まちカド木属性 作:ミクマ
夢の中。夢魔としてそこに侵入したシャミ子と、夢の主である桃は話していた。
「シャミ子は……いろんなことを知らなすぎる」
シャミ子の語ったまぞくとしての力と、昔の病の事。
彼女が戦う理由、不在である父の代わりに頑張るという決意。
それを聞いた桃はそう返すと、以前語った吉田家の結界について、追加の解説をする。
「あれがシャミ子の家にあるってことは……。
多分だけどシャミ子のお母さんは大事なことを隠してる」
「えっ……おかーさんは悪い人じゃないです。
いつも優しいし、私のせいでいつも大変な思いを……」
その話を桃は否定しない。
しかし、それの違和感が無視できない所まで来ている。
「うん……でも何かいろいろ変だよ。それに葵の事も」
「えっ……? 葵……?」
「あんな力を持っていた事も、魔法少女についての知識も、隠していたのはシャミ子に負担をかけない為なんだろうけど……」
それを聞いたシャミ子はうつむき、悩む。
「葵は……いつも私の事を……。
いえ、おかーさんも良の事も、ずっと助けてきてくれました」
「それは……会ってから短い間だけでもよくわかったよ。
でもやっぱり、何も話さないっていうのはシャミ子にとっても、良くないことだと思う」
以前、葵自身が隠し続ける事について悩んでいたとは言わない。
それは彼自身の問題だからだ。
『おかーさん』と葵がカギと確信した桃はシャミ子が二人と対峙する事を勧める。
そこで、現実のミカンが桃を揺り起こし夢の世界が壊れていった。
■
(大切な人にずっと隠しごとをされている方がキツイと思う……か。
俺は……優子の
家にいた葵は、先日桃が言っていた言葉を思い浮かべていた。
すると、隣のばんだ荘から騒がしい声が聞こえ、彼が外に出るとシャミ子と桃が言い争う姿を目にした。
「どんなに隠し事をしていても、矛盾していても……。
私はおかーさんを、良を……お父さんが帰ってくるこの家を守りたいんですっ!」
(……!)
「それに、葵も…………!
本当は関係ないのにずっと私のことを支えてくれて、それで他のことも頑張ってるのを見てました!」
それを聞いた葵はもはや我慢ができなくなり、ばんだ荘の階段を駆け上がった。
音を立てて登ってきた葵にシャミ子と桃は驚いている。
「関係無くなんかっ……無いっ! 俺は、ずっと優子に……!」
「葵……?」
「葵、もう……楽になったほうが良いよ」
「そう……だね。その時が……来たんだ」
そこで吉田家の玄関が開き、清子が中で話すように招いた。
薄い麦茶が置かれたみかん箱の周りに座る四人。桃が口を開く。
「私には……聞きたいことがたくさんあります」
「はい……そうですね……。優子は私が思っているより強い子でした。
ちゃんと話さないといけませんね」
「俺は……優子を侮っていたのかもしれません」
シャミ子に対し以前「桃は全力であたっている」と、そう言った彼は自分自身を棚に上げていたのかもしれないと、今になって悔やむ。
「言いづらいことも沢山あるけれど……。
まずは優子……あの格好は、お外ではあまりしないほうがよろしいかと」
「そのクレームはごせんぞにお願いします!」
先程の時点では他の事にいっぱいいっぱいで、葵はそれが目に入っていなかったのだった。
話が始まる。
昔この町に引っ越してきた吉田家は、結界のついたこの部屋を斡旋してもらったと、そう清子は語る。
「葵君に初めて会ったのもその時です。
葵君はその時既に一人暮らしで、この町を仕切る魔法少女さんに紹介されました」
「俺はあの頃、あの人に定期的に訓練を見てもらっていたんだ」
「訓練……?」
