今回は一万字超えですので、少し長めとなってます。
それでは最新話をお楽しみください
夕方 人のいない体育舘に白銀はいた。
彼は手にしたボールを高く掲げて打ち落とそうとして…盛大に失敗した。
「何故だ!?あとちょっとだったのにぃ」
そう、白銀は極度の運動音痴であった。勉学の分野で優秀な彼も運動全般に関しては、他人に見せられない程の壊滅ぶりである。長年の新聞配達、夏場は引っ越しのバイトに毎日の15キロに及ぶ自転車通学。これを顧みれば白銀の身体能力は低い訳ではない。彼が運動音痴たる所以、それは絶望的な運動センスの無さである。
(これは不味いぞ。来週にはバレーの授業があるというのに…。このままでは俺は大勢の前で恥を晒す事になる。それは絶対に駄目だ。何としてもマスターしなければならない。もし、それが出来なければ…)
【会長~ 真面目にやってくださいよ。何、死にかけのアルパカみたいに寝っ転がってるんですか?】
【え?まさか…会長って、バレー出来ないんですかぁ?だから死にかけのアルパカみたいに寝てるのかぁ】
【嘘!?あの死にかけのアルパカみたいなの会長?やだぁみっともなーい】
【あらあら。会長ともあろう者が大勢の前で恥を晒すとは… お可愛い人】
「駄目だぁ。そんなの絶対に駄目だぁぁぁぁ。ぐわぁ…」
最悪の未来を想像して、白銀は躍起になるが、勢いで上達するほど現実は甘くない。そして最悪とは無情にも畳み掛ける様に来るものである。
「あれ?会長…此処で何してるんですか?」
「一人の様だけど、何かの練習?」
「な、鷺宮に藤原書記!?二人共、何故ここに?」
「あ、実は私…体育舘に忘れ物したので取りに来たんですよ~」
「私は体育舘の確認だよ。先生からまだ体育舘の鍵が戻ってないと言われて見に来たのよ」
突然、現われた二人に白銀は酷く動揺する。この時間は誰も来ない事を入念に確認した上で白銀は体育舘を使用していた。それ故、彼は気兼ねなく練習に励む事が出来たのだ。
しかも最悪なのが自分の恥ずかしい姿を目撃された事である。特に努力をせずに物事をこなす文武両道の秀才。白銀はこのイメージを必死に守ってきた。しかし、二人の口から自分の欠点が周囲に伝われば、そのイメージは地に落ちる事だろう。
(見られた!! 俺の情けない姿を見られてしまった。はは…終わったな。これからは周りから嘲笑されて過ごす事になるんだろうな。いや…待てよ。この二人の場合、鷺宮なら頼めば黙ってくれるだろう。それに藤原書記は何と思われてもいいか。例え、彼女がどういっても嘘だと貫き通せばいいだけだ。来週までに上達すれば、嘘も真になる)
今までにない絶望を感じた白銀だが、この二人なら知られてもダメージが少ないと気付いた。寧ろ、下手に誤魔化す方が却って己の首を絞める事になる。ならば...堂々として話せばいいのだ。
「そいつはすまなかったな。いや、来週はバレーの授業があるだろう?俺はサーブが少し苦手でな。その練習をしていたんだよ」
「そうだったんですか!! 会長、スポーツでも熱心なんですね~」
「本当にね。それで練習の成果は出てるの?」
「それがさっぱりでな。時間も無いから困っている所だ」
白銀の策は上手く行った様で二人は軽蔑する様子もなく、接してくれた。そんな時、藤原がある提案を白銀に持ちかけた。
「それでしたら私達が教えてあげましょうか?」
「あのなぁ~ 簡単に言うが、人に教えるには自分が出来てなきゃ駄目なんだぞ」
「むぅ。私だって人並み程度に出来ますよ。ほら」
「すげぇ。なんて洗練されたサーブなんだ!!」
「いや、普通のサーブじゃない。大袈裟すぎるわよ」
そう言って藤原はサーブを披露してみせた。一見、只のサーブで別段騒ぐほどでない。しかし、彼の目には何よりも美しい姿に見えていた。その為、興奮する傍らで引いている鷺宮の姿に気付いた様子もない。
