まちカド木属性   作:ミクマ

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手ェ貸してくれ!

『このような機会が巡って来るとは思っておりませんでした

 明日は万全の準備をしてお待ちしておりますわ

 全くの偶然ではありますが明日を楽しみにしております』

 

 とある日、葵はそんなメッセージを受け取っていた。

 

「……なんだこりゃ……ん?」

 

 訳の分からないそれに葵は困惑していたが、そこでまた携帯が震える。

 

 ■

 

 暫くの後、葵は家に姉妹と桃、そしてミカンを集めていた。

 

「唐突なんだけど、明日チャリティーバザーに行かないかな?」

 

 葵が発したその単語に、場の面々は疑問符を浮かべている。

 

「学校の友達がそれの入場チケットを大量に手に入れたらしくてね。

 捌ききれないから俺にもくれることになったんだよ。

 それでね、そのバザーの会場って言うのが聖立川女学院って場所で……」

 

「あ、良そこ知ってる。すごいお嬢様高校だって」

 

「さすがだね、良ちゃん」

 

 葵は微笑みながら褒め、良子も笑顔を返す。

 

「そう言う場所だから、多少古くても良い物があるんじゃないかって話。

 服もあるらしいけど、どうかな? 誘った訳だしある程度お金も出すよ」

 

 そこで葵は説明を終え、少女たちは考える様子を見せる。

 そして最初に言葉を発したのはミカン。

 

「お嬢様学校の古着……興味あるわね。私、行ってみたいわ」

 

「うん。まず一人だね」

 

 次はシャミ子がおずおずと口を開く。

 

「私も……興味あります」

 

「よし。良ちゃんはどうかな?」

 

「良も……行ってみたいかも。サイズ合う物ないかもしれないけど」

 

「気になる物があったら後で俺が調整するよ」

 

「ありがとうお兄。良も行きたい」

 

「よかったですね、良。ごせんぞも行きますよね?」

 

「置いていかれるのは辛抱堪らんぞ。余は寂しがり屋さんなのだ」

 

 姉妹と葵は微笑み合い、最後にそれを見ていた桃が喋る。

 

「シャミ子達が行くなら私も行くよ。

 良ちゃんの服は私も調整するから、実物を見ておきたい」

 

「わかった。後は……おっ」

 

 そこでまたも葵の携帯が震えると、それを取り出しながらまた説明をする。

 

「先に杏里に連絡しておいたんだよね。

 部活とかお店の手伝いで無理かもしれないけど……えーっと」

 

 葵はメッセージを確認し、内容の整理を始めた。

 

「……うん。

 明日は偶然顧問の先生の都合で、早めに部活が終わるみたい。

 お店についてはお母さんと交渉するから、とりあえずチケットだけ渡してほしい。

 ……だって」

 

「杏里ちゃんも来れるかもしれないんですね」

 

「そうだね、これで6人。じゃあこれから友達に連絡するから」

 

 ちなみに、葵とシャミ子の間では“6人”の認識が違う。

 嬉しそうなシャミ子をよそに、葵はその場から距離を取り電話をかける。

 

「……風間くん? さっきの件なんだけど、言った通りの人数になったよ。

 それで今から取りに行くから……うん? 

 電車で行くつもりだけど……ああ、うん。じゃあそういうことで。

 ──分ぐらいで着くと思うから、よろしくね」

 

 電話を切った葵はシャミ子達の方向へ振り返り、携帯をしまいながら口を開く。

 

「と、言うわけで今からチケット貰いに行ってくるから」

 

 ■

 

 とある駅。改札を出た葵は目立つツンツン髪を目にし、近づいて話しかける。

 

「やあ、風間くん。待たせたね」

 

「大して待ってねぇよ。んじゃ、これな」

 

「ありがとう」

 

 堅次は荷物から6枚のチケットを取り出し、差し出す。

 受け取った葵はそれをしまった後、少し考えると携帯を取り出した。

 

「そうだ、さっきこんなのが来たんだけど」

 

 葵は妃乃からのメッセージを画面に表示させ、堅次に見せた。

 携帯を渡された堅次は困惑し、そして画面を見つめると眉をしかめ口を開く。

 

()だコレ……」

 

「もしかしたら立女の人達、また何か仕掛けてくるかもね」

 

「チケット手に入れたのは偶然だってのに……逞しい奴らだな……」

 

「そういう訳だから、多少警戒しておいたほうがいいんじゃないかな」

 

 葵が肩をすくめてそう言ったのたが、堅次がふと何かを思いついたようだ。

 

「……そういやお前、いつの間に連絡先なんか交換してたんだ? 

