まちカド木属性   作:ミクマ

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行ってきます

 桜ヶ丘高校の終業式の日、葵は千代田邸を訪ねていた。

 

「こんにちは、ミカン。今時間あるかな」

 

『へっ!? 葵!? ちょ、ちょっと待ってて!』

 

 葵がインターホン越しにミカンに尋ねると、彼女は何故か慌てた様子で応答していた。

 暫くの後に玄関が開かれ、葵は中に招かれる。

 

「それで、要件は何かしら? 桃ならいないけど……」

 

「知ってる、優子と一緒みたいだね。今日の用はミカンに対してだよ」

 

「そうなの?」

 

 葵の言葉にミカンは心当たりが無いようで、少々困惑している。

 

「桜さんの事、色々と言わなかったからお詫びに来たんだ」

 

「……それなら、もともと私は桜さんが失踪してることを知らなかったわけだし……」

 

「それでも、だよ」

 

 そこで葵は一息つくと、頭を下げる。

 

「改めて、ごめんなさい」

 

「もう……桃の事、不器用って言ったけど……貴方も大概よ?」

 

「俺に出来るのはこれ位しかないから」

 

「フフッ……もういいわよ。頭上げて?」

 

 葵はそれに従い、再び息を吐いた。

 それを見てミカンは微笑みながら言葉を続ける。

 

「どう? スッキリした?」

 

「そう……かな、ありがとう。それで……桃からどの位の話聞いたの?」

 

 情報交換、桃は殆どの事を伝えたらしい。ただし、葵と桃の約束の話は出なかった。

 桃が言わなかったのか、それともミカンの気遣いなのかは不明だが、葵は内心ホッとしていた。

 

「こんな所ね」

 

「なるほど……」

 

「桜さんを探すなら……やっぱり、葵の感じた違和感が一番の手がかりかしら?」

 

「そうなるの、かな。でも10年間何も分からなかったしな……」

 

 葵はあの時の震えを今でも覚えているが、しかしそれは今まで答えに繋がる事はなかった。

 あの時もう少しでも力に熟練していれば、と悔やんだ事は今までに数知れず。

 

「葵?」

 

「ッ……」

 

「……貴方って結構落ち込みやすいのね」

 

「最近はこうなること多いかな……」

 

 葵が思考している内にそう見えてしまった様で、ミカンに心配された葵はそんなふうに返す。

 

「まあ、二人だけだと出る情報も少ないわ。この話はまた皆がいるときにしましょう」

 

「……そうだね」

 

 ミカンの気遣いに乗り、葵がそう答えるとそこにメタ子が近づく。

 以前と同じようにじゃれつくメタ子と葵を、ミカンがまじまじと見つめる。

 

「葵は前にもメタ子と会った事があるのよね?」

 

「そうだね、桜さんが連れてるのを見た」

 

「……何だか凄い懐かれてるわね?」

 

「何でだろうね? 最近になってもう一度会った時は、最初警戒されてる感じだったんだけど」

 

「……時、来てるぞ」

 

 そんなメタ子の預言を聞きつつ話題は雑談に移る。

 

「ところで、この前言ってた桃とのお出かけの話はどうなったのかしら」

 

「映画は見に行ったんだけどね、時間無くてそれだけしかできなかった」

 

「……ダメじゃないの。他にも好きな所付き合うって話でしょ?」

 

 少し怒ったようなミカンに詰め寄られ、葵は頬を掻く。

 

「夏休みだし、時間はあるからどうにかするよ」

 

「そうしなさい。……今日といい、シャミ子に先を越されちゃうわよ?」

 

「……うん? 今日? 優子は決闘って言ってたんだけど」

 

「……そうなの? 桃は遊びに誘われたって言ってたのだけれど……」

 

「また、何か勘違いしてるのかな」

 

 どっちが、とは言わない。

 葵の言葉に、ミカンは呆れた様な表情で口を開く。

 

「桃もそそっかしいわね……私の服無理やり奪って出ていっちゃうし……」

 

「……何だって?」

 

「……! な、ななな、何でもないわ!」

 

「ちょっ……落ち着いて! ……グエーッ!」

 

 ■

 

 その数日後、夏休みに入っていた葵は家に訪ねてきたシャミ子に連れられ、吉田家の隣室に向かった。

 その部屋にはミカンがおり、ついでに邪神像と服が転がっている。

 どうやら彼女はこの部屋に引っ越してきたらしい。

 

「葵もここに住んでるの?」

 

「いや、俺はここの隣の家だね。それで、引っ越しの理由は何かな?」

 

 ミカンによれば、彼女は一人で考えたい事があり一人暮らしを決意したとの事だ。

 その考えたい事とは主に行方不明の桜の事だそうで、シャミ子に桜についての大まかな説明を始める。

 桜はミカンにとっても恩人で、幼い頃ミカンの負った呪いを軽減してもらったと語り、そう聞いたシャミ子は葵の方を向いて問う。

 

「この前も言ってましたけど、葵も桜さんに助けてもらったんですよね?」

 

「そうだね。俺は呪いとは違うけど、桜さんの助けで普通の生活が出来る位にしてもらったんだよ」

 

「葵よ、千代田桜はどのような人物だったのだ?」

 

 畳に転がっている邪神像からの声に、葵は彼女のことを思い浮かべる。

 しかし葵としては正直な所、主観に変な補正がかかっていて正確な情報を出せなさそうだと、そう軽く悩む。

 

「何ていうか……色々と凄い人なんですよね」

 

「葵の言いたいことはなんとなく分かるわ。桜さんは綺麗で強くて……大雑把? 

