正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
──ワノ国、鬼ヶ島。
その巨大な岩山の中にある空洞。その空洞の中に、私達の屋敷は存在する。
「ん~~……ふぁ……」
「──ぬえ様、お目覚めですか?」
「ん~~~……起きてるよ~。んっ……!」
黒い大きなベッドの上で、私は目覚め、伸びをする。
そこはかなり大きな部屋。個人の部屋としては十分過ぎるほど広く、そして豪華だ。仮に巨人族が入っても平気なくらいには天井も高いし、間取りも十分。
そして品のある部屋だ。当然、ワノ国の職人とウチの職人に作らせた和洋折衷な趣の部屋。家具なども全てオーダーメイド。小物などは私のコレクションとか持ち込みもあるくらい。
つまりここは私の部屋だ。そして──今は朝。
別の島や航海に出ていない時、私はこの部屋で寝て起きる。別に寝なくても構わないのだが、寝たら気持ちいいは気持ちいいし、せっかくの自分のベッドも使わないのは勿体ないからね。
そして今、声を掛けてきたのは私の部下だ。長い尾びれを持つ青髪で女性の人魚。頭の帽子から赤い角を生やしている身長8メートルを超えるその相手は、私よりもよっぽど眠そうにやってきた。
『百獣海賊団“真打ち” ソノ』
「おはようございます、ぬえ様。それではさっそく……今日の報告、スケジュール等……を……お伝えしますので……二度寝はしないように……すぴー」
「あなたがねっ!!」
「あっ……すみません。昨日は15時間しか寝てないのでつい……」
「メチャクチャ寝てるね」
寝すぎて昨日は何もしてないんじゃないの? と思わせてくれるようなとんでもないボケをかましてきたのは、いつぞやのバカンスで拾った人魚族のソノだ。そう、彼女も今や立派な百獣海賊団の真打ちなのである。そして、私のマネージャー的な仕事も務めて貰っているのだ。
まあ私の側近というか、ワノ国で言うところの小姓みたいな子達は何人かいるけどね。──そこの可愛い子みたいに♡
「小紫ちゃんはちゃんと寝れたー?」
「……ええ、なんとか寝れました」
「そ。それは良かった♡ 昨日は訓練とはいえ頑張ってたもんね♪ 必死に必死に逃げ回る姿……とっても良かったよ!!」
「……喜んで貰えたなら幸いです」
そう私が笑顔と声を向けた相手。それはソノの隣にいる着物姿の少女、日和……じゃなかった、小紫ちゃんだ。
とはいえ彼女ももう17歳だし、結構な美人さんにはなっている。ま、私には敵わないけどね! だけどそろそろその真面目な顔はやめて笑顔を見せてほしいものだ。相変わらず私達に心を許してくれないらしい。仲良くすればいいのにね。私がちょっと水を向けて見ても恭しく頭を下げるだけだ。まあいいけど。
「それで、今日の新聞は?」
「申し訳ありません。面倒なことに少し遅れていて……後1時間もすれば届くかと」
「ふーん、そっか。それじゃカイドウはどうしてる?」
「カイドウ総督であれば“二日酔いで頭が痛ェ”らしく、腹いせなのか情報で得た海賊の居場所を聞いて自ら潰しに行きました」
「あるあるよくある。それじゃ私はお風呂入ろっかなー」
「はい……いつものです……面倒です……はぁ……」
面倒そうに溜息をつきながら風呂に入ると言った私についてくるソノ。だがまあこれも言ったように、いつものことだ。
カイドウは酒を飲む。特に夜はほぼ絶対飲む。ま、飲みたい時に飲むから飲んでる時は多いというか、なんなら四六時中飲んでるんだけど、この場合の飲むは“酔っ払うまで飲む”だ。
これは私もだけど、酒盛りは基本的に毎日、やることがない時や暇な時は大体やる。見習い時代から変わらない。飲みたい時に飲む。これが私達の飲み方だ。
