生徒会庶務は平穏に過ごしたい   作:アリアンキング

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最新話、お待たせしました。

今回は長めとなってます。


第8話 生徒会は嫌われたくない/鷺宮は教えたい2/鷺宮は入りたい

 この日 白銀は生徒会の備品チェックをしていた。

 生徒会で使用する食器の破損や汚れの有無、活動記録を纏めたファイルの記載漏れや調度品の状態を調べる重要な仕事の一つである。念入りに調べていく中、白銀は本棚に置かれた雑誌に気付いた。

 

 

「ん?これはあの時の雑誌じゃないか。まだ処分せずに置いていたのか」

 

 

 本棚の隅で見つけた物。それは騒動の引き金となった雑誌だった。

 

 

(以前はこれの所為で面倒な事になったんだよな。てっきり鷺宮か四宮が処分したと思っていたが…。ん?これは袋とじか。恋のマニュアル 異性をオトしたい方必見の教科書ね。処分するつもりだし、読んでみよう)

 

 

 袋とじの内容が気になり、白銀は好奇心に負けて中身を読む事にした。

 

 

 

 

 翌日 生徒会に顔を見せたかぐやは先に来ていた鷺宮と石上に挨拶をした

 

 

「おはようございます。今日は良い天気ですね」

「おはよう四宮さん。確かに雲一つない晴天だし、気持ちがいいわね」

「分かります。晴れた日が心なしか気分が爽快になるんですよね」

 

 

 かぐやの言葉に石上と鷺宮も頷いた。晴れた青空は見てるだけで清々しい気持ちになる。それは誰もが感じる事である。他愛ない話で盛り上がる中、白銀が生徒会に顔を出した。それに気付いて三人はそれぞれ挨拶をする。

 

 

「おはよう白銀くん」

「おはようございます」

「ああ。おはよう二人共。今日は早いんだな」

「会長おはようございます」

「ああ、四宮もいたのか。気付かなかったぞ」

 

 

 二人に続いて、かぐやも白銀に挨拶をするが…当の白銀はそっけない返事を返した。このやり取りに鷺宮は違和感を感じて眉を顰める。明らかに白銀の様子がおかしい。普段の白銀ならば、かぐやに冷たい態度を取る筈がないのだ。無論、それはかぐやも分かっているだろうが、当の本人は笑みを浮かべて気にした様子は微塵も感じない。もやもやした感情を抱くも本人が何も言わない以上、自分が口を挟む必要はない。そう判断して鷺宮は状況を見守る事にした。

 

 

 

(会長は私を無視するとは…やはりあれの影響ですね。案の定、棚に置いていた本が無くなっている。大方、例の袋とじを見たのでしょうね。ふふふ。これで作戦の第一段階は成功。あとは如何に会長の隙を突くかですね)

 

 

 白銀の急な変化。これはいつも通りのかぐやに手に寄る仕込みである。昨日、白銀が備品チェックをする事をかぐやは知っていた。故に目立つ場所に件の本を置く事で白銀の目に入る様に仕向けたのである。本来ならば、恋の教科書という曖昧な話を信じる者はいない。しかし、袋とじの内容は意外と気になる人が多いのも周知の事実。それに加えて『教科書』という単語がマニュアル主義の白銀を刺激する事もかぐやの予想通りであった。

 

 

 当然かぐやは例の本をもう一冊拵えていた。袋とじに書かれている相手に冷たくするという内容は把握している為、白銀の言動に動揺する事はない。ある程度、茶番に付き合った後でかぐやは作戦の最終段階に移行する。件の袋とじの事を白銀に明かし、マニュアルを実践した白銀に自分に好意を抱いていると追い詰める。こうなれば、最早こちらの勝利は間違いない。そうとは知らない白銀は次なる行動に出た。

 

 

「二人共、ガムいるか?」

「あ、いただきます。ありがとうございます」

「私も貰うわ。ありがと白銀くん」

 

 

(ああ。これは私だけガムをくれないパターンですね。地味ですが、疎外感を与える分、意外と傷付く奴ですよ。会長は酷い人ですね)

 

 

「それと四宮、お前にもやるよ」

「え?ああ、どうもありがとうございます」

 

 

 しかし、かぐやの想像とは違って白銀はかぐやにもガムをくれた。この行動にかぐやは困惑する。もしや、自分の作戦がバレたのか?そう思ったが、渡されたガムを見て、ある事に気付く。先程、白銀が鷺宮と石上に渡したガムは新発売のストロベリー味であるが、かぐやに渡したガムは従来のブラックガムであった。しかも単価も二人のガムに比べて安いものだった。この微妙な意地悪にかぐやは愕然とする。

 

 

