生徒会庶務は平穏に過ごしたい   作:アリアンキング

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アニメでこの作品に知ってからすっかり嵌って漫画も読破。

気付けば小説を執筆してました。



オリ主が齎すドタバタ劇をどうぞお楽しみください。




第1話 鷺宮は巻き込まれた/早坂は思い出した/鷺宮は回避したい

 私立 秀知院学園 貴族の育成機関として、設立されたのがこの学園の始まりであった。しかし、時代の流れで貴族制度は廃止され、今現在は資産家の子息や優秀な成績を誇る生徒達が多く在籍している。

 

 

「皆さん、例の二人が来ましたよ」

「本当だぁ。いつ見ても良いなぁ」

 

 

 生徒の一人が何かに気付いて、黄色い声を上げた。その先に居たのは秀知院で生徒会副会長を務める四宮かぐや。この学園に通う生徒であれば、知らない者はいない。彼女の家柄は日本経済を陰から支配していると噂の四宮一族の令嬢である。無論、かぐやは家柄だけでなく、文武両道で数多の成績を残している本物の天才でもあった。それでいて、己の功績をひけらかす事をかぐやはしない。その謙虚な姿勢も彼女が好かれる理由である。

 

 

 

 

 

 

 そんなかぐやの隣を歩く男、彼の名は白銀御行。秀知院生徒会で会長を務めている。彼の家柄はかぐやと比べて平凡であるが、学力ではかぐやも超える成績を収めている。それ以外に相手が誰であっても、真摯な態度で接する白銀もかぐや同様に尊敬を集めていた。彼が生徒会長としての地位に就けるのはそういった背景がある。

 

 生徒会長だけに与えられる黄金の飾緒を身に付け、威風堂々した白銀の姿はかぐやに負けない威厳を放っている。

 

 

「あのお二人。いつ見てもカッコいいですわね」

「あと、噂だとあの二人は付き合ってるらしいよ」

 

 

 去りゆく二人の後ろ姿を見つめながら、呟いた言葉を聞いて廊下は喧騒に包まれる。それは当然、白銀とかぐやの耳にも届いていた。

 

 

 

 

 

 

「…お戻りですか。今日の書類は纏めておきましたよ」

 

 

 

 生徒会室に戻った白銀とかぐやを出迎えたのは一人の女子生徒 鷺宮璃奈(さぎのみやりな) 彼女も生徒会に属しており、生徒会で扱う書類の管理、様々な雑事を行うのが璃奈の役割である。

 

 

「そうか。いつも助かるな」

「ええ。そうですね。鷺宮さんのおかげで仕事が捗りますもの」

「あら、二人が私を褒めるなんて珍しいですね。何か良い事でもありました?」

 

 

 

 白銀とかぐやの思わぬ言葉に鷺宮は些か照れた様子で二人に尋ねた。

 

 

「いや、特にそういうのは無い。思えば、助力してくれる鷺宮にお礼を言った事が無かったからな。只、それだけだ」

「成程。別に当たり前の事をしてるだけですし、気になさらずとも良いのに」

「私も会長と同じ意見ですよ。感謝の言葉を面と向かって言う機会は意外と忘れがちですから」

 

 

 

 白銀の言葉にかぐやは頷いた。ふと見れば、かぐやの頬は僅かに赤くなっていた。その事に鷺宮は違和感を覚えた。そういえば、学園には二人が付き合っているという噂が流れていた。もしや、本当の事なのだろうか?噂の真意が気にならないといえば、嘘になる。しかし、二人の関係が何であれ自分には関係ない。鷺宮は雑念を振り払って、己の仕事に取り掛かった。

 

 

 業務を開始して、暫く経った頃。ペンを動かす音以外、何もない静寂の中。かぐやが静かに口を開いた。

 

 

 

「そういえば、会長はご存じですか? 生徒達の間では、私達が付き合っている。そんな噂が流れている様ですよ」

「ほう。そんな噂がねぇ。まあ、そういうのに興味がある年頃なんだろう。別に気にする必要もあるまい」

「そういう物ですか? 生憎、私は色恋沙汰に疎い物ですから。気になってしまうんですよ」

 

 

 

 表向きは感心が無い風を装っているが、内心は全く別の事を考えていた。

 

 

(お、俺と四宮が付き合っているだと!? 一体、誰がそんな噂を流しているんだ? いかん。噂の事を想像したら、四宮の顔が見るのが恥ずかしくなってきたぞ)

(思ったより、反応が薄いわね。少しは意識するかと思ったのですが…。はっ、私は何を考えてるのよ。駄目よ。これでは私が会長を意識してるみたいじゃないの)

 

(だが、実際の所。四宮はどう思っているんだ? 先程、色恋沙汰に疎いと言っていたが噂には興味がある素振りが気になる。もしかして、あいつは俺に気があるのかもしれない。相手は日本随一の資産家で文武両道の天才。付き合うとしたら、この上ない女性だ。しかし、だからといって俺から告白するのは癪だな。仮に四宮が俺に気があるのなら、向こうから告白してくる筈だ)

(一時の迷いに流されては四宮の恥だわ。ですが、会長の方から私に傅いて、溢れ出す感情のままに愛を語るのであれば、恋人候補くらいにはしてあげましょう)

 

 

 

(え? あの二人、何でニヤニヤしてるの? 正直、凄く気持ち悪い。はぁ、会長に誘われて生徒会に入ったけど、失敗だったかな? ま、私に面倒な事が起きたらすぐ辞めればいっか)

 

 

 下世話な事を想像し、不気味に笑う二人を見つめて鷺宮は心の中で毒を吐いていた。しかし、お互いを意識しながらも妙なプライドから素直に慣れないまま…。

 

 

 

 

 半年が過ぎた!!

