まちカド木属性   作:ミクマ

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欲しいならやるよ

 翌日。葵達が会場に向かうと覆面達が待ち構えていた。

 

「さあここに四本の鍵があります! 残り二本を賭けて勝負です」

 

「あー、実は……残りの鍵俺持ってるんだわ」

 

「……なぜ風間さんが?」

 

「まあ……俺がなにかしたわけじゃないんだけどな」

 

 芦花と堅次がそんなやり取りをしていると、高不動と妃乃がステージに登ってきた。

 堅次と葵以外のメンバーはここでようやく二人が覆面の仲間と認識したのだった。

 “聖立川女学院”なる学校の生徒であるらしい彼女らは、大会を乗っ取った経緯を話す。

 昨年第一回大会実行委員をしていた、とある高校の男子生徒達が、女学院という名前にヘタれて選考から落とした。

 しかし前回は普通に共学の女生徒が参加しており、今年からは女子校もありということになり、それを恨んだ結果がこれらしい。

 

「まあ、お前らが本気ってことはわかった」

 

「だけどこちらには橋本さんを助ける鍵が六つあります。早く橋本さんを返してください」

 

「ふっふっふ。よく集めましたの」

 

 高不動はそう笑うと、堅次達が橋本さんの樽を開ける鍵の入った箱を手に入れる挑戦権を得たと語る。

 そのあまりにも汚い言い草に、妃乃を除く立女の仲間からもブーイングが上がった。

 

「今日遊べって約束はこう言う……?」

 

 そんな事を言いながら、葵は昨日のやり取りを考察していた。

 ブーイングにひるんだ高不動は、多勢に無勢だから多めに見ろと言い訳をする。

 ちなみに、今この場にいる参加者は非常に少なく、その理由は高不動がため息から運を吸収した故らしい。

 高不動が語るその謎の理由に、場の面々は各々心当たりがあるらしく、堅次と葵を除いて戦慄している。

 

「まあまあ、運なんてねじ伏せるものだよ」

 

「かっこいいこと言いますわねぇ」

 

 自身も心当たりがある葵がそう言うと妃乃が褒めた。

 そうして、高不動が余裕の表情で仮部側にゲームの決定権を委ねると、芦花があるものを取り出す。

 それは“宇宙エロ本争奪ゲーム”。

 すごろくをプレイしゴール時に集めた本の数で競うゲームだ。

 凄まじく運ゲーであるが、それしかゲームの手持ちがないらしい。

 立女の面々はそのタイトルを聞いて赤面し、ここでようやく覆面の者たちが正体を表した。

 

「聖立川2年甲州!」「同じく砂川!」「……程久保」「大塚!」

 

 最後の大塚以外はめっちゃ汗だくだ。

 と、ここで妃乃が声を上げる。

 

「申し訳ありませんが、わたくしと……喬木さんはそれには不参加ですわ」

 

「うん? 『遊ぶ』って約束じゃないの?」

 

「あん? どういう事だ喬木」

 

「昨日鍵もらう代わりにそういう約束したんだけどね」

 

「『わたくしと』遊ぶ約束ですわ。『わたくし達』ではありません」

 

「……なるほど。じゃあ風間くん、そういうことで。

 まあ一人ずつ抜けるわけだし大丈夫だと思うよ。頑張ってね」

 

 そう言って葵と妃乃は距離を取り、話が再開される。

 相談の結果、五対五でイカサマ妨害何でもありのすごろく勝負に決定したらしい。

 最初にサイコロを全力でぶん投げた芦花を、メンバーは追いかけていった。

 

「……で、何するのかな」

 

「フフフ……」

 

 残った葵が妃乃にそう問うと、彼女は笑う。

 

「ルールは簡単! 

