正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
海賊達の頂点──“四皇”の統べる海である新世界では海軍の影が薄いとされている。
だが新世界にも世界政府加盟国は存在する。四皇の庇護下に入っていないナワバリ外のそういった国々は屈強な海賊達から自国を守るために軍隊を強化したり、海軍に助けを求めたりする。
そのため要所には支部が置かれていた。
「──いいか貴様ら!!」
「はっ!!」
──海軍G-6支部。
そこは偉大なる航路に存在する海軍支部の中でも最も危険な支部と言われている。
「海賊相手に躊躇するな!! 情けを掛けるな!! 一瞬の迷いが悪党共に付け入る隙を与え、民間人を危険に晒す!!」
「はっ!!」
「もし味方が怪我をして倒れても放っておけ!! ここではそれが求められる!! 味方を助ける暇などありはしないのだから!!!」
“正義”の二文字を背負う海軍将校達は皆、全身のどこかに幾つもの傷跡があり、中には指や手足が無くなっているものも存在する。
だが彼らですらここでは運の良い方なのだ。
海軍G-6支部は──“四皇”で最も危険と称される武闘派、百獣海賊団のナワバリに最も近い海軍支部。
四皇の動きが世界の均衡を左右すると言われるが、それに対応するためにはいち早く情報を得なければならない。
ゆえに四皇の動きを監視するための艦隊や海軍支部がそれぞれ新世界には置かれている。彼らの仕事は百獣海賊団が動いた際にその情報を本部に送ることと、少しでも時間を稼ぐための“捨て駒”となることだ。
「我らはいずれ死ぬ!! だがその死をも恐れぬ行動が世界を守り、1人でも多くの罪無き民を救うことが出来ると知れ!!」
「はっ!!」
本部の援軍が来るまでに耐えることが主な任務とされる海軍G-6支部は殉職率が高いことでも知られている。
何しろ相手は一対一では最強とも謳われる四皇“百獣のカイドウ”。
彼が率いる獣の軍団は海兵や民間人を惨たらしく殺すことを一切躊躇せず、軍艦を数十隻用意しても構わず突っ込んでくるようなイカれた集団だ。
「微塵の隙も弱みも見せるな!! 全身全霊を懸けて悪に立ち向かえ!! 絶対的正義の名の下に!!!」
「はっ──!!!」
そのため、それに対抗するべくこの支部には腕の立つ者は勿論だが、何よりも海賊に恨みのある者や、正義の為なら死をも恐れないと言う者が集まる。
ただ実際にその時になって恐れを捨てきれる者は3割にも満たない。それだけ百獣海賊団が恐ろしいからだ。
「──トキカケ中将!!」
「おおっと!! ビックリした……急に大きな声を出してどうした?」
それは梯子柄のコートに腹巻き、そして下駄が目立つ男だ。頭にハットを被り、タバコを咥えた中年の海軍中将が部下の呼ぶ声に反応して振り返る。
どうやらゴルフの練習をしていたらしい。足元にはゴルフボールとパター用の練習用具が置かれており、それを見た副官が軽く額に青筋を立てた。
「どうしたではありませんよ!! 支部長なのですからもう少ししっかりしていただかないと、下の者に示しがつきません!!」
「いやいや、そいつは悪い。だけど常に気を張ってても仕方ねェだろう? 下でも色々やってるが、あんまり気張ってると実戦で疲れちまわねェか?」
「それがG-6のやり方なのです!! トキカケ中将も、出来れば少しは倣っていただきたい!!」
「いやァ、今の支部長は一時とはいえオイラなもんで、構わねェだろう?」
「……! それは……」
飄々とした態度で副官の熱い言葉を躱すトキカケ。
彼は殉職した前支部長の代わりに本部から派遣されてきた実力派の中将だ。