(四宮に意識させる為とはいえ、俺はなんて酷い事をしているんだろう。心なしか四宮の俺を見る目がいつもより悲しく見える。これで本当に異性をオトす事が出来るのか?寧ろ、逆効果に思えてならない)

 

 

 

 此度の作戦に置ける誤算。それは白銀の性格を計算に入れてなかった事である。元より利己の為に人を傷付ける行為を嫌う白銀は無意味に冷たくする事に酷く心を痛めていた。それもあり、中途半端な行動しか出来ないでいたのだ。

 

 

「そうだ。いつも頑張ってくれる皆の為に俺が珈琲を淹れてやろう」

 

 

 それでも白銀は相手に冷たくする行動を続ける。珈琲は人数分、淹れたものの。鷺宮と石上にはミルク、砂糖、スプーンを添えているが、かぐやの珈琲はそれが無かった。またしても微妙な行為にかぐやはヤキモキする。これでは自分の作戦がいつまで経っても進行しない。この事に些か焦りを覚えた。

 

 

 一見、周囲に悟られないと思われる白銀の行動に鷺宮だけでなく、石上も気付いていた。何故、こんな事をしているのか?それが気になった石上は小声で尋ねてみた。

 

 

「会長。さっきからどうして四宮先輩に意地悪してるんですか?もしかして、喧嘩でもしたんです?」

「…気付いていたのか。別に喧嘩とかはしていない。だが、それでも四宮に意地悪をしないといけないんだ。理由は言えないけど、そっとしてくれると助かる」

 

 

 それだけ言うと白銀は会話を終わらせる。纏う雰囲気からして、口を割る事は無いだろう。此処は彼の言う様に大人しくするべきか?と石上は悩んでいた。

 

 

(詳しい事情は分からないけど、優しい会長の事だ。きっと、何か深い訳があるんだろうなぁ。会長には恩があるし、此処は僕も協力しよう。僕がやるべき事…。それは鷺宮先輩に冷たくする事。これならば、会長は周りから非難される事はない。そうと決まれば早速やろう)

 

 

「鷺宮せんぱーい。僕、喉が渇いたので何か冷たい飲み物を用意して下さいよぉ」

 

 

 会長に非難の目が集中しない様、石上は鷺宮に冷たくするという謎の結論に至った。こうと決めた人間の行動は早い。石上は正面に座る鷺宮を見据え、不遜な態度を取る。本来の石上ならこんな発言は絶対にしない。白銀とは別に自分の事を気に掛けてくれる鷺宮に対しても、石上は恩義を感じている。それでも白銀の為に例え、自分が嫌われても尽力する。無駄な所で男らしさを発揮していた。

 

 

「そうなの?まあ、いいわ。今淹れてくるわね」

「すんませんねぇ~ 感謝してますよ鷺宮せんぱーい」

 

 

 不躾な態度に怒鳴られる。あるいはビンタも覚悟していたが、予想は外れて鷺宮は快く石上の要求を素直に受け入れた。この事に石上は何故怒らないのだろう?と不安を覚える。仮に自分が先程の態度で物を頼まれたら確実に怒るからだ。誰だって、後輩から舐めた態度を取られたら怒るのが当然である。

 

 

(あの陰険なロン毛のガキ。誰に向かって物を言ってるのよ。先輩に向かって飲み物を淹れろだぁ?確かに人と接しろと言ったけど、舐めた態度を取れと言った覚えはないわ。少し思い知らせてやろうかな。本当なら徹底的に教育したい所だけど、やり過ぎてまた不登校になったら本末転倒だし、控えめにやりましょ)

 

 

 そして石上の不安は的中する。一見、穏やかに対応した鷺宮であったが、やはり怒りを抱いていた。内心では石上への不満をぶちまけ、舐めた態度を取った石上への仕返しを目論んでいた。

 

 

「はい石上くん。お待ちかねのアイスティーを淹れて来たわよ。たんと召し上がれ」

「ど、どうもありがとうございます」

 

 

 鷺宮が淹れたアイスティーを見て、石上は驚愕する。何と中身はこれでもかと思う程、ガムシロップが注がれていたのだ。表面に浮かぶ様から、確実に5個は入っている。確かに要望通り冷たい物であり、喉は潤うだろう。だが、同時に想像を絶する甘さで喉が渇くというオチが待っている。これは間違いなく、鷺宮の仕返しであると石上は悟った。

 

 

「どうしたの?早く飲みなさいよ。喉が渇いているんでしょ?今日は蒸し暑いものね。冷たく甘い飲み物が欲しくなるのは仕方ないよね」

「…いただきます。うっ……。うぐぐ」

「何?石上くんったら、涙が出るくらい美味しかったの?折角だし、おかわりを淹れてあげようか?」

「い、いえ。もう十分です。あ、自分……。ちょっとお手洗いに行ってきます」

 