なのでカイドウが酔っ払ってメチャクチャし出すことなんてウチでは日常茶飯事。今日は朝から二日酔いで頭が痛いからという理由で適当に海賊を潰しに行ったらしいが、まあこれくらいならマシだ。
だって犠牲になるのはどっかの知らない海賊だしね。敵を倒しに行くのだからありがたい。失敗する可能性はゼロだ。事が終わったら普通に帰ってくるだろう。
「じゃあヤマトとムサシは?」
「……ヤマト様は……屋敷内のどこかに。ムサシ様は……国内のどこかにいます」
「どこで何してるかわからないってことねー」
「申し訳ありません……確認が面倒で」
「そっち!? いやいいけど!!」
まさかその確認すらしてないとは……恐るべきソノ。思わずツッコんでしまった……いやまあいいんだけどね。どこで何してようが別に。
それに国内にいるなら何があっても私はUFOで察知出来る。実際に意識を向けてみれば……確かにヤマトは屋敷内にいるし、ムサシはさすがにわかりにくいけど、ワノ国の……白舞……かな。多分その辺りにいるのはわかる。
私の見聞色は範囲はかなり広いし、そこにいる人や生き物の気配はわかるけど、どこに誰がいるというのはさすがに気配を完全に憶えている連中くらいだ。カイドウとか大看板とか飛び六胞の連中。オロチもわかる。ヤマトとムサシも一応ギリギリわかる。まあそれくらいだね。
尤もワノ国内に人がどれだけいるかとかは集中すればわかるので基本は問題ない。覇気を強く発したり、UFOが感じ取ったりすれば敵対者や、何か問題が生じたことも察せられる。──特にUFOを破壊したらすぐにわかる。こっちは集中していなくても感じられる。私の能力の、ある意味手足、感覚の一部みたいなものだからね。
だからそれとUFOのパターン化を利用してナワバリを監視、防衛、遊撃に使っているという訳だ。ある意味、百獣海賊団で1番働いてるのは私である……と、私は服を脱いで、専用の浴室……行灯が立ち並ぶ雰囲気の良い温泉浴場に足を踏み入れる。その中にもソノと小紫がついてきた。そしてそのまま報告を続ける。しかも今度は小紫ちゃんだ
「……ぬえ様。それとオロチ将軍からの連絡で……昨晩捕らえた光月縁の侍を処刑するから欲しいのなら取りに来い……宴会も執り行う故、と……」
「ん~、そうなんだ。オロチも相変わらずこだわってるね。でも侍はもうお腹いっぱいだから良いかなー。でも宴会は楽しそうだし行ってもいいかも……ま、行ってから考えよっかな。とりあえず……“行く”って連絡しといて」
「……わかりました」
湯船に入った私の前で恭しく頷く小紫。彼女の心境的にはそれもまた哀しくもあり、憎らしくもあるだろう。その心の動きを感じ取り、思わず笑顔になってしまう。そろそろ化けるか……それとも……って感じだ。うんうん、成長しているようで何よりだね♡
なんならこうやって風呂に入ってる時に腰に差したその刀で斬りかかって来たりしないかなー、とちょっと期待もするけど、この浴槽は結構浅く、余裕で足がつく。寝そべれば頭まで沈むけど、普通に浸かるだけなら肩程までで留まる。
そして肩くらいなら別に動けなくはないし、そもそも私を海や水に沈めたところで、別に傷はつかない。だから能力者である私を風呂の最中に襲っても、それほど有利でもないのだ──実力があれば話は別だけど♪
だから将来的にそういう時が来たら、それはそれで面白いとも思う。幾ら私でもお風呂で肩まで浸かってる最中に……例えばリンリンとかガープが襲いかかってきたら最初の一撃は結構痛そうだしね。
そして報告は続く。次はまたソノが声を出そうとして──
「それと、大看板の──」
「──ぬえさん」
「!」
そのタイミングで浴室の外から声が掛けられる。その声は聞き馴染みのあるものだ。私はソノに視線を向ける。
