今回、一部の話を前編と後編に分けてます。
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「あの~。ちょっと相談したい事があるんすけど、聞いてくれますか?」
「…良いだろう。しかし、俺達も忙しいから手短に頼むぞ」
最早、生徒会の恒例行事となっている翼の恋愛相談。今回も彼はある悩みを抱いて生徒会を訪れた。これに部屋にいた白銀達は顔を顰める。珍しい事に恋バナに関心のある藤原でさえ、嫌そうな表情を浮かべていた。今までの経験から今回も碌でもない相談に違いないと一行は思っていた。しかし生徒会の立場上、翼の話を聞かざるを得ない。翼の前に腰掛けた白銀は悩みを打ち明ける様に促した。
「実は…先日、渚と喧嘩したんです」
「よっしゃーー、ざまぁみやがれぇぇぇ! そのまま別れろぉぉぉ!」
「待て石上。その結論はまだ早いぞ。それにざまぁと言うのはやめとけ。後々、拗れると面倒だ」
「喧嘩と言ったけど、具体的に何があったの? 私としては、此処に相談するより柏木さんに謝った方が手っ取り早いと思うわよ」
喧嘩したと聞いて、石上が容赦なく本音をぶちまける一方、珍しく鷺宮が翼の話に耳を傾ける。本来であれば、面倒臭いという理由から自ら関わろうとしない。だが、今回は相談内容が意外と真面目なため、翼に手を貸そうという気持ちが生まれていた。
「幾つか思い当たる節がありますけど…。どれが原因なのか分からないんです」
「そうですね~。此処にはラブ探偵チカもいますからね。ささっと解決してみせます」
「まあ、何にせよ。原因を突き止めるには話を聞くしかないわね。嫌な事だろうけど、話してみてよ」
いつの間にか、藤原もやる気になっていて鷺宮はそれに不安を抱くも話を進める事にした。翼も鷺宮の言葉に頷くとぽつぽつと喋り始める。
「これは一週間前の事で僕がラインのアイコンを猫に変えたんです。そうしたら、渚は不機嫌になったんですけど…これは何故ですか?」
「え~。それだけで怒ったんですか!? 柏木さんが猫嫌いだったとか?」
「いえ。渚は普通に猫に触るから無いと思います」
「もしかして、そのアイコン。二人で写っていた奴じゃないですか?」
「ああ。確かに渚とツーショットの奴だったよ」
翼の話に白銀達は困惑の色を隠せない。アイコンを変えた程度で怒る柏木の心理は白銀は勿論、同性の鷺宮と藤原も理解が出来ない。しかし、石上はある事に気付いて翼に質問をした。突然の事に戸惑う翼だが、素直に質問に答えた。
「どう見てもそれが原因ですよ。大方、アイコンを変えて怒ったのも、自分が彼女だと周りに隠している様に思ったからでしょう」
「成程。言われてみると…そんな気もします」
「凄いな石上。お前がそこまで女心に詳しいとは知らなかったぞ」
「単純な事ですよ。まあ、ウミガメのスープ問題と思えば簡単でした」
「じゃあ、この場合はどうですか? これは三日前の事です。教室で渚が急に鷺宮さんが僕に告白して来たらどうする?と聞い来たので、少し悩んでから渚と答えたら不機嫌になったんです。これは何故でしょう?」
「そんなの当たり前でしょうが!! 第一、彼女の前で悩むのがおかしいのよ。それに私が貴方に告白する事は天地がひっくり返ってもないわね」
翼の問いに鷺宮は怒りを滲ませて言い放った。やはりこいつに関わると碌な事が無い。容赦なく、突き放す鷺宮の言葉に些か傷付いた翼であるが、これ以上何かを言おうものなら恐ろしい結末が待っている。本能でそう悟った彼は次の質問を繰り出した。
「で、では…これはどうですか? つい昨日の事ですけど、渚とゲームセンターに行った時の事。僕はカッコいい所を見せようと、渚と対戦してボコボコにしたら彼女は怒って帰っちゃったんです。一体、何故でしょうか?」
