今回は生徒会選挙完結編となります。
生徒会選挙も佳境に入り、いよいよ本番の公開演説が三日と迫っていた。この演説で如何に多くの生徒達から共感を得られるか。その結果で選挙の勝敗が決する為、鷺宮達も演説に向けて準備に勤しんでいた。
「伊井野さん。演説で言う内容は決まってる? 私も応援演説をするけど、最後は伊井野さん次第だからね」
「…はい。演説で言う事は既に決めています」
「そう。じゃあ、リハーサルも兼ねて此処で演説してみよう」
「こ、此処でやるんですか…。その、いきなり言われても心の準備が…」
「心の準備って…その為にやるんでしょう。第一、本番だともっと大勢の前で話すんだよ。いざという時にヘマしたら元も子もないじゃない」
鷺宮の提案にミコの顔が青くなった。これに鷺宮は僅かな不安を覚える。別段、自分は無茶を言ってる訳でもなく、本番に備えるのは当然の事だ。それはミコも承知している。ミコは用意した紙を読もうとしたが、ミコはその内容を口にする事が出来なかった。
「…伊井野さん。一つだけ、聞いてもいい?」
「な、何でしょうか?」
「もしかして人前で話す事が苦手なの?」
そして鷺宮の不安は現実となった。この状況で発覚したミコの弱点。これに鷺宮は焦燥感を募らせるが、今はミコを責める時ではない。勿論、大事な事を今日まで隠していた事に怒りを感じてはいる。しかし、此処で対立しては選挙に勝つ事は絶対に出来ない。今、自分がすべきなのは限られた時間でミコの弱点を克服するかにある。
(まいったわね。こんな時に厄介な事が起きるなんて…。正直、黙っていた伊井野さんに腹は立つ。だけど、此処で伊井野さんを責めるのは得策ではない。何より今は、伊井野さんの問題を解決しなくてはいけない。しかし、どうしたものか…。流石に私だけでは無理がある。かといって、誰かに頼ろうにも頼める人達とは対立してるからなぁ)
本来なら白銀達を頼る所であるが、選挙中で対立関係にある為に頼る事が出来ない。人の良い白銀であっても、流石に競争相手に塩は贈らないだろう。仮に白銀が手を貸すと言っても、それをかぐや達が許さない。どう考えても状況は八方塞がりだ。
「…やっぱり怒ってますよね。大事な事を今まで隠していた事を」
「まあ、多少はね。だけど、言えない理由もあったんでしょ?」
「はい。実は…」
ミコが語った理由を聞いた鷺宮は眉を顰める。ミコは元々あがり症であったが、人前で話す事をそれ程恐れていなかった。だが、過去の生徒会選挙で失敗した時に浴びせられた嘲笑と冷たい視線。これが原因でミコは深く傷付き、人前に立つと震えが奔り喋る事が出来なくなっていた。
ミコの真面目で誰が相手でも物怖じしない性格は、自然と敵を作ってしまう。ミコに対して風当たりが強い周囲の態度も間違いなく、この性格が尾を引いている。だからといえ、ミコの真面目な性格は彼女の長所でもある。それを上手く生かす術を模索する鷺宮だが、良い方法はそう簡単に浮かんでは来ない。
そんな時、ドアをノックする音が響く。どうやら誰か訪ねて来た様だ。忙しい時に一体、何の用だと思う鷺宮だが、無視する訳にも行かない。渋々であるが鷺宮は戸を開けて対応する。
「急に訪ねて悪いな。此処に風紀委員の子がいると聞いて来たんだが…」
「ううん。別に大丈夫よ。どうぞ中に入ってちょうだい」
訪問したのは剣道部部長の鮫島健吾だった。どうやら彼は風紀委員に用件があって、此処に来たらしい。そういう事ならばと、鷺宮は鮫島を部屋に招き入れた。
「それで風紀委員に用件とは何でしょうか?」
