正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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エース

 ──スペード海賊団船長“火拳のエース”!! 王下七武海の勧誘を拒否!! 

 

 今年のとある日の新聞の見出しにはこう書かれていた。“東の海(イーストブルー)”出身のルーキーが“偉大なる航路(グランドライン)”で名を上げ、七武海の一角を倒したことで政府に認められ王下七武海に誘われたが、それを拒否したことで政府の面目は丸潰れという話だ。

 だがそれくらいなら大して珍しくもない。毎年、何人かは必ず億を超える懸賞金が掛けられた活きの良いルーキーが現れ、そして新世界へと入ってくる。

 七武海に勧誘され、それを拒否する──というのは最近だとちょっと珍しいけれど、それでももうちょっと昔……七武海のメンバーがよく入れ替わっていた時期にはよくあったことだ。

 だからこれくらいの出来事をこの“新世界”の海の皇帝である“四皇”がそこまで気にすることでもない。精々、ナワバリにやってきたら歓迎してやろうというくらいだ。来れないような奴ならどうでもいい。それまでは一応脳の片隅においてやると上から見ている。

 まあとはいえ“白ひげ”は活きの良い若者は好きだから新聞見てグラグラ笑ってるだろうし、“赤髪”は他人にあまり興味ないからほぼ無関心。“ビッグ・マム”ことリンリンはどうせお菓子のことしか考えてないので本当に頭の片隅に残ってるかどうかってレベルだと思う。

 そしてウチは──それどころじゃない。

 

「…………」

 

「…………」

 

「ガツガツガツ!! はむ、もぐ……んぐ……!!」

 

「んー♡ さすが私。卵焼きもお魚も肉じゃがもそれ以外も完璧ね♡」

 

 ワノ国の鬼ヶ島。

 そこは私達“四皇”百獣海賊団の本拠地であり、私達の屋敷があるそれなりに大きな島だ。

 そして今はその一室。畳の敷かれただだっ広い部屋の真ん中に私が作った料理を載せた皿や茶碗を載せたお膳を4つ。バカでかい物が1つに普通サイズのが3つ。座布団も同じ様に1つと3つ。

 それを互いに向かい合いながら4人で食す。4人の内訳はこうだ。

 毎度ながら厳つい硬い表情で食事をゆっくりと少しずつ口に運び、それ以上の酒を飲んでいるカイドウ。

 食事に一切の手を付けずに腕を組み、カイドウを無視するようにそっぽを向いているヤマト。

 全てを無視してただただ食事を豪快に食べまくるマナーもへったくれもないムサシ。

 可愛いが服を纏って座っている。きちんと正座をして自分の作った完璧な料理に舌鼓を打つぬえちゃんこと私。

 そう……なんと今ここで行われているのは百獣海賊団を起ち上げて以来の一大事。

 ──家族での食事だった。

 

「……おいヤマト。どうして食わねェ?」

 

「…………」

 

「……! おいヤマト!! 返事をしろ!! どうして口をつけねェ!!」

 

「っ……うるさいな……食欲が湧かないんだ。僕のことは放っといてくれ」

 

「嘘をつくんじゃねェ!! 今日はまだ何も食ってねェと聞いてるぞ!! いいから食え!!!」

 

「……ふん。こんな騒がしいバカ親父が目の前じゃ食べる気も失せるんだ」

 

「あァ!!? なんだと!!?」

 

 ……ふー……いやぁ……家族で仲良くお話をしながらの食事はほっこりするなぁ……心なしかいつもよりご飯が美味しい気がするよね。私の腕前が上がったのかな? 

 カイドウとヤマトの言い合いを目にしながらご飯を口に運んでいく。どんな時でも美味しい食事は美味しいから良い。私は気分でご飯が不味く感じるほど軟ではないのだ。

 

「はぐ、はぐ……んー……おい、おかわりを寄越せ」

 

「あはははは♡ ちょっとムサシ。おいって何? ちゃんと呼びなさい♡」

 

「……やだ。いいからくれ。それと、いい歳してアイドルとか恥ずかしくないのか? もう五十──」

 

「──それ以上言ったら味噌汁の海に沈めるわよ♡」

 

「……? 味噌汁の海なんてある訳ないであろう。馬鹿なのか?」

 

「黙れ♡」

 

 私はニッコリと笑顔を浮かべて言う。冷静に……そう、冷静にだ。ジャックが以前くれた金の箸がバキッと音を立てて折れたが私はアイドル。そして今は食事の場で相手は子供だ。こんなことで怒りは見せない。この失礼極まりないムサシの失礼な言動も許してやるのが大人だ。一体誰に似たのだと頭を抱えたくもなるが、やはりカイドウの遺伝子は子供を無礼にするのだろう。そう思うことにする。そう思わないとやってられないと、気を取り直して私はムサシの茶碗にご飯を盛ってあげて投げ渡すと──なおムサシは普通に受け取った──今度は顔の向きをヤマトの方に向けた。

 

「……ヤマトは食べないのかな? せっかく私が作ったんだから食べてくれると嬉しいんだけど♡ というか食べろ♡」

 

「うるさい、ぬえ……君が作った料理など何が入ってるかわからない。食える訳ないだろう」

 