「「ボコボコにしたからだろうがぁぁぁぁっ!!」」
石上と鷺宮は息を揃えて翼に叫んだ。余りにもばかばかしい話に最早、我慢がならないと詰め寄る二人を白銀と藤原が必死に止める。結局、白銀はこの状況では相談を続けるのは無理があると判断し、翼に帰るように促した。それは翼も分かったのか、逆らう事無く生徒会室をあとにした。
「はぁ、はぁ。会長、アイツ…一体、何なんですか? 正直、あそこまで馬鹿な奴は見た事ないですよ」
「はぁ、はぁ。全くよね。今度、相談に来たら絶対に追い返してよ。もう関わるのは勘弁だわ」
「う、うーん。そうだなぁ。今までは許容してきたが、流石に俺も今回ばかりは面倒だと思っている」
「そうですねぇ。当初は真面目な相談だったのに、途中から変な方向に話が逸れてましたからね」
「ああ。今度来た時は断るとしよう。それに生徒会が請け負う相談についてもルールを変えないとな。悩みを聞いて、深刻な話じゃない限りはすぐに帰ってもらう事にする」
憤る石上と鷺宮の意見に白銀と藤原も頷いていた。ふとした事から始まった翼の恋愛相談。恋が成就してからは只の惚気や自慢話が展開される様になっていたのだ。流石の白銀も今回は嫌気が差した様で今度は断ると明言した。それに鷺宮は心底ホッとした様子で息を吐く。何だかんだで大概、自分が割を食っている。今後、それが無くなるのは鷺宮にとってもありがたい事だ。
放課後。鷺宮が帰ろうとした時、柏木が声をかけてきた。
「私に相談ねぇ。それって彼氏の事だったりする?」
「ええ。この事で頼れる人は少ないからね。話、聞いてくれないかな?」
何用かと事情を聞けば、柏木は鷺宮に相談したい事があるという。その言葉に鷺宮は昨日の事を思い出す。
(まさか二日続けて相談を受ける羽目になるとは…。はあ、多分昨日の事なんだろうなぁ。大方、私が翼くんに冷たい態度を取った事か、それとも改めて手を出すなと釘を刺しに来たのかな? どっちにしろ面倒な事しかない。気が進まないけど、話を聞かないと余計に拗そうだ)
「良いよ。じゃあ、場所を変えて話そう」
「ありがとう」
中庭にやって来て適当なベンチに腰を下ろすと、鷺宮は柏木に尋ねる。
「やっぱり相談って、翼くんの事?」
「うん。最近、私ってば…彼に我儘を言う事が多いんだけどね。その事で悩んでいるの」
「我儘と言っても、別に無茶を言ってる訳じゃないんでしょ? だったら、余り悩む必要も無いと思うけどね」
「そうじゃないの!! 私…ちょっとした事ですぐ怒るし、この間だって、私が変な質問しておきながら返答に詰まった彼に怒ってしまった。何だか嫌な性格になった気がするの」
柏木の悩みとは、翼に対する自分の行いであった。それに鷺宮は気にするなと言葉をかけるが、柏木は否定する。どうやら、鷺宮が思う以上にこの問題は根が深いらしい。迂闊な事を言えば、柏木を卑屈にさせるだけだ。掛ける言葉を慎重に模索しながら、鷺宮は柏木を落ち着かせようと試みる。
「とりあえず、落ち着いて。それに変な質問というのも教えてくれないと分からないもの」
「そうね。彼って、いつも優しくて私の言う事を何でも聞いてくれる。だから、ちょっと意地悪のつもりで鷺宮さんから告白されたらどうするの?って質問をしたのよ」
「成程ね。それで翼くんはどう返事をしたの?」
柏木の言う変な質問。案の定、柏木の口から出た質問は昨日、翼が言った事であった。正直、二度と聞きたくない話題であるものの。柏木の悩みを解消する為には聞かざるを得ない。何とか表情に出ない様、必死に堪えながら鷺宮は続きを促した。
「勿論、断ると言ってくれた。でも‥返事をするまで何処か悩んでいた彼の様子に腹が立って、私はおこっちゃったんだ。自分から聞いたのに酷いよね」
「ううん。そんな事は無いよ。それは彼女がいるのにすぐ答えず、悩む翼くんが悪いわ」