「ああ。この書類を提出に来たんだ」
そう言って鮫島が出したのは部員の持ち物に関する報告書。本来、これは生徒会が処理する事なのだが、解散している現在は風紀委員が処理する事になっている。
「はい。確かに受け取りました。この書類は私が責任持って処理致します」
「頼んだぞ。それと二人は何か…悩んでいる事があるのか?」
「何でそんな事を聞くの? 私達は何も言って無いわよね?」
突然、妙な事を聞いてくる鮫島に鷺宮は逆に問い掛ける。まるで何かを知っている口振りは明らかに不自然だ。これには鷺宮だけでなく、ミコも警戒心を露わにして鮫島を睨み付ける。二人の態度にしまったといった様子で鮫島は慌てる。
「待て。俺の言い方が悪かったのは謝る。だから、睨むのはやめてくれないか」
「だったら、しっかりと説明して!! そうしないと私達も信用出来ないわ」
「…俺の勘だよ。こう見えても、警察の息子だからな。相手の顔や目を見れば、何か隠している事があると分かるんだ。別に言いたくないなら、俺としても聞くつもりは無い」
事情を話す鮫島に嘘を吐いている様子は無く、彼は本当の事を言っているのだろう。この時、鷺宮はふとある事を思い出した。そういえば、鮫島はその人柄から部の後輩に慕われており、時折悩み相談に乗っていると聞いた事がある。だとしたら、彼ならばミコの悩みも解決する事が出来るかもしれない。いっその事、全て話した上で協力を仰ぐのも手だろう。鷺宮は思い付いた提案をミコに話した。そしてミコも後が無い為、鷺宮の案に首を縦に振った。
「…何とも後味の悪い話だな。君を責める奴らには人の心が無い様だな」
「怒る気持ちは分かるけど、今は他に解決しなきゃいけない問題があるのよ。それで人前でも萎縮せず、話す方法を鮫島くんは知らないかしら?」
「そうだな…。月並みな方法なら相手を野菜と思い込む方法があるんだが、伊井野の場合はそれで済む話でないからな」
「うーん。やっぱり、良い方法は無いのかしらね。あ…ごめんなさい。別に鮫島くんを責めてるつもりは無いよ」
「それは分かっているよ。別に気にする事はない。それと別に方法が無いわけでもないぞ」
失言をしてしまったと謝る鷺宮に鮫島は気にも留めず、話を進める。その鮫島が口にした方法は失敗を恐れず、逆に失敗する事を楽しむという意外なものだった。思わぬ方法に鷺宮とミコは目を丸くして驚く。何故、その様な方法を薦めるのかと尋ねた鷺宮に鮫島は、遠い眼をして自身の体験談を語る。
それは鮫島が中等部にいた頃。剣道の大会の団体戦に挑んだ時、戦績は3戦2勝1敗の結果になっていた。次に戦う自分が負けてしまえば、その段階で自陣の敗北が決定する。この展開に鮫島は凄まじい重圧を感じて追い詰められていた。気付けば、竹刀を握る手に震えが奔り、まともに握れなくなっていた。駄目だ。このままでは確実に負けてしまう。そうなれば、この年最後の挑戦となる先輩に顔向けが出来ない。
何も出来ずに無様に負ける醜態を晒せば、他の皆も自分を責めるに違いない。それを考えると自身に向けられる視線の全てが鮫島を更に追い詰めていく。そんな時だった。隣にいた先輩が鮫島の肩を叩くとこう言った。
「鮫島。何も怖がるな。余計な事は考えないで思いっきり戦って来い。それにこの試合は勝ち抜き戦だ。お前が負けても後は俺が何とかしてやるよ」
「…先輩。はい。思いっきり戦って来ます。寧ろ、先輩に出番なんて与えませんよ」
「よーし。その意気だぞ鮫島」
先輩の言葉で心を支配していた感情から解放された鮫島は、威風堂々と前に出て行った。
