生徒会庶務は平穏に過ごしたい   作:アリアンキング

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最新話、お待たせしました。



今回は前回の続きから始まります。




第22話 かぐや様は診られたい後編/鷺宮は迫りたい/鷺宮は手を貸したい

 病院に到着後、搬送口では報せを受けた医者達が待機していた。緊急隊員は手慣れた手付きでかぐやを担架に移すと、かぐやの容態を事細かに伝えていく。その様子を静かに見ている鷺宮に一人の医者が声を掛けて来る。

 

 

「君が彼女の付き添いかな? 私は田沼正造という者で当院の院長をしています」

「あ、ご丁寧にどうも。私は鷺宮璃奈です。かぐやさんとは、遠い親戚という事で付き添いました」

「成程ね。事情は分かりました。それでは今よりかぐやさんの精密検査を行いますので、貴女は待ち合い室でお待ち下さい。何、心配せずとも私が全力を持って治療に当たります。ですから、そんな不安な顔をしないで。大船に乗ったつもりで安心してください」

「は、はい。どうか宜しくお願いします!」

 

 

 正造の言葉に鷺宮は安堵した様子で頷いた。その言葉が気休めでない事は、決意に満ちた正造の表情を見れば一目瞭然だった。だからこそ、安心して任せられると鷺宮は心からそう思っていた。

 

 

 

「はぁ、はぁ、り、りっちゃん。かぐや様が搬送されたと聞きました。かぐや様は…あの子は大丈夫なんですか!?」

「今、精密検査の最中よ。院長さんが直々に診てるから大丈夫よ」

「此処の院長…。名医と名高いあの人ですか。だとしたら、安心ですが…」

 

 

 息を切らして駆け付けた早坂は、鷺宮を見るや肩を掴んでかぐやの事を訊ねてきた。余程、心配だったのだろう。今の彼女に普段の冷静さは微塵もない。しかし鷺宮は動じる事なく、事の次第を順を追って説明すると早坂は安堵した様子を見せる。どうやら先程の院長は、世界に名を連ねる名医らしい。平静を取り戻したのはそれが理由なのだろう。

 

 

 だが、それでも早坂の表情は優れない。名医が診ているのに関わらず、何処か不安を感じさせる早坂に鷺宮も不安を抱く。もしや、かぐやの体に何か問題があるのだろうか? 思えば、令嬢とはいえ、名医である院長が立ち合うのは不自然だ。鷺宮の脳裏に最悪の未来が過って、嫌な汗が顔を伝うのを感じていた。

 

 

 駄目だ。こんな事を考えてはいけない。脳裏に浮かぶ最悪の出来事を鷺宮は強引に振り払う。しかし、一度でも想像した最悪の未来はそう簡単に消えてはくれない。そんな鷺宮の不安を感じ取ったのか。傍にいた早坂が鷺宮の手を握ると、まるで子供をあやす様に微笑みかける。

 

 

 

 その姿に鷺宮も冷静さを取り戻した。そうだ。何も不安なのは自分だけではない。小さい頃から仕えていた早坂の方が何十倍も辛い筈だ。鷺宮も自分は大丈夫と言わんばかりに早坂の手を握り返すと、同様に微笑みを浮かべてみせた。

 

 

 

 その時、検査が終わったのか、一人の看護婦が医師の元へ来るように告げた。それに従い、二人は看護婦の後を付いていく。

 

 

 

「あっ、早坂に璃奈さん。ご迷惑をお掛けしてごめんなさい」

「もう大丈夫なんですか? 無理はしないで下さいね」

「そうよ。急に倒れて、苦しそうだったし……」

「…今は何ともないわ。だから、そんなに心配しないで大丈夫よ」

 

 

 看護婦に案内された部屋では、目を覚ましたかぐやが座っていた。部屋に入ってきた鷺宮達に気付いたかぐやは、小さい声で二人に声をかけた。意識が戻った事に安心する一方、まだ本調子でない様子のかぐやを心配するなと言うのが無理な話だ。しかし、受け答えがしっかりしてる所を見るとかぐやの言う通りなのだろう。三人の会話が終わる頃を見計らって、正造が口を開いた。

 

 

 

 

