正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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新世界の洗礼

 スペード海賊団による鬼ヶ島襲撃は一先ずは順調であった。

 

「おい侵入者はどこ行った!?」

 

「あっちだ!! ヤマト様が戦ってる!!」

 

「建物に燃え移った火を消せ!!」

 

 突然の奇襲で蜂の巣をつついたような騒ぎになった鬼ヶ島。

 その山道の1つでは現在、捕らえるように指示が出ている者同士が戦っていた。

 

「中々やるなお前!! 女のくせに!!」

 

「くっ……いいから話を聞け!! はぁ……はぁ……」

 

「そんな時間はねェ!! 何か言いてェなら戦いながら話せ!!」

 

「言ってるだろうが!!! 僕は戦うつもりはない!!!」

 

 スペード海賊団の船長エースとヤマトが覇気を込めた拳と金棒をぶつけ合う。戦いはエースが優勢でヤマトは話を聞いてくれないまま攻め立てられ息が上がっていた。

 

「あの侵入者、ヤマト様を押してるぞ!!」

 

「つーかどっちも捕らえなきゃなのに近づけねェ!!」

 

 周囲の海賊達はそのレベルの違う戦いを見て戸惑うしかない。ヤマトも侵入者もどちらも捕まえなければならないが、不用意に近づけばやられてしまう。どうすればいいかと海賊達は上に指示を仰いだ。

 

「どうするんすか!? ソノさん!!」

 

「あー……そうですねぇ……とりあえずそろそろ昼食時ですし、皆で寿司でも食べに行きませんか?」

 

「食べてる場合じゃないですよ!!」

 

「つーかあんた人魚だろ!! 魚食うのか!!?」

 

 海賊達の後方で気だるげに気の抜けた発言をするのは姿勢だけはしっかりとしている二足歩行の人魚、百獣海賊団“真打ち”のソノだった。

 去年から足が二股に分かれたその人魚は部下達のツッコミを受けて面倒そうにため息をつくと一応指示を出し始める。

 

「はぁ……しょうがないですねぇ……それじゃあ周りの部下を軽く襲いながら時間稼ぎで」

 

「えっ!! そんなんでいいんすか!!?」

 

「ソノさん!! あんた強ェんだから戦ってくれよ!!」

 

「嫌です」

 

「断った!!?」

 

「い、いいんですか? 両方捕らえたら昇進の機会が巡ってくるかも……」

 

「と言われましてもこれ以上の地位には興味ないですし……今の地位で満足してますし……そんなことよりとれたてピチピチの新鮮な魚介類が食べたい」

 

「ダメだこの人!!」

 

「じゃ、じゃあ時間稼ぎしますけどそれでいいんすね!?」

 

 部下達が口を開けて驚く中、ソノは確認を受けて頷く。奥で起こっている戦いを見ながら、

 

「というかそれでいいんですよ」

 

「えっ……どういうことっすか!?」

 

「はぁ……いやほら、よく考えてみてください。時間を稼げば向こうはゲームオーバーですよ。無理に攻め込まなくても……時間を掛ければ相手にとって絶望的な戦力がどんどん集まってくるんですから……その時になってから攻めても遅くないです」

 

「! そ、そうか!! なるほど!!」

 

「それじゃあ今はこの場から逃さないように包囲っすね!!」

 

 おお、とソノの説明に部下達は士気を高める。つまりこの海賊達を後から甚振れるし、苦しむところが見られるということだ。そしてヤマトを捕らえることにも繋がる。ここに留めていれば。

 それを部下達が理解したのを見て、ソノは服の内側から取り出した時計を見た。1時間もしない内にこの騒ぎは収まるし、昼食もそれまでには摂れるだろうと。

 

「ハハハ!! 逃さねェぞ侵入者!!」

 

「百獣の住処に侵入しといてタダで済むと思うなよ!!」

 

「くっ……数が増えてきたな……!!」

 

「おいエース!! このままここで足止め食らってるとマズいぞ!!」

 

 騒ぎに敵が集まってきたのを見てデュースが叫ぶ。今はまだ大丈夫でも、このままでは敵に囲まれて体力を消耗する。早いところ敵の将を、飛び六胞やら大看板やらを倒さないとキツイことになる。

 

「ああわかってる……!!」

 

「っ……囲まれてるか……!!」

 

「!」

 

 そしてエースもそれをわかってヤマトに猛攻を仕掛けるが、ヤマトもまたエースだけでなく囲まれていることに眉をひそめていた。それにエースも気づく。

 

