正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
──ワノ国、鬼ヶ島。
そこにある屋敷の主は今、その場にはいなかった。
それどころかワノ国にすらいなかった。そのことを百獣海賊団に所属する海賊達は噂する。
「おい聞いたか? カイドウさんとぬえさんの話……」
「喧嘩してんだろ!! 今回の原因は何なんだ!?」
「どうやら家族問題らしいな……それでお仕置き中のムサシ様が逃げてそれを捕まえろって指令が出されてるとか」
「喧嘩の場所が鬼ヶ島やワノ国じゃないだけマシだが、早く捕まえねェとあの人達戻ってきた時にまたキレるぞ……!!」
船員達は焦りながらワノ国本土へ向けての船を出そうと出航の準備を行っている。
そしてその指令を出しているのはカイドウとぬえがいない今、鬼ヶ島の最高責任者である百獣海賊団の大看板──“火災のキング”だった。
「──いいか。カイドウさんとぬえさんの喧嘩が終わるまでに連れ戻してこい」
「は、はい!! 捜索隊を急がせています!!」
「さっさとしろ……出来なきゃどうなるかはわかってる筈だ」
「……!! は、はいっ!!」
威厳ある声で部下達に命令するキングの威圧感は凶悪な海賊達をも怯えさせる。その畏怖が彼らを早足にさせ、もし失敗した時にブチ切れるであろうボスの存在に彼らはなんとか任務を果たそうと汗を流す。
そんなキングが命令をする屋敷の広間ではキング以外にも何人かの上司が存在した。大看板には及ばないまでも一船員が畏まる必要のある人物達。キングはそれらに対しても声を送る。
「……ヤマトぼっちゃんも大人しくしてくれ。ムサシお嬢様みたいに妙な真似はするな」
「枷を外してくれたなら考えるさ……!! 自由になれるなら君たちに迷惑はかけない!! 閉じ込められたら少しくらい暴れたくもなるだろう!!」
1人はカイドウの息子であるヤマト。彼女は少し負傷した様子で縛られ、畳の上に転がされているが、それでもなお反抗的な態度を取り続ける。気勢が全く衰えないのを見てキングは鼻を鳴らした。
「光月おでんを名乗るお前がワノ国に出れば無駄に騒ぎを起こすことになる。それはカイドウさんとぬえさん、ひいてはおれ達の迷惑になるんだ……鬼ヶ島から外に出す訳にはいかねェ。だからカイドウさんはお前に枷をつけた」
「どんな親だ……!! くそ……!!」
実の子供に手錠──それもこの島から出られないように仕掛けが施してある物を身に着けさせるカイドウにヤマトが悪態をつく。
だが逃げ出せないことはわかっているためそれ以上の行動には出られない。反抗しようと何をしようにも目の前にキングがいればそれも不可能だ。悔しいが大人しくするしかない。
それにヤマトにとっては……あまり強く出られない相手がこの場にいることもヤマトが大人しくする理由の1つになっていた。
「……おい、小紫」
「──何でしょう?」
その相手にキングが声を掛ける。畳の上、甲冑に兜と鎧武者の姿をしたその相手は百獣海賊団の飛び六胞──小紫。
静かな声でキングに応えた彼女こそ、ヤマトがあまり強くは出られない複雑な相手。ある意味でヤマトの天敵であった。
「おれには別の仕事もある。しばらくヤマトぼっちゃんのことを見てろ」
「……わかりました」
そしてその天敵にヤマトのことを言いつけ、キングは部下を引き連れて広間を出ていく。──そんな中、部屋の隅で部下達がヒソヒソと小声で話をしていた。
「侵入者の件、いつ言う?」
「バカ野郎……!! 報告サボってたことがバレたら死ぬぞおれ達……!! 気づいた奴になすりつけるぞ……!!」
「あ、ああ」
「…………」
そんな話をしながら部屋を出ていく部下達を小紫はじっと見ていたが、割って入った声に反応せざるを得なくなる。
「……君は……」
「……何か?」
「……いや、なんでもない……」
ヤマトが何かを言いかける。だがそれを口には出せない。何かを思って口を噤む。
そしてそれを小紫は察していた。罪悪感と使命感。それに苛まれて結局は何も言わない。そんなヤマトの姿を見てきたのは一度や二度ではない。小紫が飛び六胞となってから何度も見てきた反応だ。
それゆえに未だ変わらないヤマトの悩みを愚かだと切り捨てつつ、小紫は大人しくなったヤマトの近くで敵を斬るための刀の手入れを続けた。