「普通の食材しか入ってないんだけど? 信用ないなぁ……ムサシだって沢山食べてるじゃない」

 

「ムサシはバカだから何でも食えるだけだ」

 

「んぐっ!!? ん、ごく……何だとヤマト!!? 私のどこがバカなんだ!! 言ってみろヤマト!! 返答次第によっては姉とはいえ貴様をこの刀の錆に──」

 

「……実は“鷹の目”は世界一のバカでもあるそうだ」

 

「な、なに……? いや……そんな話は聞いたことないぞ!! 嘘を吐くな!!」

 

「“赤髪”も年中二日酔いのバカだそうだ」

 

「なんだと……それはちょっと聞いたことあるような……くっ……だが我は騙されんぞ……騙されん……が……念の為少しは認めておこう。──そう!! 我は世界一のバカの娘ムサシ!!! だから()()()()()バカ!!」

 

「──やっぱりバカじゃないか」

 

 ……やっぱりバカのカイドウの娘だ。ヤマトに騙されてバカなことを言い出してるムサシを見てるとそう思う。

 そしてカイドウはそんなムサシの言を聞いて再び怒声をあげた。

 

「おいムサシ!! また言ってやがんのか!! お前は鷹の目でも赤髪の子でもねェ!! おれの娘だ!!!」

 

「ち、違う!! 我は世界中の剣豪の子!! そしてバカの子!! ……ん? バカの子ということはこのカイドウの子ということにもなるのでは?」

 

「どういう意味だ!!」

 

「やかましい……もうそろそろ言っていいか? この際だから言わせてもらうが……“光月おでん”である僕がお前達と一緒に仲良く食事なんて出来る筈がないだろう!!!」

 

「お前も何バカなこと言ってんだヤマト!! 確かに息子であることは認めてやったがお前はおでんじゃねェだろう!!」

 

「はぁ……せっかく無理矢理食事の場を作ったのになぁ……こうなったら私の歌で盛り上がっていけばそんな確執もなくなる筈よ!! ってな訳で世界一のアイドルのご機嫌なナンバーを──」

 

「こんな時に歌おうとするんじゃねェバカ野郎!!」

 

「そんなので確執がなくなるかバカ!! むしろ怒りが増すぞ!!」

 

「……そもそも海賊なのにアイドルってバカなのか? 我以上のバカなのか?」

 

「あんた達に言われたくないわ!!! アホー!!!」

 

 私はバカ共を罵倒し、そして暴れ出すカイドウとヤマト、逃げるムサシを見てそれを追いかけながら頭を抱えた──あーもう……早くエース来ないかなぁ……その前にバカの始末をつけないといけないけどね。

 

 

 

 

 

 ──新世界“ユキリュウ島”

 

 その冬島は三本傷の髑髏を掲げる四皇“赤髪のシャンクス”の縄張りであった。

 そして現在は他の四皇と比べても足取りが掴めない赤髪の根城となっている島。

 その島に今、とあるルーキーが挨拶に訪れていた。

 

「おれに……挨拶?」

 

「いや……そういう意味じゃねェんだ!!」

 

 ルーキーが挨拶に来た。その意味を別のよくある意味で捉えたシャンクスが剣を手に覇気で相手を威圧する。

 その反応を見て挨拶に来たスペード海賊団船長“火拳のエース”は慌てて告げる。

 古い渡世の流儀、掌を見せて口上を述べ、仁義を切ると自分の簡単な素性を述べた。“東の海(イーストブルー)”のフーシャ村。マキノという酒場の娘の名前を出し、コルボ山という近くの山で育ったことを話し……そして弟の話をした時、様子を見ていた赤髪海賊団の表情が変わった。

 

「へェ……兄貴なんていたのか。そうかよく来たな~~話を聞かせてくれ!!」

 

 打って変わって気のいい笑顔を見せたシャンクスがエースの肩を叩き、焚き火の輪に迎え入れる。

 そこからは赤髪海賊団とスペード海賊団による宴の席が開かれた。

 四皇の看板を掲げていようと海賊は海賊。それに赤髪海賊団はロジャーの直系とも噂される王道海賊。一度親しくなった者や縁のある者には優しく気のいい連中だった。

 

「そうか……麦わら帽子は、まだ持ってたか」

 

「ええ。命よりも大事だとか。あんたと約束したからだって。預かった麦わら帽子を、いつか返しに行くって。海賊王になって」

 

 エースはその弟のこと、シャンクスも知る共通の知人のことを語った。シャンクスや赤髪海賊団の幹部、古株はその話を聞くと特に懐かしさを感じて笑みを浮かべる。

 その弟も後2年もすれば海に出る。すぐに追いついてくるとエースが言うと赤髪も酒を煽りながら頷いた。だといいなァ、と。

 

「ローグタウンって言ってたな。あそこは……処刑台は見たのか。海賊王が死んだ場所……大海賊時代がはじまった場所」

 

 そこからふと、シャンクスは話を変える。

 だがその話にエースはしばし何とも言えない表情を浮かべて黙り……そして何を思ったのか言葉を濁して答えた。

 

「や、見ましたよ。観光名所だし。でも、おれは……海賊王とか、興味ねェんだ」

 