不穏な単語を耳にしたシャミ子はそれを繰り返す。
「……子供の身には過ぎた力でね、あの頃は今よりずっと不安定だったんだ」
「そうなんですか……あ。それってもしかして千代田桜さんですか?」
「!? なんでシャミ子が知ってるの!?」
「夢の中でムキムキのメタ子から聞いて」
「ムキムキ!?」
謎の単語に困惑する様子の桃だが、千代田桜は自身の師匠で義理の姉だとシャミ子達に話す。
そして、桜が失踪する前に桃は別の町に預けられ、戻ってきた時には手がかりとなる関係者がほとんど見つからなくなっていた。
さらに、桃は魔法少女故に結界に守られた町の魔族に接触できず、姉の足取りが追えないと、そう語った。
「葵……清子さん……。過去に何があったか教えてください。
……シャミ子とそのご家族は私の唯一の手がかりなんです」
「河川敷で走った時……途中で途切れさせず、桃の気遣いに甘えないで話すべきだった」
「私達が知っていることを順を追って話します。
途中までは、私の方が向いている筈です」
まず、シャミ子が生まれつき体が弱かった事。
シャミ子はまぞくの血を強めに受け継ぎ、呪いも強く出たのかもしれないと推察を話す清子。
良子があまりそれの影響を受けていない事もその推察材料だ。
思わずそれに納得する桃に対しシャミ子は怒っている。
「良ちゃんは全然封印の影響感じないなぁ。
数年すれば俺なんかすぐ追い抜きそうだよ」
「分かりますけどあまり私に追い打ちかけないでください!」
「母的に、優子には私由来の成分も多分に含まれていると思います。
私は眷属になる前からどじっこでしたよ」
「おかーさんは希望を断たないで!」
(実際そっくりだよなぁ……)
話は続く。吉田家が引っ越してきた頃の事。
清子は良子を妊娠しており、シャミ子は体調が思わしくなく二人は共に、同じ病院に入院していた。
「夫が優子のことをこの町を仕切る桜さんに相談して、桜さんには一族の呪いに干渉してもらったそうです」
「そこは、葵に聞いていました……。
けれど、シャミ子がそんなに病弱だったとなると、かなり深い干渉が必要では……?」
「そうですね……」
桜が干渉した結果、“残された一族の金運”が“シャミ子の健康運”に変換され、シャミ子は生き永らえたと清子は解説する。
「その結果が“一ヶ月4万円生活の呪い”!」
「それでそこだけ現代のレートだったんですか!?」
「葵君の差し入れには色々助けてもらいました。お弁当もそうです」
「子供の俺でも分かるように、何年も家計簿つけてて貰ってたんですから当然の事です」
「……私は、桃のお姉さんに呪いをいじっていただいて……そのおかげで、元気になったってことですか?」
清子はそれを肯定した。
桃はその話を聞いて、桜は魔力の操作に著しく長けていたが、それでも古代の封印への介入は難しいはずだと語る。
清子は更に肯定すると、封印に抗った代償で桜は弱体化し町を守ることが難しくなった、そう聞いていたと話す。
「夫、ヨシュアは桜さんと取引をし、町を守ることに協力することになりました」
「よっ……よしゅあ!? おとーさん横文字ネームだったんですか!?」
「ヨシュアは昔のメソポタによくいた名前だそうです」
「私メソポタハーフだったんですか!?」
「シャミ子、お父さんの名前初めて知ったの?」
「違いますっ……! うちのおとーさんの名前は『吉田太郎』っていろんな書類に……。
それに葵もずっと『太郎さん』って呼んでて……!」
シャミ子のその言葉を聞いた葵は、少し気後れした様子で軽く笑う。
「あー。知ってたんだけどね、優子に色々隠さなきゃって思ってて……。
今となっては、それが正しかったのかは分からないけれど……」