 わたくしが喬木さんのお仲間の妨害をしますから、それを止めてみせなさい! ですわ!」

 

「……! 上等っ!」

 

 ■

 

 桜とインドア派の程久保。最初に遭遇したのはその二人だ。

 程久保は息を切らしながら走り、桜はペットボトルを片手にサイコロを探しているようだ。

 

「さて、どうしましょうか」

 

 観察する妃乃。

 

「やはりあの水ですわね」

 

「させないよ」

 

 ペットボトルを狙い走り出す妃乃を葵は追いかける。

 並走してきた二人に桜は驚いているようだ。

 

「おっと、何するのかな」

 

「その水がなくなれば貴方は弱体化すると見ました」

 

 ニヤリと笑う桜。妃乃との間には腕による攻防が繰り広げられる。

 葵は観察し、桜を逃がす算段を探る。

 そこで、桜がこちらをチラっと見たことに気がつく。

 葵はその瞬間、妃乃とは反対側の手に持つペットボトルを引ったくると、前方に山なりで投げる。

 

「サンキュー先輩!」

 

「行ってらっしゃい!」

 

 攻防をやめ、加速して程久保を追いかける桜。

 葵は行き所の無くなった妃乃の一撃を受け止め、ビクとも動かせない彼女は笑う。

 

「やりますわね。これで喬木さんの一勝」

 

「次行こうか」

 

 葵は妃乃の手を離す。

 足止めだけなら離す必要はないが、これはゲームなのだ。

 妃乃にとっても一度妨害をしたらそれ以上は追わない、という事なのだろう。

 

 次に遭遇したのは千歳とフェンシング部の大塚。

 千歳は石と泥団子を手に、死闘を繰り広げている。

 

「あの方ワイルドですわねぇ」

 

 偶にこちらに飛んでくる千歳の持つそれを見ると、妃乃は荷物を漁りだす。

 

「あの方が投げるのなら……」

 

 妃乃はラケットを取り出すと、千歳に向かいボールを打ち始めた。

 テニスに必要なさそうな技術に千歳は驚いており、その隙に大塚によっていくつかの武器が砕かれる。

 

「どうにかしろ喬木!」

 

「はいよ!」

 

 葵は妃乃との間に乱入し、ソフトとはいえ高速のボールをキャッチする。

 妃乃が無駄な技術を発揮したように、葵もそれを発揮するのだ。

 そして葵はそのボールを千歳に向かって投げた。

 

「代わりの武器だよ会長さん!」

 

「礼は言わんぞ!」

 

 そうして千歳は体制を立て直すために撤退する。

 

「武器が一つなくなりましたから、貴方の二勝ですわ」

 

「他のボール回収しなくて大丈夫?」

 

「後で回収しますわ」

 

 続いては“本当のゲーム制作部”の高尾と、弓道部(本当は相撲部)の砂川。

 砂川の猫騙しや張り手に怯んでいる様子の高尾。

 避ける動きで揺れる()()を見た妃乃は目を濁らせる。

 

「……削る」

 

「キャラ変わってますよ」

 

 その反応と言葉で、攻撃がどこに向かうか察した葵は加速すると、高尾と妃乃の間を蹴り上げる。

 妃乃はそれに反応して目標に向かう手刀を止め、高尾は乱入者に困惑している。

 

「行きなよ高尾さん」

 

「よくわからないけど……ありがとう」

 

 砂川と共に再び走っていく高尾。

 葵に手を掴まれた妃乃は未だ凄まじい目で、揺れるそれを見ていた。

 

「もう少しで削れそうでしたわ」

 

「怖い怖い」

 

 四組目、芦花と敵大将の高不動だ。

 しかし運の差のせいか、芦花には草木が沢山ついておりボロボロ。

 葵が見ていると、芦花が通った所で頭上から枝が落ちたり、躓いたりと大分散々な様子だ。

 

「少々心が痛みますが……もう手段考えるのめんどくさいですわ」

 

 妃乃は芦花に向かって飛びかかり、案の定葵に受け止められる。

 と、そこで再び芦花の頭上の枝が折れる音。

 葵は咄嗟にカバンから数本爪楊枝を取り出して投げ、落ちてきた枝を弾き飛ばした。

 

「喬木さん、ありがとうございます。

 あの重量差で弾くとはやりますね。さすがは木属性です」

 

「この一回だけじゃ気休めだけどね」

 

