正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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お気に入り4000突破。皆様ありがとうございます。伸びまくり。これはゴムゴムですわってことで、本編どうぞ


嵐の前の静けさ

 ──海軍本部“マリンフォード”

 

「──良く戻ってきてくれたな、ガープ……センゴク少将もご苦労……」

 

「おお! それで、何の用だ!!?」

 

「ッ!? おいこらてめっ──ガープ!! 中将殿には敬語使えっていつも言ってんだろうがァ!!」

 

「──あ、忘れとった。悪かったな、中将殿。名前は……え~と、忘れた。まァいいか」

 

「失礼にも程があるぞ貴様ァ!!?」

 

「…………いやァ、いいさ。ガープの性格は分かってるからな……」

 

 その部屋は執務室であり、巨大な執務机と帽子を被った“中将”と呼ばれる初老の男が座っていた。

 そしてその男の背後の壁には、額縁に飾られた“正義”の二文字がある。

 海軍本部という場所は、正義を胸に抱く海兵達の砦。そこにいる彼らもまた、正義の為の戦力に他ならない。

 

 ──ガープにセンゴク。中将の前に立つこの2人は、10年前に入隊した同期の海兵達の出世頭である。

 

 精悍な顔つきをした不敵な笑みを携え、荒々しくもどこか気の抜けるような不思議な空気を纏う男の名がガープ。

 アフロヘアーに黒縁の丸眼鏡。生真面目そうだが、胆力を覗かせ、荒い雰囲気もある男の名はセンゴク。

 2人の同期には、つる、ゼファーなどの例年であればその世代のトップの実力を持つような者達が在籍しているが、中でもこの2人……特にガープに至っては、海軍大将や海軍元帥、はたまた世界政府からも、次代の海軍を担う男として政府内でも有名人であった。

 だがその理由はその強さと……功績もあるが、それだけでもない。海兵としては前代未聞な問題行動が多すぎるが故の……さすがに犯罪行為はないにしろ……謂わば“悪名”も含まれていた。

 そのことを思い、海軍中将は人知れず年季の入った溜息をつき、同時にそれを気にしている場合ではないと思い直し、早速話を進めた。

 

「──とりあえず、順繰りに話を進めるが……まずは……ガープ。お前の昇進が決定した!」

 

「!」

 

 センゴクの顔が驚きのものに変化する。だが、止めずに中将は続ける。

 

「おめでとう。正式な辞令と勲章授与は後になるがこれでお前も海軍中将だ。私とも──」

 

「おー、そうか。──それじゃあな」

 

「──って帰ろうとするんじゃない!!!」

 

「ふざけるな()()()()()ゴラァ!!!」

 

 それだけ聞いて直ぐに部屋を退出しようとしたガープを中将とセンゴクが怒りを込めたツッコミで引き止める。センゴクに至っては生真面目な為か、一応“中将”と階級を付けてツッコんでいたが、この感じだとあまり意味はなかった。

 

「あ~~~……それで、まだ何かあるのか? おっさん」

 

「…………」

 

「中将殿!! 抑えて下さい!! ──おいこらガープ中将てめェ! いい加減にしねェと張り倒すぞ!!」

 

 ──いかん。このままでは話が進まない。

 椅子に座る中将の男は自分を落ち着かせるように息を吐き、本題を話すことにした。

 これを聞けば……思えば、もう呑気に笑ってなどいられないのだと、

 

「……昨日の“海軍基地襲撃事件”……その首謀者が……“ロックス海賊団”だった」

 

「!!? ……ロックスの件とは聞いてたが……そいつは…………本当の話なのか?」

 

 口に出したくもないその言葉を出した時、ガープもセンゴクも中将も、誰もが顔を青ざめさせ、緊迫した空気が場を支配する。

 本当の話かと再度確認をしてきたガープにも直ぐの返答が行えず、先に無言の首肯を行ってしまう。すると次にセンゴクが、

 