「……もしかしてお前も追われてるのか? もしかして、戦う気はない?」

 

「さっきからそう言ってるがな!!! 今気づいたのか!!!」

 

 やや迷った末にエースがそう尋ねるとヤマトから怒りの籠もった肯定が返ってくる。それを聞いたエースが不敵な笑みを浮かべた。

 

「なるほどな。そりゃ悪いことをした……どうもすみません」

 

「律儀か!! というか謝ってる場合か!!」

 

「おう──ってな訳でここからはちょっと相談なんだが……この包囲を抜けるために共闘しねェか?」

 

「何!!?」

 

 エースの予想外の提案にヤマトが驚く。さっきまで戦ってた相手なのによくそんなことが言えたものだと。

 だが冗談を言っているようには見えない。エースの瞳は真っ直ぐだった。

 

「おれはここを抜けて……いやまあここを抜けなくてもいいんだけどよ。とりあえず、飛び六胞と大看板とやらを倒して、カイドウの首を獲りたい。雑魚ばかりでもこの数はちょっと面倒だからよ……ヤマトだったか? ここの奴らに追われてるんならついでにぶっ飛ばしてやるから手貸さねェか?」

 

「……!!」

 

 そして続くエースの目的もヤマトにとっては驚愕に値する。見たところ海賊で、しかもここが四皇カイドウの本拠地だとわかった上でカイドウの首を獲ると言い切ってみせた。

 それはあまりにも無謀に思える。思えるが……ヤマトにとって、その恐れ知らずで自由な行動は少し眩しく見える。

 

「まあ別にどっちでもいいけどな。どっちにしろおれ達はやるだけだ」

 

「……本気なのか……?」

 

「あ?」

 

「本気で親……カイドウの首を獲るつもりで……?」

 

「……よくわかんねェが──おれはいつだって本気だ!!」

 

「!!」

 

 ヤマトがなぜそんなことを聞いてきたかわからないままエースは答える。エースにとっては当然、一々答えるまでもない質問だった。

 その根底にあるものを覆すためには四皇くらい倒して当然。それがたとえ、他人にとっては無謀にも馬鹿にも見える行動であろうとエースはやるつもりでいるし、出来ないとも思っていなかった。

 ヤマトも当然、その無謀過ぎる目的が出来るとも思えない……少なくとも理性の上ではそう思っていることは確かだった。

 だがその理性を超えた部分で……どこかエースに近しいものを感じたヤマトは、その姿勢がやはり眩しく思えて──

 

「……!! 危ない!!」

 

「!!? うおっ!!」

 

 その答えを口にしようとしたその刹那──エースの背後から襲いかかる影を見て、ヤマトは咄嗟に注意を呼びかけた。エースも危機を感じてその場からヤマトの方に飛び退いて奇襲してきた相手に向き直った。

 

「危ねェじゃねェか……今度こそ敵か?」

 

「……如何にも」

 

「日──小紫!!」

 

 その相手は手に刀を握った鎧武者だった。三日月の兜に鬼の仮面を身に着けていて顔は分からない。

 しかしそのただならぬ殺気と敵意はエースにもわかった。加えて……中々の強者だということも。

 

「小紫が名前か……知ってんのか?」

 

「お前が言ってた“飛び六胞”の1人だ!!」

 

「へえ……思ったより小せェな。本当に強いのか?」

 

「…………死んでください」

 

「へっ!! 無口な奴だな!! 生憎と……死ぬ訳にはいかねェよ!!」

 

「!」

 

 小紫がエースに向かって素早く接近し、刀を振るう。その鋭さは今までの雑魚と比較にならないが、エースもまた宙に跳んで指を重ねると剣にも似た炎の十字を生み出した。

 

「“十字火”!!」

 

「!?」

 

 その炎に驚き、小紫は横に飛び跳ねるようにして躱す。そしてエースの着地を狙って一文字に刀を振るったが、エースは自らの身体を炎に変化させ、流動的に回避した。

 

「覇気か!! でもそんなスピードじゃ当たらねェよ!!」

 

「……なるほど……自然(ロギア)系ですか……」

 

「“メラメラの実”だ!!」

 

 エースは自らの能力を相手に教える。それが分かったところでどうにか出来るような能力ではないことを自負していた。覇気使いであってもエースの能力がなくなる訳ではない。

 だがその有利があってなお、小紫は兜と仮面の下で鼻白む。──その程度でここに乗り込んで来たのかと。

 

