刹那・F・セイエイ、IS世界に転生する。   作:てらりうむ

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1話 現実

 

 

「ぐっ…うぅ」

 

何か柔らかい物に上から圧迫されて俺は呼吸の中断を余儀なくされる。

薄らと開いた視界には白い布が映っていた。

ほんのり暖かい感覚と、心臓の鼓動のようなドクンドクンという音を布の向こうから感じて、俺はそれが女の胸部である事に気付く。

 

「…触れるなっ!!」

 

瞬間的に、胸を押し退ける事で俺は拒絶反応を示した。

 

「うわぁっ!ちょっとちょっと〜!さっきとだいぶ態度が違わないかな〜??」

 

俺の顔を圧迫していた胸の正体は、篠ノ之束だった。

彼女は、おとぎの国の少女が着ているような装飾が付いたドレスを着ている。

そして頭には例のメカチックなウサギ耳がカチューシャの形となって装着してある。

 

「…すまない。触れられる事に慣れていない」

 

「あっそーまぁいいや!あの後気持ちよさそうにまた寝ちゃったからさ、私はあの巨大ロボットを分析してたんだけど…一体なんなの!!アレ!!束さんでも知らない技術がてんこ盛りだし、1番理解できないのはあのエンジン!!どんな仕組みしてるのさ!」

 

手に持ったタブレット端末から、データファイルを見せられる。

眠りに落ちる前はどうも記憶が混濁していて思い出すことができなかったが、今ならそれがなんなのか、どういう存在なのかが分かる。

 

世界の戦争を根絶するために生み出された私設武装組織"ソレスタルビーイング"。

そしてソレスタルビーイングが保有するMS"ガンダム"

タブレットの画面に映る青と白にカラーリングされた機体。

GN-001…"エクシア"。ガンダムマイスターである俺の機体。

全ての歪みを断ち切るためのガンダムだ。

 

「このスペルだとさこの子は"ガンダム"ちゃんであってる感じかな〜。それに機体番号がGN-001 EXIAという事は…君の世界にはこんな巨大ロボットが沢山あったりしちゃうわけ??」

 

「ああ。この世界のISのように人型巨大兵器MSが軍隊規模で存在している」

 

「あららら〜なんとも非効率な兵器が君の世界では主役なんだね〜」

 

「…ガンダムは違う。既存のどの兵器をも凌駕する力を持っている」

 

「おお〜!刹那くんの溢れんばかりのその自信は一体どこから出てくるのかな〜?」

 

篠ノ之束が目を輝かせながら再び、俺の近くにすり寄ってきたところであることに気づく。

この状況は非常に良くない。この女の調子に乗せられていてはソレスタルビーイングの機密情報を漏らしかねない。

それに、いくら助けてもらったとはいえまだ全てを信じるには早急すぎる…と。

 

「悪いが、ガンダムの事を答えるつもりはない」

 

「あー機密情報ってやつかい?もーもーもー!束さん早く知りたいんだよーガンダムちゃんの秘密がー!!」

 

「……」

 

「分かったよ〜!そんなに信じられないなら世界を見に行こう!束ちゃん特製の完全ステルス型ISに乗ってね!!」

 

「なっ!触れーー「しゃらーーっぷ!!黙ってお姉さんのおっぱいに挟まれてなさーい!!!」

 

突然抱きしめられるような形で体を持ち上げられ、抗おうにも身動きが取れなくなる。

篠ノ之束の背中から生えた4本のロボットアームが俺をガッチリと押さえつけているからだ。

 

「ぐっ!貴様、離せ!!」

 

「やーだよ〜。ぱふぱふ!!さてと…CPC設定完了。ニューラルリンケージ。イオン濃度正常。メタ運動パラメータ更新。コア内エネルギーチャージ臨界。パワーフロー正常。全システムオールグリーン。束スペシャルシステム起動っと!!!」

 

俺がアームと胸の間でもがいている内に、人間とは思えないような速さでパネル操作を行い、機体の出撃準備を済ませた篠ノ之束。

 

「よぉーっし!!!発進準備完了だよ〜!束さん久しぶりのIS操縦にドキがムネムネ〜♪」

 

圧倒されていると、あっという間に自身の身体が巨人につままれたように宙に浮く。

頭上に伸びた、モビルアーマーのような巨大なアームに身体を掴まれていたからだ。

さっきまで、ドレス姿だった篠ノ之束を見ると、パイロットスーツ…にしてはいささか露出が激しい外装を見に纏っている。

それだけではない、体の至る所にはピンクや白でカラーリングされた装甲が肌に吸着するように装着されていた。

俺の身体を宙にぶら下げているアームも彼女の背中のあたりから伸びている。

 

「これが…IS、なのか?」

 

初めて篠ノ之束と対面した時に、彼女から提示された映像ではその姿を見る事ができなかった"IS"。

その姿を見た時に感じた素直な感情を言葉で説明するのならばーー

 