「……残念ながら事実だ、ガープ……! “偉大なる航路(グランドライン)”にある世界政府加盟国のとある国と海軍基地……海軍基地を壊滅させ、その基地に勤めていた海軍中将1名を始めとする海軍将校10名と多数の海兵を惨殺し、多くの略奪を行った凶悪海賊……それがロックス単独ではなく、ロックスが率いる海賊団であると、生き残った海兵直々の証言で明らかになった……!!」

 

「……! 穏やかじゃあないが……何故今更……」

 

 センゴクの説明にガープのような細かいことに興味のない者ですら驚く。それほどに、ロックスという男は有名で……そのロックスが海賊団を率いることは異常事態であった。

 そこでようやく中将も話に参加する。ガープの言葉に答えるように、

 

「さァな……長年、単独で海賊として活動し、多くの事件を引き起こしてきた奴だが……未だこれほど大規模な事件はなかった……しかも海賊団を率いるなど…………いや、まさかハチノスの元締めになったのも最初からこれが狙いで……?」

 

 中将が自分でも言いながら思考する──そう、ロックスはかつて、流浪の海賊だった。

 しかしその圧倒的な強さと狡猾さ……海軍の追跡を躱す天性の嗅覚とも言うべき感覚を持つ彼を、誰も捕らえることが出来ずにいたのだ。

 海賊島“ハチノス”の元締めになったこともそれに拍車を掛けた。奴は長年、海賊としての部下を持たないことで有名な上、同じ海賊からもその悪名高さや性格故か目の敵にされていた。

 しかしそんな海賊達をも、彼はその腕っぷしで黙らせ、海賊島を“支配”してしまった。

 だがそれからしばらくは大人しくしており、海軍はほんの少しの安堵と、拍子抜けしたような気持ちを抱いていたものだが……やはり懸念は当たっていたし、間違ってもいた。まさかこれほどの事を起こすとは、と。

 

「! ……その配下はどうなってる? 雑魚が集まってるだけなら、実際の脅威度はそれほど──」

 

「……これを見ろ。ガープ」

 

「ん? こいつは……、──!!?」

 

 中将の男がガープに向かって手渡したのは、簡単で海兵達にとってはよく目にするもの──手配書だ。

 だがその量と、写っている顔触れは尋常ではない。ガープでもやはり、知っている者達ばかりだ。

 

「船長ロックスを筆頭に……! “白ひげ”に”シャーロット・リンリン”!! “金獅子”に……!! なんだこいつらは!! なんでこれだけの面子が集まって……!?」

 

「他にも見たことある顔ばかりだろう……これは本日発行される手配書だ、ガープ。金額も軒並み、大幅に上がってる……総合賞金額(トータルバウンティ)はまだ推定だが、100億ベリーを超えるかもしれないらしい……政府が余程危険視している証拠だな……」

 

「まだ全ての船員を確認出来た訳ではないからな……手配書にはないが、報告では巨大な龍や不思議な羽で飛ぶ少女なども確認されているらしい……詳細はまだ分からないため、厳密にはまだ“未確認”と言うべきだがな……」

 

「……!! こりゃ、悪夢だな……!」

 

 多くの凶悪な海賊達をその腕っぷし1つで捕らえてきたガープでさえ、その面子と報告には歯噛みし、険しい表情を浮かべる。

 こんな奴らが世に放たれたら、人々は恐怖で夜も眠れないだろう。

 それに……なにせやられたのが海軍基地だ。これでは世界政府に対する信用も落ち込んでしまうだろう。

 

「既に政府はこのロックス海賊団が引き起こした事件をもみ消すことを決定した……が、これだけ大きな事件だ……目撃者も多数……どれだけ隠し通せるか……」

 

「ッ……!!」

 

「…………」

 

 中将の力無い言葉に、ガープが強く拳を握りしめる。彼にとって海軍は自らの居場所で、民衆は守るべきものだが……“世界政府”には苦い思いを抱いていた。

 センゴクはそんなガープを横目で見ながらも何も言わず、無言を貫いた。2人は口を開かない。そこで続いた言葉は中将のものだ。

 

「直ぐにこの悪の進撃を、なんとしてでも止めなければならない……既に先んじての会議が行われ、大将の出動や“バスターコール”の使用も考慮されている──そこでだ、ガープ。お前にも、このロックス海賊団の一件に関わってもらいたい」