「提案したのは私ですから。あまり気を詰めないでください」
理由を語る葵は言葉が続く毎に、語気が弱くなっていく。
そんな彼を庇った清子は、『吉田太郎』はこの町で使っていたコードネームだと語る。
ヨシュアをひとひねりして吉田、だそうだ。
「優子はお父さんのことは覚えていますか?」
「あまり……」
「でしょうね……貴方はあの頃、ほとんど寝てばかりでしたし」
「でも……頭を撫でてくれたことは覚えています」
「太郎さん……。ああ、えっと」
言葉に詰まる葵に清子が助け舟を出す。
「好きに呼んでいただいて、大丈夫ですよ」
「……では、今日からはまたヨシュアさんと。
……ヨシュアさんと一緒に優子の病室に言った時、たまに起きていた優子に対して本当に優しい声と笑顔をしていた事が、俺の心にずっと残ってるよ」
「……葵は、おとーさんの事を覚えているんですよね」
「そうだね……。本当に、優しい人だった……清子さん」
「はい。お父さんには、立派な角が生えていました」
そう言って清子は財布から一枚の写真を取り出す。
そこには今より更に若い見た目の清子と、長い角の生えた少年が写っていた。
それを見たシャミ子は何故か怯えている様子だ。
異様に若いヨシュアの姿を見たシャミ子はそれを清子に問う。
「あの人はとんでもない若作りなんです」
「俺とヨシュアさんで一緒に歩いてたら兄弟に見られたこともあったかな」
「ちなみに、おかーさんも眷属になって老け止まりました」
「眷属?」
そこで写真を財布にしまうと、清子は衝撃の一言を発する。
「……その後、夫は桜さんに封印されました。そして今、このみかん箱に封印されています」
その言葉をシャミ子と桃は理解できない様子で、清子は麦茶を注ぎながらもう一度同じ事を言う。
しかしまだ沈黙し、四人が囲むそれを指差しながらの三回目の言葉でようやく理解したようで、コップを持ち上げながら驚愕した。
「なんでどうしてどうやってそうなったんですか!?」
「私も病院に入っていたので……」
そこで清子の視線が葵に向き、同じようにシャミ子と桃も葵を見る。
葵は目を閉じ、一息つくと意を決した様子で話し出す。
「ここからは、俺が話すよ。……あの日、俺は優子の見舞いをしていた」
■
10年前、雪の降りそうな夕方。
幼き喬木葵はせいいき記念病院にて、数日に渡る“健康診断”を受けていた。
普通に考えれば不自然なのだろうが、疑いを持つことはなく。
それが終わった後、葵は吉田優子の病室を訪れるが、病室の主、吉田優子はこの日目を覚ます事はなかった。
それでも面会時間の終わりが近づき、別の病室の清子に挨拶をして病院を後にする。
「……!? なに? これ……」
病院を出た瞬間、彼は空間がうねるような凄まじい違和感を感じ取った。
葵はその
だが、幼く未熟な彼にその具体的な場所を察知する事は出来ず、町の中を彷徨う事になった。
そのまま時間が過ぎ、その間に降り出していた雪が積もりだした頃に彼はようやく諦め、家に戻ることにした。
家への帰り道、途中で葵はあるものを見つける。足跡だ。
「この人……どこに行ったんだろう」
その足跡は途中で途切れ、折り返した様子もない。
不思議に思うも、寒かったので家への道を急ぐことにした。
そしてばんだ荘の前を通った彼は、吉田家の玄関前に何かが置かれているのを見つける。
階段を登り、それを見た彼は驚愕する。
『ごめんなさい。
町を守る■さい
ヨシュアさんまで
封■いんしてしまい
ました』
「これって……さくらさん……?」
そこにはそんな書き置きと、段ボール箱。そしてバッグに入ったいくつかの荷物。
