まちカド木属性   作:ミクマ

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悪い癖だよ

「頭が痛い……」

 

 パーティはお開きになり、その翌日。

 葵は昨日の出来事を思い浮かべ眉間を抑えていた。

 吉田家に再び集まった面々は状況を整理する。

 

「この町のはずれに、私の旧実家の廃工場があるの。この箱はそこで使われていたものよ」

 

「つまり……その廃工場におとーさんが封印された状況のヒントがあるかも」

 

「可能性はある……行ってみよう」

 

 二日酔いで起きてきた清子を見て、葵はまたも逃避しそうになるが、当然そういうわけにも行かず。

 葵は控えめに自らの両頬を叩いて呆けた顔を正した。

 

「……よし、そろそろ行こうか。廃工場に」

 

「ミカンさんの家の廃工場ってどこにあるんですか?」

 

 シャミ子の問いに桃が答える。

 

「ミカンの旧家は昔、姉が大破させてミカンの家から買い取ったんだ。

 だから今は千代田家の所有物になってる。

 私は家にカギを取りに行く。葵もついてきてほしい」

 

「俺? 分かった」

 

「お願い。それで、シャミ子はミカンと一緒に先に向かってほしい。

 シャミ子ももうそこに行ったことがあるよ」

 

 そうして途中までシャミ子とミカンと共に行き、別れた桃と葵は千代田邸に入る。

 

「それで、要件は何かな」

 

「葵って、あの修行の前にも廃工場に入ったことはあるの?」

 

 葵は内心、やはりその質問が来るかと予感していた。

 脳内で話す順序を整理し、口を開く。

 

「……まず、俺が陽夏木家の騒動を知ったのは、一家が引っ越したって話を町で聞いてから。

 前にも言ったけど、桜さんは町の騒動から俺を遠ざけてた。

 それに俺自身が訓練していて、他の事が頭に入ってこなかったって言うのもある」

 

 最初に言うのはそれ。続けて、葵にとってのターニングポイントである日の事。

 

「次に、俺がヨシュアさんのみかん箱を見つけた日の話。

 俺はあの日、廃工場の近くも通ったんだけど……中には入らなかった」

 

「……」

 

「それで……そこから数年して、俺は初めて廃工場に入った」

 

「……目的は?」

 

「少しでも桜さんの手がかりを得る為に、騒動があったと知っている数少ない場所に行ったんだ。

 当然その時点では、ヨシュアさんとの共闘を始める前に解決した事だと認識してたから、失踪と直接の関係があるとは思ってなかったけれど」

 

「でも、どうしてそんなに時間が経ってから?」

 

 桃の問いに、葵は言いにくそうに答える。

 

「恥ずかしい話だけれど……桜さんに危ないから行くなと言われていて、昔の俺には実際に行く勇気も無かった。

 だけど……今から6年前に、ようやく踏ん切りがついた」

 

「6年前? それって……」

 

 心当たりのあるらしい桃に、葵は頷く。

 

「あの頃、町で噂を聞いたんだ。

 あそこの管理を引き継いだ筈の、()()()()()()にバレないんじゃないかと思って、そこで思い切って廃工場に行った。

 ……だけど、何も手がかりは見つからなかった。

 今考えれば、ダンボール位見つけるべきだった。

 俺はずっと、あのみかん箱の事を工場と結び付けられなかったんだ」

 

 そこで葵の話は終わった。

 葵はソレをみかん箱と呼んでいるように、それを単なるスーパーなどで見かける箱、としか思っていなかったのだ。

 悔しそうにする葵に、桃が声をかける。

 

「……私も、ヨシュアさんの話を聞いた時にあの箱が何か気が付かなかったし、仕方ないんじゃないかな……」

 

「……」

 

 返事は無い。

 

「……葵っ!」

 

「……!」

 

「葵一人で見つけられなかったのなら、これから皆で何かを見つければいい。そうでしょ?」

 

「桃……」

 

 黙っていた葵を強めに呼んだ桃がそう語り、それを聞いた葵が顔を上げる。

 

「……そうだね、二人も待ってるし行こうか。……ありがとうね、桃」

 

「どういたしまして」

 

 ■

 

