正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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赤髪のシャンクス

 新世界の海は徐々に波が高くなり、暗雲が立ち込めていた。

 だがその中にあって波が起こらない氷の海で、三大勢力入り混じる戦いは続いていた。

 

「ギャハハハ!! “七武海”に海軍!! それとクイーン様を倒した“赤髪”!! 誰だろうと全員ここで死ぬぞ!! 見ものだ!!」

 

「“大看板”最強と名高いキングさんに加え、ぬえさんとカイドウさんが戦いに出てんだ!! 相手が誰だろうと滅ぼせる!!」

 

「残った奴を討ち取るぞ!! 次の“真打ち”はこのおれだァ~~!!!」

 

「……!! 海賊達が、勢いづいて……!!」

 

「耐えろ!! 数ではこちらがまだ優勢だ!!」

 

「は、はっ!!」

 

 氷の大地を戦場としたその戦いは百獣海賊団側が攻め、海兵が守る戦いとなっている。数の上で勝る海軍だが、やはり“四皇”の一角、それも危険な武闘派として知られる百獣海賊団相手にはさすがに苦戦を強いられていた。

 そして持ち堪えられている理由はその数と、重要な戦力である海軍中将や王下七武海のおかげである──が、それらもまた、億を超えるような敵の幹部格を止めるので精一杯だ。

 

「貴様!! うるティだな!? それにそちらはページワン!!」

 

「報告通り、こんな子供が“真打ち”とは……!! 今ここでその悪の芽を潰してくれる!!」

 

「──あァ!!? 潰す~~~~!!?」

 

「はっ……身の程を知らねェらしいな」

 

 百獣海賊団側の重要な戦力である“真打ち”の内、2人を止めるために海軍本部の大佐、そして中佐が立ち塞がる。だがそれを見聞した2人はその能力を解放した。

 

「うるティ様とページワン様が変身したぞ!!」

 

「……!! 恐竜の能力者か……!!」

 

 海兵達が大きく変化したその姿を見て警戒する。

 動物系古代種の身体能力は通常の動物系を遥かに凌駕する。相手が子供とはいえ、四皇の船員で高い地位を持つ者であれば能力も相まって脅威でしかなかった。

 

『百獣海賊団“真打ち”ページワン リュウリュウの実(古代種)モデル“スピノサウルス”』

 

『百獣海賊団“真打ち”うるティ リュウリュウの実(古代種)モデル“パキケファロサウルス”』

 

「さァて……やるなら相手してやる!!」

 

「ぺーたんの言う通りだ!! 叩き潰してやる!!!」

 

「……!! 来い!!」

 

 人と獣の力を併せ持つ人獣型となった飛び六胞の2人が突撃してくる。その速度は先程までの比ではなかった。

 

「オオオオ!!!」

 

「!!?」

 

「──中佐殿!!」

 

「……!!」

 

 剣を手にページワンの攻撃を覇気を流して防御した海軍本部中佐だが、予想以上のパワーに防御ごと吹き飛ばされ、氷の大地を跳ね転がっていく。一瞬、視線をそちらに寄越しかけた海軍大佐だがこちらの目の前にも敵が迫っていた。

 

「余所見してんじゃねェよ!!」

 

「……!! “鉄塊”!!」

 

 跳躍し、距離を詰めて今にも攻撃しようとするうるティを相手に六式と覇気での防御を選択する。上体を後ろに逸らすその構えから、おそらく攻撃方法は頭突き。身体を鉄の様に硬くする鉄塊と武装色の覇気によるカウンターなら手痛いダメージを負わせられる。

 

「砕けろ!!」

 

「六式程度で──私の攻撃を防げるとでも思ってんじゃねェ、ウルトラバカ野郎!!!」

 

 だがそれを見て()()うるティは頭突きを選択した。

 

「ドタマカチ割れろ!!!」

 

 何しろ頭突きは、うるティの最も強く、自信ある攻撃方法だったからだ。

 

「──“ウル頭銃(ズガン)”!!!」

 

「!!!」

 

 うるティの武装硬化された頭、それも人獣型での攻撃を受け、噛み締めた歯の間から血を出し、白目を剥く海軍大佐。

 氷の大地に穴を開けてしまう程の破壊力の頭突きは周囲にも衝撃を撒き散らした。

 だがその衝撃では驚く者は少ない。精々その周囲にいた海兵、海賊だけ。

 なぜならそれ以上の戦いにより、戦場が揺れているからだ。──その現象を感じ取り、巨漢の男は言う。

 

「──終わったな」

 

「! ……生憎と、おれはまだ五体満足だが」

 

「お前じゃねェ」

 

 百獣海賊団大看板“火災のキング”は“鷹の目”ジュラキュール・ミホークと周囲の者達とは次元の違う勝負を繰り広げながら告げる。

 既に先程まで戦っていた場所はキングの炎によって湖のように穴が空いてしまっている。そのため戦場を移しながら戦っていた。

 

「ふん!!」

 

「!!」

 

 キングの上段からの振り下ろしに再び氷の大地が揺れる。ミホークがそれを身体を逸して躱した。数キロ近く斬撃が飛び、流れ弾ならぬ流れ太刀がどこかの海兵を襲う。

 ミホークも同じく反撃の斬り払いを行えば斬撃が飛んだ。キングがそれを受け止める。刀で受け止めたが、そのことをキングは鼻を鳴らして褒め称えた。

 

「やるな……お前との斬り合いはしばらく楽しめそうだ……」

 

「どうやらそのようだな」

 

