まちカド木属性   作:ミクマ

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無しでお願いします

「葵! 世界史教えてください!」

 

 帰宅した彼は、ばんだ荘から出てきたシャミ子にそう言われた。

 

「世界史? ……ああ、そっちの期末少し早いんだっけ。でも、何で世界史だけ?」

 

「桃と点数で勝負をすることになったんです!」

 

 それに納得した葵は範囲を聞き出すと、自宅から昨年に使っていたノートを持ち出しばんだ荘に入る。

 そして葵はシャミ子の教科書を眺め、内容に大差がないことを確認する。

 

「……うん、問題なさそうだね。それじゃあ始めようか」

 

「よろしくお願いします!」

 

「あ、そうだ。お茶入れようか」

 

「今日は真剣なんです。そう言うのは無しでお願いします」

 

 そう、葵はシャミ子に勉強を教えようとしても、いつもこんな感じに甘やかそうとしてしまうのだ。

 提案を却下された葵は少々がっくりした様子なものの、座って教え始める。

 そして、範囲を知ったリリスはテンションが上がった様子で語り始めた。

 

「エジプトやメソポタは余の庭だぞ! あの時代はまさに余の絶頂期! 封印されたてホヤホヤで負け癖があんまりついていない頃だ!」

 

「それは絶頂期なんですか?」

 

「負け癖は怖いですよねぇ……」

 

 そんな何処かズレたことを言う葵は昔の事を思い出していた。

 今でこそそれなりに強くはなれたが、特に一年前など先輩達との対峙で怒涛の連敗続きであった。

 ここ最近はいい感じではあるが少し前に大敗を喫したこともある。

 負け癖という単語に思わず反応し、回想していた葵はシャミ子に心配される。

 

「……葵? どうしましたか?」

 

「ああいや、大丈夫。続けようか」

 

 あまり順調とは言えないが、シャミ子を励ましたりリリスが口を挟んだりしつつ勉強会は続く。

 その途中、ふと思い立った葵はシャミ子に問う。

 

「そういえば桃って、世界史苦手なの?」

 

「歴史系が苦手って言ってました。それでも75点位らしいですけど」

 

「ふぅん……。あ、そうだクッキー食べる?」

 

「無しでお願いしますって言いましたよね!」

 

 そんなボケを挟みつつ、葵は普段のシャミ子の成績を思い浮かべ、険しい道のりになりそうだと思った。

 

 ■

 

 日曜日。セミの声が響く夏の昼に、葵は自らの家のキッチンに立っていた。

 流石にこの暑さで休憩を入れない訳にも行かず、口に含みやすいものを作る。

 

 出来上がったそれを持ってシャミ子がいる部屋に近づくと、リリスの大きめな声が葵の耳に入ってきた。

 

「母のため妹のため一族のために……やれ! 明日こそ桃に勝て!」

 

「何話してるんですか? リリス様」

 

 葵は部屋に入りながら、ふすま越しでよく聞こえなかった内容を問う。

 シャミ子は何やら混乱している様子で、それを不審に思う葵。

 

「む? シャミ子が頑張って桃に勝てば、その勢いのままどんどん勝てるようになると、そう励ましておったのだ」

 

「……本当ですか?」

 

 実際、リリスは嘘はついていない。嘘は。

 手段を問わず勝て、そんな内容を言ったという事は隠しているが。

 それを聞いて怪しむ葵を見て、リリスが話を反らそうと試みる。

 

「それで、何を作ってきたのだ? 余も興味があるのだが」

 

「……今日は暑いですから、すりおろした玉ねぎとコンソメの冷製スープですよ。

 氷入れて冷やしたので少し薄いかもしれませんが」

 

「ほほう! 冷製スープとな! 初めて見たぞ!」

 

「はいはい、3つありますから捧げますよ……。優子、玉ねぎは夏バテに効くから飲んでほしい」

 

「はい……」

 

 何やら不安そうな表情でカップを受け取り、シャミ子はすぐにそれを飲み干した。

 

「美味しかったです……。勉強、続けましょう」

 

「……大丈夫? リリス様に変なこと言われてない?」

 

「葵、余に厳しくない? 様付けなのに」

 

「敬意を見せるほどの威厳を見せてもらってないので」

 

「なんだと〜!?」

 

 つっけんどんな態度でそう言う葵に、憤慨するリリス。

 そんな会話をしていると、シャミ子は意を決したように話し出す。

 

「私、頑張りますから。桃に勝って見返して、封印を解いておかーさんと良を楽にさせたいんです」

 

「……頑張るのは良いことだけど、見返すってのはちょっと違うかな」

 

「へ?」

 

「桃はあんな態度だけど、優子にいつも全力で当たってるよ。

 修行をさせるのも、勝負を受けたのも優子の力に期待してるからだと思うな。

 そう俺は感じてるから、俺も桃を手伝おうと思える」

 

「葵……」

 

「さ、続き頑張ろうか」

 

「……はい!」

 

 ■

 

 数日後、帰宅した葵にシャミ子が採点された世界史の答案を見せる。その点数は90点だ。

 

「こんなに高い点数初めてです! ……でも、負けてしまいました」

 

「本当に頑張ったよ、優子。桃もいつもより頑張ったんだろうから、仕方ないさ」

「……はい! 正々堂々頑張ってよかったです!」

 

「俺、今回はちょっと反省かな。優子が頑張ろうとしてるのに甘やかそうとするのはダメだよね」

 

 世界史以外の教科も、いくつか赤点はあるがいつもよりは良好だ。

 そうして二人はしばらく笑い合っていたが、唐突に葵が虚無の表情で邪神像を見る。

 

「……で、リリス様。優子に何吹き込んだんですか?」

 

「……な、なんのことだ?」

 