……しかし、その不真面目な態度からか、海軍内では鼻つまみ者。人情派で、実力はあるし、民間人にも好かれているが、その職務に対する態度からか、色んな場所をたらい回しにされたり、損な役回りを負わされることの多い新米中将である。
今回も一時的な人事としてG-6支部の支部長になった──謂わば支部長代理のようなものである。
「まあまあ! それより何か用事か報告があって来たんだろ?」
「! はい……新世界の海賊にまた動きが……」
と、副官は手に持っていた紙をトキカケに手渡す。するとそれを見たトキカケの表情も僅かに苦笑気味に変わった。
「──ああ、例の成金海賊かい」
「はっ──どうやら百獣海賊団のナワバリに侵入したようで……如何しましょう?」
「如何しましょうつっても追いかけてナワバリに入る訳にもいかねェし、放置しかねェんじゃねェかな」
「それは……そうですが……」
トキカケのもっともな言葉に言葉では頷きつつ、少し不満を覗かせる副官。それを見てトキカケが移動し、支部長の椅子に深く腰掛けて息を吐いた。
「気持ちはわかるけどよ。追っかけても成果は得られそうにねェし、今は備えておくしかねェだろう。特に最近の新世界は百獣海賊団だけじゃない。復活した赤髪海賊団然り、こいつら然り……後は……この間の世界会議で議題にも出た革命軍のこともあって荒れに荒れてる。こんな時にこっちから百獣海賊団に刺激を与えるような真似したらそれこそ上はお冠になっちまうぜ?」
「……はい。わかってます」
副官はその言葉を冷静に受け止める……がトキカケはやはり心のどこかでは副官が海賊を追いかけたい気持ちがあることを悟った。
やはり恨みでもあるのだろうか。百獣海賊団か……あるいはこの海賊団に。
「“黄金帝”ねェ……噂通りの能力なら、オイラもあやかりたいもんだ」
その報告書と一緒に挟まれていた手配書には“黄金帝”と呼ばれる1人の海賊の顔が写っていた。
──ワノ国への入国は難しい。
およそ9割以上の船がワノ国へ入国を試みて、船を破壊されるか、諦めて引き返すことになる。
だが、ワノ国の支配者の許可があれば別だ。
滝を割り、その中にある洞窟を通過した先にある“潜港”に着港し、そこからゴンドラで上に上がることでワノ国の“白舞”に到達する。
だがそうやって正規の方法を使うことが出来るのは、今やワノ国を実質的に支配している百獣海賊団とその傘下の海賊。
──あるいは取引にやってくる者達だけだった。
「もしもしカイドウ総督! 客人が白舞に到着してないれす!!」
『──到着したんだな? よし、鬼ヶ島まで送り届けてやれ!!』
「はい!! 今すぐ送り届けないれす!!」
廃墟と化した白舞の土地の上で、小人がスマシを使ってやり取りをする。相手は当然、百獣海賊団のトップであるカイドウだ。
そしてその報告を終え、スマシを切ると二本の角を持つ少女の小人族は客人を見上げた。
「ということで付いてくるれす!!」
「──フッフッフッ……ああ、案内してくれ」
その相手は“王下七武海”の1人、ドンキホーテ・ドフラミンゴだ。
彼は百獣海賊団の真打ちであり、出迎えにドレスローザまでやってきたトンタッタ族のダウトに付いていき、鬼ヶ島へと向かっていく。
「それにしても、幾らドレスローザは故郷とはいえ、ただ迎えに行くための任務なんて退屈れすね!! 1人で来れないんれすか? 子供?」
「ダウト様!! 客人に無礼過ぎないれすか!?」
「あ、そうだったれす。微塵も悪いと思ってないれすよ。ごめんなさい」
「……ああ、構わねェ」