 

 人が飲む物でない事を知りながら、飲む事を催促する鷺宮に石上は逆らう事なく激甘アイスティーを口にする。案の定、口内に広がる甘さに咽ながらも石上は堪えて飲み干した。もう絶対に舐めた態度を鷺宮に取らないと猛省した事は言うまでもない。その後、トイレに行く振りをして石上は部屋を出て行く。一刻も早く水を飲んで口に残る甘さを消し去りたい。今の石上を突き動かすのはこの欲求だけである。

 

 

 慌てて立ち去る石上を鷺宮は薄ら笑いを浮かべて見ていた。仕返しが成功して、溜飲が下がる喜びに浸っていた。これに見兼ねて白銀は鷺宮に歩み寄ると注意する為、口を開いた。

 

 

「おい鷺宮。石上の態度に腹を立てる気持ちは分かるが、先程の行為は流石にやり過ぎだぞ。俺はそういう虐めみたいな行為は嫌いだ。今後、気を付ける様にしてくれ」

「……御免なさい。白銀くんの言う通りね。私が大人気なかった。今から石上くんに謝ってくるわね」

 

 

 白銀の言葉は鷺宮の頭を冷やさせるには十分な効力を持っていた。冷静になれば、先程の行動は虐めと言っても過言ではない。生意気な態度を取ったからといって、鷺宮の仕返しは度を過ぎていたと本人も反省していた。己の非を認めた鷺宮は石上に謝る為、生徒会室を出て行った。

 

 

 また白銀の嫌いという言葉にかぐやは大きな衝撃を受けていた。無論、これは鷺宮の行動に対しての言葉であり、鷺宮本人やかぐやに向けた言葉でない。しかし、白銀に冷たい態度を取られる計画。これの影響で嫌いという言葉に些か敏感になっていた。冷たい態度が必ずしも嫌いに精通する訳ではないが、かぐやの脳裏では冷たい態度=嫌いという方程式に至っていた為、精神のダメージは大きかった。

 

 

(私、会長に嫌われているのかもしれない。思えば、私も石上君に冷たい態度を取ったり、きつい言葉をぶつけてるものね。私が知らないだけで、この事は会長にも知られている可能性もある。先程の言葉も実は遠回しな私への忠告でしょうね。あら?おかしいですね。体に力が入りません。それに何か胸が苦しいです。ああ、そう思うのは嫌われる事に心当たりがあるからですね。性格が悪い上に歪んでるし、それを会長も見透かしてのことでしょう。私これからどうしたらいいのか分からない)

 

 

 先に言った様にこれは只の杞憂である。だが、人はこうと思い込んだらとことんまで落ち込む傾向がある。かぐやも例に及ばず、負の悪循環に陥っていた。

 

 

 それは白銀も同様であった。彼は注意の一環とはいえ、鷺宮に嫌いと言った事を悔やんでいた。その程度で人間関係が壊れる事は無いのだが、変に深く考えてしまう所がかぐやと白銀の悪い一面である。

 

 そして白銀はもう限界だと、最後のステップに踏み入った。仕上げは冷たくした分、優しくする事。要は飴と鞭の単純な法則である。

 

 

 

「そうだ。四宮、先程のガムだが…渡す物を間違えていた。ほら、改めてやろう。それと珈琲にもスプーンとミルクとシロップも忘れていたな。これで良しと。さあ、これを飲んだら仕事をするとしよう」

 

 

 普段と同じ様に白銀はかぐやに接した。恋のマニュアルに従って、実行してみたがやはり慣れない事はするものではない。いつもの白銀に戻った事を悟り、かぐやはホッと胸を撫で下ろした。彼女もまた慣れない事に戸惑っていたのだ。この後、謝罪して和解した鷺宮と石上、部活を終えて合流した藤原。いつものメンバーで変わらぬ日常を過ごした。

 

 

 

【本日の勝敗 目的を忘れたかぐや及び自分の行為を指摘されて反省を促された鷺宮の負け】

 

 

 

 

「校歌斉唱!!」

 

 

 かぐやの号令で体育館にいる全生徒は歌い始めた。近年、校歌斉唱の文化を行う学校は減少の一途を辿る中、秀知院では週始めの朝礼で行われている。それに加えて小等部から高等部まで校歌は共通の為、秀知院に通っている生徒のほとんどが校歌を歌う事が出来る。

 

 

 大声を出して歌う事で歌詞に籠められた想いを心で感じる。そんな大事な文化に手を抜く不届き者の存在に藤原が気付いた。驚く事にその人物は生徒会長の白銀である。全生徒の模範である白銀はあろう事に校歌を口パクで歌っていたのだ。この行為を当然、藤原は見逃す事が出来ず。朝礼が終わるや白銀を体育館の裏に連れ出して問い詰める事にした。