 カギを持ち廃工場に向かった二人は、シャミ子とミカンが話している場面を遠目に見た。

 

「天使だったころの桃は変身する時に踊っ……」

 

「そこまで」

 

「鬼桃が来た!」

 

 認識できない速度で唐突に飛び出し、ミカンの口を塞いだ桃の起こした風圧を受け、葵は軽く固まっていた。

 

「!? ……あ、桃か」

 

「あ! 葵、遅いですよ!」

 

「ごめんごめん」

 

 先程の桃との会話は未だ頭に残っているものの、それを表に出さないように葵は微笑みながら答える。

 そうして敷地に入った一同は、ミカンの話を聞きながら倉庫に向かう。

 

「つらかったことも嬉しかったこともあの倉庫に詰まってる。

 懐かしいわ……って、壊れてるー!?」

 

 倉庫に何か思い出があるらしいミカンは、無残な姿と化している倉庫跡を見て絶叫した。

 そして、動揺したことでそのまま桃が呪いを被る。

 どうやらミカンは倉庫が無事であると認識していたらしい。

 

「なんで私の思い出が消し飛んでるのよ!」

 

「……姉がミカンの悪魔を抑えるときに工場を壊したって聞いたよ」

 

「私の事件で壊れたのは工場の機関部とインフラ! この倉庫はたいして壊れてなかった! 

 引っ越す前に目に焼き付けたんだから! 私そこは忘れないわよっ!」

 

 声を荒げるミカンを見た後、桃は葵の方を向く。

 

「一応確かめておくけど、葵が見た時は?」

 

「とりあえず6年前にはこうだった筈だよ」

 

「私の記憶違いでもない……。

 姉が失踪した直後に私がここに来た時は、既に倉庫は壊れていた……」

 

「葵も昔ここに来たことがあるんですか?」

 

「……ちょっと用があってね」

 

 目を細めて顔を反らし、露骨に誤魔化す葵。

 当然シャミ子とミカンに怪しまれるも、桃が話を戻す。

 

「ミカン、やっぱり何か勘違いしてるんじゃないの?」

 

「……ピンク飯で記憶が消えたのではないでしょうか!」

 

「……私のごはんの話やめない?」

 

「そういえば俺、桃の料理食べたことない……?」

 

「……葵、興味持たないで」

 

「あ、うっかり口に出てた」

 

「昨日のすき焼き、桃はお皿に具材を盛り付けていましたよ」

 

「……シャミ子、メモ帳」

 

 無意識に口走っていた葵をよそに、桃は情報の整理を始める。

 そんな中、シャミ子が倉庫跡を見て何かに気がつく。

 

「この穴……上は吹っ飛んでるけど、桜の形……かもです」

 

「へっ……?」

 

 シャミ子の言葉を聞き、葵は呆然としながら倉庫をもう一度観察する。

 

「これは……桜さんの大技、サクラメントキャノン……!」

 

「ワクワクする単語出てきた!」

 

「サクラメントキャノン……?」

 

 ミカンの発した単語に、シャミ子だけでなく葵も疑問符を浮かべる。

 そんな葵の顔を見て、ミカンは少しキョトンとしながら問う。

 

「シャミ子はともかく……葵も知らないの?」

 

「あぁ……桜さんの変身した姿は知ってるけど、戦ってる所は見たことがない」

 

 葵はそう言いつつ、大技という単語に10年前に感じた震えを思い浮かべる。

 

(あれは……サクラメントキャノンとやらだったのか……?)

 

 葵がそう考えていると、桃によって情報が整理される。

 

「この工場は姉によって二度壊された……一度目はミカンを助ける時。

 二度目は多分……失踪直前にヨシュアさんと共闘したとき……」

 

「つまり……これは桜さんの失踪直前の痕跡……」

 

「……倉庫跡を調べよう」

 

(くそ……俺は何も気づけてない……!)

