まちカド木属性 作:ミクマ
葵と姉妹は桃の家に向かっていた。
桃から借りたパソコンの調子が悪いと、そう姉妹から聞かされた葵は背面を触り熱暴走と推察するも、断定は出来ないとやっぱり桃に見てもらったほうが良いと言ったのだ。
「俺もそこまで詳しい訳じゃないけど、多分大丈夫だとは思うよ」
「そうなのかな……」
「良は何も心配することないです!」
葵がパソコンを持ちゆっくりと歩く三人。
良子を励ますシャミ子はしっぽを激しく震わせていた。
そしてたどり着いた桃の家、良子はその大きさに驚いているようだ。
「お兄の家よりおっきい……」
「俺の家、見た目もあるけどそこまで大きくはないけどね」
「私、先に桃に挨拶して来ますね。葵は良をお願いします」
シャミ子を見送った二人。そんな中、良子が口を開く。
「……お兄達と桃さんってどうやって仲良くなったの?」
そう問われた葵は、桃が魔法少女だと言うことを良子に対して隠していたと思い出す。
どう誤魔化すか考えた葵は、とりあえず家事の世話を焼くことになった経緯を思い浮かべた。
「えーっと……。桃って結構、ズボラな所あるんだよね。それを見た優子がほっとけなくなって、俺も色々助けるようになった感じかな」
「そうなんだ……やっぱりお姉は優しい……」
そう言う良子はそれ以外にも何か考えている様子だ。
と、そこでシャミ子が戻ってきて挨拶が済んだと言い、家の中に誘導する。
家に入り、改めて挨拶を済ませるとシャミ子と桃は何か小声で話し始め、それを横目に葵はテーブルの上のポテトチップスを見つけた。
(やっぱりズボラ……)
シャミ子は挨拶の時に桃のお昼を受け持ったようで、葵は今回のそれをシャミ子に任せる事にした。
葵と良子がテーブルの近くに座っていると、メタ子が近寄ってくる。
今回は特に警戒してはいないようで、葵に身を寄せじゃれつき出した。
「お兄、その猫ちゃんと仲良しなの?」
「そうだね、とりあえず嫌われてはいないんじゃないかな」
「そうなんだ……。あれ?」
そこで良子はソファーの横に置かれていた物を見つけ、葵に見せる。
それは桃が魔法少女としての活動に使っている、フレッシュピーチハートロッドだ。
「これ、なんだろう?」
「……何だろうね。……気になるなら桃に聞いてみたらどうかな?」
葵は顔が引きつるのを抑えながら返答を桃に押し付けた。
葵の言葉で、調理をするシャミ子の傍らにいる桃に良子は近づき、それの正体を聞く。
「あの、桃さん。このかわいい棒は何?」
「……これは……調理用の棒。こうするとおいしくなる」
(苦しすぎる! 押し付けた俺も悪いけど! そしてフライパンが!)
焦った桃はステッキを何度もフライパンに叩きつけて誤魔化す。
シャミ子も同様に思っているようで、葵と似たような表情をしている。
「すみません、協力してもらって……」
「いいよ……。でも私は……大切な人に、ずっと隠し事をされているほうがキツいと思う」
(ッ…………!)
桃が発した言葉、それを聞いたシャミ子は戸惑っているようだ。
そして、それはシャミ子だけで無く葵の心にも深く突き刺さった。
シャミ子の作った焼きうどんを桃が持ちテーブルに向かう中、葵は無意識に顔がうつむく。
「……葵。無茶をさせたくないのは分かるけど、それだけが優しさじゃないと思う」
「……」
桃に小声でそう言われた葵は唇を噛み、左手で右肘を抑え顔を反らす。
(そろそろ……潮時なのか?)
葵がそう考えていると、良子が困惑した様子でシャミ子に話しかける。
「この猫ちゃん、鳴き声がへんだし光ってる」
「時は来た。時は来た来た。時……来てるぞ!」
良子が持ち上げているメタ子からは輝かしい光が発せられ、謎の預言を連呼している。
それを見たシャミ子は流石に隠しきれないと思い、桃の正体を打ち明ける事にした。
「実は桃は魔法少女なんです。今まで嘘をついていてごめんなさい」
「俺からも、本当にごめん」
そう言いつつも、まだ沢山の隠し事がある葵には罪悪感が積もる。
「今は色々あって共闘中で……」
「知ってた」
その良子の言葉にシャミ子は驚愕する。
良子はシャミ子と葵の気遣いを分かっていたようで、更には桃の身のこなしから魔法少女と見抜いていたらしい。
しかしそこからは誤解が深まり、シャミ子が軍勢を率いていると思っている良子は、桃がそれの一員だと勘違いしていた。
「お兄も、お姉の軍勢として桃さんを調略して、籠絡したらしいから説明しづらかったんだよね!」
葵は前にもその言葉を聞いたものの、流石にこの場では耐えきれず吹き出して咳き込んだ。
葵は顔を真っ赤にしてうつむき震え、桃も少し頬を染める。
子供らしからぬ言葉を発し興奮した様子の良子。
それを見る桃は返答に迷い、そしてその思いに負けた。
「葵! 良に何言ったんですか!?」
「違う違う違う違う! 前に良ちゃんが似たような事言ったの否定しなかっただけ!」
「否定してください!」
葵は小声でシャミ子に詰め寄られ、同じく小声でそう返した。
シャミ子に凄まじい目で見られた葵は現実逃避を始める。
(そういえばさっきのメタ子の反応……。何だったんだ?)
