正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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シャーロット・クラッカー

「まさかサボりで適当な船の底で居眠りしていたらそれがジャック様の船で、しかもタイミング悪く遠征でこんな場所にまで連れて来られてしまうとは……あ、疲れてきたので空気読んで黙りますね」

 

「空気読むなら喋ってください!!」

 

「ジャ、ジャック様……どうします?」

 

「…………」

 

 無人島に上陸してすぐ、ジャックとその部下達は船倉で眠りこけていた百獣海賊団の真打ち、ソノを発見した。話を聞けばずっと船の底で眠っていたと言うが……激しい航海の中でずっと眠っていたというのはマイペースが過ぎる。

 部下達が呆れ返る中、ジャックはどうするかと判断を求められ、それに対する答えをしばらく考えた上で出した。

 

「ソノ。お前も島の探索について来い」

 

「えー……」

 

「イヤそう!!」

 

 よく逆らえるな……とジャックの部下達はソノの反応に冷や汗をかく。逆らう部下など叩き潰して無理やり言うことを聞かせても不思議ではないのがジャックだ。

 だがジャックには気になることがある。そのイヤそうな反応を見ても怒りはせず、冷静に質問を投げかけた。

 

「……お前が来たのは……ぬえさんの指示か?」

 

「んー……? いえ、純粋なサボタージュによるものです。何せ意外かもしれませんが……私のモットーは──“働いたら負け”」

 

「意外でもなんでもねェよ!!!」

 

「…………まあいい。だが探索にはついて来い」

 

「はぁ……まぁ、わかりました。物凄く気は進みませんが一応言うことを聞きます」

 

 そして結局、ソノは普段通りの様子でジャックについて行くことを了承する。……だがジャックとしては、ぬえのマネージャーや秘書のような仕事に就いているソノが幾ら普段からサボりがちとはいえ、ぬえから離れて自分の船に乗り込むなんてことがあるのかと疑ってもいた。

 だがたとえそうだったとしたら口を割る訳もないし、ぬえに確認を取る訳にもいかない。──それとジャックは、島から感じる気配に面倒なものを感じてもいた。

 

「ジャック船長~~~!!!」

 

「! 何だ?」

 

 そしてその直後、偵察に出していた部下達が慌てて戻ってくると、その口から予想以上の報告がもたらされた。

 

「し、島の反対側に──ビッグ・マムの海賊船が!!!」

 

「!!」

 

 そしてそれは幾つかの予想の中でも最大級に悪い相手。

 停泊しているというその船は、自分達と同じ“四皇“に数えられる大海賊──“ビッグ・マム”のもの。

 

「え~~~!!?」

 

「び、ビッグ・マムの海賊船……!!」

 

「やべェっすよ……!! ジャックさん、今すぐ逃げた方が……!!」

 

 その報告に部下達が驚愕し、怯えるのも当然と言える。

 だがそれは──ビッグ・マム本人がいる場合のみだ。

 

「……ビッグ・マムがいたのか?」

 

「い、いえ! ビッグ・マムはいないようでしたが、“将星”という会話が聞き取れましたので、その誰かがいると思われます……!!」

 

 ──よし、とジャックは内心で頷く。なら何も問題はないと。

 

「ならなぜ怯える?」

 

「へ?」

 

 こちらの発言で間の抜けた表情を浮かべる部下にジャックは苛立ちを覚えながらも、冷静に命令した。

 

「島を捜索するぞ。装備を整えてついて来い」

 

「ええ!!? マジですか!?」

 

「しかしジャックさん!! 相手は“将星”ですよ!? ウチの“大看板”に匹敵するビッグ・マム海賊団の最高幹部……!!」

 

「それがどうした? ビッグ・マム本人がいねェなら何も恐れる必要はねェ……邪魔をするなら──消すだけだ……!!!」

 

「!!」

 

「あらら、これはマジで行くみたいですねぇ……さすがジャック様」

 

 ジャックの据わりきってる目とその迫力に百獣海賊団のジャックの部下達が一度は顔を引き攣らせる。

 だがその内心はソノが呆れ気味に呟いた言葉と同じで、畏怖と感心に振れていた。

 

「そうだ……!! 怯む必要はねェ!! 相手は精々同格だ!!」

 

「ビッグ・マムがどうした!! 相手がビッグ・マムならこっちは“百獣”だ!!」

 