 

 

 

 

 その間、当然ながら二人の関係が進展する事は無かった。余りにも変化の無い日々が続いた所為で、当初は付き合ってやっても良い。その考えは消え去り、今では如何に相手から好きと言わせる。それが目的となっていた。学園でトップを誇る頭脳を用いて、相手の隙を窺い頭脳戦を繰り広げる白銀とかぐやであるが、一進一退を繰り返すのみで、決着は未だに着いてはいなかった。

 

 

 そして今日は同じ生徒会に属し書記を務める少女 藤原千花が生徒会に姿を見せていた。日本人では珍しい桃色の髪に笑顔が絶えない彼女は、学園でも人を惹き付ける魅力を放っている。

 

 

 そんな藤原は何か思い出した様に手を叩くと、懐から二枚のチケットを取り出して正面に座っている白銀とかぐやに話しかけた。

 

 

「そうだ。私、運が良い事に懸賞に当たりまして。映画のチケットを入手したんですよ~。でも、私の家では映画を観てはいけない決まりがあるので使い道がないんです。期限も迫っていますし、良かったらお二人で観に行ってはどうですか?」

「へー。それは有難い事だな。映画自体、観る機会が無いからな。幸い、俺の予定(スケジュール)は特に無い。四宮、お前も映画を観る事は無いだろう? 折角だし、二人で観に行くか?」

「あ、これは友達から聞いたんですけど、この映画。男女で観ると結ばれるという噂がありまして、巷でも大人気らしいですよ」

 

 

 藤原の発言に白銀は茫然とした。彼女の言葉と己が言った言葉を反芻し、意味を理解した途端。彼の顔に大量の汗が浮かび上がった。その様子を隣で静観していたかぐやは、獲物を前にした獣の様な笑みを浮かべて攻めに出た。

 

 

 

「会長…。二人で観ると結ばれる映画。これを私と観たいんですか?その発言、新手の告白とも取れますよね」

 

 

(しまったぁぁぁぁぁぁ!! 俺とした事がすっかり油断していた。先程の言葉、確かに告白したも当然の行為。不味いぞ。このままでは、四宮の思い通りになってしまう。待てよ。誘ったからとはいえ、それが告白と決まった訳ではない。そうだ。意識すると相手に有利だが、堂々とすれば逆に四宮への反撃に利用出来る。これだ!!)

 

 

 一時は窮地に追いやられた白銀だが、彼も只では転ばない。仕掛けたかぐやの言葉を逆手に取り、反撃に応じた。

 

 

 

 

 

「ああ、俺は確かに四宮を誘ったよ。だが、興味が無いのなら別に構わん。別の誰かと行くとしよう。そうだ。鷺宮はどうだ? こうして藤原がチケットをくれたんだ。一緒に行かないか?」

 

 

 白銀は誘った事を肯定しつつ、かぐやの前で別の異性を誘う行動に出た。幸いな事に部屋にいた鷺宮に白銀は声をかけた。これにかぐやは内心、焦りを抱いた。此処で行くと名乗り上げれば、それは自分が白銀に好意がありますと認める事になる。見方を変えれば、貴方と付き合いたいと告白したも同然だ。

 

 

 一方、鷺宮は突然の誘いに困惑する。まさか自分に白羽の矢が立つとは思っていなかった。先程の会話は当然、鷺宮も聞いていた。無論、これが只のジンクスだと理解してはいるが、いざとなる意識してしまうのは鷺宮も年頃の少女であり、多少なりとも恋愛物に興味があった。

 

 

 

「いいですよ。私も映画は久しぶりですし、良かったら一緒に行きま…しょう!?」

 

 些か恥ずかしさはあるが、別段断る理由もないと鷺宮は白銀の誘いを受ける返事を返そうとした時。突然、背筋が凍る様な恐怖を感じた。一体、何だと顔を上げて彼女は絶句する。視線の先ではかぐやが恐ろしい表情で睨みつけており、まるで心臓を握られた様な感覚を味わっていた。何故、かぐやが自分を睨むのか。その理由はすぐに分かった。白銀の誘いが全ての原因。駄目だ、此処は断らないと悲惨な結末が待っている。鷺宮は本能でそれを悟って、白銀の誘いを断る事にした。

 

 

 

「アー 今思い出したのですが、私は週末に予定がありますので…無理です。なので四宮さんと楽しんで来て下さい」

「そうか。それじゃあ、改めて聞くが四宮はどうする?」

 