 不遜なキングの発言だが、ミホークもそれを否定はしない。事実、キングの武装色の覇気の硬さとそのパワー、そしてタフネスはミホークの、世界最強の剣技を以てしても容易に斬り捨てることが出来ないものだ。技術がない訳でもない。互いに完全に本気という訳でもないが、本気を出したとしても長引きそうであった。

 

「──だがお前の戦友(ライバル)、“赤髪”は長くねェ」

 

「……!」

 

 キングの炎と剣の同時攻撃を剣で払い、移動することで避ける。だがすぐにキングが詰め寄り、再び上段からの剣撃。そして鍔迫り合い。キングの三白眼が鷹の目のその鋭い目を捉える。

 

「微塵も剣が乱れねェとはさすがだな。動揺もない……だがおれの言ったことに嘘はない。カイドウさんが船に乗り込んだんだからな……!!」

 

「……それをおれに伝えてどうする? 奴には奴の戦いがある。おれは別に奴の仲間ではない」

 

「だろうな。だったらもっと動揺してる筈だ……おれが言いてェのはもう少しで戦いも終わるってことだ」

 

「随分と自分達の船長を信頼しているようだな。人に従う男には見えないが」

 

「フン……カイドウさんがそこに降り立ったなら、場所が島でも同じことだ。──その島は跡形もなく滅ぶ。それを止められるのはぬえさんだけだ。赤髪は……いや、赤髪海賊団はじきに死ぬ」

 

「ふん」

 

 キングの剣を防ぎ、ミホークが反撃に出る。キングもそれを弾き返し、互いの剣撃の連打。鋼の音が連続する。

 

「予め伝えてやったんだ……だから動揺するんじゃねェぞ。狼狽えたお前の隙を突いて斬り殺したら、おれの勝ちにケチがつくからな……!!」

 

「──その心配をするには早すぎるな。そして……その見切りも」

 

「!」

 

 ミホークが剣を受け流す。キングの豪剣を流し、そのまま首元を狙って剣を払った。

 キングはそれを後方に飛び退いて躱す。黒い翼と炎が揺らめいた。

 

「赤髪とカイドウの戦いがどうなろうと構わないが……おれとの勝負と同じく、決めつけるのは早計だ」

 

「フン……何と言おうが赤髪はカイドウさんが殺す!! クイーンのバカを倒してウチの看板に泥を塗ったんだからな……!! カイドウさんやぬえさんがやらねェならおれが殺る……!!!」

 

「…………」

 

 キングの背中の炎が大きくなる。剣に込められた力も覇気も強くなった。受け止めたミホークとの間、そして周囲に衝撃波が撒き散らされる。

 だがミホークはなおも冷静に対処しながらも、心の中で言葉を作った。

 

 ──確かに、力だけなら奴はカイドウに敵わぬだろう……だが奴の心力は……。

 

「……やってみるがいい」

 

「! フッ……諦めがついたか?」

 

 ミホークの静かな言葉にキングが見下ろしながら言う。そしてその言葉にミホークは否定の意味を告げた。

 

「勝負の後で覚悟や諦めをつける程、おれも奴も未熟ではない──死んだら()()()()()()()()()という、ただそれだけの話……」

 

「! ……そうか──なら、いつ殺しても良さそうだな……!!!」

 

「ああ──来い」

 

 ミホークが世界最強の黒刀を構える。キングの炎が逆巻き、その黒刀が構えられた。

 だがその勝負の時にあって、ミホークはかつてのことを思い出した。

 

『──“赤髪”。貴様はこの海で何を背負う。強さの果てに何を望む』

 

『……そうだなァ。あ~……おれが背負うのは──』

 

 かつてこの海で麦わら帽子を被った気の抜けた海賊と決闘の日々を送った……その時のことだ。

 その時戦った強き者の言葉を思い出し、ミホークは心の内に言葉を作った。

 

(──乗り越えてみろ、赤髪……!! 貴様が“高み”を目指そうというなら、そこは決して避けては通れぬ道だ……!!)

 

 その時を最後に“鷹の目”ジュラキュール・ミホークは決してそちらにその鷹のような目を向けず、勝負の相手のみを捉え続けた。

 

 

 

 

 

 ──赤髪海賊団は決して弱くはない。

 大海賊時代が始まり、赤髪海賊団は東の海で結成された。

 船長は元ロジャー海賊団の見習い……“赤髪のシャンクス”。

 船員は東の海を含めた様々な海で集めた一癖ある者達。

 ベン・ベックマン、ヤソップ、ラッキー・ルウ……それ以外にも多くの船員がいるが、大海賊団という程の数は擁していない。

 だがそれでも赤髪海賊団はこの大海賊時代を駆け上がってきた。それは偏に彼らが海賊として強かったからだ。

 悪魔の実の能力者はいなかった。が、それでも彼らは覇気を中心に己の実力を高め、新世界の海賊とも対等以上に戦ってきた。

 “鷹の目”との決闘だけではない。彼らは個々に名を揚げてきた。今では少数ながらも一味の殆どが賞金首であり、総合賞金額とアベレージはちょっとしたものとなっている。

 政府・海軍からももはや無視出来ないほどの海賊団。そんじょそこらの海賊、海兵には負けはしない。

 ──だがその相手が“四皇”……それも最も危険な男として知られる相手なら話は変わってくる。

 

「クソ……!! どうなってんだこいつの皮膚は……!!」

 

「──あ~~……鬱陶しい……!!」

 

「!!」

 

「──ヤソップ!!」

 

 たった1人、あるいは2人で四皇及び海軍に挑み捕まること23回。1000度を超える拷問。60回の死刑宣告。

 戦闘回数は10000回を超えるとも言われている。あるいは、とても数え切れない数だとも。

 

「死ね化け物!!」

 

「ほブ!! あ~~~……邪魔だ!!!」

 

「……! ラッキー・ルウ……!!」

 

 時に銃殺刑に処されるも鉛玉は弾かれ、電撃は彼の肌を焼かず、刃は砕け、熱湯にも耐え、串刺しにするも槍は折れ……。

 

「ん!!?」

 

「身体の内側なら鉛玉も通るだろ……!!」

 

「……!! ……そんな小細工が……通用するとでも思ったか……ベン・ベックマン……!!!」

 

「! ぐああっ!!?」

 

「! ベックマン……!!」

 

 結果沈めた巨大監獄船の数は18隻……!! 海軍船、海賊船の数は数え切れない……!! 

