正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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居眠り狂死郎

 海賊国家“アマゾン・リリー”新皇帝、九蛇海賊団船長──“海賊女帝”ボア・ハンコックの“王下七武海”入り! 

 

 近年最も世間を騒がせたニュースの内の一つがこれだろう。

 数年前に九蛇海賊団から失踪したボア姉妹が先々々々代皇帝グロリオーサと共にアマゾン・リリーに帰還した。

 ボア姉妹の長女ボア・ハンコックは帰還するなり、先代皇帝に皇位継承の“武々”を申し込む。

 アマゾン・リリーでは強い者が美しい。ゆえに最も強い者がアマゾン・リリーの皇帝と九蛇海賊団の船長に就くのが習わし。

 外の世界では認められぬ海賊行為を国を挙げて行うこの国では、王とは“強さ”だ。

 力を以て国に恵みを与え、守護をする。赤子の頃から覇気を学び、戦士としての訓練をする戦闘民族九蛇に於いて力は正義だった。

 だからこそ──武々で先代皇帝に勝利したボア・ハンコックはそのままアマゾン・リリーの皇帝となり、九蛇海賊団の船長となり、皆に敬意を持って迎えられた。

 おそらく、外海で鍛えたと思われるその圧倒的な強さと覇王色の覇気。それらは国の中だけではなく、新体制となった九蛇海賊団の最初の遠征でも遺憾なく発揮された。

 商船3隻、海賊船2隻から略奪。島を1つ落とし、海軍の軍艦を2隻沈めた。

 それによってボア・ハンコックは初頭手配にして9000万。

 2人の妹、サンダーソニアとマリーゴールドもそれぞれ5000万の懸賞金を懸けられた。

 そして同時に政府からの打診により、ボア・ハンコックは偉大なる航路(グランドライン)の三大勢力の一つにして政府公認の海賊──“王下七武海”に加入することとなった。

 政府からも認められるその強さと美しさに国中が沸き上がり、世間は畏怖と共にその美しさは語り草となる。

 ──だが、その誰もが知らない。

 

「──蛇姫。“王下七武海”入りは喜ばしいことじゃ。……だが、未だ()()()()との繋がりがある状態での加入は危険じゃぞ……!! 今はまだバレておらニュが、バレれば称号剥奪は免れん……!! 代わりに“四皇”の庇護は受けれるかもしれニュが、あれらに支配され──」

 

「──黙れ!! わらわの言うことに口出しする気か!!」

 

「っ……しかし……!!」

 

「もうよい、話は終わりじゃ……消え失せよ!!」

 

「おお~~~~!!?」

 

 九蛇城から放り出される者と、放り出し息を吐く者。

 前者の姿が見えなくなり、部屋に妹2人しかいなくなったところで、後者は小さく呟く。

 

「あの者達の恐ろしさを知らぬくせに……好き勝手言いおって」

 

 ──そう、世間は知らない。

 傲岸不遜、唯我独尊な海賊女帝には……忌々しくも逆らうことも敵に回すことも出来ず、未だ彼女を支配下に置く怪物が2人もいることを。

 

 

 

 

 

 ──“海賊女帝”の王下七武海就任により、抜けた穴が埋められ、三大勢力の均衡が維持されたと政府の誰もが僅かに肩の荷を下ろした。

 だがそれでも偉大なる航路(グランドライン)で海賊の被害は無くならず、毎日の様に大きな事件が起き、政府を悩ませ、世間を驚かせる。

 そしてこの日もまた、政府を戦慄させ、世間をゾッとさせ、新聞屋が狂喜乱舞する大事件が起きた。

 その大事件の舞台は──新世界。

 

『──は~~~ぁ~~~い♡ 世界政府に海軍、見てる~~~? 百獣海賊団副総督にして最強の美少女、世界一のアイドルのぬえちゃんで~~~す!! ちゃんと見えてるなら画面の前で返事してね!! 私には聞こえないけどね!! ──ってことで、今日はまたびっくり仰天の面白楽しいことを配信してあげま~~~す!!』

 

「……!! これは……!!?」

 