 鷺宮の返事に残念そうな顔をする白銀だったが、実は安堵していた。もし鷺宮が誘いを受けていたら、確実にかぐやと映画に行く事は無い。青ざめた顔で震える鷺宮に疑問を覚えたが、白銀は気持ちを切り変えてかぐやを再び誘う。

 

 

 

(会長が鷺宮さんを誘ったのは誤算でしたが、どうにか軌道修正は成功したみたいね。さて、此処からどう攻めるべきか…。会長は勧誘の意思を強く示した上で映画を観に行くかの選択権はこちらに譲渡してきた。上手い切り返しですが、詰めが甘いですわね。私が誘いを断る選択もあるけれど…そうしたら此処に至るまで下準備が無駄になる)

 

 

 

 此度の出来事は全てかぐやの自作自演。藤原の家が映画を観る事を禁止している事は、以前から知っている。それに加えて、白銀の予定に置いても事前に調査済みだった。あとは藤原が映画の話題を出すの待って自分と白銀が映画を観る方に話を持っていく計画だった。多少の誤算はあったが、それも解決した今は如何に告白と認識されずに相手の誘いに返事を返すか。これが地味に難題であった。

 

 

(さっきの会長みたいに私も焦らす手段もありですが、それでは芸がありませんね。それに釣れない女と思われる可能性が高い。会長の都合も考えると、映画に誘われる機会は今後無いかもしれない。んもう~。何で寄りによって恋愛映画なのよ!! 普通の奴なら堂々と誘いを受ける事が出来るのにぃ~。そうだわ。あの手で行きましょう)

 

 

 

「そうですね。こう見えて私も恋愛物に興味はありますよ。一応、年頃の女ですからね。だけど、映画に纏わる噂が本当なら少し緊張してしまいます」

 

 

 かぐやの切り札。それは【純粋無垢(カマトト)】を装っての交渉術。相手の思考を乱す表情と声色。異性であれば、誰もが虜にしてしまう魔性の業。これによって、白銀の思考は乱される。だが、抗い様のない術も白銀を陥落するには至らなかった。

 

 何とか平静を取り戻し、かぐやに対する策を巡らせる。しかし、それはかぐやも同様で白銀を追い詰めるべく、更なる手段を模索していた。頭脳を全力で働かせて、勝負の決着が見えた頃に傍観していた藤原が口を開いた。

 

 

 

「二人共。さっきから渋い顔をしてますが、もしや恋愛映画が嫌いでしたか? それならば、このとっとり鳥の助という映画のチケットも懸賞で当たったのでこっちにしますか? これも面白いと評判なんですよ」

 

 

 

 此処に来て、藤原が投下した新たな選択肢。これに白銀とかぐやは唖然とした。選択肢が増えた分、考える事も増える。先程から酷使している脳も限界を迎えていた。当然、そうなればまともな思考が出来ず、このままでは相手に負けてしまう。

 

 

 幸い生徒会室には鷺宮が用意していた饅頭が一つ。二人はそれ目掛けて動き出す。この饅頭を手に掴み口にした者が勝者となる。

 

 

 

 しかし現実は饅頭の様に甘くはない。授業の開始時刻に気付いた藤原が一早く饅頭を口にし、彼女は生徒会室を出て行った。

 

 

 部屋に残ったのは無駄に頭脳を使い疲労困憊した二人とかぐやの眼差しで放心状態の鷺宮だけが残された。

 

 

【本日の勝敗 白銀とかぐやの敗北ならびに鷺宮の敗北】

 

 

 

 

「鷺宮璃奈を調べろ…ですか。それは構いませんが、彼女と何かあったのですか?」

「いいえ。そうでは無いの。只、少し気になる所があって……。それを貴女に調べて欲しいのよ」

 

 この日の夜。かぐやの部屋に呼ばれた早坂にある命令が下された。それは鷺宮璃奈という少女の調査。時折、四宮家に良い感情を持たない人物が学園に現れる事がある。そういった輩は同じ学園に通う早坂が調べ上げて、事前に排除している。しかし、完璧を自負する彼女も人間。当然、己が見過ごしている人物もいる。今回、名が上がった者がそうだと思い、自然と早坂の目も鋭くなる。

 

 

 だが、早坂の予想は外れ。かぐやの口から語られる理由を聞くにつれて、次第に早坂の顔に呆れた色が浮かび上がる。要するに、自分の恋路に厄介な者が出来たから調べて欲しいとの事だった。

 

 

 

「…つまりかぐや様に恋のライバルが出来たって事ですか?」

「違うわ。まだそこまでの存在じゃないわよ。只、会長が私以外に誘う異性がいた事に驚いただけよ」

「めちゃくちゃ意識してるじゃないですか…。かぐや様は会長が鷺宮さんを誘った事に危惧してますけど、至って普通の流れじゃないですか」

「どうしてよ? 会長が誘ったのはそうだとしても、誘いを受けた鷺宮さんが会長に気が無いって言い切る根拠は何なのよ」

 

 