 

「!! だがおれはあの馬鹿を──」

 

「ああ…………“ロジャー”か。確かに……奴も確実に摘んでおかなければならない悪の芽だ。奴が名を上げ始めて約5年……もうそろそろルーキーとも呼べないか……」

 

「そうだろう!! だからおれは奴を何としてもとっ捕まえて……!!」

 

 中将が頷く。確かに、その男……“ロジャー”と呼ばれる男は海賊として脅威であることに違いない。

 しかし、

 

「──だが、対処すべき順番としてはこちらが先だ……!! 奴は確かに脅威だが、“ロックス”の脅威とは比べるべくもない……!!」

 

「っ……!! だが──」

 

「くどいぞガープ!! これは元帥閣下直々の命令……いや、“厳命”だ!! 普段の発言や行動には目を瞑るが、今度ばかりは許されん!!」

 

「!! くっ……」

 

 普段以上に緊迫し、命令違反は許さないといった剣幕で告げる中将に、さすがのガープも言葉に詰まる。

 海軍中将になれば海軍内部でも何をどうするかの自由は殆ど約束されているようなものだった筈だが、海軍のトップである元帥直々の厳命ともなれば、逆らえない。

 ──だがそれは、普通の者であればだ。ガープはそれを耳にし、しばらく押し黙って考え込むと、ややあって静かにこう言った。

 

「……なら、どっちも捕まえてやる……!!」

 

「!!? な……何だと!?」

 

「!? おいガープ!! お前──」

 

 中将が驚愕し、同期であり勝手知ったる仲であるセンゴクが止めようとする。が、やはり止められなかった。もう一度、彼は大声で宣言する。

 

「“ロックス”に“ロジャー”……!! どっちもとっ捕まえてやる!!! これなら文句ないだろう!!!」

 

「……!!!」

 

「っ……この、馬鹿……!!」

 

 中将が思わず唖然とする。センゴクも表情を歪め、またやりやがった、と内心でひとりごちた。

 そうして言い切ったところでガープは鼻を鳴らす。これでいいだろ、と言わんばかりの態度で、

 

「ふん、これで話は終わりか? ──ならもう行くぞ」

 

 そう言ってずかずかと大股で執務室を出ていくガープ。その後ろ姿にセンゴクは声を荒らげた。

 

「! ガープ!! お前、今からでも──」

 

「……いや、いい……センゴク……」

 

「!? 中将殿……!?」

 

 しかしその引き止める声は他ならぬ中将の手によって差し止められる。遠ざかるガープに目もくれず、机に両肘をついて下を向き、深い溜息を吐いていた。そしてセンゴクに向かって呟くように言う。

 

「私じゃガープを止められんことは薄々分かっていたからな……なにせ奴はああいう男だ……階級も同じだしな」

 

「し、しかしそれでは組織として──」

 

「いや、本当にいいんだ……ガープがああ言うなら……おそらく、大将らや元帥殿も納得するだろう……とはいえ、失敗すればどうなるかは分からんがな……」

 

「……中将殿……」

 

 その言葉にセンゴクは何も言えなくなる。確かに、上層部はガープに期待している。

 だが同時に、危険視もしていることをセンゴクは知っている。彼の行動や考え……思想は、一歩間違えれば非常に危険なものなのだ。

 しかしその危険よりも何よりも……今は”ロックス”の脅威を政府は恐れていた。

 

「上層部でさえ、今やてんやわんやの大騒ぎだ……どう対処すればいいのかも模索している状態……センゴク……お前も心して掛かれよ……これからの海は荒れるぞ……!! 海軍や世界政府でさえ……乗り越えられるか分からないほどにな……!!」

 

「ッ……はい……!!」

 

 ──“絶対的正義”を掲げる海軍でさえ、“ロックス海賊団”の脅威には未だかつてない懸念と不安を……抱いてしまっていた。

 

 

 

 

 

「──はい、今日もご苦労さま」

 

「クー」

 