 そして血気盛んな部下達に気迫が戻る。

 “四皇”一の武闘派の名は伊達ではない。それにジャックもいる。イカレ具合なら大看板にすら負けないと言われる真打ち最強“飛び六胞”の1人だ。

 戦力なら負けてはいない。武器や兵器の類も豊富だ。

 

「行くぞ……!! 邪魔する奴は踏み潰して進め……!!!」

 

「おお!!!」

 

 ジャックの号令によって百獣の船員達はジャングルへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 ──そして同時刻。島の反対側でも似たようなことが起こっていた。

 

「島の反対側に百獣海賊団の海賊船!!?」

 

「ま、ママと同じ海の皇帝がこの島に……!!?」

 

「ヤバいですよクラッカー様!! ここは1つ、ママの判断を仰いで……」

 

 ビッグ・マム海賊団の船員達や、ビッグ・マムのソルソルの実の力で生み出されたチェス戎兵などのホーミーズがその報告を聞いて驚く。

 何しろ相手はあの“百獣のカイドウ”率いる百獣海賊団。

 そのイカレ具合を知らない者などこの海に存在しないし、同じ四皇の一味だからこそその戦力と戦うことの厄介さをよく知っている。一般の船員達やホーミーズが二の足を踏むのも当然だ。

 

「落ち着くのだ、お前達!! ……どうしますかクラッカー様」

 

「…………」

 

 タマゴ男爵が部下達を静かにさせると、次いでこの場で1番地位の高いクラッカーに判断を仰ぐ。

 するとクラッカーはしばらく無言となった。そのいかつい顔の表情に変化はない──中身の方は定かではないが。

 

「……百獣海賊団の船にカイドウやぬえはいないんだな?」

 

「は、はい!! おそらくは……」

 

「おそらくじゃ困る!! いるのかいないのか!! どっちだ!!?」

 

「は、はははい!! いません!! 見た限りではいなかったです!!」

 

 クラッカーは偵察に出た部下に凄む。

 それはある種、必死さの表れでもあった。

 何しろクラッカーにとっては悪魔の様な人物が所属する海賊団である。過去のトラウマから、いないと言われても心がざわついてしまうのは避けられない。

 

「……本当にいないんだな?」

 

「は、はい」

 

「本当か? ゆ──UFOは見なかったか?」

 

「い、いえ。見ていません」

 

「…………そうか」

 

 クラッカーは部下に何度も念押しをしつつ、自分でも空を見上げて確認する。……この場で空を見上げたところで何の意味もないことはわかっているが、それでも確認せざるを得なかった。

 そんないつもと様子の違うクラッカーを見て、タマゴ男爵はその心情を察する。過去のことを知っている訳ではないが、上のご子息、ご息女達の普段の様子を見たり聞いたりしていれば、事情は知ることは出来た。

 

「クラッカー様。やはりここはママの判断を……」

 

「……いや、問題ない!! カイドウやぬえがいないなら……このおれだけで事足りる!!」

 

「! ならば──」

 

 タマゴ男爵の言葉に頷きを返す。その意味は、

 

「行くぞお前達!! ママのおつかいを済ませる!! 邪魔する奴は叩き潰すのみ!!」

 

 ──ビッグ・マム海賊団が誇る“4将星”の1人として引く選択肢はない。

 クラッカーを先頭にビッグ・マム海賊団はジャングルに足を踏み入れる。その先に潜む獣を警戒しながら。

 

 

 

 

 

 ──鬼ヶ島。

 

「オ゛──オオオオオオオオ!!!」

 

「うるせェ!!! いい加減に……くたばっちまえ!!!」

 

 その地下牢での戦いは未だに続いていた。

 既に着ていた着物はボロボロになり、血塗れになって見る影もない日和と、目立った傷を負っていないうるティがぶつかり合う……が、今回もまたその激突は一方に軍配が上がった。

 

「──“ウル頭銃群(ミーティア)”!!!」

 

「!!」

 

 うるティの獣型での覇気を纏った頭突きの連撃が日和に直撃する。

 その頭突きは大砲の様だとも称されるほどだが、実際には大砲よりも強いその一撃の連続は戦いっぱなしでろくに休めていない日和には耐え難く、日和は地面へと倒れる。

 実戦ならここからトドメを刺されても不思議ではないが、今この場のルールではそれは禁じられているため、うるティは追撃せずに人型に戻って立ち止まった。そして日和に背を向けると、

