生徒会庶務は平穏に過ごしたい   作:アリアンキング

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最新話、遅くなって申し訳ありません。

本日は日常回の三本立てとなってます。


第26話 生徒会は作りたい/鷺宮は見たくない/鷺宮は回避したい

「第一回 生徒会料理対決~。一番美味しい料理を出すのは誰なのか!? 参加する皆さんの意気込みを聞いてみましょう!」

 

 

 学園の調理室にて、藤原が声高々に料理対決の開催を宣言した後、参加する役員達に声をかけた。

 

 

「勿論、全員倒して俺が勝つ」

「いいえ。そうはさせません。僕の意地にかけて会長には負けません」

「何で私も参加する事になったの?」

「璃奈さんと同じ意見です。私達は関係ないでしょう」

 

 

 闘志を露わにする男子二人と反対に女子二人は面倒そうな気持ちを隠す事なく、主催者の藤原を問い詰める。普通なら鷺宮達の雰囲気に気圧されてしまうだろう。だが、当の藤原がその程度で臆する筈もなく、二人の問いに平然と答える。

 

 

「それは人数合わせですかね。男子二人がやるなら女子二人がいた方がバランスも良いじゃないですか!!」

「だったら、藤原さんがやればいいじゃない」

「そうですよ。私と璃奈さんでなくとも、伊井野さんと藤原さんで十分でしょう」

「おやおや~。もしかして、二人は料理が出来ないんですか? そういう理由でしたら辞退しても構いませんよ」

 

 

 藤原の返答に納得が出来ないと異を唱える二人。しかし、此処でも藤原は動じる事なく、ニヤリと笑みを浮かべると煽る様な言葉を返した。

 

 

「…馬鹿にしないで!! 出来るに決まってるでしょ」

「全くですね。そこまで言うならやってやりましょう」

「ええ。二人にも期待してますよ」

 

 

 売り言葉に買い言葉。これが藤原の挑発である事を理解していたが、馬鹿にされては鷺宮達も引き下がる訳にいかない。二人共、料理の腕にはそれなりの自信を持っている。だからこそ、藤原の言葉は許せなかった。何が何でも藤原に己の実力を認めさせてやる。当初、やる気が無かった二人の心は闘志で熱く燃えていた。

 

 

 

「作る料理は自由で一品のみ。制限時間は三十分です。さあ始め!!」

 

 

 

 藤原の合図で四人は一斉に調理を開始した。真剣な表情でそれぞれが得意な料理を作る姿を藤原とミコは静かに見守っていた。その間に時間は進み、あっという間に三十分が過ぎた。

 

 

 

「全員そこまで!! それでは僭越ながら私、藤原と伊井野ミコの二人で審査します。まずは石上くんの料理から行ってみましょう」

 

 

 藤原の言葉に従い、石上は堂々とした態度で料理を二人の前に置く。石上が作った料理は卵焼きというシンプルな家庭料理だった。香しい匂いと共に立ち込める湯気が焼き立てである事を強く主張している。それは藤原とミコの食欲を掻き立て、二人は匂いに誘われるままに卵焼きを口へ運んだ。

 

 

 そして二人は衝撃が奔る。口内に広がるのは絶妙な塩加減。辛すぎる事もなく、また甘すぎる事も無い。それでいて、丁度良い熱さのおかげで頬張っても火傷をする心配もない。正直、出された直後は只の卵焼きと内心は馬鹿にしていたが、此処まで素晴らしい出来栄えに感動していた。その証拠に普段、石上に辛辣なミコも目を輝かせて夢中で卵焼きを食べている。

 

 

 

「これは…素晴らしいの一言ですね。絶妙な味加減で単品でもいけます。私の評価は十点満点中、九点です」

「私は…八点。美味しいけど、少し量が足りないのが駄目です」

「一品だから仕方ないだろ。だけど、褒めてくれて嬉しいですよ」

 

 

 ミコの評価にぼやく石上だが、思いの外に高い評価に照れ臭そうだった。この様子に他の三人も石上の卵焼きに興味を抱いていた。手の込んだ料理もそうだが、シンプルな料理も意外と難しい。それでいて、あそこまで審査の二人を感動させるのだから、本当に美味しいのだろう。だけど、自分の料理だって負けていないと。

