今回は生徒会選挙メインの回です。
そして最後のメインキャラである伊井野ミコが登場します。
夏が過ぎ去って、秋の気配を深まる頃。秀知院生徒会にもある時期が訪れていた。
それは現生徒会の解散。一年間の任期が本日を以て、終わる時が来たのだ。当然、解散となれば生徒会室に立ち入る事は出来なくなる。その為、現在は白銀の指揮の下、役員総出であと片付けや掃除が行われていた。
「思えば…まだ先の事だと思っていましたが、一年過ぎるのはあっという間でしたね」
「そうですね。僕なんかは初めの頃、殆ど顔を出してなかったし。此処で過ごしたのは、実質半年くらいですよ。今思うと、もっと顔を出しておけばと少し後悔してます」
私物の整理をしながら、かぐやはぽつりと呟いた。その呟きを聞いていた石上も自分の気持ちを口にする。そんなかぐやは石上の横顔を見て、ふと思う。今までの生活でかぐやは自身が一番変化したと思っていた。だが、気付けば彼も大きく変化していた。
「そうですね。だけど、この半年で石上くんは大分変わりましたよ。しいて言うのなら強くなったというべきでしょうか。生徒会に入った時は、いつも人に怯えた様子でしたし」
「‥‥言われてみると、確かにそうですね。昔の自分だったら、こんな風に会話をする事自体、出来なかったでしょうから」
「ええ。だからこそ、貴方はもっと「あーーーーーーー。これ懐かしいですねぇ~。会長達は、覚えてますか?」藤原さん、一体何事ですか? 人が話してる時に大声出すのはやめてください!」
引っ込み事案な後輩に助言をしようとした時、大声で叫んだ藤原に遮られた。空気の読めない行動に些か気分を害したかぐやは、騒ぐ藤原に苦言を呈した。しかし、当の本人は意に介した様子はなく、手に持つ猫耳を見せてきた。
「おお~。懐かしいな。今思うと良い思い出だ」
「そうですよねぇ。かぐやさんと会長の猫耳姿。とても面白かったですよ」
「はははは。そんな事もあったな。四宮の猫耳は確かに似合っていたな」
「二人共。懐かしい思い出に浸るのは良いけどさ。やるべき事を終わらせてからにしてよ」
「璃奈さんの言う通りですよ。今は真面目にやってくださ・・・・」
燥ぐ白銀と藤原に見兼ねて、鷺宮が注意する。それに便乗してかぐやも注意をするが、猫耳姿の白銀を目にして思考停止する始末。収拾が付かないといった様に溜息を吐く鷺宮に石上が話しかけてきた。
「鷺宮先輩…。あの三人に何があったんですか? 何やら面白そうな話をしてますけど…」
「ああ。そういや石上くんはあの時いなかったわね。以前、生徒会でこの学園の姉妹校を歓迎する催しがあったのよ。相手は海外の人達だから、コスプレで楽しませようと藤原さんが色んな衣装を用意したのだけど、結局はお流れになったのよ。慣れない行為に緊張して、逆に相手に気を使わせるからってさ」
「成程。確かにコスプレって、人目を惹くから慣れないとキツイですもんね」
「ま、結果として交流会は成功したから良かったけどね」
「思えば、その頃でしたよね。先輩が僕に顔を出せと言ってくれたのは…。あの時の言葉が無かったら、僕は変わらないままでした。今更かもしれないけど、ありがとうございました」
「ふふふ。良いのよ。まあ、そういうなら今後もしっかり学園生活を送って頂戴。無論、後悔が無いようにね。そうすれば、今までの半年に負けないくらい楽しい事があるから」
「…先輩に敵いませんね。分かりました。まだ不安はあるけど、前向きに頑張ってみます」
やはりこの人には敵わない。鷺宮の言葉に石上は改めてそう思った。時折、暴走して怖い時があるけど…それを除けば後輩想いの先輩である。勿論、それは鷺宮だけではない。白銀にかぐや、序に藤原も皆頼りになる先輩達だ。だからこそ、今の生徒会が終わってしまうのが残念でならなかった。
その後、生徒会室の後始末も無事に終わり。思い出の詰まったこの場所に別れを告げた。
「一年間。どうもお疲れ様でした!!」
「「「「お疲れ様でした」」」」