「すごいでしょ~ 私達に教われば、この程度は朝飯前ですよ。さあ、会長。人に教えを請う時はどんな態度が適切ですかねぇ?」
「う、お…教えて下さい」
「そこまで嫌なの?…って、ちょっと待ってよ。何で私まで数に入れてるの?私は教えるなんて一言も言ってないわよ」
「いいじゃないですか。三人揃えば文殊の知恵と言いますし、それに鷺宮さん。困ってる会長を見捨てるんですか?同じ生徒会の仲間なのに…」
「そ、それはそうだけどさ」
「いや‥別に無理して付き合う事はないぞ。これは俺の問題だからな」
さり気なく自分を巻き込んだ藤原に不満を溢すが、正論を述べる藤原に返す言葉が無かった。此処で知らない振りをして、見捨てるのは確かに寝覚めが悪い。過去、鷺宮は己の窮地を白銀に助けられた事がある。あの時、他の人と同じ様に自分を見捨てる事も出来たのに彼はそうしなかった。ならば自分の答えは一つだ。
思案した結果、鷺宮も白銀の特訓に手を貸す事を決めた。
「分かった。私も協力するよ」
「いいのか?そうか。じゃあ、宜しく頼むぞ二人共」
「それなら早速始めましょ。まずは一度やってみてください。それを見て、駄目な所を私達が指摘しますので」
「よし。それじゃいくぞ」
藤原の指示通り、サーブを開始した白銀。しかし、何度やってもボールを打つ手は空振りし、それ処か自分の顔を打つ始末である。この有様に鷺宮と藤原は怪物を見るかのような視線を白銀に向けていた。それ程までに酷い光景であった。
「どうして…こうなるんですか?」
「実は出来るけど、うけ狙いでやってるとかじゃないよね?」
「そんな訳あるか。俺自身、何度やっても上手くいかないんだよ。ボールを打とうとしたら、顔に当たるしな。あちらを立てれば、こちらが立たない。まさにデッドロック状態だ」
「あ、はい。そうですね。ま、まあもう一度やってみてください。今度は目を大きく開けて打つんですよ」
「何を当たり前の事を言ってるんだ。目を開けなきゃボールは打てないだろう」
「そうよね。だけど、今は言う通りにしてみてよ。今度は動画を撮るし、欠点を分かりやすく教えられるから」
「分かった。じゃあ、いくぞ!! せやっーー」
二人に言われた通り、白銀は再びサーブを行った。しかし、案の定…ボールは白銀の手に触れる事なく、床を転がる結果に終わる。
「ほらな。変わらんだろう?」
「あ、開いてない!! 一ミリたりとも目が開いてないんです」
「うん。動画を撮りながら私も見てたけど、全然開いてないよ。これじゃ、何度やっても上手く行かない筈だよ」
「馬鹿な…俺はしっかりと開けていたぞ」
「いや、それは白銀くんの言い訳だよ。これが証拠の動画ね」
二人の指摘に半信半疑の白銀だったが、鷺宮がスマホで撮影した動画を見せられて本人も絶句した。
「嘘だろう。こ、これが俺なのか? もしやこれがイップスというやつか?」
「あほか。只の運動音痴が何を言うのよ」
「そうですよ。プロじゃないのにおこがましい」
「まずは基本的な動作から覚えていこうよ。白銀くんの場合、ボールを打つ時に目を瞑る癖を改善しないとね」
「それなら目を開けたまま、ジャンプする所から始めましょう」
「お、おう。てか、水の中で目を開けるみたいな事。初めて言われたな」
「私も初めて言いますよ。それより、私達はビシバシいきますからね。覚悟してくださいよ」
「ああ。頼む」
こうして二人による白銀の特訓が始まった。最初は基本動作を体に覚えさせるべく、トランポリンを使ってジャンプの練習、続いて行ったのはサーブの素振り。二人は三日間、これを徹底して白銀にやらせた。