 そう叫ぶかぐやに早坂は何も言わなかった。単純な話、説明するのが面倒になったから。本人は鷺宮が会長を異性と意識してると言うが、男女で映画に行く程度。高校生であれば不思議な行為ではない。寧ろ、それが普通なのだ。

 

 

(居ても立っても居られない程、不安を感じるなら早く素直になればいいのに……。まあ、それが出来ないから何も進展しないまま。今に至るのだけどね。全く、いつになっても手のかかる主人ですね)

 

 

 しかし、自分の主人は普通からかけ離れた世界に住む者。それを理解しろと言うのは酷であろう。それにこのまま放置すれば、この主人はとんでもない無茶を要求してくるかもしれない。そうなる前にかぐやの要求を飲んだ方が得策だと早坂は結論を出した。

 

 

 

 

「それなら明日、私が彼女に探りを入れてみましょうか? 本人に会長の事をどう思っているのか。聞いた方が早いですから」

「う、それでもし…鷺宮さんがその会長をす、好きと答えたらどうしたら」

「その時はかぐや様が先に告白すれば済む事じゃないですか」

「でも…私から告白なんて」

「そうやって、半年も進展が無かったのにまだ言いますか。鷺宮さんに取られてからでは遅いんですよ」

 

 

 早坂の言う事は尤もでかぐやは言葉に詰まる。確かに先に告白すれば済む事ではあるが、仮に告白して相手にその気が無く、好きな人が鷺宮だったら…そう考えると自分の想いを伝える事が怖かった。

 

 

 かぐやの心情は長く仕える早坂は見透かしていた。普段は物怖じせず、いかなる者が相手でも容赦しない彼女であるが、それはあくまで四宮家の人間としての話だ。当然、それ以外は年頃の少女と変わらない。故に体験した事の無い恋愛が絡んだ場合、彼女は極端に臆病な一面を見せる。偶に面倒臭い性格と感じる事もあるが、かぐやに普通の少女として過ごして欲しい。そう思うのも本心である。

 

 

 結局。早坂はそんな主人が好きだからこそ、無茶な要求や命令にも従うのだ。

 

 

「まあ、何にせよ。調査の方はお任せ下さい。結果は分かり次第に報告します。では、私はこれで失礼いたします」

「ええ。貴女の働きに期待してるわよ」

 

 

 

(鷺宮璃奈。この名前は何処かで聞いた気がする。それはいつだ? 一度聞いた名前を私が忘れる訳がない。それに何故か懐かしい気持ちになる。まさか、私と彼女は過去に会っているのか? もし、そうであれば…私のアルバムに答えがある筈…。急いで調べてみよう)

 

 

 早坂は急ぎ部屋に戻ると、件のアルバムを探し始めた。程無くして見つかったアルバムの頁を早坂は次々と捲っていく。そしてあるページに開いた時、封入されていた一枚の写真を見た途端、彼女の脳裏に過去の記憶が鮮明に浮かび上がる。

 

 

「やはり…そうでしたか。漸く思い出しましたよ」

 

 

 アルバムの中で忘れられていた幼き頃の記憶。その写真を早坂は潤んだ瞳で見つめていた。

 

 

 

 翌日

 主の命令で鷺宮を調べ始めた早坂であるが、調査は思う様に進んではいなかった。誰かに尋ねてみても、聞ける話はどれも同じ話ばかりで参考にならない。唯一、判明した事は鷺宮には特別親しい人間がいない。

 

 

「調べて分かったのはこれだけ…か。今回の任務は意外と骨が折れますね」

 

 

 

 ある程度の人付き合いはある様だが、それは表面的な関係でしかない。これに早坂は眉を寄せた。これが事実なら、いくら自分でも鷺宮の心情を探るのは非常に難しいだろう。しかし、それに対する秘策を早坂は用意していた。

 

 

 

 その為には鷺宮と話す必要がある。放課後になったら、鷺宮と直接話してみよう。早坂は任務達成に向けて、最後のプランを練り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「あーーー。鷺宮さん。此処にいたんだぁ~。 もう、随分探したんだからね」

「はい? 貴女は確か…早坂さんだったかしら? 私に何か用なの?」

 

 

 突如、声をかけられて鷺宮が振り向けば、一人の少女が目に入った。つけ爪に派手な髪飾りだけでなく。化粧も施したその出で立ちは、如何にも今時の女子高生といった感じである。

 

 

「そうそう。てい~うか名前覚えてるんだぁ~。一度も話した事無いのにすごいね」

「別に大した事では無いですよ。それで用件は何ですか?」

 

 

 

 鷺宮は正直な所、早坂の様な人は好きではない。明るく人懐っこい印象はあるが、今風の口調が個人的に受け付けられない。しかし、個人的な理由で彼女を無下に扱えば…自分の評判だけなく生徒会の評判も下げてしまう。ならば、手っ取り早く用件を聞いて立ち去ろう。そう考えて鷺宮は早坂に尋ねた。

 

 

「う~ん。話はあるんだけどぉ。此処じゃ言い辛いから、何処か人気が無い所に行きたいな~」

「分かりました。じゃあ、図書室に行きましょ。あそこなら今の時間、人は少ないですし」

「おっけー 我儘言ってごめんね~」

 