 

「ふん……──ぺ~~~た~~~~ん♡ 私疲れたかわいそ~~~お茶を持ってくるンゴ!!」

 

「うるせェよ姉貴!! 黙って取りに来い!!」

 

()()()()~~~!!?」

 

 戦闘時の眉を立てた表情とは打って変わって弟のページワンに甘え始めるうるティ。その光景は既に10回はこの場所で見られるものであり、牢の外に作られた即席の椅子と机に腰掛けている少女はそれらを見て楽しそうに宣言する。

 

「は~~~い。それじゃまた日和ちゃんの負けね!! でも死んでないから一時間休み!!」

 

「随分と耐えるな……」

 

 百獣海賊団の副総督であるぬえが休みを告げると、その横に立つ大看板キングは日和の耐久力にそこそこ目を見張るものがあると認めるような意味の言葉を呟いた。

 

「タフネスが上がる動物系(ゾオン)の能力者であるならともかく……ただの人間で飲まず食わずの4日を耐え抜くのは……」

 

「成長してて良い感じだよね!! ……でもまあ日和ちゃんもただ耐えるだけじゃなくて色々考えてるみたいよ? ──ほら」

 

「!」

 

 ぬえが日和を指差したのでキングもそちらに目を向ける。そこでは倒れた日和に微かな意識が戻り、しかもその日和は側を通った虫を──。

 

「…………!」

 

「……なるほど。地下から出てくる虫を食べてると」

 

「あはは、まあそりゃそうだよね。食べられるものがそこにあるんだから食べる。普通だよ、普通!」

 

「放置しても構わないので?」

 

「いいよ。だってほら、温室育ちの女の子が()()()()虫を食べるくらいには生への執着が強まってるってことじゃない。そういうの見るのって楽しいじゃん♡ 少女が鬼に生まれ変わる過程を見てるみたいでさ♡」

 

「……経験が?」

 

 日和の生き残るための行動を機嫌良く見るぬえに、キングはそれを尋ねる。聞いてもいいかどうか一瞬迷いはしたが、ぬえはそれを気にしてはいない。気にしていないのにこちらが気にするのは、ある意味ぬえを舐めているようなものだ。だから尋ねた。──するとぬえは目を細めて口端を吊り上げる。

 

「ふふふ、どうかな~? ──でも私なら、戦わされた相手を殺した後で食べるとかして……生き残ったりとかするかもね♪」

 

「……なるほど」

 

 キングは納得する。確かに、生き残るためならそういう方法もアリなのだろう。

 だが並の人間には出来ないことだ、と断ずる。それは獣だけが出来るやり方だ。

 

「小紫……日和には素質があると?」

 

「勿論!! だってあのおでんの娘だよ? 環境や動機もあるし、もしかしたらヤマトやムサシよりも素質あるかもね~」

 

「……ぬえさん。ヤマトとムサシの話は……」

 

「あっ、ごめんごめん!! そういえばキングはここ数日つきっきりだったね!! あはは、うんざりしてるんでしょ~?」

 

「……そう思うなら躾はあんたがしてくれ」

 

 軽く息を吐いてキングはそう言う。正直なところ、キングが今1番面倒だと感じている仕事はそれだった。

 とはいえカイドウやぬえから頼まれた仕事をこなさないなんて選択肢はキングにはない。一番の子分として率先して対処するのが筋だ。

 だがそれはそれとして文句……とまでは言わないまでも小言の1つも言いたくなる。まあ文句を言ってもカイドウやぬえはそれくらいなら怒ることはないが、それをしないのはキングの性格だ。──そしてそれを告げるとぬえは机に置いたフグの刺し身に箸を付けながら、

 

「え~~~……ご飯作ったりとかならたまにしてるし別にいいけど、正直躾は……特にヤマトは私のこと嫌いみたいだし──あ、電話だ。もしも~し」

 

「…………」

 

 良いタイミングで机に置かれた電伝虫が鳴ったのではぐらかされた感があるが、キングにはそれ以上はツッコめない。再び嘆息してその電話の内容をぬえと一緒に耳にする。

 

『えー、こちらソノですが……そろそろビッグ・マム海賊団と交戦に入ります。そこはかとなく……』

 