「ふふふっ!君のガンダムちゃんに比べて小さいだろ〜?でもでもね侮るなかれ!ΙSだってすごいんだぞ!!!」

 

篠ノ之束が口にした通り、ISにはモビルスーツのように人が"乗る"という概念そのものが当てはまらなかった。

 

"装着"するのだ。

 

「AIちゃーん!!発進準備よろしく!!」

 

篠ノ之束の陽気な声に、施設全体が様々な電子音を発しながら各々の役割を果たしていく。

元の世界で何度もモニター越しに見ていた巨大なカタパルトをそのまま人間サイズにまで縮小したような光景が目に映る。

 

ハッチが解放されると、以前地球のどこかの島で、誰かと見た事がある青い空と海が広がっていた。

 

『リニアボルテージ上昇、720を突破しました。発進のタイミングをマスター束に譲渡します』

 

AIのオペレーターの声が鳴り響くと、篠ノ之束の表情は「ニヤニヤ」という言葉に収まりきらないような笑みに変わる。

 

「ちゃんと捕まっててね?刹那くん♪」

 

彼女の声に次いで、カタパルトが金属と擦れる時に発生する、ギリギリという鋭利な音と赤い火花を捉えた時には、ISが風邪を切り裂くのを肌で感じていた。

 

 

「行くよー!!!!ブーストぜんかーい!!!!!!」

 

 

 

 

 

→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→

 

 

 

 

 

 

……

 

………

 

…………

 

……………

 

………………

 

…………………

 

………………………

 

 

「……」

 

「どうだったかな?世界一瞬旅行の感想は?」

 

篠ノ之束が操縦するISは、光のような速さで地球を回った。

特殊なバリアのようなもので身体を包まれていた俺は、映り込んでは地平線に消えていくすべての物に見知った世界の面影を探し続けた。

 

あれだけ、自らの領土を守るためにと哨戒任務にあたっていた各国のモビルスーツをついには一機さえも見つける事ができず、加えて、タワー、天柱、ラ・トゥールーーー俺たちの世界に平和と戦争を突き付けた3本の柱は篠ノ之束が言っていた通り、存在していなかった。

 

それどころか、既に戦争や政治的理由によって併合したり解体したはずの国々が当たり前かのように、地図上から失われた国境線を引いている。

 

見たもの全てが、この奇妙な世界が現実である事を確かに証明していた。

 

「俺の世界は、本当に跡形もなく消しとんだようだ。俺と…エクシアを残して」

 

「うんうん。ようやく信じてくれたんだね〜束さんも久しぶりに運動した甲斐があったよ♪」

 

困惑と焦りを感じ、ただ俯くことしかできない俺とは裏腹に、彼女は満足気にそう口にした。

 

「……」

 

「刹那くんは見た目からしてまだ子供に見えるけど、何であんな物騒なものに乗っていたんだい??」

 

「……」

 

「ねぇねぇ頼むよー!君の事も知りたいんだよー!!」

 

「分かった。…だが少しだけ時間をくれ」

 

「約束だよ〜??じゃ、この部屋は自由に使ってくれて構わないからさ!また明日お話し聞かせてね??ばいびー☆」

 

部屋の中央に設置された大きなベットに身体を沈み込ませ、深く息を吐く。

この世界に溢れる情報は多すぎて、一度落ち着いて整理をしなければ頭が痛くなりそうだった。

それに混濁した記憶の整理もできていない。

 

部屋の隅には小さな机と椅子があり、メモや書くものなどは備え付けてあるようだ。

早速それを手に取り、思い出せる事を書き連ねていく。

 

俺の名前ーー刹那・F・セイエイではなく、本当の名前は……ダメだ。思い出せない。

 

最初からつまづいてしまったものの、その後は特段詰まることなくサラサラとペンが動いた。

 

出身地。幼少期の事。元の世界の情勢。ソレスタルビーイングに所属していた事。

マイスターとしてガンダムに乗り、武力介入を行った事。

 

そしてこの手が、既に両親を含むいくつもの命を奪っている事も。

 

しかし、名前と同じく全く思い出せない事がもう一つあることに気付く。

 

ソレスタルビーイングの仲間、背中を預けあったマイスター達、戦いの中で出会ったどこかの国の王女。ある国で知り合った学生。計画に無い三機のガンダムのパイロット………。

 

なぜかその人物達が存在していた事も、自分と関わりがあった事も、全て覚えているというのに。

顔も、声も、性格も、もやがかかったように思い出せなかった。

 

最後の戦い。

気を失った後に一体何が起こったのだろうか。

 

考えてもその答えは浮かばなかった。

 

明日、篠ノ之束に俺の事を話した後、エクシアを動かしてみよう…。

俺と共にエクシアがこの世界に存在している事には何か理由があるはず。

 

そんな事を考えながら、着ていたパイロットスーツを脱ぎ、いつのまにか用意してあったシンプルなカラーのジャージを着て目を閉じたのだった。

 

 

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