「まあ…最終的に俺も先輩も負けて一回戦敗退だったが、皆は俺と先輩を責めたりしなかった。単純な話。自分で自分を追い込んでいたんだよ。蓋を開けば、誰も責めたりしないのは分かっていたのにな」
「…それは鮫島先輩には、背を押してくれる人がいたからですよ」
「何を言ってるんだ? 君にも背を押してくれる者達がいるだろう」
俯きながら呟くミコに鮫島は傍にいる鷺宮を見て、諭す様に言葉をかけた。その言葉にはっとしてミコが鷺宮に目をやれば、肯定する様に強く頷いた。
(そうだ。私にも心強い人が傍で支えてくれる。思えば、大仏さんだっていつも私を気に掛けてくれていた。私、なんて馬鹿だったんだろう。何かあると周囲の目に怯えて傍にいる人の声に耳を傾けたりしなかった。前に進むんだ。笑いたい奴には笑わせてやればいい。もう失敗を恐れるのはやめよう)
「そうですね。私にも背を押してくれる人がいる。そんな大事な事をを忘れてました」
「ああ。その様子なら大丈夫そうだな。さて、俺はもう行くとする」
「うん。私こそありがとう。今回はとても助かったよ」
「なーに。以前も言っただろ、困った時は手を貸すとな」
「そうだったね。これは貸し一つかな?」
「ははは。それはいいな。そう言う事にしておこう。じゃあな二人とも」
冗談交じりに言う鷺宮に鮫島も冗談で言葉を返し、彼はこの部屋を去った。その後、鷺宮とミコは演説のリハーサルに取り掛かった。すらすらと演説内容を語るミコの表情には、先程の様な恐れや不安は微塵も感じられない。これなら本当に大丈夫だと鷺宮は心から安堵した。
この日、二人は陽が暮れるまで演説のリハーサルを何度も繰り返していた。
【今回の選挙戦 自らのトラウマに向き合ったミコの勝利】
生徒会選挙当日。遂に来たる本番を前に鷺宮とミコは最後のリハーサルに勤しんでいた。ミコの演説を聞いていた鷺宮は、淀みなく話す彼女の成長に目を瞠る。そんなミコも自信に満ち溢れており、あとは開始を待つだけとなった。
「伊井野さん。開始前に一つだけ言っておくよ。もし…本番で緊張したら、壇上から私を見る様にして。きっと、大勢の視線を感じるよりも気が楽になると思うからさ」
「はい。分かりました」
鷺宮の言葉にミコは素直に頷いた。その様子を見る限り、大丈夫そうだが些か不安は捨てきれない。しかし、此処まで来たら前に進むしかない。そして遂に公開演説の時間やってきた。
「お二人とも。そろそろ開始しますので、中に入ってください」
「分かりました。それでは行きましょう」
「…ええ」
司会の人に促されて会場に入ると、目に映るのは競争相手の白銀達。威風堂々と立つ面々にミコは一瞬、気圧されるが唇を噛み締めて堪えた。そんなミコに鷺宮は歩み寄ると耳打ちする。
「顔が強張ってるよ。深呼吸してリラックスしよう」
「はい。すーはー、すーはー。…ふう、もう大丈夫です」
「うん。その調子で行こう」
鷺宮の助言を素直に実行し、ミコは平常心を取り戻した。その直後、壇上に立った司会が公開演説の開始を宣言した。そして司会は鷺宮にミコの応援演説をする様に声をかけた。早くも訪れた自分の出番に流石の鷺宮も緊張するが、すぐに深呼吸して落ち着きを取り戻し、鷺宮は壇上へ向かった。
壇上に立つと、当然ながら会場にいる生徒の視線が集中する。これ程の視線は鷺宮も初めて味わう体験だ。しかし、多少なりとも場数を踏んでいる鷺宮は慌てる事無く、一呼吸おいて演説を始めた。