ドフラミンゴは小人の──本来なら自分が支配してこき使っているだけの存在であるトンタッタ族の少女に無礼な対応をされたが、それを流す。
怒ることじゃない。何しろ最近はカイドウにも気に入られ、取引も順調。全てが上手く回っている状態なのだ。
懸念するべきことは幾つかあるものの、今日のドフラミンゴの機嫌は悪くない。貢物もきちんと揃えてきている。
だからドフラミンゴは余裕を持ってダウトに付いていき──船に乗り、鬼ヶ島まで行き、毎度のことながらどんちゃん騒ぎをしているライブフロアを通ってカイドウへの挨拶へと向かった。
「挨拶に来た。カイド──」
「うおおおおおお~~~~ん!!! ドフラミンゴ……!! 遅かったじゃねェかよォ……!!」
「あはははははは!!! ドフラミンゴいぇ~~~い!! 飲んでる飲んでる~? めっちゃ上がるねぇ~~イェーイ!!」
「……(今日のカイドウは泣き上戸か……? ぬえは笑い上戸……)ああ、すまねェ。今着いたところでまだ飲んでもいねェんだ」
カイドウが客人と謁見する際に座している拝殿に入るなり、ドフラミンゴは最も注意すべき2人の様子を確認した。酒を飲む2人、カイドウとぬえのことだ。
何しろこの2人の機嫌や言動によって自分の運命は変わる。特にこの2人なら衝動でとんでもないことをしでかしかねない上、気分で言ったことも即現実になる。それだけの力があるからこその“四皇”であり、だからこそドフラミンゴはこの獣達と世界を破壊するために手を組んでいるし、同時に最も恐れる存在でもあるのだ。
「うおおお~~~~ん!! まだ酒を飲めてもいねェっていうのか……!! 可哀想なジョーカー……!!」
「そんなのドフラミンゴが遅いから悪いんじゃん!! バカなの? あはは、カイドウバーカ!!」
「うおおおおおお~~~ん!!! なんて冷てェ言い草だ……!! 酷ェじゃねェかよォ……!!」
涙を流し続けるカイドウの右肩の上でぬえがカイドウの頭をバシバシ叩きながら罵っていることに引き攣った笑みを浮かべながらドフラミンゴは汗を流す。
幾ら酔ってるとはいえ、カイドウにこんなことが出来るのは兄姉分のぬえくらいのものだろう。同じことを他の奴がやったら間違いなく死ぬ。
そしてひょんなことで喧嘩をしかねないことを考えるとやはり生きた心地がしない。早々にないことだとは思うが、噂では周囲を巻き込みながら1ヶ月近く喧嘩を続けたらしい。
「フッフッフッ……今日も貢物を持ってきたんだ……!! 後で確認してくれ……」
そんなことに巻き込まれるのはごめんだ。万が一にも機嫌が悪くならないように、今の内に貢物の話をして危険を取り除こうとする。
「良い心遣いじゃねェかドフラミンゴ……!! てめェが貢物を寄越すのは当たり前の話だが……」
「褒めてあげるよミンゴ~!! お返しに“気に入らない奴を1人代わりにぶっ殺してあげる券”でもあげようか?」
「肩たたき券みたいなノリであげるもんじゃねェっすが」
本当にな、と内心でカイドウの横に立っていたクイーンの投げやりなツッコミに同意する。キングは何も言わないが、どうやらこいつは酔ったカイドウとぬえに少し呆れているようだ。そしてジョーカーはいない。遠征か取引か、とにかくここにいないということは鬼ヶ島にはいないのかもしれなかった。そう思っていると、
「あ、そういえばドミンゴに会わせたい人がいるよ!!」
「……? 会わせたい人?」
「──ああ、そういや思い出した。おい、もう呼んでるのか?」
「ええ、直に来るかと」
ぬえの唐突な言葉にドフラミンゴは眉をひそめて頭に疑問符を浮かべる──ぬえのふざけた呼び方は相手にしていてはキリがないので業腹だが無視して受け入れる。カイドウも思い出したとキングに呼びかけると、キングはすぐにやってくると頷いた。