 

「おれの力はわかってるだろう……!! 無駄に立つんじゃねェ……諦めろ……!!!」

 

「……!! 誰が諦めるか……!!! おれは……お前に勝って……!!!」

 

「!」

 

 つまり──

 

「──“雷鳴八卦”!!!」

 

「!!!」

 

 ──誰も彼を殺せなかった……!!! 

 それは彼の兄姉分、海軍大将、四皇も然り……。

 そう、赤髪海賊団の甲板の上に降り立ったのは、陸海空全ての生きとし生けるものの中で最強の生物と称される無敵の海賊。

 

「ガキが……!!! 誰に勝つだと……? ──おれが誰だかわかってんのかァ!!!?」

 

 ──“四皇”……“百獣のカイドウ”。

 その最強生物にとって、数の利は意味を為さなかった。

 カイドウは敵の攻撃を避けない。回避行動は滅多に取らない。

 だから攻撃自体は当たる。銃も剣も大砲も。放ちさえすれば攻撃を当てることは難しくはない。

 カイドウの戦闘は単純だ。相手をただ攻撃し続ける。

 防御や回避は敵の攻撃と自分の攻撃を衝突させるか、技の起こりを潰すことで行うことがあるが……それ以外は──全て自らの肉体で受け切る。どんな攻撃も兵器も業物もカイドウの強靭過ぎる肉体を傷つけることは出来ない。

 例外があるとすれば──四皇。それに準ずる強者。海軍大将。彼の兄姉(きょうだい)分。

 だがそれでも彼は血を流さない。精々は擦り傷だ。最後に戦闘で血を流したのはもう8年程昔で、その相手ももう亡くなっている。

 

「──ロジャーのところのガキだと聞いて期待したが……所詮はこの程度か」

 

 だからカイドウが満足出来る敵は少ない。ゆえに落胆の息を吐く。

 金棒を手に甲板で1人1人殴るだけ。己にとって蝿や蚊に近い矮小な攻撃を無視し、叩き潰すだけ。

 それだけでも敵の殲滅には十分だ。

 彼の感想としては“弱い”──だが、使()()()

 

「ぬえに船ごと運ばせよう……こいつらは良い戦力になりそうだ」

 

 そう……最強の海賊団を作り、最高の戦争を起こし……そして──“海賊王”になる。

 そのために何より必要なものは力。強さ。

 力が寄り集まったもの──戦力。

 カイドウは己に挑んで来た者、海賊王を目指して新世界までやってきたそこそこ出来る海賊を叩き潰した後に部下に迎える。

 ずっとそうして海賊団を大きくしてきたのだ。兄姉分のぬえと共に。

 だからこいつらもそうしてやろうとカイドウが思い、金棒を肩に抱えたところで──しかしカイドウはその覇気に気づいた。

 

「…………まだ意識が……いや……立ち上がるだけの体力が残ってるのか」

 

「……!! っ……当然だ……ハァ……ハァ……これくらいで倒れるほど柔な鍛え方は……されてない……!!!」

 

 ──背後で立ち上がり、剣を構えた“赤髪のシャンクス”の方へ振り向き、未だ死んでいない目で睨みつけてくる相手を見下ろす。

 覇気もまだ死んでいない。まだ戦えるのか……? と、カイドウは疑問に思いながらも金棒を構える。

 

「──おれの部下になるなら歓迎するが?」

 

「──ははは……アホ抜かせ……!!!」

 

 その瞬間、カイドウの金棒の音が再び響いた。

 

 

 

 

 

 氷上ではレーザーの撃ち合いが続いていた。

 だけど私は遠くの気配を見て、溜息をつき、それを止めさせる。

 

「はぁ……やめやめ!! こんな泥仕合してもしょうがないと思わない? 弾幕ごっこもいいけど、こればっかだとつまんないしさ」

 

「だったら撤退してくれると助かるんだがねェ~~……」

 

「やだ。私がまだ楽しめてないからね~!! だから楽しむために──こっからはちょっと趣向を変えてあげる♡」

 

「! 一体何を……?」

 

 ボルサリーノや海兵達が訝しむ中、私は準備を行う。

 レーザーと弾幕を撃ち合う対決は、ボルサリーノ相手だとUFOは有効ではないとは言えないけど、こっちも結構壊されちゃうし、弾幕は結構避けられるし、そもそも向こうは自然系だから一々覇気を込めなきゃならないのが面倒過ぎる。

 だから私は趣向を変えると宣言し、UFOを一度私の周りに集めて姿を覆い隠させた。そして叫ぶ。

 

「ミュージック~~……スタート♫」

 

「──はい!! ぬえ様!!!」

 