朝夕、三日間の練習で僅かに上達したが、それでも白銀は妥協する事なく練習に励んでいた。何故、こうまでして努力するのか?二人には分からなかった。この三日の間に白銀が行った練習は経験者でも音を上げる程、密度の濃いものだった。それを初心者の白銀は一言も不満を口にした事はない。だからこそ、二人は気になっていた。その事を思い切って二人は尋ねてみた。
「はぁはぁ。まだ駄目だな。もう一度やるか」
「…。会長、どうしてそこまで頑張るんですか?」
「そうよね。一応、前よりは上達してるんだし、もう十分だと思うわよ」
「確かにそうかもしれん。しかし、カッコ悪い所は見せたくない。やはり見せるとしたらカッコ良い所だろう。それは俺の意地でもある」
カッコ悪い所よりカッコ良い所を見せたい。人が努力をする上で単純明快な答え。これに藤原と鷺宮は感銘を受けた。何だかんだで人が努力する姿は嫌いでない。こうなったらとことんまで付き合おう。気付けば、二人も白銀に感化されていた。
それから数時間後、陽も暮れて外はすっかり暗くなっていたが、夢中で特訓を続けていた。そして遂に…努力が報われる時が訪れる。
「これでどうだぁっ!!」
「おおおおおおお!! や、やりましたねぇ~会長ぉぉぉ」
「うん。私も感動したよ。おめでとう白銀くん」
血の滲む努力の末、白銀は見事にサーブを習得した。特訓に協力した二人も思わず涙ぐみ、感動に浸る。
「ああ。二人のおかげだ。さて、それじゃあ…二人共。次はトスとレシーブを教えてくれ。来週までにこれもマスターしておきたいからな。ハハハハハハハハ」
「「・・・ヴェェェェェェェェェェェェェェェェッ!?」
そう。バレーの基本はサーブだけではない。この事を二人は失念していた。先程感じた感動の気持ちは完全に消し飛び、二人の心に飛来するのは言いようのない絶望だけであった。
一週間後、二年合同の体育授業で行われたバレーで白銀は活躍し、周りの声援に笑顔を向けていた。
「会長、今日は大活躍の様ですね。って…何で鷺宮さんと藤原さんは泣いてるの?」
「はは、何でだろうね?私も分からないけど、涙が止まらないのよ」
「それはきっと、我が子の成長が嬉しいからですよ。そうに決まってます」
「わ、我が子?二人はいつから会長の母になったの!?」
二人の言葉にかぐやは困惑するが、己の本能がそれ以上聞くなと叫んでいるのを感じて…見ないふりをした。そして一件落着に見えたこの騒動は始まりに過ぎない事を二人は知らない。
【本日の勝敗 白銀&藤原・鷺宮ペアの勝利】
「こんにちは」
「あ、鷺宮さん。こんにちは~」
「こんにちは。今日は遅かったですね」
「うん。さっき、先生に呼ばれて職員室に寄ってたからね。これを処分してくれってさ」
そう言って、鷺宮はある本を机に置いた。それは一冊の少女漫画で教師が生徒から没収した私物である。
「…またですか。以前も似たような事がありましたよね?最近、生徒達の校則違反が多いですね」
「そうね。読むのは勝手だけど、違反するのは問題だよ」
「…あの~ 皆さん、良かったら少し読んでみませんか?私、少女漫画は一度も読んだ事が無いんです」
「へえ、それは意外ね。まあ…此処でならバレないし、別にいいわよ」
「そういえば、藤原さんの家では漫画を読む事を禁止されてましたね」
「ええ。もし決まりを破れば大目玉を食らいますからね。以前、破った時はペスと犬小屋で寝る羽目になりましたよ」
藤原は家の家訓で漫画を読む事を禁止されている。故に今まで彼女は一冊も漫画という物を読んだ事はない。駄目と言われるとやりたくなるのも人の本質である。しかし、それを破った際、自分に課せられるペナルティも大きくなる。だが、家族にバレない今なら存分に堪能出来る。そのチャンスを捨てるのは勿体無い。
「そんな事があったんだ。相当厳しいんだね」