その書き置きには習っていない漢字があったものの、よく見聞きする単語だったのでなんとなくの形と意味は覚えていた。
葵は周囲を見渡すも、足跡は無い。
パニックになった彼は、箱と書き置きを持って再び病院に向かう。
ちなみにバッグは重かったので置いていった。
途中、なんだか奇妙な二頭身の生物を見かけた気がしたものの、それどころではないと急ぐ。
「しまってる……!」
しかし、町を彷徨う内にかなりの時間が立っており、幼い彼が補導されない事が奇跡的な位の時間になっていたのだ。
しばらく病院の周りを歩いていたが、それでどうにかなるはずも無く。
葵は家に帰っていった。
■
「これが、俺があの日に経験した事だよ」
沈黙が走る。
しばらく考えていた様子の桃だが、少し怯えた様子で問う。
「つまり……姉は何かの一大事に遭遇して、そこでヨシュアさんを封印せざるを得なくなった。
その後段ボールをこの部屋の前に置いていって、それが最後の足取りってこと?」
「多分そうなる……けれど、具体的な事は分からない」
「それと……葵の感じた違和感っていうのは……」
「おそらくその瞬間に桜さんが何か……だけど、断定は出来ない。
本当に何も分かってないんだ……」
最後の言葉が終わると同時に葵は唇を噛む。
それを聞いて考えている様子の桃。葵はまた口を開く。
それはどこか懺悔のような口ぶりだ。
「次の日……俺は考えた結果、清子さんに段ボールを見せないことにした」
「あの時は良子の臨月でしたから……。葵君なりの気遣いだったんですよね」
「……でも、本当にそれでよかったのか今でも……」
「昔の事です。葵君がそうした結果、良子は今元気に生きている。
それでいいじゃないですか」
返事はない。まだ葵は悩んでいるようだ。
「私がこの事を知ったのは、落ち着いた優子と良子を連れて家に帰ってきた時です」
「姉は……この段ボールを……いや、段ボールさんを……。
子供二人と、葵を抱えた清子さんに託して消えた……ってことですか」
「さん付けしなくて大丈夫ですよ」
「……鉄板とか土鍋とか載せてましたよ? 高いところの物を取ったり」
「この段ボールは魔法のコーティングでとっても頑丈なんです!
熱にも油にも衝撃にも強い!」
段ボールへの今までの所業を思い出したシャミ子は困惑していた。
ちなみに、葵は一人の時に段ボールに抱きついたりしていた事がある。
■
「……これが、私達の知っている全てです」
聞かされた真実に困惑し、ショックを隠せない様子の桃。
清子が気遣うも、やはり落ち込んだままだ。
「ちょっと……整理する時間をください……。私……本当にシャミ子の宿敵だったね。
……今日は帰ります」
「桃!?」
そうして、桃はシャミ子を手で制すと部屋を出ていった。
「お父さんが……封印……」
「隠していてごめんなさい……体の弱い貴方に色々背負わせると、歪な頑張り方をして持たないと思ったんです。
その姿に覚醒した貴方が未来を切り開くには、自分を守るため貴方自身が強くならないと……。
でも……何も知らない状態で頑張らせるほうがよっぽど不誠実でした。
嘘をついていた私を、守ろうとしてくれましたね。
私は優子のことを信じきれていなかった……」
「おかーさん……」
二人がそんな会話をした後、葵が話し出す。
「さっきも言ったけど、やっぱり俺は優子の事を侮っていたんだ。今日それがよく分かった」
テスト勉強の時、あんな偉そうな事を言う権利なんてなかったのだと、葵は再び悔やむ。
「葵君は自分の事で大変な中、その上で出来る事を十分に頑張ってましたよ」
「でもっ……! それを言ったら清子さん達だって呪いで、俺よりもずっと長い間大変だったじゃないですか……!