「それで四宮さんの病状ですが、彼女の話を伺って答えが出ましたよ」

「…やはり何処か悪いのですか? 今日、倒れた時…心臓が凄く痛くなったんです。どんな結果でも受け止める覚悟はあります。ですから、包み隠さず教えて下さい」

 

 

 自分の病気が何であれ、現実を受け止めるとかぐやは告げる。内心、不安で押し潰されそうであったが、逃げられない運命なら立ち向かう方がいい。そう思っての事だった。

 

 

「分かりました! 貴女がそこまで仰るなら、私も隠さずお伝えしましょう。良いですか? 落ち着いて聞いてくだささい。四宮さんの病気は恋の病という物です」

 

 

 かぐやの覚悟を知って、正造も全てを打ち明ける覚悟を決めた。そして告げられた病気の名前にかぐや達は唖然とした。暫しの間、黙っていたかぐやだが、意を決して正造に問い掛ける。

 

 

 

「ええと、今のは何かの冗談でしょうか? それとも世界にはそういう心臓病が存在するという事ですか?」

「いいえ。冗談でもなければ、その様な病気は存在しません。本当に恋の病で四宮さんは当病院に運ばれた訳です」

「じゃあ何ですか!? 私は恋煩いのドキドキで倒れて、救急車で運ばれたという事ですか」

「はい。その通りです。自分も三十年間、医師を続けていますが…この様なケースは初ですので、正直驚いています」

 

 

 恋の痛みで病院に搬送される。現実では起こり得ない出来事にかぐやは、感情を剥き出しにして反論するも正造は真顔で現実であると言葉を返した。しかし、それに納得出来ないかぐやに正造は落ち着いた様子で諭す様に話を続ける。

 

 

 

「少しお話を整理しましょう。四宮さんは学校で特定の人と接したり、触れたりすると鼓動が早くなる。そして今日は髪に付いていたゴミを取ってもらったら、心臓に痛みが生じて倒れたと…」

「ええ!! そうですよ。きっと、何かの病気に違いありません。もっと詳しく検査して下さい」

「ふうむ。どう聞いても恋の病だと思いますが…。まあ、良いでしょう。四宮さんが望むなら、更なる検査を実施しましょう」

 

 

 

 頑として譲らないかぐやに正造が折れる形で、引き下がった。傍で一部始終を聞いていた鷺宮と早坂は林檎の様に顔を赤くして俯きながら、か細い声で言葉を紡ぐ。

 

 

「かぐやさん。私、外で待っててもいいかな? これ以上、此処にいるのが辛くて…」

「全くですよ。もう耐え切れない。私だって、この病院を使ってるのに二度と来れないですよ。マジ最悪です」

「何よ!! 貴女達は私の近待で友達でしょう。最後まで付き合って!!」

 

 

 居たたまれなくなって、今すぐ帰りたい二人だったが…当のかぐやがそれを許す訳もなく、かぐやの再検査に付き合う羽目になった。

 

 

 

「これは我が病院にある最新の医療機器です。先端技術ですので、費用はそれなりに掛かりますが宜しいですか?」

「ええ。構いません。自分の命に関わる事ですし、それに比べたら安いものです」

 

 

 再び場所を変えて、かぐやは最新の医療機器に体を預けると計測が始まった。最新の機器という事もあり、計測はものの数十秒で終了した。その結果を正造は看護師に訊ねる。

 

 

 

「どうだった? 何処か異常は見つかったかい?」

「いいえ。鼓動や血管も至って正常そのものです。寧ろ、綺麗で健康な心臓ですよ」

「だそうだよ。異常が無くて良かったですね」

 

 

 

 診断結果を聞いて、正造は安堵の顔で言葉をかけるがこの結果にもかぐやは納得せず、反論を口にする。

 

 

 

「そんな筈は無いわ。きっと、心臓に一つや二つくらい穴が空いてるに決まってる」

「だとしたら、君はもう死んでいるよ」

「おかしいわ。会長に触れられた位で倒れるなんて、それは私が会長を好きと認める事になるじゃない」

 

 

 

