今回は日常回の三本立てとなってます。
ある日の生徒会。本日の業務が全て終わった頃を見計らって、白銀が口を開いた。
「今日もお疲れ様でした。この後の予定だが…良かったら皆で月見をやらないか?」
「お月見ですか? 良いですねぇ~ 私は賛成ですよ。かぐやさんはどうします?」
「ええ。今日は予定もありませんし、私も参加します。でも、会長。急に誘うなんてどうしたんですか?」
白銀の誘いに真っ先に賛成したのは案の定、藤原だった。基本、楽しい事が好きな彼女がこういう機会を見逃す筈がない。それに続いてかぐやも参加の意を示す。本当は月見に興味は欠片もないが、珍しく白銀からの誘いとあれば、かぐやが断る理由もない。
「月見をするのは良いけどさ。私達、道具を何一つ持ってないわよ。天文部に借りるとか?」
「いや。道具は全くいらないぞ。今日の天気は晴天だから、月がしっかり見れる。それに周りに散らばる星も眺める事が出来るだろう」
「成程。しかし、会長…今回は妙にテンションが高いですよね。何か良い事があったとか?」
鷺宮の疑問にも明るい様子で答える白銀の姿は、誰が見てもウキウキしていると分かる。その様子が気になった石上が白銀に訊ねた。
「そうか。まあ、実を言うと俺は星や月を見るのが好きでな。それで少しばかり、はしゃいでいたかもしれん。だが、皆と月見を楽しみたいという気持ちに嘘はないぞ」
「白銀会長にも意外な一面があったんですね。私も参加していいんですか?」
「勿論だ。というより、今回の月見は伊井野の歓迎会でもあるからな」
「ええ!? 私の歓迎会ですか。だけど、それは鷺宮先輩達にやってもらいましたよ」
白銀の言葉に驚くミコ。今回の催しが自分の為と知って、嬉しい気持ちと同時に申し訳ない気持ちが込み上げる。しかし、白銀はそんなミコに笑いかけると優しく話しかける。
「それは知っている。だが、その時は女子だけの歓迎会で俺達は不参加だったからな」
「確かに親睦を深めたいと思うのは、僕達も同じですからね」
「会長はともかく、石上と親睦を深めたくは無いですが…そうまで言われたら私も参加しないとですね。何時に集合する予定ですか?」
「夜の七時に屋上に集合してくれ。学園側の許可は既に貰っているから心配はいらんぞ」
「分かりました。それでは夜に会いましょう」
詳しい詳細を白銀から聞いて、ミコは頷いた。その後、一旦帰宅してから集まる事になり、一向は解散した。
夜、屋上に白銀達は集まった。只、藤原だけが未だに来ておらず、もしや来れないのかと思った時。バタバタと音を立てて藤原は姿を見せた。
「会長~ こんばんは。遅くなってごめんなさい」
「遅いぞ藤原。約束の時間はきちんと守ってくれ」
「お父様の説得に時間が掛かったんです。何分、急でしたからね。お詫びにお汁粉の材料と料理道具を持参しました。これで許してくださいよ」
「いや。俺こそ悪かった。藤原の好意に感謝するよ」
遅れた事を咎める白銀だが、藤原も事情があるのだと弁明した。そう言われては白銀も返す言葉が無い。藤原の言う通り、今回の催しは急に決まった事だ。それに本人もお詫びと称して、皆で食べる食料もまで用意してくれた。これ以上、言及すれば場の空気を悪くするだけ。白銀もそれが分からない程、愚かでない。白銀は己の非を認めて謝った後、感謝の言葉を藤原にかけた。
全員が揃った所で白銀達は月見を始めた。空に浮かんだ月は淡い光で夜空を照らし、その光景を一同は静かに眺めていた。しかし、どんな綺麗な物でもずっと眺めていては飽きが来る。数分後には、じっと見つめる白銀とかぐやを残して、鷺宮達はお汁粉の調理を始めた。月見に飽きたのもあるが、単純に空腹と寒さが我慢出来なかった為である。
「そういえば、気になっていたんですが…鷺宮さんはいつかぐやさんと仲良くなったんです?」