 万願寺ってお前に背負われてた奴だよな」

 

「風間くん達がエ……すごろくやってる間に色々とあったんだよね」

 

 ■

 

 町に戻った葵は、家に戻る前に商店街にあるマルマの精肉に向かった。

 

「葵! 待ってたよ」

 

「杏里、交渉の結果はどうだったかな」

 

「お母さんに話したら手伝い休みになって、その上お小遣いまで貰っちゃったんだよねー。

 だから、行きは遅れるけどその後は最後まで居られそうだよ。

 ホント、偶然部活が短くてよかったよー」

 

「すごい偶然だね。じゃ、これがチケット。場所とか道とかは大丈夫?」

 

「ダイジョーブ。チケット、確かに受け取ったよ。

 ……で、今日は何買ってく?」

 

 その言葉と同時に杏里の目つきが変わり、葵はそれに苦笑しながら答える。

 

「ササミ500で、お願い」

 

「まいどありっ!」

 

 そうして、葵が買ったそれを持ってばんだ荘へ向かう中、またも携帯が震えた。

 

「今度は……また妃乃か。何だろう……」

 

 ■

 

 そして翌日、一行は聖立川女学院の校門前に居た。

 聖立川女学院は周囲を森に囲まれ、更には全寮制である。

 外界との関わりを限り無く絶たれた、神秘に包まれしお嬢様学校なのだ。

 そんな光景を目の当たりにしたシャミ子は少し興奮している様子だ。

 

「はわぁ……正にお嬢様学校って感じですねぇ……」

 

 他の面々もそんな現実離れしたそれを見て、各々何かを考えているように見える。

 

(島の事言ったら夢壊すだろうなぁ……)

 

 ただし葵だけはそんな事を考えていたのだが。

 どうやらチケットに仕込まれたマイクロチップを読み込み、正規品かどうかの判別をしているようで、偽物を掴まされたらしい男が泣き崩れている光景を一行は何度か目にしていた。

 そしてその男の内の一人が魂からの叫びを絞り出す。

 

「チクショォ〜ッ! もし本物があれば5万は出すのに!」

 

「ごまん!?」

 

「……ダメだよ、優子」

 

「はーい次、そこの女子引き連れてる男の人ー」

 

 数字に思わず反応したシャミ子を葵が静止すると、ゲートを担当している生徒にそんな呼称をされ、5枚のチケットを一人で差し出す。

 

「……はい、人数分OKですね」

 

 全員が無事ゲートを通過していくと、シャミ子が葵に話しかける。

 

「今ので6人分読み取ったってことなんですよね? ハイテクですね」

 

「そうだね……」

 

(この曇り無い顔を見ると……うん)

 

「あ、パンフレットがありますよ」

 

 葵が罪悪感に苛まれている中、ゲートの出口に置いてあったそれをシャミ子が見つけ、人数分取って渡す。

 

「……展示に屋台? 文化祭も兼ねてるのかしら?」

 

「お昼どうするか考えてたけど、ここの出店でもいいかもね」

 

「お祭りって感じでいいですね!」

 

 手始めに入り口近くのわたあめを買い、一行は先に進む。

 すると途中、とてつもない人数が集っており、何を売っているのかも見えない屋台を見つけた。

 

「あそこ、すごい人気ですね……」

 

「えーっと……クレープ、かしら?」

 

「興味はあるけど、後回しにしたほうが良さそうかな」

 

 背伸びをして看板を確認したミカンの言葉を聞くと、葵はそう言った。

 そして今いる場所の少し先に、妙な集団を見つける。

 

「お、風間くん達」

 

「あの人達が噂の学校の人ですか?」

 