それから白銀達は生徒会の任期終了を祝して、お疲れ様会を催していた。乾杯を済ませた後、白銀は純金の飾緒を外すと丁寧に箱へしまう。これは白銀が生徒会長として行う最後の仕事であった。この瞬間を以て、白銀は重い重圧から解放されたと深く息を吐く。
「はぁ~。漸くこの飾緒を外せるな。これって意外に重いから疲れるんだよな」
「まあ、純金製ですし重たいのは仕方ないのでは?」
「それもあるが…二百年の重みもあるからな。それを意識すると余計に重く感じるよ」
そう言って、白銀は箱に収められた飾緒に目を向ける。彼が言う様に長い伝統には、目に見えぬ重みが存在しているのだろう。それを身に着けて、一年も奔走した白銀の苦労は測り知れない。それを知ってか知らぬか、白銀はふとある事を口にした。
「そういや、次の生徒会長だが…石上がやってみたらどうだ? もし立候補するなら、俺も手助けするしてやるぞ」
「いやいや。僕には荷が重いので遠慮しておきます。第一、絶対に票なんて集まらないですよ。今でも僕を嫌ってる生徒は大勢いますからね」
「…悪かった。俺とした事が嫌な想いをさせてしまった」
「いえ、気にしないでください。僕としては鷺宮先輩を薦めますよ。真面目で面倒見が良いですし、意外と生徒会長に向いてるんじゃないですか?」
「悪いけど、私も遠慮するわ。今までの白銀くんを見てたら、とてもじゃないけど私に勤まると思えない。それに…読書の時間が減るのは絶対に嫌だもの」
不意に話を振られた鷺宮は驚いたが、すかさず反論の言葉を返す。その理由に一同は呆れていたが、そこが彼女らしいと納得もしていた。微妙な空気を変えようとしてか、次に会長候補に名乗りを上げたのは藤原だった。本人は至って真面目に言ったものの。普段の行い故、藤原以外は冗談としか受け取らなかった。
そうして楽しい時間は過ぎて行き、やがて夜も遅くなり一行も解散となった。
「かぐやさん。今後は白銀くんの事…どうするんだろう?」
帰宅した鷺宮はかぐやの事に想いを巡らせる。以前、かぐやの誤解を解く為に彼女の恋に協力する約束をした訳だが、それは生徒会が解散するまでの事。そして交わした約束は今日で終わる。厄介な事から解放されて嬉しいと思うと同時に、かぐやを支えてやりたいとも思う。この二つの気持ちに左右されて、鷺宮はこの夜、眠る事が出来なかった。
翌日。
朝早くに登校した鷺宮の目の前に一人の女子生徒が姿を見せた。恐らく自分に用があるのだろう。その女子生徒は緊張した面持ちで話しかけてきた。
「あの…私、一年の伊井野ミコと言います。今回、鷺宮先輩にお願いしたい事があって。こうして待っていました」
「私にお願い事? それは何かしら?」
「はい。私は今度の生徒会選挙に出馬するつもりです。それで鷺宮先輩には私の手助けをして欲しいと…思いまして」
初めは力強く発言していたが、次第にその声は小さくなっていった。それは緊張してるのか、或いは後輩が先輩に物を頼む事を失礼と考えたのか。それは分からない。だけど、この時…鷺宮の気持ちは決まっていた。
「生徒会の選挙ねぇ。そういう事なら私は協力しても良いわよ」
「本当ですか!? あ、ありがとうございます!!」
「良いのよ。それで詳しい話はいつするの?」
「そうですね。放課後、風紀委員の部屋でしようと思ってます。鷺宮先輩の予定があるなら、別の日でも構いません」
「私の方は予定が無いから平気。じゃあ、放課後に会いましょ」
「分かりました。それでは放課後にお待ちしています」
ミコは話が終わると一礼して、去っていった。その後ろ姿を見送った後、鷺宮は静かに教室へ向かった。
【本日の出来事 第67期生徒会の解散】
放課後。ミコとの約束通り、鷺宮は風紀委員の部屋に来ていた。戸を叩くと中から声がしてある女子生徒が顔を見せる。眼鏡が特徴的な物静かな印象の子であった。
「あ、鷺宮先輩ですよね? 私は一年の大仏こばちと言います。話はミコちゃんから聞いてます。どうぞ中へ」
「うん。お邪魔するわね」
「鷺宮先輩! 来てくれてありがとうございます」