 

 鷺宮の提案に早坂も賛成した事で話が纏り、二人は図書室へ向かって歩き出した。

 

 

 

 

「うわぁ。ホントに誰もいない。静かすぎて怖いね」

「いいから本題に入ってください。私も暇では無いんですよ」

 

 

 静かな場所に訪れても、早坂は用件を話そうとしない事に些か苛立ちを覚えて、鷺宮の口調も冷たくなる。少し言い方がきつかったと思うも、早坂は気にした素振りは無い事に鷺宮は内心、ホッと安堵の息を吐く。実の所、先程の言動に早坂も傷付いていた。しかし、それを表を出す真似はしない。逆に傷付いた様子を見せて、相手の隙を突く方法もあるが、彼女にそんな事はしたくなった。

 

 

 だからこそ、早坂はある決意をした。

 

 

 

「ええ。なら単刀直入にお尋ねします。鷺宮さんは白銀会長の事をどう思っていますか?」

「…?質問の意図が分かりませんよ。一体、何の話ですか? それに口調もかわってるんだけど……」

「ああ。この際なので全部言いましょう。私はかぐや様に仕える身でして、学園では陰ながら手助けしてます。まあ…この話は今は置いておきましょう。まずは私の質問に答えてください」

 

 

 突然の変化に困惑する鷺宮だが、早坂は意に介さず話を進めた。

 

 

(ええ!?一体、何が起きてるの?さっき、早坂さんは四宮さんに仕えてると言った。そして…会長をどう思ってるかですって?質問に答えろ以前に質問の意味が分からない。だけど、だんまり決めていても良い事は無さそうですね)

 

 

 

「会長と言うと白銀くんの事ですよね。良い人だと思いますよ。真面目ですし、生徒会長としても」

「そうではありません。男性として好きかどうかですよ。鷺宮さんは異性として会長が好きなんですか?」

 

 

 

 此処に至って鷺宮は全て悟った。昨日、恐ろしい形相で睨みつけてきた四宮。その彼女に仕える早坂の問い掛け。つまり四宮かぐやは自分を会長を巡る恋のライバルと認識したのだ。そして自分が非常に面倒な事に巻き込まれた事も。

 

 

 

「アー 言っときますけど、私は白銀くんをそういう目で見て無いですよ」

「本当ですか。ならば、良いのですが…。かぐや様は鷺宮さんが会長に好意を抱いている。その事で悩んでいて、私に探りを入れる様に命令された訳です」

「もしもの話ですよ。仮に私が白銀くんを好きって答えたら四宮さんはどうするんでしょうか?」

 

 

 本能は聞くなと叫んでいたが、この時は好奇心が勝り早坂に質問をぶつける。流石に権力がある令嬢とはいえ、人をどうこうする事は無いだろう。何処となく、楽観的に考えていた。

 

 

「その時は空気の薄い所へ送られていたでしょうね。まあ、あの方も鬼ではありません。心配しなくて大丈夫ですよ」

「そ、そうですか。四宮さんは慈悲深いんですね」

 

 

(何それぇぇぇぇっ!? 空気の薄い場所?そんな所に人を追いやる時点で十分に鬼じゃないの!! もしや私も候補に入ってるの?い、嫌ぁぁぁぁ。な、何とかしないと…冷静に考えるのよ鷺宮璃奈。まだ窮地を脱する手はある筈…。そうよ。四宮さんは私が白銀くんに好意を持っていると思ったから早坂さんを差し向けたのよね?ならば‥私の存在が邪魔ではなく、必要だと思わせる事が出来れば…助かる見込みはある!!)

 

 

 恐怖を抑え付け、思考を纏めた鷺宮は早坂にある提案を持ちかけた。それは…

 

 

「でしたら、私も協力しましょうか?いくら早坂さんでも生徒会室に入れないし、私は同じ役員だからいざという時はフォロー出来ますから」

 

 

 自分もかぐやの恋愛成就に手を貸す事であった。恋敵ではなく、味方に付けば最悪の結末(空気の薄い場所送り)を回避出来る。

 

 

(お願いよ。首を縦に振って頂戴!!)

 

 

 心の底から祈りながら鷺宮は早坂の返答を待っていた。この数秒は人生において、尤も長い時間に感じた事だろう。

 

 

「それは此方としても助かります。あの方は意外とヘタレですから。策を仕掛けてはいつも失敗してるんですよ」

「だ、大丈夫!! 私に任せて下さい。しっかりとやりますから!」

「とはいえ、別に無理はしなくていいですよ。期限も今の生徒会が解散するまでで構いません」

 

 早坂の返事を聞いて、鷺宮は己の首が繋がったと胸を撫で下ろした。当初は安請け合いをした事に後悔の念を抱くが、それに気付いた早坂は苦笑いを浮かべて譲歩してくれた。

 

 

「そうだ。もう一つ、聞きたい事があります。鷺宮さんはこれに見覚えありませんか?」

「…いいえ。これがどうかしたんですか?」

 

 

 早坂が見せたのは一つのキーホルダーだった。ビーズで編まれた熊が特徴の他。見た所、解れている箇所やビーズの一部が色褪せている事から大分古い物だと分かる。

 