「その話はしなくても良さそうで良かったね♪」
「はい……なので帰って寝てもいいですか?」
「面白いからここにいてね♡」
「えぇ……どんな理由ですか……」
「ソノさん……そっくりそのまま返されますよ……その発言」
ソノの言うメチャクチャな早退宣言とげんなりした様子に小紫がツッコミを入れる。そして私がやっぱり面白いなぁと思ってると、外から再び声が。
「ぬえさん。報告がある。入っても?」
「いいよ~!! なんなら一緒に入る?」
「……冗談はやめてくれ」
と、そうして私の言葉をクールに受け流しつつ浴室に足を踏み入れてきたのは、ソノよりも少し……小紫よりは何倍にもでかい翼の生えた巨漢だ。その名を私もその場にいる者も……いや、よくよく考えたらワノ国。そして新世界でもその名を知らない者の方が少ないかと思い直す。まあこの2人でも結構緊張するよね。大看板の中だと1番怖いだろうし──と私はそいつの名を呼んだ。
「え~? せっかくのぬえちゃんと入浴出来るってのに断っちゃうの~? キングってば我慢強くない?」
「……そもそもここはあんた専用の浴室だろう。おれだと精々足湯にしかならねェ」
「ま、それはそうなんだけどね!!」
ウチの誇る大看板の1人。火災のキング。毎日毎日私達のために働いてくれてる優秀かつ大事な子分だ。
その子分を労うためにたまには親分っぽく裸の付き合いを許してあげたのだが、キングはそれを冷静な指摘で切り返し、断る。すると横のソノが顔を上げ、
「キング様。大事な報告になりそうですし、真打ちに過ぎない私が聞いているのもよろしくないかと思います。なので私は下がっていましょうか?」
「なんか格好良くキングに押し付けて帰ろうとしてない?」
「帰ろうとするな。仕事をしろ」
「はい……」
私がその言葉にツッコミ、キングが二重の意味で上から命令する。するとソノも諦めて溜息をつきながらもそこに留まった。いやほんと、ソノは面倒くさがりだけど度胸あるよね。キング相手にこの振る舞いは並の真打ちだと出来ない。
でもまあ許されやすいといえば許されやすいのがウチの海賊団だ。条件さえクリアすれば、ソノの物言いや振る舞いなどなんでもない。他ならぬ、私達が許すから。
それはキングも同じで、ソノから視線を切って私に向かって話し出した。
「幾つか報告があってきた……まず1つ。先日、ウチの傘下の船を沈めて逃走した海賊団だが、カイドウさんがいないんでぬえさん。あんたの名前を使ってフーズ・フーに命令を出した」
「あー、最近そういうの多いもんね。いいよいいよ。話は合わせてあげる」
「助かる。おれの名前じゃ動かねェもんで……」
最初の1つはウチならではの問題というか、ちょっとした面倒の報告だった。
最近は私達百獣海賊団、そしてその傘下の海賊団の船を狙ったちょっとした小競り合いは多い。どうも他の四皇や海軍の工作なのか、新世界に入ってくるルーキーがそれなりの確率で私達を狙ってくるのだが、これはまあ有名税というか、強者だからしょうがないね。四皇の中でも戦力を蓄えつつある私達を警戒して、戦力を少しでも減らしにかかるのは当然といえば当然の動きだ。
まあそういう身の程知らずか、踊らされたバカを叩き潰して戦力に加える楽しみはある。そのためにウチの真打ちや“飛び六胞”なんかはよく動いてくれてるが、キング達大看板にとってはちょっと面倒なこともある。
というのもウチは結構自由なのだ──強い奴に限り、だけど。
「今手が空いてる飛び六胞がフーズ・フーとササキしかいなかったってことでしょ?」
「ええ。他の奴らは別の仕事に出てる」
キングの返答を聞いて、やっぱりそうだったよね、と思う。
