まちカド木属性   作:ミクマ

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第一部
もしかしてあの時の……


 多魔川の河川敷、そこに三人の少年少女達がいた。

 一人は小柄な体に似合わぬ口調で詰め寄る新米まぞく、シャドウミストレス優子ことシャミ子。

 もう一人は、そんなシャミ子の体を分析して引かれている、魔法少女の千代田桃。

 そして最後の一人、二人のやり取りを見ている少年に、桃が問う。

 

「それで……あなたは?」

 

「はじめまして千代田さん、優子からいろいろ話は聞いてるよ。

 俺は喬木 葵(たかぎ あおい)。優子の幼馴染で、決闘の立ち会いというか付き添いのつもりで来たんだ。優子はいろいろと心配だからね」

 

「葵は心配し過ぎですよ、私は大丈夫ですから。それより決闘です、行きますよ!」

 

 葵の言葉にシャミ子が若干ムッとするも、桃に対して決闘を急かす。

 しかし桃は準備運動を勧め、しっぽの靭帯という言葉に怯えたシャミ子はそれに従う。

 ……そして何故か走る事になっていた。

 

「まて、きさま逃げる気か!」

 

「ちょっ……優子! そんないきなり走り出して……」

 

「大丈夫です、最近すごく調子がいいんですよ! 追いかけて魔法少女倒します!」

 

「……分かったよ。でも絶対に無理はしないでくれよ? 後ろから見てるから」

 

 数日前には考えられなかったシャミ子の行動に葵が焦るも、言葉通りに元気そうな様子を見て、制止の言葉を引っ込め後を追い始める。

 しばらく走った後、桃がかなり緩めのペースで走っているのが分かり、葵は一旦の安堵を得た。

 そして心配と裏腹にシャミ子らは走りを終え、一旦の休憩に入る。

 息を乱しながらも、何か達成感を得たらしいシャミ子は目的を思い出して桃に迫るも、気遣われ出された延期の提案に同意する。

 

「じゃあ私追加で走ってくるから」

 

「……俺ももう少し走りたい気分かな」

 

「待って……葵……。電車代ありますか……?」

 

「あっ……ごめん。こんな所まで来ると思ってなかったから財布持ってこなかったよ」

 

「……500円でいい?」

 

 二人の会話を聞いて、桃が取り出した500円玉を受け取ったシャミ子はトボトボと駅に向かい歩いていく。

 葵はやっぱり一緒に帰ろうかと提案するも、「電車ぐらい一人で乗れます!」と怒られてしまい見送ることにした。

 

「……いいの?」

 

「優子は結構強情だからなぁ……。まあ無茶な事って訳でも無いし大丈夫だよ。……さて」

 

 シャミ子の姿が見えなくなった所で葵は振り返り、桃を真剣な表情で見る。

 

「気になっていたのはこれでしょう?」

 

 葵は男にしては長く伸び後ろに流している髪に触れ、纏めている紐を解く。

 紅白の縞々になっているそれを手に乗せて桃に見せる。

 

「それってやっぱり……」

 

「そう、俺はずっと昔、桜さんに助けられた。それと、千代田さんとは本当はじめましてじゃないんだ。覚えてないかな、一度だけ千代田さんの家に泊まった事があったんだけど」

 

 そう言うと葵は髪をわざと乱す。

 その言葉と行動に桃はやや困惑しながらも記憶を探る。

 

「あっ……! もしかしてあの時の……女の子だと思ってたよ」

 

「えっ、そうなの?」

 

「ボロボロで小さくて髪が長かったから。どうしてあんな事になってたの?」

 

 葵は桃の疑問に対して言葉ではなく行動で返す。

 次の瞬間、葵から溢れる雰囲気が変わり、桃は驚愕する。

 それは紛れもなく魔力であったが、彼女がよく知る物とは質が異なるように桃は感じた。

 

「これが暴走したせいで俺は死にかけて、そして助けられた。この紐は本格的な制御の前の応急処置みたいなものだね」

 

 ■

 

「それで……どこまで知ってるの? 姉の事とか、あの子の封印の事とか」

 

 二人は今ランニングを再開し、かなり早めのペースで走っていた。

 葵はそれに対しさすがは魔法少女だと内心驚きつつ、考えを整理して口を開く。

 

「そうだね……。正直な所、俺も持ってる情報はあまり無い。

 まず、桜さんの失踪について直接の原因はわからない。桜さんは町の中の騒動に俺を巻き込まないようにかなり気遣っていたんだ。

 言えることといえば、失踪の直前に桜さんでも手こずる何かがあったらしい、という事くらいだ。それが戦いなのかどうかも分からない」

 

「もしかして……それで消耗しすぎて……?」

 

「それも、わからない。……次に優子の家のことだけど、桜さんはあの家の封印に干渉をしたんだ」

 

 それを聞いた桃は思わず走りを乱し、葵は合わせて立ち止まる。

 桃を見て、やっぱり走りながら話すことじゃないな、などと考えつつ桃の言葉を待つ。

 

「あの子の封印ってかなり厳重みたいだけど、あれでもマシな方って事なの?」

 

「さっきの電車賃もそうだけど、主に金銭的な部分に呪いを移して他を軽くしたって、そう聞いてるよ」

 

「そう……なんだ」

 

「……ごめんね。10年あったのに全然手がかりを集められてない」

 