 

 

「次は鷺宮さんの料理にしましょう。何を作ったのか楽しみですね~」

「期待に添えるか分からないけど、私の力作よ。さあどうぞ」

 

 

 

 指名された鷺宮は二人の前に料理を置くと、被せていた蓋を取り外す。鷺宮が作った料理。それはサバの味噌煮であった。先の石上と同じく、シンプルな家庭料理だが…調理が難しい品である。

 

 

 香しい味噌の香りが藤原とミコの食欲を刺激する。二人はまる誘われる様に箸を手に取り、サバの味噌煮を口に運ぶ。

 

 

「こ、これは‥‥驚きました。たった一口で広がる味噌の味と香り。それに柔らかくなる程、煮込んでいるのに崩れない切り身。味加減と火加減。しっかりと整っている絶品。私の評価は十点ですね

「…私も十点。それほど美味しいです。ご飯があったら、お代わりしても食べたいくらいです」

「大袈裟だよ。只、レシピ通りに作っただけなのに」

 

 

 ベタ褒めする二人に鷺宮も些か照れた様子を見せた。先の石上を上回る評価を得た鷺宮がトップになり、残った白銀とかぐやの表情に緊張の色が浮んだ。この催しは藤原にとって、単なる暇潰しだろう。しかし、勝負に参加した以上は負けるつもりはない。二人の間には自然と火花が散っていた。

 

 

 

「順番に行きたい所ですが…下校時刻も迫っているので最後は二人同時にお願いします」

「此処に来て、適当だな。どうせ飽きたのもあるんだろう?」

「まあ良いではありませんか。手っ取り早く決着が付く事ですし」

「そうですよ。じゃあ、二人の料理をお願いします」

 

 

 図星を突かれて藤原は一瞬、焦りの表情を見せたが…かぐやのフォローを上手く利用して誤魔化した。あからさまな態度に突っ込みたい白銀であったが、かぐやの言う通り手っ取り早く終わるのは都合がいい。それも理解できる為、言葉を飲みこんで白銀は作った料理を藤原達の前に置いた。

 

 

「さて、お二人の料理は何かな~?」

 

 

 被せてある布を外すと露わになった料理に藤原は絶句した。白銀とかぐやが作った料理。それはおにぎりと味噌汁だった。此処に来て、尤もシンプルな料理に些か藤原は不満を抱く。何せ、日頃から自炊をして料理が上手い白銀。片や四宮家の英才教育でプロを凌ぐ実力を持つかぐや。この二人が作る料理に多い気に期待していたからだ。なのに蓋を開けば、この結果である。隣に座るミコに視線をやれば、彼女も若干、不満そうな表情を浮かべていた。

 

 

 

「会長。シンプルイズベストは良いんですけど、最後におにぎりは無いんじゃないですか?」

「そうね。絶対に勝つと言いながら、これって…私達を甘く見てるの? 流石におにぎりと味噌汁に負けないわよ」

 

 

 傍観していた石上と鷺宮も堪らず口を挟む。だが、白銀は鷺宮達の言葉に動じる事はなく、寧ろ自信溢れる様子で口を開いた。

 

 

「言いたい事は分かるが、まずは食べてみてくれ。そうすれば、全て分かる筈だからな」

「ええ。見た目が全てじゃありませんからね」

「ほう。随分と自信満々ですね。そこまで言うなら頂きます」

 

 

 

 此処まで堂々とするのだ。きっと何かあるのだろう。それを確信して藤原達はおにぎりと味噌汁を一口ずつ食べた。

 

 

 

「こ、これは‥‥最高に美味しいです。食べた時に広がるお米の甘味と食感。そして適度な塩気が食欲を加速させてくれます。この味噌汁も…素晴らしいの一言ですよ。具も食べやすい大きさで、尚且つ味噌汁と噛み合っています。口に残った米を潤しながら喉に流してくれる様は、人に例えるなら夫を甲斐甲斐しく支える妻のようですね。私、料理でこんなに感動したのは初めてですよ。本当は十点評価ですが、私は百点を与えます。今回の料理対決…勝者はこの二人で決まりです!!」

 

 

 