 

 

「会長の馬鹿!! 自分が一体何をやってるのか分かってるんですか? 会長ともあろう人が校歌を口パクするなんて前代未聞ですよ。さあ、弁明があるなら言って下さい。言っておきますけど、私は怒ってますからね。くだらない理由だったら、絶対に許しませんよ」

「あ、こんな所にいた。白銀くん。今日、校歌を口パクしてたでしょ?流石にあれは駄目だと思うよ」

 

 

 怒り心頭に藤原が追及する途中、白銀を探していた鷺宮が姿を見せた。鷺宮の口から出た言葉から彼女も白銀の問題行動を問い詰める為と分かる。後門の虎に前門の虎。こうなっては下手な言い訳は通用しない。白銀は素直に白状する事にした。

 

 

「……実は俺は少し音痴なんだよ。校歌の歌詞はしっかり覚えているし、別に歌いたくない訳じゃないぞ」

「え?それが口パクの理由なの?只の言い訳にしか聞こえないわよ」

「面子の問題だよ。他の生徒が上手に歌う中、俺だけ音痴だったら示しがつかないだろう。生徒会長が音痴とかありえないだろうに」

 

 

 白銀が告げた理由をばっさりと鷺宮は斬り捨てた。風邪で喉が痛い。声帯が弱く大声を出すと声が枯れる等の理由であれば、鷺宮も引き下がった事だろう。しかし、実態は歌が下手だから口パクをしたという白銀に鷺宮は内心、軽蔑していた。鷺宮の心境は向けられる視線で白銀も察していた。だが、この手のジレンマは他者には理解されないのが現実である。仮に自分も歌が下手なので口パクしましたと言われたら、鷺宮と同じ気持ちを抱いていただろう。それも理解出来る故、白銀は何と弁明すればいいのか。頭を悩ませる。

 

 

 一方、藤原は無言で白銀を見つめていた。先程までの怒りは既になく、今の藤原にあるのは言い様の無い不安だけである。以前、白銀が苦手としていた事を知った藤原は、苦手な事を克服する特訓に協力した事があった。その時は軽い気持ちで請け負ったが、蓋を開けば凄まじい苦労を強いられたのは藤原の脳裏に苦い記憶として刻まれている。しかし、今回の分野は藤原の得意な音楽であり、それに加えて白銀が言うには音痴の度合いは少しだけ。これなら何とかなるのでは?と藤原は思い始めていた。

 

 

「会長、改めて聞きますよ。音痴なのは少しだけなんですよね?」

「ああ。もしかして克服するのに協力してくれるのか?」

「ええ。流石にこれ以上、口パクをしていたら何れはバレてしまいますよ。そうなったら、結局は会長の面目は丸潰れですからね」

「本当か?それは助かる」

 

 

 念のため、藤原は音痴の度合いが本当なのかを白銀に問い掛ける。仮に本当の事ならば、答えは一つ。白銀が二度と口パクをしない様に歌の特訓に協力するつもりだった。この流れに鷺宮は嫌な予感をひしひしと感じていた。白銀の特訓で苦労したのは鷺宮も同様である。藤原の提案に白銀が食い付いた先の展開は間違いなく自分にも協力する様に頼んでくる筈だ。そんな厄介事は絶対に避けたい。そう思った鷺宮が立ち去ろうとした時。

 

 

「それと今回も鷺宮さんに協力してもらいますよ。三人揃えば、音痴の克服なんてあっという間ですよ」

「…私もやるの?今回の事は藤原さんが一番じゃない?だって、音楽の知識もあるんだし、知識がない私がいても役に立たないわよ」

「そんな事はありませんよ。いてくれるだけで良いんです。ほら、三本矢の話は鷺宮さんも知っているでしょう?三人揃えば、どんな困難も乗り越える事も出来ます。それに私は音楽に知識がある分、厳しい指導になりそうですし、そんな時に私を止めてくれる人も必要なのではと思うんです」

 

 

 藤原の言葉に嘘は無い。人は誰しも自身が得意とする分野に関しては、厳しくなりがちである。それは上手くなった時の喜びと達成感を人と分かち合いたい。その想いからであるが、教え手が抱く気持ちが相手に伝わるとは限らない。だからこそ、鷺宮の助けを藤原は求めたのだ。知識が無いから指導に熱くなる事もなく、白銀に接する事が出来るだろう。いざとなれば、暴走した自分のストッパーにもなってくれると期待していたから。

 

 

 

