「こほん・・・・・・改めて、挨拶をします。僕はカトル・ラバーバ・ウィナー。ネオ・ロンドベルの臨時指揮官を務めています」
「ふーん、そう・・・・・・」
そう言うと、男は自分の爪を弄り黙り込んだ。俯いたせいで、つむじ禿が目立つ。その頭頂部を見てカトルは閃いた。先ほど連邦軍より届いた追伸電報に、サイド3の新しい支配者の人となりについて載っていたのだ。そのあまりの内容の酷さに信憑性は薄いとカトルは考えていたが、モニターの前の人物とそれがぴったりであった。
「・・・・・・あなたはサワユキ・ドウナイ氏で間違いないですか?」
自己紹介をしてくれない為、まるで法廷尋問の質問のようにカトルは尋ねた。
「・・・・・・あぁ、そうだけど」
そしてまた黙るサワユキ。
らちが明かないと思ったカトルは、できるだけ相手を刺激しないように下手に出た。
「あの・・・・・・ご用件を伺いたいのですが」
「・・・・・・・・・・・・・・」
返答はない。自分で考えろと言うことだろうか。
ネオ・ロンドベルに対する連邦の密命を傍受して怒り、自白して謝罪することを待っている?
それとも姉であるシャチコさんの安否が気になって連絡をしてきたのか?
カトルが思い当たらず悩んでいると、相手がボソボソとしゃべり始めた。
「ル・・・・・・リ・・・・・・ル・・・・・・リ・・・・・・見たい」
「えっ? 失礼ですが、もう一度お願いします」
しかしそれは叶えられず、再び黙り込んでしまった。
何かを見たい、と言っているけど、何をだろう?やはり、実の姉がどうしているか気になるということか?
「シャチコさんなら、少し体調を崩されて自室待機されています」
「・・・・・・? シャチコ・・・・・・?」
「サワユキさんのお姉さんのシャチコさんですよ。シャチコ・ドウナイさんです」
「おおっ! ・・・・・・」
遠距離通信のタイムラグを考えても反応が遅い気がしたが、それよりもようやく相手の反応を得られてカトルは安心した。やはり、この人も家族が心配な普通の人なんだ。
「お呼びしますか?」
「・・・・・・うん、呼んでくれ」
「わかりました。少し時間を下さい」
カトルはモニター画面を保留にするとふうっと一息つき、そして艦内チャンネルでシャチコを呼び出した。
「どうしたの? カトル君」
「体調はどうですか、シャチコさん」
「心配してくれてありがとう。さっきまでユリカが看てくれていて、だいぶ楽になったわ」
「そうですか・・・・・・実は、シャチコさんの弟さんから通信が入っているんです」
「えっ・・・・・・!?」
「どうやらシャチコさんの事を心配して連絡されてきたみたいですよ。出られますか?」
「ええ、もちろん!」
シャチコは急いで連邦軍の制服に着替えると、通信室に駆け出した。
「ああ! サワユキ! 本当にサワユキなのね!!」
涙ぐむ姉の姿を見て僕もつい泣いてしまった。心から自分の無事を喜んでくれる人なんて今までいなかった。それがこんなに嬉しいことだなんて・・・・・・
「無事で良かった・・・・・・お父様から連絡は受けていたけれど、本当にサイド3を制圧したのね」
「へへっ、そうなんだ、まぁ僕の力を持ってすれば簡単なことだったよ!」
「すごいわ。お母様もきっと喜んでくれるでしょうね」
「あ、ああ・・・・・・そうだね」
やべっ、母さんは僕が殺したんだった。
「? どうしたの?」
「実は、母さんはティターンズに殺されてしまったんだ・・・・・・」
そう話すと、今まで笑顔だったシャチコ姉さんは両手で口を覆い絶句し、暗い表情になって顔を落とした。
「い、いやっ、僕は助けようとしたんだ! けれどティターンズがモビルスーツで母さんを持ち上げてから地面に叩き落としたんだよ! ジェリドって奴がやったんだ!!」
「・・・・・・そう、そうね・・・・・・サワユキは悪くないわ、仕方ないもの・・・・・・」
「ぼっ、僕が仇をとるよ姉さん! だから泣かないで!」
「ありがとう、サワユキ・・・・・・ねぇ、私はサワユキに会いたいわ。そっちに行ってもいいかしら」
「もちろんだよ! 姉さんはサワユキ王国の国賓だ! 国を挙げてもてなすさ!!」
「ふふっ、ありがとう。ロンドベルのみんなも連れて行っていいかしら? 私の弟が王様だって皆に自慢したいわ。お姉ちゃん皆に羨ましがられたいの」
「ははは、姉さんも案外俗っぽいところがあるんだね! いいさいいさ!」
そして姉弟の会話をひとしきり楽しんだ後、通信を切った。さぁ、宴の準備だ!国民にも協力してもらわないと!!
通信室を後にすると、シャチコはトイレに駆け込み嘔吐した。
サワユキが母の死を話すとき、言葉とは裏腹のイメージが頭の中に流れ込んできたためだった。それは、母が犯罪者となった息子を殺そうとして返り討ちに遭うという陰惨なものであった。ニュータイプ能力に優れたシャチコはそれを事実として理解し、自らのなすべきことを決意した。
「サワユキは、私が止めなくては・・・・・・」