三者面談!!
進路を決める為、二年生達は親を交えて行われる。進学か就職か。それは白銀達にとって、将来を決める大事な相談でもある。
「あれ? 今日、四宮先輩と藤原先輩は来てないんですか?」
「二人は今、三者面談だよ。二年生は全員だけど、私と白銀くんは最後の方だからね」
「ああ。来たる文化祭に備えて少しでも仕事を進めておこうと思ってな」
かぐや達の不在を尋ねる石上に鷺宮と白銀は答えた。それを聞いて、石上は顔を顰めると自分の気持ちを口にする。
「あー もうそんな時期なんですね。嫌ですね。僕達、まだ高校生なのに進路を決めるなんて早計ですよ」
「馬鹿言ってんじゃないわ。そういう事を言ってる間に時間は過ぎていくのよ。いざやりたい事が出来た時に行動しても遅いの。あんたも今から真剣に考えておいたら?」
何処か舐めた様な発言をする石上にミコが釘を刺す。彼女の言葉に苛立ちを覚える石上だが、言っている事は正論である為、言い返す事は出来無かった。二人のやりとりを見ていた白銀はふと思う。普段から言い争うミコと石上であるが、それは互いの事を分かっている故の事だ。そういえば自分は鷺宮の事を良く知らない。同じクラスメイトであるが、話すのは大体が生徒会の事ばかり。偶に鷺宮自身の事も話す事もあったが、それらは断片的な物に過ぎない。そんな彼女は自分の将来をどう考えているのだろう? 純粋に気になった白銀は鷺宮に尋ねてみた。
「そういや鷺宮は進路はどう考えているんだ?」
「…私の進路? それを聞いてどうするのよ」
「いや参考までな。先の事とはいえ、他の人の意見も聞けたらと思ったんだ」
「成程ね。私は進学するつもりだよ。やりたい事も一応あるから」
「やりたい事? 将来の夢って奴か」
「うん。そんな所、私は考古学者を目指してるの。世界を渡り歩いて、まだ知られてない歴史を研究したり、自分で発掘した歴史の品を母の博物館に展示する。そうして多くの人に見てもらうのが私の夢だよ」
「へえ。そいつはロマンがあって良いなぁ。俺もいつかは見てみたいものだ」
「そうでしょう。だったら一緒にやってみる? きっと楽しいと思うわよ」
何気ないその一言に白銀の胸が高鳴る。此処に至り、白銀は初めて鷺宮を異性と意識した。今まではかぐやだけに抱いていたその感情。これが何であるのか分からない程、白銀も鈍感ではない。しかし、理解出来ないのは何故、鷺宮を異性と感じたのか。それが理解出来ずに白銀は困惑していた。一体、自分が彼女を意識する要素は何処にあったのだろう。過去の事を振り返ってみてもその答えは見つからない。
「さて私の番も来るだろうし、もう行くわね。また明日」
「あ、ああ。また明日な」
「面談、頑張って下さいね」
「鷺宮先輩、お疲れ様でした」
生徒会室を出た後、鷺宮は恥ずかしさで悶えていた。先程は夢を語る事に無我夢中だった為、気に留めていなかったが、ふと冷静になると途端に頬に熱が集まるのを感じて鷺宮は面談を口実に部屋を抜け出した。しかし自分は何故、あの様な事を白銀に言ってしまったのか。その答えは明らかだった。そう、自分は白銀御行に好意を抱いている。それも一人の男性として。
(もう隠すのはきついなぁ。幾度も誤魔化して来たけど、そろそろ限界だよ)
何時しか鷺宮の心に宿った恋心。最初は一時の迷いだと己に言い聞かせ、その気持ちを誤魔化してきた。しかし、時間が経つにつれて膨れ上がる一方であった。かぐやの気持ちを優先すれば、自分の心が圧し潰されそうになる。だからと言って自分の気持ちを優先すれば…この学園で出来た大事な友達を裏切る事になってしまう。どちらを選んでも自分の心を苛む結末が待っている。一体、どうしたら良いのだろう。心に迷いを抱えながら、鷺宮は重い足取りで三者面談の部屋へ向かった。
その後、かぐやの三者面談に白銀父が代理として参加したり、早坂の隠れた性癖が藤原に知られたりと一悶着があったものの。鷺宮達の三者面談は何とか終える事が出来た。
「まさか璃奈の夢が考古学者だったとはね。しかも発掘品を私の博物館に展示したいと聞いた時は、とても嬉しかったわ。その夢が実現する日が楽しみにしてるわよ」
「う、余り期待されるのも辛いんだけどね。まあ実現出来る様に頑張るよ」
学校の帰り道、秋葉が運転する車内で二人は談笑していた。そんな折、秋葉は何か思い付いたのか。ニンマリと笑みを浮かべるとある話題を切り出した。