「ほう」

 

 そこから話は主にエース自身のものに移った。

 海賊王に興味がないならなぜ海に出たのか。何か目的はないのか。そんな質問が副船長であるベン・ベックマンから投げかけられる。それにエースはこう答えた。

 

「おれは、おれの名を世界中に轟かせる」

 

 仄暗い炎を宿す瞳。そこに秘めた野望は──名声。だが海賊王にはならないと言う。シャンクスや世間の他の連中にとっては伝説でもエースにとっては生まれた時にはもういなかったただの死人。まったく興味はないと。

 だからそれ以外の方法で名声を上げるのだと言い、そしてその方法をエースは語った。

 

「──“四皇”。まず、四皇を崩す」

 

「…………!」

 

「……はっはっは」

 

 宴の空気が不穏になる。それはそうだろう、その目的を語った場所が場所。今エース達スペード海賊団の目の前にいる者達が四皇の一角、赤髪海賊団だ。挑戦状を突きつけたにも等しいものだ。相手が相手ならこの場で叩き潰されてもおかしくない。

 だがシャンクスだけが口を開けて笑っていた。多少はその空気が緩和される──そこでエースも気づいた。

 

「……あ、いやいや。あんたの首を狙うってわけじゃねェ。仁義は通したし、あんたは弟の命の恩人だ」

 

「それは助かった。ただ……ロジャーは、おれの船長だった人だ。……知ってたか? いまどきの若い奴らも海賊王に憧れているもんだと思っていたが、そうでもないのか。まったく、歳はとりたくないもんだな」

 

「宴に水を差しちまった。すまねェ」

 

「なら、余興代わりに教えてくれ……四皇の、誰をとる気だ。ビッグ・マムか? カイドウか? それとも……白ひげか?」

 

「ああ──“白ひげ”だ」

 

 エースは告げる。まずは、白ひげの首を。ロジャーのライバルだった男の首を獲るつもりだと。

 何しろエースは既に魚人島で白ひげの海賊旗をその炎で燃やしてきた。それは宣戦布告だ。

 

「……まァ、おれが口を出すことでもねェが」

 

 シャンクスは微笑したまま、しばし考え込んだが、自分が口に出すことでもないと言う。エースの冒険はエースの物。好きにすればいい。白ひげが相手ならそこまで悪いことにもなる可能性は低いし、そうなったとしてもエースの自由だ。

 

「安心した。なら、おれが白ひげの首を獲っても……あんたへの不義理にはならねェな」

 

 エースは挑発した。まったく気後れもしない。

 シャンクスは四皇の中でも最も年季が短い。それよりも上の連中を軽々しく消すと言えば、それはシャンクスも軽んじていると受け取られてもおかしくない。

 スペード海賊団の面々はその無謀過ぎるエースの発言に冷や冷やとしていた。エースは頼りになる。実力もある。人望が、人を惹きつける魅力もある。それは誰もがわかっている。

 

「おれの敵は世界のすべてだ。“七武海”、“四皇”、天竜人さえ……倒す。あらゆる“高み”を崩す。この炎で……おれの名を旗に掲げて──“海賊王”ゴール・D・ロジャーを凌ぐために。“白ひげ”エドワード・ニューゲートを倒すことが、おれ……ポートガス・D・エースの出発点だ」

 

 ──だがそれはあまりにも無謀だった。

 そして何より、エースの意思は苛烈なのに酷く暗く、そして曖昧だった。

 仮にそれを成し遂げたとして、その後どうするのか。その絵が見えない。冒険や宝に興味もない。ただ世界を壊したいだけ……ただ暴れたいだけにしか見えない。

 七武海を蹴ったルーキーだと言うからどれほどのものかと思ったが、よくいる勘違いクンにしか見えないとその話を聞いていたベン・ベックマンは思う。自然系の実を食べて自分を無敵と思い込んだ勘違いのルーキー。そんな奴はこの海に腐るほどいる。

 そしてシャンクスもまた、黙ってそれを聞いていた。言わせるだけ言わせておこう、と。

 だがベックマンと違い、シャンクスは未だ考察を続けていた。この暗い意思はどこから来るのかと。

 それになぜこの程度の男が七武海に推薦されるのかと。それすらも疑問に思う。七武海とは、それほど甘い席ではない。ただ自然系というだけでセンゴクや五老星といった面々が認める筈がない。

 だが実際にエースには七武海の誘いが来たし、懸賞金もエースの実力と実績を踏まえると異様に高い。これなら億超えが良いところだが、今エースの懸賞金は3億を超えている。それほどの男には見えない。

 だからこのエースという男には何かある。それの考察を続け、久し振りに感情の灯った笑みを浮かべてしまいそうになりながら、シャンクスは自身の話を求められたのでその話を続けた。

 そしてその中で問われた傷のことを答えるついでに、シャンクスは挑発を含めた警告をした。

 

「おれにこの傷をつけたのは……白ひげ海賊団」

 

「……!! 白ひげなのか!?」

 

「いいや。白ひげのところの……一介の海賊だ」

 

 シャンクスは自身の左目の三本傷を指してそう言う。この傷をつけたのは白ひげ海賊団の幹部……隊長ですらない一船員だと。

 

