正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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昇格試験

 百獣海賊団の船員に性別や年齢の区別はない。

 重要視されるのは“強さ”のみ──戦力になり得るかどうかだ。それ以外は全て二の次である。

 だからより上の地位に行くために必要なのは強さだ。それ以外はなくたっていい。

 だが──

 

「──誰だって最初は弱いものよ」

 

「っ……!!」

 

 三叉槍の石突側で軽く撫でられるように殴られると、重すぎる衝撃と痛みが自分を襲う。

 鬼ヶ島の地下。そこにある半球状の黒い檻に囲まれた広い空間は“修行場”だ。

 石造りの床や壁にはところどころ赤黒い染みが見える。──つまり、これまでそれだけの血がここで流れてきたのだ。

 

「生まれた瞬間から強い生物なんて……ま、いないこともないんだけどね。でもその例外を除けば皆、最初は弱い。その例外だって子供の頃は比較的に弱かったはずよ」

 

「ウッ……ゲホッ……ゲホッ……!!」

 

 血を床に吐き出し、怪物の語りを聞き続ける。

 多くの弱者をその気まぐれで血だるまにしてきた。この場所は──弱者に力をつけて強者へと生まれ変わらせるための場所。

 怪物が満足出来なければ……それだけの成長を見せられなければ、待っているのは冷たい死。

 この場所には死臭が充満していた。近場に牢獄があるのも関係しているだろうが、この濃すぎる血の匂いはそれだけではなく、訓練で流した血の数も関係している。

 

「でも弱いなんて言い訳よ。弱いからって敵はその手を緩めない。むしろ弱者だからこそ楽に食い物に出来ると群がってくる。他人が助けてくれるなんて甘い考えでこの世は生き残れない」

 

「ハァ……ハァ……」

 

 立ち上がり、刀を構える。

 そこに強く流桜を流し、目の前の怪物に向かって振り下ろす。怪物は避けもしない。軽く左腕を掲げて二の腕で受けた。常人なら腕が斬り落とされるか、骨が砕けるだろうが、そんな常識はこの獣に通用しない。

 

「生き残るには強くなるしかない。子供だからとか女だからとか今まで戦ってこなかったからとか、弱さの言い訳なんてしても無意味よ。強者は、弱者から奪うことを躊躇しないんだから♡」

 

「…………!」

 

 そう……ここでは強くならなければ、奪われる。

 弱者は何も得ることは出来ず、全てを奪われる。──実際に奪われてきた日和にはよくそれが理解出来る。

 どれだけの大義があろうと関係ない。戦いの勝ち負けを決めるのは強さだ。

 勝てば全てを得て幸せに生きることが出来るが、負ければ全てを失い不幸になる。

 なにかを得たければ……大切なものを守りたければ……とにもかくにも、強くなって勝つしかない。

 この怪物、ぬえには全てを奪われる代わりにその理を教えてもらった。ある意味、恩人でもあるが……それ以上に憎き仇でもある。

 

「強さを、力を手に入れないと弱者達は奪われる。──なら強くなるにはどうすればいいかな?」

 

「……ただ、鍛える……!!」

 

 その質問に答え、流桜を──覇気を込めて再び刀を振った。

 だが相手は当然、微笑を浮かべたまま軽い動きで右へ左へ躱される。

 まるで子供のチャンバラを相手にしているかのようだが、事実、天と地ほどの実力差があるのだ。攻撃は全て読まれるし、当たっても傷一つ負わせることは出来ない。やはり“覇気”の強さは如何ともし難い。

 

「そうね、身体を鍛えれば強くなる。筋肉をつけて、スタミナをつける。格闘術でも剣術でも技術を鍛えるのは必要ね。人間は鍛えれば大砲だって剣だって効かなくなるのよ♪」

 

「……!」

 

 そんな化け物はこのぬえを含めた一部の例外でしかないだろう──そう言いたいのは山々だったが、現実としてそうなっているのだからそれも事実。

 この化け物はきちんと自分に強くなるための方法を授けようとしていた。実際そうし続け、ここまでは強くなった。今更疑うことはなにもない。

 