 その映像を確認した政府の人間、海軍将校らが顔を青褪めさせる。

 映像の中にはマイクを手にした黒髪の美少女が映っており、それにまず嫌な予感しかしない。

 彼らにとって楽しいことなど海軍にとって良いことな筈がないのだ。その予想は予想せずとも分かる。

 そして更に映像の中でとある2人が対峙してることでより一層彼らは恐れた。──これは、そういうことかと。

 政府側の誰もがゾッとしたその直後、画面の中の怪物は怪物らしからぬ可愛い声と笑顔でその最悪の状況とも言えるその配信の内容を説明する。画面の横にずれて、

 

『何をするかと言うと~~~まあもう皆見えてると思うけど、簡単に言えば今日は──“【雑魚すぎ】王下七武海をぶっ殺してみた【海賊ごっこ】”配信となりま~~~す♡ 実況解説賑やかしは全部私で、実行役にはな、ななななんと!! 四皇の一角にして私達百獣海賊団の総督!! “百獣のカイドウ”にやってもらいまーす!! わー! ぱちぱちぱち~!!』

 

『──ウィ~~~……うるせェぞぬえェ!!! 何一人で喋ってやがんだ!!!』

 

『はーい!! どうやら酔ってるみたいで、しかも機嫌が悪いみたいですね~~~♪ いやー、これは運が悪いね!! そもそもこの配信を始めた理由が、カイドウが酔った勢いで喧嘩を売ってきた七武海を直接殺しに行っちゃったから、すぐに追いかけてせっかくだから見せしめにしてやろうと思ったからなんだけど、これはしょうがないよね!! 七武海如きが私達に喧嘩を売ってきたんだし、これから何度も売られたらうざったいからぶっ殺しておくことにしま~~す!! 七武海が死ぬところを見れるなんて皆運が良いね!!!』

 

「……!!!」

 

 今度もまた、誰もがゾッとする。

 画面の中に映る男は確かに、四皇の一人。最強生物と称されるイカれた怪物、“百獣のカイドウ”だった。

 凄まじい凶相と屈強過ぎる肉体とその大きさに歴戦の海兵ですら汗を掻く。画面越しですらその恐怖は伝わってきた。

 そしてその強さもまた……画面の中でカイドウの金棒が七武海の一人であるとある男を殴りつけ、一撃でノックアウトしたことで伝わってきた。

 

『さーて、そろそろ試合開始──って、あ~~~~!!? こらこらカイドウ!! 何一撃で伸してんのよ!! もっと盛り上げてからちょっとずつ痛めつけてからやりなさいよ!!! これじゃ盛り上がりに欠けるじゃない!! それに配信時間1時間を予定してたのに、さっさと倒しちゃったら撮れ高がないじゃん!! 残りずっと感想戦と拷問しないといけなくなるんだけど!!』

 

『知るか……このガキが弱すぎるせいだろうが!!! クソ、ムカつくぜ……こんなに弱ェ癖に粋がりやがって……!!!』

 

『それもあるけどね!! こっちの……もう名前も忘れたけど海賊ごっこが大好きなよわよわ海賊君さぁ!! もうちょっと頑張れないの? はぁ……あー、まあとりあえず負けたこととこれから死ぬことも踏まえて今の気持ちを聞かせて貰いましょう!! ──ほら起きろ!!!』

 

『……!!! アアアアアアァァ~~~~~!!!?』

 

『はい!! 種も仕掛けもない四肢切断ショー!! まずは左腕から!! う~ん、ナイスな悲鳴だね!! 左腕が切られた時の悲鳴はこんな感じ!! 滅多にないだろうから切り取って素材にしてもいいよ!! 後、配信の最後には七武海の体の部位を送りつけるプレゼント企画もあるからちゃんと最後まで見てね!!!』

 

『ウ、グ……ハァ……ハァ……やめ……ろ……!!』

 

「なんて酷い……!!」

 

 画面の中では歪な映像が繰り広げられる。

 王下七武海の一人。誰もが知る屈強かつ凶悪な海賊がカイドウに一撃で倒され、ぬえによってバラバラに刻まれてどんどんと見るも無惨な姿と表情を晒していく。

 相手が海賊とはいえ、大の男が叩きのめされ、血塗れになり、涙と鼻水を出しながら命乞いをする様は同情してしまう光景だった。やめてやってくれと言いたくなる。

 だがこれは既に過去の配信映像。さらし首にされた元七武海である故人がまだ生きていた頃の記録だった。

 