「まさか……脅かそうたって……」

 

「嘘だと思うならそれでいい。……白ひげを、四皇を倒すならその一団を全て倒す必要がある」

 

 その層の厚さこそ、四皇を四皇足らしめる1つの要素だ。

 尤も、シャンクスが語るそれはまた違った意味合いを持つものだ。最近はその傷も疼かないため、特に何事もないかもしれない。

 そして傷が疼くで言うなら、シャンクスは以前戦った別の四皇に負わされた傷の方が疼いた。

 実際シャンクスが今最も警戒している海賊。その傷が疼くということは、もしかしたら何かあるのかもしれない。

 シャンクスはお開きとなった宴の場から去るエースを見送りながらそう思った。──“白ひげ”とやる前に、()()()()に潰されなきゃいいが、と。

 

 

 

 

 

 新世界の海は常識が通用しない。

 新世界にやってきた海賊達を潰すのは何も“四皇”だけではないのだ。

 航海を続けるスペード海賊団はそれを痛感している真っ最中だった。

 

「なんだってんだこの波は!!?」

 

「おいタコがいるぞ!!」

 

「バカでけェ鯉だァ~~!!?」

 

 見たことのない悪天候に高波。謎のタコや大きな鯉など、見覚えのないものだらけの海にスペード海賊団は苦戦していた。

 

「おいエース!! お前がとんでもねェ航路選ぶから!!」

 

「しょうがねェだろ。……それよりあの鯉、美味そうだな。捕まえて焼くか?」

 

「そんな場合じゃねェよ!!!」

 

 エースの相棒、デュースはこんな状況ですらお気楽なエースに全力でツッコミを入れる。元はと言えばエースのせいだと言うのに、このエースはなんとかなると思っているのだ。

 

「しかしこのままじゃ転覆しちまうぜい!! エースの旦那!!」

 

「それはマズい。スカル。お前の情報にこの波の乗り越え方とかはないのか?」

 

「おれは航海士じゃねェぜい!?」

 

 髑髏を被った男。海賊マニアで一味の情報屋を買って出ているスカルがツッコむ。20人と1匹。スペード海賊団の船員はそれほど多くないため、今は全員でその激流に対処しようとしていた。

 

「ええい!! お前達はいつもこんな無茶な航海をしているのか!!?」

 

「いつもって訳じゃ……あ、おいタコ!! 逃げるな!! クソ……せっかくたこ焼きが食えるかと思ったんだが……」

 

「おい一大事だぞ!! タコなんて追いかけてる場合か!!」

 

 そしてそんな中に訳ありで船に乗っている女性もいる。名をイスカ。元海軍少尉であり、エースが七武海に勧誘され、それを拒否した時の騒ぎで船に乗る羽目になった手の甲に火傷の痕がある美人だ。

 偉大なる航路に入ってからずっとエース達スペード海賊団を追いかけてきた若き海兵だったが、幼き頃に海賊に故郷と家族を焼き払われた過去を持つ。その犯人が尊敬していた海軍中将……エースがシャボンディ諸島でぶっ飛ばしたその相手が犯人であると告げられ、なおかつその戦闘で怪我を負ってしまったため、治療の為に船に運び込まれたのだが、その結果エース達の船に乗ることになった。

 だが明確には一味ではない。彼女は賞金稼ぎとなり、船の上でずっとエースの首を狙う。他ならぬエースが、イスカを海賊にしないためにそうしろと告げたことだ。

 スペード海賊団にはそういった者は多い。居場所が無くなった者が集いやすく、厳密には海賊ではなく船に乗せてもらうという間柄の者もいる。

 だが実情としてスペード海賊団の一員であることは船に乗る誰もが自覚していた。エースの言葉に甘えているだけで、実際は海賊として船長であるエースの為に命を懸ける覚悟は出来ている。

 そんなはみ出しものの集まりである船の上で、1人の男が縄を持って現れた。

 

「エース船長!! この縄をどうにかあの鯉に括りつけてくれ!!」

 

「!」

 

「クーカイ!! それはどういうことだ!?」

 

 スペード海賊団の仲間の1人、クーカイと呼ばれる男がエースに言う。そしてデュースがその意味を問いかけた。この島に入る方法がそんなことでいいのかと。

 

「“ワノ国”に入るにはあの滝を登らなきゃダメなんだ!! そのためには鯉で登るしかない!!」

 

「鯉が滝を登るってのか!?」

 

「そいつは……凄そうだ。よし、おれに任せろ!!」

 

 そう──クーカイは侍だ。

 ゆえにこの滝の上、ワノ国への入国方法を知っている。かなり昔にワノ国を出ているが、その入国方法は子供の頃、家族から聞いていたらしい。

 

「よし行け!! 鯉!!」

 

「……! マジかよ……!!」

 

 そしてその通りにエースは鯉に縄を括り付ける。すると鯉が滝を昇りはじめ、船をどんどんと滝の上に運んでいった。

 この先がワノ国。新世界でも殆ど情報のない謎に包まれた鎖国国家。

 一体そこには何があるのか。エースは船の船首で真っ先にそれを目にする。空に浮かぶそれを。

 