調理を開始して間もなく、藤原は鷺宮にそう質問した。この事は藤原だけでなく、石上とミコも気になっていたのか。二人も藤原の話に耳を傾ける。いつか聞かれるだろう事は鷺宮も分かっていた。此処で誤魔化す事も考えたが、話をはぐらかして変に勘繰られるのも御免である。それなら素直にかぐやと親密になった経緯を話す方が得策だと判断して、鷺宮は静かに話を始めた。
「ああ。それは夏休みに母さんの実家に行く事になってさ。そこが四宮家だったのよ。実を言うと、その日まで母さんの旧姓が四宮だと知らなくてね。私も大分、驚いたわ」
「…だから、あの時に鷺宮先輩は四宮副会長の親戚と言ったんですね」
「その疑問は解消しました。だけど、まだ肝心の話を聞いてませんよ~。私はかぐやさんと仲良くなった経緯を知りたいんです」
良い具合にミコか反応して、話を誤魔化せるかと期待したが無駄だった。こういう時に抜け目がない藤原に鷺宮は内心、溜息を吐く。別段、隠す事でも無い為、鷺宮は再び口を開いた。
「その後、私達は当主の雁庵さんに挨拶した際にかぐやさんと会う事になってね。当然、かぐやさんも私が親戚だと知らなかったから驚いていたわね。何で黙っていたんだって、かぐやさんは少し怒ってもいたかな。まあ、事情を説明したら許してくれたけど」
つい最近の出来事であるが、鷺宮はとても懐かしい思い出の様に感じていた。それは三人にも伝わったのか。誰も続きを催促する事はなく、鷺宮が話すのを大人しく待っていた。
「それから話が弾んでね。私がかぐやさんを名前で呼ぶ様になったのはこの時かな。かぐやさん曰く、親戚なのだから苗字で呼び合うのは余所余所しいってね」
「そうだったんですか。だけど、珍しいですねぇ。かぐやさんがそんな言葉を言うのって、余り無いんですよ」
「それは藤原さんの影響もあると思うよ。物怖じしないで接する藤原さんがいたから、かぐやさんも他人に対して歩み寄ろうと思ったんだと私は感じてるよ」
鷺宮の話に藤原は眉を上げて、少しだけ不満そうな表情を浮かべる。彼女はかぐやの友達だが、今の関係になるのは大変だったのだろう。何せ、昔のかぐやは氷の様な人間という噂は鷺宮も知っている。だが、それでも今のかぐやがあるのは、やはり藤原の存在が大きい。恐らく、自分が藤原の立場だったら打ち解ける前にかぐやの傍を離れていた筈だ。
「実を言うと、私も一時期は変化の無いかぐやさんに心が折れそうだったんですよ」
「へっ? あの空気が読めない事に定評のある藤原先輩がですか? 意外ですね」
「私もそう思います。藤原先輩は心にゆとりがある人だと、思ってましたから」
「二人共。流石にそれは失礼じゃないですか? 私も時には本気で怒りますよ」
「まぁまぁ。今日は無礼講という事で許してあげて。それとお汁粉も出来たし、かぐやさん達の所に行きましょ」
「おお~。完成したんですね。鷺宮さんのお汁粉、美味しそうですねぇ。早く皆で食べましょう~」
平然と毒を吐く石上と天然なミコの言葉に藤原は引き攣った顔で二人を見つめる。前者はともかく、後者は悪気が無いのが性質が悪い。若干、拗ねた藤原であるが、お汁粉が完成したと聞くや。パッと明るい顔をして鷺宮を急かした。その様子、鷺宮は苦笑する。
その背後で単純だと石上は呟くも、当然ながら藤原の耳に入っていない…という事は無く。しっかりと聞こえていて、あとで仕返しをしてやろうと密かに目論んでいた。
四人はお汁粉の入った鍋を持って、かぐや達の元に来た時…。
「もう止めてって、言ってるでしょう。会長の馬鹿ぁ」
かぐやは大声で叫んで屋上を走り去ってしまった。事情を知らない鷺宮達は傍にいた白銀に疑いの目を向けるが、当の本人も呆けた様子でかぐやが去った後を見つめていた。
「何かあったの? まあ、いつもの誤解だと思うけどさ。何もしてないんだよね」
「当たり前だ!! 俺は只、月の関する話をしていただけだ。一体、四宮はどうしたというんだ?」