 

「やはり覚えてませんか。それならあっちゃんという呼び方に聞き覚えは?」

「あっちゃん?…呼び方と言うからには、誰かの愛称ですよね?うーん 聞き覚えはあるけど、何処で聞いたのかは分からないですね」

 

 

 

 質問の意図が理解出来ないが、早坂の様子から大事な事なのだろう。必死に記憶を巡らせるが、どうしても思い出せない。

 

 

「そうですか。実はこのキーホルダー、昔に鷺宮さんから貰った物なんですよ。まあ、幼稚園の頃だから忘れていても仕方無いですね」

「…幼稚園に私があげた物…。まさか、あの時の女の子…早坂さんだったの?」

「やっと思い出してくれましたか。遅いですよ」

「…ごめんなさい。そういえば、何かあるとママーって泣いてましたよね」

「あ、そこは忘れていても良かったのに…何はともあれ、思い出してくれて嬉しいですよ」

 

 

 

 この二人は幼い頃に出会っていた。その後、家の事情で早坂は引っ越す事になり、別れる際に件のキーホルダーを鷺宮から贈られた。引っ込み事案だった自分に話しかけてくれた鷺宮は早坂に取って、大切な友達だった。以後、四宮家の命令でかぐやの近待になった時も密かに支えとしていた。

 

 

 そんな鷺宮に廻り廻って再会できた。隠していた自分の素性を話したのもこれが理由であった。

 

 

「もう捨てたかと思ってたけど、大事にしてくれてたんですね。ありがとうあっちゃん」

「当然ですよ。だって、私の大切な物ですからね。捨てる訳がありません」

 

 

 

 用件を済ませた早坂は図書室を出ていき、残された鷺宮は懐かしい思い出の余韻に浸る反面、早坂の頼み事を思い出して憂鬱な気分に陥っていた。

 

 

 

[本日の勝敗 思い出の友達と再会し、面倒事を半分押し付ける事に成功した早坂の勝利]

 

 

 

 

 

 

 早坂との再会から数日後 

 かぐやに協力する事になった鷺宮は白銀とかぐやの映画デート、かぐやへの恋文投函事件等。様々な出来事を陰から尽力したが…二人の仲を進展させるに至らなかった。

 

 

 

 昼休み。昼食を食べる為、鷺宮は中庭に訪れていた。此処は鷺宮のお気に入りの場所で休み時間の休憩や食事に日頃から利用している。しかし、今日はその場所に先客が来ていた。それは一組のカップルで彼らは周囲の視線を物ともせず、仲睦まじい姿を晒していた。

 

 

 

(あーあ。人目も気にしないで良くやるわ。今日はいい天気だから、お気に入りの場所でご飯を食べようと思っていたのに…。かといって、食堂や教室は騒がしいから嫌なのよね。そうだ! 生徒会室があるじゃない。あそこなら静かだし、誰の邪魔も入らないからゆっくり食べるには最適ね。よし。そうと決まれば、すぐに行きますかね)

 

 

 外での食事を楽しみにしていた鷺宮だが、流石に空気の読めない輩達の傍で食べたいとは思わない。代わりの場所も考えてみるも、浮かぶのは別の意味で騒がしい場所ばかり。その時、ふと思い付いたのは生徒会室であった。そこなら役員以外は誰も来ないし、静かに食べるのに適している。そうと決まれば即行動。鷺宮は軽い足取りで生徒会室に向かっていった。

 

 

 

 

 

「全く人目も憚らず、はしたない行為をするとは‥‥。学園の風紀は乱れています!」

「気持ちは分かるが、少しは落ち着いたらどうだ? 何も校則に抵触してもいないし、あの程度で風紀は乱れたりはしない」

「こんにちは。あの…何かありました? 何だか四宮さんの機嫌が悪そうですけど……」

 

 

 鷺宮が生徒会に顔を出すと、憤慨した様子のかぐやが目に入った。何か気に食わない事があったのだろう。部屋の中をうろうろとして、不満を口にしていた。そんなかぐやを白銀が宥めているが、聞く耳持たずといった状態だ。いまいち状況が分からない鷺宮は白銀に事情の説明を求めた。

 

 

 

「ああ。此処に来る途中でいちゃつく生徒を見掛けたんだが……。どうやら四宮はそれが気に入らない様でな。こうして不満を口にしている訳だ」

「当然でしょう!! 最近の生徒は、何を考えているのか理解が出来ません」

「厳しいな。だけど、いくら生徒会でも個人の自由を阻害する権利はない。それは四宮だって、分かっているだろ」

「勿論、それは承知しています。でも…」

「まあまあ。二人共、少し冷静になりましょうよ。とりあえず、今はお昼をたべませんか?」

 

 

 互いの主張をぶつけ合う二人を鷺宮が仲裁に入った。このままでは延々と不毛な言い争うが続くだけ。昼休みの時間も限られているし、何より鷺宮の空腹も限界に来ていた。白銀とかぐやも鷺宮の言葉で冷静になったようで、三人は昼食を食べる事にした。

