空には円盤らしき物体が横切る。

 そうして多くの海賊達の後からやって来る本物の怪物達に、彼らは目を見開いた。

 

「──あなた達、今すぐ道を空けなさい」

 

「! なんだと!!?」

 

 その中でまた一人、二本の角が生えた仮面を被った白い髪の女性が彼らに告げる。

 だが彼女もまた、異様な雰囲気を放つ者の一人。彼女は仮面に空いた二つの穴から彼らを見つめ、要求を突きつける。

 

「邪魔をすれば命はないわ。だから今すぐそこをどいた方が利口だと思うのだけど」

 

『百獣海賊団“真打ち”ドゥラーク 懸賞金1億3000万ベリー』

 

「……!!」

 

「何を……!! 青海の海賊風情が……!!」

 

 その言葉に彼らは反感を覚える。

 だが更に後ろからやってくる怪物にどよめき、後退りした。

 何しろ二つの影は人間の身体をしていないからだ。

 

「──どけドゥラーク」

 

「──話にならないみたいね」

 

「!!」

 

 男の声と女の声。

 それを発するのはどちらも巨大な古代の生物だった。

 彼らは大地を揺らしていた怪物がこの2体であることを知る。

 そしてそれらがとんでもない戦闘力を持つことも知る。戦士の中には極一部だが“心網(マントラ)”を持つ者もいた。彼らの底知れない強さを感じ取って既に身体を震わせていたが。

 そして海賊達が再び実力行使に出ようとした瞬間だ。老人の声が響く。

 

「──待てお主ら!!!」

 

「! 神様!!?」

 

「っ、ガン・フォール!!」

 

 スカイピアの神ガン・フォールが割って入ってきたことに神隊もシャンディアも驚く。

 大勢の神兵を連れてきていたが、彼はその怪物達の前に進み出て真っ直ぐに彼らと視線を合わせた。その老人の登場にマンモスも大蜘蛛も訝しげに視線を向ける。

 

「神……?」

 

「この国の王ということかしら」

 

「そうだ、吾輩はガン・フォール!! こちらに戦闘の意志はない!! 話をさせてくれ!!」

 

「話を……?」

 

「あらあら……」

 

「…………」

 

 話が、交渉がしたい。その意志を見せてガン・フォールは真っ直ぐにそう言葉を突きつける。

 要求があるなら聞く。この国の長として、無用な犠牲者を出す訳にはいかないと彼は前に立つ。

 それは立派な姿だった。シャンディアの戦士ですら、歯噛みしながらも口出しが出来ないほどに。

 そう、ガン・フォールはこれまでその姿勢で数百年の確執を持つシャンディアとも話し合いを続けてきたのだ。

 だがしかし……その道理は誰にでも通用するものではなかった。

 

「……今なら要求を受け入れてくれそうだけど?」

 

「──フザけたことを抜かすな、ドゥラーク。おれ達は話し合いに来た訳じゃねェ」

 

「ぬえ様の命令を忘れたの? ドゥラーク。思い出してみなさい。私達に告げられた命令は──」

 

 と、ドゥラークと呼ばれた女性とのやり取り。そして大蜘蛛の方が告げる。彼らに向かって凶暴な獣の瞳を向けて、

 

「──黄金を探す。そして、邪魔する者は全員潰すこと」

 

「……!!! 待て!!! お主らが長ではないのか!!? ならその者と話を──」

 

「!!!?」

 

「ぐああ~~~!!?」

 

「カ、ハッ……!!?」

 

 ガン・フォールがなおも交渉を続けようとした瞬間、マンモスの方が動いた。

 その長い鼻を思い切り彼らに向けて叩きつけて、破壊を巻き起こす。大蜘蛛の方が笑い、ドゥラークが僅かに眉根を上げた。

 

「あら、堪え性がないわね、ジャック」

 

「黙れ、ブラックマリア。──もういい、面倒だ。()()殺していく」

 

「……!!!」

 