「こんにちは。私は鷺宮璃奈と言います。本日、生徒会選挙に立候補した伊井野ミコさん。彼女はお世辞にもまだ経験が浅く、これといった実績もまだありません。故にそういう理由で皆さんは彼女が生徒会長になる事に不安はあると思います。だからといって、実績や経験が無いからと彼女の道を阻むのは私は違うと思います。誰しもが最初は知らない事が多いのは当然です。だからこそ、彼女に出来る事もあるのだと感じて私は伊井野さんに協力しています。それに彼女が掲げる理念は、今の学園に無いものを齎してくれると信じています。しかし、それを成すには皆さんの協力が必要です。どうか…伊井野ミコに清き一票をお願いします。私からはこれで以上となります」
応援演説を終えて、鷺宮は壇上から去ると司会が次にミコを指名した。遂に来た出番にミコも緊張するが、鷺宮と同じく深呼吸して壇上に赴いた。そこで目にしたのは無数の視線…。しかし、不思議とミコはこの視線に恐怖心を感じなかった。今なら自分は面と向かって話す事が出来る。ミコは手にした用紙に見ながら口を開いた。
「皆さん。どうも初めまして! 今回、生徒会選挙に立候補した伊井野ミコです。先の応援演説で皆さんがご存じの通り、私には胸を張れる実績はありません。それでも私が此度の選挙に出た理由。それは今の秀知院を、昔の伝統ある学園にしたい。その一心で出馬を決意しました。皆さんは今の秀知院をどう思いますか? 時代が変わるに連れて、生徒達の見た目も変化している事が、残念だという声が世間の人達から上がっています。無論、時代によって今を生きる人達が変わるのは当然の流れです。しかし、この学園で勉学に励んでいた先輩達は、そう思わないのが現実です。厳しい言葉になりますが、率直に言うと浮ついていて情けない。そういう声が殆どです。皆さん、そんな風に思われてどう感じますか? 私は非常に悔しいと思います。真面目にやっていても、見た目が昔と違うからと勝手な風に思われる。そんなレッテルを貼られて悔しいと思いませんか? 話が逸れましたが、此処で私が言いたいのは、昔の伝統ある学園に戻る事で、今を生きる私達も昔の先輩達に劣ってはいないということ。それを世間に証明したい。勿論、皆さんの個性や自由を阻害するつもりはありません。しかし、今この時…緩んだ規律を立て直し。昔に負けない秀知院を築いていきたい。この目標を実現するには皆さんの力も必要です。長くなりましたが、どうか私に皆さんの力を貸してください。私から言いたいことはこれで全てです。ご静聴ありがとうございました」
ミコが演説を終えて頭を下げると、拍手の音がミコの耳に入ってきた。それは一つ。また一つと増えていく。拍手を送る人こそ少ないが、ミコの演説に共感を覚えた人がいる何よりの証明であった。ミコは自分を応援してくれる生徒達に再び頭を下げて、壇上から降りていく。
続いて行われたかぐやの応援演説、そして白銀の演説では多くの生徒達が彼らを称賛した。それは鷺宮やミコの時とは比べ物にならない。この段階で自分達が負けたと二人は悟ったが、自然と悔しいという感情は浮かんで来なかった。今、二人にあるのは最後まで全力でやり切った達成感だった。
こうして波乱の生徒会選挙は幕を閉じた。
公開演説から一週間後、選挙の結果が発表された。案の定、当選したのは白銀御行。ミコも白銀に続いて票を集めていたが、あと一歩及ばずに敗れてしまった。だが、それでもミコに落ち込んだ様子はない。その後、白銀を筆頭にいつものメンバーと新たにミコを加えた生徒会が始動した。
【今回の選挙戦 選挙に負けたが目的達成に近づいた伊井野の勝利】