「!! ──おい!! あれ見ろあれ!! UFOだ!!」

 

「は!!? いやそんな訳あるか!! というか逆流と渦潮の対処が先だ!!」

 

「!!? 待て!! UFOだと!? それは……」

 

「やべェ!! ダメだ流される!! 船に掴まれ!!!」

 

 エースが空を指差し、UFOだと告げるが他の者達はそんな場合ではない。デュースを中心にスペード海賊団の面々は滝を登った先にあった逆流と渦潮にてんやわんやとしている。

 ただ1人、イスカだけがUFOに反応して血相を変えたが、それが何を意味するかを伝える暇は与えられずに船は流され、船員達は必死に船にしがみついた。

 

 ──そして次にエース達が気がついた時には……彼らは捕まっていた。

 

「う……なん、だ……?」

 

「早く運び込め!!」

 

「水と食料が沢山入ってるぞ……!!」

 

「ああ、助かった……これで飢えを凌げる……」

 

 海岸に打ち上げられた船と船員達。そこに集まってきたのは痩せさらばえた大勢の人間だ。いわゆる和服に身を包み、中には変わった髪型の者もいることから、ここがワノ国であることに気づくことが出来た。

 

「おいエース……縛り上げられちまって動けないが……どうする?」

 

「旦那。このままじゃ水も食料も奪われちまうぜい」

 

「……ん、ああ、そうなるな」

 

「そうなるな、じゃねェよ……これくらいの縄、お前にはなんてことないだろ」

 

 スペード海賊団の船員が徐々に意識を取り戻し、自分たちが縛られていることと物資を奪われていることに気づき、エースにどうするかと声を掛ける。自然系の悪魔の実の能力を持つエースにとって物理的な戒めは意味をなさない。エースを捕らえるなら武装色の覇気か海楼石が必要だ。

 従って戒めは簡単に解けるし、物資を奪われることも防げる。

 

「で、でもこの人達はどうするでやんすか……?」

 

「相手は海賊だ!! 気にすることなんてねェ……!!」

 

「そうだ……!! 海賊のせいで……おれ達は今も苦しい思いをしてんだ……!!」

 

「…………」

 

「おいエース」

 

 だがエースは村人達が食料と水を奪って、それを口に運ぼうとしているところを見ても無言だった。デュースやイスカが声を掛けても反応せず、しばらく黙っていたが、やがて静かな声で船員たちに告げた。

 

「……お前ら手を出すなよ」

 

「手を出すなって……」

 

「……いいのか?」

 

「ああ。頼む」

 

 エースが真剣な眼差しで船員達にそう頼めば他の者は何も言えなかった。付き合いの長いデュースもため息をついて従う。そうするだろうと半ばわかっていたからか、驚きはない。

 何しろ見る限り、村人達はとても貧しい。村は寂れ、衣服も草鞋もボロボロ。大人は痩せこけ、子供も栄養状態が良いようには見えない。あまり食えていないことは明らかで、それどころか水分すら満足に取れていなさそうだ。

 

「……おいクーカイ。ワノ国ってのは貧しい国なのか?」

 

「いや……父から聞いた話だと、昔は黄金の国とまで呼ばれた場所で、自然豊かな国だった筈だ……食うに困るようなところではないと……」

 

「と言ってもかなり昔の話なんだろ? 今は変わったのかもな……」

 

「環境に変化があったとか……あるいは為政者が変わったとか、考えられる要因は沢山ありますよね……貧富の差が大きいのかもしれません」

 

 元教師という異例の経歴を持つミハールという男もクーカイの話を聞いて分析する。子供達が泣きながら水を飲んでいるところを見るに、後者の可能性が大きいと見ていた。

 そうしてしばらく──村人が食料を全て食い尽くすのを見て、ようやくエースはその身を炎に変え、戒めを解くと、船員達の縄も焼き切っていくと……そこで村人が気づいた。

 

「あ、お、おい!! 海賊が縄を解いてるぞ!!?」

 

「そんなまさか……!!」

 

「ど、どうする……!? おれ達、食料を全部食っちまった……!! このままじゃ復讐されちまう……!!」

 

「子供達は村の奥に……!!」

 

 エース達が拘束を解いて自由になっているのを見て村人は怯える。彼らにとって最も恐ろしいのは“海賊”だ。こうなってしまえば命はないと誰もが恐怖していた。

 そんな中、エースは彼らの前に歩いていくと……その不安を解消させるように人の良い笑顔を浮かべてみせた。

 

「──どこに行けばデザートが手に入る?」

 

「……は……?」

 

 村人達は言っている意味がわからないと言わんばかりにぽかんと口を開く。誰もが呆気に取られていた。

 

「……仕返し……しないのか?」

 

「ん? ああ……いや、あの食料と水は……そうだ。おれ達の口に合わなくてよ。ちょうど捨てようと思ってたところだったんだ……だよな?」

 

「ふっ……ああ、そうだな」

 

「ってことだ。食べてもらって助かった。その礼と言っちゃあなんだが……デザートでも食いたいだろ? だからどこに行ったら手に入るのかと思ってよ。教えてくれねェか?」

 

「……あんたら……」

 