カイドウと私が率いる百獣海賊団は完全実力主義でやっている。この場合の実力とは一に“強さ”。二に“成果”ってところだ。それ以外は全て二の次。割と重視されない項目である。
強い奴が上に立つ。これが私達の常識だ。これが真理だと私達は思っている。
人間も獣。そして獣なら、強者が上に立つのが自然というものだ。そりゃそうだよね。なんで自分より弱い奴についていかないといけないのか。それは不条理というものだ。もし自分より弱い奴が上に立ってれば、そいつをぶち殺して上に立つのが自然だ。ましてや私達は海賊。会社なんかとは違う、腕っぷしが物を言う業種なのだから当然のことなのだ。
だからウチではどれだけ古株だろうと弱ければ下だし、入って間もない新入りだろうと、強ければ即“真打ち”。幹部待遇で迎えられる。……このソノみたいに。
「はぁ……飛び六胞の方々は自由そうで羨ましいですね……でも責任も増えそうなので私はここで楽々と豪遊生活を送るのが性に合ってそうです……」
「……ソノさんは全然上昇志向ありませんね……強いのに……」
「いや別にそれほどでも……ここは能力者が多いので、水辺だと割と有利に戦えるというくらいで……完全な陸地とかだと…………喋るの疲れたのでここから先は想像でお願いします」
「会話を想像ってなんですか……」
ソノと小紫がまあたまた面白い会話をしているが……まあこれも自由だ。私とカイドウが戦力を何より大事にしているというのもあり、真打ち以上はそれなりに自由にやれる。
ウチはスカウトで入ってきた元海賊団の船長という経歴の幹部も多いし、自分の船で元々の自分の部下を率いてシノギを行ったり、ナワバリの防衛や略奪など好きにしている者が多いのだ。
真打ち以上は上昇志向が強く、我の強い者も多い。私やカイドウの命令にはきちんと従うし、仕事は受けるしきちんとこなす。命令を出す際に報酬を与えたりしてやる気を促してやることも多い。私もカイドウも、強い奴には割と好きにやらせてるし、細かい言動や振る舞いを注意したりもしない。
とはいえ、ウチに入った時点で私やカイドウに対してはきちんと尊敬の念を持っているというか、そこは海賊としてきちんとしているので、無意味に逆らったり、露骨に反抗的な態度を取る者などいない。我が強い者もそこは弁えている。
だがそれは私とカイドウだけで、それより下であれば逆らったりもする。そう、大看板に対してだ。
“飛び六胞”のフーズ・フーやササキは元海賊団の船長というだけでなく、大看板の座を狙っている。そして、大看板相手でも実力は劣らないという強い自負を持っている。……まあそれは大看板も同じで、飛び六胞如きには負けないって思ってる様だけどね!
「まあでもそれならそろそろフーズ・フーやササキ……後はジャックかな。大看板に挑戦してくるかもね! 別に入れ替わりである必要はないんだけど……ふふふ、挑んできたらどうする?」
「──身の程知らずのバカは叩き潰すだけだ」
「頼もしいね!! それじゃ次の報告教えて~♪」
「ああ」
キングは自分の実力に絶対の自信を持っている。飛び六胞が自分に敵うなんて言うバカな思い違いをしてきたらそれを正すだけなのだと、その感情を示すように少し背中の炎が大きくなる。そう……飛び六胞は負けないと思ってるからこそ、彼らは結構大看板相手には反抗的だ。まあそりゃそうだろう。自分より立場が上というだけで従うような奴らじゃないからね。従うなら自分より圧倒的に強い奴だけ。それが百獣海賊団だ。
「武器の取引が幾つかの国を中心にかなり増えた。ワノ国を含めたナワバリに新しく武器工場を建てる計画を立てたから後で取引先の情報と一緒に確認してくれ」
「おっけ~♡ やっぱ武器は売れるね~。まあ最近は物騒だし、どの国も殺したい相手が沢山いるみたいだからしょうがないけど♪」