 私は船の方にそう命令する。そして返事をした彼らは私のファンであり、ライブの音響設備なども手掛けている音楽班。戦闘中にも関わらずスタンバイしているとはさすがだ。

 そして流れ出す軽快な音楽にウチの船員や海兵も耳を、あるいは目を向けた。

 

「可愛いぬえちゃんが大変身♫ 美少女ぬえちゃんが可愛さを残したまま美しくなる~~♫ ──はい♡ 新世界一のアイドル♫ 百獣海賊団のエクストラなボス♫ 最後を務めるトップアイドル~~♫ その名は──!!?」

 

 私の歌声が響き、UFOの光で映る私のシルエットが徐々に大きくなる。

 そして私のファン達が一瞬の溜めを入れ、そしてその間を置いて大声で叫ぶのは当然──この海のトップアイドル。

 

「「「「ぬえちゃ~~~~~~ん♡」」」」

 

「──イエスキュ~~~~~ト♡ そう!! ぬえちゃ~~~~~ん!!!!」

 

『百獣海賊団副総督“大トリ” “妖獣のぬえ”』

 

「……!!」

 

「お……大人になったァ!!?」

 

 そうして姿を変えた私は海兵達が驚くように──()()()()()アダルティになっていた。

 そしてこの姿を初めて見た海兵も、それ以外も、いつもと違う私の魅力に魅了されていた。

 

「ウオオオオオ!!! ぬえさんがアダルティになったぞ~~~!!!」

 

「この方が──じゃなくて、本物の姿の方が可愛いが、そっちも可愛くて最高だ~~~♡」

 

「キャ~~~♡ そっちのぬえ様も素敵~~~♡」

 

「ウッ……確かに美女になった……!!」

 

「もしやあれが本物の姿か!? ね、念の為に写真を撮っておけ!!」

 

「は、はいっ!!」

 

 あ、ポーズ取っておこう。イエイ♪ ウィンクしてピース♡ ──ないとは思うけど、もし手配書更新された時に変な写真使われたら嫌だし、カメラには常にアンテナを張ってる。ちゃんとカメラ目線を意識するのだ。アイドルなら当然のこと。

 

「く、クザン中将!! あ、あれは……」

 

「余所見すんじゃないよクラァ!! ──って言いたいが確かにアレはびっくりだな……あの姿が本当の姿ならまだ可愛げがあるんだが……いや、にしても若すぎるか……」

 

 ──ん? なーんかちょっぴり失礼なことを言ってるような気がするなー? とりあえず感じ取れたところにUFO飛ばしておこう。嫌がらせしてやる。そんで後でボコボコにする。とりあえず今は目の前の相手だ。

 

「ふふん♪ どう? さっきよりは劣るけど、こっちの姿も素敵でしょ?」

 

「……それでェ~~? 何をしようってんだい?」

 

「え、わかんない? ──こっちの方が……近接戦をするならリーチがあるじゃない♡」

 

「!」

 

 私はボルサリーノに一瞬で近づき足に覇気を込める。

 

「“ロケットキックアップ”!!!」

 

「!!!」

 

「ぼ……ボルサリーノ中将!!」

 

 私はボルサリーノを思い切り蹴り上げる。言ってしまえばただそれだけの技だが、これだけの技でも雑魚は耐えきれない。

 ってことはボルサリーノはそれほど雑魚ではない。ちょびっとだけ強い相手。覇気と流動変化で防御と回避を行い、ダメージを抑えている。

 ──が、そんなことで私が終わる筈はない。私は空中へ再び飛び上がる。

 

「……!! 速いねェ……!! さっきより……!!」

 

「あはは!! どうしたの光人間さん!!! 私の速度についてこれないなんてさ!!!」

 

「どういうカラクリだァ~~……!?」

 

 私はボルサリーノに向かって槍をしまっての近接戦を仕掛けながら心の中で得意気になる。ふふん。まあ気づかないのも無理はない。

 この姿は私の正体不明の種で見せている訳ではない。──動物系の身体変化の力と“生命帰還”で更に自在に操っているものだ。

 こうすることで私の()()()()()には劣るが、ちょっぴり身体能力を──特に速さを強化出来る。

 まあぶっちゃけ普段の姿でも事足りるし、パワーなら普段の姿の方が高いのでライブのパフォーマンス以外であまり使わないのだが、さっき言ったようにリーチも長くなるし、近くで槍を使わず殴り合うならこの方が良い。

 パワーアップというよりは、性能をちょっと変化させて相手を驚かせてボコボコにする形態だ。後は気分。ちょっぴり本気を出す時に……ついでに姿を変えたら強そうに見えるもんね♪ 

 まあ私が急に速くなったのは姿が変わったおかげとでも思ってくれればいい。実際は──私が()()()()本気を出しただけだ。

 

「さあ行くよ!! 怒涛のぬえちゃん惨殺ショー!!! 連続技についてきて!! ──ついてこれるならね!!!」

 

「!」

 

 私は翼を一瞬使って加速し、ボルサリーノの背後に移動し、今度は蹴りで叩き落とす。そうしながら槍を“紫鏡”で大量に増やし、まとめて掴んだ。

 

「さあ何本目で死ぬかな?」

 

 そして大地に落ちるボルサリーノに向かって投げる。

 

「──“デモンズディナーフォーク”!!!」

 

「……!!」

 

 槍が氷の大地に次々と突き刺さる。

 氷が砕け、偶然にもそこにいた海兵に突き刺さり、周囲の者達は吹き飛び、そして氷の大地全体が振動して誰もがバランスを取った。

 

「うあああ~~~!!?」

 

「……!! ぬえさんか……!!」

 

「あんまりやられるとこっちの足場まで無くなっちまうぜ……!!」

 