「ふはははは!! なるほど海賊か!! それで剣士はいるのか!?」
「ああ、それなら……」
「おいエース!!」
網笠村近くの竹林でムサシと名乗った変な少女にスペード海賊団は困惑し、なんとかやり過ごそうとしていた。
そのために海賊と名乗る。そして剣士のことを聞かれたので、答えようとしたエースの口をデュースが防いだ。
「むっ……ぷはっ……!! なんだよデュース。剣士ならウチにも何人かいるだろ」
「それを親切に教えたら戦うことになるだろうが……!! 騒ぎを起こさないようにするんだろ? それならここはなんとかやり過ごすぞ……!!」
「まァ……言われてみればそうか」
デュースの必死の勢いに押されてエースも渋々納得する。剣士を狙っているなら馬鹿正直に言わない方が良いに決まっている。
ただでさえ四皇のナワバリに足を踏み入れてしまっているのだ。いつも以上に慎重に動き、敵に見つからないようにしなければならないとデュースは考えていた。
だがエースだと余計なことを言いかねない。なのでエースに代わってムサシに向き直る。
「……剣士ならウチにはいねェよ」
「ふむ、確かに。剣を持っている者はいるが我のパパになれそうな者はいないようだな。多少は強いのと言えば……そこの女くらいか。試しにママになってみるか?」
「試しにママになるってなんだよ!! 断る!!」
イスカを見てママになるかと尋ねるムサシだが、全力の拒否を受けてあっさりと引き下がった。お眼鏡には適わなかったらしい。
「……何でもいいがお前は何者なんだ? さっき海賊達に追われてたが……訳ありか?」
「あー、それは気にしなくていい。訳ありだが取るに足らないことだ。ちょっと追いかけられてただけで」
エースの質問をはぐらかすように答えるムサシ。いや、こちらはその理由を聞いたつもりなのだが……と思ったのは1人2人ではなかった。さっきのムチャクチャな名前を名乗ったことからしても、もしかしたら相当頭がイかれている変人なのかもしれない。
「なら侍って奴か?」
「剣豪だ!! 剣豪ムサシ!! パパやママに
「養子にしてくれる人を探しているとでも?」
「違う。剣を教えてくれるパパやママを探してる。ちなみに今は30人くらいだ」
「ビッグ・マムみたいなもんですかねェ……ちなみにビッグ・マムは旦那が何十人といるとの情報だぜい」
「それより意味わかんねェけどな」
ムサシの話が意味不明過ぎて誰もがげんなりとしたり首をひねったりしている。おそらく、剣の師匠になってくれる相手でも探しているのだろうが、なぜそれが親になるのかわからない。というか、その30人も勝手に言っているだけなのだろう。人の親は普通、そんなにいない。
「それで、お前達はこの国に何をしに来た? 観光ならおすすめしないが、花の都の蕎麦や団子は絶品だぞ!!」
「へェ……興味あるな」
「待て待て待て!! おすすめしないなら観光スポット紹介してんじゃねェよ。エースも興味持つな」
「だけどおれ達と村の食料は必要だろ?」
「それは……」
確かに、とデュースは頷く。村に水と食料を全て渡してしまったため、今度は自分達の食べる物がない。
そしてしばらく滞在するなら、それこそ食料と水は必須である。どこからか調達しなければならない。店で買えるなら買った方がいいだろう。あまり目立ちたくはないが必要なことではあった。
「ん? なんだお前達、食べるものがないのか?」
「生憎とな。どこか食料が調達出来るところはねェか? 店とか……ああ、野生の獣がいる場所とかでもいいぜ?」
「店は花の都か役人街に行けばあるぞ。そして、野生の獣はあまりおすすめしない」
「あ? なんでだ?」
「毒があるからな。ワノ国だと安全な農園の物でもなければ獣も水も全部毒だ。野生で糧を得るならまずは腹を鍛えねばならんな!! ふはははは!!」
「なるほど毒か……おれ達は大丈夫だが、それだと村の人はダメだな」
「エースの旦那……おれ達も毒は無理だぜい」
「お前と一緒にするな!! バカ野郎!!」
スカルとイスカが否定の言葉を上げると、他のスペード海賊団の面々も首を横に振ったり、“毒なんて食えねェよ”というツッコミをエースに発した。エースはそれを聞いて“あれ?”と言わんばかりに首を捻る。それを見たデュースが肩をすくめた。