武器の取引は上手くいっているようで私は風呂場で足をちゃぱちゃぱさせながら上機嫌に頷く。
取引や新たな武器工場の建設などを好きに執り行っているが、大看板は言うまでもなく、ウチの古株でもあるし、実力的にもカイドウと私に次ぐ連中。それぞれ船団を率いており、部下にも複数の真打ちを任せているし、組織内のあらゆることを動かせる地位にあるカイドウと私の懐刀だ。
必然的に受けるのはカイドウと私の命令だけで、後はウチの利益になるように動けば何をやっても構わない。自由だ。
真打ち連中も飛び六胞相手に対抗心や野心を覗かせることはあっても、大看板相手には逆らわないし従順。実力差があるし、元々別の海賊団で海賊をやって引き抜かれた連中の中には大看板に叩きのめされ、その後で心を折られた連中も多い。
だがやはりフーズ・フーやササキは違う。虎視眈々と大看板の座を狙い、実力をつけ、手柄を立て、その時を待っている。なので命令もカイドウや私のものじゃないと受けない。組織的にはちょっと困ったものかもしれないが、カイドウや私はあんまり気にしてない。まーそういうこともあるよねって感じだ。むしろ私達が見習いの時に比べれば優しい。私達なんか船長以外から命令されたらカイドウが即ブチ切れて殺し合いスタートだったし、向こうも見習いの分際で逆らうなと殺す気満々で来てたしね。
でもウチでは一応、よっぽどのことが──例えば明らかな裏切りとかがなければそういうのは無しだ。喧嘩くらいならいいし、むしろ私的には幾らでもやればいいと思うけど、何もないのに殺すのは無し。特に真打ち以上だとダメ。なんでかって、大事な戦力が減るから。
だが入れ替わりを狙っての挑戦。決闘は問題ない。一船員が真打ちを狙ったり、真打ちが飛び六胞を狙ったり、飛び六胞が大看板を狙ったりする。そういうのは健全だ。強ければどんどん上に来ればいいし、カイドウも私もそれを推奨してる。
まあその過程で死ぬことはあるかもしれないが……それなら仕方ない。弱いのが悪いのだ。弱いのに身の程を弁えずに格上に挑んだり、弱いのに上の地位にいたのが悪いのだ──ってことで私は能面のような表情で黙り続けてる小紫ちゃんを見ながらお風呂を楽しむ。大丈夫? ちゃんとわかってるよね? 昔教えてあげたんだしね♪ と、視線だけで伝えてみる。まあ伝わらないけどね。さすがに。そう思いながら表ではキングの報告を耳にする。
「ジョーカーもそうだが……ドフラミンゴも上手く戦争の火種がある国に売り捌いているみたいで」
「ミンゴもちゃんと働いてるね~。今度会ったら褒めてあげないと。──ああ、それと戦争って言ったら最近はやっぱ
「ええ。先日もウチのナワバリにある国がその思想の影響を受けて決起して……すぐにジャックの奴を行かせて鎮圧させたが……必要なら探して始末しますが」
「ん~~……でも戦争が起きてくれてるおかげで武器も沢山売れるし……というか居場所もよくわからないしねぇ……まあ見かけたらちょっかいくらいかけようかな。面白そうだし♪」
「既に見かけたら報告する手筈に」
「おーけーそれでいいよ~。──あ、それと今日の朝食は?」
「昨晩漁業班が送ってきた新鮮なうなぎをひつまぶしに」
「うなぎ!! 朝から豪勢でいいね!!」
「──あ、私も貰っていいですか?」
「人魚の癖に相変わらず魚を食うことに躊躇ないね!!」
ソノが人魚としてはなんとも言えないことを口にしたのでそれを面白がりつつツッコむ。まあ別にいいんだけどね。
さ、とりあえずそろそろ風呂から上がってうなぎを食べようかな、と湯船から立ち上がると、不意に気になったのか小紫がこちらを見て迷いつつ、
「あの……“あいつら”とは?」
「ん? ──あー、小紫ちゃんは知らなかったっけ?