「杏里から聞きましたよ。テストの日、変な水筒に入ってたって。

 あの時は何の事かわかりませんでしたが、さっきの優子の正々堂々って言葉で確信しました」

 

「……」

 

 葵は邪神像を持ち、手首の力で回転を加えながらポンポンと小刻みに上に飛ばす。

 少しするとリリスは嘔吐しそうな声を漏らしだした。

 

「葵! ごせんぞいじめちゃ駄目です!」

 

「……まあ、結局普通に受けたみたいですからこの辺にしときますよ」

 

「うっぷ……」

 

 ちなみに、葵に説得されたように見えたシャミ子が、邪神像を水筒に入れて持っていった理由。

 それは、葵の言葉の後でもリリスが色々と言ってきたので、最初から先生に渡すつもりで従ったふりをしていた、という事のようだ。

 

 ■

 

「そっちって試験休みあるんだったね」

 

「今日も修行で、夕方からは補修なんですけどね……」

 

 更に数日後、葵は登校前にシャミ子とそんな会話をして家を出た。

 登校途中、葵に桃からの着信が入る。

 

「どうしたの?」

 

『今日、修行が休みになった』

 

「そうなの?」

 

『ミカンに休んだほうが良いって言われたから。……それで、何してればいいと思う?』

 

「何って……普通に休むか、暇なら遊ぶかじゃない?」

 

 心底悩んでいる様子の桃の声に、葵は電話越しながらも少し笑う。

 すると、桃がこんな事を言い出した。

 

『……葵も休みなら、一緒にたまさくらちゃんの映画見に行きたかったんだけど』

 

「あー……」

 

 想定していなかった誘いの言葉に葵は照れ、言葉に詰まる。

 

「……まあ映画はいつでも見れるし、今日の所は好きな事して過ごしなよ。桃が良ければ、そのうち一緒に行こうか」

 

『……うん』

 

 そして電話を切りカバンにしまうと、葵は頬を赤く染めそれを手で抑えた。

 

(電話でよかった……。そういえば、優子は何してるんだろう)

 

 そう思って吉田家に電話をかけるも、応答はない。

 修行が休みと知り、どこかに出かけたのだろうかと葵は思い、特にそれ以上は考えなかった。

 そして昼休み、今度はミカンからの着信が入る。

 

『あの、葵!?』

 

「そうだけど。どうしたのそんなに慌てて」

 

『えっと、あの。学校が終わったらすぐ桃の家に来て!』

 

「緊急事態?」

 

『そうじゃないけど……でもそうなのかも……。とにかく、学校終わったらでいいから!』

 

 ■

 

「で、どうしたの?」

 

 そうして向かった桃の家、そこには死んだ目をした桃と未だ慌てるミカンがいた。

 ミカンが言うには、桃の消耗を心配して修行を休みにする事を提案し、ミカン自身は呪いの制御の為にシャミ子と共にホラー映画を見に言った。

 しかしそこで桃と遭遇し、二人の姿を見た彼女はこのような状態になった、という事だ。

 

「映画、一人で見に行ったの?」

 

「早めにサンバイザー欲しかったから……」

 

 そう言う桃はまだ目が死んでいる。

 遊びに行くと良い、とは言ったがまさか一人で見に行くとは思っていなかった葵は、言葉に詰まる。

 

「あー、うん。その、ミカンも遊びだった訳じゃないらしいし」

 

「……別に、怒ってるわけじゃないし、ほんとに気にしてないから」

 

 それを聞いて、葵は言葉のチョイスを間違えたなと感じた。

 桃は先程よりも更に目を曇らせる。

 

「私、大丈夫だから。もう帰ってもいいよ?」

 

「いやいやいや……」

 

 何を言ったらいいか分からなくなった葵は、恥も外聞も捨てることにした。

 

「今度一緒に映画見に行こう。他にも桃の好きな所いくらでも付き合うから」

 

 そう言う葵は顔を真っ赤にし、ミカンはそれを見て乙女回路をときめかせている。

 そんな熱い言葉を聞いた桃は顔を上げ、目に少しの光が戻る。

 

「……うん。じゃあ、今日は晩御飯作って。お昼はシャミ子の鍋食べたからそれ以外で」

 

「任された。買い物行ってくる」

 

 ■

 

「……誰かに見られているような気がする」

 

 帰り道、葵は視線を感じブルリと体を震わせた。

 葵が振り返ると少し離れた電柱の影に一人の少女を見つけ、目が合うとその少女が距離を詰める。

 

「こんばんわぁ……」

 

「……初めまして」

 

 あからさまに警戒する葵。

 その目の前にいるのは黒髪にカチューシャと眼鏡をつけた少女。

 

「あなたの事は色々と見ていたよぉ……。私は小倉しおん、よろしくねぇ」

 

 その名を聞いて葵は思い出す。

 シャミ子が変身できるようになった際、この少女から謎の丸薬を飲まされたと聞いていた。

 

「喬木葵です、よろしく。……それで、何の用ですか」

 

 一応挨拶を返す葵、しかし警戒は緩めない。

 しおんは何故かモジモジしながら話し出す。

 

「そんなつれない口調じゃなくていいよぉ……。

 私、魔術とか研究してるんだけど、貴方にも興味あるんだぁ」

 

 そう言いながらしおんは顔をグイッと寄せ、葵は一歩下がってまたも震えた。

 それを見てしおんは微笑み、葵の手をがっしりと握って話を続ける。

 

「安心して、貴方に危ないことはしないからぁ……。

 今日の所は挨拶に来ただけだよぉ……。それじゃあねぇ、喬木せんぱぁい……」

 

 そう言うと、しおんは手を振りながら去っていった。

 

「今日の所はって何だ……後で桃に報告しとこう」

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