『次はスプーンの有効活用方法をぬえちゃんが特別にお教えしちゃいます!! ご家庭にある何の変哲もないスプーンも的確な角度と力で差し込めば……ほら簡単!! 綺麗に目玉が取り出せちゃうんだね!!! 主婦の皆さんは夫が他の女に見惚れるようなら試してみて!! きっと二度と他の女に見惚れることなんてなくなるよ!!!』

 

『ウアアアアァァ~~~~!!?』

 

『──おいぬえ。そろそろ帰るぞ。このガキ共の首をさっさと晒しちまえ』

 

『え~~~? まだまだやりたいことあるのに。しょうがないなぁ……それじゃ残った片方の目で仲間の首が次々に斬られるところを見てもらおっかな~~~♡』

 

『や、やべろ……やべで、ぐれ……』

 

『やだ♡ やめないよ~~~♪ ──1人目~~~!!』

 

『ギャアアア~~~!!!』

 

「……ウッ……」

 

 映像を見ていた幾人かの海兵が口元を押さえる。その凄惨過ぎる映像に吐き気がした。

 その最悪の映像は多くの人間の目に映り、既に七武海の1人がカイドウに一撃で倒れ、ぬえに残虐に殺されたことは周知の事だ。

 最強生物にして四皇最強というカイドウの評判が更に上がったこの大事件は映像を闇に葬ることで決着を見た。そして当時の事件を生で見た新世界の一部の人間は更にカイドウ達を恐れるようになり、2人の懸賞金もまたこの時に大幅に更新されたという。

 

 

 

 

 

 ──ワノ国“鬼ヶ島”。

 

「──ウォロロロ……!! 政府もとんだマヌケだな。新しい七武海にハンコックを就かせるとは……!!」

 

「あはは、ほんとバカだよねー!! もうちょっと情報収集頑張った方がいいと思うな!! ──ね、ジョーカー!!」

 

「──ええ、全くね♡」

 

 鬼ヶ島は百獣海賊団の本拠地である。ワノ国に住む人間なら誰もが知る事実だ。

 その中のカイドウと私の屋敷で酒を飲んでいると、仕事から帰ったウチの頼れる最高幹部達が報告にやってくる。まず最初にやってきたのは“ジョーカー”だ。

 

『百獣海賊団大看板“戦災のジョーカー” 懸賞金11億9000万ベリー』

 

「新聞屋への根回しに政府及び世間への誤情報の流布……随分と面白いように踊ってくれるわ」

 

「おう、ご苦労だったなジョーカー。ハンコックの奴が七武海になれば政府の手駒も減る。おれ達には都合が良い……」

 

「ええ。都合よく回るように手配してるわ、カイドウさん。──それとぬえさんが言っていたドフラミンゴとやらの情報も持ってきてる」

 

「ああ……このおれと取引がしたいとか言う生意気なガキか。どうだったんだ?」

 

 カイドウの感覚としては3億4000万のドフラミンゴも新聞でチラッと見た程度の若造でしかない。さっき言ったばかりなのに思い出したようにカイドウは呟いた。なので私は改めて言っておく。

 

「近々新世界に来てブローカーになるんだってさ。どうなるかわかんないけど、とりあえず1000人分奴隷を貢がせて放置してあげたの」

 

「出身の北の海では闇取引を専門にしてたみたいね。そして……20年前に地上に下りた天竜人の一家。ドンキホーテ一族の1人に間違いありませんわ」

 

「元天竜人とは面白ェな……まあいい。実際に挨拶に来てから考えてやる。面白くねェ取引を持ちかけてきたら殺して部下にするか」

 

「半殺しね、半殺し。殺したら部下に出来ないじゃん」

 

「うるせェな。言葉の揚げ足を取るんじゃねェ……そうだ思い出した。空島で取ってきたとかいう“歴史の本文(ポーネグリフ)”はどうした? ドゥラークを連れて行ったのはそのためなんだろう」

 

 カイドウはドフラミンゴについては早々に結論づけて話題を空島のことへ変えたので、私は答えた。私とカイドウの前に立つドゥラークにも告げるように。

 

「色々あって楽しかったよ!! “(ダイアル)”もクイーンに渡して色々作ってもらう予定だし、黄金で収入も結構入ったからね!! おまけに“歴史の本文(ポーネグリフ)”も見れて最高!! ──そうだよね? ドゥラーク♡」