 これに鷺宮は困惑した。当初、自分は関係ないから巻き込むなと突っぱねようとした。だけど、真摯な瞳で思いの丈を吐き出した藤原。己の短所を論えて助けを求める姿に鷺宮は断ると言えなくなっていた。無論、これは藤原の謀略である。最近の付き合いで鷺宮の性格を把握していた。何だかんだで真面目な彼女は正面切っての頼み事は断れない人であるのも周知の事だった。

 

 

「うーん。そういう事なら良いよ。今日の放課後からやるの?」

「はい!! そのつもりですよ。あとは朝ですね。前と同じ感じで特訓です」

「分かった。じゃあ、放課後に特訓を開始するのね」

「二人共。今回も宜しく頼む」

「いいえ~ 音楽を楽しむ事を会長にも分かって欲しいですからね」

「頼まれた以上、私も出来る事はするわよ」

 

 

 

 真っ直ぐな気持ちをぶつける藤原に鷺宮は押し切られて、白銀の特訓に手を貸す事を承諾した。しかし、これが悪夢の始まりだとは鷺宮達は知らなかった。

 

 

 

「それじゃあ、まずは歌ってみてください。それで悪い所を見ますので」

「分かった」

 

 

 放課後、三人は音楽室に訪れていた。藤原は手始めに白銀に校歌を歌う様に指示を出す。どの程度、音痴なのかを確かめる為である。それによって、練習のメニューを決めようと思っていた。何気なく言ったこの言葉を藤原は心底悔やみ、己の甘さを呪う事となった。

 

 

「あ、あ、あああああああああぁぁぁ!! 会長の嘘吐き。よくも私を騙してくれましたね。何処が少しだけなんですかぁ!! とてつもなく音痴じゃないですか~」

 

 

 白銀の歌は全ての音程が外れており、もはや歌というより不協和音である。これには傍で聴いていた鷺宮も茫然としていた。鷺宮もまさか此処まで白銀の歌が音痴だとは想像していなかった。

 

 

「そこまで言う事はないだろう」

「じゃあ、これを聴いてください。さっきの歌を録音したものです」

「どれどれ。……嘘だぁ。こんなゴミみたいな歌声が俺の声だとぉ!? 何かの間違いだろ」

 

 藤原の指摘を大袈裟と思った白銀だったが、録音された自身の歌声を聴いて戦慄した。確かにこれは歌と呼べるものではない。元来、人は自分の声を聴く事は出来ない。それは骨導音により、大きく異なる声と自身が認識している為である。故に…白銀は自分の歌声を初めて聴く事になるのだ。

 

 

「どうみても会長の声ですよ。現実と受け止めてください」

「だねぇ。私も藤原さんに同感だよ。まずは歌の練習より、音程を治す方が良いんじゃないの?ほら、基本を何とかすれば音痴は改勢されると思うよ」

「そうですね。鷺宮さんの言う通りかもしれません。会長。まずはソの音程から練習しましょう」

 

 

 鷺宮の助言もあり、練習の方針が決まった。それに従って白銀は音程の練習を始めるが、此処でも白銀は音痴を発揮した。ソの音を出そうとすれば、彼はレの音も同時に出す始末。これに藤原は頭を抱えて項垂れ、鷺宮は何も言わずに傍観を貫いていた。

 

 

 

「いいですか?ソの音はこれでレがこれですよ。全然違うでしょう。とりあえず、私がソの音を出しますので会長も真似して同じ音を出してください」

「ああ。俺は藤原書記の真似をすれば良いんだな」

「はい。それではいきますよ」

 

 

 白銀は藤原の指示通り、彼女の真似をして音を出す。その最中は会話出来ない為、意思疎通のやり取りは黒板の筆談を通して行われた。この工程を何度か繰り返し、やがて白銀も音を出す事に自信を付けて行く。

 

 

「大分、上手く音が出せてますね。思ったより上達が早いですよ」

「……そうか。感謝するぞ藤原書記。今ならしっかりと歌えそうだ」

「じゃあ、もう一度校歌を歌ってみましょう」

 

 

 思いの他、早い上達を見せる白銀に安堵した藤原は再び校歌を歌う様に促した。だが、音の出し方と歌う事は別物。結果として歌の方は余り上達はしていなかったのだ。演奏を行う藤原は耐えるしかなく、先程と同じく傍観していた鷺宮は耳を塞いで難を逃れていた。

 

 

「今のはどうだった?俺はしっかりと歌えていたか?」

「いえ、吐きそうでしたよ。以前がなまこの内臓を耳に入れるレベルだとしたら、今のは音を生半可に拾っている分、何処ぞのガキ大将といった所ですね。どちらにしても最悪ですよ」