「あはは。そんなに畏まらないで。只でさえ、生徒会選挙は肩肘が張るんだからさ。もっと肩の力を抜いて行かないと最後まで持たないわよ」
「は、はい。分かりました」
意気込み溢れるミコに対して、鷺宮は肩の力を抜くよう諭した。するとミコは恥ずかしそうに頷いた。その素直なミコに鷺宮は好感を抱いていた。もし自分に妹がいたとしたら、それはミコの様な感じなのだろうか。考えてみれば、今日会ったばかりのミコに協力したのもそれが理由なのかもしれない。思えば、自分も随分と変わった。今までなら面倒だと、きっとミコの頼みを断っていた筈だ。
「さて、今回の選挙で伊井野さんが掲げる公約を聞かせて。伊井野さん達は他の生徒が認める実績は当然持っていない。だから、票を取れるかどうかはそれ次第になるから」
「はい。私達もそれは理解しています。それとこれが私が掲げる公約を纏めたものです」
「どれどれ……」
ミコから受け取った用紙に目を通して、鷺宮は言葉を失った。記載された内容は、主に学園の風紀に関する事であり、男子は坊主頭。女子はおかっぱと昭和を彷彿させるものから。また持ち物に対しては学業に不必要な物は、携帯する事を一切許可しないという今時の時代には厳しいものだった。一通り読んでから鷺宮はミコを見据えて一言告げる。
「伊井野さん。これは…駄目よ」
「ええ!? い、一体何処が駄目だったんですか?」
「何処がと言うよりも、全部かしらね。これでは票を集める以前の問題だわ」
「ぜ、全部…ですか? だけど、昔の伝統ある学園に戻すには必要な事だと思います」
「じゃあ、まずは伊井野さんが実践したらどうかしら? 言った本人が実践しないで、人にやれと言うのは誰だって納得しないのは分かるわよね?」
「…はい。鷺宮先輩の仰る通りです」
考えた公約を否定されて反論するミコだったが、鷺宮の一言であっさりと完封された。事の顛末を見ていた大仏は鷺宮に対して良い感情を抱いていなかった。しかし、鷺宮は自分が言えなかった事を臆する事無く、ミコに告げた。ミコのやり方は世間とズレているのは分かっていたが、衝突するのを恐れてその事実を言えなかったのだ。結局、それが原因で彼女は何度も生徒会の選挙に負けてきた。だけど、この人は相手を傷付け、嫌われる事も覚悟して事実を告げた。これが如何に難しい事なのか、それを分からないほど自分だって馬鹿じゃない。最早、最初に感じていた嫌悪感は既に消え失せ、いつしか大仏の心は尊敬の感情で溢れていた。
「だけど、伊井野さんも譲れないだろうし…。そうだ、髪型を指定するのではなく長さを決めるのはどうかしら? 例えば、一定の長さを超えた場合。ゴム等で結んで規則に従ってもらうのよ。これならば、規則に沿う形でお洒落も可能となるわ」
「成程。そっちの方がいいかもしれないですね。ミコちゃん、此処は鷺宮先輩の意見を採用しようよ」
「うん。私も異論はありません。寧ろ、指摘されるまで気付かない事が恥ずかしいです」
「反省をするのは良いけれど、自分を誤魔化しては駄目よ。それは伊井野さんの個性を潰す事になるわ」
己の過ちを知って俯くミコに鷺宮は慰めの言葉をかけた。そういう鷺宮も自分を誤魔化しているのだが、当然その事は棚に上げている。そして鷺宮達は選挙に向けて作戦を練り始めた。その後の話し合いではミコと大仏もどんどん意見を出していく。初日の会合は幸先のいいスタートで終わりを迎えた。
そして鷺宮達は地道な活動に勤しんでいた。公約を纏めたビラを配ったり、朝夕に学園内の掃除を率先して行う事でミコの人柄を周囲に知ってもらう。鷺宮の考えた策は成功し、彼女に投票する生徒は着実に増えていった。
本日、掲示板で発表された中間結果では白銀が圧倒的有利であった。ミコも食らい付いているのだが、此処で実績の有無が差を生んでいる。
「現在のトップはやっぱ白銀くんかぁ」
「相手は実績のある方なので、この結果は予想してました。だけど、私も負けるつもりはありません」
「そうね。じゃあ、今日も頑張ろう」
「はい。今回は中庭で配るとしましょう。今の時間なら生徒も多くいる筈ですから」