 かぐやの物言いに流石の正造も呆れの色が滲み出ていた。それに気付かない程、かぐやも節穴ではない。しかし、此処で引き下がれば恋煩いで搬送された初症例として恥を晒す羽目になる。この段階で大分、恥を晒しているのだが好きと言う事を認めたくないかぐやにとっては些細な事である。

 

 

 

「そうだ。その会長くんの写真はあるかな?」

「ありますが…写真を見たくらいで私の気持ちが分かるとでも?」

「うむ。この機器は患者の心拍数も計測可能でね。その度合いで君の気持ちを測る事も出来ます」

 

 

 

 正造の言葉に食って掛かるかぐやだが、堂々とした姿勢を崩さない正造に根負けして写真を見せる事になった。かぐやから携帯を受け取り、記録されている写真に正造は言葉を失くす。何せ、件の写真に写る白銀は猫耳を付けたり、変顔をしていたりと普通の写真では無いからである。

 

 

 

「ほう。何とも面白い子だね。君は彼と付き合いたいと思っているのでは?」

「何を言うんですか!? 私は会長に恋愛感情なんて持ってません。確かに尊敬の念はありますが、あくまでそれだけです」

「あ、今心拍数が急上昇しました。かなり心臓がバクバク言ってますね」

 

 

 

 嘘偽りも最新機器の前には通用せず、無情にもかぐやの心理状態は暴かれてしまう。その現状に早坂は顔を隠して項垂れていた。許されるなら一目散にこの場から逃げたい所であるが、それをしたら残ったかぐやが何を言い出すのか分からない。確実に四宮家の恥を晒す事になるだろう。

 

 

「もうやめて……。これ以上、最新技術であの子の気持ちを暴くのはやめてぇ~」

「とんでもない公開処刑ね。私、明日は皆にどう説明したらいいの? 付き添いの為にかぐやさんが親戚である事も話したと言うのに‥‥」

 

 

 

 隣で鷺宮が何やら不穏な事を呟いていたが、早坂は聞かなかった事にした。あとで事情を聞くにしろ、今はこれ以上の厄介事を増やしたくはない。

 

 

「最近、何か心境が変化する出来事などありました?」

 

 

 

 一時的とはいえ、異常な数値の心拍数を叩き出した事に看護師は内心、驚いていた。その原因を追究する為、かぐやに近しい早坂に看護師は事情を訊ねた。

 

 

 

「実は…先日、意中の彼とキス寸前の騒動があったんです。恐らく、今日もその事を思い出して倒れたんだと思います」

「何それ…? 私、そんな話は一度も聞いた事ない」

「どうしてそれを言うのよ!! 今は関係無いでしょう」

 

 思わぬカミングアウトに鷺宮は茫然とした表情で早坂を見つめる。当然、ばらされたかぐやは怒り心頭の様子で早坂を怒鳴るが、当然ながら一切聞いていなかった。

 

 

 

 その後、何度か検査を繰り返すも異常は発見されず、かぐや達は無駄に高くなった治療費を払って病院を後にした。

 

 

 

 その日の夜。

 

 

「あの医者ったら、相当なヤブ医者ね。ふざけた事ばかり言うんだもの」

「世界有数の名医を捕まえて、なんて事を言うんですか。彼を求める患者が聞いたら刺されますよ」

「こうなったら、次の病院に行くわ。セカンドオピニオンを受ければ、原因がはっきりする筈…」

「かぐや様。それだけはやめて下さい。これ以上、恥を晒す真似は絶対にしないで!!」

 

 

 次の病院に行くと意気込むかぐやの肩を掴み、早坂は必死に止める。その迫力は凄まじく、流石のかぐやも逆らう事が出来なかった。

 

 

 

 翌日、鷺宮がかぐやと一緒に生徒会に訪れると、既に来ていた白銀達が駆け寄ってきた。

 

 

「四宮。もう大丈夫なのか? 昨日の今日だし、無理をしないで帰った方が良いんじゃないか?」

「そうですよ~。それに鷺宮さんも昨日は大変だったでしょう?」

「白銀会長の言う通り、今日はゆっくり休むべくだと私も思います」

「僕も皆に賛成ですよ。これでまた何かあったら大変ですから」

「あ、ありがとうございます。だけど、もう平気なので心配しないで下さい」

「う、うん。私も大丈夫だから気にしないで」

 