 ──何てことを。

 そう思ったのはガン・フォールだけか、それともそうでないのか。しかしその光景を見ていた者達は誰もが思う。

 彼らは──“獣”だ。

 ムチャクチャで話が通じない。一度そこに現れれば、その場にある者を破壊し、奪いたいものを奪うだけ奪って去っていく。それが命であってもだ。

 まさに“災害”だと彼らは偶然にもそう思った。災害と称される者は誰一人としていないが、彼らにとっては十分に災害となり得る。

 

『百獣海賊団“飛び六胞”ジャック 懸賞金4億ベリー』

 

『百獣海賊団“飛び六胞”ブラックマリア 懸賞金3億1200万ベリー』

 

「──さあ野郎共!! 島中を探し回れ!!!」

 

「──ぬえ様の為に邪魔する奴は叩き潰してきなさい♡」

 

「ヒャッハー!!! 行くぜ!!!」

 

「おおおお!!!」

 

 そして、百獣海賊団は神隊とシャンディアの戦士を押し潰し、アッパーヤードに進撃した。

 空に住む彼らは弱くはない。決して。そこらの海賊や荒くれ者相手なら十分に戦いになっただろう。

 しかしやはり──相手が悪かった。

 

「なんて……強さ……!!!」

 

「だから言ったわ」

 

 ガン・フォールのその呟きにため息と共に答えるのはドゥラークだ。彼女は言外に告げた──私が優しく言ってる内に命令を聞いていれば犠牲が出ることもなかったと。

 

「でも今からでも遅くはない。知っているならさっさと喋ってもらえるかしら」

 

「……!! 知らぬ……!! 知っていたとしてもお主らに教えるものか……!!」

 

「神様!!? お下がりを!!」

 

 ガン・フォールが部下の制止の声を振り払って槍を持ち、ドゥラークに向かって構えた。ガン・フォールも弱くはない。元々は戦士でもあったのだ。

 

「──そう。ならどいてほしいのだけど」

 

「出来ぬ……!!」

 

「……なら、死んでも文句は言えないわよ……!!」

 

 と、ガン・フォールは即座に槍を構えドゥラークへ迫った。その槍を女に突きつけようと、少しでもこの地と民を守ろうとする。

 

「──“リエール”」

 

「ぬぐっ!!?」

 

 だがそれは突如として身体を絡め取る何かに止められた。

 ガン・フォールは一瞬何が起こったか分からず、大地へと転がる。

 そして立ち上がろうとするも、その時には既に体中、手も足も縛られて動けなかった。ガン・フォールは歯噛みし、そこで近づいてくるドゥラークを見上げ、その正体を口に出す。

 

「悪魔の実の力か……!!!」

 

「ご明察。さすがにそれくらいは知ってるのね……まああなたと戦っても負ける気もしなければ、傷一つ負う気もしないけど……面倒だから拘束させてもらうわ」

 

「ぬかった……!!!」

 

 ガン・フォールは自らを縛る何かから逃れようとするが、その彼を絡め取る力は相当なものだった。地面の上で藻掻くガン・フォールを見て、ドゥラークは微笑を浮かべる。

 

「大地に執着するあなた達にはお似合いかもしれないわね」

 

「くっ……貴様ら待て……!!」

 

「悪いけど……私は、止まる訳にはいかないの」

 

「!!」

 

 その時、ガン・フォールは仮面の奥に見えるその瞳を見た。

 深い悲しみ、怒り、後悔、絶望、決意──様々な色が滲むようなその瞳とその正体が分からず、ガン・フォールは思わず続く言葉を飲み込んでしまう。

 

「──そこで転がってなさい」

 

「ぐっ……!! やめ、ろ……!!」

 

「心配しなくても用が終わったら私達は帰るわ。だからそれまでは精々大人しくしていることね」

 

 と、ドゥラークと呼ばれる女性はガン・フォールにそう告げて去っていった。道中、他の神兵やシャンディアを同じ様に捕らえ、林の中に投げ入れながら。

 ガン・フォールを含め、神兵もシャンディアも、誰も彼女を含む海賊達の進撃を止めることは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 4つの海や偉大なる航路(グランドライン)前半とかだと、空島なんて夢物語で信じられていなかったりするが、新世界の海賊ならそれを知らなかったとしてもありえないとは言い切れないものだ。