 

「……ええ。実りが多い航海だったわ」

 

 仮面の女、オハラの生き残りであるニコ・オルビアことドゥラークが私の言葉に頷く。するとカイドウもニヤリと笑みを浮かべた。

 

「そりゃ結構なことだ。ということは──古代兵器とやらの場所でもわかったのか?」

 

「…………!」

 

「多分そうだよ!! 私も目の前で見てて結構な力の気配を感じたしね!!」

 

「あら──だから()()()招集したのね」

 

「!」

 

 カイドウが世界を滅ぼすことの出来る古代兵器を欲しがるのは当然。私達が探してるのは一応“ロード歴史の本文(ポーネグリフ)”だが、“真の歴史の本文(リオポーネグリフ)”や普通の歴史の本文(ポーネグリフ)だって探している。

 歴史の本文(ポーネグリフ)には古代兵器の場所が記されていたりもするからだ。ゆえに古代文字を読むことの出来るドゥラークは私達百獣海賊団にとっても特別であり、カイドウもドゥラークの存在を気に入っている。──もちろん私もね♡

 そして私は期待を込めた言葉でドゥラークを追い詰めつつ、ジョーカーはやってきた2人の人影を見やった。残り2人の大看板だ。

 

『百獣海賊団大看板“疫災のクイーン” 懸賞金12億2000万ベリー』

 

「ムハハ!! あの“(ダイアル)”とかいうエキサイトな物だけじゃなくてまだ面白ェ報告があるってのか!!」

 

『百獣海賊団大看板“火災のキング” 懸賞金14億3000万ベリー』

 

「カイドウさん、ぬえさん。つまりおれ達を招集した理由は──」

 

「……!!」

 

 百獣海賊団の最高幹部である3人の災害──大看板。

 普段は各地のナワバリやワノ国でそれぞれの管轄を取り仕切っていたりする彼らが揃い踏み。ドゥラークは僅かに身体を固くする。

 そしてキングの質問にカイドウが引き継ぐように答えた。それはドゥラークにとって最悪の言葉だっただろう。

 

「ああ……古代兵器を取りに行くぞ。どうせ普通の場所にはねェだろうからな……!! それで全員で祝おうじゃねェか!!! 世界を滅ぼせる兵器が手に入れば、あの忌々しいババアや“白ひげ”も、世界政府だろうと何もかもをぶっ壊せる……その前祝いだな……!!!」

 

「…………!!」

 

 そう──古代兵器の場所が分かれば、すぐにそれを奪いに行く。

 どこにあるかにも依るが、古代兵器なんてものが眠ってる場所が普通の場所である筈がない。

 カイドウや私、そして大看板……いや、百獣海賊団の全兵力を使ってでも取りに行く、

 そうなれば幾つもの国や島が滅び、大勢の人間が死ぬだろう。

 古代兵器の威力は実際には分からないが、他の四皇や世界政府に対して有利に立てることは事実だ。

 ──ま、私は場所も知ってるんだけどね~♪ 

 だからこれはちょっとした“踏み絵”だ。ニコ・オルビアという女が私達を裏切るかどうかの。

 古代兵器の内、1つは場所もわかるしどんなものかも知っている。だからいつでも取りにいける。

 だが他の2つ。特に残り1つは場所も分からないし、ロード歴史の本文(ポーネグリフ)に至ってはオルビアが必須である。

 この女が土壇場で裏切ったら面倒なのだ。

 一応人質を取ってはいるが、どう出るかはまだ分からないし、ここらで1つ試してみようという訳だ。

 

「──ドゥラーク。読んでみせろ。そこには何が書いてある?」

 

「……ええ」

 

 空島の歴史の本文(ポーネグリフ)の写し。それを広げ、ドゥラークはその前に立つ。

 私やカイドウ。大看板が見守る中、ドゥラークはついにその言葉を紡いだ。

 

「──ここには……」

 

 ──娘の命か、世界か。

 かつて問いかけて選んだものだが、実際に引き金を引けるのか。

 私はそれを内心、興味深く見ていたが……しかし。

 

「ここに書かれているのは…………歴史よ」

 

「──なんだと?」

 

 カイドウが問いかける。だがドゥラークは首を振り、

 