問い掛ける鷺宮に白銀は自身の潔白を口にする。石上と鷺宮は白銀の言葉を信じたが、藤原とミコは未だに疑いの視線を送っていた。そんな二人に白銀は必死に弁明するも、この状況で白銀を信じろというのが難しい。最早、月見もこれまでかと思われた頃、落ち着きを取り戻したかぐやが帰ってきた。
その後、かぐやの説明で白銀の無実は証明され、一向はお汁粉を啜りながら月見を堪能した。
【本日の勝敗 トラブルはあったが、月見を存分に楽しんだ白銀の勝利】
放課後の生徒会室。静寂が支配する室内に白銀の姿があった。彼はある目的を果たす為、一人この部屋に訪れていた。
「よし。誰もいないな…。漸く、この日がやってきた!! 普段は中々食えないし、家に置いておくと圭ちゃんや親父に食われてしまうからな」
そう呟く白銀の手にあるのは三個のカップ麺。庶民にとって、馴染み深い食料品であるが…経済的に余裕の無い白銀家にはカップ麺といえど、贅沢な嗜好品だった。しかし、バイト生活の末に貯めたお金で遂に白銀は念願のカップ麺を食す機会を得た。
「醤油に味噌、それに塩味のラーメン。定番の味を揃えてみたが、いざ食べるとなるとどれにするか迷うな」
机に置いたカップ麺を眺めて白銀は、どの味を食べるのか頭を悩ませる。
(無難な選択なら醤油だろうが、此処は味わい深い味噌と言った所だが…あっさり系の塩ラーメンも捨て難い。うーむ。まさか、こんな所で悩む事になるとはな。欲張らずに一種類に留めておくべきだったか?いやいや。折角の機会だし、偶には俺も贅沢したって罰が当たらない筈だよな。幸い、今日は活動もないから誰も来ないし、ゆっくりと考えて決めるとするか)
自問自答の結果、結論を出した白銀は再び思案する。正直な話、根本的な事は何も解決してない事に白銀は気付いていない。
その頃、生徒会室の前でかぐやを見つけた。彼女は何故かドアに耳を当てて、中の様子を窺っている。それが気になり、かぐやの傍に寄ると鷺宮は声をかけた。
「あれ? かぐやさん…此処で何をしてるの? 用があるなら中に入れば良いのに」
「…っ!? り、璃奈さんでしたか。いきなり声を掛けないでください。吃驚するじゃないですか」
「いや、何で吃驚するのよ。というより、周りに気付かないかぐやさんが悪いよ」
いきなり声をかけた鷺宮にかぐやは怒るが、当の鷺宮はさらりと受け流す。それに鷺宮が言う様に、気付かない自分にも非があるのは分かっている為、これ以上は何も言う事が出来なかった。かぐやが落ち着いた所で鷺宮は改めて、事情を訊ねた。
「それでさ。何をしてたの? 様子を見た限り、聞き耳を立てていたけどさ。また白銀くん絡み?」
「…ええ。でも、変な意味はありませんよ。さっき、ちらっと中を覗いたら…会長が何か悩んでいたんです。それで何を悩んでいるのか。様子を窺っていたのですが…外からでは何も分からないですね」
「そう。だったら、中に入って聞けば良いんじゃない? 此処で唸っていたって、何も解決しないわよ」
「璃奈さんの言う通りですね。それでは中に入りましょう」
鷺宮の言葉に促され、かぐやは意を決して部屋に入る事にした。ドアを開いて中に入っても、白銀は二人の存在に気付いた様子はない。その姿から彼の悩みは余程の事なのか?と心配した二人が歩み寄った時、机にあるカップ麺に気が付いた。
「ねえ、白銀くん。これって、何? 何故、君はカップ麺を見て悩んでるの?」
「……っ!? さ、鷺宮!? それに四宮も……。二人共、いつの間に来たんだ?」
声をかけた途端。跳ね上がる様にして驚く白銀とは、裏腹に鷺宮は冷めた目で白銀を見つめる。それはかぐやも同様で彼女が醸し出す雰囲気は普段より、冷たいものだった。
「それじゃあ、君は奮発して買ったカップ麺を食べようと悩んでいたわけ?」
「ああ。何せ、普段はカップ麺を食べる事は無いし、思い切って食べようと思ったんだ」
「事情は分かりましたが、生徒会室でカップ麺等の食品を食べてはいけない。その決まりは会長もご存じですよね。何故、規律を破ってまでこの様な事を?」
