異世界で世直し、元・神様達+木桜涼(現代人) 作:木桜 春雨
街に一人の商人が現れた、珍しい事ではない国土も人口もそれなりに大きいので諸外国から様々な人種が出入りするからだ、だが。
「おい、あれ、人間じゃない、亜人だ」
「オ、オーガ、じゃないか」
衛兵の言葉に周りの騎士達も目を凝らすようにして近づいてくる馬車を見た、中には腰の剣に手をかけていつでも抜けるように準備している者もいる、ところが近づいてくる馬車を見て兵達の目が釘付けになった、外装、車輪など全てが見たことのない作りだったからだ。
「旦那様、検問のようです」
御者台の亜人が声をかける、そのことに兵達は一瞬息を呑んだ、喋ったのだ。
亜人の中には人の言葉を理解し話す者もいる、だが、それらは知能の高い者達でオーガが人の言葉を話すことなど、目の前で見ても彼らには信じられなかった。
ドアが開き、一人の男が降りてきた。
一目でわかる仕立ての良い服、決して過度な装飾はないが、男が平民や下層階級の人間でないのは一目でわかる。
男が商人だと告げると兵達は驚いた。
「聞いてもいいか、あの男は亜人、いや、オーガか」
一人の男が商人に御者台を指さした、すると男は少し不思議そうな表情になった、何故、そんな事を聞くのかといいたげにだ。
自分たちの認識とはあまりにも違いすぎる、人間なら耳の部分、そこから白い角が生えている、黒髪を後ろで撫でつけている、肌の色は緑色だが、顔は人間と変わらないのだ。
薬師である男は城の調合室に籠もっている事が殆どで外に出る事はあまりない、欲しい薬草や材料は使いを出していたからだ、だが、それが難しくなった手伝いをしてくれていた男が国へ帰ることになったのだ、正式な助手ではなく市井の人間だったので引きとめる訳にはいかなかった。
市井の男が城へ出入りしているということで薬師もだが、その男自身も城へ来る度に冷たい目で見られていたらしい。
薬師見習いとして城に来る若い男達よりも知識はあった、これは痛手だった、国へ帰る男に十分過ぎるほどの金を渡したのは男の母親が長く煩っていた為だ。
それだけではない、男は若い頃、右腕を失っていた、森で魔物に襲われたのだ、田舎へ帰れば生活に苦労するかもしれない。
もし、何かあれば連絡するようにと伝えて男を送り出した薬師に男は何度も頭を下げた。
「田舎の方が気楽でございます、それよりもリーアム様、結婚なさって下さい、少しでも早く、それだけが心配でございます」
「いや、私は」
「もう四十です」
「いや、まだ三十」
「あと二年で四十です、普通なら妻子がいてもおかしくはないんですが」
薬師は無言になった、薬の材料をギルドや店に買い付けたりと手伝いに関しては腕がいい男なのだ、だが、これだけは自分の結婚の事に関して何度も身を固めてくれというのはいかがなものか。
心配してくれているのはわかっている、だから、言い返すことができない、時折、おまえは自分の母親なのかと聞きたくなる。
いや、実の母親がいたら、もっと口うるさく言うのだろう。
「リーアム様、自分で材料探しなどしないで、森へなど出かけないでくださいよ、命は一つなんですから」
「わかっている、近頃、モンスターや魔物が増えてきているらしいな」
「ええ、上級のランクの冒険者でも殺されてしまうんですからね」
「なのに、おまえは森へ」
「すぐに逃げるんですよ、弱そうな相手、強そうな相手だろうと、勝つ秘訣は逃げて争う事をしないことですよ」
リーアムは苦笑した、そうだ、勝負などしなければいいのだ、だが、それが若い頃の自分はわからなかった。
「リーアム殿と、あれは誰だ」
「見たことのない女性ですけど」
「何者だ」
城や廊下の通りをすれ違う人間は振り返るのも無理はない、普段から部屋に籠もりっきりの男が女性と歩く姿など。
そして、これが数日続くと噂は城中に広まり、国王の耳にも入ったのは当然のことだろう。
「国王陛下にですか」
その日、尋ねて来た女はリーアムから国王が自分に会いたがっていると聞いて、何故と不思議そうな顔になった。
「他国からの人間ということで興味があるのではと」
奥歯にものが挟まったような、すっきりとしない口調に女は両手を伸ばした。
「まあ、薬師様を困らせてしまいました、駄目ですわね、私」
「い、いや」
頭の中では様々な論議が行われていた。
これからの時代一番偉いのは商人、術士と魔法使いを排除する為の力は金だとばかりに、仕込みの男を国に出現、でも、一人だけだと頼りないので女の商人、これは自分の役。
何かあればフォローするという前提で動く。
「どうせなら美女になって、モテモテ、ハーレム生活というのもしてみたい」
頭の中で神様達は頷いた、人生楽しみも必要だと女は笑った。
主役よりもサブ、脇役が好きなのよ、それに彼は棒映画の先生にそっく
りだわと。