「あまり図に乗らないで下さい……」

 

「だったら勝って見せるんだな!! “蛍火”……“火達磨”!!」

 

「!!」

 

 エースは小紫に向かって小さい炎を無数に降らし、それで相手を燃やす──文字通りの“火達磨”になる技をお見舞いした。

 だがその直後、小紫の能力が解放された。火に当てられながらも小紫はその姿を変えてエースの前に立ち塞がる。

 

「! へェ……!! そっちも随分化け物染みた能力持ってるじゃねェか……何の実だ?」

 

「……これから死ぬ貴方に……教える必要はありません……!!」

 

『百獣海賊団“飛び六胞”小紫 リュウリュウの実(幻獣種)モデル“麒麟”』

 

 その姿は複数の獣の特徴を持つ幻獣の能力。頭からは一本の角、二本の足は馬の蹄となり、黄色い体毛に鱗を持った人獣型。体躯もエースを超えて2メートル程となり、刀を握っている。

 最強種にして珍しい自然系よりも更に希少とされる動物(ゾオン)系幻獣種の能力を見せつけ、小紫はその殺意を覇気にして全力で刀に込めた。

 

「“櫓流桜”!!!」

 

「!!」

 

「! ──エース!!」

 

 エースが吹き飛ばされる。覇気での防御は間に合った筈だったが、その力は予想以上に強化されており、咄嗟の防御ではエースもその場に留まることは難しかった。

 だが仲間達の心配は杞憂だった。エースは吹き飛んだ先の建物から炎を噴出させてそこを燃やすとそのまま小紫に向かって宙から襲いかかる。

 

「へっ……確かに速くなったし力も上がったな……!! だけどそれくらいじゃ負けねェな!!」

 

「……! 生意気ですね……!!」

 

 エースの拳と小紫の刀が激突する。その衝撃は周囲を遠ざけ、そして一目を置かせるものだった。

 

「おいあの男!! 小紫様と互角にやりあってるぞ!!」

 

「予想以上に強ェ!!」

 

「能力を解放した小紫相手に全く力負けしてない……!! 僕との戦いですら本気じゃなかったのか……!?」

 

 戦いの場から離れたヤマトがその戦いを見て歯噛みする。正直悔しいが、それより驚きが勝る表情でもあった。

 動物系能力者の身体能力は並の相手ではどうあっても力負けする。同じ悪魔の実の能力者であっても超人系や自然系相手にも身体能力で勝る。鍛えれば鍛えるほどに力が増幅するのが動物系の長所であり強みだ。

 そして小紫は“飛び六胞”では新米で最弱とはいえ、それでも弱くはない。並の真打ちやそこらの海賊なら束になっても倒せないのが小紫であり飛び六胞だ。

 そして小紫自身もまた、この無謀な愚か者相手に負けない、現実を知らない馬鹿になど負けるかと殺気を募らせて挑み掛かっていた。

 

「っ……!!」

 

「はは……お前も中々やるな……!!」

 

 だがその戦いは、エースが明らかに押していた。

 素の身体能力では多少小紫が勝っている筈だが、覇気の強さでは負けている。

 意志の強さ、疑わないことに関して、小紫はエースの後塵を拝していた。

 

「こ、の……!!!」

 

 そしてそれは小紫にとって何よりも屈辱だった。

 こんな相手に負ける程度なのか自分はと自分の情けなさと弱さに自分を殺したくなり、小紫は歯を食いしばって追いすがる。戦いの中で成長するのは相手だけではない、両者共に成長していた。

 そのせいか、エースもまた小紫を倒しきれずにいる。動物系の体力、タフネスは予想以上。加えて小紫の執念が実力で勝る筈のエースに粘りを見せていた。

 

「“火拳のエース”……小紫様相手にこれとは中々やりますねぇ……」

 

 だがどんな戦いにも終わりは来る。

 そして粘ることは相手の勝利に繋がらない。そのことを確信し続けていたソノは、その到来を見てようやく胸を撫で下ろした。

 

「でも()()()終わりですね」

 

 ソノがそう言った直後だった。

 

「うあァああああ!!?」

 

「熱ィ!!」

 

「!? ──お前ら!!」

 