 

 シャミ子達がそう目的を立てる中、葵は内心そう自らを毒づいていた。

 

「たいしたものが見つかるとも思えないけど……手がかりを探そう。

 一番ベストなのはコアが見つかること」

 

 その単語に聞き覚えのないシャミ子の問いに、ミカンが解説をする。

 コアとは文字通り魔法少女の中核をなすものであり、魔力を消耗してもそれだけは残るとの事。

 コアの形は人それぞれで、桃達も分からないようだ。

 

(もしコアが見つかったら……俺が魔力渡して復活させることが出来るかな……)

 

 魔力譲渡が完成してさほど立ってないが為に、それが出来ると断言できない。

 そんな事を考えつつ、葵は瓦礫をどかしたりひっくり返したりしている。

 

「葵、この岩持ち上げるから手伝って」

 

 桃からのその要請に、まずは周りの瓦礫をどかす。

 しかし、持ち上げるのを手伝おうとした所で桃は一人で掘り起こしてしまった。

 

「流石だね……桃」

 

「葵が邪魔なのどかしてくれたから」

 

 葵は若干冷や汗をかきながらそう言っているが、その葵自身も普通の人間にはどうしようもない様な物を複数同時に持ち上げ、無駄にいいバランスで運んだりしている。

 

「桃も凄いですけど……葵もあんなにとは思ってませんでした……」

 

「あっちも魔法少女的にも若干引くやつね……」

 

 そんな事を言われているとは露知らず。

 持ち上げたそれを適当な場所に置いた葵は再び桃に話しかける。

 

「桃、どうかな?」

 

「うーん……」

 

「俺がもっと早く気がついていれば、何か残ってたかもしれなかったな……」

 

「葵。それ、葵の悪い癖だよ。

 何度も落ち込むより、私達を助けて欲しい。そう言う約束でしょ?」

 

「……そうだね、さっき皆で探すって言ってくれたばかりだったね」

 

 そんな会話をしていると、シャミ子が慌てた様子で二人に近づいて来る。

 

「どうしたの?」

 

「てがっ! テガカリッ、てがかりらしきものっ! ほら! なんかのステッキです!」

 

 そう言いながらシャミ子が見せつけたものは、紛れもなくフォークであった。

 

「……フォークだよね」

 

「フォークだね……」

 

「……え? あれ? 違っ……! えっと……さっきまでステッキで……あれ?」

 

 シャミ子はそれを持って心底困惑している様子だ。

 

「シャミ子……お腹すいてるの……?」

 

「……実はおにぎり作ってきたんだけど食べる?」

 

「なんだその顔は! 空いてません!」

 

 シャミ子曰く、どこからともなくここを掘れという声が聞こえた。

 そして実際に掘り出した時にはステッキの形だったが、気がつけばフォークに変形していたらしい。

 そんな風に語る様子を見た桃とミカンは、シャミ子を心底心配している。

 

「ごめんね……今日は暑かったね……」

 

「この角があると帽子が被りづらそうね」

 

「憐れむなー!」

 

「ステッキ……変形?」

 

 そんな三人をよそに、葵は顎に手を当て何かを考えている。

 

「葵? 何か知ってるんですか!?」

 

「……いや、俺も詳しくは知らない。……清子さんに聞いたほうがいいと思う」

 

 ■

 

 そうして家に帰ってきた一行。

 先ほどと同じ事を清子に説明すると、心当たりがあったようだ。

 清子は杖のイラストを見せて問い、シャミ子はそれに同意している。

 

「やっぱり……!」

 

「でっかい発見です優子、それは恐らくおとーさんの持ち物。

 由緒正しきメイドインメソポタの……! えーっと……」

 

「なんでしたっけ清子さん」

 

「えーっと……なんとかの杖」

 

「おかーさんも葵もど忘れですか!?」

 

「何だったっけ……?」

 

 この杖は一族の魔力を掛け算的に増幅し、棒状の物なら自由に変形できるすっごく便利な杖。

 と、清子はヨシュアにそう説明されていたらしい。

 

「それは……とんでもなく凄いものだと思うんですけど……。名前を思い出せませんか……?」

 

「何でしたっけ……なんか印象のうっすいヨコモジネームだったんです」

 

「葵も思い出せないの……?」

 

「うぅん……? 何だったかな……? 