そしてその直後だった。
「ハハハ……どうやらタイミングは完璧だったようだ」
「!? ……てめェは……!!」
拝殿に新たにやってきた人影。その声を聞き、その人影を見やったところでドフラミンゴは驚愕し、同時に歯を噛み締めて忌々しそうな表情へと変化させた。
緑色の髪をオールバックにし、星型のイヤリングや金の装飾、そしてピンク色のスーツに身を包んだ自身と同程度の長身の男を、ドフラミンゴは知っていた。
いや、今はもう新世界で知らない者はいない程の海賊だ。背後に2人の部下を連れてやってきたそいつは。
『テゾーロ海賊団船長“黄金帝”ギルド・テゾーロ 懸賞金5億7700万ベリー』
「いやいや、こんなところで七武海に会えるとは……お目にかかれて光栄だよ、Mr.ドフラミンゴ……!!」
「テゾーロ……!! てめェ……なぜここにいやがる……!!?」
ニヤニヤと見下すような表情で現れたのは、“黄金帝”の異名を持つ新世界の海賊──ギルド・テゾーロ。
ドフラミンゴにとっては因縁ある相手だ。殺してやろうと刺客を送り込んだこともある相手だが、
「……フ……フッフッフッ!! よくもぬけぬけとおれの前に顔を出せたものだな……!!」
「ん~? どうした? てっきり殺しにかかってくるとでも思ったが……“天夜叉”ともあろう者が怖気づきでもしたか?」
テゾーロのその煽るような台詞に苛つきもするが、ドフラミンゴは青筋を立てながらも不敵な笑みでテゾーロと正面から睨み合い、手を出すことはしない。そしてその質問には遠回しに答えた。
「ここに
「ほう、刺客か……確かに私を殺そうとやってきた刺客は何人かいたが……もしや彼らを送ってきたのはドフラミンゴだったのか? ハハハ、気づかなかったよ!! これは面白い……そうだろう? ──タナカさん、ダイス」
テゾーロが話を背後の2人に振ると、その2人が少しだけ前に出てきた。
1人は二頭身の顔が大きい男で、もう1人は肩幅が広く腕も太い巨漢の男だった。
『テゾーロ海賊団最高幹部 タナカさん 懸賞金1億3600万ベリー』
「するるるる!! ええ、テゾーロ様。まさかあの程度の刺客がドンキホーテファミリーの放った者だったとは……」
『テゾーロ海賊団最高幹部 ダイス 懸賞金3億4560万ベリー』
「──ああ。弱すぎて気づかなかったなァ……!!」
テゾーロ海賊団の最高幹部である2人──タナカさんとダイスはテゾーロの言葉を受けてドフラミンゴを嘲笑う。
だがドフラミンゴもまたその言葉を聞いて笑みを深めた。
「フフフッ、ウチから奪った“ゴルゴルの実”で随分と甘い蜜を吸ってるようだな……本来ならアレは渡すつもりのない商品! あの一件が無けりゃゴルゴルの実はおれ達が利用していたってのによ……!!」
「ハハハ、知っていたさ。お前のファミリーの下っ端は金を渡すとすぐに教えてくれた。だからこそ、おれは騒ぎを起こさせてゴルゴルの実を手に入れることが出来た!!」
テゾーロが両手を軽く胸の前に上げ、そこから黄金を生み出す。テゾーロがかつてドンキホーテファミリーのオークションで奪った超人系悪魔の実“ゴルゴルの実”の能力だ。
金を生み出し、金を自由自在に操る力──これを用いてテゾーロは新世界での勢力を拡大させている。
本来ならドフラミンゴが用いていたもの。それだけに目の前でその能力を見せつけられると苛立ちも沸く。
「フフフッフッフッ!! なんなら今奪ってやっても構わねェが……」
「手は出さないのではなかったのかな? それに──まさかこの金の力に勝てると思ってるのか?」