「容赦ないな。…俺はやはり口パクでいいよ。昔、小学生の時は教師から無理しなくていいと言われた。そして中学の時はクラスの皆から本番は口パクで頼むと言われた事もあった。俺が歌うと周りに迷惑をかけるからな。本音は歌いたいが諦めるよ」

「どうして先にそれを言わないんですか。大丈夫。私が会長を歌える様にしますからね」

「うん。次からは私も練習に参加するよ。三人で頑張ろうよ」

「…いいのか?俺の歌声は最悪なんだろう?」

「心配はいりません。ママ達に任せて」

「その母性の出され方には抵抗を感じるな」

「てか、何で私も白銀くんの母にされてるのさ。産んだ覚えはないって」

 

 

 

 

 白銀が漏らした本音に藤原も鷺宮もある決心をした。二人は白銀に歩みより、手を取り今度は自分達の想いを告げる。それからはバラバラだった三人の足並みは揃い、藤原の指導による練習がみっちりと行われ時間が過ぎていった。

 

 

 そして次の朝礼。白銀達にとって、運命の日が訪れた。

 

 

「校歌斉唱!!」

 

 

 いつもと変わらず、かぐやの号令で全生徒は校歌を歌い始めた。その中には白銀も混ざっており、彼は大きな声で歌っている姿は藤原の目に映る。そして思い出すのは厳しい特訓の日々。僅か一週間の出来事だが、藤原には濃厚な一週間だった。それは鷺宮も同じで歌う度に三人で頑張った記憶が脳裏を過り、次第に鷺宮は感極まって涙を流していた。藤原に至っては崩れて号泣する始末である。

 

 

 この事に一時、場は騒然としたが無事に朝会は終わりを迎えた。無論、これを追及するべくかぐやは藤原に声を掛けようとしたが、以前の事を思い出してスルーを決め込んだ。今回も下手に触れるなと危険を感じたからである。

 

 

 かくして白銀の歌声レッスンは幕を閉じた。

 

 

【本日の勝敗 苦難を乗り越えて再び弱点を克服した白銀&藤原&鷺宮の勝利】

 

 

 

 

 部活。それは生徒達が様々な分野において精を出している活動である。サッカーや野球、バスケや陸上といった物から囲碁や弓道、敷いてはテーブルゲーム等の多種多様な部活動が存在していた。多くの生徒が熱中し、興味半分で行う部活もあれば中には全国大会に出場に至る成績を残す部活もある。

 

 

 だが、例外も当然ながら存在している。部活に対して興味を持たない者は部活に所属する事はない。そういった者達を世間は帰宅部と呼んでいる。そして帰宅部に属する者達は生徒会にも存在していた。それは白銀、石上、鷺宮の三人である。無論、必ずしも部活に所属しないと駄目というルールは無い為、そこは個人の自由となっている。

 

 

 

 その一人である石上が唐突に口を開いた。

 

 

「前から思っていたんですけど、部活ってチョーくだらないですよね」

「いきなりどうしたの?別段、私はそう感じた事は無いわね」

「ああ。それに部活は大事だぞ。何かに打ち込む事で身心共に人は成長するからな」

「いえ、部活の大事さは僕も理解してますよ。部活が無かったら、若者達は暇と力を持て余して非行に走るし、その結果…犯罪に身を染めたり、妊娠したりで散々な結末になりますからね」

「それは飛躍しすぎよ。そうなるのは一部だけで全部の若者がそうならないと思うわ」

「俺も鷺宮庶務に同感だ。まあ、石上会計が言う様にそういう側面はあるけどな」

 

 

 

 この言葉に鷺宮と白銀は眉を顰めた。確かに若者が非行に走らない様、部活が存在しているのは知っている。しかし、この手の話は気分が悪いと感じたのか、鷺宮は厳しい言葉を石上に向けた。白銀も鷺宮と同じ気持ちだったが、そこは生徒会長。役員同士が争わない様、二人の意見に賛同しつつも中立を保っていた。

 

 

 こう述べた石上だが、別に部活を否定している訳でない。彼が不満に思うのは部活動カーストに対しての事である。それらは何処の学園にも存在しており、今となっては珍しい事ではない。石上自身、数多の好成績を残す体育会系がヒエラルキーの頂点に位置する。これに不満はない。ならば、何に不満を抱いているのか。それは中途半端な部員に向けられている。

 

 

「…本気でやる分には良いんですよ。大会とかに出場して、優勝したり好成績を出してる人は素直に凄いと思います。だけど、その大半は中途半端な奴らが多いでしょう?ほら、『俺達はマジでやってるぜ!!』って顔してる奴らがうすら寒いというか。楽しんでねえで血反吐、吐きながら必死でやれと思うんですよ。あ~。そういう奴ら、マジでこの世から消えてくれねえかなぁ」