「葵! 聞いてるんですか!?」
■
「桃さんはどうしてお姉の配下に……?」
「……主に寝込みを襲われたり。冷蔵庫を作り置きまみれにされたり……」
(間違ってないから否定できない……)
未だ半分逃避をする葵は次の言葉で引き戻された。
「あと葵にも必死な言葉で誘われたり……」
「ちょっ!? ……あっ」
「お兄は結構情熱的なんだね!」
桃の言葉に一瞬困惑するも、心当たりがあったので黙らざるを得ない葵。
そこでようやく良子は落ち着き、話が終わる。
メタ子の写真を撮り出した良子から三人は離れ、小声で会話を再開する。
「誤解を解くどころかどんどん深まってます! 葵と桃は私の知らないところで何をしてるんですか!?」
「遊びに誘われたのは本当だし……。壊しちゃいけない笑顔もあるのかもって思って……」
「桃のくせにぶれるなー!」
そんな話をしていると、買い物に出ていたらしいミカンが帰ってきた。
初対面のミカンと良子は自己紹介をすると、良子がミカンに対しても軍門なのかと問う。
言葉の意味を読み取れないミカンを、桃は奥の部屋に連れ込み謎の説得を始めた。
ミカンの色っぽい声が聞こえ始めると、葵は良子の耳を押さえる。
ただし葵自身は、立て続けに騒動が起こったことで感覚が麻痺してきたらしく、平然としていた。
「桃……姉は嘘をついてはいけない生き物じゃないんですか?」
「一旦あのキラキラを守る方向で行こう……。
それに私、良ちゃんの解釈はそんなに間違ってない……と思う」
良子のことをミカンに任せ、また話し始める三人。
桃の言葉にシャミ子は困惑している様子だ。
「分からないならいい」
「俺はずっと優子の軍門のつもりだけどね」
「葵が良に乗るから勘違いが加速するんじゃないですか!
というか、桃は私の配下扱いで良いんですか?」
そう問われた桃は沈黙し、複雑な顔をする。
「顔! 飲み込めていませんね!」
(俺は本気のつもりなんだけどなぁ……。
それにしても……姉、か。
俺にとって桜さんは……どういう存在なんだろうか……)
二人の会話で思い浮かべた、彼にとっての憧れの存在。
10年会っていない彼女と再開をしたら、彼はどうなるのだろうか。
■
「一つ聞きたいことがあるんだけど」
「何かしら?」
パソコンを桃に見てもらっている間、葵はミカンにここしばらく気になっていた事を問う。
「この前の河川敷の時、呪いで爪楊枝がああなったことに驚いてたみたいだけど」
「そうね……植物に影響することは多かったけど、今までそんなものにあそこまで大きい干渉をしたことはなかったと思うわ」
「ふむ……」
そう聞いた葵は考え出し、そんな様子を見たミカンはおずおずとしながら話し始める。
「葵がそれを使うとは聞いてたのだけれど……。あなたの武器、潰しちゃったかしら……」
「いや、おそらく問題ないと思う」
「どういう事かしら?」
「多分、あの時は直前に俺が魔力を込めてたせいで、普通の植物より更に影響受けやすくなってたんじゃないかな」
困惑するミカンに、葵は推察を話す。
あの時葵は桃のFPHSを防ぐ為、それに魔力を集中させていた。
しかし、直後に桃が倒れたためそのまま放置され、そしてオブジェと化した。
「とりあえず、普通に過ごしてる分には大丈夫だと思うよ。
まぁ、爪楊枝は問題ないってだけだけど」
「なら、一先ずはよかったのかしら……?」
■
「葵。これ、良ちゃんに」
そう桃に渡されたのは、沢山の記録媒体の入った紙袋。
それを受け取り確認した葵はその量に少し驚き、しかし同時に納得した。
「うん。ありがとう」
「パソコンは特に異常なかったよ。葵の言った通り熱暴走だと思う」
「俺の家、割と涼しいからそっちで使ってもらおうかな」
彼の家は植物に覆われており、部屋によっては夏でもそこそこの気温に留まる場所がある。
葵の言葉を聞いた桃は頷き、続けて問う。
「葵って、パソコンとかそう言う方面の知識とか設備どのくらいあるの?」
「あー、そうだね。今の所は携帯で軽く情報集めてるだけなんだけど……」
「けど?」
「良ちゃんの習熟っぷり見てると、環境整えたほうがいいのかなって」
日に日に、スポンジが水を吸うように熟練していく良子の姿を見て、葵はそう考えていた。
そんな事を話しながら玄関に向かい、そこにいる姉妹と合流する。
桃から熱暴走についてのアドバイスを聞いたシャミ子は、少し不服そうにこう言う。
「またひとつ借りが増えてしまいました……」
「まあまあ、良ちゃんの為なんだから良いんじゃない?」
「それはまあ……そうですけど……」
少し悩みながらも、葵の言葉に同意しているシャミ子を見て、桃はふと思い立ったように声をかける。
「んとさ、シャミ子。そう思うなら……来た時はまたごはん作って。
……配下の栄養状態を守るのも主君の役目じゃない? シャドウミストレスさん」
「きさまこんなときだけずるいぞ!」
「……葵のごはんも、楽しみにしてるから」
「……フフ。それじゃ、今日はありがとうね。桃」
そうして桃と別れ、家に戻る彼の両手には複数の紙袋がぶら下がっている。
しかし、可愛い妹分の事を想えば葵は全く重量を感じないのであった。