 その炎はスペード海賊団を吹き飛ばし、その戦いの場を炎で囲んでしまう。

 火傷を負った船員が転がってくるのを見て、エースは炎の方を見て睨んだ。自分の炎──ではない。敵がやった。それも新たにやってきた敵に。

 そしてその敵は炎の中から現れる。黒尽くめの姿。黒い巨大な翼と轟々と燃える炎を背負い、身の丈は20尺を優に超える巨漢だ。そしてその大きさに見合う刀を腰に差している。そんな怪物の様な恐ろしい様相の男が彼らを上からジロリと見下ろした。

 

「たった20人程度か……おい小紫。こんなガキ相手にいつまで手こずってやがる」

 

「っ……申し訳ありません……」

 

 エースと対峙していた小紫が声を掛けられ謝罪する。それを見て男は首をしゃくって指示を出す。

 

「お前はもう下がってヤマトを追いかけてろ──このガキ共はおれがやる」

 

「…………はっ。畏まりました」

 

 そして何か言いたそうで、未だエースに殺意と敵意を見せていた小紫もその指示を聞いて大人しく引き下がった──そして男はエース達を再び見下ろした。それに負けじと仲間に傷をつけられたエースが睨み返す。

 

「おいデケェの……てめェが大看板って奴か?」

 

「だったらどうする?」

 

「首獲らせてもらうぜ……おれはお前達のボスの首を獲りに来たんだ。お前には興味はねェが戦力を減らさねェと邪魔が入っちまうからよ」

 

 エースがそう言うと男は鼻白んだ。そしてエースに向かって別のことを告げる。

 

「おれに興味はないか……船にいた()()の仇を取らなくていいのか?」

 

「!! てめェ……まさか……!!」

 

 その発言にエースの目の色が変わる。船にいた雑魚というのは、恐らく船番を任せてきたミハールの事だろう。

 その仲間の事を知っていて、仇を取るという単語を使った相手。それに最悪な想像をしてしまうのは避けられず、エースが敵意にうなった。

 

「てめェ……!! ミハールを……!!」

 

「安心しな。死んだとは限らねェ。適当に潰してやったからな。死んでるかもしれねェが……死体でも同じ牢屋に入れてやるからそれは後で確かめてみろ」

 

「っ……!! てめェ……許さねェ!!!」

 

「ふん……もっとも生きてたとしても後でお前の前で殺すがな……!!」

 

「その前におれがてめェを殺す!!!」

 

 エースの炎が怒りと共に燃え上がる。それと同時に、キングの背中の炎も燃え上がる。

 

「あいつ、なんで燃えてやがるんだ……!!?」

 

「え、エースの旦那気をつけて!! そいつが大看板の“キング”だぜい!!!」

 

 情報屋のスカルが仲間たちと共に声を発する。

 鬼ヶ島襲撃に当たっての目標の1つ。それが現在鬼ヶ島にいる百獣海賊団の最高幹部。

 

『百獣海賊団大看板“火災のキング” 懸賞金17億3000万ベリー』

 

「気をつけるのはお前ら全員だ……!!」

 

「……!! お前ら下がってろォ!!!」

 

 相手は“大看板”最強と称される怪物。

 その怪物にエースは炎を纏って向かっていった。

 

 

 

 

 

 エースは強い。

 それはエースを知る仲間達や世間、誰しもが知る事実だ。

 その強さはあの王下七武海に加盟することを一度、政府から打診されているほどだ。たとえその裏に別の思惑があったとしても、火のない所に煙は立たないとも言う。弱ければそんな話は持ち上がる筈がない。

 だからだろう。いつしか仲間達は……そしてもしかしたらエース自身も思ったのかもしれない。

 エースの強さは最低でも、王下七武海クラスはあるのだろうと。

 実際、エースは強い。そして、戦いの中でどんどん成長していく。今までどんな戦いにも勝ってきた。自然系の能力は格下や覇気が使えない相手への無双を可能としていたし、シャボンディ諸島で覇気を覚えてからは能力抜きでも強かったエースの戦闘力は格段に増している。

 その証拠に新世界に入ってから出くわした海賊相手にもエース達は勝ち続けていたし、仲間達もそれについていき力をつけてきた。

 四皇を甘く見てはいなかった。星の数ほどいる海賊達の頂点は怪物の様な強さを持つことに間違いはない。きっと苦しい戦いになるだろうと誰もが覚悟していた。兵法に則り、作戦を立てて奇襲を行い、戦うことがその証拠だ。