 そんな感じだから私、実は居住不明でもあまり心配してないわ。どこかで生きていそう」

 

 曖昧な答えを出した葵にミカンが助け舟を出すと、それを聞いたリリスが軽く怯えた様子でまた口を開く。

 

「……罪もないまぞくを踊らせたり砲丸投げしたりしない系か?」

 

「しない系だと思うわよ!? どうしてそんな具体的なことを聞くの!?」

 

「罪もない、ねえ……?」

 

 葵はそう言って邪神像に視線を向けるも、意思が伝わることはなかった。

 その後改めてミカンが一人暮らしの決意を固めるが、めくれた壁紙の中から謎のお札を発見し、呪いが発動した。

 そんな取り乱すミカンを見て、シャミ子が呪いを解く方法を調べると言い出す。

 

「俺も勿論協力するよ。それに俺、色々と頑丈だしね」

 

「葵……」

 

「それで、ミカンさんも私達の目的を手伝ってくれませんか? ご近所さん記念で!」

 

 シャミ子はその目的を説明するも、難解なそれにミカンはおろかシャミ子もこんがらがっているようだ。

 そしてそれを聞いていたたリリスは、桜を見つけ出す事こそが全ての目的に繋がる筈だと、そうアドバイスをする。

 

「ごせんぞ凄いです!」

 

「すごいわご先祖様! とってもわかりやすい!」

 

「リリス様! 見直しましたよ!」

 

 そんなリリスをシャミ子達は称賛し、葵も盛大に手のひらを返していた。

 テンションが上がってきたシャミ子とミカンが、キャッキャウフフと遊ぶ算段を立てている中、葵は玄関からの気配を察知する。

 二人を置いて廊下に出ると、そこにはモ゛──ンとした雰囲気の桃。

 

「楽しそうだね……葵……」

 

 そのあまりにもな雰囲気に葵は唖然とする。

 

「その……これは……桜さん探す方法相談してただけだから……」

 

「私とも協力するって約束したのに……?」

 

 ぐうの音も出ない葵。

 そこで気がついたらしい二人が廊下に出てくると、目にした桃の姿に驚いている。

 

「桃!? きさま何故ここに」

 

 桃はどうやら、改めて清子に挨拶するための品を相談に来たようだ。

 心底悩んでいる桃の話を聞いていると、清子が乱入する。

 壁が薄いせいで丸聞こえだったらしい。

 慌てるミカンに桃が安心したと声をかけるも、目に見えて落ち込んでいる。

 そしてそんな桃をリリスが煽り、邪神像がぶん投げられた。

 

「私も夏休み中はここに泊まる」

 

「へっ!?」

 

 桃が色々理由を並べ立て、清子に挨拶をして受け入れられた様子を見ると、シャミ子は戦慄していた。

 その後、部屋の外に出ていった桃に葵は声をかける。

 

「これからご近所さんだね。よろしく、桃」

 

「うん……よろしく」

 

「……そうだ。その服、似合ってると思うよ。桃の雰囲気に合ってる」

 

「……ありがとう。シャミ子が黒い服が好きって言ったから」

 

「そうなんだ……それで、今から挨拶品買いに行くの? 手伝う?」

 

「……一人で考えてみる」

 

「うん、分かった。……行ってらっしゃい」

 

 葵はそう言いながら片手を振る。

 

「……行ってきます、葵」

 

 ■

 

 葵は家に戻り、そして夕方シャミ子にもう一度呼び出される。

 桃の買ってきた牛肉を受け取った清子の言葉で、今夜はすき焼きパーティに決定したそうだ。

 

「葵にも。ご近所さんだから」

 

「うん、ありがとう。こんなにいいお肉だと気合入るね」

 

「それなんだけど……」

 

 ミカンはありとあらゆる料理に柑橘を混ぜようとするらしく、調理の時には気をつけて欲しいと桃は言う。

 案の定レモンを取り出す姿を見た桃は、ミカンを連れての買い出しを葵と良子に頼んだ。

 

「葵も調理に参加しても良かったんじゃないかしら? 荷物運ぶのなら私だけでも十分よ?」

 

「四人もキッチンにいると流石にちょっと狭いからね」

 

 スーパーに向かい歩く中、問いかけられた葵が誤魔化すと、ミカンは次に良子に話しかける。

 

「良ちゃんと合うのは二回目ね。お父さんのこと桃から聞いたわ……大変ね」

 

「ごめんね、良ちゃん。今まで隠してて……」

 

「お兄もおかーさんも隠し事苦手だから、長く帰ってこられない人って良分かってた」

 