 

 

 

 

 

 

「あら? 会長、今日は手弁当ですか?」

「ああ。田舎の爺様が野菜を大量に送ってくれてな。暫くは弁当にするつもりだ」

「会長が料理出来るとは意外な一面を知りましたよ」

「俺はこうみえて料理は得意だぞ」

 

 

 そう言って開かれた弁当箱。その中身にかぐやは目を奪われた。ごはんに梅干し。おかずに煮物、ウィンナー、ハンバーグに卵焼き。食べたい物がこれでもかと詰め込んだ弁当はかぐやにとっては、輝いて見えた。

 

 

 本音を言えば、分けて貰って食べたい。だが先程の発言した手前…それを口にする事はかぐやのプライドが許さない。それでも気持ちは正直なものでかぐやの視線は白銀の弁当を追っていた。無論、鷺宮はかぐやの行動に気付いていた。此処で知らない振りをするのも手だが、早坂とかぐやに協力する約束をした以上、何もしない訳にいかない。

 

 

 意を決して、鷺宮が助け船を出そうとした時、生徒会室にやってきた藤原は波乱を巻き起こす。

 

 

「あ、皆さん来てたんですね。わぁ会長、今日はお弁当ですか。美味しそう、少し分けて下さいよ」

「おお、いいぞ。じゃあ、藤原書記にはこのハンバーグをやろう」

 

 

 このやり取りに鷺宮は絶句した。普段なら何気ない日常の一幕で微笑ましいものだが、この場においては悪夢の出来事である。

 

 

 さり気なく、かぐやに視線をやれば案の定、彼女は絶対零度の眼差しで藤原を睨みつけていた。

 

 

(藤原さんの馬鹿ぁぁぁぁ!! 何て恐ろしい事をするのよ。不味い‥このままでは私にも火の粉が降りかかるのは明白。何とかして四宮さんに会長の弁当を食べさせる手を打たないと…)

 

 

 キリキリと悲鳴をあげる胃の痛みに耐えつつ、鷺宮は最善の策を模索する。しかし、神はそんな鷺宮に予想もしない試練を与えた。

 

 

 

「そういえば、鷺宮も手弁当なんだな。折角の機会だ。俺のおかずと鷺宮のから揚げ。良かったら交換しないか?」

「え?ええ。別に良いですよ」

「そうか。じゃあ、遠慮なく頂くとしよう。ほら、これがお返しのタコさんウィンナーだ」

「ど、どうもありがとうございます」

「うわぁ。鷺宮さん羨ましいなぁ。会長の手料理…とても美味しかったですよ」

 

 

 

 弁当のおかず交換。それ自体、別段おかしい事ではない。ひょんな事から頂いた白銀特製のタコさんウィンナー。藤原の表情からして、白銀の料理はさぞ美味なのだろう。しかし、今の鷺宮には何の味もしなかった。何故なら…怨念が籠められたかぐやの視線をひしひしと感じていたから。

 

 

 

 

 

(藤原さんだけならまだしも…鷺宮さん。貴女までそんな事をするなんてね。早坂の話では私に協力すると聞いていたのに…こうも早く裏切るとは。あまつさえ、自分の手料理まで会長に渡す始末…彼の胃袋を掴んで関心を惹こうって魂胆ね。何と浅ましく薄汚い女。これは私に対する宣戦布告ですね。良いでしょう。その挑戦、受けて立ちます。明日を楽しみにしていなさい)

 

 

 

 

 行動が裏目に出て、かぐやの怒りを買ってしまった鷺宮は、何とも居心地の悪い昼休みを過ごす事になった。

 

 

 

 

 そして翌日の昼休み。今日も鷺宮は生徒会室で昼食を食べる事にした。此処でなら会長や藤原もいる為、かぐやの制裁(空気の薄い場所送り)が執行される事はない。だが、それはつかの間の猶予でしかない。僅かなこの時間を活用し、昨日の失態を挽回しなければ、自分の未来は霞と消えるだろう。

 

 

 鷺宮はまるで敵地に特攻を仕掛ける兵士の気分を味わっていた。どう切り出そうかと思案する中、先手を打ったのはかぐやであった。

 

 

「これってかぐやさんのお弁当ですか~?」

「何というか凄いな。それに美味そうだ」

「四宮さん‥このお弁当はどうしたんですか?」

 

 

 テーブルに置かれたかぐやの弁当。これは四宮家お抱えの料理人によって作られており。綿密な予定の元、昼休みに出来立てが届けられている。旬の食材をふんだんに使われるだけでなく、栄養面もバッチリの一級品である。

 

 

「ええ。実は昨日、良い食材が手に入った事で料理人の魂に火が点いたのでしょう。只、いつもより量が多くて…食べきるには大変ですよ」

 

 

 絢爛豪華な弁当に圧倒される三人にかぐやはさり気なく、自分の弁当を薦めた。無論、事前の調査で中身は白銀の好物ばかりを詰め込んでいる。

 

 

 

(ふふふ。此処まで御膳立てをすれば、会長も堪らず私のお弁当を食べたくなる筈。そして分けて下さいと申し出る事でしょう。さあ、いつでも来なさい。貧相な鷺宮さんの弁当等、綺麗さっぱり忘れさせてあげます)