「所で璃奈…。貴女、誰か気になる人はいないの?」
「え? い、いきなり何よ。別にいないけど…」
「本当? 何も隠す必要ないのよ。貴女くらいの年頃なら普通の事だもの」
「だからいないって!! 第一、今は生徒会の仕事もあるし、それどころじゃないよ」
秋葉の追及にドキリとしたが、鷺宮は何とか誤魔化す事に成功した。暫し怪しんでいた秋葉だったが、普段の表情と変わらないと見るや、それ以上は言及する事はなく、真面目な表情を浮かべると言葉を続ける。
「そう。だったら、誰か良い人を見つけなさい。恋は人として成長するのに大切な事だからね」
「恋がどうして成長に繋がる訳? 流石に意味が分からないよ」
「単純な話よ。大人になれば、異性にしろ同性にしろ。人付き合いに自分の主観が入るでしょう。恋愛となれば尚更ね。この男性は自分の人生を預けるに値する者なのか。そういう観察眼は恋をしないと育たないの。何よりも周りの人間関係も気にする必要もあるから見極めるのが大変だしね。それに璃奈。周りを顧みずに好きな人に時間を割けるのは、今だけなのよ。難しい事を言っているのは分かっているけど、一度くらいは恋をしなさい」
「…難しいけど善処はしてみる」
母の言葉は並々ならぬ重みがあった。無論、恋はやろうとして出来る物ではないと以前の鷺宮ならば、先程の話を受け流していただろう。しかし、今の鷺宮に気になる異性が心に潜んでいた。確かに誤魔化して逃げるだけでは変わらない。今度の文化祭に腹を決めて。白銀くんに想いを打ち明けよう。例え…自分の大事な友達を裏切り、悲しませる事になろうとも。
【本日の勝敗 鷺宮の勝利 自分の気持ちに向き合う覚悟を決めた為】
三者面談当日の夜。自室で白銀は物思いに耽っていた。彼が考えている事、それはかぐやへの告白。彼女と出会ってから、初めて抱いた人を好きになるという感情。だが、今までは振られてしまうのではないかという気持ちと変な意地が邪魔をして、想いを打ち明ける事が出来なかった。その上、遠くない未来に自分は国を出て海外へ進学する。まだ時間はあるとはいえ、のんびりとしてはいられない。今度開催される文化祭で自分はかぐやへ想いを告げる。
そう決意した時、脳裏に浮かんだのは鷺宮璃奈という少女だった。彼女を意識し始めたのは…つい最近の事。あれは二人で仕事をしていた時、唐突に口にしたキスしよう発言。思えば、あれが切っ掛けで偶に鷺宮を視線で追っていた事もある。
彼女に対する気持ちは何なのか。それが理解出来ないでいた。かぐやに想いを寄せていなければ、この感情を恋だと思った事だろう。誰かに相談しようにもそれも出来ない。
考えた末、白銀が出した結論はかぐやの告白だけに集中する事だった。その結果として恋が成就すれば、鷺宮に対する気持ちも落ち着くだろうと考えたからである。ならばと白銀はかぐやへ告白する為の作戦を練り始めた。
時を同じくして鷺宮もまた自分の心に潜む感情と向き合っていた。夏の頃に芽を出したこの気持ちは次第に膨れ上がり、今では誤魔化す事も難しい。それでも強引に押し殺そうとした時、母の言葉が彼女の背を押す切っ掛けとなり、心に浮かぶ
(告白すると決めたのは良いけれど。問題は白銀くんにどうやって想いを伝えるか。重要なのはそこよね。時折、意識させようと言葉や行動で示して来た。困惑する事はあっても、此方に好意を抱かせるまでは行ってない。それも仕方無いか、白銀くんがかぐやさんを好きになってから一年も経っているもんね。かぐやさんもそうだし、間に入って意識させるには生半可な気持ちは通用しない)
未だに二人は恋人の関係では無いが、お互いに好き合っているのは事実である。こうなるのだったら、最初に意識した時に素直になれば良かったと後悔してもあとの祭り。状況を顧みれば、鷺宮の勝機は薄いのは明白。だからこそ、最早手段は選ばない。隙があれば己の気持ちをぶつけていくのみ。以前に自分がキスしようと揶揄った時、白銀は照れた様子を見せた。それは少なからずとも自分を異性と認識している証拠だ。勝機があるとすれば、かぐやが出来ない色仕掛けだろう。無論、これは諸刃の剣だ。一つ間違えると白銀は勿論、生徒会メンバーとの関係に溝を生む危険がある。その為、仕掛ける場合は慎重にしなくてはならない。
気付けば時計の針は24時を過ぎていた。道理で眠気を感じる筈だ。
「方針は決まった。その前にやるべき事は……一つあるわね」