「ドラゴン……? ……カイドウ総督のことですか……?」
小紫はどうやら知らなかったみたいで、先程の私とキングの会話で気になったその部分を聞いてくるが……“ドラゴン”と口にしてカイドウと言ったことに私はちょっと笑ってしまう。
「あはは、違う違う!! ドラゴンってのは名前!! もっとわかりやすく言うなら──“革命軍”よ」
「革命……軍」
「そう。その組織のトップが世界最悪の犯罪者って呼ばれてる男……ドラゴン!!」
基本的にワノ国の中で修行をしていて、海外の情勢に疎い小紫ちゃんに丁寧に教えてあげる。ここ数年で台頭してきたとある勢力と、その勢力のトップに立つ男──ドラゴンの名前を。
「そのドラゴン率いる革命軍の思想が最近戦争が起きまくってる原因の1つね!! まあ他にも“ジェルマ”みたいな戦争屋の影響もあるけど」
「いや……そもそも武器を売ってるこっちも原因と言えば原因な気も……」
「酷いソノちゃん!! それは言いがかりだよ言いがかり!! 私達は戦争を出来るだけ長引かせるために武器を売ったりしてるだけだよ!! 戦争させるくらいなら自分達でしたほうが楽しいしさ!!」
「そっちの方が酷いのでは? ……というか半分は嘘でしょう」
「バレた?」
「バレバレですね」
真顔でそうツッコんでくるソノちゃん。うーん、酷い。こう見えて私は不必要な戦争はしないタイプだし、ビジネス目的の戦争もしない。どっちかというと楽しみたいとか壊したい。相手を殺したくて戦争をするだけの健全な女の子だ。だからまるっきり嘘でもないのだ。
「まー儲かるなら戦争してくれるなら助かるよね~♪ まあ人の喧嘩を見てて面白いし。でも自分達でやりたいのは本当だよ? 最近は引きこもってちまちま小競り合いするくらいしか出来なくて楽しくないし……三大勢力全部集まっての戦争大会とか起きないかなー」
「それ、世界の終わりの日ですね……」
そう言いながら風呂から出た私の身体をタオルで拭いてくれるソノ。小紫ちゃんも同じく拭いてくれる。やっぱ朝風呂は気持ちいいね。
「……その革命軍になにか目的が?」
「ん~? いや何もないけど? でも面白そうだし、見かけたらちょっと遊んであげたいよね♪」
「…………なるほど」
おっと、小紫ちゃんにとっては結構考えさせる答えだったかな? まあよく私のことを見て学ぶといいと──あ、そうだ、言うの忘れてた。
「そうだ小紫ちゃん♡ 後で良い物あげるから楽しみにしといてね!!」
「……良い、物ですか?」
そう、と私は服を身に纏いながらそれを告げた。
「ふふふ……そろそろあなたも、私達と同じ様な──
「!?」
小紫が、日和が驚くのを見て私はこれを今日の楽しみにしようと決める。
この日を──日和という人間が人間でいられる……最後の日にしてやろうと。
──“偉大なる航路”とある島、とある国。
世界政府。それに加盟する国は世界中、あらゆる海に存在する。
実に170ヶ国もの国々が加盟する一大組織。それが世界政府というこの世界の秩序だ。
そしてこれに加盟しないものは非加盟国であり、海軍の保護を受けられず、海賊の餌食や無法地帯となる場合が多い。
非加盟というだけでは犯罪者にはならないが、その暮らしは犯罪者よりも苦しいものとなるのが実情だ。
ゆえに多少無理をしてでも世界政府に加盟する……それが世界、多くの国の現状でもある。
その無理はつまるところ──経済。
天上金という莫大な金を天竜人に納めて初めて、国は世界政府の保護を受けられる。
だが当然、そのしわ寄せはまず国民に行く。
本当に民のことを思って施政を出来る権力者などほぼ存在しない。多くはその金を国民の税金を多く徴収するなどしてかき集める。
その結果、民の暮らしが貧しくなっても知ったことではない。
すまなかった。こちらも苦しい。断腸の思いだった──そうやって表面上謝ることは簡単だ。
中には謝りもせず、開き直る者もいる。加盟出来ず、海賊に襲われるのとどっちがマシだ? ──安全を脅しに使われれば民は何も言えなくなる。
世界政府加盟国に属するそういった私腹を肥やすだけの権力者は横暴かつ無慈悲な天竜人ほどではない。ではないが……それに準ずるものではある。