「そうだね、ちょっと挨拶してくるよ」

 

 そう言った葵はシャミ子達の元を離れ、何か揉めている様子の堅次達に近づく。

 

「おはよう。改めてチケットありがとうね」

 

「喬木か、あれは俺じゃなくて高尾の手柄だ」

 

 そう言うと堅次は、何故か『伝説のパイクラッシャー』と書かれたタスキを掛けた高尾に顔を向ける。

 

「ふうん? ところで、なんか揉め事?」

 

「我が聖立川女学院ゲーム制作部のリベンジマッチですの!」

 

「あぁ、やっぱり。でも何かメリットとかあるの?」

 

 近くに居た高不動が唐突に叫ぶ姿を見て、葵がそう返すと同じく近くにいる芦花が話し出す。

 

「それがですね……」

 

 高不動が賭けている物は、高価で希少な物品が出品される秘密のオークションに参加するためのチケットらしい。

 当然、ただの学生である堅次達はそのような物など必要はないが、ショーン・コネコネ先生が必要としており、少しでも恩を返したい堅次は受けるかどうか迷っている。

 

「……と、言う訳です」

 

「おまっ……ンな事一言も……」

 

「風間さんが受けたければリベンジマッチ受けますよ。

 もっと我等が部を自由に使って良いんですよ」

 

「……コネコネ先生。そのブラックチケット、俺たちがなんとかするぜ」

 

 勝手に心境を代弁された堅次は複雑な顔をしていたものの、芦花の言葉で決意を固めた様だ。

 そして、高不動が提示した勝負は学内を使ったスタンプラリー。

 諸々のルールを聞いていた葵は口を開く。

 

「相変わらず行く先々で騒動に出くわすよね、風間くん」

 

「……喬木、お前連れ多いんだろ? こっちも人数多いからお前不参加でいいぞ」

 

「じゃ、お言葉に甘えさせてもらうかな。

 そもそも、あの皆の事誘ったの俺なのに放っぽかすのは人としてあれだしね」

 

「おう、じゃあな」

 

「頑張ってねー」

 

 葵はそう言って、スタンプ()()()を担いでいく堅次達を見送った。

 そんな葵に高不動が声をかける。

 

「ヒノが楽しみにしてましたのに……」

 

「唐突に勝負仕掛けられてもちょっと困るかな。

 さっきも言ったけど連れ放って置くのは以ての外だし」

 

「むぅ……」

 

 葵はそう言いつつも、背負っている大きめのサックに入った()()に意識を向ける。

 今は殆ど空のサックを持ってきた一番の理由は服を入れる為だが、同時に()()を入れる為でもあった。

 そうして高不動から離れると、話が終わったのを見計らい桃が話しかけてくる。

 

「……良いの? なんだか大変そうだけど」

 

「大丈夫じゃない? 風間くん達いつもあんな感じの事してるし」

 

「いつも……?」

 

「クレープ買ってきたわよ」

 

 物知り顔で語る葵に、桃は不思議そうな表情をしていた。

 そんな二人に、ミカンが近づきクレープを差し出す。

 

「あぁ、ありがとう。時間かかったんじゃない?」

 

「葵のお話の間に並んでおいたわ」

 

「待たせちゃったね」

 

「別にいいわよ。時間なら沢山あるしね」

 

 そうして受け取ったクレープを葵は食べ始める。

 実の所葵は高をくくっていたのだが、それは学生が作っているとは思えない程に美味しく、驚いていた。

 

「……すごいねこれ」

 

「人気なのも納得ね。船堀クレープとか呼ばれていたけれど」

 

(……船堀?)