「そ、そうよね。それと鷺宮さん。彼を悪く言うのは止めて。これは私に非があるし、彼には非が無いから」
「え、ええ。ごめんなさい」
柏木に賛同する意思を見せるべく、翼を下げる言い方をした鷺宮に柏木が噛み付いてきた。その態度に鷺宮は苛立ちを感じたが、此処で喧嘩するのは愚の骨頂。湧き上がる感情を押し殺して、鷺宮は謝った。
「本当はさ。彼には私の事を怒ってほしいの。だって、そうでしょう? いくら彼女だからって、無理難題を言われても笑って許す彼に苛立って、更に無茶を言ってしまう。そんな状況が続いて、どんどん私が嫌な性格になっていくのを感じるの」
「それだけ、大事にされてるという事でしょう。別に気する必要もないと思うよ」
「そうじゃないの!! 鷺宮さんも知ってるよね? 彼の見た目が変わった事。あれも私の我儘を聞いたからなんだよ。その事で彼は周りから冷たい目で見られてるの。元はといえば、全部私の所為なのに彼はちっとも怒らないんだもん」
「…そう。辛いわねぇ」
此処に至り、鷺宮は言葉を掛ける事を止めた。下手に否定したり、肯定すれば怒ったり落ち込む柏木が非常に面倒になったからだ。それから陽が沈むまで彼女の愚痴が延々と続く事になる。
「はぁーーーー。スッキリしたぁ。思ってる事を全て吐き出したら、気持ちが軽くなった」
「……。それは良かったわね」
「ありがとう。鷺宮さんも何かあったら、遠慮なく相談してね。私も話を聞いてあげるから。それじゃあまた明日」
「ええ。また明日」
言いたい事を散々言って、柏木は軽い足取りで去って行った。彼女の姿が見えなくなるまで見送った後…。
「~~~~~~っっ!!!」
声にならない叫びを上げて、鷺宮は怒りを発散する様に地団駄を踏む。その行為を暫し続けた後、虚しくなった鷺宮は暗い表情で帰路に就いた。
【本日の勝敗 二日連続で面倒くさい男女の相談に巻き込まれた鷺宮の敗北】
「どーーん。ミコちゃんの歓迎会を始めますよ~」
「あ、ありがとうございます」
この日、鷺宮達はミコの歓迎会を開催していた。本当ならもっと早く開催する予定だったのだが、風紀委員を兼任しているミコの都合が付かず、今日まで延期となっていたのだった。乾杯の音頭を藤原が取った後、彼女はある話題を持ち出した。
「さて、今回は男子禁制の女子会も兼ねてますし。早速、恋バナを聞いてみましょう。最近は皆さんも気になる人が出来たんじゃないですか~?」
「いきなりその話はどうなのよ? いくら女子会とはいえ、早々にする話じゃないでしょ」
「私も璃奈さんと同感ですね。もっと、別の話題にしませんか?」
藤原の話に否定的な態度を見せたかぐやと鷺宮。ミコも口には出さないが、賛成してる様には見えない。しかし、この程度で諦める藤原ではない。当然、二人が反対する事も想定しており、否が応でも巻き込む策も用意していた。
「あらあらぁ。もしかして、お二人は未だに気になる異性がいないんですかぁ~。それでしたら話すのは無理でしたね。気が利かなくてごめんなさい」
「いいえ。別にそういう訳ではありませんよ」
「おお~。だったら、教えて下さいよ。同じ女同士、隠す事は無いじゃないですか」
「だからこそよ。第一、その手の話題って、同性でも言いたくないわ」
藤原の挑発に堪らず反論する二人だが、すぐに冷静になって話をはぐらかす。だが、一度見せた隙を見逃す訳もなく、藤原は更に攻め込んでいく。
「成程。そういう事なら、三人で一斉に言いませんか? 私達の秘密を共有する訳ですし、これならフェアでしょう」
「はぁ。仕方無いですね。それならば、特別に教えて上げます」
「分かったわ。但し、直前で言わないのは無しだからね」
「勿論ですよ。でも、言い辛いのならイニシャルで構わないですよ。私は皆と楽しみたいだけで、嫌がらせをしたい訳じゃないですから」