王は支配し、民は王の支配、王の贅を尽くした生活を守るために尽くし、僅かながらの安全と貧しいとしても人らしい生活を買うことが出来る。国とは王なのだ。
この逆を言える王は中々いない。民のことを本当に考えて王としての責務を果たす者は少ない。
それが今の世界だ。ゆえに犯罪者に身を落とす者は多い。海賊になる者も多い。戦争だってなくならない。
海賊王ゴールド・ロジャーの言葉があろうがなかろうが世界はいつも荒れている。
民衆は奪われるだけ。何も出来やしない。そんな力もない。
強き者は生き、弱き者は死ぬ。それがこの世の理だ。
──だが。
「──おい止まれ!! お前達、何をしている!?」
「これより先は王宮だぞ!! おい、聞こえないのか!!」
「……お前らこそ、聞こえねェのかよ……!!」
「え……?」
──そんなこの世の理に、待ったをかける者達が存在する。
「おれ達は言い続けてきたぞ……!! 何年も何十年も前から……毎日の様に苦しい、苦しいって……!!」
「それにお前達が手を差し伸べたことがあったか!? 一度でも、おれ達のために何かしたか!?」
「もう奪われるだけの日々は……支配されるだけの日々とはオサラバだ……!!」
「お、おい……お前ら、おかしいぞ……!」
──その者達の思想は、少しずつ、少しずつ……広がり続け、多くの民衆に“意志”の火種を与える。
自由と解放。彼らが伝える思想はあくまできっかけ作りに過ぎない。
彼らはあくまで、己の意志で立ち上がるのだ。そうでなければ自由ではない。誰かに強制されるのであれば、それは新たな支配でしかない。
「おれ達は……お前達の奴隷ではない!!! 行くぞ!!!」
「おおおおおおおおおおお!!!!」
「ま、待てと──ぐあっ!!?」
そうして己の意志で立ち上がった弱者を、彼らは絶対に見捨てない。
「──反乱軍が勝利した」
「そうか……」
王宮から立ち上る煙。それを目にしながら背後の大柄な男から報告を受けたその男の顔はフードに隠れていた。
夜闇に溶けるような黒のローブ。それを風に揺らして、彼らは高い建物の上からその戦いを見届ける。
彼らはこの国の圧政に耐えかねて立ち上がった民衆達による反乱軍──ではない。
だがその思想を与えた者達。
支配を受ける人々に自由を……支配を行う横暴なる天竜人を倒すために立ち上がった者達。
「この勝利は小さなものだけど、決して無駄じゃない。彼らが勝ち取ったこと。それに意味があるティブル!!」
「ああ、その通りだ。世界を変えるためには立ち上がらなくてはならない。どれだけ小さな灯火も、より集まれば大きな火となり力となる」
彼は拳を上げる。この国で虐げられてきた人々が見上げる前で、その意志を問う。
「──自由の為、共に戦う意志のある者はこの船に乗れ!!!」
「っ……オオオオオオオオ!!!」
立ち上がる民衆の意志。それが寄り集まった組織の名は──革命軍。
そしてその意志を統率する、顔の左に刺青を持つ男の名は──
『革命軍総司令官“世界最悪の犯罪者”ドラゴン』
「いつか必ずおれは──この世界を変える。そのためにはお前たちの……多くの者の力が必要だ!!」
ドラゴン。彼は自由を求める多くの同胞を引き連れ、一歩ずつ世界を変えるための活動を続ける。
その目的は──世界政府の打倒。
そのために彼らは思想を広め、同胞を集め、力を蓄える。
彼らの活動は政府にとってまさに最悪なものであった。その脅威は、まだ小さくも着々と大きくなっている。
数年後には──いや、もう既に放ってはおけないほどに。
だからこそ海賊ではないが彼らはお尋ね者であり、あまり長居をする訳にも顔を不用意に晒す訳にもいかなかった。
「──ドラゴン」
「! どうした、くま」
「これを……」
そして今まさに新たな同胞達と船に乗り込み、本拠地に帰還しようとした時だ。同じく幹部の男──“くま”と呼ばれる男に紙を渡される。
それは革命軍で使っている報告書だ。そこに書かれている内容を見て、ドラゴンも隣の幹部も眉をひそめる。
「これは……武器の密輸があったという報告ギャブル!?」
「正確には“これから密輸を行おうとしていた”……その情報を掴んだということ」