 あ、頑張ってるジャックやフーズ・フー達がちょっとこっちを見上げて抗議してる。ごめんごめーん♪ でも手加減する気はないからなんとかしてね♡

 

「……!! “八尺瓊勾玉”……!!」

 

「あはは!! また弾幕ごっこ!? でも残念!! 今はそんな気分じゃないの!! ──“幻想風靡(げんそうふうび)”!!!」

 

 ボルサリーノが幾つもの光弾を撃ち込んできたが、私はそれを加速して躱しながら体当たり──避けられた。

 だけど反転してもう一度体当たり。次は当たる。

 

「!! まった、く……!! 嫌になるねェ~~……!! これだから化け物の相手は……!!」

 

「化け物ぉ~~? あはは、可愛いアイドルが相手してあげてるんだからもっと喜んで貰わないと困るなぁ!!」

 

「! “天叢雲剣(あまのむらくも)”……!!!」

 

 今度は光の剣だ。まあ受けてやっても構わないが、別の方法で躱してあげよう。私は腕を交差させて能力で黒雲を生み出した。

 

「“アンディファインドダークネス”!!!」

 

「……!! これは……!!」

 

 ボルサリーノが黒い雲のせいで私を見失う。見聞色で位置を探る? ──でも残念、私はそんな暇を与えない。

 

「──こっちよ、お猿さん♡」

 

「!」

 

 おっと。反応が早いなぁ……でも残念、こっちじゃないんだよねぇ。

 

「“トリックスター”……“デビル”!!!」

 

「ウウ!!」

 

「あはは!! 効いたみたいだね~~? 驚いた? ──私はダンスも得意なのよ♪」

 

 地に足つけてターン。後ろに回って手を獣の手に変えて爪で力任せの2連撃。そして()()()をする。

 ボルサリーノが吹き飛びながらもポーズを取った。移動する気だねぇ。でもそれも悪いけど知ってるし読んでる。

 

「“八咫鏡(やたのかがみ)”……!!」

 

「悪いけどそんな暇は与えないんだよね~♪ “スピア・ザ”──」

 

「……!!」

 

 ボルサリーノが吹き飛んだ方向に私は“紫鏡”で増やした槍を構えて思い切り投げ込んだ。

 

「──“グングニル”!!!」

 

「!!!」

 

「ボルサリーノ中将!!?」

 

 槍は高速でボルサリーノの腹を貫き、背後の軍艦を貫き、爆発させ、海の向こうへ飛んでいった。

 これでまず1人だね。──と、そう私が弛緩して見せた瞬間。

 

「──勝敗は一瞬の……油断だよォ……!!!」

 

「!!? しまっ……!!」

 

 既に移動を終えていたボルサリーノが私の背後から光の剣を振り下ろした。私の身体から血が舞う。

 

「仕留めた!!?」

 

「うおお……!! さすがはボルサリーノ中将だ……!!」

 

 海兵達が一瞬喜ぶ──が、その喜びは本当に一瞬だった。

 

「──勝敗は一瞬の油断。まさにその通りだと思うよ♡」

 

「……!!?」

 

 ──偽物……!! とボルサリーノは思ったことだろう。目の前の私はUFOとなった後に消えていく。

 いやー、私の能力って便利♡ 正体不明の種にまんまと騙される人を見るのはいつも楽しいなぁ♪ ──さて、と。私は槍に覇気と力を本気目に込めて、今度は投げずに貫いた。

 

「──“侵略者の槍(スピア・ザ・インベーダー)”!!!」

 

「!!!」

 

 私はその槍でボルサリーノの実体を貫いた。血飛沫が舞う。ボルサリーノが氷の海に倒れた──が、すぐに左肩を右手で押さえ、右膝を突きながらもこちらを見た。

 

「ん~~♡ 何度やっても人を槍で突き刺す感触はたまらないね♡ ……でも──殺す気でやったのに獲ったのは左腕だけで、まだ生きてるのはちょっと不満足だね~~あはは♪」

 

「ハァ……ハァ……左腕だけで……死なずに済むなら大したもんでしょうがァ……ゼェ……ハァ……!!」

 

「ぼ……ボルサリーノ中将!!?」

 

「ひ、左腕が……!! は、早く治療を!!」

 

 さすがは次期海軍大将と言うべきか。ボルサリーノは血を吐き、息を荒くしながらも生きている。──代償は左腕だけど、安いものだろう。私は思わず嬉しく、そして楽しくなって笑ってしまう。

 

「さすがさすが♪ その判断が出来るのは中々いないよ♡ それに、殺す気でやってるのに死なない相手なんて久し振りで楽しかったなぁ……だから誇っていいよ♡ 自信を持って♪ 私と戦えるだけでも十分強いから!! ──まあそうなったのはあなたが弱いせいだけどね」

 

「耳が……痛いねェ~~……ハァ……左腕も……ハァ……!!」

 

 私はボルサリーノを褒める。実際凄い。本当に殺す気でやったのに死んでないのだから凄い。

 ただもう“凄かった”と言うべきか。まだ戦う気ではいるけど、こうなったら長くは保たないからね。

 

「でも……はぁ……残念。ここからが楽しいところだったのに、それじゃもう戦えないし面白くもないね。後は虐めて楽しむくらいだけどそんな余裕はないし……ここで殺すしかないかぁ」

 

「……!」

 

「っ……まずい……!! “妖獣”を止めろ!!!」

 

 海軍の少将か大佐かな? それくらいの地位の海兵が急いで部下に指示を出してるけど……そんなので私を止められる訳ないよね~? 