 海賊見習いとしての仕事の1つに、朝一番に届けられる“新聞”を受け取る仕事がある。

 海のど真ん中でどうやって新聞を貰うのかと知らない者は疑問に思うかもしれないが、知っている者には当然のこと。

 “ニュース・クー”と呼ばれる水兵帽を被ったカモメ。彼らが新聞の配達人……配達鳥、配達役である。

 彼らは首から新聞の束を入れた赤いカバンをぶら下げており、世界中、何処にでも新聞を届ける。

 そして、売る相手も選ばない。

 新聞の配達を行わせているのは世界政府ではあるが、たとえ海賊だろうと金さえ払えばこの新聞は買うことが出来るし、この鳥が新聞を届けたからといって海賊の居場所や情報が漏れることはない。正確には届けてるというか、海を飛び回って新聞を売りつける相手を探しているといった方が正しい。

 だからこそ……この“凪の帯(カームベルト)”のど真ん中。空に浮かぶこの船にさえ、ニュース・クーは新聞を届けてくれるのだ。

 

「──ギハハ……! 来たか、新聞……!」

 

「! 船長」

 

 新聞を受け取りニュース・クーを見送ると、船室の扉を開けてこのロックス海賊団の船長であるロックスが勢い良く現れた。その手には朝食だろう、美味しそうなサンドイッチがあり、もう既に幾つか齧りついている様子。美味しそう……後で私も貰いに行こう。

 

「今から届けに行こうと──」

 

「ギハハハハ!! 待ちきれなくて受け取りに来ちまったぜ!! 寄越しな!! 情報は武器だ!!」

 

「……どうぞ」

 

 ……ちょっと子供っぽいところもあるな……ロックス船長……まだ早朝で殆どの船員が寝てるのに、新聞が待ちきれずにサンドイッチをぱくつきながら現れるとか……絶対に口には出さないけどつい思ってしまう。

 いつもなら船長室まで届けに行く新聞の束を、ロックス船長は空いた片方の手で受け取ると、屈んだ状態で新聞に目を通し始めた。

 すると……普段から浮かべている凶悪とも称される笑みを更に歪め、

 

「……なるほどなァ……!」

 

 と、そこに書かれている内容がよほど良かったのだろう。そんな言葉を呟く船長。……やっぱ私達が起こした事件のことが書いてあるんだろうか? 

 そう思い、しばらく眺めていると、ロックス船長は他の幾つかの新聞も見て、何枚かの紙だけを抜き取り、何かを確認したところで新聞を床に捨てる。あっ、私も読みたい……拾いながら見ようと手を伸ばすと、

 

「ギハハ、やっぱりな。──()()()()()()()

 

「え……?」

 

 不意に耳にしたロックス船長のその言葉に、私は動きを止める。何も書いてない? それは一体どういう……? 

 でも新聞に目がいく途中で気づく。先日船長が言ったことと、起こした事件。

 それらを考えれば、新聞に載っているかと探した情報は、

 

「……私達のことが、何も載ってない……?」

 

「! そりゃあそうさ……! 海軍基地が海賊に落とされた、なんて書ける訳がねェよなァ……? ギハハ、正義の軍隊も大変だ、同情するぜ……身内がやられたってのに、それを民衆に伝えることすら出来ねェんだからなァ……ギハハハハ……!!」

 

「……情報操作……」

 

 船長の笑い声が響く中、私は呟く。すると船長がこちらに視線を寄越して、ニィ、と笑みを深くした。

 

「おうさ。情報操作にもみ消し……! 政府の十八番だな。でかい事件……それも海軍や政府の信頼が堕ちるようなもの程、事件は隠蔽される──だが、情報がまったくの0って訳じゃねェ」

 

「え……あっ、これ……!」

 

 一時はそのまま立ち去ろうとしたロックス船長だが、こちらの言葉に反応して近づいてくる。そして今度はその手に持った新聞から抜き取った紙の束を屈んでこちらに見せてきた。見てみな、という声を聞きながらその見覚えのありすぎるものを確認してびっくりする。これは──

 

