生徒会庶務は平穏に過ごしたい   作:アリアンキング

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最新話、お待たせしました。


これが今年最後の投稿です。


第27話 かぐや様は誘いたい/かぐや様は出かけたい/生徒会は励みたい

「璃奈さん。少し話があるのですが、構いませんか?」

「私に話があるの? まあ予定は無いから大丈夫よ」

「ええ。出来れば…璃奈さんと二人だけで話したいので皆さんは席を外してくれませんか?」

「分かった。じゃあ、戸締りとかは四宮達に任せるとしよう」

 

 

 生徒会の仕事が終わり、帰宅の途に着こうとした鷺宮をかぐやが引き止めた。どうやら鷺宮に話したい事があるらしい。それに鷺宮は二つ返事で頷く。また鷺宮と二人で話したいと告げるかぐやに白銀は同意すると、他の役員達も何も言わず部屋から立ち去った。二人きりになった所でかぐやが口を開いた。

 

 

 

「それで話なのですが…明日の休日、良ければ一緒に出かけませんか?」

「明日かぁ。特に予定は無いから私は大丈夫だよ」

「それは良かったです。詳しい時間については後々、メールでお伝えしますね」

 

 

 

 かぐやの話とは鷺宮と外出したいとの事だった。無論、鷺宮も断る理由は無い為、かぐやの誘いを受ける事にした。それと同時に一つの疑問が頭に浮かび、鷺宮はその疑問をかぐやに訊ねた。

 

 

 

「だけどさ。どうして二人きりで話そうと思ったの? 外出の誘いなら皆の前でも良かったんじゃない?」

「最初はそう思いましたよ。ですが、今回は璃奈さんと行きたかったんです。それに以前、藤原さんと出掛けた時は…騒がしくて疲れただけでしたからね」

「…まあ、それは確かに。でも、本人の前で言わないでね。間違いなく藤原さんが泣くから」

「言われなくても分かっていますよ。だからこそ、二人で話したんですよ」

 

 

 鷺宮の指摘にかぐやは呆れた顔で言葉を返した。何気なく腹黒い一面を見せる彼女も流石に友達を傷付けるつもりは無い様だ。まあ当の藤原が気付いてないだけだろうが、それは知らぬが仏であろう。また何処で誰が聞いてるかも知れない以上、この話題は止めておく方が良いと二人は会話を打ち切った。

 

 

 

 

 

 その夜、四宮別邸でかぐやは悩んでいた。休日の予定を送ると鷺宮に言ったものの。何処に誘うかを未だに決まっていなかった。友人達と出掛ける機会が増えたとはいえ、今までは人の後を付いて行くだけだった。藤原の様にお洒落な店も知らないし、石上の様に娯楽も詳しくはない。徒に時間が過ぎていく中、見兼ねた早坂がかぐやに声をかける。

 

 

 

「かぐや様。行く所が決まらない様でしたら、そこはりっちゃんに任せてはどうでしょう?」

「だけど、誘ったのは私なのよ。それに予定は私が伝えるとも言ってしまったし…」

「そう言いますが、かぐや様は一時間以上も悩んでるじゃないですか。明日の事ですし、余り遅くなっても本末転倒でしょう」

「分かってるわよ。只、私の事を璃奈さんが呆れたりしないかしら?」

 

 

 かぐやもこのままでは埒が明かない事は理解している。それでも決断出来ないのは、自分が言い出した事を人に任せるのは無責任と思うからだろう。変な所で臆病な主人に向かって、早坂は言葉を続けた。

 

 

 

「その程度でりっちゃんは呆れたりしませんよ。今までもかぐや様の我儘…いえ無茶振りに付き合ってくれたんですよ。今回も笑って済ませてくれますよ」

「そうね。ところでさっき私の事を馬鹿にしなかった?」

「気の所為でしょう。それよりも思い立ったら吉日。早く伝えないとりっちゃんが寝てしまいますよ」

 

 

 不意に漏らした早坂の一言に突っ込むかぐやだが、そこは慣れた様子で受け流すと早坂は鷺宮に連絡する様に促した。それにかぐやは苛立ちを覚えるも、早坂の言う事も尤もである為、素直に従う事にした。無論、あとで追及する事を決めながらも携帯を操作してメールを書き始めた。

 

 

 

 

「お、かぐやさんからメールだ。何々? 待ち合わせ場所は渋谷駅前に十時。それと明日の行く場所、考えて見たのですが…恥ずかしい事に何も浮びませんでした。自分が誘っておいて申し訳ありませんが、明日は私の行きたい所に行きましょう…か」

 

 