 

 

 初めは淡々と語る石上だったが、次第に熱が入り最後は呪詛を吐く始末。どうやら、日頃溜まってる鬱憤が爆発した様である。このままでは、聞くに堪えない愚痴を聞く羽目になると予想した白銀は何とか、石上を落ち着かせようと試みた。

 

 

「まあ、石上会計の言いたい事は分かった。だが、今はそれを抑えて生徒会の仕事に集中してくれないか?ほら、この予算案についてだがな。石上会計の意見を聞かせてくれ」

「僕の意見ですか?…そうですね。確かに見ると無駄が多いですね。此処はサッカー部の予算を削るのが良いかと思います」

「ふむ。してその理由は何だ?」

 

 

 白銀の試みは成功し、落ち着いた石上は予算表を目を通して意見を述べた。普段、彼は親の経理にも触れているらしく、一目で予算表の無駄を指摘してきた。それに対して理由を尋ねる白銀に石上が答える。

 

 

「ああ。あそこ、彼女持ちが大勢いるんですよ。同様の理由でバスケ部と野球部の予算も大幅に削りましょう。そうですね。一カップルに付き、5万が妥当な所です」

「何処がだ!! 不当な重加税じゃないか。そんな理由で削りましたと言って、相手が納得する訳ないだろう」

「そうよ。削るなら全部員が大会や試合で好成績を挙げていない為。これにしときなさい。それなら10万でもいいわ」

「指摘する所はそこ!? てか、削る予算が増やしてどうする!! 部活連に報告するのは俺なんだぞ!! 明らかに俺だけが損する役回りだろう」

 

 

 石上の不当な理由に寄る予算減額。それに反体する白銀を余所に鷺宮は石上を弁護した。その事に白銀は驚愕する。まさか、思わぬ所から流れ弾が飛んでくるとは思っても見なかった。しかし、白銀の抗議など、何処吹く風で石上は反論の言葉を口にする。

 

 

「幸福こそ、一番の課税対象じゃないですか。要するに幸せ税ですよ」

「おいおい。本気か?如何なる暴君だって、そこに税を課した事はないぞ。只の私怨じゃないか」

「……私怨ですよ。それが何か悪いんですか?」

「悪いわ!! 結構な悪だよ。鷺宮も何とか言ってくれ」

 

 

 よもや開き直った石上に白銀は押されていた。どんな正論で攻めようにも石上の屁理屈に勝てない。心の中にそんな気持ちが生まれていた。これでは拙いと思った白銀は鷺宮に助けを求めた。先程は石上を弁護した彼女だが、今なら自分に力を貸してくれると信じての事だった。

 

 

「そうね。私は石上くんを応援するわ。敢えて悪の道に進む事は簡単では無いもの」

「鷺宮先輩ならそう言ってくれると思ってました。…この間、廊下で見たんですけどね。彼女がいるのに硬派気取っている奴がムカつくんですよ。折角、彼女がいるのに何で部活を選ぶんだよぉ~。彼女がいるならデートに行けよぉぉぉぉっ!! 僕には何も無いのに…」

 

 

 会話の最中、号泣しだした石上に白銀は言葉を失う。確かに彼の言う事も納得出来る部分はあるし、何よりもこれ以上、石上を刺激するのは得策ではない。そう判断したからである。しかし、解せないのは鷺宮の言動だ。彼女も自分と同じく中立の立場と思っていただけに、石上に賛同する理由も気になっていた。触れないでおくべきか悩んだ挙句、白銀は問い掛ける事にした。

 

 

「それと鷺宮は何があったんだ?今日はやけに石上の肩を持つけど、その理由を教えてくれないか」

「ああ。実は…」

 

 

 鷺宮が語る話は遡る事、二日前の放課後に起きた事である。

 

 

『ねえ鷺宮さん。今からかぐや様の練習を見に行かない?今日、弓道部に顔を出すとかぐや様のクラスメイトが話してたの」

『うーん。私は遠慮しておく。今日は生徒会の活動も無いし、家でのんびりしたいからね』

『そうなんだ。分かった。それじゃあ、また明日ね』

 

 

 女子生徒の誘いを断ると、件の生徒は残念そうな顔で教室を去って行った。そして帰り支度を済ませ、教室を出た直後、先程の女子生徒らしき声が廊下から聞こえてきた。

 

 

『鷺宮さんも誘ったけど、残念ながら断られたよ』

『良いんじゃない?あの人、いつもあんな感じだもん。気にする必要ないわよ』

『そうそう。普段からかぐや様と一緒にいるからね。それに帰宅部だし、夢中になる物が無いんでしょ』

『あはははは。案外そうかもね~。あ、そろそろ行きましょうよ。折角の雄姿を見逃したら大変よ』

 