かぐやの疑問は尤もであった。生徒会の決まりを会長の白銀が知らない筈がない。それでいて、今回の行動に至った理由がかぐやは理解出来ないでいた。
「最初は…食堂で食べようとしたんだ。だけど、あそこは放課後でも人が多いだろう。大衆の面前で俺がカップ麺を啜っている所を見られたら、変な噂が広まるだろう」
「…家で食べたらいいじゃないの。そこまで悩む事じゃないでしょう」
「家で食うと、親父や圭ちゃんが怒るんだよ。俺だけ贅沢して狡いって……」
白銀の言葉にかぐやと鷺宮は言葉を失う。彼の経済事情は知っていたが、よもやカップ麺すら白銀家では贅沢な嗜好品とされているとは想像だにしていなかった。それを知ってしまっては、もう二人は白銀を咎める事は出来なかった。
寧ろ、逆に白銀の些細な願いを叶えたい。いつの間にかそんな感情を二人は抱いていた。
「じゃあ、此処で食べたらいいわ。私達は何も見なかった事にするから」
「ええ。そうですね。私達は今日、生徒会室で会長と会っていません」
「二人共…。すまん。恩にきるぞ。そうだ。いっその事、四宮達も一緒に食べないか? カップ麺は丁度三人分あるからな」
見逃してくれたかぐや達に感謝しつつ、白銀は一緒に食べようと進言した。無論、これに応じる二人では無かった。此処で食べてしまえば、自分達も規律を破る事になってしまう。
「いや、私は遠慮…「鷺宮の好きな塩味もあるぞ」せずに頂くわね」
「璃奈さん!! 貴女まで何を言ってるんですか!?」
しかし、白銀も断る事は分かっていた。それもあって、彼は奥の手を使って鷺宮を陥落させた。以前、何気ない世間話で彼女が絶賛していた塩味のカップ麺。これを覚えていて、購入していたのだった。まさかの裏切りにかぐやは困惑した様子を見せる。
「まあ、確かに規律を守るのは大事だけどね。時には枷を外して、何かを堪能するのも人生に必要な事だと思うわ」
「…ビシッと決めたつもりでしょうけど、カップ麺を食べるだけで随分と大層な言い方ですよ」
「分かった。じゃあ、俺と鷺宮だけで食うとしよう」
断固として首を縦に振らないかぐやに放置して、白銀は予め用意していたお湯をカップ麺に注ぎ始める。二人は出来上がるまでの間、会話に興じる事にした。
「そういえば、私もカップ麺を食べるのは久しぶりね」
「ほう。そうなのか? まあ美味しい分、カロリーも相当だからな。女子は食べる機会が少ないと思うが」
「それは白銀くんの偏見だよ。女子も意外とカップ麺を食べるわよ。味も多種多様だし、新作が出ると買う子も多いから」
「へー。そうなのか? 今度、機会があったら鷺宮のお薦めを教えてくれよ」
「いいよ。良さげなカップ麺を見つけたら、教えるわね」
二人して談笑する様を四宮は羨ましそうではなく、鬼の形相で見つめていた。主に鷺宮の方を睨みつけているが、カップ麺談義に夢中になっている事もあって、本人は気付いていない。
「おっと、そろそろ完成した様だぞ。そうだ…四宮。お前も食べたらどうだ? 生憎だが、お湯を多く沸かしてしまってな。まだ一人分のお湯が残っているしな」
「……。分かりました。此処は会長の好意に甘えるとしましょう。お湯を捨てるのも勿体ないですものね」
白銀は一人椅子に座るかぐやにそう声をかけた。何だかんだで白銀はかぐやの分も、しっかりと用意していた。それに乗っかる様にかぐやも白銀の好意を受け入れて、彼女もカップ麺を食べる事に同意する。
その後、三人は夕陽が差し込む部屋でカップ麺を堪能した。
【本日の勝敗 かぐやの勝利】
「鷺宮先輩。少し話したい事があるんですが…時間大丈夫ですか?」
「大丈夫だけど、何の話?」
それは生徒会の仕事が終了し、帰ろうとする鷺宮に石上は引き止める。珍しい事に鷺宮以外の全員も成行きを見つめていた。
「その事なんですが、若干込み入った話なので出来れば二人で話したいのですが…」