「ギハハハハ……! そう、おれ達の新しい手配書さ……! ギハハ、随分額が上がったな……! おーおー、おれ以外にも10億超えがちらほらと……総合賞金額幾らだこりゃあ? どうやら政府の奴ら、よっぽどおれ達を消してェらしいな……!」

 

 ごくり、と喉を鳴らす。船長が言った様に、船員達の多くの手配書がそこにはあった。

 中でも“白ひげ”や“シャーロット・リンリン”、“金獅子”などの、もはや幹部と言っていい者達は懸賞金額が10億を超え、その他の船員達の中にも億超えが相当数増えている。

 特にロックス船長に至っては、また懸賞金額の最高値を更新し、軽く20億を超えて30億近い値をつけられてしまっていた。

 だが当然、海賊にとって懸賞金は勲章の様なもの。ロックス船長はそれを見ても面白そうに笑うだけだ。

 

「事件をもみ消されようが、悪名は高まる……人の口にも戸は立てられねェ……情報は必ず漏れるのが常さ……! ギハハ、政府の間抜け共は一体いつまで隠しきれる? 世相に反して増え続ける被害に、どれほどの信頼が低下する? 民衆だって馬鹿ばっかりじゃねェぞ……! 耳に届くおれ達の脅威を止められない海軍と世界政府に、不満が出ない筈はねェからなァ……!! こりゃあ2年後の“世界会議(レヴェリー)”が楽しみだな……ギハハハハ!!」

 

 ロックス船長の自信ある言葉に、私も内心で頷く。確かに、隠しきれないだろうと。

 ロックス海賊団はまさしく怪物の巣窟だ。世間のどんな悪人、海賊、無法者よりも手強い海賊。

 それらが海軍と世界政府の関連する国や島だけを襲い続ければ、当然だが、世界政府加盟国からも批判が殺到するだろう。

 海軍が防衛と治安維持に役に立たない。機能が不完全ともなれば、自国を……いや、自分達の身を守るには、それを是正しようと声を上げるか、自分達で補おうとするしかない。

 それらの対応にも追われ、海軍の戦力は少しずつ削ぎ落とされ、逆にロックス海賊団は勢力を拡大していく……そして最後には、ロックス船長が言ったように、天竜人は地に堕ちる。

 ──それを思うと……()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──それにしても、ガキの癖に頭が回るじゃねェか」

 

「……え? ──あっ、はい! 恐縮です……!」

 

 だが不意に船長から話しかけられ、私は少し慌てて返答する。褒められてしまった。普通に嬉しいのが困る。というか、最近、実はちょっと良い人なんじゃないかと思い始めてきた。いや、極悪人ではあるんだけど、なんだろう。別に部下にはそこまで横暴じゃないというか、怖いは怖いけど、意外と話せるというか。ほんとに意外だけども。

 

「ギハハハハ、やっぱりお前を使ったのは正解だったな……! どれだけ強い力を持ってようと馬鹿に作戦を理解させるのは疲れるし、そもそも使えなかったりするからよォ……まァカイドウの奴も悪くはねェが……ギハハ、おれァお前の方が好みだぜ……? ぬえェ……!」

 

 ──え、何? ロリコン? いや、ちょっとそれは困るし引くなぁ……。

 

「ギハハ……お前、何か変な事考えてねェよなァ……?」

 

「そ──そそそそんなことないですよ……!」

 

 やっば怖い怖い怖い!! 失敗した! この人、見聞色の覇気の使い手だった……! 心の声聞かれた……? い、いやいや、さすがに具体的にどんなことを考えてるかは分からない筈。精々、何か不埒なことを考えたのを察したくらいだろう。うん。だからその圧というか多分覇気やめて!! 