互いに不遜な物言い。微塵も相手に負けるとは思っていない。
だが互いに内心はもっと複雑だ。相手を警戒してもいる。
ドフラミンゴは己の方が強く、直接戦闘になれば勝てると思っているが、それでも一筋縄ではいかない……上手くいったとしてもこちらも痛手を負うことになるだろうと思い、テゾーロもまた同じことを思っている。
そうして互いが睨み合う時間が僅かに続き、しかしそれを遥か格上の者達が止めた。
「──ウォロロロ……やめねェかお前ら」
「そうそう!! これから皆で取引するんだから仲良くしなって!!」
「!」
──その言葉に、やはり、とドフラミンゴもテゾーロも同じことを思う。
どちらもカイドウと取引をしている者同士。敵対するのではなく、互いに利用し合えば更に勢力は増す。
無論、両者共にその計算を既に終えていた。どの道、カイドウと手を結ぶ相手を勝手に潰せばその後でカイドウに消されてしまう。
「……フッフッフッ、おれの世界政府のパイプを使えば……」
「……ハハハ……そうだ。私の金の力が合わされば……」
選択肢は実質1つだった。
『──この世界を更に破壊出来る』
どちらも描く意図は違えど、彼らは破壊者であった。
相容れることはなくても、敵対する必要はない。違う意見だろうが利用して自らの益にするだけだ。
「その通りだ!! 政府は未だこっちの手札に気づいちゃいねェ!! 七武海としてこっちの息の掛かった海賊を潜り込ませるだけじゃなく……テゾーロ!! お前も金の力で政府に近づけ!! 奴らもバカじゃねェし、直に気づくだろうが……その時には手遅れだ!!」
「こっちの勢力を拡大するだけじゃなくて、相手の勢力を削るのも重要だからね!! ふふふ、内部から侵食する正体不明の魔の手……!! その正体は私達、百獣海賊団の息のかかった存在!! 恐怖する政府の人間!! って、寸法ね!!」
「フッフッフッ……なるほどな」
「面白い話だ……!!」
カイドウとぬえの企みにドフラミンゴもテゾーロも賛同する。政府に近づく、あるいはこれから近づこうとする彼らだが、どちらも決して政府が好きな訳ではなく、むしろ地に墜としてやろうとすら思っている。両者ともに天竜人や世界に対する恨みは深いものがあるのだ。
そのためカイドウ達は彼らにとっても利用出来るのだ。世界を破壊して世界を牛耳るために、彼らは思惑を胸の内に秘めて一先ずは手を取り合う。
「今日は記念日だ!! ウォロロロ!! さあ飲め!!! こんな日に飲まねェのは損だ!!!」
「さっきまでは悲しんでたのにね!! ミンゴに相談とかしなくていいの?」
「ウッ……うおおおお~~~ん!! そうだ……聞いてくれドフラミンゴ……!!」
「! (ぬえの奴……余計なことを……!!)どうしたんだ? おれで良ければ何でも聞くが……」
ぬえの言葉で何かを思い出したのか、再び泣き上戸に入るカイドウにドフラミンゴが内心で悪態をつく。表では普段どおりにしているが、対応を間違えれば死ねるため、これでも少し焦っていた。
「ウチのガキ共が言うことを聞かねェんだ……!! おれァどうしたらいい!? どれだけ躾けても治りやしねェ!!」
「が、ガキってのは親に逆らうもんさ。あんたは悪くねェよ……」
「そう言ってくれるか……!! よし、もっと聞け……あのガキ共、せっかくこのおれが気を使ってやってるのに──」
「……ああ、そうだな」
ドフラミンゴはカイドウが家庭問題の愚痴を言い始めたところで内心、頭を抱える。これは長くなる。これをしばらく聞かされるのか……と。
どうせならテゾーロにも聞いてやれと思い、チラリと横を見るが、こちらはこちらでぬえに話しかけられていた。