「そこはかとなくって何!? ──ま、いいけど」

 

『いいんですか? なら帰ってもいいですか?』

 

「それはダメ。戦えばそこそこ強いんだし、ちゃんとあなたも戦ってきてねー」

 

『はぁ……まぁ……気が向いたら……多分、きっと、おそらく、メイビー、憶えていて、出来たら……戦います』

 

なに1つ信用出来ない!! ──でもまあよろしくね~」

 

『はい……それでは』

 

 電伝虫の相手はソノだった。何とも気の抜けるというか、ふざけたやり取りを終えてすぐに電伝虫を切る。それを聞き終えてキングは呟くように話しかけた。

 

「ジョーカーの情報は正しかったようだな……」

 

「これで緊張感ある試験になりそうだね!!」

 

 懸念事項が解消されたのか、機嫌良さそうにフグを食べるぬえを見てキングはその試験のことを考える。

 幾ら実戦に近い戦いをさせたいからといって同じ四皇の大幹部と戦わせるとは……やはりメチャクチャだ、と。

 

 

 

 

 

 木々が生い茂り、多くの凶暴な野生動物が住み着くその無人島。

 その島にある食材を求めてきた海賊団が2つ。

 それほど大きい訳ではないその島で食材を求めて中へ中へと進めば、かち合うのは必然であった。

 

「──ビッグ・マム海賊団だ……!!」

 

「──百獣海賊団がいるぞ……!!」

 

 百獣の旗を海賊旗に掲げる愚連隊の様な雰囲気の荒々しい海賊達とビッグ・マムの旗を掲げるマフィアにも似た洒落たファッションの海賊達が川沿いの広場にて対峙する。

 そしてその先頭に進み出てくるのはどちらも8メートル近い巨漢だった。

 

「あいつは……」

 

「ビッグ・マム海賊団の“スイート4将星”の1人“千手のクラッカー”ですね」

 

「あれは……」

 

「百獣海賊団の“飛び六胞”の1人、ジャックと思われますボン」

 

 大勢の海賊達が道を空ける。自然とその2人──百獣海賊団のジャックとビッグ・マム海賊団のクラッカーが相対した。

 互いに相手の素性を隣についていたその場でのNO.2に教わりながら、相手を睨みつける。

 

「……おいお前」

 

「!」

 

 そして先に口を開いたのはクラッカーの方だった。それを皮切りに言葉での応酬が始まる。

 

「おれ達はママのお茶会に必要な材料を取りに来ただけだ。今すぐにそこをどくなら見逃してやるが?」

 

「見逃す……?」

 

 上からの言葉。その不遜な物言いに何を言っているのかわからないと言った風にジャックは疑問符を言葉につけると、ややあって返答を行った。

 

「──断る」

 

「!!」

 

 返答は既に抜いていたジャックの曲刀での斬りつけだった。──話し合いなど、ジャックの頭には存在しない。

 海賊の世界は舐められたら終わりだ。たとえ相手が同じ四皇の一味だったとしても、譲れないものがあるなら引き下がることを許さない。

 特に百獣海賊団は話が通じないことで有名だった。相手に偉そうに上から物を言われて引き下がる筈がない。むしろそれを切っ掛けに殴り掛かる。そして全てを破壊する。怪物であるジャックの攻撃を防げる者はそういない。

 

「……!! ふん!!」

 

「!!」

 

 だが──相手もまた怪物だった。

 ジャックの攻撃を剣で防いで弾き返し、クラッカーは覇気を纏わせながら口を開く。

 

「全くガキが……戦うなら挨拶くらいさせろ」

 

「──これから殺す相手にか?」

 

「──そうだ。これから殺す相手に、せめてもの情けで()()()()のことを教えてやるのさ……!!」

 

 互いに相手を殺してやると言葉を紡ぎ、戦意を昂ぶらせる。互いが率いる海賊達もまた、戦いが不可避だということを知り武器を構えた。

 

「一つ叩くと二つに増えて」

 

「!」

 

 その時だ。

 クラッカーが自らの肩を手で軽く叩き──その腕を増やした。

 

「も一つ叩くと三つに増える」

 

「な、なんだありゃあ!?」

 

「腕が増えたぞ!! しかも剣ごと!!」

 

 更に叩いて腕を更に増やす。百獣海賊団の船員がそれを見て驚いたが、ジャックは冷静にそれを観察して結論を出した。当然、能力者かと。

 