「“剃”……!!」

 

「そう、それが第一ね。身体を鍛えて強くなれば、それに越したことはない。少なくともそれだけでそこらの一般人には負けなくなるわ♡」

 

「っ……うぐ……!!」

 

 この怪物達から習った体技の1つを駆使し、高速で背後に回って剣を振ったが、ぬえには掠りもしない。この怪物達はこんな体技を使わずとも速いし、硬いし、力も強い。

 

「でも更に上を目指すなら、やっぱり“覇気”は外せない」

 

 ぬえが笑みのままで告げる。覇気。つまりは流桜のことだ。

 

「“武装色”に“見聞色”……まあ“覇王色”は生まれ持った素質だから無理にしても、その2つは鍛えることが出来る。この国の侍や、新世界の海賊が強いのは大体この覇気を鍛えてるからよね~♪」

 

「くっ……!!」

 

 ぬえが小指で刀を受け止める。それも、指から少し離れた場所で。

 強い武装色の覇気。身体の外部にすら放出される覇気は、防御に回れば武器や身体に触れることすら許さず、攻撃に回れば相手の武器や身体を内部から破壊してしまう。

 これも当然だが、この怪物達は全員が覇気の達人でもある。侍と同じく、武装色が得意なものが多いが、見聞色も当然使えるし、覇気がなければこの怪物達と戦うのは難しい。

 特にこのぬえは次の覇気も化け物級なのだ。ぬえはこちらを見て、その先を予知する。

 

「“下から斜めに斬り上げる”」

 

「……!!」

 

「“そして歯噛みして悔しそうにしながら下がる”……って、あはは! そんなにキツそうにしなくてもいいのに。今更驚くことじゃないでしょ?」

 

「っ……!!」

 

 ぬえがこちらを見て可笑しそうに笑う。そう、今この化け物はあろうことか──“未来を視た”のだ。

 見聞色の覇気は生き物が知らずに発している声を読み取り、相手の動きを先読みする。あるいは気配を察知する。

 日和もそれは出来る。先程からもぬえの動きを先読みしようとしている。

 だがそれは出来ない。相手の見聞色が高度過ぎるからだ。

 見聞色は鍛えれば、遠方や見えない場所の気配すら読み取るし、少し過去のことや相手の記憶……果ては数秒先の未来すら視ることが出来る。

 常に見ている訳じゃないにせよ、この見聞色の達人相手に奇襲の類はほぼ通用しないし、逃げ隠れることも難しい。

 特に百獣海賊団では、見聞色でこのぬえに敵う者はいない……いや、世界に枠を広げても、匹敵する者がいるかどうかわからない。百獣海賊団やワノ国中でも囁かれているのだ。“ぬえ様には全てがお見通し”だと。

 

「……ふふふ♡ どうしたの? 腰が引けちゃって……お家に、()()()()にでも帰りたくなったのかな?」

 

「……!!」

 

 日和はそのぬえの言葉を聞いて、頭が怒りで沸騰するのと同時に、恐怖を感じて背筋を凍らせた。

 そう、これだ。ぬえと対峙したものが感じる悪寒。その恐怖。多くの者が得体の知れ無さを感じる原因と言えるもの。

 このぬえは最悪だ。人が嫌がったり慌てふためいたり恐怖したりすることを好み、人の弱いところを言葉や行動で的確に抉ってくる。一度目をつけられたら逃げることは不可能だ。ワノ国の全てはこのぬえとぬえが生み出すUFOに監視されている。

 全てがお見通しと噂される理由の1つがその異常とも言える見聞色の範囲の広さだが、それ以上に、このぬえの得体の知れ無さが理由だ。

 ぬえが紡ぐ言葉がまるで──こちらの過去やトラウマを的確に把握して、その上で弄ばれているように感じられる。

 もしかしたら本当に見聞色で記憶を読み取っているのかもしれないが、時には未来や、知るはずのないことさえ知っているような雰囲気を醸し出す。

 偶然かもしれないし、どこからか情報を得ているかもしれないが、その真偽は不明。狂死郎も恐れていた。

 