「これは“真の歴史の本文(リオポーネグリフ)”よ。だから古代兵器の在り処は記されていないわ」

 

「え~~~!!? おいおい、早とちりってことか!? じゃあ!!」

 

「あら……残念ね」

 

「…………」

 

 その言葉に大看板の3人も拍子抜けだと言う風にリアクションを取る。

 そして私とカイドウも。

 

「……あれ~? じゃあ私の気のせいかー。う~ん、わからないならしょうがないね」

 

「…………そうだな。残念だが仕方ねェ。真の歴史の本文(リオポーネグリフ)が手に入っただけでも良しとするか」

 

 納得したように言葉を紡ぐ。ドゥラークの肩から僅かに力が抜けたようだった。

 だがその微妙となった空気の中で、カイドウはドゥラークに告げる。

 

「ああ、そうだドゥラーク。お前、今度からジョーカーの下につけ」

 

「! それは……いいけど、一体どんな理由で?」

 

「お前の能力は諜報にも使える。それにお前は頭も回るからな……ジョーカーの下についていた方がいいだろう──わかったならもう行っていいぞ。ご苦労だったな」

 

「……ええ、わかりました。それでは失礼します」

 

「ウフフ、今度からよろしくね♡」

 

 と、カイドウの指示を了承したドゥラークは去っていく。ジョーカーがよろしくと声を掛けたが、軽く会釈するだけだった。相変わらずと言えばそれまでだが、いつもよりも暗いようにも思える。

 そうして、ドゥラークが離れていった後、カイドウはため息を1つつき、そしてジョーカーに告げた。

 

「──おい、ジョーカー」

 

「何でしょう?」

 

「ドゥラークが裏切らねェようにきちんと見張ってろ」

 

「ええ、()()

 

 当然と言った様子で私達はやり取りを再開する。誰もがわかっていた──ドゥラークは信用ならないと。

 

「とはいえ安易に殺したりしないようにね~♪ 歴史の本文(ポーネグリフ)を読める人材なんて替えが利かないんだからさ」

 

「もっかい脅しちまえば一発だ!!」

 

「ガキの指の一本でも見せてやれば従順になる……やるならおれにやらせてくれ。カイドウさん」

 

「おー、やめとけ。それはそうだが、まだいい。これについてはどうにでもなる。また別の歴史の本文(ポーネグリフ)の時に試してやろう……あの女が使えるのは間違いねェし、“ロード歴史の本文(ポーネグリフ)”や他の研究では嘘をついてねェみたいだしな……」

 

 カイドウにしては寛大な判断を下す。それもドゥラークが歴史の本文(ポーネグリフ)を読める唯一の人材だからだろう。簡単には切り捨てないし、大事にしてやっている。強い部下や使える部下には割と懐が広いからね、カイドウは。

 

「だがもしもの時はドゥラークを人質にガキの方を使っちまおう……ガキの居場所もきちんと把握しておけ」

 

「ええ、そちらも問題なく」

 

 百獣海賊団の情報関係を任されているジョーカーが余裕な様子で答える。

 いざとなればそちらを奪取することだって可能なのだ。問題ない。勢力の拡大は極めて順調だ。

 カイドウの指示に大看板の面々が頷く。──が、そこでキングがタイミングを見計らっていたのか、口火を切った。

 

「──そういえばカイドウさん。ガキと言えばあんたのガキがまた問題を……」

 

「あァ!!? どっちだ!! ()()()か!!? それとも()()()か!!?」

 

「どっちもだ……」

 

 キングのその報告にカイドウが怒り、それ以外の面々はなんとも言えずに押し黙る。だが私は現実逃避気味に気楽に言った。

 

「相変わらず元気いっぱいだねー。──それじゃ、私達はオロチにお呼ばれしてるから誰か解決しといてね♡」

 

「そういやそうだったな……クソ、誰か捕まえて部屋にブチ込んどけ。おれ達が帰るまでにな」

 

「え~~~マジかよ……ああ、そうだ。飛び六胞にやらせちまおうぜ。今ならジャックにブラックマリアにササキもいるじゃねェか!!」

 

「……おいジョーカー。てめェがやっても構わねェが?」

 

「ドゥラークにやらせましょう。能力的に捕らえるのも向いているし、元々子供がいたのだから扱いも慣れてるんじゃないかしら」

 