 涙を流しながら自らの想いをぶちまける藤原。しかし、当の二人は藤原の言った言葉に反応して、それ所では無かった。顔を赤くして逸らす仕草の白銀達を鷺宮と石上は冷めた表情で見つめた後、静かに調理室を出て行った。未だにもじもじする白銀とかぐや。そして感動して涙を流す藤原と無言でおにぎりと味噌汁を食すミコだけが残り、調理室に妙な空気が漂っていた。

 

 

 

 

【本日の勝敗 白銀とかぐやの勝利】

 

 

 

 鷺宮が生徒会に顔を覗かせると、居たのは白銀一人だけであった。

 

 

「こんにちは。あら? 今日は白銀くんだけなの?」

「ああ。今日は他の皆は用事があるらしくてな。俺も帰ろうと思ったんだが、会長の判が必要な仕事があって残ってるわけだ」

 

 

 普段いるメンバーがいない事を尋ねると、白銀は事情を教えてくれた。彼曰く、自分も帰ろうとしたらしいが、会長直々の仕事があるらしく。それで残っていた様だ。

 

 

「そうなんだ。だったら、私も手伝おうか? 幸い、私は用事が無いし、二人でやれば早く終わるでしょう」

「…そうだな。じゃあ、こっちの書類を頼めるか? 終わったら俺の机に持って来てくれ」

「了解。任せておいて」

 

 

 

 話を聞いた鷺宮は自分も手伝う事を申し出た。当の白銀も流石に一人では手が余ると考えたのだろう。鷺宮の申し出に素直に頷くと机の書類を彼女に手渡した。それを受け取り、鷺宮は手頃な場所に腰を下ろすと慣れた手付きで書類を捌いていく。その様子を白銀は仕事の片手間に眺めていた。自分も仕事の速さに多少なりとも自信を持っていたが、鷺宮の仕事は白銀よりも早かった。やはり庶務を務めるだけあって、その点に置いては敵わない様だ。

 

 

 

 二人でやっていた事もあって、多かった書類も早く片付ける事が出来た。終わった書類を纏めた後、白銀は手伝ってくれた鷺宮に感謝の言葉を口にする。

 

 

「鷺宮、手伝ってくれて感謝する。何かお礼をさせてくれ」

「別に気にしなくてもいいよ。どうせ、帰っても特にやる事は無いからね」

「だが、何もしないというのもなぁ」

 

 

 

 何かお礼をしたいと言う白銀に鷺宮は首を横に振って断った。今回の事は自分から手伝うと言ったのだ。それに予定が無い以上、庶務として会長を補佐するのは当然の事である。しかし、白銀も気が済まないのか。更に食い下がってきた。ならばと鷺宮は一つの提案を彼に伝えた。

 

 

「じゃあ、一緒に本屋行こうよ。それでチャラって事でいいわ」

「分かった。だけど、それだけでいいのか? 良かったら本の代金も出してもいいぞ」

「流石に悪いからいいよ。それに行く本屋は少し遠いから帰りも遅くなるしね。途中まで送ってもらうのも込みというのもあるからさ」

「成程。それなら早く行くとするか」

 

 

 話が纏り、二人は戸締りをした後で本屋に直行した。

 

 

 

「そういや、鷺宮は此処の本屋に良く来るのか?」

「まあ、割と足を運んでるよ。品揃えも良いし、無い本はすぐ取り寄せてくれるからね。それにイートインコーナーもあるから便利なのよ」

「へえ。そいつはいいな。買った本をその場で読める訳か」

 

 

 鷺宮の言う通り。店の一角にはイートインコーナーが存在していた。見た所、それなりのスペースもある為、ゆったりと過ごす事も出来る様になっている。店内も明るい雰囲気で居心地も良い。今後は自分もこの本屋を利用しようと心に決めた。

 

 

 

「じゃあ、私は適当に店内を見て回るから白銀くんも自由に見ていいよ」

「ああ。分かった。終わったら、何処で合流するんだ?」

「そうね。なら、用が済んだらイートインコーナーで会おうよ」

「そうするか。それじゃあ、後でな」

 

 

 

 

 あとの事を話し合い、結論が出た所で二人は自由行動を始めた。白銀と別れた鷺宮の背後からある人物が歩み寄ると彼女の肩を叩いて声を掛けてきた。

 