 かぐやから届いたメールにはそう書かれていた。きっと、このメールを送るまで凄く悩んでいたのだろう。僅か数ヶ月であるが、密接に付き合ってきた鷺宮にはそれが分かった。何にせよ鷺宮もかぐやとの外出を楽しみにしていた。明日行く場所を考えながら、鷺宮は早めに床へ就く事にした。

 

 

 

 

【本日の出来事 かぐやと外出決定】

 

 

 

 

 

 日曜の朝 いつもより早くに起床した鷺宮はスマホを眺めていた。昨夜、かぐやの頼みを聞いて遊びに行く場所を選ぶ事になったのだが、思ったよりも選んだ遊ぶ場所が多くなってしまった。休日とはいえ、一日で全てを回るなど不可能だ。それに気付いたのはつい先程の事である。

 

 

 

(私も楽しみにしていたけど、少々はしゃぎ過ぎよね。まあ冷静に考えれば広い都心を十ヶ所も回れないよね。さて行く場所かぁ。馴染みの本屋を回ってからお昼はラーメン。その後、行き付けの喫茶店で時間潰して解散。そんな所が妥当よね)

 

 

 

 女子二人で出かけるには色気が無い気もするが、鷺宮もかぐやも派手に遊ぶ方ではない。また明日は学校もある為、下手に連れ回して疲れを残しては本末転倒だ。遊びに行く場所が決まった所で鷺宮は朝食を食べた後、仕度を済ませて鷺宮は家を出た。

 

 

 

 

 

 

 電車を乗り継ぎ、目的の場所に着いた鷺宮はかぐやの姿を探すが見つからない。どうやら自分が先に到着した様だ。それならばと鷺宮はベンチに座って本を読み出した。自分が先に来た場合、こうするのがお決まりの行動となっている。本を読み始めて数分後、あとから来たかぐやが声を掛けてきた。

 

 

「遅れてすみません。待たせてしまいましたか?」

「ううん。つい数分前に来たばかりだよ。じゃあ、早速行くとしよう」

「ええ。まず何処に行くんですか? 璃奈さんの事だから楽しい場所なのでしょうね」

「あ、余り期待しないでね。あくまで普通の場所だから」

「分かっていますよ。さあ行きましょう」

 

 

 

 満面の笑顔で重圧を掛けてくるかぐやに鷺宮は引き攣った顔で釘を刺す。無論、これはかぐやの冗談なのだが、表情や声色を自在に操るかぐやの場合、それを見抜くのは難しい。大抵の人はこの演技に騙されてしまう。尤も、親しい人以外にはやらないのである意味では信頼の証と言える。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、以前にもこの本屋に来ましたが凄いですね」

「元々は普通の本屋だったらしいけど、客のニーズに応えて求める本を仕入れてくれる。これが噂になって大勢の客が来る様になったんだって。それでより沢山の本を揃える為、増築したんだと母から聞いたよ」

「大抵は人気の本を仕入れるだけど、そういう本屋もあるんですね。前に教えて貰った文具店もですが、璃奈さんは顔が広いんですね」

「あはは。殆どは母のおかげだよ。とりあえず自由行動にしよう。三十分後にイートインコーナーで落合いましょうか」

「そうですね。ではまた後で」

 

 

 改めて本屋を訪ねたかぐやはその広さに驚いていた。あの時は白銀と早坂を見張るのに夢中だった為、店の事は全く気にしていなかったものの、鷺宮の説明で此処が人気の本屋だと知った。一先ず、好きに見て回ろうと進言する鷺宮にかぐやは頷くと別行動を開始した。

 

 

 

 

 鷺宮と別れたかぐやが向かったのは文芸コーナーだった。棚には数多くの詩歌や戯曲等、文芸に関する書籍が陳列されている。しかし、そこにあるのは一度は読んだ事がある本ばかり。品揃えの豊富さはかぐやも認める程であるが、やはり物珍しい本は見つからない。文芸コーナーをあとにしたかぐやが足を運んだのはコンピューター類の本が並ぶ場所であった。

 

 

 

(そういえば早坂の部屋にはこんな本が沢山あったわね。折角だし、何冊かあの子の為に買って行こうかしら)

 

 

 適当に取った雑誌をパラパラと捲りながらかぐやは早坂の事を考えていた。思えば自分に仕えてくれる早坂に労う機会は殆ど無かった。近待に礼を述べる等、四宮としては失格なのかもしれない。だが、かぐやにとって早坂は友であり姉の様な存在だ。たまには立場を忘れるのも良いだろう。これを贈った時、早坂は喜んでくれるだろうか? 少し不安に思いながらもかぐやは本を抱えてレジに向かった。

 

 

 