『日和様……もしかしたら、あの化け物は全てを知った上でこちらを弄んでいるのかもしれませぬ……お気をつけを』

 

 そう、狂死郎が何よりも恐れていたのは、狂死郎自身やこちらの素性がバレる、あるいは既にバレていることだ。そうなれば当然、命の危機であるし、狂死郎が子分として密かに匿っている反乱分子達も一斉に淘汰されるだろう。

 だが今の所はオロチにも百獣海賊団にもバレている様には見えないのだ。──ぬえ以外は。

 あるいは思わせぶりなことを言ってボロを出させようとしているのかもしれないが、ぬえは時折狙いすましたかのようにこちらを動揺させるようなことを言ってくる。

 しかしそれで動揺し、ボロを出してしまえば終わりだ。知っているにせよ、知らないにせよ、隠し通すしかこちらには選択肢がない。

 そして恐怖は蓄積される。このぬえは、そうやって多くの人の心に恐怖の種を植えつけている。

 実際にどうなのかはわからない。──だが、わからないからこそ恐ろしい。

 

「ん~? どうしたのかな? 顔が強張っちゃってるけど……少し休む? 食事にでもする? ──あ、せっかくだし()()()でも食べに行く?」

 

「! ……いえ、大丈夫、です……」

 

「そう? それならいいけど、お腹が空いたらいつでも言ってね♡」

 

 気づけばぬえはこちらとの距離を詰め、至近距離から笑顔でこちらを見上げ、そんなことを言ってきていた。……そして、その言葉もまたこちらの心を酷く掻き乱す。

 顔には出すまいと耐えようとしたが、突然のことであったため一瞬顔が強張ったのを悟られるが……ぬえはそこを追及せずにあっさりと流す。なにを考えているのかわからない。相変わらず不気味だった。

 

「さて……それじゃあ話を戻すけど、身体を鍛えて覇気を鍛える……まあこれだけでも十分上を狙えるけど~~手っ取り早く強くなれる方法もあるっちゃあるのよね♡」

 

「! それは……!」

 

 その言い方に、まさか、と日和は思う。

 答えはわかりきっているが、今このタイミングでそれを告げるということは……とうとう来たか、と。

 そして日和がそう思った直後──()()がやってきた。

 

「──おうぬえ!! 来たぞ!!」

 

「お、カイドウにしては早いね。皆もいらっしゃ~い♪」

 

「ぬえさん! 頼まれたもの、持ってきたぜ~~~♫」

 

「きゃ~~♡ ぬえ様お久し振りンゴ!!」

 

「なんだその語尾……まさかドフラミンゴから来てんのか?」

 

「…………」

 

 日和は思わず圧迫感を感じる。部屋に入ってきたのはカイドウを始め、キングにクイーンの大看板2人に、ジャックにうるティ、ページワンと飛び六胞が3人。

 外海に出ている面々を除いた百獣海賊団の首脳陣であった。

 

「か、カイドウ総督まで……これは一体……?」

 

「ふふふ♡ まあちょっとしたイベントのために呼んだんだけどね。わからないかな?」

 

「……いえ……見当もつきません……」

 

 ぬえの小首を傾げながらの質問に“わからない”と答える。

 するとぬえは目を細め、二重の意味でこちらを驚愕させる答えを言い放った。

 

「──()()ちゃんに“真打ち”になるためのテストを受けさせてあげようと思ってね」

 

「…………え…………」

 

 日和は一瞬……何を言われたのか分からなかった。

 最初は驚き、ようやく“真打ち”になれるのかと少し喜んだが、すぐにその前に言われた名前に心臓が止まってしまいそうなほどの衝撃を受ける。

 名前……そう、名前だった。小紫という仮初の名前ではない本当の名前。

 それが意味するところは……正体がバレて──。

 

「ウォロロロ!! 予想外だったみてェだな!! バレてるとは思ってなかったって顔だ!!」

 

「っ……!!」

 

「あっ、ちょっとちょっと! 逃げちゃダメだって」

 