 

 

「…ねえ。どうして璃奈さんが会長と一緒にいるんですか? しっかりと説明してくれますよね?」

「え? か、かぐやさん!? どうして此処にいるの? それにその格好は一体?」

「質問に質問で返さないでください。此処じゃあ、人目に付くのでとりあえずこちらに」

 

 

 

 突然、声を掛けてきたかぐやに引きずられて鷺宮は人気の無い場所へ連れて行かれた。見た所、不機嫌な有様を隠さないかぐやに逆らうのは得策じゃない。そう判断して鷺宮は大人しく従った。

 

 

 

「さて、改めて聞きます。何故、璃奈さんが会長と一緒にいたんですか?」

「只の偶然よ。今日、生徒会に顔を出したら白銀くん一人でさ。それで仕事を手伝ったのよ。その後、お礼をしたいと引き下がらなくてね。折角だったから、本屋に同伴してもらった訳。この本屋、家から少し遠いし、帰りは遅くなるから一人だと不安だもの」

「…そういう事でしたか。それは申し訳ありませんね」

「まあいいよ。それでこっちも聞くけど、どうしてかぐやさんはそんな恰好で本屋にいるの?」

 

 

 

 事情を説明し、かぐやが納得した所で次は鷺宮が問い掛けた。普段と違い、帽子にサングラス。明らかに怪しい格好でうろつく理由が分からない。かぐやは周りを気にしながら、白銀の方を見ると静かに指差して訳を話し始めた。

 

 

 

「実は…早坂とちょっとした喧嘩をしたのよ。あの子、私が未だに会長に想いを伝えられないヘタレと言い張ってね。その言葉に腹を立てて、だったら貴女が会長を落として見せろと啖呵を切ったら、早坂も怒ってしまって、落としてやると息巻いてね。それで今日、会長を尾行してたら璃奈さんが一緒にいたから驚いたわ」

「…そう。全て合点がいったわ」

 

 

 

 かぐやの話を聞いて、鷺宮は内心深い溜息を吐く。今日、生徒会にいない理由もこれ故だろう。まさか、副生徒会長が私用で仕事を放り投げた事に呆れると同時に無茶ぶりを言われた早坂に同情していた。

 

 

 

「ところであっちゃんは何処にいるの? 態々、見張るという事は此処に来てるんでしょ?」

「あそこよ。今、会長とイートインコーナーで話してるわ」

 

 

 

 再び白銀に視線をやれば、確かに一人の少女が隣にいて白銀と談笑している。遠い為、会話の内容は聞こえないものの。二人の雰囲気から会話は弾んでいるようだ。

 

 

 

「…早坂。上手い具合に会長の取り入ってるわね」

「まあ、学校でも社交的だからね」

「それは知ってます。しかし、ああも簡単に話せるのは少し納得いかないわ」

 

 

 

 影から嫉妬の念を送るかぐやと鷺宮は、本日何度目か分からない溜息を吐く。顛末が気になる所であるが、自分も本屋に用がある以上、此処で時間を潰す訳にいかない。鷺宮は隣にいるかぐやに声を掛けるも上の空でまともに聞いていなかった。

 

 

 

 

 それから本屋を物色する事、数十分。買う本の精算を済ませて、鷺宮がイートインコーナーに足を運べば傍にはまだ早坂がいた。

 

 

 

 

(え~~。まだ、あの勝負は続いているの? もう外も暗いし、これ以上は待てないわね。とりあえず、一人で帰ろうかな。一応、白銀くんには親が迎えに来るからとメール送ればいいわね。かぐやさんもいい加減に想いを伝えたら良いのに…。だけど、白銀くんと話してるあっちゃん。いつもより自然体だったわね。まさか、あっちゃんも白銀くんの事を? そんな訳無いよね)

 

 

 

 二人の事を考えた瞬間に、胸に奔る一筋の痛み。それを誤魔化す様に鷺宮は足早に本屋を立ち去った。

 

 

 

【本日の勝敗 鷺宮の不戦勝 面倒事を回避した為】

 

 

 

 