 

「はぁーい♡ 残念無念♪ 来世はぬえちゃんのファンか、スポットライトとして転生してきてね~~♡」

 

「! やめ──」

 

「──“アイス(ブロック)”……“暴雉嘴(フェザントベック)”!!!」

 

「! ──おおっと!!?」

 

 ──と思ったが直前で雉の形をした氷が襲ってきたので私は空へ飛び上がって逃げる。こんなこと出来る相手は1人しかいない。私はその相手を見下ろして文句をつけた。

 

「ああん。良いところだったのに~。横入りは禁止なんだけど? 相手してほしいなら順番よ、順番。マナーは守ってくれるかな~クザ~ン?」

 

「左腕を持って一度下がれ!! こいつはおれが引き受ける……!!!」

 

「……ハァ……ハァ……悪いねェ~~……!!」

 

「ボルサリーノ中将!! 早くこちらへ!!」

 

「うっわ、しかも無視……酷くない? というか──ジャック~~? ねぇジャック~~~?」

 

「──はっ!! すまねェ、ぬえさん……!! こいつはおれがすぐに八つ裂きに……!!」

 

 クザンが横入りしてきたのを見て、しかも皆私を無視しやがったのでちょっとイラッとしてしまう。そしてジャックを呼びつければ、戦闘中にこっちに来たクザンを追いかけてきたのか、ジャックが即座に返事をして、そして謝ってきた。クザンと対峙して再び戦おうとしたので、私はUFOの上で足を組みながら待ったを掛ける。というか注意をする。

 

「……私、ジャックならクザンの足止めが出来るかなぁ~~~って思ってたんだけどさぁ。ひょっとして見込み違いだった? ねぇ私の目が節穴だったの? どう思うの?」

 

「す、すまねェ、ぬえの姉御……!! ケジメはつける……!!」

 

 ジャックが若干萎縮してる雰囲気を感じる。恐怖しちゃってさ……まあでもクザン強いし、ジャックもこの歳にしては頑張ってる方かな。まだ16歳なのにクザンと戦い続けてまだ保ってるのは……ん? 結構強くない? それなら十分やってるね。

 

「──あはは!! ごめんごめん!! ジャックはよく頑張ってるよね!! まあクザンは強いからしょうがないよね!! 全然オッケーだよ♪ むしろ頑張ってるから後でご褒美あげる♡ ──サイン付きTDで良い?」

 

「……ええ、それは構いませんがぬえさん。やはりこいつはおれがやっても?」

 

「ん~? ──あー、それはどうしよっかなぁ……でもまあいいよ!! 私はこれから適当に殺し回ってくるからさ!!」

 

「ああ……おれに任せてくれ……!!」

 

「……!! クソ……いつになったら……このままじゃ……!!」

 

 ジャックはやる気十分。クザンや他の海兵は警戒して歯噛みしている。うんうん、良い恐怖だ。それでこそ殺しがいがあるというものだよね♡

 

「──そうだ。せっかくだしまた()()()()を見せてあげる♡」

 

「なに……!?」

 

「ふふ……見てなさい」

 

 私は右手をあげてUFOを生み出し、そして集めていく。

 相手を恐怖させ、絶望させ、そして殲滅、蹂躙するための──

 

「“正体不明”……“享楽の”──……ん?」

 

「……?」

 

「なんだ……?」

 

 私はその技を使おうとした瞬間、それを感じ取る。──UFOが撃墜された信号だ。

 そしてその場所はここじゃない。ワノ国でもない。

 ここから遠く離れた私達のナワバリ。その入口とも言える領海を飛んでいるUFO。それが()()()破壊された。

 

「この気配……まさか……」

 

「!」

 

「──ぬえさん!? どこへ行くので!?」

 

 私はジャックの声に応じる余裕もなく空を飛びながらUFOを操り、電伝虫を手元に出現させる。──するとその直後、私が掛けようとした相手から連絡が来た。

 

「もしもしジョーカー? 何かあったの?」

 

『──ええ、ぬえさん。ちょっと面倒な事が……ナワバリの防衛線が──』

 

 受話器から聞こえるそのジョーカーの声に私は確信し──そして同時に気配を感じ取って眉をひそめた。

 それは空を飛んでやってきた。

 

「ん……? キングさんがまた空を飛んで……」

 

「はあ!? いやお前、キングさんはあっちで鷹の目と戦ってるだろ!?」

 

「いやでも……」

 

「!! 違う……あれは……!!」

 

 そしてその姿を部下達も目撃する。

 空を燃えながら飛ぶ姿。それだけならキングを1番最初に連想する。

 だがその炎は青かった。そして、青い炎を燃やしながら飛行する奴などこの海に1人しかいない。

 私は向かってくるその青い炎の鳥に対して左腕でガードをしながら応じた。部下達もその相手に驚いて名前を呼ぶ。

 

「──“不死鳥”マルコだ!!」

 

「百獣海賊団……オヤジのナワバリでなにをしてくれてんだよい!!」

 

『白ひげ海賊団1番隊隊長“不死鳥”マルコ 懸賞金11億2400万ベリー』

 

 青い鳥のような姿から、胴体が人間に戻って声を上げ、鳥の足で蹴りを仕掛けてくるのは白ひげのNo.2とも言っていい相手──マルコだった。

 その登場とその意図に思わず私は笑ってしまう。

 

「──あはは!! なるほどね~!! 私達に帰ってほしいんだ!!!」

 

「──そういうことだよい!! わかったならさっさと帰ってくれ!!!」

 

「……そう言われると帰りたくなくなるなぁ……ちょっとイラッとするし……おっと」

 