「エースの医者泣かせの身体は置いといて、おれ達も村の人間もそれじゃ腹を満たせない……となると店で買ってくるしかないな……」
「ならデザート買ってこないとな。なあクーカイ。ワノ国のデザートって言うと何があるんだ?」
「そこまで知らないが……甘味ならおしるこや羊羹が有名だった筈だ」
「よし、それ買いに行こう」
「おいバカエース。お前はもうちょっと慎重になれ!! 私達が町に出たら怪しまれるだろう!! ここは一度村に戻ってからだな……」
イスカの提案に皆が頷く。エースのムチャクチャっぷりを注意できる奴が1人増えたのは良いことだ。特にデュースはそう思った。
そしてスペード海賊団は一度村に戻ろうとする──が、それをじーっと見ていたムサシは何を思ったのか、その背後からついてくると、
「──お前達、中々面白いな……よし!! よくわからんがそういうことなら付き合ってやろう!!」
「え?」
胸を張ってそう告げてきた。
ワノ国に上陸したエース達、スペード海賊団一行は百獣海賊団の追手から身を隠すために編笠村へしばらくの間、滞在することにした。
「ほうほう……笠はこうやって編むのか」
「えっと……興味あるでやんすか?」
「勿論、興味本位だ!! だが我はやらんぞ。我は剣士マニ……剣豪だからな!! 見るだけで十分だ!!」
「お侍さんでやんすね!! すごいでやんす!!」
「ふふん、そうだろうそうだろう」
「…………」
……だがその中に、異物が1人。
それは二本の角を生やした少女だった。今は編笠村に住むお玉という少女が笠を編むところを眺めており、なぜか話の流れで自慢気になっている剣士である。
そしてそんな2人を、エースは同じく笠の編み方を教わるために眺めながらも何とも言えない表情を浮かべた。
「……というかお前、本当になんなんだ? ワノ国の住民なら家に帰ればいいだろ。なんでおれ達と一緒に……この村に滞在する?」
「気にするな。ただの気まぐれだ。家には帰りたい時に帰ればいいし問題ない。そんな日常より、せっかく見つけた小さな村とそこに隠れ潜む海賊。こっちに関わる方が楽しそうだろう」
「態々宿代まで払ってか?」
「お金なんて大した問題でもない。なくなれば適当に金を持ってそうな侍から奪えばいいからな!!」
「……そうか」
淀みなく素直に答えるムサシに対して、エースの方は彼にしては珍しく歯切れの悪い態度だった。
その原因はムサシが嫌いだとか気に食わないだとかそういうことではない。単に、最初に名乗った時にでた姓の1つに気になるものがあったため、それが歯の奥に挟まった魚の骨のように気になっているだけだ。
「……おいムサシ。お前の親ってのは……」
「親? それなら答えただろう。我の親は世界中の凄腕の剣士だ!!」
「いや、そういうことじゃなくてだな……」
「? ならどういうことだ?」
「それは……なんて言うかだな……」
ムサシの疑問にエースはやはり歯切れが悪い。
いつもの陽気で細かいことを気にしないその良さはあまり出ていない。
だがそれもやはり、親のことが気になっているからだろうということはエース自身とそのことを知るデュースだけは気づいていた。
「……お前の親ってもしかして、とんでもない有名人だったりしないか?」
「!」
だが遂にエースは己の疑問を言葉にする。
それはエースにしては踏み込んだ真面目な質問だった。
親のことで思うところがあるエースにしてはかなり切り込んだ問いであるとデュースも思わず表情を固くしてしまう。
だがそれよりも驚いたのは、それを聞いた時のムサシの反応だった。
親のことを聞けばまたふざけた返しをしてくると思ったが……ムサシはそのエースの質問に目の色を変えた。
そしてその目の色をデュースは見たことがある。それとは少し違うが、その目の色は明るいのにどこか昏いものを隠すかの様でいた。
しかしそれも一瞬である。ムサシはすぐに表情を不敵なものに戻して答えた。
「……ふはははは!! それは前にも言っただろう!! 我の親は世界中の剣豪だからな!! 有名人には違いない!!」
「…………そうか。まあ何でもいいけどよ」
エースはそう言って再びお玉の笠を編むところに視線を向ける。……だがその口振りとは裏腹に心には未だシコリが残っている様に見えた。