 その言葉が真実ではないことはすぐにわかった。海賊らしからぬ気遣い。村人にとって初めて見る海賊像。

 そこで彼らは気づく。自分達は自分達が襲った海賊に救われたのだと。

 拘束を解くことは出来たし、略奪を防ぐことも出来た。それをしなかったのはひとえに彼らの優しさだ。

 

「……す……」

 

「す?」

 

 エースが首を傾げた瞬間、村人達は地面に膝を突いた。

 

「すまねェ!! おれ達、あんた達の大事な水と食料を……奪っちまった!!」

 

「……いやァ、別にいいよ。おれ達の食料と水なんてそれほど大した量じゃねェしな。そこらの海賊とか賞金稼ぎから奪っちまえば済む話だ」

 

「申し訳ねェ……だが、本当に助かった……!! もうずっと満足に食べられず……目の前に降って湧いてきた食べ物に目がくらんじまったんだ……!!」

 

 村人は頭を下げ、涙ながらに謝罪と感謝を伝える。エース達は顔を見合わせ、その対応に迷った。

 

「……それで、どうするんだ?」

 

「どうすっかな……」

 

「旦那。一応、ここがワノ国かどうか確かめておいた方が」

 

「それもそうだな。──なあお前ら。ここはワノ国で合ってるのか?」

 

 スカルの提言に従ってエースは問いかける。──その時、村人の中から1人の男の声が響き渡った。

 

「──左様。ここはワノ国が九里。九里ヶ浜にほど近い“編笠村”」

 

「お……何だか鼻の長い奴が出てきたな……お前は?」

 

「わしの名は飛徹。刀鍛冶だ」

 

 エース達の前に出てきたのは鼻の長い黒い面に翼を持ち、一本歯下駄を履いた老人と思わしき男。刀を腰に差し、刀鍛冶を名乗っている。

 珍妙な姿の相手にスペード海賊団の面々は興味を持つ。ワノ国にはこういう変わった連中がごろごろいるのかと。

 

「お主達、村に食料を与えてくれたこと感謝する。……だが、何故にワノ国にやってきたのだ?」

 

「何でって……まあ成り行きだ。おれ達は海賊だからな」

 

「……左様か……だが、恩人であるお前達だからこそ話すが……ここにはあまり長居しないことをおすすめする」

 

「……そうなのか? でもしばらくは居させてくれよ。どうせなら色々見て回りたい」

 

「……ここに滞在するのは構わぬが……」

 

「……?」

 

 飛徹は言葉を濁しつつ答える。見れば村人達も同じ様に複雑な表情を浮かべていた。申し訳無さそうにしながらも何かに怯えるような表情だ。

 彼らの抱える事情がわからず、さりとて詳しく聞くのも憚られるような空気の中、エースはふと滝の上のことを思い出し、空気を和らげるためにそれを聞いてみた。

 

「あ、そういえば滝の上でUFOを見たんだが……ワノ国ではよく見られ──」

 

「ゆ……UFO!!?」

 

 村人達はその言葉に驚いた。そりゃ驚くだろうとエースもスペード海賊団も思う──が、それは彼らの想像とは違う驚き方だった。

 

「……おいエース。お前の突拍子もない話に村人が驚いてるじゃねェか。大体、見間違いじゃないのか?」

 

「いや本当に見たんだ!! だからちょっと聞いてみたんだが……ははは、やっぱりワノ国でもUFOには驚くんだな──」

 

「いや……いや……」

 

「……! おい……どうした?」

 

 エース達がUFOの話題を出した途端、1人の子供が頭を押さえて屈み込む。

 眉間に皺を寄せてどうかしたのかと子供に声を掛けたが、その時には他の村人達もまた、子供と同じ様に……震えてしまった。

 

「う、うう……!!」

 

「い、嫌だ……死にたくない……!!」

 

「何でもしますから、命だけは……!!」

 

「!? これは……」

 

 スペード海賊団の面々が驚愕する。特にデュースはその村人の様子に汗を掻いた。PTSD……いわゆるトラウマのような症状が出ていると。

 親が医者で元医学生であった彼はそれを見抜き、UFOがそのトラウマの原因、根本の要因であるといち早く理解する。そして尋常ではない様子に遅れて気づいたエース達も慌てて謝った。

 

「すまねェ!! 何だかわからねェが、怖がらせちまったのか!? そういうつもりじゃなくて……」

 

「……いや、よい。わかっておる。今更お前達が我々に嫌がらせをするなどと思ってはおらん……()()

 

「は、はい!」

 

 冷静にその震える村人達を見てエース達は悪くないと言う飛徹は孫なのか、小さい子供を呼んで村人達の介抱を始めた。かなり小さいというのに逞しい子供だった。

 

「……口に出したくないことなら聞かねェよ。お前達にも何か事情があるんだろ? おれ達は少しの間居させてくれるだけで十分だ」

 

「……その気遣いは助かるが……アレに見つかったということはお前達の入国は既に知られていよう……話さない訳にもいくまい」

 

「……は? 入国を知られる? まさか……あれは人の手の物だとか言うつもりじゃないだろうな?」

 