床に就きながら鷺宮はぽつりと溢した言葉が静寂の中に木霊する。静かだがその言葉には強い意志が籠められていた。
翌日、鷺宮とかぐやは生徒会の仕事で校内を回っていた。文化祭では数多の催しが行われるものの。中には規定に反する催しも存在する。当然、そういった物があれば注意をするのも生徒会の役割だ。幸いにして今回は規定に触れる催しはなく、今は見回りを終えた所である。
「今回の文化祭は特に問題を起こす生徒達はいない様ですね」
「前回は凄かったからね。一番疲れた記憶があるわ」
「…その原因が私達の学年なのが汚点ですよ」
「同感。あれははっちゃけ過ぎだよね。まあ今回もある意味では去年よりも浮かれそうだけど」
「言わないでください。考えると胃が痛くなります」
鷺宮の言葉にその未来を想像したのだろう。眉間に皺を寄せて、かぐやが苦言を洩らす。普段なら怖い仕草も慣れた今となっては、可愛く見えるのはきっと気の所為ではない。それだけ鷺宮とかぐやの距離は近付いた証拠なのだから。ふと周りを見渡して誰もいない事を確認した後、鷺宮はある話題を切り出した。
「そういえば、秀知院の文化祭ではハートの形を贈って意中の人に告白する。そんな伝統みたいな事がある様だけど、かぐやさんはどうするの?」
「ど、どういう意味かしら? 何故、いきなりそんな話をするのよ」
「決まってるじゃない。此れを機に白銀くんへ告白する為でしょうよ」
「そんな事はしませんよ。第一、私から告白したら癪じゃないですか」
唐突な話にかぐやは困惑しながらも話題を逸らそうとするが、鷺宮も追及を止めない。鷺宮の様子からこの話から逃れる事が出来ないと悟って、かぐやは観念するもその口から出るのは後ろ向きな言葉だった。
(予想通りの返答が返ってきた。ここで更に攻めるとしようか)
思惑通りに事が進み、鷺宮は内心で笑みを浮かべる。そして一呼吸吐いてから、鷺宮は静かに口を開いた。
「もし、かぐやさんが告白しないのなら私が白銀くんを貰うわよ」
「…な、それはどういう事ですか!? 璃奈さんは私を裏切るつもりじゃないでしょうね」
「どう思うのかはかぐやさんに任せるわ。只、言うとすれば私も自分に素直になろうと思ったのよ。正直、かぐやさんに黙っておこうと考えていたんだ。けどさ、それは私の理念に反する。だからこそ、堂々と戦線布告する事にした」
「成程。璃奈さんの気持ちは分かりました。まあ私も白状するなら、璃奈さんが会長に好意を抱いているのは前から知っていました。良いでしょう。この勝負、受けて立ちます。そして私は絶対に負けませんよ」
そう言い放ちながらかぐやは鷺宮に手を差し出し、鷺宮もその手を握ると強い握手を交わした。この行動には鷺宮も驚きを隠せなかった。何せ、裏切った相手に容赦しないのが四宮かぐやという人間だとそう思っていたから。本音を言えば、勝負をするまでもなくかぐやが四宮家の力を使って自分を潰しに来るのではないか。そんな不安と恐怖を感じていた。しかし、予想は外れてかぐやは取ったのは挑戦の受諾だった。
最もこれに一番驚いているのはかぐや本人である。目的の障害は如何なる手段を用いても排除する。四宮家の家訓とも言えるこの真実がかぐやの行動理念でもあった。だけど、この理が崩れたのは白銀を初めとする生徒会の仲間と過ごした時間があったから。そうでなければ、きっと今も”氷のかぐや姫”と呼ばれた頃のままだったに違いない。そして目の前に立って戦線布告した彼女も容赦なく、排除していただろう。
「実を言うと私は知っていました。璃奈さんが会長に惹かれていた事を。そして貴女がその気持ちを隠していた事を悲しいとも。だから今回の戦線布告でホッとしたのも事実ですよ。これで気兼ねなく、私も自分の道を進む事が出来ます。只、分からない事が一つだけ。どうして今になって私に戦線布告したんですか?」
かぐやは気になっていた事を鷺宮に問い掛けた。一体、何が切っ掛けで鷺宮の心境が変化したのか。かぐやは知りたかった。もしかしたら、その中に自分が求める何かが存在するのではないか。それを直感で感じていた。
「母の助言だよ。人として成長したいなら、恋の一つくらいしなさい。そう言われたのが切っ掛けだった。確かに一度くらい、周りを顧みない恋も良いなぁと思ったのよ」
「そうでしたか。素敵なお母様ですね。そういう風に背中を押してくれる親がいるのは羨ましい限りですよ」