「おれはビスケットの騎士クラッカー!! 剣の名は“プレッツェル”!! この世に2本と無い名剣!!」

 

「ペラペラとうるせェ奴だ……さっさと潰してやる!! ──行くぞ野郎共!!!」

 

「おおおおおおおおお!!!」

 

「話を聞かないバカが……!! 勝てると思うな!! ──お前達、迎え撃て!!!」

 

「はっ!!!」

 

 百獣海賊団の船員は勢い良く声を上げて突撃し、ビッグ・マム海賊団の船員もまた冷静だが海賊らしく戦意を滾らせて迎え撃つ。

 四皇同士の小競り合い。船員の数と質はほぼ互角。

 ゆえにその勝敗は幹部同士の勝敗に委ねられていると言えた。

 

「“ロール”!!」

 

「!」

 

 ビッグ・マム海賊団の将星クラッカーがその三つとなった名剣を引き、覇気を込めて打ち出す。

 

「“プレッツェル”!!!」

 

「!!?」

 

「ジャック様!!?」

 

「おお!! さすがはクラッカー様!!」

 

 ジャックがその剣の一撃をまともに食らい、吹き飛ぶ。

 木々を薙ぎ倒し、倒れるジャックに百獣海賊団の船員が動揺し、ビッグ・マム海賊団側は喜ぶ。

 しかし吹き飛ばしたクラッカーの方は冷静だった。吹き飛ばされ、しかし巨大化した相手を見上げながら呟く。

 

「タフだな……マンモスの能力者か」

 

「──死ね!!」

 

「……!!」

 

 巨大なマンモス──古代の動物となったジャックが立ち上がり、クラッカーに向かって鼻を振り下ろす。

 クラッカーはそれを六本の腕、六本の剣で防ぐが、その予想以上のパワーに表情をしかめさせた。

 

「さすがは古代種……!!」

 

「ふん……この程度でか……?」

 

「!!?」

 

 ジャックの鼻をなんとか受け止めたと思ったクラッカーだが、ジャックが剣を力に任せて強引に弾いて、その横っ腹に鼻を先程よりも強い力で叩きつける。

 

「クラッカー様!!」

 

 クラッカーが残り2本の腕に構えていたビスケットの盾を破壊するほどのパワー。──これがただの動物系(ゾオン)ではない古代種の力であり、ジャック自身の実力でもあった。

 

「く……“ロール”……!!」

 

「……!!」

 

 口から赤い液体を吐き出しながらも体勢を整えて立ち上がり、剣を再び引いた必殺の構え。

 ジャックもまた相手に突撃を敢行し、さらなるパワーを以て叩き潰した。

 

「“プレッツェル”!!!」

 

「“象木林”!!!」

 

 武装色の覇気を纏った激突。

 クラッカーのパワーは将星に恥じないものがあったが……やはり力という点ではジャックに分があった。

 

「!!?」

 

「あ!! クラッカー様が!!?」

 

「ウオオ~~~!! さすがジャック様~~~!!」

 

 そして──砕ける。

 それは比喩ではない。クラッカーの身体が中ほどからバラバラに砕けてしまったのだ。ビッグ・マム海賊団の船員はそれに驚く。

 

「百獣海賊団ジャック……早々にクラッカー様の()を破壊するとは……!! 敵ながら天晴だボン……!!」

 

 タマゴ男爵が冷静だが驚いた様子で呟く。

 だがそれは──クラッカーを倒したことによる驚きではなかった。

 

「──さすがのパワーだな……褒めてやるよ」

 

「! グフ!!」

 

「ジャック様!?」

 

 クラッカーを粉々にした筈のジャックが、何者かに斬られて血を吐く。

 思わず獣型から人型に戻りつつ、胸を押さえて相手を睨みつけた。

 

「貴様……!!」

 

「フフ……ジャックだったか? お前程度の下っ端。名前を憶える気もなかったが……さすがに百獣海賊団の“飛び六胞”ともなれば中々にやるな。それを教えてくれたことに感謝して名前は憶えといてやる」

 

「……その身体が能力か……!!」

 

「絶望したか? おれはビスケットを無限に生み出し操れる!! “ビスビスの実”のビスケット人間!!」

 

『ビッグ・マム海賊団“スイート4将星” “千手のクラッカー” 懸賞金6億6000万ベリー』

 