「次の金色神楽ではテゾーロも紹介を兼ねて参加してもらうからね!!」
「わかりました。では歌とダンスの練習をしておきます」
「あはははは!! 話がわかるね!! でもメインはあくまで私だからね!! 私よりもライブで目立つ奴は殺すから!!」
「……ええ、肝に銘じておきます──それと、今日は幾つか手土産がありまして……債務者にいた珍しい人間を黄金の箱に詰めて持ってきました」
「お、いいねいいね!! お歳暮かな? プレゼントは大好きだよ!! お返しに握手でもしてあげようか? マニアックなのでもいいよ!! ビンタとか!!」
「ありがとうございます。では……私の部下のダイスにビンタで」
「オッケー!!」
「キモティいいいいいいい!!!」
テゾーロの方はぬえにライブに参加するように求められていた。一見、こちらの方がマシに思えるため、交代してほしいところだが、そうなるとドフラミンゴの方にライブに参加しろとぬえは言いかねないため、それは出来ない。
結局のところ、ドフラミンゴはカイドウの愚痴に付き合い続けることになる。ドフラミンゴとテゾーロが手を組んだその日は、結局どちらのペースでもなくカイドウとぬえのペースだ。
そしてそんな中、彼らは思う。カイドウの子供……話にしか聞いたことがないが、聞く限りだと相当イカれた奴らしいな、と。
「ふっ……ざまァないなヤマト姉上……まさか捕まるとは……」
「君もだろうムサシ!! まるで僕だけが捕まってるように言うんじゃない!!」
鬼ヶ島の地下牢。
その中でも特に広い……そして幾つもの拷問器具を並べたその部屋は牢というよりはそれこそ拷問部屋であり、今は2人がそこに捕らえられていた。
1人はニヒルな笑みを浮かべている小柄な少女、ムサシ。
もう1人は妹であるムサシにツッコミを入れている長身の女性、ヤマトだ。
二本の角を生やしたその2人はどちらも身体に怪我を負っている。
だがその血筋──カイドウの素質を受け継いでいるせいか、2人ともまだまだ元気そうではあった。
「くっ……あのクソオヤジ……実の子を普通あんな全力で殴るか!? まだ少し頭が痛む……!!」
「大丈夫か? 頭がおかしくなったり──あ、元からおかしかったんだったな!! ふはははは!!」
「ぶん殴るぞ!! お前に言われたくはない!!」
「何だと!? 我のどこが頭がおかしいと!? ただ父親を増やしているだけだというのに……」
「それが頭可笑しいだろう!! 僕でも分かるぞ、それくらい!!」
「へ? ヤマトが分かるくらい……? 姉上が分かるのは光月おでんのことだけではないというのか……?」
「どういう意味だ!!」
「どういう意味だと!? ……それはどういう意味だ?」
「もうキリがないぞこの会話!!」
ヤマトとムサシはお互いに鎖に繋がれながら言い合うが、2人にとってはこのやり取りも珍しいことではなかった。
「だが案ずるなヤマト……真に強い剣士なら斬りたい時に何でも斬れるもの!! これくらい、斬り捨てて脱出……あ、刀がない!?」
「今気づいたのか……どれだけ能天気なんだ」
「ば、バカヤマト!! 刀がないことをなぜ黙っていた!! 天才剣士から刀を奪ったら……ただの怪力天才唯一無二の神童ではないか……」
「無くした筈なのに称号増えてるぞ……はぁ……どうすれば……せっかく約束したのに……」
ヤマトはムサシのツッコミどころ満載の発言を呆れた様子で指摘するに留める。あまり余裕はない。何しろこのままでは捕まっている間に事が終わってしまうからだ。
「む、そういえばヤマト。光月日和からおでんのことは聞けたのか? 其奴からおでんの剣技について更に詳しいことを聞く約束だっただろう」