「悩み相談に乗って欲しいねぇ。あーまた何かあったの?」

「今度は一体どうしたんですか?」

「何でそんな嫌な顔をしてるんですか? 生徒の悩みに耳を傾けるのも生徒会の役目ですよ」

 

 

 秀知院生徒会の活動には悩みを抱える生徒の相談も含まれている。此度、そんな悩みを抱えて一人の女子生徒が生徒会に足を運んでいた。その人物は柏木渚。ある意味、お悩み相談の常連と言える柏木の悩み。それは自分が付き合う恋人の事である。今回、その悩みに対応する鷺宮とかぐやとミコの三人。柏木達の悩み相談に良い記憶が無い二人は顔を顰め、それを知らないミコは二人の態度を諌めた。正直な所。この相談に乗りたくないが、ミコの言う様に生徒会の役目を放棄する訳に行かない。気持ちを切り変えて、鷺宮は柏木に悩みを話す様に促した。

 

 

 

「実は…私、彼氏に浮気されたんです」

「…それは大変だったわね。それで一体、私達にどうして欲しいの?」

 

 

 想像以上に重たい内容に三人は絶句する。まさか、高校生の口から出るとは思えない生々しい悩み。辛うじて言葉を返す鷺宮にかぐやとミコは心の中で拍手喝采を送った。だが、次に柏木の口から出た言葉に三人は再び言葉を失った。

 

 

 

「はい。実は迷っているんです」

「迷う? 彼氏と別れるか否かを?」

「いえ。彼氏か浮気相手…どっちをヤルかについて」

「待った!! それはお願いだから止めて。もう少し穏便な方法を選ぼうよ」

「だって許せないじゃないですか。こんな惨めな思いをさせられて黙ってられません」

「…そ、それでも駄目だって。偶々、何かの用事で一緒にいたという可能性もあるんだし、浮気と決め付けるのは早いよ」

 

 

 突然、物騒な事を言い出した柏木を鷺宮が必死で宥める。その二人を見て、ミコは漸く二人が彼女の相談に乗り気でなかった理由を知った。最初は生徒の悩みを聞いて寄り添い、そして解決に導く。そんな青春ドラマ的な事を想像していたが、蓋を開けば内容はドロドロとした恋愛の縺れ話。しかも相手に危害を加えると平然に言い放つ始末。

 

 

(ああ。鷺宮先輩と四宮副会長が悩み相談を嫌がる理由。こういう事情があったんだ。確かに毎回、こんな相談を聞いていたら…私だって嫌になる。それにしても鷺宮先輩は凄いな。あの四宮副会長さえ、引く様な人に面と向かって話せるんだから。私は怖くて何も言えなかったのに)

 

 

 鷺宮の行動に感心するミコであるが、実際は己の保身の為であった。実の所、柏木の言う浮気相手が誰を指しているのか鷺宮には心当たりがあるからだ。そう。つい先日、柏木の彼氏である翼と鷺宮は街へ出かけた事があった。尤もそこに恋愛的な感情は一切なく、只単純に翼に柏木のプレゼントを選んで欲しいと頼まれたからである。しかし、不運にも一緒にいる所を柏木に目撃されていた。恐らくは街へ行った事も柏木にバレていると鷺宮は悟った。何故なら、柏木が相手をヤルと言った際、その昏い眼は鷺宮を捉えていたからだ。

 

 

(不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い。これは非常に不味い展開だ。もし…柏木さんの口から浮気相手が私だなんて言われたら全てが終わる。たとえ誤解だと言っても…この状況じゃ誰も私の事を信じたりしないだろうし、何より一緒に出掛けた事実がある分、私の言葉に信用性は全くない。何より、怖いのが藤原さんに知られる事よね。あの人、何かに付けて恋バナに首を突っ込むし、それ以前に私の事を未だに肉食系と思ってる。そんな彼女に知られたら、噂は十分足らずで学園に広まってしまう。畜生、私のバカ野郎。こんな事になるなら、あの時キッパリ断れば良かった。いや、今は愚痴を溢すよりも柏木さんをこの場から遠ざける事が先決ね。よし、そうと決まったら即実行あるのみ)

 

 

 

「と、とりあえず本人に直接確認してみよう。私も一緒に行くからさ」

「そうですね。私も璃奈さんの意見に賛成ですよ。結論を出すのは話をしてからでも遅くは無いでしょう」

「私も先輩達の言う通りだと思います」

「…分かりました。私も彼と直に話してみます」

 