 先程の身体の中から現れ、ジャックを斬りつけたのは顔の右側に傷跡を持つ身長3メートル程の男だった。

 そして彼こそが──本物のシャーロット・クラッカーであると男は自ら名乗る。

 

「おれは痛いのが嫌いでね……だから鎧を纏って戦ってるのさ!! おれの正体に行き着いたことは褒めてやるよ……政府ですらおれの正体には気づいちゃいない!! 政府はおれの鎧を嬉々として手配書に載せてるんだからな!!」

 

「ふん……こんな一撃で壊れるような鎧で正体を隠す? 笑わせるな……ぬえさんの足元にも及ばねェ」

 

「……!! うるせェ!! あんな妖怪ババアと一緒にすんじゃねェよ!!」

 

 姿を現し、余裕たっぷりにビスケットを操って語っていたクラッカーだったが、ジャックがぬえの名前を出した途端に苦虫を噛み潰したような表情となり、怒声を上げる。

 そしてそれを見たジャックが更に煽るように言葉を続けた。

 

「随分とぬえさんのことが怖ェみたいだな……」

 

「黙れ!! 調子に乗るなよ……カイドウやぬえの下っ端の分際で……!!」

 

 クラッカーが額に青筋を浮かばせる。ビスケットの兵士──先程まで纏っていた鎧を複数生み出しながら。

 

「おれが無限に生み出せる“ビスケット兵”を一体壊したくらいでいい気になりやがって……!! おれを怒らせた罰にお前には復讐してやろう!! おれが昔あのぬえから受けた痛みを倍返しにして与えてやる!!!」

 

「じゃ、ジャック様!! あの兵士が大量に……!!」

 

「ビスケットを無限に生み出せる能力なんて……!!」

 

「どうします!? ソノさん!!」

 

 クラッカーが手を叩いてビスケットの兵士を作るのを見て、船員達だけでなくソノも口元に手を当てて驚いていた。真打ちである彼女に指示を仰ぐべく、船員の1人がそう尋ねると、ソノは目を輝かせ、

 

「あの能力があれば一生食費には困りませんね……!! いや、それだけじゃありません……ビスケットをノーコストで生み出してそれを売れば、幾らでも楽にお金を稼げ──」

 

「ソノさん!!?」

 

「あ、すみません。楽したくてしょうがない病の発作が」

 

 ビスビスの実の有効活用方法を口に出していたソノに船員達のツッコミが炸裂する。

 そしてその間にクラッカーは兵士の製造を終えていた。

 

「安心しろ!! 全員痛めつけてナワバリに返してやる!! ──前進!!」

 

「……!!」

 

「うああ~~!!? 兵士が真っ直ぐ突っ込んできます!!」

 

 クラッカーの指示によりビスケット兵達が盾を構えて動き出す。

 思わず百獣海賊団の船員達が怯むが、ジャックはやはり別だった。その兵士の群れに真っ直ぐ突っ込んでいく。

 

「お前の身体もビスケットみたいに粉々に砕いてやる……!!」

 

「出来ねェことを口に出すのはやめるんだな、ガキ!! お前にもどう頑張っても勝てない奴がいるってことを教えてやるよ!!」

 

 そしてジャックとビスケット兵達が激突する。

 ジャックのパワーはビスケット兵達よりも上であり、ビスケット兵達の耐久力も、ジャックの攻撃を数度しか耐えれない。

 だがその数は無限だ。ジャックが大暴れをして、ビスケット兵達を壊していっても、クラッカーはすぐに手を叩いてビスケット兵達を生み出し、そして自分でも近づいて戦いもする。

 

「“波動(ハニー)”──“プレッツェル”!!!」

 

「!!!」

 

「うおおお!! 行け!! クラッカー様!!」

 

「おれ達も続くぞ!!」

 

 クラッカーの剣がジャックの肌を斬り裂き、ビッグ・マム海賊団の士気が高まる。戦闘員同士の戦いもまた、ビッグ・マム海賊団側に振れようとしていた。

 

「うおおおお!!」

 

「こうなってくると弱い者いじめになるでソワール。クラッカー様がジャックを倒す前に、相手の兵士を全滅させてしまうのだボン!!」

 

「ぐあ!!?」

 