上手い具合に乗せられて、結局は恋バナをする事になってしまった。若干、嫌そうな顔をする鷺宮達を見て、流石の藤原も悪ノリしたと感じたのか。バツが悪そうな顔で名前は伏せても良いと告げた。無論、二人も藤原に悪意があるとは思っていない。何かと暴走する彼女であるが、人を傷付ける行為をする人でないのは理解している。
「そんな事は知っていますよ。中学からの付き合いですもの」
「まあ、私も短いけど…藤原さんが優しいのは分かってるよ」
「うう~。そんな風に思ってくれてたんですねぇ。ありがとうございますぅ~」
「ほ、ほら。それよりも早く済ませよう。さっきから伊井野さんが空気になってるし」
「そうですね。主役を放置して私達が盛り上がっては本末転倒ですよ」
感極まって涙目になる藤原に照れた様子で鷺宮は話を逸らす。滅多に見せない友達の姿にかぐやも笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
「分かりました。じゃあ、三人で同時に言いますよ」
合図は藤原に任せて、鷺宮達はそれぞれが想う相手を思い浮かべる。鷺宮の脳裏に真っ先に浮かんだ相手、それは白銀御行の顔。本人は意識してなくても、深層心理では惹かれている鷺宮にとって、至極当然の事であった。しかし、それを口にする訳にはいかない。何故なら、彼を好いている相手はすぐ隣にいるのだ。この事実を知られたら厄介な事になるのは明白。以前よりも仲良くなった今は酷い事をされないだろうが、険悪になるのは避けたい。そこで思い付いたのが、別の相手を上げる事だった。幸い、名前を伏せてもいいという藤原の言葉に甘える事にした。
「「「私の気になる人はSさんです!!!」」」
しかし現実は小説よりも奇なり。まさか三人共が同じイニシャルを告げるとは思っていなかった。
「ええ!? 皆して同じイニシャルって…どういう事なの?」
「へぇ~。つまり私達は同じ相手が好きという事ですねぇ」
「……」
この状況に鷺宮は困惑し、藤原は楽しそうに笑う中。かぐやだけは無表情で何も言わない。この時、かぐやは非常に慌てていた。その為か、鷺宮と藤原がアイコンタクトをしていた事に気付いてはいなかった。これが後に事態をややこしくするとは知らずに…。
(何という事なの? まさか、全員が同じイニシャルを口にするなんて……。一体、誰の事を指しているのかしら? いえ、該当するのは一人しかいない。よもや藤原さんと璃奈さんの好きな人は会長だなんて思ってもいなかった。どうしよう。私はどうしたらいいの? 友達と気になる異性。私はどっちを選んだら良いのか分からない)
だが、この時かぐやは一つ失念していた。同じイニシャルでも該当するのが白銀以外にいる事。それに好きな人が必ずしも異性であると限らない事だ。当然、その事実に鷺宮と藤原は気付いていた。そう。鷺宮と藤原が口にしたSとはかぐやの事である。
そうとは知らないかぐやを余所に藤原が更なる爆弾を投下する。
「そのSさん。普段はクールですけど、時々可愛い所を見せるんですよ。私はそれが好きなんです~」
「奇遇ね。私が言ったSさんも似たような一面があるよ」
「へ? もしかして先輩達が好きな人って、同じ人なんですか?」
「それは秘密ですよ~」
「そうね。この手の話は秘密を纏うから面白いのよ」
「…そういうものなんですか? 私には分かりません」
鷺宮達の会話に今まで傍観していたミコが会話に混ざる。真面目なミコも年頃の少女であり、恋バナにも興味を持っていた。しかし、聞かれた所で素直に答える程、二人も優しくはない。ミコの質問をのらりくらりと躱す所は先輩の風格を纏っていた。