 

 会計を済ませたかぐやは合流場所のイートインコーナーへやって来たが、鷺宮の姿は何処にも無い。時計を見れば、まだニ十分しか経っていなかった。どうやら自分が早く来過ぎた様である。幸いにも人が少なかった事もあって、座る席に余裕はあった。かぐやは適当な席に腰を下ろすと鷺宮が来るまで時間を潰す事にした。

 

 

 

 

 

「あっ、遅くなってごめんね。待たせたかな?」

「気にしなくて良いですよ。私もさっき来た所ですから」

「そう。じゃあ、次はお昼食べに行こうよ。美味しい店、知ってるから案内するわ」

「良いですね。私も些か空腹を感じてますし、行きましょう」

 

 

 

 時刻も十一時を過ぎていて、昼食を食べるに丁度良い時間だと二人は本屋をあとにした。

 

 

 

 

 

 

「着いた!! 此処が私の良く店だよ」

「…ラーメン屋ですか。藤原さんは分かりますが、璃奈さんも良く行くんですね」

「うん。とは言っても一月に一度だけどね。流石に頻繁に通う事は無いよ」

 

 

 

 鷺宮の案内で着いた場所は一軒のラーメン屋だった。鷺宮の様子からこの店が彼女のお気に入りだと分かる。只、意外なのは藤原と嗜好が被っていた事。藤原がラーメン好きなのは中学の時から知ってはいた。その当時は特に興味を示さなかった。単に栄養価の高い不健康な料理という考えしか無かった為である。しかし、実際に訪れてかぐやは興味を抱いた。店の前に漂う匂いは自然と人の食欲を刺激して惹き付ける魅力があった。

 

 

 

「とりあえず入ろうか。今日は休日だから平日より空いてるし、この時間帯はランチセットもやってるからさ」

「そうなんですか。ラーメン屋も色々あるんですね」

 

 

 

 鷺宮の言葉にかぐやは少しホッとした。彼女の中ではラーメン屋は一品物を扱う店というイメージだった。だが、時代の変化はラーメン屋も受けるのだとかぐやは知った。そして暖簾を潜るとお馴染みの店主が元気な声が二人を迎えた。

 

 

 

「あらぁ。何処かで見たと思ったら、璃奈ちゃんじゃないの。こうして会うのは久しぶりねぇ」

「あっ、美穂さん。此処で会うなんて奇遇ですね」

「璃奈さん、この方は知り合いですか?」

 

 

 二人を迎えたのは店主だけでは無かった。カウンターに座っている中年の女性が此方に気付くと店主に負けない声量で声をかけてきた。鷺宮も親しげに言葉を返す様子から知り合いだと分かる。かぐやは遠慮気味に鷺宮に訊ねた。

 

 

「ああ。そうだ。かぐやさんにも紹介するよ。この人は神野美穂さん。実を言うと秀知院学園の卒業生でね。以前に偶然出会って、意気投合したんだ」

「まあ。私達の先輩ですか。どうも初めまして。私は四宮かぐやと申します」

「……四宮? ああ、あの有名な資産家の一族よね。璃奈ちゃん凄い人と友達なのね」

 

 

 

 褒める美穂と裏腹に鷺宮は少し困った顔で頷いた。一体、どうしたのかとかぐやは思ったが、美穂が言った言葉を思い返して鷺宮の行動に納得する。鷺宮はかぐやと一緒にいる理由が四宮だからと思われる。それを気にしているのだろう。そうでなければ、もっと平然と言葉を返している。その気遣いがかぐやはとても嬉しかった。殆どの者はかぐやを四宮として扱うばかりでかぐや個人を見るものは少ない。だけど、鷺宮はしっかりとかぐや個人を見てくれている。

 

 

(貴女の事。また少し分かりましたよ。出来れば、はっきりと明言して欲しい所ですけどね。まあ今はこれ以上、求めるのは贅沢でしょうね。それを望むなら私も彼女にもっと歩み寄るべきなのかもしれない。今回はそれをする良い機会だわ)

 

 

 

 

「ええ。私も璃奈さんと友達になれて良かったと思っています。こうして璃奈さんお気に入りの店を教えてもらったんですもの」

「…へぇー。という事はかぐやちゃんも此方側なのかしら。だったら、今日は私がご馳走しないといけないわね。かぐやちゃんは何を食べるの?」

「私は無難に醤油ですね。あと自分の分は自分で払うのでお気になさらず」

「良いのよ。先輩からの選別。この店は私の馴染みでもあるのよ。だから此処は私の顔を立てて頂戴な」

「…そう言われると断れませんね。分かりました。此処はご馳走になります」

 

 