「…はぁペスとですか。そう、ペスと寝たんですね」
「かぐやさん。一応、補足ですけど、ペスと寝ると言っても変な意味じゃないですよ」
「わ、分かってますよ。何故そんな事を?」
「いえ、何となくですが…変な誤解をしてそうなので」
「あー 以前も私に変な事を言ってたもんね」
「あ、あの時の事は忘れてください。今は独学でもしっかりと性知識について学びました。ですから心配は不要です!」
藤原と鷺宮の言葉にかぐやは赤面して反論を返した。以前、鷺宮にとんでもない発言をした事は事実だが、それを蒸し返されるのはかぐやも面白くない。いつまでも同じだと思われない様、かぐやも言うべき事をしっかりと口にした。
「本当ですか?往々にして大事な所は教科書に載ってない物ですよ」
「まあまあ。藤原さんもそれくらいにしておこう。折角だし、三人で読もうよ」
「そうですね。実を言うと私も気になってますから。早く読みましょう」
何だかんだで鷺宮とかぐやも女子である。普段読まない少女漫画に関心を抱いていた。三人は肩を並べて座ると少女漫画を読み始める。何気なく開いたページに載っていた物。それは上半身裸の男が薄着の女子に迫るシーンであった。思いの外、刺激の強い内容にかぐやは無言で本を閉じる。それに反抗したのは藤原。再び開こうとすれば、かぐやに閉じられては開こうとして二人は不毛な争いを暫し続けていた。やがて痺れを切らした、藤原が怒気を露わにしてかぐやに噛み付いた。
「もう!! かぐやさん 何で邪魔をするんですか~。一向に続きが読めないじゃないですか!!」
「だ、だって…あんな事を言ってるんですよ。た、食べるなんて、人に使う言葉ではありませんよ」
「これは只の表現だよ。食べたいくらい可愛いという意味で使ってるの。実際に食べる訳じゃないよ」
「それは知ってます!! 私が言いたいのは節操が無いという事ですよ」
鷺宮の言いたい事はかぐやも理解している。しかし、それでも漫画の内容はかぐやには刺激が強すぎたのだ。基本、少女漫画といえば恋愛物を軸とした作品がメインである。その恋愛物語は作者によって異なる為、子供向けのソフトな作風から大人向けのヘビーな作風と様々である。偶然、開いたページはそういう類の作品だった。無論、高校生からしたらこれも子供向けと思う作品なのだが、かぐやはそう思わなかった。
「じゃあ、他の奴も読んでみる?一概にあれが全部という訳じゃないからさ」
「えー 私はさっきの続きが読みたいですよ~」
「そう言わないの。あとで読んだらいいじゃない。此処は四宮さんに譲ってあげてよ」
「いえ、私はもう結構ですよ。今から図書室に用事がありますからね」
そう言うや、かぐやは足早に生徒会室を出て行った。あの様子だと、少女漫画は淫らな物という印象が強かったのだろう。これ以上、薦めても読む事は無いと分かった。その間に先程の作品を読みふけっていた藤原がぽつりと呟く。
「鷺宮さん…これ、凄くえっちですよ。何か、体が熱くなってきました」
「ちょ、藤原さん。鼻血が出てるよ。今すぐ拭いて」
「あ、すみません。だけど、こんな内容ならお父様が禁止にしたのも分かりますね」
「うーん。確かに進んで読むには抵抗あるよね」
「…これも凄いですよ。俺の物になれって、一度言われてみたいものですね」
「え?藤原さんって、こういうタイプが良いの?人の好みにケチを付けたくないけど、これはどうかと思うよ」
藤原の嗜好に鷺宮は眉を顰める。人の好みは千差万別とはいえ、異性に物扱いされる事は共感出来なかった。藤原も思う所があったのか、恥ずかしそうな表情を浮かべる。そして鷺宮にある事を問い掛けて来た。
「あの、聞きますけど…鷺宮さんはどんなタイプが好みなんですか?この漫画に載ってるなら教えてくださいよ~」
「私の好み?そうだなぁ。あ、これが良いかな」