 マルコの蹴りを再び防ぐ。良い覇気とパワーだ。これに加えて不死鳥の再生力があるからマルコって面倒くさいんだよね。倒そうと思ったら結構何回もボコボコにしないといけない。

 それにだ。相手がマルコだけである筈がない。

 

「お、おいあれは……!!」

 

「!! 来てしまったか……!!」

 

 海兵達がその氷の大地につけてきた船を見て顔を青褪めさせる。彼らは私達の接触を止めようとしていたのだからそうもなるだろう。

 その白い鯨のような船首の船などやはり1つしかなかった。そもそもここは彼らのナワバリだ。

 

「──白ひげ海賊団だァ!!!」

 

「……!!」

 

 私達と同じ“四皇”の一角──白ひげ海賊団。

 その登場に戦場がざわつく。

 だがその中に船長“白ひげ”の姿はない。ということはやっぱり……。

 

「あはは……!! それでジョーカー? 聞こえてる? こっちはマルコ率いる白ひげ別働隊がやってきたところなんだけど」

 

『ええ、聞こえてるわ。こっちは──“白ひげ”本人と……それとタイミング良く別のところに……海軍が来たわ』

 

「──そう」

 

「っ!!」

 

 私はマルコを弾き飛ばし、その事実を冷静に受け止め、そして溜息をつき……そしてこう思った──()()()()

 

 

 

 

 

 ──それは白ひげ海賊団がやってくるほんの少し前のこと。

 赤髪海賊団の船の甲板には……血塗れの男がいた。

 血塗れになった剣を構えるその男を、険しい表情で見下ろすのは“四皇”カイドウだ。

 

「──タフだな」

 

「……!! ウッ……ゼェ……ゼェ……ハァ……」

 

 相手は──“赤髪のシャンクス”。

 無謀にもカイドウに喧嘩を売った愚かな海賊の頭だ。

 その代償は今こうして与えられている。

 カイドウの金棒で殴られ、彼は死に体の状態だった。いつ死んでもおかしくない。

 ──だが生きている。その瞳も、死んでいない。

 そのことにカイドウは不可解さを覚えた。

 

「も、もう……やめてくれ……!!」

 

「お頭が死んじまう……!!」

 

「クソ……力が……!!」

 

「…………」

 

 赤髪海賊団の下っ端には目もくれず、シャンクス1人を見下ろし続けるカイドウ。

 ここまで自分の攻撃で気絶せずに辛うじて耐えている相手は珍しい。

 ゆえに興味を持つ。部下にもしたい。そのために叩きのめす訳だが……その前にカイドウは問いかけた。

 

「なぜ立つ? その身体じゃ戦えねェだろう。死ぬまでやる気か?」

 

「ハァ……ハァ……そう、だな……」

 

 驚くことにまだ声を出す気力もあった。……が、それは今だけだ。カイドウは鼻を鳴らして続ける。

 

「お前はおれの部下にしてやる。だから殺さねェが……ならねェって言うなら死ぬだけだ。──それとも死にてェのか?」

 

「ハァ……いい、や……死ぬのはごめんだな……!!」

 

 ──なら部下になれ。

 最強の海賊団になるための戦力にしてやるとカイドウは言外に覇気で威圧しながら告げる。

 部下になるなら水に流す。それも最初に言った通りだ。

 だが……“赤髪のシャンクス”はそこで最初の質問の答えを……語り始めた。

 

「なぜ立つか……戦うか……か……」

 

「あァ?」

 

 シャンクスはこの海の皇帝“四皇”の1人を前にして己の意志を思う。

 

『──この帽子をお前に預ける』

 

「…………」

 

 最初は託された。

 己の恩人でもある大切な人から大切なものを意志と共に託された。

 そして約束をした。だが──

 

『いつかきっと返しに来い。立派な海賊になってな』

 

 そして再び約束をして、意志を託した。

 つい昨日のことのように思い出せるその出来事を思い、シャンクスは相手を見据える。

 

「今……ここでおれが倒れたら……約束が違うだろう……!!!」

 

「約束……?」

 

 カイドウに意味はわからない。そしてシャンクスもカイドウに向けての言葉ではない。

 自分の意志を再確認するための言葉だ。己の身体に力を吹き込むための行動だ。

 

「まず()()()()()……立派な海賊にならなきゃならねェだろう……!!!」

 

 そう。そのためには“四皇”くらい乗り越えなくてどうする。

 “四皇”の席を奪うくらいでないとどうする。

 剣を手に、覇気を、気力を込めて構える。

 

「来い……カイドウ……一騎打ちだ……!!!」

 

「…………ならねェなら殺すと言ったよな?」

 

 最強生物が金棒を振りかぶる。シャンクスを殺すつもりで覇気と力を込める。

 そして──金属同士がぶつかったその瞬間。

 

「!!?」

 

「おお……!!!」

 

 シャンクスの身体は、剣は……吹き飛ばされなかった。

 黒い雷のような衝撃波が空気を叩く。

 覇王色の激突。

 その凄まじい空気の圧が吹き荒れ、船が揺れる。

 その時に起こった互いの得物でのやり取りにカイドウが目を見開く。

 だが勝負の軍配はやはり──

 

「──“雷鳴八卦”!!!」

 

「!!!」

 

 ──カイドウに上がった。

 

 当然……敵う筈がない。

 どれだけ意志を固めようと、己を信じきっても……圧倒的な力の前には何もかもが霞む。

 極限の戦いで、死の淵で覇気が極まったとしてもだ。その力はカイドウを超えるものではない。

 ──だが……カイドウは己の首元を軽く指で撫でる。

 