それもムサシが名乗った際にエースの父──ゴール・D・ロジャーの姓を名乗っていたからだろう。
エースはその実の父が嫌いで、未だデュース以外の仲間にも言えないほどの強いコンプレックスを抱いている。
だからこそ、その父の姓を名乗ったムサシに複雑な感情を抱いていた。それがたとえ、ただふざけているだけ、あるいはただの憧れだったとしても、名乗られることに対しての気持ちは何とも言い表せない。
それと、まずありえないだろうが本当にロジャーの娘……隠し子の可能性だってある。
何しろロジャーの血筋など、それだけで大罪とされるのだ。エースとてそのことは本当に親しい相手以外には秘密にしてきた。
加えてムサシは実の親を隠しているようにも思える。そういう部分も少し気持ち悪いのだろう。
勿論誰にでも事情や理由があるし、親を言わないくらいならなんてことないのかもしれない。
しかし、1つ1つならどうということはなくても、そういった細かいものが積み重なれば気になってしまう。その結果が今のエースだった。
「親が凄腕の侍なんてすごいでやんすね……!!」
「……いや、あれは嘘だと思うけどな……」
「そうなんでやんすか? それならデュースの親は何をしてるでやんす?」
「ん……あー」
そうしてエースやムサシのやり取りを観察していると、不意打ち気味にお玉から親のことを聞かれデュースは言葉を迷わせる。……正直、デュースもまた親について思うところがある身だ。あまり家族のことは口にしたくない。
だが昔と違って今ならその話題もそれほど重くはないのか、デュースは気づけばお玉の質問に答えていた。
「……医者をやってるな」
「すごいでやんすね!!」
「いや……大したことねェよ」
だが親への反抗心は未だに持ち合わせていたのか、自然と下げる言葉を紡いでしまう。医者とはいえ、人としては……いや、親としては微妙だ。尊敬は出来ない。
だからお玉にもそう言ってしまったのだが……次にお玉の口から出た話はデュースにとっても少し考えさせられるものだった。
「でも……おらには親がいないから……それでも羨ましいでやんす!!」
「……!」
それはまた違った意味で家族へのコンプレックスとも言えた。
親がいない子供。この大海賊時代では珍しい……とも言い切れない。そんな子供は大勢いるだろう。お玉もどういう理由かは知らないが、そんな子供の1人というだけだ。
だからなのか、お玉は一瞬困った様に笑いながらも、その悲しみや苦しさなどを殆ど見せず、純粋に親のいるデュースやムサシを羨ましがっているように見えた。
「……そうか。大変だな」
「あ……いや、そんなことないでやんすよ!! 村の人は親切にしてくれるでやんすし、面倒を見てくれるお師匠様だっているでやんす!! だからおらは十分に恵まれてるでやんすよ!!」
こちらに気を使わせてしまったことに気づいたのか、お玉は慌てて手を身体の前で振り、自分は幸せ者だと言い切ってみせる。随分としっかりした娘だ。これでまだ5歳だというのだから驚きで、なんなら未だに親につまらない反抗心を持っている自分が酷くガキに見える。少なくとも、自分が5歳の時はこんなにしっかりしていなかった。
「……そっか」
「そうでやんす!!」
そして笠を編んで少しでも収入を得ようと頑張るたまを見て思う。子供ってのは親も選べないし、生まれる場所も選べない。どんな親だろうと血の繋がりは消えない。
口が裂けても言えないし、隣の芝生が青く見えているだけかもしれないが……もしかしたら本当に小さい時から親がおらず、それが何者でもないお玉の方が幸せ者かもしれない……そんな風に思ったのはデュースだけか、それとも目の底に昏い何かを抱える2人ともか……誰が何をどう思っているのかはデュースには見当がつかなかった。
──そうしてエース達が編笠村に滞在し、2週間が経った頃。
その日の夜にエースは仲間達を集めた。村の人やムサシには内緒で。
「どうしたんだエース……こんな夜中に」
「ああ……悪いな。すぐ終わるから聞いてくれ」
エースは訝しむデュースや仲間に軽く謝罪しながらも決意をした目をしていた。
その時点で仲間達は何かを察する。エースがこういう顔をしている時、それはエースの中で意思が定まった時だ。