「──誰でもいい!! 後でおれが叱りつけてやるから帰ってくるまでに捕まえてくれ!!」

 

 と、明らかに嫌がって仕事を押し付け合う大看板にカイドウが頼み込み、私とカイドウは花の都へ向かった。──はぁ……戦力拡充も何もかもが基本的に上手くいってるけど……ウチで唯一上手くいってないのが家庭問題だとは誰も予想しないだろうなぁ……。

 

 

 

 

 

 花の都はワノ国では唯一華やかで富に溢れた場所だ。

 住民は毎日明るく楽しく暮らしている。食べることにも困らない。娯楽や賭け事に興じる余裕もある。

 この国の事業は全て将軍、黒炭オロチと百獣海賊団によって経営されており、生活の全てを支配されている。

 賭場や遊郭は百獣海賊団の真打ち、オロチ配下の侍、そして侠客が取り仕切っているし、寺小屋には百獣海賊団から送られてきた工作員による思想教育も行っている。

 鎖国は国の入り口を閉じて国の平和を守ること。

 開国は国に悪い人や考えを招き入れる悪いこと。国を開けば海外はワノ国の様々の物を欲しがり、国を破滅させる。

 それを行おうとした悪者が光月おでんと赤鞘九人男。

 そして黒炭オロチはそんな彼らを倒して国を救った英雄であり、オロチ二刀流という武術を使う剣の達人。

 そして百獣海賊団、カイドウは国を守る“明王”である。

 今のワノ国ではそれが常識であり、その教育を受けて育った子供達が徐々に大人になり、新たな世代の侍になり始める頃だった。

 

「──よく来た、今日もお前達のお陰で飯が美味いぞ!! ムハハ!!」

 

「おう、相変わらず機嫌がいいみてェだな」

 

「あ、とりあえずお刺身盛り合わせと天ぷらとお酒ちょうだい」

 

 酒を飲んで機嫌が良さそうなオロチは私とカイドウを丁重に迎える。──ぶっちゃけ、自分で言うのもなんだけど、オロチはよく私やカイドウと普通に付き合えるよね~。なんかもう普通に友達みたいな感じだ。

 私は料理と酒を持ってこいとその場にいた役人に申し付けると畳の上に敷かれた座布団の上に座った。カイドウも別の場所に座る。

 まあ大体こうやって定期的に3人で飲むことがままあるのだ。一応話し合ったりもする感じでね。

 もう数年前ならひぐらしやせみ丸もいたんだけどなぁ、と思いながらもお酒を女中に注いでもらう。

 

「この間連れてきた移民のおかげでワノ国の住民は更に貧困に喘いでおる……ぐふふ、まさかあんな方法があるとは思いもしなかったぞ」

 

「あれはぬえが考えた奴だな。元が奴隷だからかよく働く奴らだ」

 

「あはは、移民政策って国民をじわじわ苦しめるのにうってつけでしょ? いやー、上手くいって良かったよ。ぶっちゃけなんでそうなるかとか詳しいことは知らないし、これもオロチの政治能力が高いからだね!!」

 

「ムハハ……だがあんな発想は儂にはなかった……!! 感謝するぞ、ぬえ、カイドウ……!!」

 

 オロチは悪い顔でそれを喜ぶ。そうそう、奴隷解放の時に連れてきて海賊にならない連中はワノ国で働かせてるのだ。

 オロチはワノ国の住民を苦しめたいが、ワノ国が潤ってある程度は私達に恩恵が行き届かないと困る。

 そこで移民とかどう? って私が適当に提案した。ぶっちゃけ政治なんて私もカイドウもわかんないからオロチに殆ど丸投げしつつ、何となく提案だけしてみた。

 要はワノ国の住民の職を奪ってしまえばいいというだけのこと。解放した奴隷を住まわせ、今までよりも安い賃金で働かせる。元が奴隷だからかある程度安くても十二分に働いてくれるし、それで満足できない元々の国民は貧しくなる。

 ──て、そんなめちゃくちゃ適当でうろ覚えで間違ってるかもしれない知識を披露したら、オロチが良い感じにまとめて施政した。私やカイドウは海賊団経営で国を支配することは出来るけど、実際の政治とかはわかんないからね。でもオロチは出来る。さすがだ。