鷺宮が選んだ物、それは一人の男を二人の女が争い奪う作品であった。愛憎の部分が色濃く表現されており、誰が見てもドロドロしていると分かる内容に藤原は唖然とする。まだ藤原が選んだ作品の方がソフトなのである。
「え?本気ですか?これ…相当えぐいですよ。正直、鷺宮さんも人の事を言えないじゃないですか!!」
「だ、駄目かな?ほら、好きな人を最終的に手に入れた時の達成感というか、充実感は共感出来るんだけどなぁ」
「出来ませんよ。そんなの絶対おかしいです。第一、片方が幸せになっても片方が不幸になるって、救いが無いじゃないですか。誰も幸せにならないのは嫌ですよ~」
「うぐ。そ、それはそうだけどね。ほら…これは漫画の中だけだし、実際に起こらない事は藤原さんだって分かるでしょ?」
想像以上の肉食系。鷺宮の隠れた一面に藤原はこう思った。
(まさか、鷺宮さんが肉食系女子とは知りませんでした。しかも嗜好もかなり歪んでいるし、この人に恋バナは迂闊に出来ません。下手したら寝取る事も鷺宮さんはやりそうで怖い。な、何とか話題を逸らした方が良さそうですね)
「そうだ。他のシチュエーションはどうですかね?例えば、これとか…」
「…どれどれ?これは流石に子供っぽいよ。私には合わないなぁ」
「やっぱりそうですよね~ これに関しては普通の意見で安心しました」
「あのね。私が歪んでるみたいに言わないでよ」
「あはは。ごめんなさい。さて、次読みましょう」
次に藤原が選んだ作品。それは二人の男女が同じイヤホンを使って曲を聴くという女子漫画では、定番のシーンであった。他の作品より、純粋な恋愛観を描いているものの。高校生には子供っぽいと感じる内容に鷺宮は共感する事は無かった。無論、藤原も同様であり胸を撫で下ろす。
その後、二人は思う存分に少女漫画を堪能していた。ああでもないこうでもないと嗜好について、話が弾む余り、生徒会の仕事をそっちのけで二人は少女漫画に熱中する。その後、図書室から戻ったかぐやに仕事をサボって漫画を読んでいた事がバレて、仲良く説教されたのは言うまでもない。
【本日の勝敗 少女漫画を通じてお互いの距離を縮めた鷺宮と藤原の勝利】
この日、鷺宮は人気の無い図書室で早坂と会っていた。それは日頃、陰ながら協力しているにも関わらず、一向に仲が進展しないかぐやと白銀の事を相談する為である。早坂は四宮家でかぐやから聞いた話、鷺宮は生徒会室で起きた事を互いに報告していた。
「へえ、二人で仲良く音楽を聴いてたんだ。そんなの漫画だけかと思ってたけど、実際にやる人もいたんだね」
「ええ。ですが、この話に続きがありまして…実は会長が聴いていたのは音楽じゃなく、フランス語講座だったようですよ。それでかぐや様…読んでいた少女漫画を思い出して、逃げ出したそうです。何でも会長に食べられるからと言ってましたね」
「あはははは。此処でそうなるかぁ。まあ、四宮さんの場合は仕方ないのかも」
しかし、鷺宮と早坂がしてるのは専ら白銀達の愚痴である。当初は真面目に対策を話し合っていたのだが、どちらともなく溢した愚痴が切っ掛けで今ではお互いの愚痴を言い合い、二人のストレス発散の場となっていた。
「次に仕掛ける策ですが、またりっちゃんの手を借してくれませんか?」
「別にいいわよ」
「ありがとう。りっちゃんにはいつも苦労を掛けますね」
「気にしないで。それで策って何?」
「…今回は相合傘を仕掛けるそうです。何でも近い内に雨が降ると知って、かぐや様が計画されました」
「成程。古い手だけど、効果はあるかもね。それで具体的に私は何をすればいいの?」