秘密を共有する事にしたのは紛れも無く、俺の選択です……」
「葵君は優子たちを支えてくれましたし、桜さんの手がかりも探していました。
それだけで、私はとても嬉しいです」
「ありがとう、ございます……」
今はこの言葉が精一杯。
そう思った清子は、シャミ子の方を向くとみかん箱改めお父さんボックスの解説を始める。
そして、まだ驚いている様子のシャミ子だが、最近サプライズに慣れてきたと笑顔をこぼしたのだった。
「それに、お父さんは死んじゃったわけじゃない。
そして私はいろんな人の力で今、元気に動けていて……。
私……私自身の戦う理由をやっと見つけられた気がします」
そう宣言したシャミ子は、桃が一人で悩むなんて許さないと言い、そして桃を追って部屋を出ようとする。
「後でお父さんの話をもっと沢山教えてください。いってきます」
「……はい。優子、貴方は覚えていないと思うのですが、お父さんが貴方に言っていたことがあるんです」
その内容を聞いたシャミ子は部屋を出ていき、残った葵は清子の方を向いて話し出す。
「清子さん。さっき八つ当たりみたいになってすみませんでした。
優子が決意したんですから、俺も負けていられません。
俺、桃にも隠し事をしていたことを謝ってきますね」
「はい。後悔の無いように、頑張ってくださいね」
葵はシャミ子の言葉を聞き、その決意に相応しい人間にならなければと思い、そう清子に言う。
語る葵も聞く清子も、二人は笑顔であった。
その後、戻ってきたシャミ子に呼ばれ、葵は駆け出していった。
■
「桃……どこに行ったんだろ。一旦桃の家から探してみますか? ……ん?」
町を歩く二人。そこで地面に埋まっていた邪神像を見つけた。
「ああ、そういえばずっといませんでしたね。気づきませんでした」
「やっぱり葵余に厳しくない!?」
シャミ子はリリスにヨシュアの事を聞くも、リリスもよく知らないと語る。
清子に色々とガードされていたらしいリリスは泣き出した。
「とにかく今は桃を捕まえないと」
シャミ子は桜の事を恩人と判断したが、しかし桃は責任を感じているように見えたようだ。
桃を放っておくといなくなってしまいそうだと、そう言ったシャミ子は借りを返すために桃を捕まえると宣言した。
「俺も、桃に謝らないといけないからね」
「はい! 葵も手伝ってください! ……ですけど」
色々あったが、結局桜に関する情報はほとんど無かった。
故にシャミ子は桃が落ち込み、共闘を続けてくれないと思っているらしい。
しかし、リリスはこの状況こそがチャンスだと語り、桃を誘惑しろとシャミ子に助言をする。
「誘惑……?」
「リリス様……あんまり優子に変な事吹き込まないでくださいよ」
「あら? シャミ子に葵じゃない」
そこで二人はミカンに遭遇し、桃の手がかりを聞く。
しかし、ミカンは桜が失踪していたことを知らなかったようだ。
ミカンが動揺したことで超局地的な雨が発生し、それを被ったシャミ子は変身した。
「桜さんは私の恩人でもあるのに……桃は私を頼ってくれないの?」
「ミカンさん……教えてください、桃のこと。桃を探さなきゃ!」
桃が言っていた、桜を探そうにも手がかりが皆無だったという事、その復習。
しかし現実、シャミ子と桃は遭遇した。
それについてミカンは推察する。
「貴方からは千代田桜の気配を感じるってメタ子が言ってたんでしょ?」
「はい……」
「さっきもいったけど、この町でまぞくと魔法少女が会うのって普通ありえないことなの」
「まぞくじゃない俺も最近まで会えなかったし、結界の力は相当なものだよ」
ミカンは、シャミ子と桃が出会ったのはなにか運命的な力が働いたのでは、と語る。
それを聞いてシャミ子はなにか考えているようで、葵も思いに耽る。
(運命、か。10年停滞していたのに、ここ最近で一気に動いたのも……。
いや、運命でも何でも……やることは変わらない)
ミカンはそこで桃が行きそうな場所を思いついた様で、それを二人に教えた。
「行きましょう葵!」