「……そんな場合じゃなかった。このままでは捕まっている間に全てが終わってしまう……」
「ふむ、シチュエーションがおでんみたいだな」
「それは違う。僕は光月おでんだが、今はおでんとは言えない」
「まあおでんは剣士なのにヤマトは剣士ではないからな」
「仕方ないだろう!! 僕はおでんだが剣の才能はないんだ!! 才能交換しろ!!」
「出来るか!! そんなに剣を使いたくば剣豪にパパになってもらって指導をしてもらってだな……」
「それこそ出来るか!!! ……そんなことより、日和は無事なのか?」
「まだ生きてるぞ。声は消えていない……ふむ、飛び六胞相手に1日とはいえ粘れるとはな……」
「……そうか」
ヤマトはムサシの見聞色の覇気により日和がまだ無事であることに安堵して息を吐く。正直、自分のことよりよほど心配であった。
何しろ自分達はカイドウの子供。お仕置きされても殺されるようなことはないだろうと思えるが、現在進行形で飛び六胞との耐久デスマッチを繰り広げているであろう日和はいつ死んでもおかしくない。
1日は耐えたみたいだが後6日も耐えるとなると──
「難しいな……」
「うむ……飛び六胞と戦える程度の剣士なら合格だが、パパには出来ん……ママにするか」
「やめろ!!!」
……やはり、どうにかして助け出すべきか。しかしあの覚悟を踏みにじっていいものか……と、ヤマトはその答えを出せずにいた。
──その孤独な戦いが始まって24時間が過ぎようとしていた。
「頑張れ!! ぺーたん♡ ファイトー♡ ぶっ殺せー!!」
「はぁ……はぁ……!!」
「うるせェよ姉貴!! 気が散るからやめろ!!」
「や・め・ろ~~~!!?」
──目の前には百獣海賊団の若手のトップ集団。
真打ち最強の6人、飛び六胞の1人──ページワン。
日和はもう何十……何百回目となる打ち込みをページワンに行う。そうしなければここを出ることも目的を達成することも出来ないからだ。
だからどれだけ倒され、身体中に傷を負おうとも戦うことをやめる訳にはいかなかった。
……だが。
「てめェも……いい加減しつけェんだよ……!!」
「!!」
檻の外にいるうるティに向けていた顔をこちらに向けた瞬間、日和は僅かに怯む。
ページワンの背丈は日和とそう変わらない。無論、それでも力や速さは日和や大柄なそこらの男より遥かに上だ。
しかし、人型ではまだ本気ではない。
ゆえにページワンはここまで本気を出さずに戦っていたことになるが……とうとう苛立ちが募ったのか、その形態を解放した。
『百獣海賊団“飛び六胞”ページワン リュウリュウの実(古代種)“スピノサウルス”』
「そろそろブチ殺してやる……!!」
「はぁ……はぁ……くっ……!!」
「キャ~~!! 人獣型のぺーたんカッコいいンゴ~~~♡」
動物系古代種……恐竜の能力者。
その人獣型となったページワンが先程よりも遥かに速く力強い踏み込みで日和に迫る。
「死ぬ覚悟をしろ……!! 今までは適当にあしらってやってたが……こうなると、血が見たくてしょうがねェんだ!!!」
「っ……!!」
肉食の動物系は凶暴性も増す。
そのためか人獣型となったページワンは鋭い牙を持つ口をニヤリと歪め、普段よりも好戦的な様子だ。
そして既に身体が鉛の様に重いこちらとは違い、ページワンは未だ万全に近い体力だ。
これもまた通常の動物系よりも更に強いパワーとタフネスを持つ古代種の能力者の特徴。
百獣海賊団の飛び六胞以上の幹部は全員古代種の能力者であるため、1日ぶっ通しで戦ったところでキツくはないのだ。
ましてや格下なら──。
「“