 

 昨日の事を根堀り葉掘り聞かれると思いきや、白銀達は二人を労わる言葉を掛けて来る。初めは全てを話すつもりの二人だったが、心配してくる白銀達を前に真実を言える筈もなく誤魔化す事にした。

 

 

 

【本日の勝敗 かぐや&早坂&鷺宮の敗北】

 

 

 

 

 かぐやの急病事件から数日後。白銀とかぐやの関係にある変化が起きていた。

 

 

「おう。四宮、来ていたのか」

「こんにちは会長。すみませんが、今日は用事があるのでこれで失礼しますね」

「ああ。また明日な」

 

 

 白銀が姿を見せたり、話しかけようとする度にかぐやは理由を述べて立ち去ってしまう。当初は体調が優れないからだと思っていた白銀だが、何度も同じ態度を取るかぐやにもしや自分は避けられているのでは?と嫌な想像をしてしまうのは無理も無いだろう。

 

 

 

 無論、二人の変化を鷺宮も感じ取っていた。今日もかぐやと話す事が叶わず、白銀は沈痛な表情で深い溜息を吐いた。

 

 

 

「ねえ、白銀くん。最近は二人とも妙に余所余所しいけど、喧嘩でもしたの?」

 

 

 その様子を見兼ねた鷺宮が白銀に訊ねた。関係ない自分が首を突っ込めば、拗れてしまうう可能性もあるが、ことある毎に傍で溜息を吐かれては堪ったものではない。このままでは他のメンバーにも悪影響を齎して、生徒会の業務に支障が出かねない。それを危惧しての事である。

 

 

 

「ああ。別に喧嘩をしてる訳じゃない。只、俺が四宮に避けられてる事は間違いない」

「かぐやさんに避けられてるねぇ。そうなった理由に心当たりはあるの?」

 

 

 

 避けられていると白銀は口にするが、かぐやが白銀を嫌う理由が思い付かない。原因が分からなければ、解決策は見つからない。その為、彼の傷に触れる事になるが事情を聞く事にした。

 

 

 

「あると言えば、あるよ。だけど、あれは未遂で済んだし…態とやった訳じゃない」

「どういう事? しっかり話してくれないと分からないわよ」

「……誰にも言わないと約束するか? そう誓うなら全て話す」

「ええ、約束する。だから教えてよ」

 

 

 未遂で終わった。この発言に不穏な気配を感じたが、その不安を押し殺して鷺宮は話の続きを促す。

 

 

「これは俺と四宮が生徒会の業務で体育倉庫に訪れた時の事だ」

 

 

 

 静々と語り始めた白銀の話はこうだった。かぐやの急病事件から遡る事、三日前。体育祭で使う備品の点検の為、体育倉庫に白銀達は足を運んでいた。予定通りに備品チェックを済ませ、二人が倉庫を立ち去ろうとした時、戸が開かない事に気付いた。どうやら、誰かが外から鍵を閉めてしまったらしい。

 

 

 当初、二人はこの出来事を互いが仕掛けた策だと思っていた。しかし、当然ながら二人の仲は進展する事は無く徒に時間だけが過ぎていく。此処まで来ると、自分達が置かれた状況が異常だと理解した時は既に手遅れだった。

 

 

 

「この後、四宮が寒がっていたから俺の上着を貸したんだが…その拍子に体勢を崩してしまってな。何と言うか」

「かぐやさんにキスしたと?」

「してねえよ!! 未遂だったと言っただろうが」

「冗談だよ。かぐやさんが避ける様になったのはそれからなの?」

 

 

 

 話を聞いている内に若干、もやもやとした感情を抱いた鷺宮は少しだけ白銀を揶揄った。複雑な乙女心であるが、白銀に理解しろというのは酷な話だろう。

 

 

 

「いや。避ける様になったのは先日からだ。ほら、四宮が病院に運ばれた後だよ。俺が話しかけると、いつも理由を付けて逃げるんだ。やっぱり、あの事件の事を怒ってるんだろうか?」

「それは無いと思うよ。第一、怒ってるなら白銀くんは今頃、此処にいないって」

「怖い事を言うな!! だとしたら、原因は何なんだろうか?」

「多分、かぐやさんは照れてるだけだと思うよ」

 