魚人島で白ひげの旗を燃やした時も、新世界に入ってすぐに赤髪に挨拶に向かった時もエースはこの顔をしていた。
「スカルからの情報でわかった。百獣海賊団は“鬼ヶ島”っていう無人島を根城にしているらしい」
「……その情報は……必要か?」
デュースは確認を込めてそう言った。大体の察しはつくし、覚悟もしてきた。
とはいえ不安になることも難しい顔になるのも避けられない。エースがやろうとしていること、進もうとしている道はそれだけ厳しい道なのだ。
「ああ。なにせこれから……そこに攻め込むんだからな」
「ッ…………」
わかっていた。エースが素通りなんてする筈がないと。
だがそれでもデュースは苦い顔を浮かべてしまう。そしてせめてもの抵抗に問いかけることしか出来ない。
「お前……わかってるのか? おれ達はもう“白ひげ”を敵に回してんだぞ?」
「わかってるさ。だが言った筈だ……目標は“四皇”だってな。仁義を切った“赤髪”以外は全員その首を獲る。こんなに近くまで来れたってんなら素通りするには勿体ねェ」
「それはわかってるが……敵の本拠地だぞ? 勝算はあるのか? 相手は……」
「何を言ってるんだエース!!!」
デュースがそこから更に具体的な質問を口にしようとした時、横から大声で口を挟んだ者がいた。イスカだ。彼女は元海軍本部少尉で新入り。厳密には海賊ではないことになっているが、一味の仲間であることは明らかだ。彼女自身も理解している。それゆえにか、その計画に異を唱えた。
「おいイスカ。村の人達が起きちまう。もう少し静かにしてくれ」
「っ……お前、自分が何を言ってるのかわかってるのか? 相手はあの“百獣のカイドウ”だぞ……!!」
「知ってるさ。一対一なら最強ってんだろ? なら相手に取って不足はねェな」
「バカ!! 全然わかってない……!!」
不遜にも上から物を言うエースにイスカは怒りを見せる。何しろイスカはそれだけカイドウという存在の恐ろしさを知っていた。殺しても死なない最強生物。あの海軍大将“黄猿”でさえその部下に傷を負わせられ、四皇に成り上がる前ではあるがあの赤髪すら地につけた怪物だ。
「噂だが、あの海賊王やガープ中将ですらカイドウは殺せなかったと言われているんだぞ……!! そんな化け物を──」
「……なら討ち取ればそれだけ海賊としての“高み”に昇れるな」
「……! お前……」
「……前にも言ったが、ついてこれねェなら残ればいい。闘う意思がないなら戦わなくていい。おれは……“高み”をとる。そのためには誰だろうと倒す。白ひげだろうが百獣だろうが関係ない。どの道全員倒すんだ。最初の標的がたまたまカイドウになっただけでな」
──だから残りたい者は残ってもいい。エースは魚人島で船員達に告げた様に、もう一度同じことを敢えて聞かせる。
その覚悟がない者は……この場にはいない。全員がエースについていくつもりだった。イスカもまた、それを言われては黙るしかない。エースは何を言おうと止まらない。だったら支えるしかないのだ。
「……エース。おれ達は皆……覚悟は出来てる。だが、勝算のないただの特攻ならおれは……お前を止めるぞ。その上で聞くが……勝算はあるのか?」
そんな中でデュースだけはそう注意する。エースに命を預ける覚悟もあるし、その目的に文句はないが、無謀に敵の大軍に突っ込むような自殺行為には賛同出来ない。仲間を代表するようにそう告げた。エースもまた、相棒のその問いを理解し、頷きを入れる。
「勝算は……ある。スカルの情報でな。今がチャンスだとわかった」
「……そうなのか?」
「ええ、デュースの旦那。イスカの姐さんにも言っときますが、一応、今は本当にチャンスと言えばチャンスですぜい」
スカルがデュースの確認に応えてエースの後ろから前に進み出る。特に異論を唱えたイスカに対し、エースは別に全くの考えなしでそう決断した訳でないことも告げる。……本人は「姐さんと言うな……!!」と別のことに対して怒っていてスカルを睨みつけたが、スカルは軽く下がりながらも説明を続けた。
「本題に入るぜい。なんでも、百獣海賊団は今その大部分がワノ国から出払っているみたいで。カイドウとぬえは勿論のこと、大看板も飛び六胞も今は1人ずつしかいないとか」
「その大看板と飛び六胞ってのはなんなんだ? スカル」