 だが……それすらも舐めていたのだ。

 この海にやってきた海賊達は誰もがそうなる。エース達だけが陥るものではない。

 多くの戦いと荒波を乗り越え、前半の海で名を挙げ、新世界に辿り着いたルーキーは皆思い知ることになるのだ──“四皇”の桁外れの戦力を。

 “新世界”の洗礼を受けてようやく彼らは気づき、選ばされるのだ。四皇に従い、命と安全を拾うか、多くのものを奪われ絶望し、それでも戦うかを。

 

「──この程度か?」

 

「……!? ウ──オオオオオオオオオオ!!!」

 

 百獣海賊団大看板“火災のキング”。

 それがエース達スペード海賊団にとっての……“新世界”の洗礼だった。

 

「次はお前だ……!!」

 

「く、くそおおおお!!」

 

「!! 逃げろガンリュウ!!」

 

 そこは炎で囲まれた死地だった。

 だがその炎はエースが仲間を守るため、敵を食い止めるために放つ“炎上網”のような生易しい技ではない。敵を殺し、苦しめるためにキングが放った洗礼の炎だった。

 

「ギャアアア……!!」

 

「これで5人……!!」

 

「やめろてめェえええええ!!!」

 

 キングが仲間の1人、手長族のガンリュウの顔を掴んで火を付けると、岩壁へと投げ飛ばして叩きつける。エースは間に合わず、仲間がやられた怒りをキングへとぶつけるべく極大の炎を放った。

 

「……“火拳”!!!」

 

 それはエースの代名詞とも言える炎の奔流。敵や途中にある障害物を燃やし尽くす大技だ。

 

「これが“火拳”か……」

 

 しかしキングは向かってくるそれをつまらなそうに見ると、同じ様に炎を発生させ──それを“火拳”に放って打ち破った。

 

「なっ……!!?」

 

「フン……つまらねェ技だな……“火拳”……!!」

 

 エースの大技が打ち破られた。しかもそれよりも大きな炎によって。

 そのことに動揺したのはエースだけではない。仲間達もまた、炎によって火傷を負いながらも唇を震わせた。

 

「あいつ、なんで炎が生み出せるんだ……!!?」

 

「エース船長の炎が全く効いてねェ……!!」

 

「悪魔の実ってのは同じ物は二つとして存在しねェ筈じゃ……!!?」

 

 そう、エースは言うまでもなくメラメラの実の能力者であり、全身を炎に変えて炎を生み出せる能力者だ。悪魔の実の能力者は同時期に1人だけであり、その能力者が死なない限りはその能力が宿った実がこの世に出てくることはない。

 だがキングは炎を発生させ、炎が全く効いていなかった。身体を炎に変化させることこそないが、この炎の海でエースとキングだけが平然としている。

 もっともエースはそれ以外でのダメージを負って既に息も絶え絶えになっていた。──だがそれでもなおエースはキングへと向かっていく。

 

「おおおおおお!!!」

 

「……!!」

 

 エースは能力が無くても強い。

 それもまた確かであり、実際武装色の覇気は海軍中将を上回り、更に成長している程だ。しかし──

 

「蚊みてェな強さのパンチだな……!!」

 

「っ……硬ェ……!!」

 

 それすらも上回られる。エースの武装色を込めた拳はキングの肉体に受け止められる。

 

「おおおおお……!!!」

 

「……!! ふん……!!」

 

「ぐ……う……ッ!!」

 

 負けじとラッシュを掛けるエースだが、身体で受け止めていたキングがエースの身体を同じく武装色を込めた拳で殴りつけて吹き飛ばし、悶絶させた。血を吐いて膝を突くエースにキングは言う。

 

「その程度の攻撃じゃおれを倒すのはいつまで経っても不可能だ……!!」

 

「……!! そんな訳……あるかァ!!!」

 

 キングが告げる残酷な現実。しかし、それに耳を傾けるエースではない。身体に鞭を打って立ち上がり、キングへと再び向かっていくが、

 

「身の程を知れ」

 

「……!! う……ぐおわァァ!!」

 

 エースを今度は蹴り飛ばす。一瞬耐えたエースだったが、耐えたのもそこまでで地面を転がされて壁に叩きつけられた。

 

「また1人……!!」

 

「っ……!! エース船ちょ──」

 

「!! ゲフッ……う……やめろォ……!!!」

 

 エースが倒れている間にキングはエースの仲間達を1人1人潰していく。エースでも敵わない相手だ。幾ら武闘派の多いスペード海賊団とはいえ敵う筈がない。仲間達は1人、また1人と血を流し、白目を剥いて倒れていく。

 そんな中、その女性もまた刀を構えて震えていた。

 

「次は……」

 