「あぐっ……!?」

 

 カイドウが大笑いをした瞬間、その場から逃げ出そうとするが、すぐにぬえに掴まれて地面に倒される。うつ伏せになって寝かされたこちらの背中にぬえが腰を下ろせば、もう動くことは出来ない。体重は軽い筈だが、不思議と動くことは叶わなかった。

 

「おいおい!! 逃げられる訳ねェんだから大人しくしとけ!!」

 

「……! 一体……いつから……!?」

 

「最初から♡ ──とはいえ、気づいたのは私だけで、カイドウや大看板には後から教えて、飛び六胞には今日初めて教えてあげたんだけどね」

 

「……!」

 

 ぬえは呆気らかんとそう言う。最初から気づいていたと。

 しかし、ということは……。

 

「気づいていて……受け入れたと……!!」

 

「そういうこと~♪ 面白そうだったしね~♪」

 

 ──気づいた上で見逃されていた。

 ずっと掌の上で弄ばれていたのだ。

 日和はその瞬間、奈落に落ちたような気分を味わう。

 退路はない。ぬえに取り押さえられ、周囲はカイドウや大看板、飛び六胞が囲んでいる。

 紛れもない終わりだ。もう自分に未来はない。

 

「まさかあの時のおでんの娘が生きておれ達の懐にまで忍び込んでるとは思わなかったがな。大したもんだ」

 

「すまねェ、カイドウさん。おれがあの時に、もっと念入りに燃やしておけば……」

 

「全くだ!! いい加減な仕事しやがってよ!!」

 

「てめェには言ってねェ。黙ってろ」

 

「あァ!!?」

 

「黙ってろ~~~!!?」

 

「いや姉貴にじゃねェよ!! 人の喧嘩に割り込むな!!」

 

 ……彼らの騒ぎなど、もはや耳には入らなかった。

 

「……殺せ」

 

「え? なんで? 死にたいの?」

 

「っ……あなた達に囲まれて……生きていられると思うほど……私はバカじゃありません」

 

「おお~、だから死ぬ覚悟はあると。さすがあのおでんの娘。あのバカな侍達なんかよりよっぽど侍だね!!」

 

「……!」

 

 ぬえはこちらをそう言って褒める……が、明らかにこちらを小馬鹿にしたような態度に素直に喜べる筈もない。

 自分の命はもはやこれまで。もしかしたら、後数日……あるいは1ヶ月以上。激しい拷問の末に殺されるかもしれないが、多少延びたところで死ぬことには変わりないのだから無意味だった。

 そう、生きる道はない筈なのに──

 

「あはは!! 挑発したのに落ち着いてるね~!! おでんだったら同志をバカにされたら怒ってただろうけど、あなたはちょっと違う感じ?」

 

「……っ」

 

「ん~? その歯噛みはどっちかな? 本当は怒ってるのか……もしくは図星? どっちにしても面白い反応だね♡」

 

 更に続くぬえの揺さぶりに何も言えない。

 ……いや、正確には何も言わな──

 

「でも死ぬと決めつけるには少し早いんじゃない?」

 

「! ……なに、を……?」

 

「言ったでしょ。“日和ちゃんが真打ちになるためのテスト”をするってさ♡ ──クイーン、ジャック」

 

「は!!」

 

「了解だ!! さあ可愛い小紫たん──じゃなくて、日和たんのショーの始まりだぜ~~~~♫」

 

 ぬえの言葉の意味を理解するより早く、ぬえの命令を受けたジャックとクイーンが動き出す。

 ジャックはその肩に抱えていた麻袋を床に置いた。そして、ジャックが無理やり出した……出てきた相手に──思わず目を見開く。

 

「……!! 河松!?」

 

「っ……ぐ……姫……様……!! 面目ありません……!! 守るべき貴方様を守れず……おまけにこのような無様を晒し……!!」

 