 

 

 白銀の話を聞いて、かぐやが避ける理由が分かった鷺宮はそれを白銀に教えた。

 

 

 

「照れている? あの四宮が…?」

「そうだよ。だって、未遂でもキス寸前まで行ったんだよ。誰だって恥ずかしいと思うのは普通でしょ」

「…っ。そ、そうだな。じゃあ、今はそっとしておいた方がいいのか」

「うん。時間が経てば、またいつも通りに接してくれるよ」

「ああ。それまで待つとしよう。話を聞いてくれてありがとうな」

 

 

 鷺宮の助言に白銀は迷いが晴れた様で、明るい顔に戻った。そんな白銀に対して、再び悪戯心が沸いた鷺宮はある言葉を投げ掛ける。

 

 

「ふふふ。だったら、私とキスしてみる?」

「ば、馬鹿を言うな!? これを四宮に聞かれたらどうするんだ?」

「冗談に決まってるじゃない。早々、唇を許す訳ないでしょう」

「もう俺は帰るぞ。鷺宮も今日は帰るといい。また明日な」

「ええ。また明日ね」

 

 

 照れた顔を隠す様に白銀は足早に立ち去った。そんな彼を見送った後、鷺宮も生徒会をあとにした。

 

 

 

「……璃奈さん。もしかして貴女も会長の事を?」

 

 

 ドアの陰に隠れて聞いていたかぐやは複雑な顔でぽつりと呟いた。その後、白銀とかぐやの関係は元通りとなり、いつもの日常が訪れた。

 

 

【本日の勝敗 鷺宮の勝利 さり気なく自分の気持ちを白銀にアピール出来た為】

 

 

 

 

「イェェェイ!! 俺達、赤団アゲて行こうぜぇ~」

「「「「おおおおおおおおおおおっ!!」」」」

 

 

 応援団。それは体育祭や運動系の部活を応援で補佐する集団。それもあって、集まる者達も体育会系だと思う人も多いだろうが、実際に集まったのはウェイ系と呼ばれる者達である。無論、一言にウェイ系と言っても千差万別であり、ただ単に騒ぎたい者もいれば節度を守りながら騒ぐ者も存在している。今、此処にいるのは後者の連中だった。とはいえ、五月蠅い事に変わりは無く、その場にいた鷺宮と石上は彼らのテンションに引いていた。

 

 

「あの人達…何であんなにテンション高いの?」

「僕に聞かれても分かりませんよ。考えても答えの出ない永遠の謎です」

 

 

 鷺宮が此処にいる理由。それは応援団の補佐する為である。今回、応援団に参加する者が予想以上に多い事から団長を表明した風野高志が、生徒会に助けを求めたのだ。当初は人数を減らす事を生徒会は提案する。しかし、一年に一度の思い出を作りたいという風野の言葉に押し切られ、生徒会から助っ人を出す形で話が纏った。因みに石上は補佐ではなく、参加者の一人である。生徒会が鷺宮を派遣した一因には、彼がいる事も含まれている。

 

 

 

 そんな背景から始まった初の会合であるが、異様な雰囲気を醸し出す集団の姿を見て、鷺宮は補佐役を買って出た事を非常に後悔していた。先程から集団の間で飛び交う会話に含まれる単語も意味不明で理解が出来ず、また応援団の名前を決める時も挙げられた候補が『インスタ映え赤組』や『燃えろ赤組マジ卍』という名前ばかりである。

 

 

 

「あの名前で本当に良いんですか? 鷺宮先輩、補佐なんだから止めに入った方が良いと思いますよ」

「いやいや。私はあくまで補佐だからね。何だかんだで纏まってるし、余計な口出しは野暮でしょう」

「…何処がです!? どうみても暴走してますよ!! 口ではそう言っても関わりたくないって、本音がダダ洩れじゃないですか」

 

 

 

 あからさまな鷺宮の態度に思わず石上は突っ込みを入れる。その言葉が図星なのか。鷺宮は書類を読むふりをして、彼の言葉を無視していた。その事に呆れる石上であるが、自分も彼らに物を言う度胸は無い。仕方無く、話が終わるまで静かにスマホを眺め始めた時、石上に一人の女子生徒が声を掛けてきた。