「っ……来い……!! 私が止めて、やる……!!」

 

 イスカがエースを守ろうとキングの前に立ち塞がった。

 しかし、その手は震えていた。

 

「炎が怖ェみたいだな……!!」

 

「う……あっ……!!」

 

「!! おいやめろてめェ!! そいつは……そいつはおれ達の一味じゃ──」

 

「あああああああああああああ──!!!」

 

「ねェって……」

 

 エースがその手を止めようとイスカを自分達の一味じゃないと伝えようとした時──キングは構わずイスカに炎を着火した。そしてエースを見下ろして一言。

 

「お前達の仲間じゃねェなら悪いことをしたな……だが──()()()()どうでもいいだろ? 燃やそうが何をしようが」

 

「……!!? て、めェェェ……!!」

 

「ふん……おい、こいつは後で拷問するから生かしておけ。火が怖いなら中々楽しめそうだ……!!」

 

「はい……!!」

 

 キングがイスカを炎の輪の外の部下達に投げ渡し、生かしておけと告げる。だがその理由に彼らは笑いながらも畏怖した。さすがはキング様だ。女だろうが容赦ねェ。あの女、もう五体満足じゃ出てこれないな──などと汗を掻きながらも下卑た笑いを浮かばせている。

 

「さて……残りは1人か……」

 

「……!!」

 

「! デュース!! 逃げろ!!」

 

 エースは立ち上がろうとしたが、どうしても力が入らない。立ち上がっても間に合わない。キングは既にデュースの目の前に立ちはだかっていた。

 ──そして、()()()()()()()

 

「後はお前を気絶させて牢に入れて終いだな……」

 

「……!! まだ、だ……!!」

 

「!」

 

 キングがエースを捕らえようとゆっくりと歩みを進める。そのタイミングでエースは立ち上がった。

 だが既に立っているだけでも精一杯。戦うことなど到底出来るはずもない。しかも格上相手など。

 

「少しはタフだな……だがウチの海賊団だと精々“飛び六胞”程度だ」

 

「黙れ……!! おれは……まだ……!!」

 

「…………」

 

「ぐああァァァ……!!」

 

 エースはキングに首を掴まれる。炎に変化すれば逃げられる筈だが、既にその体力も残っていない。

 

「威勢の良いだけのルーキーが……図に乗るな。お前程度にカイドウさんやぬえさんの首はとれねェ。一生掛かっても不可能だ」

 

「ウ……が……!!」

 

「だが安心しな。命までは取らねェ。ウチは戦力になる奴ならどんな生意気な奴でも迎え入れる。てめェがカイドウさんとぬえさんに忠誠を誓うならお前もお前の仲間達も五体満足のまま生かしてやる。……ただし、首を縦に振らねェならその時は覚悟しろ……!!!」

 

「…………!!」

 

 ──ふざけるな。

 エースは最後にそう言ったつもりで気を失った。

 ……だがその狭間で、エースはその荒々しい海賊の住処に相応しくない声を聞いた。

 

 ──わーお♪ やっぱもう来てたんだ? 

 

 ──……! もう帰っていらしてたので? 

 

 ──連絡聞いたから急いで帰ってきたのよ♡ それが来てるって聞いてね~~♪ キングもご苦労様!! 

 

 ──は……ならこのガキ共は……。

 

 ──ちょっと私にちょうだい♡

 

 ──わかりました。

 

 ──ん、ありがとね~♪ …………さーて、てな訳で起き上がったら色々お話しようね~? “ゴール”・D・エース君♪ 

 

 ──……!! 

 

 エースは意識の狭間で正体不明の悪寒と怒りを覚えた。

 そうしてエース達スペード海賊団は百獣海賊団に完全敗北を喫したのだった。




ヤマト→強さは飛び六胞程度(多分)。エースに自分に近いものを感じた
小紫→飛び六胞最弱。エースに怒りを抱いた
キング→大看板最強。エース達は身の程知らずのルーキーだけど戦力にはなると思ってます。
ソノ→死んで間もない魚介類が食べたい。地味に働いた
ぬえちゃん→借りのある相手の息子に優しい対応をしてくれるぬえちゃん可愛い(素振り)

ということでこんな感じで。まるまる戦闘回でした。そして思ったより長くなったのでエース君とぬえちゃん、後はヤマトとの話も次回。次回でエース君の話は終わりです。それで100話がクズが出たり、人造のあれが出たりの回で原作前終わりと原作開始回かな。ってことで次回もお楽しみに。

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