(そういう事ですか。二人は私を差し置いて、密かに会長を狙っていたんですね。しかも二人は私にその事を隠していた。思えば、以前にも藤原さんは会長とこそこそやっていましたね。それに璃奈さんも会長を見る目が優しくなっていた。先程の会話からして、あの二人は何かの協定を結んでいる様にも取れます。これは探りを入れてみた方がいいですね。何とかして、二人の秘密を聞き出さなければ)
思い立ったら即行動。かぐやは平静を保ちながら、二人に話しかけた。
「盛り上がっている様ですが、お二人は本当にその人が好きなんですか?」
「…どうしたの? いきなり怖い顔をしてさ。第一、好きじゃないなら言わないでしょうに」
「そうですよ。私は本当に大好きですよ~」
かぐやの問いに二人は何処吹く風で返事を返すも、その答えに納得がいかないかぐやは更に問い詰める。
「茶化さないで!! その人に対する二人の想いの強さはどれ程ですか? その人の為に二人は命を捨てる事が出来ますか? しっかり答えてください」
「…そうね。私はその人の為に命は捨てられない。だけど、命を懸けても良いくらい大切な存在よ」
「私も鷺宮さんと同じです。私にとって、その人はかけがえのない存在なんです。それくらい私はその人が大好きですよ」
面と向かって気持ちを吐露する二人にかぐやは気圧された。嘘偽りのない事は二人の目を見れば、一目瞭然であった。しかし、此処で引いてしまえば敗北は必至。そうなれば、かぐやも自分の気持ちを打ち明けないとならない。もし二人から先程の問いをされた場合、自分は二人の様に面と向かって答える事が出来るだろうか? 自問自答してみると、その言葉を口にする度胸がかぐやには無かった。この事実にかぐやは落ち込んだ。二人に責める様な言い方をしておいて、いざという時に自分は逃げる卑怯者。こんな女が白銀に相応しいとは言えないだろう。
「そうですか。だけど、私はそう思えませんね。第一、その方はどうせ碌でもない人でしょう? 大方、見栄っ張りで世間知らずな愚か者ですよ」
負の感情に囚われた事でかぐやは、つい相手を否定する言葉を言ってしまった。その事にしまったと思ってもあとの祭り。その言葉を聞いて二人も唖然とした表情を浮かべていたが、二人の顔に怒りの感情が浮ぶのを見て、かぐやは目を逸らしてしまう。
「ねえ…今の本気で言ってるの? だとしたら、私も黙っていないよ」
「そうですよ。私はその人をそんな風に思った事は一度もありません。取り消して下さい」
「何で怒るんですか? 全部、本当の事ですよ。私は二人の事を思って…「もう黙って!!」り、璃奈さん!? 一体、何を…」
こうなったらやぶれかぶれと更に否定の言葉を口にするかぐやだが、鷺宮の行動に口を噤んだ。驚いた事に鷺宮はかぐやに抱きついていた。思わぬ出来事に混乱する中、藤原もかぐやに抱きつくと思いの丈を吐き出した。
「そんな悲しい事を言わないで下さい。私達がかぐやさんを嫌う筈無いじゃないですかぁ~。どんなに悪い一面があったとしても、それをひっくるめて全部好きだから、私達はかぐやさんの傍を離れる事はぜーーーったいにありませんからね!!」
「そうだよ。貴女がそんな事を言ったら、命を懸けると断言した私が馬鹿みたいじゃないの」
「へ? あ、あの…お二人は一体全体、何を仰っているんですか?」
此処に至って、何やらすれ違いが生じている事に気付いたかぐやは小さい声で二人に尋ねた。それによって、鷺宮達も自分達が妙な勘違いをしている事に気付く。
「そう。つまり、二人は予め結託していて。私に気になる異性を言わせようとした訳ですね」
「「はい。そう言う事です」」
事情を聞いて、かぐやは深い溜息を吐くと呆れた顔で二人を見つめる。その視線が居たたまれないのか。かぐやの視線から逃げる様に目を逸らした。
「全く、油断も隙もありませんね。そういう姑息な真似は今後やめて下さい」
「「はい。分かりました」」