いつも突発な策に心良く協力してくれる鷺宮に早坂は心の底から感謝していた。彼女の協力を得てから、自分の心労も些か軽くなっている。だが、それは逆を言えば鷺宮に心労を与えている事を意味する。なるべくならそれは避けたい。だからこそ、今回の作戦で白銀達の仲が進展して欲しいと早坂は強く願っていた。
「そうですね。鷺宮さんにやって欲しいのは書記ちゃんの足止めです。あの人、私の予想斜め上の行動ばかりで厄介なんですよ。今まで何度も邪魔されてますからね。今度は二人でやる訳ですし、作戦は成功したも当然ですね」
「あー 藤原さんの行動は読めないからね。あっちゃんも苦労してるんだ」
疲れた顔の早坂に鷺宮は心から同情していた。何せ、自分も振り回された経験がある、しかも性質が悪いのは本人に一切悪気が無い事である。その為、策の妨害や提案を潰されても文句が言えずにいた。
「作戦と私の役割は把握したよ。して…決行はいつ?」
「その時は前日にメールします。りっちゃんも心の準備する時間は欲しいでしょう」
「そうだね。相手が藤原さんだと、特に必要かもしれない」
「まあ、私もサポートするので気楽にやりましょう。失敗してもかぐや様は「かぐや様!?ねえ、今かぐや様って言ったわよね」な…誰ですか」
話の途中、突然ある少女が詰め寄ってきた。思いも寄らぬ出来事に二人は茫然とする。
「あ、私?私は巨瀬エリカ。それよりも…さっき、かぐや様の名を聞いたけど、何を話してたの?」
「聞き間違いじゃないの?私達がしてたのは家具の話だよ。ほら…遠くからだと、間違えても仕方無いよね」
「そうだよ~ 二人で好きな家具は何かを語ってたんだぁ」
「なーんだ。家具の話だったのかぁ。私はてっきり、かぐや様のファンがいるのかと思ってたよ」
咄嗟とはいえ、苦しい言い訳を述べる二人だが‥エリカは疑う様子もなく、二人の話を信じていた。相手がアホで良かったとホッとしたのも束の間、次に出てきた言葉は鷺宮達を緊張させた。
「それとも二人はかぐや様の特別な存在だったりしてね。SPとか秘密の協力者とかさ」
「考えすぎだよ。ドラマの見過ぎじゃないの?」
「だよねぇ。そんな展開、ある訳ないし~」
エリカの指摘に内心、二人は慌てていた。その理由は彼女が所属する部活にある。巨瀬エリカが属するマスメディア部では学園内の噂や出来事を記事にし、全生徒に知らせる活動をしている。もし、今の話が聞かれていて、記事にされたらかぐやの相合傘作戦は遂行する前に潰される事になりかねない。そうなれば、かぐやの怒りの矛先は鷺宮達に向くだろう。無論、記事にしたマスメディア部もその対象となるが、聞かれる所で話をしていた非は二人にあるのは事実である。
何としても誤魔化さなければ、鷺宮と早坂はアイコンタクトを交わして頷いた。
「いや、やっぱり言ってたよ。これでも記憶力に自信があるからね。二人は…そういう妄想して楽しんでたんでしょ?分かるよ。かぐや様の妄想は私もよくするからね。かぐや様の身は私が守ります!的な感じでさ。きゃー 私も混ぜてよ」
鷺宮は思った…この学園は頭の良い様に見えて、やはりアホが多いのだと。そして早坂は安堵した。…部活柄、情報収集に長けているエリカは油断のならない人物であった。しかし…蓋を開けばおかしな事を宣うアホなのだと自身のエリカに対する評価を下げた。
「あちゃ~ 遂にバレちゃったかぁ。実はそうなんだよね。かぐや様って、秀知院の憧れだもん」
「そうそう。誰かに聞かれると恥ずかしいから、此処で妄想遊びをしてたのよ」
阿吽の呼吸。長年、離れていたとはいえ。親友だった二人は咄嗟に話を合わせる事にした。此処で恋の策謀を練っていた等、恥ずかしくて言う事は当然出来ない。それ故、事実を紛れ越せた嘘を吐いた。真実味を帯びた嘘にエリカは意図も簡単に騙されていた。
「成程。確かに人前じゃ出来ないよね。大丈夫、これは秘密にするから安心して。同じ妄想する仲間に恥を掻かせたくないもの」