 ……一人ぼっちっぽいけど、沢山の人に慕われてそうな名前だった気がする……?」

 

「何それ……」

 

 訳の分からない葵の言葉に混乱する桃。

 次に聞いたリリスも、頭文字が“ア”であることしか思い出せないようだ。

 リリスは夢の中でヨシュアから聞いた杖についての情報を色々と説明するも、やはり名前だけは出てこない。

 未だ二日酔いの続くリリスを置いて、桃は清子に話しかける。

 

「それはヨシュアさんのものみたいだから、吉田家で持っていてください」

 

「わかりました。桃さん、ありがとうございます」

 

「いえ、元々うちの姉が元凶ですし、責任を果たしているだけです」

 

「そんなこと思わないで。

 ずっと見つからなかったうちの大切な家宝が見つかったんです! 

 一歩前進です。……感謝しています」

 

「……はい」

 

 少し戸惑っている様子の桃に、清子に続けて葵も語る。

 

「俺が見つけられなかったのは悔しいけどね、やっぱり俺じゃ無理だったんだよ。

 ミカンが箱に気がついて、桃が連れていって、優子が見つけた。

 桃が居なかったら絶対に見つからなかったよ。俺からもありがとうね」

 

「葵……」

 

 二人がそんな会話をする中、清子が窓の外を見て呟く。

 

「フフ、これで葵君の家のを借りなくても布団が三枚同時に干せますね……」

 

「竿ぐらいこれからも貸しますよ。どうせ一人じゃベランダで十分ですし」

 

「あのっ、物干し竿として使っていたんですか!?」

 

 そうして、清子の言葉で杖はシャミ子に預けられることになった。

 妙にテンションの上がっているシャミ子は、強い武器をイメージして変形した巨大なフォークに潰される。

 その後もシャミ子は様々な日用品に変形させ、なくさないよう桃に釘を刺されている。

 

「もっと凶悪な……絶対弾切れしないロケットランチャーとかにできないの?」

 

「すみません。よくわからないです」

 

「うん、分からないだろうなとは思ってた」

 

「良はこういうのがべんりだと思う」

 

 桃に詰め寄られているシャミ子に、良子が図鑑に乗った斬馬刀の写真を見せながらアドバイスをする。

 

「どうしてお馬さんを斬ることを想定しているの!?」

 

「……とか憧れるよね……」

 

「葵? 何か言いましたか?」

 

「……何も言ってないよ」

 

 高校二年生の喬木葵。隠してはいるが、なんだかんだで持っているその手の物への憧れが思わず口に出ると、少し気恥ずかしそうにしていた。

 

 ■

 

 その後、皆から離れた所で佇んでいる葵にシャミ子が話しかける。

 

「あの……葵」

 

「どうしたの? 優子」

 

「その……今日は葵がずっと落ち込んでいる様に見えて……」

 

「……そうだね」

 

「どうして、ですか……?」

 

 その問いに何と答えるか葵は悩むが、しかし結局はそのまま話すことにした。

 

「ここ最近で、桜さんもヨシュアさんも結構な手がかりが見つかってる。

 だけど俺はそれのどれにも役立ててないし、これまで見つけた事もない」

 

「……前にも同じ事を言ったかもしれませんけど、葵は私……をずっと助けてくれています。

 葵が居てくれるだけで、私はとっても嬉しいんです」

 

「優子……フフ、ありがとう」

 

 葵はそう笑って返すも、やはり元気がない様子だ。

 そんな姿を見て、シャミ子は話題を変えようとする。

 

「そうだ! 葵はなんとかの杖のことを知ってたみたいですけど、何でですか?」

 

「ああ、それ使ってヨシュアさんが一発芸とか見せてくれたんだよね」

 

「一発芸!? ……それって、具体的にはどんな……?」

 

「そうだね……」

 

 葵がそれの内容を教えると、シャミ子は何かを考えながら去って行った。

 それを見て、葵自身も思考する。

 

(優子にも……桃にも……あれだけ気遣われてるのに、その場では格好つけても何度も何度もウジウジと……ダメだなぁ……俺……)

 

 そんな、気落ちがさらなる気落ちを生む思考のループに葵が陥っていると、ベランダから叫び声が響く。

 

「今に見ていろ魔法少女〜!」

 

「……そういえば、一発芸で大切って言ってた要素を伝え忘れてたな……」

 

そう呟くと、葵は再び力無く笑った。

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