 その中で特に戦果を上げるのは、ビッグ・マム海賊団の戦闘員。その中でも最高位の“騎士”の称号を持つタマゴ男爵だ。異様に長い足──足長族の特徴でもあるそれを振り、百獣海賊団の戦闘員達を次々に吹き飛ばす。

 

「“レッグベネディクト”!!!」

 

「ぐあああ~~~!!?」

 

「くそ……!! あの足の長い奴、強ェぞ!!」

 

「黄身達が弱いだけでスフレ。もっと骨のある奴は──ん?」

 

「ぎゃあああ~~~!!?」

 

 タマゴ男爵が難なく百獣海賊団の戦闘員を薙ぎ倒していく途中、別の方向で百獣海賊団ではなく、ビッグ・マム海賊団の戦闘員が投げ飛ばされ、その道が開いた。タマゴ男爵がその道を少し行き、味方が飛んできた方向を見る。

 

「あれは……人魚!!」

 

「男爵!! あの人魚がメチャクチャ強くて……近づけません!!」

 

 そう──それを為していたのは人魚だった。

 気だるげに目を半開きにしているその若い女の人魚は、近づいてくるビッグ・マム海賊団の船員を見て溜息を漏らす。

 

「面倒ですね……出来れば定時までに帰りたいんですが……」

 

「うおお!! ぼーっとしてんじゃねェ!!」

 

「隙有りだ!!」

 

「──まったく」

 

 剣を持ったビッグ・マム海賊団の船員の攻撃を見たその人魚が、おもむろに手を動かす。

 

「“水上浮き落とし”」

 

「うおっ!!?」

 

「へ?」

 

 それは一瞬だった。

 剣が当たるか当たらないか、ソノの手が触れるか触れないかという寸前で、攻撃したビッグ・マム海賊団の戦闘員が空中に勢い良く跳ね跳ぶ。

 

「ぎゃああ~~!!?」

 

「うおおお~~~!!?」

 

 そしてそのまま近くに在った川へ落とされる。それを見たタマゴ男爵は眼光を鋭く光らせた。

 

「今のは……達人の所業。半熟者ではないようだが一体……?」

 

「……はぁ……なんというか……血気盛んで勢いだけの素人を相手にしていると……」

 

 その正体はソノ。百獣海賊団の真打ちの人魚。

 だが彼女にはそれだけではない、別の肩書もある。もうやめてしまった身ではあったが、彼女はタマゴ男爵が言うように、達人であったのだ。

 

『百獣海賊団“真打ち”及び元人魚柔術(マーマンコンバット)師範“止水のソノ” 懸賞金2億6490万ベリー』

 

「まるで()()()()王子達や荒くれ者達を思い出して……嫌になりますね」

 

 未だ二股にならない人魚でありながら、地上で海賊達を寄せ付けない強さを持つリュウグウノツカイの人魚。

 一般戦闘員やホーミーズでは相手にならないと見たタマゴ男爵がその前に進み出る。

 

「ボンジュール。相当の達人とお見受けするが……あまり戦闘員を倒されても困るボン。ここで倒れて貰うソワール」

 

「いえ、昔取った杵柄なので大したことはないと思いますが……長引くと面倒なので少しの間だけ本気で行きます──ご注意を」

 

「!!」

 

 そして足長族と人魚族の海賊が激突し、ビッグ・マム海賊団と百獣海賊団の戦いは更に激しさを増した。




クラッカー→幼少期に植えつけられた上下関係、未だ消えず。泣き虫クラッカー君
ジャック→幼少期から働き詰めで喜んで社畜になっている。労災のジャック君。
日和→虫を食べて飢えを凌ぐ。4日を突破。鬼に育てられた侍日和ちゃん。
うるぺー→いつもの
ソノ→幼少期から人魚柔術を習い、若くして人魚柔術師範となり国に仕え、兵士や王族に人魚柔術を教えていたが、色々と嫌気が差してやめた元無職の海賊。キャーソノサーン。
キング→ヤマトやムサシの躾けにうんざり。
ぬえちゃん→成長していく日和ちゃんやジャック君などの子供たちにご満悦で可愛い。

ということで今回はここまで。ジャック君の話が思ったより長くなってしまった。次回はクラッカーとの決着。その後。日和ちゃんの試験も含めてまとめに入る。ってことで次回をお楽しみに!

感想、評価、良ければお待ちしております。

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