 という訳で兎丼とかでは元奴隷の移民がよくよく働いて花の都や私達百獣海賊団の生活を支えてくれている。なんともありがたい話だ。

 ワノ国の支配は盤石。基本的に上手くいってるが……しかし、不安要素が全く無いとも言えない。そう、例えば、

 

「──そういや赤鞘の生き残りとやらは見つかったのか?」

 

「いや、まだ見つからねェ……見つかったのは相変わらずお前達が捕らえた河童の河松だけだ……九里の山奥に大層強ェ盗賊が住んでて、それがアシュラ童子である可能性もあるがそれ以外はさっぱりだ!!」

 

「見つけたら部下にするのにな~。ちょいちょい私のUFOが変な連中を攻撃したりして追いかけてるけど、なんか段々と逃げ方や躱し方が上手くなってきて中々捕まらなくなってきてるのよね~」

 

 そう、赤鞘の生き残り。これがオロチの頭を常に悩ませている原因だ。

 まあ私やカイドウなんかは見つけたら捕まえて部下にしてやろうと思うくらいだが、小心者のオロチはビビって仕方がない。

 まあ復讐は来るとしてもまだまだ先だとは思うけどね、多分。確実なことは言えないけど、少なくとも半分はまだいないはずだ。

 

「──オロチ様」

 

「ん? どうした」

 

「あ、お料理お料理~♡」

 

 話が赤鞘のことになると、ちょうど料理が運ばれてきて、そしてまたすぐに人がやってくる。お庭番衆のリーダー、福ロクジュだ。相変わらずの福耳だし頭が長いなぁ、と思いながら刺し身を箸で摘んでいく。

 

「“狂死郎”がお目通りをと」

 

「む……ああ、そういや丑三つ小僧とやらの捕縛を言いつけていたな……進展があったか? ──通せ」

 

「はっ、ではすぐに」

 

 オロチがその者をここに通せと許可を出すと福ロクジュが一瞬で消える。さすが忍者。まあ私は見えるけどね。はむはむ。というか狂死郎が来るならあの子も来るかなー? と私は楽しみにしながらそれを待つ。

 するとしばらくして、

 

「──おお、来たか!! 狂死郎!!」

 

「──はっ。オロチ様に……カイドウ様、ぬえ様もいらしておいででしたか。これはこれは……恐悦至極に存じます」

 

『黒炭家御用達両替屋 狂死郎一家親分“居眠り狂死郎”』

 

 眠そうな吊り目のリーゼントの侍が恭しく頭を下げる。

 彼は数年前から花のヒョウ五郎に代わって花の都の裏社会を取り仕切るようになった狂死郎一家の狂死郎親分だ。

 まあ要はヤクザの棟梁な訳だが……うーん、やっぱすっごい変わりようだねぇ。これは確かに知ってなきゃわからない。わかる筈もない。

 彼はニヤついた表情のままオロチに頭を上げるように言われ、そのまま報告を行った。

 

「何か進展があったのか?」

 

「はい。それがどうにも丑三つ小僧とやらは中々すばしっこく捕まえるのに苦労しており……情けない願いではあるのですが、今しばらく時間を頂ければと」

 

「ふむ……憎たらしいが、まあ構わん。くるしゅうないぞ、狂死郎」

 

「はっ!! 感謝申し上げます!!」

 

 そして狂死郎は相変わらずオロチに強い忠誠を見せつけている。……うーん、少しからかっちゃおうかな~♪ 

 

「そういえばさっきの赤鞘の話だけどさ~」

 

「!」

 

「む?」

 

 狂死郎やオロチが反応したところで言う。何気なく、間延びした口調で。

 

「傅ジローとか、かなり頭も良かったし、元々サングラス掛けてて目元もわからないし、案外花の都に()()()()と思うんだよね~」

 

「なっ……また冗談か!?」

 

 オロチが私の言葉にビビる。お膝元である花の都にいるとか怖いもんね。うんうん、いつ暗殺されるか気が気じゃないだろうし、ちゃんと牽制してあげなきゃ! 