「それでも、何度謝っても足りないんだ」

 

「お兄がずっと悩んでたって事も分かってた。

 それに、良はおとーさんがプリズンにおつとめ中だと思ってたから、思ったより近くにいて安心した。だから大丈夫」

 

「根性があるのね……!」

 

「……ありがとう、良ちゃん」

 

 葵は良子がとても強い子だと改めて認識し、自分もそれに習わなければならないと感じた。

 そうしてスーパーにつくとミカンは次々と柑橘をカートに放り込み、葵は玉ねぎを手に持つ。

 

「お兄、玉ねぎなら家に沢山あるから」

 

「あ、ごめん」

 

 無意識のその行為を葵は良に咎められる。

 ミカンはそんな二人を見て微笑み、懐かしそうに口を開く。

 

「このスーパーは昔と変わらないわね」

 

「ミカンさんはこの町に住んでいたことがあるの?」

 

 ミカンは良子にそれを話す。

 その間も柑橘をカートに入れることはやめず、やはり良子に咎められていた。

 そうして買い出しと準備は終わり、いよいよパーティは始まる。

 牛すき焼きを初めて食べるシャミ子は、それに異様に感動しているようだ。

 

(ここまで良い肉……何時ぶりだろうな……)

 

 葵はシャミ子程ではないものの、それを噛み締めていた。

 

 その後パーティが一段落付いた所で、葵は清子のお酌を始める。

 

「清子さん、まだ飲みますか?」

 

「はい……お願いします……」

 

 その見た目に見合わぬ呑みっぷりに、葵は何度見ても軽く驚いてしまう。

 

「おつまみ、作ってみましたよ。合いますかね」

 

「葵君のは何時もおいしいですよ……」

 

 葵が作ったのは余りの牛のカルパッチョ。夏場故に軽く火を通した物だ。

 ダウン寸前の清子を見た葵が新たな氷水を運んでいると、良子が話しかけてくる。

 

「お兄、おとーさんの事なんだけど」

 

「どう……したのかな」

 

 良子の言葉に、葵は一瞬詰まりながらも返答する。

 

「お兄が隠してた事、悪いと思ってるなら……謝るより、おとーさんのお話してほしいな」

 

「……! 良ちゃん……」

 

「おとーさんの事知ってるの、おかーさんとお兄だけだから。

 それに、お兄しか知らないおとーさんのお話もあると思う」

 

「俺も、ヨシュアさんと関わったのは凄く長いわけじゃないけど……それで良ければ」

 

「お話の多さより、お兄が話してくれることが嬉しいの」

 

 そう言われた葵は、自身の目頭が熱くなるのを感じる。

 そもそも、葵は根本的にこの妹分には敵わないのだ。

 そんな二人の会話を聞いていた清子は微笑み、小声で呟く。

 

「フフ……葵君しか知らないあの人の話は興味ありますけど、私が口を挟める雰囲気じゃありませんね。

 その内、葵君が呑めるようになったら、色々お話したいですね……」

 

「清子さん? どうしましたか?」

 

「いいえ……なんでもありませんよ」

 

 コップを机に置きながらの葵の問いに清子はそう誤魔化し、今までベランダで何かの話をしていたシャミ子は、そこで部屋の中に戻った。

 

「そうだ、おとーさんにも美味しいものをお供えしないと」

 

「……あら?」

 

 シャミ子がお父さんボックスにお供えをするのを見て、ミカンは何かに気がついたらしい。

 

「その箱……うちの実家の工場で使っている箱とおそろいだわ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、葵が凄まじい速度で顔をミカンに向ける。

 ミカンはそれを引っ越しに使っていたようで、彼女が部屋から持ってきた同じ絵柄の箱を見ると、葵は軽くめまいを起こす。

 

「えっ……? え? それ、引っ越しに使ったの?」

 

「そうよ? 私がこの町に戻って来た日、葵は気を失ってたから……物音で騒がしいのも悪いと思って、奥の部屋で荷解きしてたのよ」

 

 ミカンのその言葉を聞いて、葵は一瞬フリーズした後にこめかみを抑えてたたらを踏む。

 そしてあの日の事を思い出し深く息を吐いた。

 

「……俺が倒れてなきゃもっと早く気がついたんじゃ……」

 

 そう言葉を漏らした葵が、壁によりかかって再びため息をつく中、葵だけでなく桃も混乱している。

 

「つまり……えっと……姉は……ヨシュアさんを、流通用のダンボールに封印したってこと……でしょうか?」

 

「まあまあ、今は楽しい歓迎会の場です。後で考えましょ」

 

「お母さんは落ち着きすぎです!」

 

 深く酔いながらそう言う清子に桃は思わず突っ込み、そして清子はダンボールを積み出しながらこう言う。

 

「お父さんを入れてシャッフルクイズしたら面白そうです。当てる自信ありです」

 

「だとしてもやめましょう!」

 

 そんな二人を見て、葵は半ば現実逃避をしながら弱々しく呟く。

 

「……俺も負けませんよ清子さん」

 

「葵は何乗ってるの!?」

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