 見覚えのある水かき。その人とは少し違う肌の色。

 血塗れになったその侍は、もう5年前に別れた──“河童の河松”。光月家に仕える赤鞘の侍の1人であった。

 確か兎丼にあるクイーンの囚人採掘場に捕まっていたと話は聞いていたが、ここでそれを連れてくるというのは……嫌な予感しかしない。

 

「よしよしよ~~し♫ ジャック、それ、そっちにつけろ♫」

 

「ああ」

 

「ッ……!」

 

 クイーンが檻の外でガチャガチャと何か作業をしている。ジャックにも指示を出し、その指示通りに檻の中に入ってきたジャックがこちらの首に首輪を付けた。

 

「ぬえさん、出来たぜ!!」

 

「オッケー!! それじゃあ始めよっか♪ 題して~~~♫」

 

「ぬえさんプロデュース!!」

 

「“真打ちになるまで生きて帰れません!! 黒檻耐久デスマッチ”~~~~!!!」

 

「YEAH~~~~~!!!」

 

「ぬえ様最高ンゴ~~~♡」

 

「……!!」

 

 ぬえがこれから行われるそのテストとやらの名前を高らかに謳い上げると、クイーンとうるティだけが声を上げ手を挙げて盛り上げた。他の面々は黙ったまま、日和と河松も何も言えない。焦燥した状態でそれは始まった。

 

「さあ始まったぜぬえさん!! 今日も残虐でエキサイトなショーの時間だ!! オーディエンスが少ないのが残念だけどな!!」

 

「そうねぇ。でもそれは仕方ないのよ♪ だって日和ちゃんのことはあのオロチにも隠してるくらいだし、あんまり大体的にやるとワノ国の支配的にもオロチ的にもよくないもの」

 

「!? オロチに……隠してる……!?」

 

 突然放たれたその疑わしい言葉に日和は驚きを声に出す。するとぬえはこちらに顔を向けて更に説明した。

 

「優しいでしょ? 本来なら光月の生き残りなんて問答無用で処刑なんだけどね~~♡ でもまあそこの河童とか九里のアシュラみたいに、私達の仲間になるなら殺さずに許してあげたりするんだけど……さすがにおでんの実子ともなるとオロチもすっごい抗議してくるだろうし、隠した方がいいかなって」

 

「オロチはビビリだからな……おれが大丈夫だと幾ら言っても未だに怯えやがる。ぬえがやってることを正直に言うと面倒だ」

 

 カイドウが酒を飲みつつ、そう補足した。もう10年以上手を組んでいるオロチにすらこのことを隠していると。

 だが日和としてはそんなことはよくよく考えればどうでもいい。重要なことは、狂死郎の方までバレているかどうかということと、これから自分は何をされるかだ。

 どういう訳か問答無用で殺すということはないらしい。その理由を、ぬえは続けて説明した。

 

「ま、そんなことはいいの。重要なのは、これからあなたがこのテストをクリアし、真打ちになれるかどうかよ」

 

「! まさか……私が光月の生き残りだと知った上で、引き入れようと……?」

 

「バカな……!! そんなことはあり得ませぬ……!!」

 

「それがありえるんだよね!! ──ってことでルール説明タ~~~イム♪」

 

 真打ちへの昇格テストだということを告げ、こちらの困惑を意に介さず、ぬえは楽しそうに続ける。横でクイーンがポーズを取り、ぬえと共にルールの説明を始めた。

 

「日和ちゃんにはこれから7日間!! この檻の中で飲まず食わずの耐久バトルをしてもらいまーす!! お相手は~~~ページワン!! うるティ!! ジャックの、3人の飛び六胞~~~~!!!」

 

「YES!! だが安心しな日和たん!! 3人同時じゃなくて交代制だ!! そして、気絶すれば1時間は休めるぜ!! 1時間したら電撃でも流して強制的に起きてもらうけどな!!」

 

「……!! そんな無茶苦茶な条件が呑めるか……!!」

 

 河松が檻の外から声を張り上げて抗議する。……が、そんなことをしても無意味だということを日和は知っている。

 抗議は受け付けない。こいつらはやると言ったらやる。弱者に容赦なんてしない。

 と、なれば生き残るには……。

 