「えーーー!? 二人っきりって、石上くん。何の話をするんですかねぇ?」
「藤原書記。石上を茶化すのはやめろ。二人共、俺達は先に帰るよ。鍵を渡しておくから、話が終わったら戸締りの方を宜しく頼む」
「分かった。任せておいて」
石上を揶揄う藤原に諌めた後、白銀は鷺宮に鍵を手渡すと戸締りを頼んだ。。恐らく、話が長引くと踏んだのだろう。細かい所に気が付く彼らしいと思いながら、鷺宮は白銀の頼みを聞き入れた。白銀達が去った後、鷺宮は石上に座る様に促してから再び用件を訊ねた。
「それで私に話があるのよね?」
「ええ。実は一週間後に親父の誕生日が控えているんです。只、何を贈ればいいのか。それが分からないんです。悩んでいる時、此処で鷺宮先輩と藤原先輩が父の日に贈る物の事を話していたでしょう? だから、その助言を何か貰えたらと思いまして」
「父への贈り物かぁ。確かに悩む所よね。定番ならネクタイだけど、ありきたりな物だと被る可能性もあるわよね。だとしたら、手作りの品はどうかしら?」
「手作りの品…ですか? それなら被らないけど、僕に出来ますかね?」
石上の話を聞いて、鷺宮は一つの助言を彼に与えた。その意見に石上は興味を示すも、何処か不安そうな表情を浮かべる。
「簡単な物でいいのよ。石上くんが出来そうな物でそれを選ぶとか」
「…僕に出来る物で簡単な奴ですね。それだったら、一つありますね」
「良かった。じゃあ、それをやってみるといいわ。作業したいなら此処でやるといいよ。事情を話せば白銀くんも許してくれるでしょうし」
「そうですね。会長にはあとで連絡してみます。鷺宮先輩もありがとうございました」
どうやら石上の答えは決まった様で、彼は清々しい顔で鷺宮に感謝の言葉を口にする。
「別にこれくらい何て事ないわよ。お父さん、喜ぶといいわね」
「ええ。それは僕の頑張り次第ですね」
鷺宮の言葉に石上は頷きながら返事を返した。それから一週間後、鷺宮が生徒会室に訪れるとそこに石上の姿があった。普段なら、いつも最後に来る彼が先に来ていた事に驚きながらも、鷺宮は彼に話しかける。
「先に来てるなんて珍しいわね。今日は何か良い事があったの?」
「はい。実はそうなんですよ。鷺宮先輩の助言通り、手作りの贈り物をしたら親父が喜んでくれましてね。その報告とお礼をしようと今日は先に来たんですよ。他に誰かがいると恥ずかしいので」
「それは良かったわね。でも、お礼を言われる程の事じゃないわよ」
「いえ。何だかんだ先輩には助けて貰ってますから。お礼というのはこれですよ」
そう言って、石上が渡して来たのは一本の押し花。その出来栄えは素晴らしく、花びらも茎も生花の様な様であった。押し花に詳しくない鷺宮でも息を飲む程の一品だった。
「これ…石上くんが作ったの?」
「はい。僕、こう見えても器用さに自信があるんですよ。これは鷺宮先輩の為に作りました」
「へえ~。とても綺麗だね。これは何という花なの?」
「ああ。ベルフラワーという花です。花言葉は…言うのは恥ずかしいので帰ってから自分で調べてください。それじゃあ、僕はもう帰りますね」
鷺宮の問いに答えようとした石上だが、ふと我に返ると話をはぐらかすと急ぎ足で帰ってしまった。立ち去る間際、見えた彼の耳は赤く染まっていて、余程恥ずかしかったのだろう。そんな石上の姿に苦笑しながら、鷺宮は彼から貰ったベルフラワーを見つめる。
「成程ね。これくらい教えてくれてもいいのに…。意外に可愛い一面があるのね」
ベルフラワーの花言葉。それは感謝と誠実。言葉に出来ない石上の気持ちに鷺宮は柔らかい笑みを浮かべる。貰った押し花を静かに眺めていた。
【本日の勝敗 遠回しであるが、自分の気持ちを伝えた石上の勝利】
此処まで読んでくれてありがとうございます。
今回のお話、いかがだったでしょうか?
何気ない日常の話、割とほっこりするので自分は好きです。
次回は体育祭編に入ります。また遅くなるかもしれませんが、次もお楽しみに。