しかし、ミコはこの結果に落ち込む所か。一層気合が入った様子であった。これに鷺宮も安堵していた。それに生徒会長になれば、忙しい業務と重い責任が付き纏う。この程度で落ち込む様な精神では、到底務まらない。ミコの生徒会長としての資質は十分だと分かった。
「君が伊井野ミコか?」
「はい? 一体、何の用ですか? 白銀元会長」
「ほう。どうやら俺の名は知っていたか。君の事も聞いているぞ。何でも学年一位の成績なんだって?」
「ええ。入学当初から一位ですが、それがどうかしました?」
偵察に来たであろう白銀と石上。この二人に最初は普通に接していたミコだが、妙に刺々しい白銀の態度にミコの口調もきつくなる。若干、険悪な雰囲気が漂うも、そこは年上である白銀が矛を収めて話を進めた。
「まあ、勉学に励むのは素晴らしい事だ。だが、選挙においては学力の有無は意味を為さんぞ。必要なのは他者から認められる実績だ」
「それは重々に承知しています。だからこそ、私はこうして地道な活動をしているんですよ」
「ビラ配りか。確かに地道な努力も必要だが、結果が伴うとは限らないだろう」
「…さっきから何が言いたいんですか? 特に用が無いなら、何処かに行ってください。選挙活動の邪魔ですので」
「おい伊井野。先輩に向かって、その言い草は失礼なんじゃないの?」
「いいや。伊井野さんの言う通りだよ。二人揃って、一体何をしてるのよ」
「鷺宮先輩…。どうして此処に?」
ミコの言動が癪に障ったのか。付き添っていた石上が前に出て、文句を言うと同時に鷺宮が二人の間に割って入った。思わぬ人物の介入に驚く石上に対して、冷静な白銀は鷺宮に話しかける。
「そうか。今回、鷺宮が敵に回るとなれば手強いな。まあ、これ以上…俺達も邪魔するつもりはない」
「そうですね。白銀先輩が有利なのは変わらない事実ですし、僕達も負けるつもりはないですから」
「…成程ね。票の多い事を利用して揺さぶりに来たか。この策を思い付いたのは、恐らく藤原さんかな? だけど、余裕ぶって胡坐を掻いてると足元を掬われるわよ」
「何が言いたい? ハッキリと言ったらどうだ」
「じゃあ、遠慮なく言うわね。余りこの子を見縊るな!! 今回の選挙、勝ちに行くわ。白銀くん達もそれは覚えておいて」
「いいだろう。俺もやるからには勝つつもりだ。相手が一年でも手は抜かんぞ」
そう言い残し、白銀は石上を連れて去っていった。残されたミコは不安そうに鷺宮に声をかける。
「私、あの人達に勝てるでしょうか。本人の前では啖呵を切ったけど…」
「大丈夫よ。伊井野さんを見てる人は必ずいる。それに私が付いてるからね。出来る限り、協力するから前を向いて進みなよ」
「…はい! 分かりました」
「その意気やよし。さて、私はもう一度ビラを配ってくるわね」
「お願いします。私はあっちの方で配ってきます」
白銀陣営と一悶着あったが、この日も伊井野達は地道な活動に精を出していた。その様子を陰から窺っていたかぐやの姿に気付かずに。
【本日の選挙戦 互いに引かない両陣営の引き分け】
本日も選挙活動をするべく、鷺宮がミコの元を訪ねると、部屋にいたのは大仏のみだった。その大仏は鷺宮を見るや、ジワリと涙を浮かべて縋ってきた。突然の事に困惑しながらも、鷺宮は大仏に事情を尋ねる。
「…何があったの?」
「じ、実は先輩が来る前に四宮先輩が来まして…。四宮先輩、話があるってミコちゃんを連れていったんです。私も行こうとしたけど、あの先輩に睨まれたら怖くなって…な、何も言えなくなって」
「分かった。私が様子を見て来るよ。二人が何処に行ったかは聞いてる?」
「それは分かりません。だけど、ミコちゃんが行き先を聞いた時。四宮先輩は話の邪魔が入らない場所と言ってました」
「その場所には心当たりがあるわ。じゃあ、私は行ってくる。大仏さんは此処で待ってて頂戴」
「は、はい。ミコちゃんの事をお願いします」