「……生きて出るための条件は?」

 

「日和様!?」

 

「お~~覚悟決まってるねぇ」

 

「ムハハ、河童よりこっちの方が肝据わってやがる!! ルール説明を続けるぜ~~~♫」

 

 覚悟がどうだと言うが、そんなことは当然だ。覚悟がなければこうやって百獣海賊団への潜入などやっていない。死ぬ覚悟はとうに出来ているし、死にかねない怪我だって今まで負ってきた。今更この程度で、喚くようなことはしない。自分に出来るのは生き残るための最善を尽くすこと。それだけだ。

 

「日和たんがここから出る条件は簡単だ!! 7日間、ただ生き続ければいい!!」

 

「そうすれば釈放と同時に、日和ちゃんは真打ちに昇格!! そして更に強くなるための()()を上げちゃうよ!!」

 

「……悪魔の実ですか」

 

「ふふ……さすがにウチの船員なら知ってるよねぇ♡ そうそう、ウチは真打ちになる際に悪魔の実をボーナスとしてあげて、戦力を更に強化するのよ」

 

 無論、それは知っていた。無能力者の船員が真打ちになる際に、悪魔の実が貰えることは。

 あわよくばそれで更に強くなってやろうと思ってもいたのだ。素性がバレてそのチャンスはなくなったかと思ったが……どうやらその目はまだあるらしい。

 だがやはり、条件はそれだけではないだろうと、日和はチラリと河松を見て問いを投げる。

 

「……それだけじゃないでしょう?」

 

「ん~? なんでそう思うの?」

 

「……光月である私を、何のリスクもなく味方に引き入れるとは思えませんし……そもそも、それだけでは河松の方の首輪の説明がつきません」

 

 そう、自分と河松につけられたこの首輪に、何も仕掛けられていない筈がないのだ。

 自分の方は万が一の逃走防止として説明出来るが、河松の方は態々この場に連れてきたことを考えても──

 

「……生き残るのは、()()()()()()だけ……ということでは?」

 

「!」

 

「ピンポンピンポ~~ン♪ 大正解!! そのためのそのクイーン特製の首輪ね!!」

 

「ムハハ、よくわかったな!! なら説明してやろう!! その首輪は逃走防止用に、この場から一定距離離れると爆破されるように出来ているが~~~~♫ もう1つの機能として!! どちらか片方が死ねば外れるようになっている!!」

 

「どちらかが……」

 

「! 死ねば……」

 

 その説明を聞いて、おそらくだが河松が考えついたであろう方法を日和も悟る。……おそらくだが、河松は迷うことなく自分の死を選び、自分をここから出そうとするだろうと。

 

「つまり、日和ちゃんが途中で死んじゃったら河松は生きてここから出れるけど、日和ちゃんが出るには7日目に……()()()()()河松を殺せばいいってことね♡」

 

「…………」

 

「……あれ、あんまり驚かないね? それくらい簡単ってことかな?」

 

 私は押し黙る。生きてここから出るためには河松を……自分の手で殺さなくてはならないということを考える。

 それは確かに酷いものだった。怒りもする。葛藤もする。

 だが同時に、酷く冷静でもあり、そんな自分が不思議でもあった。

 

「……もし勝ったら?」

 

「ん? 勝ったら?」

 

 だから私は問いかけていた。冷静に、ぬえに向かって。

 

「もし、飛び六胞に勝ったら……ここを出ても構わないですか?」

 

「!」

 

「あァ!? フザけんな小紫!! お前が私に勝つだとォ!!?」

 

「…………」

 

 その言葉を言い放った瞬間、空気が僅かに殺気立つ。

 その原因はこちらを睨む3人の飛び六胞だ。声を荒らげるうるティだけではない。ページワンもジャックも、目を細めて僅かに憤っている。

 だがその緊迫した空気を、ぬえはまたしても塗り替えた。

 

「ぷっ──あはははは!! さすが!! いいねいいね日和ちゃん!! その覚悟にその目!! おでんを思い出すね!!」

 