 

 

 かぐやとミコの援護もあって、一旦は窮地を免れるも根本的な解決はしていない。何故なら今も柏木は鷺宮に冷たい視線を送っていたから。

 

 

 

 

 

 

 生徒会室を出た後。翼を探して学園を歩く二人の間に会話は無く、重い空気だけが漂っていた。前を歩く柏木がどんな顔をしているのか。それは容易に想像が出来た。何せ、すれ違う生徒が柏木を見た途端に顔を逸らすのだ。この調子では自分だけでなく、他の生徒まで巻き込み兼ねない。一刻も早く翼を探そうと思った矢先。当の本人が目の前から現れた。

 

 

「あ、渚。此処にいたんだ。ずっと探してたんだよ」

「何よ。私に何か用なの? 本当は鷺宮さんに用があるんじゃないの?」

「うん? どうして鷺宮さんが出てくるんだい?」

「惚けないで!! この間、二人で街に行ってたわよね。私は全部知ってるのよ」

「あー。バレていたんだ。実はその事で話があったんだよ」

 

 

 嬉しそうに話しかける翼と対称的に柏木は冷めた声で返事を返す。どうやら隠していた事がバレてしまったと知った翼は観念して、全ての事情を話す事にした。

 

 

 

「一体、何の話なのよ。私と別れたいって事?」

「え? 僕が渚と別れるだって? ははは。そんな訳無いじゃないか。僕の用事はこれだよ」

 

 

 別れ話を切り出す渚の言葉を否定して、翼が懐から取り出した物。それはハートの飾りが付いた一つのネックレス。尤も学生が買う物だけあって、簡素な品であるが渚には何よりの贈り物であった。

 

 

「付き合ってから半年経つだろう。実はその記念としてプレゼントを渡したいと思っていたんだけど。僕は渚の喜びそうな物が分からなくてね。そこで鷺宮さんを頼ったんだ。一緒に渚に贈る品のアドバイスをして欲しいってね」

「そう…だったんだ。その、ごめんね。私、変な勘違いして酷い事を言ったよね。あれは…本心じゃないから」

「分かってるよ。さあ、今日は帰ろう」

「そうね。そうそう、帰りにクレープ食べていかない? 良い店を見つけたから」

「いいね。僕も食べてみたいよ」

 

 

 

 翼のプレゼントで気を良くした渚は、彼と仲直りして元の鞘に収まった。そして鷺宮がいた事など、気にも留めず二人は手を繋いで去って行く。それを見ていた鷺宮の胸中は複雑で、問題が解決した喜びと目の前でラブコメを演じた事に対する怒りが渦巻いていた。堪らず叫びたい衝動に駆られるも、爪が食い込む程に拳を握りしめてその衝動を抑え込む。

 

 

 

「はあ。やってられない。私も今日は帰ろう」

「ねえ。璃奈、少しいいかしら? あんたに話があるのよ」

「え? 眞妃さん。話って何? それに顔がいつもより怖いのだけど…」

 

 

 

 鷺宮が帰ろうとした時、彼女の背後から眞妃が声をかけてきた。元々、きつい印象の彼女であるが…今日はいつに増して雰囲気が鋭いと感じるのは鷺宮の気の所為ではないだろう。そして眞妃の話とは、大方翼絡みであると、自身の直感でそれを悟った。

 

 

 一難去ってまた一難。今日は厄日だと己の不運を呪いながら鷺宮は真紀の後を付いて行った。その後、鷺宮は真紀の誤解を解きながら、二度と恋人がいる生徒の頼みは聞かないと心に誓った。

 

 

 

【本日の勝敗 鷺宮の勝利 恋人達に振り回されたが、最悪の結末を回避出来た為】

 




今回のお話、いかがだったでしょうか?


食欲の秋に因んで生徒会役員達で競う料理対決。果ては嫉妬に狂う柏木さん。
最初は普通のキャラだったのが、今や一足先に大人の階段を登っているのが面白い所ですよね。


次回は眞妃さんの出番を含めた日常回を予定しています。
それでは次回もお楽しみに
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