大仏と別れた後、鷺宮が一直線に向かった場所。それは生徒会室であった。人の邪魔が入らず話が出来る場所といえば、現在は立ち入り禁止の生徒会室だけだ。鷺宮の予想は当たり、部屋の前で聞き耳を立てれば、中からかぐやとミコの声が聞こえる。この状況を見れば、かぐやの行動が選挙活動違反だと抗議出来るが、用意周到な彼女の事だ。これに対しての手段も持ち合わせているだろう。
そこで鷺宮は敢えて様子を窺うだけに留めた。無論、何かあればすぐに踏み込む準備も忘れずに二人の会話に耳を傾ける。
「私に話って…一体何ですか? 今日も選挙の活動が控えてるので出来れば、手短にお願いします」
「あらあら。随分と忙しいんですね。頑張る事は構いませんが、時に休息も必要ですよ」
「それは余計なお世話です。用が無いなら、私はこれで失礼します」
一向に本題を切り出さないかぐやに痺れを切らせ、ミコは立ち去ろうとする。しかし、これはかぐやの交渉術の一つ。相手を怒らせる事で冷静さを奪うのが目的である。早坂を動かして、ミコの情報は大凡調べていた。ミコの性格や成績は勿論、ミコが生徒会長に拘る理由もかぐやは知っていた。当然、次に切り出すカードもかぐやは熟知している。
「そうですね。ならば、単刀直入に仰います。伊井野さんは何故、今回の選挙に出馬したんですか?」
「この学園をより良い物にする為です。それを聞いてどうするんですか?」
「いいえ。立派な事だと思いまして。ですが、貴女はまだ一年でしょう。この学園について知らない事も多い筈です。そんな貴女が生徒会長になるのは、荷が重いと思いますよ。そこでどうでしょう。貴女が良ければ、私が協力して貴女を生徒会長にしてあげましょう。但し…それは貴女が二年になってからという条件を飲んでくれるなら…ですけどね」
「その代わり、今回は出馬を諦めろ。そういう事ですか?」
「ふふふ。そう聞こえましたか? まあ、どう捉えるかは貴女次第ですよ」
かぐやの言葉に一時は迷いを抱いた。全生徒の模範となって学園を導く。それは覚悟や責任感だけでなく、経験や知識も必要だ。かぐやはそう言いたいのだろう。それだけであれば、ミコも共感は出来る。しかし…その後に出た言葉がミコの逆鱗に触れてしまった。
協力するから今回は諦めろ。そんな身勝手を言うかぐやがミコは許せなかった。
「…っ!! 馬鹿にしないで! 私がそんな要求を聞く義理はありません。今回の一件は明らかに違反行為ですよ。この事はすぐに先生へ報告してあなた達を退学に「ストップ!! 伊井野さん。それ以上、口に出しては駄目よ」さ、鷺宮先輩!? ど、どうして止めるんですか? 今回はどうみてもこの人が悪いじゃないですか!!」
流石に不味いと様子を窺っていた鷺宮がミコを制止した。だが、ミコは鷺宮の行動に納得が出来ずに怒りを露わにして不満をぶつける。
「落ち着きなさい。確かにかぐやさんのやり方に問題はあるよ。だけど、伊井野さん。貴女が言おうとした言葉。それは感情に任せて言うべき事ではないでしょう。それを言い切ってしまったら、貴女も風紀委員の立場を利用した越権行為なんだよ」
「そ、それは…。はい。鷺宮先輩の言う通りです」
「まあ、すぐに介入しない私も悪いんだけどさ。ねえ、かぐやさん。此処は喧嘩両成敗という事でお互いに引かない? これ以上、続けたら本当に面倒な事になるわよ」
「…そうですね。今回は私もやり過ぎました。ごめんなさい伊井野さん。だけど、私が貴女に協力する話。これは嘘ではありませんよ。けれど、この選挙だけは絶対に勝たせてもらいます。私はこれで失礼しますね」
鷺宮の言葉にかぐやも自身の非を認めると、ミコに頭を下げて謝った。しかし、ミコがそうである様にかぐやにも引けない理由がある。それを籠めた言葉を残して彼女は悠々と去って行く。そんなかぐやの後ろ姿をミコは黙って見つめていた。
そして選挙戦はいよいよ本番を迎える。
【本日の選挙戦 互いの痛み分けでかぐやとミコの引き分け】
今回のお話いかがだったでしょうか?
原作ではギャグの要素もあって笑えるシーンも多くありましたが、この回ではシリアスメインにしてみました。
次は選挙完結と日常の話を書く予定です。次回もお楽しみに