 

 美穂の施しをかぐやは断るが、先輩元々と言われては折れるしかない。先程、美穂は四宮と知って驚いていたものの。その後は普通に接する所を見ると、彼女も肩書きで人を判断する人間では無い様だ。だからこそ、かぐやも素直に頷いた。

 

 

 

 しかし、美穂の施しを断らなかった事をかぐやは凄まじく後悔する。

 

 

 

 

「それじゃあ、景気よく頼むわよ。りなちゃんはいつもの塩ラーメンでかぐやちゃんは醤油ラーメンだったわよね?」

「ええ。それでお願いします」

「私もそれでお願いします」

「分かったわ。店長~ 注文を言うわよ。私は特盛チャーシュー麺、特盛り塩ラーメンと特盛り醤油ラーメン。あと餃子を三人前もお願いね」

 

 

 

 

 美穂は二人に確認を取ってから、店主に注文を頼んだ。そこまでは何気ない光景なのだが、問題なのはその内容。美穂の口から出た言葉にかぐやは戦慄を覚えた。しかし最も驚いたのが鷺宮がそれを受け入れていた事。聞き間違えでなければ、美穂は特盛りと発言した。大盛りよりも更に量が多い物。だが、美穂と鷺宮は動じていない事から特盛りと言っても大した量では無いのだろう。ならば、自分も堂々としているのが正しいと思った矢先、出来上がったラーメンを見て再びかぐやは戦慄する。

 

 

 

(な、何よこれぇぇぇぇぇ! 一体何をどうしたらこんな料理がこの世に生まれるよ!? っていうよりもこの二人は何でそんなに嬉しそうにしてるの? 此処は驚くのが普通でしょう!! まさか、世間ではこの量が通常なのかしら? いや、そんな訳が無いわ。うう~ こんな事になるなんて聞いてないわよ)

 

 

 

 目の前で存在を主張する特盛りラーメンにかぐやは項垂れた。山の様に盛られたネギとメンマ、それを支える様に何枚ものチャーシューが置かれている。ざっと見て、十枚はあるチャーシューだけでお腹一杯になる程だ。何処から手を付ければ良いのか。初めて触れる大盛りメニューにかぐやはなす術もなく、時間だけが虚しく過ぎていく。そんな折、未だにラーメンを食べないかぐやに訝しんだ表情で鷺宮は話しかけた。

 

 

 

「かぐやさん 早く食べないと麺が伸びるよ」

「え、ええ。そうですね。今食べます」

 

 

 かぐやの苦悩など素知らぬ顔で鷺宮は早く食べる様に促してきた。これに些か苛立ちを感じたが、美穂や店主の手前、怒る訳にいかない。仕方無く食べ始めたかぐやであるが、無論食べ切れる筈も無く。最後は美穂と鷺宮の二人に助力を頼む事になった。今後出かける際、二度と鷺宮に行く場所を任せないと心に誓ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

【本日の勝敗 鷺宮の裁量を信用したかぐやの敗北】

 

 

 生徒会に集まり各々が仕事をしている中、ふと白銀は役員達に話しかけた。

 

 

「明後日は期末試験だが、皆は勉強は捗っているか?」

「ええ勿論ですよ。いつだって怠った事はありません」

「そうか。それと今回は試験に備えて、試験中は生徒会を休もうと思っている」

「唐突だね。普段なら生徒会業務もやっているのに」

 

 

 

 白銀の急な宣言に鷺宮は驚いた様子で言葉を返す。本来なら試験期間でも白銀は生徒会を休む事はせず、生徒の為に働いていた。故に今回も通常通りに行くのだろうと思っていたのだが、今回は違う様である。そんな役員達に説明すべく、白銀は再び口を開いた。

 

 

 

 

「本当なら必要ないと思うのだがな。だけど今は生徒会も人が増えた。今まで通り此処で勉強するにしても集中出来なかったら本末転倒だ。だからこそ、しっかり勉強が出来る環境を作らないといかんと思った訳だよ」

「成程~、会長は皆の事を考えているんですね」

「当たり前だろう。生徒会長として当然の事だ」

 

 

 無論、この言葉は嘘である。内心では白銀は誰の事も気に掛けてはいない。試験において一位の座を守ってきた白銀にとって、試験期間は自分以外の同級生は敵でしかない。元々はかぐやだけを注視していたのだが、最近では鷺宮も順位を上げた事が白銀を追い詰める形になっている。理由はそれだけでない。以前と違い、かぐやとの間で起きた様々な出来事も原因だった。その所為か、自然とかぐやを目で追うようになってしまい。生徒会室で勉強しようにも集中出来ないのである。

 