 

「いや、冗談って言うかそうかもなーって。案外変装してたりして……ねぇねぇ、狂死郎はどう思う?」

 

「……なぜ私めに?」

 

「いや、花の都に詳しそうだから似てる人でも見かけたことないかなーって。──あっ、もしかしたらその丑三つ小僧が傅ジローの可能性もあるじゃん!!」

 

「……なるほど。左様ですな……似たような人物は見たことありませぬが、ともかく注意しておきましょう。丑三つ小僧の捜索も最善を尽くします」

 

「うんうん、お願いね~♡」

 

 わーすごーい! 全然ボロを出さないね!! ──とはいえ内心ビビりまくってそうで楽しいけど!! あはは、からかうの楽しいな~♪ 

 ということでもっと楽しむとしよう。私は笑みを浮かべて、顔を少し奥に向ける。

 

「まあそれは良いとして──()()()()()もこっちおいで♡ せっかくだからお刺身食べさせてあげるね!!」

 

「……!」

 

「……はい。では失礼します」

 

 私は狂死郎に付いてきていた花魁の従者と思わしき少女に声を掛ける。

 すると狂死郎の動揺が先程よりも大きく感じられた。だが逆にその少女──小紫の方は落ち着いている。落ち着いた様子で私の近くにまでやってきた。するとカイドウが私とその少女を見て。

 

「相変わらずお前はそいつがお気に入りだな。なんかあるのか?」

 

「うん、才能ありそうだなーって思ってね♪ それにこの娘すっごい可愛いし、将来は花魁としても侍としてもすっごい成長すると思うな!」

 

「……お戯れを、ぬえ様……その娘はまだ花魁としても見習い。どこの馬の骨とも知れぬ孤児です。侍として大成するなど……」

 

「ん~? そうかなぁ? この間遊びでちょっと鍛えてあげたら結構筋が良かった気もしたけどなー。──あ、そうだ。いらないならしばらく私が預かるね♡」

 

「っ……!! またですか……小紫には花魁として教えることが山程ありますので、出来ればご遠慮頂きたく……花魁であれば他の者を好きなだけ連れて行かれれば──」

 

「やだ♡ 小紫ちゃんが良いんだもんね~!! 小紫ちゃんも、私のところで色々教わりたいよね?」

 

「…………ぬえ様がよろしいのであれば。私に選択権などございませぬ」

 

 小紫ちゃんは子供とは思えないほどに冷静に頭を下げる。なんとかそれを避けようとする狂死郎よりよっぽど落ち着いていた。まあもう何回かお泊りはしてるもんね♡

 

「おい狂死郎。構わないだろう。ガキの1人や2人くらい」

 

「はっ……それは、確かに……」

 

「じゃあ決まりね♡ 後で一緒に鬼ヶ島に帰ろうね!!」

 

「……畏まりました」

 

 そしてオロチにまで言われてしまえば、もう狂死郎に為す術はない。ここで無理矢理に引き止めたら怪しいもんね? 

 そうして私は狂死郎の微かな震えと小紫の据わりきった目を楽しみつつ、内心でさらなる楽しみに心を浮かれさせた。ふふふ、さーて、帰ったらいっぱい遊ぼうね──()()()()()




ハンコック→原作より若干懸賞金が上がりました
王下七武海→この時期空きが多すぎるのでメチャクチャぶっ殺されてるんじゃないかと。そのうち1人はカイドウにワンパンされ、ぬえちゃんの配信のゲストになって首を晒されて体の部位を色んな場所にプレゼントされました
ドゥラーク→自分にしか読めないことを良いことに虚偽報告。やっぱり母娘だね。いずれ後ろから刺されそう
子供→ヤマトとムサシ。さすがにそろそろ生まれてるだろう読みというか、飛び六胞を招集するくらい厄介な相手なら13歳以上だよねという読みです。ムサシは本作で唯一そこそこ関わるオリジナルキャラかもしれない(まだ未定)
オロチ→移民政策や思想教育でご満悦
狂死郎→変装キャラの中では1番わからない奴。相手が悪い
小紫→詳しくは次回
ぬえちゃん→今日も可愛い。チャンネル登録者数3万人は確実にいる(百獣海賊団船員とオロチ配下の侍全員)。あれ……? 少なくない? もっと増やさなきゃ!(使命感)

とこんなところで。前回の感想返しが遅れておりますが、帰ってから全部返しますので少し遅れることをお許しください。次回は小紫ちゃんです。お楽しみに

感想、評価、良ければお待ちしております。

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