「ふふふ。ありがとう。さて、そろそろ生徒会室に戻ろう。皆も心配してるだろうから」
「そうですね。特に藤原さん辺りが騒いでそうだわ」
お互いに笑い合うと、二人は生徒会室へ足を進めた。
【本日の出来事 かぐやへの宣戦布告 恋愛勝負の始まり】
鷺宮がかぐやに宣戦布告した夜。いつもと雰囲気の違う主に早坂は戸惑った。学園で何かあったのだろうかと尋ねれば、かぐやの話に早坂は衝撃を覚える。
「恋の宣戦布告ですか。りっちゃんも思い切った事をしましたね」
「ええ。私も驚きましたよ。しかし受けた以上は負ける訳にいかないわ」
「分かりました。りっちゃんの事ですから…明日からガンガン攻めると思います。なのでかぐや様も引かずに攻める必要がありますよ」
此処に来て、かぐやに強力な恋敵が現れたと早坂は思った。普段は物静かな子であるが、その気になった時の彼女は物怖じせずに前を突き進む。白銀との恋愛ではかぐやがリードしているものの。鷺宮に勝機が無い訳ではない。今の様に相手からの告白を待っていては状況は引っくり返る事もあり得る。
それはかぐやも重々承知の様で…白銀の本心を引き摺り出す為にある作戦を決行するらしい。恐らく自分の役割は邪魔者を防ぐ事だろう。難儀な役目だが、今回のかぐやはいつも以上に気合が入っている。どうやらライバルの出現が良い刺激になった様である。
翌日、作戦を実行するべくかぐやは早速行動を開始した。その作戦とはコスプレ作戦。文化祭で行う一部の催しでは雰囲気を出す為、生徒達はコスプレをして接客する案が採用している。それはかぐやのクラスが行う喫茶店もこの案を利用していた。
(今回の作戦、普段と違う私を見せる事で会長を意識させる。本来ならこの様な小細工は必要ありませんが、偶には攻め手を変えるのもありでしょう。さあ、今日こそ会長の本心を露わにしてみせます)
自信満々のかぐやだが、此度も後の先を取る戦法。攻めると言いながらも恋愛に奥手なかぐやが一朝一夕で変われる筈もなく、根本的な部分は何一つ変わっていない事に気付かないまま。かぐやは生徒会室に足を踏み入れた。
「じゃあ、自分は文化祭で使う費用の計算をすれば良いんですね」
「うん。それと今度の会合は学年別にあるでしょ。三年の方は会長とかぐやさん。二年の方は私と藤原さんで当たるから、一年の方は石上くんと伊井野さんでお願いするわね」
「…あいつと一緒にですか? 何だか面倒な事になりそうですね」
「そこは上手くやって頂戴。伊井野さんには私から言っておくからさ」
自分と組む相手を想像して、顔を顰める石上を鷺宮は窘める。ミコと石上の仲が悪いのは知っているが、流石に生徒会の仕事にまで持ち込まれたら堪らない。本人もそれは理解しているらしく、渋い顔で頷いた。
「遅くなりました。生徒会室で何やってんすか藤原先輩。全く、人前で良くそんな恰好が出来ますね。相変わらず恥が欠落してるんですから「石上くんストップ」え? 何ですか…って、四宮先輩!?」
部屋に入った瞬間、石上の毒舌が炸裂するも本人は言ってる相手に気付いておらず、慌てて鷺宮が止めた時は手遅れであった。此処で漸く相手がかぐやだと知って、恐怖で震えながらフォローを入れる石上だが、放った言葉はかぐやの心を容赦なく打ち砕き、彼女はぺたりと膝を突くと項垂れてしまった。
一体何があったのか。状況を把握しようと部屋を見れば、机の上に広がる衣装の数々が目に映った。その衣装はどれも女性物であり、かぐやが白銀に対して仕掛けた挙句、先程の出来事に至る訳である。
(…成程。普段と違う姿を見せて白銀くんを意識させようとした訳ね。そして結果は失敗に終わったのか。しかし、こうも早く動くとは思ってなかった。これは私も本腰入れていかないとリードされてしまうわね)
かぐやの目論みが失敗した事に安堵すると同時に鷺宮は焦りを抱いた。昨日の今日で行動するのは予測していたが、まさか此処まで攻めの姿勢を見せられたのは予想外であった。自分も何か行動せねばと鷺宮は未だに項垂れるかぐやを見つめながら考えていた。
【本日の勝敗 かぐやの敗北】
今回のお話はいかがだったでしょうか?読んでくれた方が楽しんでくれたら嬉しいです。
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それと毎度、誤字報告をして下さる方に大変感謝しています。