「…………」

 

 そこにあるのは──()()()だ。

 血の一滴も出ていない。ほんの少し傷つけたもの。言ってしまえば、ただそれだけのこと。何百回とやったところで己を殺すことも倒すことも出来ない。

 しかし傷をつけた。確かに刃は、意志は届いた。

 

「ふん……」

 

 だがそれも無意味。

 殴られ、海に落ちた。まだ息はあるようだが……何もしなければ死ぬ。

 助からないだろう。治療したところで間に合うかどうか。引き上げる時間もない。

 後は部下や海軍をどうするか──そうカイドウが思ったところで、それは来た。

 

「! あれは……白ひげの船じゃねェか……!!」

 

 氷の海にそれが見える。忌々しい白ひげ海賊団の船だ。

 だがあのジジイの気配がないとカイドウは気づいた。そして、怒りが沸き上がった。

 

「部下共を寄越したくれェでおれを止められるとでも思ってんのか……!!? 舐めやがって……ブチ殺してやる……!!!」

 

 もうこうなったら戦争をするか──僅かにそう思ってしまうほどの怒りを覚えたところで……しかしそうはならない。

 

「カイドウ!!」

 

「──あ? どうしたぬえ」

 

 カイドウの兄姉分のぬえが空を飛んでやってくる。その姿はなぜか大人だが、そこはどうでもいい。

 ぬえは楽しそうでいながら、苛立ちも見えた。こういう時は予想外の事態が起きてるのだとカイドウは知っている。

 そしてその予想通りだった。

 

「白ひげと海軍が私達のナワバリを攻めに来てるから帰るわよ!!」

 

「あァ!!? なんだと!!?」

 

 本当にイラッとすることだった。カイドウもぬえと同じく、苛立ちが沸き上がる。

 

「どうやら白ひげもセンゴクも偶然、同じ策を取ったみたいね!! 私達をこの場所から引き剥がすためにナワバリを攻めて……どうせ着いたら逃げると思うけど、対処しないとそれはそれでもっと大変なことになるから急いで!!」

 

「……!! チッ……もう終わりだってのか……!!」

 

「ジョーカーの情報だとリンリンも動きを見せてるみたいだから早く!! また私のライブ会場が壊されちゃう!!」

 

「……!! ……しょうがねェ──野郎共!!! 領海(シマ)に帰るぞ!!!」

 

 龍に変身し、部下達に向かって告げる。海軍はともかく、白ひげ本人がナワバリに来てるとなればこちらが出向くしかない。

 それに加えてリンリンまで動こうとしてるとなると、防備を固めるべきであった。さすがのカイドウも四皇を同時に相手取るようなことが非効率で損害がバカにならないことだとわかっている。

 そしてぬえは特によくライブ会場となる島が荒らされそうになってることに焦っている様だった。それで頭がいっぱいなのだろう。先に行ってしまいそうなほどである。

 

「…………」

 

 カイドウは一瞬、残していく赤髪海賊団の船や海に沈んだ赤髪のシャンクスを気にするが、すぐにぬえと共に空を飛んで船へと戻った。

 

 

 

 

 

 ──そしてこの日に起きた新世界での四皇、海軍本部、王下七武海の紛争は翌日の新聞を賑わせた。

 

 世界経済新聞社の独自の取材。そして匿名のリーク情報からその事件の詳細が世間に報じられる。

 新世界で“四皇”百獣海賊団が海軍本部の艦隊と王下七武海“鷹の目のミホーク”、そして赤髪海賊団とぶつかった。

 勝敗は引き分け──白ひげ海賊団本隊と海軍が百獣海賊団のナワバリに侵入したことで百獣海賊団がそれに対処するために撤退。

 その後四皇同士で若干の小競り合いが起きたが、均衡は保たれたまま。どの勢力も目立った損害は無し。特定の人物の負傷などもおおよその新聞に記されることはなかった。

 ……だが唯一、世経の新聞の見出しには死傷者の情報が書かれていた。

 

 ──赤髪海賊団船長、“赤髪のシャンクス”死亡!! 

 

 ……余談だが、死亡確認無しとはいえ、その日の新聞は飛ぶように売れたという。

 




うるティ→パキケファロサウルスでした。肉弾戦女子良いよね。獣人型はやっぱ良い
鷹の目→赤髪とはライバル。というか普通に仲良しだよね……
大人ぬえ→美女。ライブでたまに使う。近接戦闘だとちょっとリーチ長いけど、新世界的にはあんまり変わらないのでそこまで意味はない。ちょっぴりスピードフォルム。男部下からの人気が高い
ボルサリーノ→左腕欠損。どうせ隻腕にはならないけど
ジャック→16歳でクザン相手に戦い続けるのは化け物では?
白ひげ海賊団→お前らがナワバリ荒らすならこっちもナワバリ荒らすわ
センゴク→早く帰ってこないと攻撃するぞのポーズ。そして実は後にガープが来るのでこっちもこっちでヤバい
シャンクス→頑張った。超頑張った。主人公ならここで勝ってる
カイドウ→雷鳴八卦はカイドウにとって強攻撃みたいなもんだけど今のところ一撃必殺技みたいになってる
ぬえちゃん→今日も可愛い。地味に手配書更新
世界経済新聞→死亡確認無し。いつもの。それよりなんでぬえちゃんが見出しじゃないんだ!!

こんな感じで。概ね書きたいシーンは入れれたから満足。
そして次回からはまた色々と。原作11年前と10年前辺りになる。お楽しみに

感想、評価、良ければお待ちしております。
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