 五組目、堅次と相撲部(本当は弓道部)の甲州。

 堅次は茂みをかき分け開けた所に出ると、山菜取り中の船堀に遭遇した。

 ぶつかりそうな所を堅次は咄嗟に抱き上げ、船堀は困惑し赤面する。

 

「……あれは妨害できそうにありませんわね。

 さて、これで一通り遭遇しましたが……そうですわ」

 

 堅次達を見て呟いた妃乃は、次に思い立ったように懐から何かを取り出した。

 

「もう一つ勝負ですわ。わたくしを捕まえれば、このストラップをお返ししますわ」

 

 そういうや否や、葵の返事も聞かずに妃乃は飛び出した。

 それを見た葵はそれなりのペースで追いかけ始め、茂みをかき分けながら進む。

 そして、そろそろストラップを返してもらおうと思い、怪我をさせないように加減して妃乃の腕を掴むため、横を見ながら並走しタイミングを伺っていると──。

 

 地面が、無かった。

 

 ■

 

「あ、れ……?」

 

「間に合った……」

 

 妃乃が気がつくと、葵に掴まれてぶら下がっていた。

 その葵は崖から出た木の根に更に掴まっている。

 

「とりあえず、そこの根っこに足掛けて……」

 

 都合のいい形で複数の根っこが飛び出ており、二人はあっさりと崖の上に登ることが出来た。

 葵が妃乃を崖の上に持ち上げると、彼女はヘナヘナと崩れ落ちる。

 

「あ……あんなところに根っこがあってよかったです……」

 

(咄嗟だったけど……気づかれてないみたいかな)

 

 葵がそう考えていると、妃乃はおずおずと口を開く。

 

「あの……本当にありがとうございました」

 

「……とりあえず、ストラップ返してくれないかな」

 

 妃乃は走り出した時点でそれをポケットに隠しており、崖の下に落ちたりはしなかったようだ。

 それを受け取って立ち上がった葵は、思考しながら呟く。

 

「そろそろ風間くん達も橋本さん助けた頃だろうし……」

 

「あっ……」

 

「あっ?」

 

 妃乃が言うには、橋本さんは昨日の時点で既に何処かに逃げ出していた。

 そして、「参加者を全員倒せば私は姿を表すかもしれない」という書き置きに従い、彼女らは計画を続行したのだそうだ。

 

「何それ……まぁとりあえず、風間くん達と合流したいからそろそろ行くよ」

 

「はい……あぅっ」

 

 葵は歩き出そうとした所で、後ろからのそんな声を耳にした。

 振り返ると、そこには立ち上がろうとして転んだらしい妃乃。

 葵が見ていると、妃乃は申し訳なさそうにこう言う。

 

「あの……わたし、さっきので腰が抜けてしまって……ごめんなさい」

 

「……おんぶするよ」

 

「へっ!? えっと、その。男性にそんないきなり……」

 

「いいから、早く合流したいんだ」

 

 葵は半ば強引に彼女を担ぎ歩き出すと、ふと思いついた事を問う。

 

「……ところで、さっきから口調変わってるんだけれど」

 

「……ハッ!? 忘れてましたわ!」

 

「キャラ作りか……」

 

「……それにしても喬木さん、何だかおんぶが手慣れた感じではありません?」

 

 葵からの答えはなかった。

 

 ■

 

 葵は堅次達の場所を聞くことを忘れていたが、海岸が騒がしくなっていたのでそちらに向かうことにした。

 

「ヒノ!? 何で殿方におんぶされてるんですの!?」

 

「こ、これには深い事情があるんですわ!」

 

 ついた途端更なる大騒ぎになり、妃乃はそこでもう立てるようになっていたらしい。

 妃乃を降ろした葵に堅次が声をかける。

 

「喬木……あー、橋本のことなんだが……」

 

「万願寺さんから聞いたよ」

 

「ああそうか……」

 

 そしてこの海岸には先程までの面々に加え、ヘリコプターと風間一派。更には。

 

「なんでタマ先輩がいるんですか?」

 

「ゲロ子から貴方達がここにいるってメールがね〜」

 

「そうなんですか……」

 