「“飛び六胞”は百獣海賊団の幹部“真打ち”最強の6人で、“大看板”ってのはそれより上位、カイドウとぬえの懐刀の4人ですぜい。大看板は“災害”と称されるほど実力も頭のネジもブッ飛んでる連中で有名だ」
四皇の一角である百獣海賊団は四皇切っての武闘派集団だ。
その在り方は海賊と言うより良く言って軍閥。愚連隊とも言える荒っぽく危険な集団である。
兵力は2万以上。そして真打ちと呼ばれる幹部が100人近くおり、その殆どが動物系悪魔の実の能力者であるという。
そしてその中でも最強の6人である“飛び六胞”がおり、その上位には更に災害と称されるカイドウとぬえの懐刀、それぞれ軍団を率いる“大看板”の4人。そして頂点には、副総督のぬえと総督のカイドウが君臨している。
その戦力は単純な数や組織力で他の四皇……“ビッグ・マム”や“白ひげ”には劣っていると噂されるが、個の戦力で右に出る者はおらず、どれだけ倒しても押し寄せてくる“不死身の軍団”とも言われている。
「……なるほどな。その大幹部の連中が今は出払ってると」
デュースは腕を組んで頷く。確かに、そんな連中を1人1人、一々相手にする訳にはいかない。こっちの戦力は20人と1匹。1人100人倒したとしてもまだ足りない戦力差だし、仮に雑兵は何とかなるとしても、その大幹部が全員揃ってるとなると苦戦は避けられないだろう。それが1人ずつしかいないと言うならチャンスと言えばチャンスだ。だが──
「カイドウもいないんだろ? なら結局首は獲れねェじゃねェか」
「そう。そこが肝なんだぜいデュースの旦那。カイドウがいないなら確かに首は獲れないが……タイミングが良いことに、カイドウとぬえはもう明後日には帰ってくるとかで……しかも部下を連れずに2人だけで」
「は? いや、なんだその……都合良すぎねェか? 帰ってくるタイミングはともかく、なんで2人だけで帰ってくるんだよ」
そんな都合が良すぎることがあるのか。だとしたら理由はなんだとデュースは率直に尋ねる。そしてスカルは淀みなく、しかし恐れと不可解を覚えながら答えた。
「それがどうにもカイドウとぬえは定期的に喧嘩して殺し合いをするらしくて……今はそれが終わって帰ってくるところだとか」
「殺し合い……仲間割れでもしてるってのか?」
「いや、そういう訳ではないみたいですぜい。なんでも、本当に喧嘩の延長線でやり合うって話で。ただその規模が大きすぎて島の地形を歪めたり壊したりするから、場所を選んで喧嘩するみたいで」
「なんだそりゃ……」
四皇ってのは強さだけじゃなくて頭のネジや常識までブッ飛んでるのか。デュースはそう思わざるを得ない。赤髪がかなり親しみやすく話せる相手だった……少なくとも表面上はそうだったため、四皇も結局は人間だと思っていたが、こう聞くとこっちはまるで化け物の話だ。話のスケールが違いすぎる。
「それでまあ、帰ってくるのが明後日だ。なら明日、鬼ヶ島に攻め込んで大看板と飛び六胞とやらを倒して後は帰ってくるのを待ち構えればいい。カイドウをおれがやって、ぬえをお前ら全員でやって……討ち取るんだ」
そしてエースが話を纏める。そこまで聞けば確かに絶好のチャンスであることが皆にも伝わる。顔を拝むことすら難しい四皇を、その手下が少ない中で戦えるというだけでも奇跡だ。エースは無鉄砲で考えるより先に動くタイプだが、それでも全くの考えなしという訳でもないらしい。確かに、真正面から挑むなら0と言っていい様な勝算が理屈の上ではそれなりに見えているようにも思えた。
「ここまで言ってビビるお前達じゃないだろ? ……まあ乗らないってんならそれでもいいが」
「エース……」
デュースはそのエースの煽りとも取れる言葉を複雑そうに受け止める。
実際、エースはたとえ1人でも突っ込んでいくだろう。エースは自らの目標……父親であるゴールド・ロジャーの呪縛から解き放たれるためなら何でもする。
父親を超える名声を得る。父親が出来なかったことを成す。何者にも支配されない存在になる。
だからこそ世界を支配する全ての存在を敵とみなしている。王下七武海に海軍、四皇や天竜人も全員敵で、討ち倒すべき存在。その支配をエースは破壊したいのだ。父親を超えるために。