 何しろ新世界には空島と同じくらいおかしな島が沢山ある。燃えてる島や雷の雨が降る島。逆さまの島なんかに比べたら空島は浮いてるだけだし、そこまで変でもない。

 それに新世界にも空島は幾つかあるし、メチャクチャに珍しいって程でもないのだ。だからウチの連中としても驚きこそすれ、新発見というほどでもないしそこまではしゃぐこともない。なんならワノ国の近くにも空島はある。

 というのも海楼石に含まれる成分が角質の粒子で火山によって空に運ばれ水分を得た時にその密度の差で空島を形成する海雲と島雲は形成されるので、海楼石産出国であるワノ国の近くに出来るのは自然な事なのだ。

 

「──ま! そんな難しい話より、私は(ダイアル)歴史の本文(ポーネグリフ)がほしかったんだけどね~!!」

 

「何の話ですか、ぬえさん」

 

「なんでもな~い! こっちの話~♪」

 

 と、私はUFOで集めた幾つかの“(ダイアル)”の山と目の前にある黄金の鐘を見てご満悦になってしまう。やはり実際に見ると中々良いものだね。

 まあ“(ダイアル)”の方は趣味で集めに来ただけ。こういうのクイーンに渡したら絡繰武器としてメチャクチャなの作ってくれそうだしね! 楽しそう。

 

「──ぬえさん。この黄金の鐘は……」

 

「あー、良い良い。別に置いといて良いよ。持って帰るの大変だしね~。歴史の本文(ポーネグリフ)は写したし、私的にはもう満足かな。ということで皆お疲れ様~♡ また奪った物でパーッと騒ぐわよ~!!」

 

「うおおおおおおお!!!」

 

 ジャックが黄金の鐘をどうするかと聞いてきたので、別にいらないと言っておく。船の上に載せると邪魔だし、UFOで新世界まで持って帰るのも大変だ。

 なので他の収穫物だけで我慢してあげる。うんうん。私って超優しいなー。たまには良いことするのも気持ちいいよね! 今生きてる人間は沢山殺しても、絶対に奪われたくないであろう鐘だけは残してあげるんだからさ! 声が結構聞こえるのが不思議だけどね! 多分それはこの仮面の美女のせいだ。

 

「ドゥラークも楽しみだね~? 帰ったらそれに何が書いてあるか私とカイドウに報告してもらうから、しっかりね♡」

 

「……ええ。興味……深いわ。今聞かせなくても平気かしら?」

 

「別にいいよ~。私の勘だと良いこと書いてそうだし、楽しみにしておくね~?」

 

「……わかったわ」

 

 ドゥラークが他の船員達から離れて古代文字をじっと見ていたので声を掛ける。いやー、ドゥラークももうすっかり百獣海賊団の仲間だからね! いつもしっかり働いてくれてるし、今回も歴史の本文(ポーネグリフ)の解読をきちんとしてくれる筈。

 まあそうしないと──()()()()()()()()()()()()()()

 さーて、邪魔する奴は全員ぶっ殺せって言ったのに態々ジャック達にバレないように生かしてるドゥラークは私達への忠誠をきちんと示してくれるのかな~? 楽しみだな~♪

 




ドフラミンゴ→コネが出来たし可愛いぬえちゃんにテーマソング作ってもらって笑顔
政府→前にゲリラライブを開催したぬえちゃんが近くにいると聞いてドキドキ
海軍→仕事が忙しい中、癒やしとなるぬえちゃんニュースをお届け
前半の海→描写はしてないけど道中きっと沢山、空に行った
空島→空に天使参上。この日、スカイピアでは天使の歌声が響き渡ったらしいです
ドゥラーク→雰囲気は毎日が日曜日の人をちょっとだけ真面目にした感じです。百獣海賊団所属なのでちょっと怖め寄りなミステリアス。能力はは分かりやすく強い奴です。現在ぬえちゃんによる抜き打ちテストを受けてますが、そうとは知らずドキドキ
ぬえちゃん→今日もピースメインで可愛い。良いことしかしてないな!

こんな感じでした。次回はワノ国に帰ります。そろそろ将来が楽しみな女の子が登場するかもしれません。お楽しみに

感想、評価、良ければお待ちしております。

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