 

「……まァいい。お前とカイドウには期待してるぜ?」

 

「は、はい! 精進します!!」

 

 右手を頭にやってビシッと敬礼して返事。あっ、でも敬礼って海軍の奴だよね? 海賊に使っていいのだろうか。まあ大丈夫だと思うし、ロックス船長なら皮肉が利いてるとかで喜びそうだけども。

 

「ギハハ……面白ェ、敬礼とは皮肉が利いてるじゃねェか……!!」

 

 あ、ほんとに喜んだ。これが見聞色の覇気……な訳ない。単純にロックス船長の性格とこれまでの言動からある程度理解出来ただけだ。

 

「それじゃそろそろ仕事に戻りな。直に野郎共が起きてくるぞ」

 

「あ、はい。えっと、新聞……」

 

 ロックス船長の指示に頷きながらも、床に捨てられた新聞をちらちらと見てどうしようと言外に尋ねる。すると、

 

「……何だ、読みてェのか? なら好きにしていい。後で野郎共にも見せるから見終わったら持ってきな」

 

「あ、ありがとうございます! 持っていくのは大丈夫です! ここで読みますから!」

 

「……そうか。それなら好きにしな」

 

 と、ロックス船長は私が新聞を読むことを許可してくれると、甲板に取り付けられた船長椅子にどかっと座り込んで再びサンドイッチを食べ始めた。そう、この人、あんな迫力あること言ってたけど右手にサンドイッチ持ちながら喋っていたのだ。ちょっと似合わなくて面白い。まあロックス船長も悪魔とか呼ばれてても一応人間なんだから普通にご飯は食べるってだけの話なんだけどね……っと。

 

「ふんふ~ん、えっと……何々……?」

 

 そういう訳で新聞を甲板で開いて読み始める。ここは“凪の帯”。風も吹かないので新聞がはためくこともなくて読みやすい。

 そして新聞は私の数少ない娯楽の1つだ。何せここは海賊船で私は海賊見習い。

 やれることと言えば酒盛りか新聞を読むこと、もしくは適当にカイドウと何かするかくらいしかない。あ、でもこの間の略奪でちょっと本とかボードゲームも奪ってきたのでこれで暇な時は時間を潰せるようになる。飽きるまでの間だが。

 そういう訳で貴重な読み物である新聞を読んでいく。ほほう、“西の海(ウエストブルー)”で流行り病。感染がこれ以上広がらないように国がようやく対処を協議……国の遅すぎる対策……あー、これね。昨日も見た。ようやく対処に乗り出したのね……遅くない? 今更悠長に協議とか無能過ぎる。どうせその対策もアホ丸出しか保身が見え見えのあまり効果的じゃない対策なんだろうなぁ……。

 まあこれはいいや、大体理解した。えっと、それじゃ捲って、次は──……えっ!? 

 

「こ、これ……」

 

「──ギハハ、何を見て驚いてやがんだ?」

 

「あっ」

 

 私がとある記事の1つを見て驚いていると、朝食を食べ終わったのかいつの間にか立ち上がったロックス船長が私の近くまで来ており、横から私の読んでいるところに視線を向けた。

 すると船長は知っていたのか、

 

「──へェ、海賊の事件に興味があるのか」

 

「……そんなところです」

 

「……? ギハハハハ……だが中々良いところに目をつけるな」

 

 そう、私が見ていたのはとある海賊の記事。

 ”偉大なる航路”で海賊同士のぶつかり合いがあり、とある海賊が勝利した……という、言ってみればなんてことのないよくある事件だ。

 だが私がそれを見て驚いたのも、ロックス船長が良いところに目をつけたと言ったのも、その起きた出来事の方ではない。それは……その名前の方だった。

 

「──“ロジャー”。こいつァ、ここ数年で勢いのある海賊だな。そこそこ名のある連中を次々に倒して名を上げてやがる」

 

 その名は──“ゴールド・ロジャー”

 この時代の一海賊であり……海賊として、1つの偉業を達成する男の名前だ。

 

「ギハハハハ……まだ若ェ癖に“偉大なる航路”で大暴れ。クソ生意気だが、まァ、そこらの海賊より見どころがあるのは確かだ。出くわしたら傘下にでもして“支配”してやりてェところだな……! ギハハハハハハ!!」

 

「…………」

 

 ロックス船長のその言葉はいつも通り、自信に満ち溢れたもの。

 船員であり、その力を実際に見た私は分かる。ロックス船長の力は正に桁違いだ。底知れない。未だ彼が本気を出せる敵には当たっていない。そこそこの大物海賊も海軍中将も軽く、まるで赤子を相手にするように捻ってみせた。