「ウォロロロロ!! 面白ェことを言いやがる……なら約束してやる!! もし本当に勝ったらお前もそいつも2人とも生かしてやる!!」

 

「……本当ですか?」

 

「二言はねェ!!」

 

 ならば──と覚悟を決めた時、そのカイドウの言葉に河松が反論した。

 

「何を……!! そんな言葉、誰が信用出来るものか!!! あの時も、耐えきれば解放すると……そう約束した上で!! お前達はおでん様を殺した!!!」

 

「……まあ信じるも信じねェもどっちでも構わねェが。どの道、お前達はこれを受けるしかねェ」

 

「っ……日和様に、またあの時の様に生かして貰うような道など選ばない!! 死ねば片方が出られると言うなら、今すぐに自死して──」

 

「──フン、そんなことをさせると思うか?」

 

「なんだと!!?」

 

 河松がカイドウ達にそう啖呵を切ろうとした時、キングが静かにそう言った。

 そしてそれに同意し、引き継ぐようにぬえがケラケラと笑いながら声を出す。

 

「キングの言う通りね。そんなつまらないことはさせない。もし自死なんてしたら……日和ちゃんも殺しちゃう♡」

 

「そんなフザけた話があるか!!」

 

「なんと言おうがここでは私達がルール♡ 日和ちゃんが生き残るには、飛び六胞の誰かに勝つか、7日間生き延びて、自らの手であなたを殺すか。その二択だけってことにするから」

 

「っ……この、外道……!!」

 

「あはははは!! 怒ってる怒ってる♪ ……でもまあ憤死しちゃいそうなところ悪いけど……あなたの主君はもう()()()()みたいよ?」

 

「!!」

 

 ぬえが河松を煽り、そして河松がこちらに視線を向ける。

 だがそれももはや気にしない。そんなことを気にしていては、殺し合いの場で強者を喰うことは出来ない。

 

「……最初のお相手は誰でしょう?」

 

「ひ、姫……」

 

「……姉貴」

 

「ふん!! 生意気にも覇気が上がってるンゴ!!」

 

「…………」

 

 飛び六胞と視線を交わし合う。誰も彼もが強敵だ。歳はそれほど変わらないのに、この百獣海賊団で十指に入る強者達。

 今の自分では到底敵わない相手だが……それも関係ない。

 戦う以上……生き残るために必要な以上──勝つしか道はないのだ。

 

「いい感じに殺気立ってるね♪ それじゃあ私は檻の中から退散して──最初に行きたい人どうぞ~!!」

 

「……ならおれが行く」

 

「オッケー!! 最初の相手はぺーたんことページワン!!」

 

「ぺーたん頑張るンゴ~~!! ここで応援するンゴ~~~!!」

 

「気が削がれるから応援はやめてくれ姉貴!!」

 

 なんでも構わないから早くしてほしい……そう思いながらページワンが檻の中に入ってくるのを見守り、刀を構えて待つ。最初にページワン。ジャックやうるティに比べればマシかもしれないが、与し易いと見るのは甘いだろう。未だ12歳の子供ではあるが、その歳でうるティと共に飛び六胞への昇格戦で勝ち上がったエリート。飛び六胞では最弱とはいえ誰にせよ、十分に格上だ。

 

「容赦なく叩き潰すが、悪く思うなよ」

 

「ええ、構いません」

 

「さてさて~~♪ 両者ともに睨み合ったところで~~~黒檻耐久デスマッチ、開──」

 

「!」

 

「!」

 

 ぬえの言葉と同時に戦闘態勢を取るページワンに、こちらが対応しようとしたその瞬間。

 戦闘は始まり──しかし、同時に檻の外では予想外のことが起きた。

 

「──カイドウ様!! ぬえ様!!」

 

「って……ちょっとな~に~? 今いいところだったんだけど?」

 

「おい!! ここには今誰も入るなって言っただろうが!!!」

 

「申し訳ありません!!!」

 

「す、すみません!!! しかし、緊急の用件でして……」

 

「……?」

 