 UFOという言葉を避けてデュースが尋ねる。あれが人間の手の物である筈がない。それともワノ国の技術はそういうとんでもないことを可能にでもするのかと。

 だが飛徹は頷いた。神妙な顔で答える。

 

「うむ……詳しく話せば長くなるが……ともかくあの飛行物体は“ぬえ”という女の妖術で生み出された物なのだ」

 

「……!!」

 

「ぬえ!!? それって……いや、マジで言ってんのかい?」

 

「……? スカル、知ってるのか?」

 

 スカルがぎょっとした声をあげる。そしてイスカもまた、表情を青褪めさせていた。他の面々もまた緊張した面持ちでスカルの応じる声を聞いた。

 

「知ってるも何も……いや、ぬえがあのぬえだとしたら……とんでもない大物ですぜい……エースの旦那……」

 

「……海賊なのか?」

 

「……四皇“百獣のカイドウ”の百獣海賊団。その副総督ですぜい」

 

「なっ──!!?」

 

「四皇の……カイドウ……!!?」

 

「どこかで聞いたことがあると思ったら……!!」

 

 ──四皇。この海の皇帝である四人の大海賊であり、エースが狙う白ひげやこの間会った赤髪と同格の存在。

 そして“百獣のカイドウ”の名は誰もが知っていた。エースでさえ、新世界に入る時にその名を他の四皇と一緒にスカルから教えられた。

 この海……いや、この世の最強生物……“一対一(サシ)でやるならカイドウだろう”とも言われる男であり、単純な強さならあの白ひげすら上回ると言われる武闘派四皇。

 そこの二番手。カイドウの兄姉分であるのがその“ぬえ”という女なのだと言う。

 

「……つまりここにはそのカイドウとぬえ……百獣海賊団がいるってのか?」

 

「カイドウを知っておるのか? カイドウとぬえが率いる百獣海賊団はこの国に18年以上前から君臨する支配者だ……!! 将軍オロチと手を組み、ワノ国の殆どの土地を無法の荒野と化した元凶よ……!!」

 

「お、おいおいおい……百獣海賊団の本拠地がワノ国だってのかい? 確かに、百獣海賊団の本拠地の情報は情報封鎖でもされてんのかってくらい入ってこなかったぜい……まさか、それがここだと……」

 

 情報屋のスカルにとってもその情報は寝耳に水だったようだ。四皇ともなればその情報は簡単には手に入らないが、大きな組織なだけに全く手に入らない訳ではない。

 それでも百獣海賊団は本拠地やナワバリの情報が入ってこないことで有名だった。政府筋の情報すら集めることの出来るスカルだが、その中にも百獣海賊団の情報は少ない。それこそ、幹部の情報くらいだ。

 

「……なるほど。そのカイドウのせいで、この村は貧しくなったってことか」

 

「……奴らは自分達の支配を盤石にするため、自分達に従い、金になる者達にしか食料も水も与えん。最近では雨も奪われた……」

 

「雨って奪えるもんなのかよ……」

 

「どういう方法かは知らんが、奴らは自分達の支配する地域にだけ恵みの雨を降らし、それ以外の土地には一切雨を降らさないことが出来るのだ」

 

「従うしかないってことか」

 

「左様。逆らえばカイドウの軍がやってきて全て破壊される……!! あのUFOも反乱の意思を持つ者を的確に嗅ぎ分けて攻撃をしてくる……見つかればしつこく追い回されることになるぞ」

 

「だからか……」

 

 ここに長居することはおすすめしないというのは既に捕捉されて追手が来るかもしれないということだ。

 

「……エース。船を出そう。このままじゃおれ達も……」

 

 そしてデュースはそれを危惧してエースに意見した。“白ひげ”に標的を定めたことも無茶と言えば無茶だが、その道半ばで“カイドウ”にも手を出すのは無茶を超えて無謀でしかない。ただの自殺行為だ。

 村人達やこの国の人間は可哀想だが、ここは諦めるしかないと思った。他の仲間もそれは同じ。

 だがエースは──

 

「…………いや、ここに滞在しよう」

 

「エース!!」

 

「迷惑は掛けねェ。追手が来たら村から離れる。この村のことも口にはしねェ。……どうだ?」

 

「……こちらは構わぬが……」

 

 飛徹や村人は戸惑いながらも頷いた。彼らとしては恩人であるエース達が望むならそれでも構わない。

 だがその恩人達の意見が割れそうだったため、声を小さくした。代わりにスペード海賊団の船員達の声が大きくなる。

 

「エース!! お前、分かってるのか!? 相手は……」

 

「“四皇”だろ。わかってるさ……今はまだ……こっちからは手を出したりはしねェよ」

 

「っ、お前……」

 

 デュースは歯噛みした。その言葉はこっちから手を出しはしないが、手を出されたら出すという意味だ。

 確かに、エースの目的は皆知っているし、承知している。村の人が可哀想だとも思う。

 無謀だ、無謀に過ぎる……が、それを止められないこともまた、エースや他の船員達は知っていた。

 

「さあ野宿の準備でもしようぜ」

 

「……わかった。でもいいか? 本当に危なくなったら──」

 

「──た、大変だ!!!」

 