厳しい説教の後、鷺宮達は反省した様子でかぐやの言葉に頷いた。
「まあ…色々と勘違いはありましたが、私も二人の事が大好きですよ」
「何か言った?」
「いいえ。それよりも歓迎会の続きをしましょう。いい加減、伊井野さんが可哀想ですからね」
「ああ!? そうでしたぁ~。ミコちゃんごめんねぇ」
「い、いえ。私は気にしてません。それよりも三人が仲直りして良かったです」
何やら小声で告げたかぐやの言葉が気になり、鷺宮が聞き返すがかぐやは素知らぬ顔で誤魔化した。無論、藤原もそれは気になっていたが…こうなったかぐやは断固として口を割らないと藤原は知っている。だからこそ、彼女は気付かない振りをしてミコの元へ向かった。
そんな藤原の態度から察した鷺宮も目を瞑る事にした。その後、鷺宮達はミコの歓迎会を再開し、女子四人は大いに楽しんだ。
【本日の勝敗 最後に素直になったかぐやの勝利】
いつもの様に生徒会の活動に勤しむ中。白銀はかぐやの髪に付いた糸に気が付いた。しかし、本人はその事に気付いた様子はなく、周りも気付いておらず指摘する者は誰もいない。気付いた以上、教えない訳に行かず、白銀はかぐやにそれを伝えた。
「四宮、髪に糸が付いてるぞ」
「え? 何処でしょうか?」
「動くな。俺が取ってやろう。よし、取れたぞ」
白銀の指摘で漸く気付いたかぐやは、糸を取ろうとするも中々取れないでいた。それに見兼ねた白銀はかぐやに歩み寄ると自ら糸を取り除く。
「ありがとうございます。私ったら、駄目ですね。こんな事にも気付か…ないなん…て」
白銀にお礼を言った直後、かぐやは静かに倒れてしまった。突然の事で呆然とする一同だが、一早く我に返った鷺宮が倒れたかぐやに駆け寄って声をかける。
「かぐやさん、大丈夫!? 石上くん救急車呼んで!! それと藤原さんと伊井野さんは保険医を連れて来て。白銀くんはかぐやさんをソファーに運ぶの手伝って。なるべくそっとね」
「ああ。分かった」
鷺宮はテキパキと全員に指示を出し、周りもそれに従った。白銀は辛そうにするかぐやを気に掛けながら、傍で介抱する鷺宮に視線をやる。突然とはいえ、何も出来なかった自分に変わり、冷静な態度で適切な行動をした鷺宮に感心していた。だが、実の所…一番動揺していたのは鷺宮本人である。
しかし、それを面に出せば周りは右往左往するばかりで事態は悪化していただろう。その事が彼女を冷静にしたのかもしれない。
やがて駆けつけた救急隊員によって、処置が施されてかぐやは搬送される事になった。
「それでは今から最寄りの病院へ搬送します。何方か付き添う方はいませんか?」
「私が付き添います。遠縁ですが、この子は私の親戚ですので!!」
「分かりました。それではお願い致します」
その際、付き添いの人物を問われるが一同は何も言わない。そんな中、鷺宮が付き添いとして同行すると告げる。これに白銀達は困惑する中、鷺宮の口から出た言葉に衝撃を受けた。
生徒会室の窓から運ばれていくかぐやと鷺宮を見つめて、白銀が重たい口を開く。
「鷺宮と四宮が親戚だったとはな…。他の皆は知っていたのか?」
「いえ、私も初耳ですよ。今日まで全然知りませんでした」
「僕も同じです。只、夏以降から親密になっていたので何かあるとは思ってましたけど」
「四宮副会長…。大丈夫でしょうか? 何か凄く辛そうでしたし」
鷺宮とかぐやの話をする中、ぽつりと呟くミコの言葉に白銀達は不安な顔で救急車を見送った。
【本日の出来事 かぐやの救急搬送】
最後まで読んでくれて、どうもありがとうございます。
前書きでも書いた通り。今回、一話で終わる話を今後の展開の為に前編と後編に分ける事にしました。
原作を知ってる方は違和感を感じるかもしれませんが、どうぞご了承ください。
次回は病院回の後編と他二つの話となります。