 そこにいたのは府上学園の先代生徒会長である境多摩であった。

 が、来たから何をすると言う訳でもなく。

 結局この大会で橋本さんに会うことはなく、既に帰りの船の時間が近くなっており、参加者達は船に乗り込み帰っていった。

 そして本州の港につくと、葵は改めて妃乃に話しかけられる。

 

「あの、今日は本当にありがとうございました」

 

「どういたしまして、で良いのかな。まぁ、この二日間は結構楽しかったよ」

 

「無計画に山を走るのは少しやりすぎでした……。

 喬木さんは命の恩人ですから、また別の形でお礼がしたいです」

 

「……楽しみにしているよ」

 

「わたしも……葵さんにまた会える日を楽しみにしております。さようなら」

 

 妃乃はそう言って、不敵でも挑発的でも無い笑顔を見せると、頭を下げて離れていった。

 そんな彼女に、汚れたボールの入ったケースを持っている、同じ船の中から出てきたらしい少女が近づき、付き添って歩いていく。

 二人は駐車場に止まっていた高級車に近づくと、葵の方に振り向くとまた頭を下げ、車に乗って帰っていった。

 

「あの人……誰だろう。ボール持ってるってことはあの時近くに……? 

 ……あ、結局万願寺さんが俺に絡んでくる理由分からなかったな……」

 

 ■

 

 家に近づいた葵は、ばんだ荘から出てくる人影を見る。

 

「葵、お帰りなさい」

 

「ただいま」

 

「ごはん、今日は私が作ったんです。一緒に食べましょう」

 

「そうなの? 楽しみだなぁ」

 

 シャミ子に招かれた葵は吉田家に入り、夕飯をご馳走になった。

 食事後の会話、シャミ子はしっぽを振り興味津々の様子で葵に聞く。

 

「それで、合宿はどうでしたか?」

 

「まぁ色々あったかな。テニスやったり、料理作ったり、走ったり。……後崖から落ちたり」

 

「何ですかそれ!?」

 

「大丈夫大丈夫。この通りピンピンしてるよ」

 

「もう……あまり危ないことはしないでくださいね」

 

「はーい」

 

 心配そうなシャミ子に葵はそう答えながら、荷物を漁っていた。

 すると、葵の手に覚えの無いずっしりとした感触が。

 持ち上げたそれは、“橋本”と彫られた銀色のペンダントとそれに貼られた付箋。

 そこには「健闘賞の喬木くんへ 橋本より」と書かれていた。

 

「健闘賞……? いつの間にリュックに……」

 

「葵、何ですかそれ……?」

 

「何だろうね……」

 

 ■

 

 休日明け、葵は教室の扉を開ける。

 教室の端では赤面する船堀が島の事を話し、何故かメガネと黒髪のウイッグをつけた堅次が彼女の話に同調している。

 

「俺は橋本名選手の冒険離島とか言うのに連れて行かれて、そこでたまたま船堀にあったついでに飯ご馳走になった。それだけだ」

 

 堅次はそう説明するも、意味不明な単語だらけでクラスメイト達は困惑している。

 キレながらも一応の証拠として、橋本と彫られた金色のペンダントを取り出すが、皆一様にダサいと言う。

 

「俺もダサいと思うよ! いらねーよ! やるよ!」

 

「いらねぇ。俺橋本じゃなくて大濠だし。大濠だから」

 

「俺も篠崎だから……篠崎だから」

 

「私是政だから。是政ね!」

 

「俺は喬木だから。覚えておいてね」

 

「知ってるよ! 喬木お前何スルッと混ざってやがる! お前も参加者じゃねーか!」

 

 自己紹介をしたがるクラスメイトに乗る葵。

 葵はツッコミをスルーして、カバンから自身の手に入れたペンダントを取り出す。

 堅次の物に比べると、色が異なり装飾も少ないようだ。

 

「俺も貰ったんだけどね、やっぱ風間くんの方が豪華な感じかな」

 

「俺は優勝者らしいが……欲しいならやるよ」

 

「いらない」

 

「何もったいない事をしているんですかー!」

 