だからエースはたとえ1人でも四皇に挑みかかる。今、スカルの情報から戦略を考え、仲間達に言って聞かせたのは文字通り、仲間達を納得させるためのものでしかなく、エースとしてはどうだっていいことなのだ。別に真正面から挑むこともエースはきっと厭わない。今の言葉からはそれが垣間見えた。
「……そこまで言われちゃあな」
そしてデュースは軽く嘆息しながらもエースの計画に頷く。他の仲間達も皆、それに頷いた。
何しろエースはこのまま自分達が話に乗らなければきっと1人で挑むし、そして死んでしまう可能性が高い。
デュースも仲間も皆、エースを慕って集まったはみ出し者なのだ。どんなに無鉄砲でもエースを死なせたくはないし、1人にすることはしたくない。
「それに……玉にも言ったしな。もっとでかい海賊団になって船に乗せてやるって」
「ああ。おれ達はきっとまたここに来る。カイドウを討ち取り、白ひげも討ち取り……それからいつになるかはわからねェし、あいつの気も変わるかもしれねェが……そうだとしてもこの国に来る約束は守らねェとな」
そう、昼間、この村のお玉という少女に船に乗せてくれと頼まれた。
まだ5歳であるお玉をさすがに船に乗せる訳にはいかなかったが、それでも自分達を慕っているお玉に約束したのだ。いつかもっとでかい海賊団になって、お玉が妖艶なくノ一にでもなっているようだったら船に乗せてやると。
その約束の為にもだ。カイドウを討ち取ってその結果、お玉がくノ一になれるような国になるならそれもいいだろうと。
「いいかお前ら。明日鬼ヶ島に向けて船を出すぞ。今の内に準備は整えておいてくれ」
そしてその最後の確認の言葉には誰もが頷いた。
見聞色の覇気は鍛えれば遠くの気配を察知することが出来る。
そしてその少女は特に耳が良く……夜中の竹林の中で行われる話し合いを耳にしていた。
「鬼ヶ島に、か……う~ん……倒せるとは思えないが……どうしたものか……」
少女は何ともままならない気持ちを抱え、難しい顔をしながらその日の内に空を飛んで村から立つ。その獣は満月の下で白く輝いていた。
島の周囲は激しい海流に囲まれており、船で近づけるのは正面からのみ。
そしてその正面の海には要塞と化した巨大な赤い鳥居。更に近づけば幾つかのUFOが島の上空を飛び回っている。
その警戒網を掻い潜ってようやく辿り着けるのがワノ国を支配する百獣海賊団の本拠地、鬼ヶ島だ。
「……何の障害もなく辿り着いたな」
「どういうことだ……侵入に気がついてないのか?」
だがエース達、スペード海賊団はその鬼ヶ島に何の障害もなく辿り着いてしまっていた。
途中の要塞こそその目を欺くために多少工夫はしたが、空から見張っているUFOには気づかれるだろうと、そこからどう戦っていくかを考えていたのに、それにすら気づかれずに潜り抜けてしまい、スペード海賊団の面々は拍子抜けしてしまう。
「……好都合だが気を抜くなよ」
「そうだ、気をつけろ。四皇は甘い相手じゃない……細心の注意を払え」
デュースやイスカが気を抜かないようにと皆を注意する。
鬼ヶ島の正面は巨大な池にも似た船着き場になっており、幾つもの船が停められそうだ。……しかし見張りはいない。四皇の本拠地だというのに不自然なほどに無警戒だった。
「四皇だってのに……それとも四皇だからか? 攻めてくる奴なんて誰もいねェと高を括ってるなら痛い目見て貰わねェとな」
「……とりあえず、船を隠すぞ。戦ってる間に気づかれて船が壊されるなんてごめんだからな」
島には船番のミハール以外は全員で踏み込むと事前に決めていた。とはいえ気づかれた時点でかなり厳しいことには変わりないので、船を停める場所には細心の注意を払う。そうしてスペード海賊団はそれぞれの武器を携えて鬼ヶ島に上陸した。
「……なんだか島の内部が騒がしくないか?」
「確かに……中からは人の気配もあるし、声も聞こえるな。宴会でもしてんのか」
そして島に上陸したところで気づく。正面の洞窟内部に続く階段の先からは声が聞こえる。それも1人ではない複数、大勢の声だった。
エースや仲間達も皆、それを宴会かなにかで騒いでいるのだと適当に決めつけるが、とはいえ先程注意されたようにここは四皇の本拠地だ。最大限の警戒を行いながら島の内部へと足を進めようとする。
「急いで捕まえろ!! 早くしねェとおれ達が──あ?」
「──あ、どうもお邪魔しています」