 

 そう言って、女子達は弓道部へ向かっていった。陰で聞いていた陰口に鷺宮は内心、穏やかなでなかったが関わるのも馬鹿らしいとその場を後にした。

 

 

 

「…後々、分かった事だけどね。その人達も彼氏がいる様なのよ。しかもサッカー部に所属のね」

「鷺宮先輩も嫌な思いしてるんですね」

「…そうだったのか。だったら、尚の事。予算減額という仕返しは駄目だろう。どうせなら、部活に入って見返してみたらどうだ?自分はこんな感じで充実してると見せれば、次第にそんな事を言う人達もいなくなるだろう」

「そうね。確かにそっちの方が健全だよね」

「だけど、生徒会と両立出来ますかね?いざやるにしても結構、大変そうですよ」

 

 

 鷺宮の話を聞いて、何故彼女が予算減額に賛同する訳を白銀は知った。だが、生徒会がそれをやっては全生徒に示しが付かない。ならばこそ、この悔しさは部活を始めて見返す事を二人に提示した。二人もこれに反論せず受け入れた。口では何だかんだと言いながらも、心の内では間違っていると分かっていた為である。

 

 

「大変ではあるが、その時は要望に沿って予定を組むから心配はいらんぞ。何より、藤原書記や四宮もそうして活動しているからな」

「そういえば、四宮先輩と藤原先輩は何の部活をしているんですか?」

「確か、藤原書記はテーブルゲーム部だな。本人は部活と言っているが、部員が少ないから同好会の扱いだよ。それで四宮は弓道部と言っていたな」

 

 

 石上の問いに白銀が答えると、何を思ったのか。石上は笑みを浮かべていた。そして彼が口を開いた瞬間、生徒会室の扉が開く。

 

 

「へえ。それはお似合いの部活ですね。ほら、弓道は弦を引くと胸に当たるじゃないですか。故に弓道をやる時は胸当てが必須なんですよ。でも、四宮先輩なら胸が絶壁だから、その心配は無いでしょう。何せ、スカスカでバストとウエストが均等になってますからね」

「そ、そう。それは知らなかったわね」

「あ、ああ。俺も勉強になったよ」

「でしょう?それにサラシを巻いてどうにかなるのは、Dカップまでらしいですよ。藤原先輩はそれ以上ですから、きっとビシバシ当たってブルンブルン揺らすでしょうね。あの人は大山みたいな胸ですからね」

 

 

(もうやめて石上くん。後ろで修羅と化した二人が睨んでるわよ。お願いだから刺激しないで)

 

「石上くん。何か面白い事を言ってますね~。私の胸が何ですって」

「っ!? 藤原先輩?あ、あの…今のはですね」

 

 

 此処で石上は漸く背後にいる人物に気が付いた。しかし、気付いた所であとの祭りである。藤原は何処からともなく取り出したハリセンを構えるや、それで石上の頭を何度も叩き付けた。暫く無我夢中で叩いた後、満足した藤原はその手を止めた。

 

 

 だが、石上の受難はこれで終わらない。そう。此処には藤原以上に怒りを抱く鬼がもう一人いたのだ。

 

 

「藤原さんは優しいですね。だから、それで許したのでしょう。だけど、藤原さん以外は絶対に許さないでしょうね」

「……。会長、僕…遺書を書きたいので帰ります。今までお世話になりました」

「あ、ああ。分かったよ。遺書を書いてもいいが、死ぬなよ」

 

 

 遺言とも思える言葉を残して石上は逃げる様に退散した。一方、鷺宮は青ざめた顔で窓の景色を見つめる。背後に立つ二人の眼を見て、鷺宮は完全に萎縮してしまい、先程の行為と言動を一切知らない振りをする事で平常心を保っていた。

 

 

 そんな風に現実逃避をしている間、白銀達で話が進み。何故か、自分が藤原と同じ部活に入る事を知って、唖然としたが快く歓迎してくれる藤原に感謝していた。

 

 

「明日から早速、テーブルゲーム部の活動をしましょう。鷺宮さんの入部。心から歓迎しますよ」

「ありがとう。こちらこそ宜しくね」

 

 

【本日の勝敗 鷺宮の勝利 怖い思いをしたが、楽しい部活に入る事で忘れる事が出来た為】

 




今回のお話、いかがだったでしょうか?

石上くんが登場する回はどれも面白いですよね。
今月から始まる2期も楽しみで待ち遠しい。

次回は番外編の話を書く予定ですのでお楽しみに



それと最近はゲームに嵌まっている為、投稿が遅くなるかもしれませんがご了承下さい。また宜しければ、感想や評価の方もお願いします。


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