 通路を走ってその場に現れた百獣海賊団の船員2人。その登場にぬえもカイドウも若干不機嫌そうに返し、部下も怯えるが、緊急だと言うと渋々だがそれを許して先を促す。

 

「なんだってんだ!!」

 

「それがですね……また、その……ムサシ様が暴れておりまして……」

 

「──あァ!? ()()()!!?」

 

「は、はいぃ!! ま、またです!! そ、それも、カイドウ様やぬえ様……それに今いる大看板や飛び六胞の方々も呼べと……」

 

「暴れて我々では手に負えません!! 施設も幾つか壊れてしまって……!!」

 

「っ……あのバカ……!!!」

 

「……? よくわかんないけど、私達を呼べって言ってるの?」

 

「は、はい。話があるとかなんとか……」

 

「……ん~~~……良いところなんだけど──はぁ……ま、後で幾らでも見れるしいっか。とりあえず行って、どういうことか聞かないとだし、行く?」

 

「あのバカ娘が……!! おい、案内しやがれ!!!」

 

「は、はっ!! こちらです!!」

 

「……おれ達も行くぞ」

 

「え~~~!! あいつの相手すんのかよ!!」

 

「……キングの兄御。おれ達は……」

 

「お前達も一応ついて来い。手は余る……とは思うが……ここは任せたぞ、ページワン」

 

「……ええ」

 

「え~~~!!? 私も行くンゴ~~!!? やだやだ行きたくないンゴ~~!!」

 

「いいから行けよ……」

 

 どういう訳か、怒った様子のカイドウとその肩に乗って首を傾げるぬえが出ていき、大看板や飛び六胞も、檻の中にいるページワン以外は皆この部屋から出ていってしまった。会話の中に“ムサシ”と聞こえたが……ムサシと言えば、面識はないがカイドウの子供の1人で──

 

「……チッ。外が騒がしいみてェだが……こっちの手を緩める訳にはいかねェ。帰ってくるまでにボコボコにして休ませて貰うぜ……!!」

 

「!」

 

「姫!!」

 

 彼らの気配が去っても、ページワンは言いつけ通り、私と戦って私を苦しめようとする。鋭い踏み込みで、ページワンが拳を打ち込んできた。

 私も刀に覇気を込め、それを受け止めようとする。──そうして始まった戦闘だが、そこで再び不可解なことが起きた。

 

「……!」

 

「! 鍵の音!?」

 

「えっ……!?」

 

 円形の檻は当然、鍵が無ければ出ることは出来ない。

 私はどちらにせよ首輪があるからここからは出られないため必要ないが、その鍵はここを出入りするページワンが先程懐にしまっていたし、残りは別の場所に保管してあるかカイドウやぬえ……いや、出入りすることを考えると他の飛び六胞も持ってるだろう。

 しかし今、それ以外の誰かが鍵を開けた。それが誰かを確認しようと鍔迫り合いになったページワンがこちらを吹き飛ばして確認に振り向こうとした瞬間。

 

「──“雷鳴八卦”!!!」

 

「!!!」

 

 ──金棒が振り抜かれた。

 ページワンが白目を剥き、床に倒れ込んでいく。

 それを行った長身で見覚えのある服装をした相手は、息を乱しながらこちらを見下ろしてきた。

 

「ハァ……ハァ……なんとか……出来た……!!」

 

「あなた、は……キャッ!?」

 

 その相手は、息も絶え絶えになりながらこちらの肩に手を置き、何故だか身体を震わせる。

 そして、私を正面から見て、こう言った。

 

「──僕は君の親だ!!!」

 

「……は!!?」

 

 ──なに言ってるんだろうこの人。




日和ちゃん→バレた。覚悟ガンギマリで頭おかしい
昇格試験→乗り越えたら獣になって頭おかしくなる
ムサシ→頭おかしいらしい
最後の人→頭おかしい(迫真)
ぬえちゃん→頭おかしくなるくらい可愛い

今回はこんなところで。思ったより長くなった日和ちゃん覚醒話。次回にも続く。そして奴の正体がわかったのでムサシのキャラも定まりました。時間かかってごめんね。

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