 葵が手の平を堅次に向けながらそう拒否していると、教室に芦花が乱入する。

 堅次は二人こそが謎の大会の証人と言い出す。

 しかし芦花は意味深な事しか言わない。

 そこに加えて乱入する他の参加者達とタマちゃん。

 怒涛の大物達にさらなる混乱をするクラスメイト達。

 

「それだけではありません! 風間さんは島で女子校生を騙し敗北させ、屈服させたのです!」

 

「なぜそこでややこしくするんだ! つーか喬木も立女の奴となんかやってたじゃねーか!」

 

「なんかって何かな?」

 

「俺が知るか!」

 

「風間くん、高不動さんとなんかいい感じになってたよねぇ」

 

「あんな事があって最後和解するとか……とんだ食わせものです」

 

 芦花の言葉により男子達からの非難を食らう堅次は、先程からつけているメガネとウイッグで別人を装って逃げようとする。

 

「あ……れ……まさか、風間さんじゃ……ない? 

 私達の島での経緯を知っていて……そして橋本ペンダントを所持している……何者!?」

 

 さっき入ってきた芦花達はそのボケを本気にしているらしく、何故か本当に別人と思っているようだ。

 

(まさか俺の話誤魔化したらこうなるとは……誰か助けて……)

 

 そんなことを考えながら、凍っていく教室の空気に葵が軽く怯えていると、教室に入ってくる者が。

 

「ヤア皆サン、朝カラ賑ヤカデスネ」

 

「一時限目授業担当のショーン・コネコネ先生!」

 

「風間達昨日ハオ疲レ様デシタネ。君達ノゲーム勝負、見届ケサセテ貰ッタ。

 素晴ラシカッタヨ。船堀サンノ手料理モ大変美味シカッタデスヨ。

 喬木君モ裏方ナガラ、欠カカセナイ活躍ヲシテイマシタ」

 

 そんな混沌とした空気はコネコネ先生の言葉によって正されたのだった。

 

(逃げ切った……)

 

 なお、そんな事を考えていた葵は行間に問い詰められた。

 

 ■

 

「遅いな……迎えに言ったほうが良いのかな……」

 

 とある日、葵は学校で修行をしているらしいシャミ子を待っていた。

 そんな中、聞き覚えのある声が耳に入る。

 

「ここの筈ですけど……廃墟しかありませんわね……」

 

「……万願寺さん?」

 

「あっ! 葵さん!」

 

 声をかけられたそのお嬢様、妃乃はぱあっと顔を輝かせる。

 

「もう結構遅いけど何してるの? て言うかどうやってここ知ったの?」

 

「場所を知ったのは企業秘密ですわ。

 そして目的ですけれど、葵さんに渡したい物があるのですわ」

 

「……例のお礼?」

 

「お礼はこれとはまた別にさせていただきますわ。とにかく受け取ってくださいな」

 

 そう言いながら妃乃に押し付けられたのはいくつかの紙袋。

 

「何これ?」

 

「中身はわたくしが立ち去ってから見ていただきたいですわ。

 それともう一つ。わたくしの事は妃乃、とお呼び下さると嬉しいですわ」

 

「……まあいいけれど……妃乃」

 

 名を呼ばれた妃乃は微笑む。

 

「それでは、今日の所はこれで失礼いたしますわ。葵さん」

 

 そう言って妃乃は去っていった。

 暫く葵は呆然としていたが、正気に戻るとこう呟く。

 

「……また会える日ってのがずいぶんあっさりと……」

 

「葵? どうかしたんですか?」

 

「っ! ……優子、おかえりなさい」

 

 いつの間にか帰ってきていたシャミ子に話しかけられ、葵は驚きながらもそう返す。

 

「聞いてください葵! 桃ったら登校してきた途端ダンベル押し付けてくるんですよ!?」

 

「桃らしいね……ご飯、出来てるよ」

 

「今日は桃のせいですごく疲れましたから、ごはんが楽しみです! 

 ……ところで、その袋はなんですか?」

 

「学校のちょっとした荷物だよ……家に置いてくるね」

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