 ひょっとしたらこの世界に、彼より強い人間は……いや、生物は存在しないのではないかと思ってしまう程。実際、海軍大将や元帥でも相手にならないのだろうな、と何となくではあるが、そう思う。

 ロックス船長に支配出来ないものなんてない……その力の一端を見た私でさえ、それを信じきることが出来ない。

 新聞に載る“ロジャー”というもう1人の“伝説”に、私は胸がざわつくのを抑えることが出来ない。

 だが、

 

「……! へっくしっ」

 

 って、寒くなってきた……さっきまではまだ暖かったのに……。そう思っていると、

 

「そろそろ“凪の帯(カームベルト)”を越えて“北の海(ノースブルー)”に入るな……ギハハ、拍子抜けだぜ。海王類の一匹にも出会わねェとはなァ……つまらねェが……まあいい。このムカつく顔の野郎を傘下にするのはまだ先だな。まずは……この海で、暴れまわるとするか……!!」

 

 ──そう、出会うことになるのはおそらく……まだ先。どんな過程を辿り、どんな結末に終わるのかも分からない。

 

 だが1つだけ理解出来るのは──

 

「荒れそう……」

 

 ……彼らの道が交わる時……それは時代を大きく動かすことになるだろうということ。

 それまでに、私が生きていられるかは分からないが、とにかく、生きて頑張ってみよう。

 そうすれば私もまた、もっと、楽しめるかもしれない。

 

「──っと、そういや伝え忘れるところだったぜ……ぬえ、お駄賃に欲しい物を1つ言ってみな!」

 

「! 欲しい……物? ──あっ!」 

 

 突然言われたことだが直ぐに思い出す。そういえば、仕事を頼まれる時にそんなことを言われていたなと。

 

「見習いとはいえ、おれァ働きには報いる(たち)さ! さァ言え! 何が欲しい!?」

「……あっ、えっと……それじゃあ──」

 

 急に言われて一瞬たじろぐが、少し思考し、()()()()()()()()()があったので、ダメ元で、私はそれを船長に伝えることにした。

 

 

 

 

 

 

 ──“偉大なる航路”、海上。

 

「ギャハハハハ!! 聞いて驚け!! おれ達は、あのロックス海賊団の傘下!! キンケツ海賊団だァ!!」

 

「選べ!! 傘下に入るか……それとも無惨に死ぬかをなァ!!」

 

 曇天の空の下で2隻の海賊船が向かい合う。

 ロックス海賊団の傘下だという海賊達に、荒々しくもそう問いかけられたその海賊達は、自分達の船より大きい彼らの船と馬鹿笑いする彼らを見上げて口々に言い合う。

 

「──だとさ? どうするよ」

 

「“ロックス”か……下手に刺激するのは得策ではないが……どうする?」

 

 肩に斧を担いだサングラスの男と、金髪に丸眼鏡を掛けた剣士の男が2人して問いかける。ロックスと言えば知らない者はいない程の大海賊の名前であり、風のうわさでは、かなり勢力を拡大しているらしい。普通なら、相手にしないのが1番良い。

 だがしかし、直ぐに彼らはその道を諦めた。船の先頭に立って相手を見る我らが船長を見て、やれやれ、と笑みを浮かべる。

 そしてその船長もまた……立ちはだかる敵を前に、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「──ロックスが誰だか知らねェが、おれァ誰の下にも付く気はねェよ!! 海賊は────“自由”だ!!」

 

「っ!!?」

 

 その男の尋常ではない“覇気”に、少なくない数の相手が気を失った。

 ロックスの名を出しても怯えるどころか、敵を相手に楽しそうな笑みを浮かべるその男。

 

 彼の名は──“ゴール・D・ロジャー”。

 ただの……そう、ただ“自由”に海を行く……“海賊”である。




海が荒れ狂うなって。次回からはまた数ヶ月飛びつつ、暴れ回ったり色々します。伝説の男達も活躍させたいわね。前話のUFOやらの話もだし、そろそろ他のロックス海賊団の面々とも絡みます。
という訳で次回をお楽しみに

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