新生徒会が始動して半月が経った頃、鷺宮が生徒会に向かう途中で事件が起きた。
「あ、かぐやさん。こんにち…「会長が”ヤリチン”だったなんてぇぇぇぇぇぇぇぇ。私、信じてたのにいいいいいい」ええ!? ど、どういう事なの?」
突如、おかしな事を叫びながら走り去るかぐやに鷺宮は困惑した。聞き間違いでなければ、かぐやは”ヤリチン”と言っていた。普段なら絶対に口にしない単語を何故、かぐやが叫んでいたのか。考えても答えは分からない。しかも事件はこれで終わらず、かぐやが去ってから数十秒後。
「襲わないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「はぁ!? 今度は伊井野さんまで」
今度はミコが泣き叫んで鷺宮の傍を走り去って行く。その様子は明らかに異様でとんでもない事態が、生徒会室で起きたと鷺宮は理解した。すぐさま生徒会室に向かえば、そこでは白銀が項垂れて何やらぶつぶつと呟いている。この様子からして、先程の事に彼が関わっているのは一目瞭然だった。
「さ、鷺宮…。これは…違うんだ。俺は何もしてないぞ」
「とりあえず、黙って。話は聞くから部屋に入りなよ」
「あ、ああ。分かった」
捨てられた子犬の様な目で見つめる白銀に対し、鷺宮は冷たい態度で対応した。内心では先の二人が変な勘違いをしてると思う反面、本当に何かやらかしたのではと警戒心を露わにする。真実がどうであれ、まずは白銀の話を聞かない事には判断が付かない。鷺宮は白銀を伴って部屋に入った。
「…話を纏めるわよ。初めにかぐやさんがパンツの事を聞いてきて。その質問に白銀くんが答えたらかぐやさんが変な誤解をした。その誤解を解こうとした時に伊井野さんがやって来て、更に誤解を招いてしまった。これで合ってる?」
「ああ。概ねその通りだ。しかし、誤解とはいえ…俺の言い方も悪かった様でな。俺にも非がある」
白銀の説明を聞いた鷺宮は、余りにもくだらない理由に頭を抱えた。話を聞く限り、騒動の原因はかぐやにある。しかし、この話の中に鷺宮は一つの疑問を抱いた。それはかぐやが白銀に言い放った”ヤリチン”発言。あの性知識に疎い彼女が何処でその言葉を覚えて来たのか。当初、目の前にいる白銀が教えたのかと思ったが、冷静に考えてそれはあり得ない。それに清廉潔白を素で行くミコも、その様な言葉を他人に教えるとも考えられない。だとすると、怪しいのはこの場にいない石上と藤原。必然的にこの二人が怪しいと鷺宮は睨んでいた。
「とりあえず、今は二人の誤解を解かないとね。周りに言い触らしたら、折角の生徒会がまた解散なんて事になりかねない。白銀くんは此処で待ってて」
「俺も行かなくていいのか? 当事者だぞ?」
「誤解とはいえ、相手は泣いてたからね。一緒に来ると余計に拗れるよ。何もしない方がいい」
「そうだな。すまんが、あの二人の事を頼む」
「うん。任せておいて」
かぐや達の誤解を解くべく、鷺宮は行動を開始する。しかし、二人を探し出すのは容易ではない。それに時間を掛けては、あの二人が誰かに今回の騒動を話す可能性も高い。そこで鷺宮は早坂にかぐやを任せ、自分はミコの誤解を解く事にした。早坂に連絡を入れた後、鷺宮は風紀委員の部屋に足を運んだ。彼女がまだ学園に残っているのなら、そこへ向かうだろうと予想していた。
「ごめんね。今、伊井野さんを探してるんだけどさ。此処に来てるかしら?」
「ああ~鷺宮先輩。はい。ミコちゃんなら来てますよ。良かったら中へどうぞ」
「そう。じゃあ、お邪魔するわね」