「……いや、二人だけで謝りたい。桃の説得は優子に頼みたい。
……俺じゃ、どうやっても言葉が足りそうにない」
「そう……ですか? なら、任されました!」
そうしてシャミ子は走っていった。
手を振り見送る葵、それを見ていたミカンが問う。
「それにしても……桃に謝るって、何したの?」
「桜さんの手がかりを桃に隠してたんだ。
情報的には薄いけど、言うべきだった。反省してる」
「もう……だめじゃないの」
少しムッとした顔でそう言うミカン。
そこで、なんだかんだ今まで聞いていなかった事を質問する。
「葵も……桜さんに助けられたのよね?」
「そうだね……桜さんの事、ミカンには桃が言ったと思ってたよ。俺、何も言ってないな……」
「そこはもういいわよ……。それに、不器用だけど桃の気遣いなんだろうし」
ミカンは薄く笑う。
「不器用……ね。確かにそうかな」
河川敷で再開した時、落ち込んだ彼を励ました言葉。
それは確かに不器用だったが、同時に優しいそれは葵の記憶に深く刻まれていた。
■
河川敷。シャミ子から話を聞いたらしい桃にメールで呼ばれた葵は、そこに向かった。
「葵もミカンの呪い受けたの? また風邪引くよ」
「あぁ、うん。いや今はそこじゃなくて」
葵は今もずぶ濡れだった。
そんなどこかズレた流れで話は始まる。
「桃、本当に済まなかった。
ヨシュアさんの事を知ったらショックを受けると思って。
でも、結局はいつか言わなきゃいけない事だったんだから、もっと早く言うべきだった」
「そこは、もういいよ。理由は分かるし……実際ショックだったから」
「それでも、本当にごめん」
「……うん、許した」
桃は少し照れたようにそう言った。
しかし、その後少し怒った顔になる。
「でも、何でシャミ子だけ私の所に行かせたの?」
「俺には桃を説得する権利が……」
「そうじゃないよ」
葵の言葉を桃は遮り、少し照れたように話し出す。
「さっきの葵の言葉、私は嬉しかった。それでよかったのに」
「……」
葵は何も言葉を返せない。
「シャミ子は……封印の解除もヨシュアさんも……私といることも、諦めないって言ってた」
「それは……俺も同じだよ」
「でも、葵は自分の中で思い詰めすぎる……私と同じで」
最後の言葉は小さく、葵は聞き取れなかった。
「葵が自分を許せないのなら……」
一度言葉を切り、手を差し出す桃。
「私と……シャミ子を手伝ってほしい。改めて、お願い」
「ぁ……」
「シャミ子の家の事も姉の事も、私達の目的は同じ。
葵はシャミ子の配下なんでしょ?」
葵は良子の話に乗り、「配下のつもり」とそう言っていた。そう、「つもり」だ。
彼は今日、自分がシャミ子を侮っていたと自覚した。
自覚したからこそそれは今日でやめ、本当に配下になるべき時が来たのだ。
「あぁ……ああ! これからも……いや。これからよろしく、桃」
そう言って葵は桃の手を握り、新たな誓いを立てた。
「仲直り、出来たんですね……よかった」
話している所を見ていたらしいシャミ子は、二人が握手してしばらくすると近づき、そして嬉しそうに呟く。
「仲直りって程喧嘩してたわけでもないと思うけど」
「優子も桃も、今日は色々と迷惑かけたね。明日からも頑張ろうか」
「はい! ……でも今日は疲れてしまったので、帰って休みましょう」
こうして、長い一日は終わりを迎える。
■
「……これでよし」
葵は家に戻ると、ある棚の二重底から綴じられた一枚の写真を取り出し、写真立てに入れて飾った。
秘密を共有する事を決意した日から見ていなかったそれ。
そこにはヨシュアと、彼に肩車をされる葵が写っていた。
10年前の葵の行動は
・工場跡の戦闘とダンボールを運んだ日が異なる場合
・ネコ化したタイミング
・「天災みたいなもの」からの戸締まり
この辺りを考慮していくつかパターンを用意しており、適宜差し替えるつもりです
どの場合でも葵が大した情報を得ていないのは変わりません
2021/04/04
葵が健康診断を受けていたことにしました。