「あ、いえいえご丁寧に……って、え? ──げふっ!!?」
そして海賊達と鉢合わせたのはそのすぐ後だった。なぜか慌てていた海賊とばったり出くわし、思わず挨拶をしたエースに対し、相手もノリが良いのか同じ様に返し……その数秒後にはエースの拳に顔面を撃ち抜かれて吹き飛んでいた。すると通路から続々と現れる海賊達もその異変に気づく。
「おい!! なんだあいつら!!?」
「もしかして……侵入者か!? くそっ、こんな時に!!」
「へへっ、楽しくなってきたな!!」
「楽しそうにしてる場合かよ……見つかったならさっさと倒して進むぞ!!」
「ああ!! わかってる!!」
戦闘が始まり、エースは途端に楽しそうに不敵な笑みを浮かべる。四皇のアジトだってのに気楽なものだ。デュースなどは警戒しっぱなしだと言うのに。
「おいおい!! こいつどこかで見たことあると思ったら……“火拳のエース”じゃねェか!!」
「なんだ知ってんのか。それなら食らっときな──“火拳”!!!」
「ぐあァァァ~~~!!?」
「くそ……!! 誰か、今すぐ報告を……!!」
だが雑兵相手ではエースは止まらない。武闘派の多いスペード海賊団の面々も数で勝る百獣海賊団の戦闘員を次々と倒していく。エースの炎で怯んでいるのもあって優勢は常にこちらだ。
「よし!! ここの雑魚は片付いた!! 先へ進むぞ!!」
「おお!!」
そして雑魚をある程度倒せば先へ進む。そうして少しでも数を減らしておけば大物と当たった時にそれだけ有利になる。見つかるまではそれが出来る。見つかるまでの勝負だ。
「今のところは順調だな!!」
「怖いくらいにな……何事もなければいいが……!!」
一丸となってエース達は巨大な髑髏の山の横道を進む。中に入れば囲まれる可能性も考えたルート選択だった。
それもあってか今の所、作戦は順調だ……がしかし。やはりこういった鉄火場にはイレギュラーが付き物だ。
「……!!」
「おっと新手か!!」
「……いや、待て……!!」
そして次に現れたのは二本の角を生やした長身の女だった。相手はエースやスペード海賊団の面々を見るなり当然驚き、制止の声を上げる。その隙を突いてエースは覇気を込めた拳を放った。だが、
「……!!」
「! っと、ようやく出来る奴が出てきたな……!! もしかしてお前が飛び六胞って奴か?」
「く……違う!! 僕は飛び六胞なんかじゃない!!」
その相手は背中に背負っていた金棒を用いてエースの攻撃を防ぐ。鬼ヶ島に入って初めてエースの攻撃を止めた相手にエースもスペード海賊団も目を見開いた。さすがに強い奴が現れたと。エースは攻撃を続けながら飛び六胞かと問いを投げたがその相手は自分を飛び六胞ではないと言った。するとエースは身体を炎に変えて攻撃のための火を生み出しながら言う。
「だったら大看板か!?」
「違う!! 大看板でもない!! 僕はヤマト!!
「……? また意味のわからない名乗りをする奴だな……ワノ国ではそういうのが流行ってんのか? ──まあでもお前がどんな肩書だろうと……悪いがここで倒れてもらうぜ!!」
「待て!! 僕は君達と戦う気なんてない!!」
「戦う気すら起きないってか? その舐め方は笑えねェな!!」
「だから違うと言ってるだろう!! 話の通じない奴だな……!! そのくせ強いとは……!!」
エースの炎を纏った拳とヤマトとも光月おでんとも名乗る女の金棒が激突する。妙なすれ違いが起きているような気がしながらも、スペード海賊団の鬼ヶ島突入は遂に始まった。
小紫とヤマト→ヤマト側が気を使ってる。小紫も若干苦手。相性悪い
ムサシ→剣士マニア。凄腕剣士なら戦ってパパかママにする。スペード海賊団はお眼鏡に叶わなかったが、興味は持つ
エース→やっぱり狂犬。鬼ヶ島に特攻してるっぽいの公式なのがヤバい
お玉→対ギフターズ最終兵器幼女
ヤマト→エースに問答無用で殴りかかられる。
カイドウとぬえちゃん→出番なし。最近、余裕がある時は鬼ヶ島から出て喧嘩することを覚えました。今回の喧嘩の理由は子供に関することです。
ということでこんなところで。次回は鬼ヶ島でエースがボスラッシュです。果たしてどこまで勝ち進めるか。ぬえちゃん成分は次回のお楽しみ。欠乏症になる前に早めに供給したい(願望)。
感想、評価、良ければお待ちしております。