「……もう少し立ち上がるのが遅ければ、この戦いは長引いていたかもしれんな」
ドラゴンはその報告書を見ながらそう呟く。つまりギリギリの勝利だったのだ。
もしこの取引が成立していれば、この国での彼らの戦いは長引いていただろう。少なくとも、1日で終わることはなく、犠牲者もかなり増えていたはずだ。
そのことを、顔の大きい幹部の1人が同様に頷いて言葉にする。
「……ギリギリだったってことねェ──この戦いは」
「ああ。ここは問題ない……が、問題はこれから。近年増え始めたと思われる武器の密輸……その出処が不透明ということだな」
そう、おそらくだが……武器の密輸が多くの国で頻繁に結ばれている。
でなければおかしいことは今も、これまでもあったのだ。武器の数が圧倒的に足りていないという情報を得た筈の国で、実際は多くの武器を蓄えており、戦争が長引くようなことが。
それは革命軍にとって都合の悪い事態であった。
「武器の出処を突き止めるの? 面倒ナブル仕事になりそうだけど……」
「……ああ。それは勿論調査する──が……」
「? なにか気がかりでも?」
「…………」
ドラゴンは同胞からの質問に、ある、と素直には答えなかった。沈黙。その沈黙はあると答えているようなものであり、長い付き合いの同胞にはその答えはわかっているが、答えないということは何かを考えているのだと悟り、やや答えを待つ。
実際、ドラゴンはその武器の出処の調査に、嫌なものを感じていた。とてつもなく危険な予感を。
それを理解しながらも、彼は革命軍を統率する者として覚悟を持って指示を出すしかない。
「……おそらく、これだけ大掛かりな武器の密輸ともなれば“新世界の闇”が絡んでくるだろう。十分に注意を払え」
「──了解」
「その可能性は確かに大いにあるわねェ……探りを入れた結果、とても手を出せない大物である可能性もあることだし、今の内に驚かないように覚悟が必要ナブル」
「ああ。こちらの存在を必要以上に気取られないようにしなければな」
そう、武器の密輸。闇取引。
それも複数の国が絡んだものとなると、新世界でナワバリを持つような大物海賊や名のある仲買人が関わってる可能性は高い。
どれほどの相手かにもよるが、自分達の敵はあくまでも世界政府。それを支配する天竜人であり、彼らに海賊と争う気はない。
だが世の中の情勢。流れを把握するには、海賊の世界の情報は必要不可欠でもある。なにせ今は大海賊時代。
世界政府を勢力の基盤とする“海軍本部”と政府公認の海賊である“王下七武海”。そして新世界に君臨する“四皇”。
三大勢力の中でも海賊が関係する勢力は2つ。その中でも複数に分かれており、実質11の勢力が存在するとも言えるのだ。
海賊を知れば世界の風向きも知ることが出来る。となれば……ドラゴンはやはりそれも今まで以上に知らなければならない。
「イワ、くま。お前達に、近々大きく動いて貰うことになるやもしれん」
「! ン~フフフ、了解」
「ああ」
「よし──“バルティゴ”へ帰還する」
そうして同胞達と共に、彼らは革命軍の総本部──バルティゴへと帰還した。
──そしてその報告書から感じる嫌な予感は、ついぞ止むことはなかった。
ぬえちゃんの部屋→可愛い。和洋折衷な感じ
朝風呂→ぬえちゃんの日課。裸を衆目に晒すことはアイドルとしてしないけど、実は見られることにあまり抵抗はない
ソノ→真打ち。ぬえちゃんのマネージャー。相変わらず面倒くさがりで妙に度胸がある
小紫(日和)→もう17歳。ジャックより2歳下。なのでそろそろ覚醒させます(不穏)
キング→有能過ぎる部下。カイドウやぬえちゃんの名前を勝手に使っても許されるし、うなぎを焼かせても有能
革命軍→初顔出し。勢力拡大中
ドラゴン→覇王色で竜爪拳で(多分)自然系。龍繋がりでカイドウと戦え(願望)
ぬえちゃん→アイドルの平和な朝可愛い
と、こんな感じで。遅くなってすまねェ兄御達……!!
今回は革命軍顔出しと日和ちゃんの覚醒前夜なのでちょっと薄味かもですが、次回からまた色々と不穏なのでお楽しみにお待ちください。次回は日和やジャックなどの10代の子達が主役です。
感想、評価、良ければお待ちしております。