((仲間じゃないよ。一緒にしないで))
この時、二人の心は一つになった。
「本当ならさ。私もかぐや様と話をしたいんだけどね。でも、近寄ると心臓がドキドキしてキューってなるの。二人もそういう事ない?早坂さんは同じクラスで、鷺宮さんは生徒会で一緒にいるでしょ?」
「どっちかと言うとハラハラして胃がキューっとする事はあるわよ」
「あ、私も同じだし~ りっちゃんもそうなんだね」
「何よ。やっぱり仲間じゃない」
((だから仲間じゃないよ。アホの貴女と同列にしないで))
「あら、エリカったらこちらにいましたの?もう、随分と探しましたのよ」
「かれん。それどころじゃないよ。鷺宮さんと早坂さん、この二人もかぐや様のファンなんだって!!」
「まぁそうですの?これは良い報せですわね」
此処に来て、厄介な人物が現れた。彼女の名は紀かれん。エリカの親友でかれんもマスメディア部に所属している。類は友を呼ぶ。この言葉が示す通り。かれんも良からぬ妄想を楽しむ変人である。
「そういや、かれんさん。エリカさんを探しに来たんだよね?何か用があったんじゃないの?」
「ああ。そうでしたわ。実は…かぐや様の新情報を手に入れましたの」
「へえ~ 何の情報だし?思えば、かれんさんってかぐや様を見て、いつも何かメモしてるよね」
かれんの言葉に早坂は目を鋭くして、問いかけた。この変化にかれんとエリカは気付いておらず、気付いているのは鷺宮だけである。学園にはかぐやを慕う者は多いが、敵がいない訳では無い。大方、かれんがかぐやにとって、不利益な情報を嗅ぎまわっているのだと認識したのだ。
本来、この事に鷺宮も関わりたくはない。恋の協力に手を貸すが、家絡みの問題は個人の手に余る事柄である。下手をすれば、自分の家も巻き込まれかねない。そうなれば、家族にも影響が及ぶ事になるだろう。
「あら。気になりますか?その情報ですが、昨日…かぐや様が私達に会釈してくれましたの。ああ、天に昇る気持ちでしたわ」
「…それは良かったね。かぐや様は誰にでも優しいし~」
「でしょ?この気持ちが分かるのは仲間だからだよね」
「ねえ、面倒だから話を合わせてもう立ち去ろうよ。何か疲れてきた」
「そうですね。私も同意見ですよ」
盛り上がるかれん達を冷めた目で見つめながら、鷺宮と早坂は小声で話し合い、結論を出した。
「そうそう。二人は四宮さんのファンって言ってたよね?もしかして、ファンクラブとかに入ってるの?」
「勿論。というより、私とかれんの二人しかいないからファンクラブという程じゃないけどね」
「良かったら、鷺宮さん達も入りませんか?仲間が増えるのは喜ばしいですわ」
「いいね~ 私も仲間に入~れて」
「あ、私も参加するよ。四宮さんの情報が欲しいもの」
「良いよ。やったぁ。新たな会員ゲット出来たぁ」
「私も歓迎しますわ。うふふ これから楽しくなりそうですわね」
((こっちは全然楽しくないよ。はぁ…面倒な事になったなぁ))
妙な訪問者のおかげでかぐや様ファンクラブに入る事になった鷺宮達。この日、二人の会合はエリカ達の乱入により、中止となった。そして学園には藤原以外の厄介者が存在する事に頭を悩ませる結果となってしまった。
【本日の勝敗 新たな厄介者に振り回された鷺宮と早坂の敗北】
今回のお話いかがだったでしょうか?
早坂と鷺宮の秘密の会合。
これにスピンオフの主役であるエリカとかれんを登場させてみました。
原作の裏側で早坂は藤原以外でこの二人に振り回されるの様を見て、この二人を絡ませたら面白そうと思っての事です(笑)
恋をしているかぐやと白銀の恋愛合戦も面白いですけど、数多の障害を越えて成就させようとする二人の奮闘をこれからも書いていきたいです。
それでは次回もお楽しみに