 

 

 勝利を確信し余裕の笑みを浮かべるかぐやだったが、現実は妄想ほど甘くはない。 

 

 

「とりあえず、俺らも食うか」

「そうですね。会長のお弁当、今日は海苔弁ですか~。これも美味しそうですねぇ。それに鷺宮さんの弁当も素敵~」

「言われてみれば、人の弁当ってやけに美味そうに見えるよな。小学生の遠足の時はよく他人の弁当を羨んだりとかしたなぁ」

「あ~分かります。私も仲のいい友達とよくやってました」

「ふふ、他に運動会とかでもありますね。でも、私は会長のシンプルな弁当も好きですよ」

「ははは。よせよせ照れるではないか」

 

 

 

 かぐやの弁当に一瞥する事もなく、三人は談笑を交わしながら弁当を食べ始める。これは不味い状況だ。此処で待っていても、状況は好転しない。危機感を覚えたかぐやは自ら動く事にした。

 

 

「会長 確か牡蠣がお好きでしたよね。お一ついかがですか?」

 

 

 好物なら白銀も箸を付けやすいだろう。かぐやはそう考えて薦めたが、一つ失念していた。それはかぐやの牡蠣が高級食材という事である。日頃、食べ慣れているかぐやとは違い、一般階級の白銀には敷居の高い食べ物だった。

 

 

 それを薦めるかぐやに何か裏があるのでは?と勘繰ってしまうのは無理もない。

 

 

(一体、四宮は何を考えている?俺に高級食材を差し出す理由は何だ?ハッ…よもや四宮は俺を憐れんでいるのか?質素な弁当を食べる俺の姿が滑稽に見えるに違いない。何たる屈辱…)

 

 

 と白銀はその結論に至った。故に白銀が取るであろう行動は…

 

 

「断る。その様な物を貰っても返せる物が俺は持ち合わせていないのでな」

 

 

 断固拒否する事であった。常識的に考えれば必然といえるのだが、思惑が外れたかぐやは脱力し項垂れた。その拍子に机に頭をぶつけるのを見た藤原の「大丈夫?頭痛くない!?」と心配する言葉が悪口に聞こえ、かぐやに追い打ちをかける。

 

 

「い、いえ。大丈夫ですよ。それにしても…今日は藤原さんも手弁当なんですね」

「はい。実は…昨日、会長が手弁当食べてるのを見て、私の分もお願いしたら…何と快く引き受けてくれたんです。だから、会長と私のお弁当は中身が同じなんですよ。えへへへ、何だか遠足みたい楽しいです」

「まあ一人分も二人分も変わらんしな。喜んでくれるなら何よりだ」

 

 

 この瞬間、部屋の温度が急激に下がるのを感じた鷺宮は恐る恐るかぐやの方を見て、激しく後悔した。藤原を見つめるかぐやの目は明確な殺意を宿していた。しかし当の本人は気付いておらず、藤原は呑気に弁当を頬張っている。彼女の口に白銀特製のおかずが消える毎にかぐやの視線も鋭さを増す。この異常に白銀も当然気付いており、言葉に出来ない恐怖が白銀の精神を蝕んでいく。

 

 

 

「しまった。今日は部活連の会合があるんだったな。急いで食べないと」

 

 

 異様な空気が漂う部屋から一刻も早く出たい。白銀は一心不乱に弁当を食べると逃げる様に生徒会室から去っていった。

 

 

 

 

(あーー 私のタコさんウィンナーがぁ~。ハァ…何でこうなるのかしら? 私一人空回りしてバカみたい)

 

 

 白銀の弁当が食べたい。それだけの為に策を講じるも全て失敗に終わって、かぐやは力無く項垂れた。しかし、捨てる神あれば拾う神あり。そんな彼女に救いの手を差し伸べる者がいた。

 

 

「かぐやさーん はいあーん」

 

 

 かぐやの前に出されたのは、一本のタコさんウィンナー。欲しくて堪らない食べ物をかぐやは流されるままに頬張り味わった後、かぐやは優しい笑顔を浮かべる藤原がとても眩しく視えた。

 

 

「どうですか~?美味しいでしょ。かぐやさんも一緒に食べよ」

「ええ。皆で食べると楽しいものね。折角ですし、私のから揚げもどうぞ」

「あ、ありがとうございます。…鷺宮さんの料理も美味しいですよ」

「どういたしまして」

 

 

 そして女子三人組は弁当を食べながら楽しい昼休みを堪能した。

 

 

 

【本日の勝敗 白銀の逃走によりかぐやの勝利ならびに最悪の結末を回避した鷺宮の勝利】

 

 

 

 

 

 

 

 




書き終わってみれば、一話から1万字超えました(笑)


今後も内容はアニメを意識して、三つの話を纏めた構成にしていくつもりです。
また作中の映画デートと恋文投函は敢えて端折りました。

どんな事でも良いので感想をくれると励みになります。
思わぬ形で始まった新作ですが、次回もお楽しみに




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