 思案を巡らせている様子の桃を見ながら葵は口ごもりながら謝る。

 露骨に気を落としている葵を桃は意外に思い、やや慌てながらフォローを入れようとする。

 

「えっと……。他にも色々やることあるだろうし、仕方ないんじゃないかな。それに、シャミ子の事を見守っていたっていうのは今日だけでもわかったし」

 

「フフ……ありがとう。ところで、何でシャミ子って呼ぶように?」

 

 桃のそんな不器用なフォローに葵は思わず顔を緩ませ、礼を言う。

 そして葵は余り自分のことで気を使わせるのも悪いと、話題を逸らそうとする。

 それに乗って桃は学校で再開したときのことを話すと、葵は()()()話だと笑う。

 その後、もう一度二人は走り出していった。

 

 ■

 

 走りながらの談話、先程に比べると割と軽めな雰囲気である。

 

「あなたの事は結構学校とかで噂を聞いてたんだけれど、今日まで会えなかったんだよね」

 

「あぁ、俺も会って話をしたいと思ってたんだけどね。やっぱり俺も優子の家の結界の庇護に入ってるんだと思うな。

 ただ一族ほど手厚いって訳でも無いみたい。噂が届いてたっていうのも、それが理由じゃないかな」

 

「やっぱり結界、あるんだね……」

 

 桃はその言葉に納得した様子であり、そんな彼女に葵は問いを返す。

 

「それで、噂ってどんなのかな?」

 

「図書館で凄く分厚い本借りてるとか、河原で瞑想してるとか、爪楊枝を沢山買ってるとか、……たまにボロボロで歩いてる、みたいな」

 

 最後の噂は少し語気を弱めに桃は話した。

 葵としてはどれも心当たりがある故になんとも言えない表情をする。

 

「姉に関係あるとは思ってなかったし、興味があった訳じゃなかったんだけど……。

 どれも“髪の長い男の子が”、ってついてたからなんとなく耳に残ってた」

 

「うーん、やっぱりこれ目立つのか。でも“男の子”ね……」

 

「高校生なんだよね? どこに通ってるの?」

 

「歳は16だね、学校は電車で数駅の──高校だよ」

 

 ■

 

「そろそろ戻ったほうがいいかな、休憩入れる?」

 

 そうこう話している内にかなり遠くまで来ていたらしい。

 桃の提案に葵は同意すると、ジャージのポケットから携帯を取り出した。

 携帯より財布を持ってくるべきだったなと考えつつ、通知を確認していると桃が声を上げる。

 

「それ、たまさくらちゃんだよね。好きなの?」

 

 桃は少し驚いた様子で一点を指す。

 それは携帯にぶら下がるキーホルダー、ゆるキャラのたまさくらちゃんだ。

 ちなみにそれは、相当ディープなファンでも無ければ、そうだとは気が付かないようなデザインである。

 

「ああうん、結構好きかな?」

 

「……どうして?」

 

「なんていうか、その……」

 

 その問いに対し葵は頬をかきながら言いにくそうに答える。

 

「桜さんに似てる気がして」

 

「やっぱりそう思うんだね」

 

「やっぱりって、千代田さんも?」

 

 お互いに同士を見つけた歓喜と困惑の入り混じった表情をしながら、疑問を浮かべる。

 何故、彼女のいた街でピンポイントに似ているキャラが作られたのか。

 デザインしたのは桜の魔法少女姿を知る者ではないか、などど二人は話すも答えにはいきつかず、結局二人は抱えた疑問を晴らすことはできなかった。

 

「あ、“タカギ”ってこういう書き方なんだ」

 

「そう、分かりにくいでしょ」

 

 そして携帯を出したついでだからと連絡先を交換すると、走ってきた道を戻っていった。

 

 ■

 

「お疲れ様」

 

 往復を終えて街に戻ってきた二人。

 まだ余裕の有りそうな桃に対して葵は深呼吸をした後、決闘を終えたシャミ子に渡すつもりで結局手を付けることのなかった水筒の中身を飲む。

 

「俺も結構鍛えてるつもりだったんだけど、さすがだね千代田さん」

 

「桃でいいよ」

 

「へっ? あぁ、じゃあ俺のことも呼び捨てで良いよ、……桃」

 

 さっきの言葉で機嫌が良くなったのだろうかと、割と失礼な感想を抱いた葵は困惑しながらもそう返す。

 そして、呆けたその表情を正してもう一度口を開く。

 

「優子の命を助けてくれた事。本当にありがとう、桃。俺はあの日朝から留守で、まぞくとして覚醒した事と、ダンプに轢かれかけた事を知ったのは夜だったんだ。桃がいなかったらと思うと、どれだけ礼を言っても返しきれない」

 

 真面目な口調になったその長い言葉を聞いた桃は少しの後、片手を差し出しながら答える。

 

「なら、お願い。姉を見つける事と、シャミ子を鍛えることを手伝ってほしい。シャミ子を悪い道に進ませないって事、葵なら確信できるから」

 

「……うん、もちろんだよ。これからよろしく、桃」

 

 こうして葵は手を握り返して誓ったのだった。

 

 ■

 

「そんな……もう手遅れ……?」

 

「う……」

 

「ッ! 君! 聞こえる!?」

 

「だ……れ……?」

 

「魔法少女、千代田桜! あなただけでも絶対に……!」

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