 

「そうですね。確かに今の時期は図書館も人で溢れていますからね。自分の家でやる方が得策ですよ」

 

 

 

 そう言うかぐやだが、実際は嘘であった。家でやるにも一切勉強に集中が出来ていない。数日前、ふとした事で携帯が壊れてからスマホに乗り換えたかぐや。当然の事ながら、勉強する際にも手元に置いている。しかし、度々スマホに意識を持って行かれる事が増えていた。気軽に友人や白銀と連絡が取れるようになってから、一度触れてしまうと勉強そっちのけで会話に夢中になってしまい、気付けば全く勉強が進んでいない事に気付いて落ち込むといった悪循環に囚われていたのだ。

 

 

 また石上に勉強を教えている為、自分の勉強時間が減っているのも理由だった。それにかぐやが最も危惧しているのは鷺宮の存在である。いつぞやの試験では一点の差で勝てたが、次はどうなるのか分からない。何気にかぐやも追い詰められていた。

 

 

 

 

「試験休みは良いですけど、根詰め過ぎては駄目ですよ。それで逆に成績を落とす人もいますから」

 

 

 話を聞いていたミコも白銀に賛成の意を示した。口では根を詰めるなと言いつつも内心では喜んでいた。白銀と同じく学年一位の重圧と戦っていた。風紀委員として他者に強く言えるのは学年トップの威光があるからである。それを無くしてしまえば、今後は自分の言う事など聞いてくれない。そんな不安を抱えていた。故にじっくり勉強する機会を与えてくれた白銀に感謝していた。

 

 

 

勉学に励む者がいる一方で全く関心を示さない者もいる。それは例に及ばず藤原千花であった。口では成績が落ちる不安を溢しているが、実際の所は全て嘘偽りである。両親からお小遣いを減らされたのは事実なのだが祖父からたんまりと貰っている為、懐が寂しくなる事は無い。

 

 

 

 当然ながら役員達は彼女の嘘に気付いていた。しかし、それを口にしないのは自分達にはどうでも良い事だからである。様々な思惑が交差する生徒会室で鷺宮だけは平然としていた。以前はかぐやを蹴落とそうと鷺宮も相手の足を引っ張る行為に加担していたが、白銀と同様に鷺宮もかぐやと色々な出来事があって、今は蹴落とすという考えは捨てていた。それ故に争う理由が無い為、肩の力を抜いて勉学に励んでいた。

 

 

「そういや、今日は石上はどうしたんだ?」

 

 

 そんな時、白銀は生徒会に来ていない石上の事をかぐやに尋ねる。いつも顔を出す彼が今日に限ってきていなかった。

 

 

「さあ? 私も知らないですね。まあ今は試験期間中ですし、既に家に帰宅して勉強しているのでしょう」

「そうか。あいつも前回の事を反省している様だな。やる気を出してくれるのは俺としても助かる」

「実際はゲームしてるんじゃないですか? 石上くんの事ですし、勉強すると思えませんねぇ~」

「あり得ますね。石上の事ですから」

 

 

 かぐやの言葉に感心する白銀と対称に藤原とミコは石上の事を信用していなかった。しかし、かぐやの表情には何処か安堵の色が浮んでいた。その事に鷺宮と白銀は気付いたが、口に出す事はしない。水面下で何かをしているとしても、それはかぐやと石上の問題だ。それにかぐやが動いているのであれば、事態は好転しても最悪の事態は起きないだろう。そう信じているからだ。

 

 

 

 

 

 それから数日後。公開された試験結果は学年の一位を白銀とミコは死守し、次にかぐやが二位であった。その他に石上もある理由から勉強に励み、試験の順位を上げる事に成功したものの。自身の掲げた目標に届かず、一人悔し涙を流していた。最も驚くべきはかぐやと同じ場所に鷺宮の名が公開されている事である。今まで白銀に負けていたかぐやだが、自分に並ぶ者はいなかった。しかし、今回は鷺宮がかぐやの隣に並んだ。これを知って、負けた悔しさと強敵が増えた事にかぐやは、後輩の石上の前にも関わらず、地団駄を踏んでいた。それぞれの思惑が交差する四回目の期末試験は幕を閉じる。

 

 

 

 因みにこの出来事が切っ掛けで鷺宮を尊敬した女生徒達によって、鷺宮ファンクラブが結成される事になるのだが、これが後に鷺宮とかぐやに面倒を齎す羽目になるとはこの時、予想もしていなかった。

 

 

 

【本日の勝敗 今回も一位を逃したかぐやの敗北】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




夏以降からペースが落ちているので何とか元に戻したい。


次回から文化祭編に突入します。

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