「!!」
ページワンが思い切り腕を振った。
謂わばそれだけの技。
しかし起きる現象はそれだけではない。巨大な空気の鎌が咄嗟に防御行動を取ったこちらに刀越しの衝撃を与え、思い切り吹き飛ばす。
「っ……ガ、ハッ……!!」
海楼石の檻に背中が叩きつけられ、肺の中の空気が口から強制的に吐き出される。
同時に斬撃が檻にぶつかった。何かは言うまでもない。ページワンが放ったものだ。
まるで腕で放つ“嵐脚”。それを古代種のパワーで無理やり放ったような何倍にも強い技だ。
「──ふん……これで終わりだな。後はカイドウさんとぬえさんに報告すりゃこの死刑からも解放される……」
地面にうつ伏せで倒れて意識を朦朧とさせるこちらの耳に、ページワンのうんざりしたような声が届く。
確かに、これで常人なら終わりだろう。
死ぬのが普通。そもそも1日ぶっ通しで戦うなど普通の人間には不可能だ。
しかもここで耐えたところで後6日もある。
死ぬことは決まっているのだから、より苦しまないよう今の内に死んでおいた方がいいというのが普通だ。
「──ふっ……笑……止」
「……あ?」
──だが日和はそれを頭に浮かべながらも、それを即座に一笑に付した。
普通など、馬鹿らしい。常人と同じ程度で
これ以上苦しみ、堕ちることが出来るというなら──それこそ望むところだ。堕ちるとこまで堕ちてやる。日和は力を振り絞り、気絶する前に声を絞り出す。
「あと……6日……です……!!」
「……!」
──目的を成就するまでは死んでも死ぬ気はない。
人としては死のうが生き延びてやる。
「1……時間……眠り、ます……よ……」
「…………」
死なない。
気絶しても死なない。
この間に少しでも体力を回復し、次の戦いに備えるのだ。
「! ぺーたん、日和の奴……!!」
「……ああ……気絶したまま──おれ達を睨みつけてやがる」
うるティもページワンも、倒れた日和から感じるその覇気の籠もった気配に気づく。
こんなところで躓いてたまるかと言うようにだ。
「日和……様……」
檻の外に繋がれる河松すらも戦慄するその気配。
──新たな“獣”の誕生が刻一刻と近づいていた。
トキカケ→茶豚。地味に映画でも出てた。これでも赤犬派
ドフラミンゴ→前よりはカイドウ達とどう接するかがわかってきて一応順調。それはそれとして苦労はする。コネ担当
テゾーロ→金の亡者。実は性格的にもぬえと相性が良い。金担当
タナカさん→ヌケヌケの実の能力者。能力的にピーカとかとめっちゃ相性良さそう
ダイス→ドM。ただのケン○バ。生身の武装色でゾロの覇気受け止められるのは冷静に考えたらめちゃくちゃ強い気がする。うるティと絡ませたい
カイドウ→今日は酒乱。娘があんまりにもアレなので嘆いてた
ヤマト→日和の対応やその頼みをどうするべきか悩み中。光月おでんとしては娘だし。頭おかしい
ムサシ→日和は結構強い剣士らしいのでママにしたい。頭おかしい
ぺーたん→技は適当に考えた。人型の時と獣型、人獣型の時とで性格が違うのはやっぱ凶暴化してるのかなって。
うるティ→いつもの
日和→1日目クリア。汚染度??%
ぬえちゃん→今日もカイドウと仲良さそうで可愛い
こんな感じで。そして今週のワンピは凄かったね……でもおかげで色々納得したし、方向性もわかってきたというか、本作に通づるところがある。百獣海賊団の目的は「恐怖」と「戦争」をもたらし、暴力の世界を作ること。なんとなく思い描いてたのが原作で明確に言葉にしてくれて助かったのと同時にテンション上がった。
という訳で次回はジャック君が目立ちます。お楽しみに
感想、評価、良ければお待ちしております。