 そしてスペード海賊団の面々がやれやれと思いながらも頷き、デュースが注意をしようとした刹那──汗でびっしょりになった男が村の中に逃げ込んできた。

 

「どうした!! 何があった!?」

 

「百獣海賊団だ……!! 数人だが、この村に真っ直ぐ向かってきてる……!!」

 

「何だと!!?」

 

 そして突然にその時はやってきた。どう考えてもエース達の追手である。

 

「おいおい……早すぎるだろ……!!」

 

「どうするんだ!!? エース!!」

 

「……村の外で迎え撃つぞ。数人ならふん縛って捕まえとけばバレないだろ」

 

「部下が帰ってこなくなればバレると思うが……考えてる時間もなさそうだな……!!」

 

 そして結局、エース達は村の外に出て百獣海賊団の追手を迎え撃とうと竹林の中に身を潜める──敵がやってきたのもそのすぐ後だった。

 

「見つかったか!?」

 

「いいやまだだ。だが何としても見つけろよ……見つけ出せば昇格だって夢じゃねェ……!!」

 

「あれが百獣海賊団か……なんか、あんまり強くなさそうだな」

 

「……下っ端だからじゃねェか?」

 

 刀を持った役人らしき男に、獣のマスクをした男。2人とも蜥蜴にも似た大型の獣に乗っている。

 おそらく百獣海賊団だ。見つかったかと話しているところを見るに、やはりエース達を探し回っているのだろう。

 

「やるか?」

 

「ああ。よしお前ら、おれがまず出る……よし、今だ!!」

 

 だがこの程度ならエース1人でも倒せる。複数なら捕らえることだって余裕だ。

 エースの掛け声に合わせて、百獣海賊団に奇襲を仕掛ける。──その時だ。同じ様に竹林の中から飛び出して来た者がいた。

 

「隙あり~~~~!!!」

 

「グ!!?」

 

「え!!?」

 

 百獣海賊団の内、1人がまず吹き飛ぶ。……が、それはスペード海賊団が関与したものではなかった。

 

「!? ちょ、ちょっとお待ち下さい!! カイドウ様がお探しで──」

 

「知るか!! 我は帰りたい時に帰る!! どうしても我を連れ戻したくば……我のパパになれるくらい剣の腕を鍛えてこい!! そして我に何かしらの秘伝か奥義を伝授しろ!!!」

 

「そんなムチャクチャな──ゲブ!!」

 

「フッ……弱き者よ……井の中の蛙よ……我の勝利だ……窮屈でござる!!!」

 

 突然現れた黒髪に赤い髪が交じった少女は二刀を操り、追手を倒してしまう。

 そして幾つかの言葉を発して勝ち誇ると、その場から立ち去ろうと踵を返し──そこにいたエース達と目が合った。

 

「む……」

 

「…………あ、えーと、どうも。お邪魔しています」

 

 エースは思わず、礼儀正しく言葉を正してお辞儀をした。相手の方も、訝しむように首をひねっていた。

 

「……我としたことが()に気づかぬとは……見聞色を乱すとは剣士の風上にも置けぬな」

 

「えっと……そちらさんは? あ、手前はポートガス・D・エース。生国は南の海(サウスブルー)のバテリラという──」

 

「我の名を問うか。ふ……ハハハハハ!!! ならば名乗ろう。偉大なる我が名を……!!」

 

 そして少女はニヤリと笑みを浮かべ、自慢気に己の名を名乗った。

 

「我が名は……赤髪の金獅子の花剣の光月・霜月・ジュラキュール・フーズ・シルバーズ・ジャック・ゴール・D・キング……以下略!! ムサシ!!!」

 

「嘘つけ!! そんな名前あるかァ!!!」

 

「! ……ゴール……D?」

 

「ふはははは!!! お前達の中に剣士はいるか!!? いるなら出てこい!! いざ尋常に勝負だ!!!」

 

 ──それは名前が異様に長い……ふざけた少女だった。




家族揃っての食卓→ワノ国と百獣海賊団の一大事。ずったんばったん大騒ぎ
赤髪→小説版だと感情を込めて笑うことが殆どないらしい他人には怖い人
イスカ→小説版のヒロイン(?)エースはやたら女を引っかけてる。本作だとついてくることに。
スペード海賊団→出てくる名前は全部小説版で明かされた19人と1匹。ちゃんと侍とかもいて、ワノ国への入国方法とかもこの辺から得たのかなって思ったりしました。
雨を奪う→ワニの国で使ってそう
飛徹→生きてた
エース→この頃のエースは狂犬。三大勢力全員潰す気でいるやべー奴。目的だけ聞くとカイドウに似てる。親が嫌い
ムサシ→狂人。名前増えた。言い切れないくらいに。親が嫌い
ヤマト→次回エースと会う。親が嫌い
カイドウ→最強生物だけど家族問題でキレ散らかすお父さん
ぬえちゃん→最恐生物だけどとっても可愛くて子供にも優しいけどやっぱりキレた

ということでエースのワノ国編スタート。全2話か3話。次回か次次回で終わる。ルフィも大概だけど、エースもヤバい。喧嘩売りすぎ。ここから色々あって鬼ヶ島に乗り込めー! って、よく逃げられたよね……。ってことで次回をお楽しみに!

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