鷺宮の予想通り、ミコは風紀委員の部屋にいた。大仏もいる事から、恐らくは先程の出来事を相談していたのかもしれない。だとしたら、丁度いいタイミングで来た様だ。此処でミコの誤解も解く事が出来るし、妙な噂が広まるのも阻止できる。
「あの…鷺宮先輩は何をしに来たんですか? 今、私は白銀会長を弾劾する書類を作成中で忙しいんです」
「その事なんだけど…まずは話を聞いてくれないかな? どうも誤解をしてるようだから、それをハッキリしておきたいのよ」
「誤解? そんな訳ありません。私は生徒会を訪れた時、四宮先輩が白銀会長を非難してるのを見ました。しかも…私にも迫って来たんですよ。その…く、黒のパンツが好きなんだって言いました。それについてはどう説明するんですか?」
「落ち着いて。ちゃんと説明するからさ」
憤慨した様子で言う言葉に鷺宮も言葉が詰る。そういえば、白銀に話を聞いた際に彼が言っていた言葉を思い出した。あれはこの事を言っていたのかと、鷺宮は再び頭を抱える。面倒だと思いながらも、鷺宮はミコに事情を説明した。
「白銀会長が私に行った事は、私の誤解だと分かりました。それでは四宮先輩のヤ、ヤリチン発言はどう言う事なんですか? 意味も無くあんな低俗な言葉を人に言ったりしないですよね?」
「それも深い訳があるのよ。かぐやさんに余計な事を教えた人がいたようなの」
「余計な事を教えた? まさか、石上の仕業ですか!! あいつならやりそうです」
「確かに怪しいけど、決め付けるのはやめなさい。第一、石上くんはかぐやさんを怖がってる節があるし、それはまず無いわね」
何故か、石上に異様な程に敵対心を燃やすミコを鷺宮は諌めた。先に述べた通り、件の石上はかぐやに恐怖心を抱いている。そんな愚かな事を石上はしないと断言できる。となれば、一番怪しいのは藤原だ。それに以前にも藤原はかぐやに悪戯をした前科がある。藤原が此度の騒動を起こした張本人と見て間違いない。
「石上じゃないなら、誰がやったんですか? もしや鷺宮先輩の仕業とか…」
「何でそうなるのよ。てか、本人の前で良く言うわね」
「ごめんなさい。私が悪いの認めるので殴らないで…」
「殴るかぁぁぁぁぁっっ!! 一体、人を何だと思ってるのよ」
頓珍漢な事を口走るミコに堪らず鷺宮も叫んでツッコむ。しかし、此処で思わぬ不幸が鷺宮を襲う事になる。二人に気を使って、部屋を出ていた大仏が最悪なタイミングで戻ってきた。
「鷺宮先輩…。ミコちゃんを殴ろうとしたって本当ですか? 事と次第に因っては私も本気で怒りますよ」
当然、事情を知らない大仏は親友のミコに鷺宮が暴力を振るおうとしている。そう思った彼女は鋭い眼差しで睨み付ける。その迫力や凄まじく、かぐやの視線よりも恐ろしいと鷺宮は感じていた。そして何よりも厄介なのは、大仏が完全に誤解している事である。温厚な人間が怒ると怖い。この言葉を鷺宮は生まれて初めて実感していた。
その後、一時間による説得の末。何とか大仏の誤解を解くに至ったが…精も根も尽きた様子で項垂れていた。
【本日の勝敗 他人の誤解を解こうとして、己の誤解を招いた鷺宮の敗北】
此処まで読んでくれてありがとうございます。
原作では白銀の手を借りて演説を行ったミコちゃんだけど、この作品では己のトラウマに向き合う展開にしてみました。
可愛いミコちゃんもいいけど、凛々しいミコちゃんも最高ですよね~。
次回は日常回を執筆予定です。もし宜しければ、感想や評価の方も頂ければと思います。
最近は暑い日が続いています。読者の皆さんも体調にどうかお気を付けて。