 

 

 

「ねえ、君が石上くんだよね? 私、三年の子安つばめ。折角だし、君のメアド教えてよ」

「え? な、何で僕のメアドを聞くんですか?」

「ああ。別に変な意味は無いの。さっきから様子を見ていたけど、何だか馴染めて無い様だから気になってね。それに君も応援団の一員なんだから、放って置く事は出来ないよ」

「ありがとうございます」

 

 

 

 生徒会のかぐや達以外で自分に優しく接するつばめに石上は、戸惑いながらお礼の言葉を口にする。そんな石上に対してもつばめの態度は変わらず、優しい笑顔を石上に向けた。

 

 

 

「気にしないで。じゃあ、応援団の活動に関する報告はメールで送るわね。応援団、一緒に盛り上げていきましょう」

「は、はい。頑張ります」

 

 

 

 その言葉に安心したのか。つばめは頷くと再び皆の所に戻っていった。優しい人もいるもんだと、つばめの方に石上が顔を向けた時。聞き捨てならない言葉が彼の耳に飛び込んでくる。

 

 

「そうだ。インパクトを与える為に男子は女装、女子は男装する事にしよう。なので、各自は制服を貸してくれる人を探しておいてくれ」

 

 

 

 この事に石上は勿論、静かに成行きを見守っていた鷺宮も言葉を失った。元々、はっちゃけていたのは分かっていたが、よもや此処まで行くとは思ってもいなかった。流石に不味いと異議を申し出ようとした鷺宮だが時既に遅く、皆は盛り上がっていて話を聞く空気ではない。結局、二人は何も言えないまま。最初の会合は終了となった。

 

 

 

「…件の制服、一体どうしたらいいですかね?」

「誰かに借りるしかないでしょうね。貸してくれる人に心当たりはあるの?」

「ハハハハハ。鷺宮先輩、その冗談は笑えないですよ。僕に貸してくれる人が居ると思います?」

「ごめんね。私が悪かったわ。だから、その笑顔はやめて。見てるこっちが悲しくなる」

 

 

 

 鷺宮の提案に石上は渇いた笑みで返事を返した。思えば、石上は同級の女子から嫌われている。その彼に制服を貸してくれる人はいる筈が無いのだ。それに普通に考えても、いきなり男子から制服を貸してと言われて首を縦に振る訳が無い。

 

 

 

 この状況において、残された手段は一つしかない。その方法を鷺宮は石上に伝えるべく、口を開いた。

 

 

 

「じゃあ、私の制服貸してあげる。身長も左程変わらないし、体格も同じだからサイズも合うと思う」

「良いんですか? その…男に自分の制服着せるのって、抵抗あるんじゃ」

「別段、気にしてないわ。変な事に使う訳じゃないし、何より困ってる後輩を助けるのは先輩の役目でしょう。そこに男女は関係ないよ」

「…そうですか。鷺宮先輩には助けられてばかりですよ」

「そうかな? だけど、私も色んな人に助けてもらっている。その分、誰かを助けているだけよ」

 

 

 

 自分が困った時、何かと手を貸してくれる鷺宮に石上は感謝の言葉を述べた。珍しく殊勝な態度の石上に鷺宮は微笑みながら、己の本音を口にした。彼女の言葉に石上は何を思ったのか。それは本人にしか、分からない。だが、少なくとも石上の心境に新たな変化を齎した事は確かである。

 

 

 その後、かぐやがあとからやって来て、事情を知ると彼女も協力してくれた。最初は真面目にやっていた二人であるが、次第に遊び心が過熱して石上を振り回す事になるのは別の話。

 

 

【本日の出来事 石上、応援団に加入】

 




最後まで読んでくれてありがとうございます。


石上くん、女子から嫌われている割に年上の女子からは受けが良いですよね。
きっと、保護欲を刺激する何かか彼にあるのでしょうね。


次回は三つの日常回を書く予定です。それと次の更新は少し遅れますが、ご了承ください。

最後に感想等があれば、一言でもいいので貰えると嬉しいです。
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