 

 葵はクレープの美味しさに納得がいくが、同時に何故ここで作っているのかと疑問を浮かべる。

 そうこうしている内に、クレープの屋台も多少は捌けてきたようで、葵がそちらを向くと確かにその人物の姿が見えた。

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんでもない。優子と良ちゃんはどこかな?」

 

 船堀について気にはなったが、まだまだ客の多い所を邪魔するのも悪いと思い、姉妹の居場所を聞く。

 合流した姉妹はクレープの入っていた包装を3つ持っており、その内一つを邪神像に捧げていたらしい。

 

「待たせたね二人共」

 

「大丈夫ですよ、それよりこのクレープすごくおいしいですね!」

 

「屋台のお姉さんの手際もすごかった」

 

「ここまでの物とは……あの売り子、侮れんな……」

 

 各々そんな感想を言っていたが、そろそろ本命の目的を済ませる事にした。

 一行はパンフレットを見て、服が置いてあるらしい場所に向かう。

 そこには、古着ではあるが確かに仕立ての良さそうな服が沢山陳列されていた。

 それを見た桃を除く女性陣は、かなりテンションが上がっているように見える。

 彼女等と共に葵も服を眺め、値札を確認する。

 思っていたよりかなり安く、引き出してきた財布の中身にかなり優しそうだと葵は内心安堵していた。

 

「優子、これとかどうかな」

 

「むむ……それもいいですね……」

 

 シャミ子は自身の持っている服と、葵の持ってきた物を見比べて心底悩んでいるようだ。

 そんなシャミ子を見た葵は、彼女の持っている服を渡して貰いこう話す。

 

「これ全部買うよ」

 

「え……? でも……」

 

「いいから、今日はそのつもりで来たんだから」

 

「……はい! ありがとうございます!」

 

 葵はシャミ子の笑顔を見て、やはり誘ってよかったと感じる。

 そんなやり取りをしていると、ミカンが手招きをしてくるのを目にした。

 

「……優子。ちょっとあっち見てくるから、好きに選んでてね」

 

「わかりました」

 

 シャミ子から離れ、ミカンのいた方に向かう葵。

 

「どうしたのかな?」

 

「私の服の分は自分で払うわ」

 

 それを聞いた葵は言葉に詰まり、ミカンは苦笑しながら続ける。

 

「私と、それに桃は余裕あるんだから大丈夫」

 

 実際の所葵の貯金は元々かなりの額があり、節制のおかげもあり結構な余裕はある。

 だからこそこう言う機会に葵自身は使いたいと思っていた。

 ベテラン魔法少女に余裕が有ることを葵は知っているが、シャミ子にああ言ったばかりであるのにそうさせるのは沽券に関わる。

 できるだけ残しておいた方が良いとはいえ……と、葵が考えていると更にミカンはいたずらっぽい笑顔で続ける。

 

「というかもう払っちゃったし」

 

「あー……カッコ悪いなあ、俺……」

 

「いいから、その分シャミ子と良ちゃんにカッコつけなさい。後で桃にも言っておくから」

 

 そう言うミカンに物理的にも背中を押され、葵はその場を離れた。

 少し悩みながら戻ると、シャミ子と共に先程は別行動をしていた良子を目にする。

 

「あ、葵。良がこの服気になるらしいんですけど、直せますか?」

 

 シャミ子が持っている服は小さめではあるが、良子が切るには少々大きいだろう。

 葵はそれを暫く眺め、そして頷く。

 

「うん、いけるね」

 

「ありがとうお兄!」

 

「他にも気になる物あったら好きに持ってきなよ」

 

「うん!」

 

 少し遠慮していた様子を見せていたものの、やはり良子は嬉しいらしく、弾む足取りで駆けていく姿を見て、葵とシャミ子は微笑み合う。

 

「そうだ、リリス様も何か欲しい物ありますか?」

 

「む、余か?」

 

「まあ何かあったら優子に言ってください」

 

「感謝するぞ、葵よ」

 

「私ももう少し見てきますね」

 

 そう言って邪神像を持ったシャミ子が離れると、今度は桃が話しかけてくる。

 

「葵、この服どうかな」

 

 桃が見せてきたその服は、『いもうと。』という文字がプリントされたシャツと、サングラスを掛けた女性の顔と『yesterday』の文字が踊るシャツであった。

 桃は割と自身を持っているらしく、少し誇らしげな顔で返答を待っている。

 

「……どこからそんな服持ってきたの?」

 

「……ダメ?」

 

「……選ぶからついて来て」

 

 エリア分けを思い浮かべ、桃に合いそうな物がありそうな場所に向かった二人。

 そこで葵が服を選んでいると桃が口を開く。

 

(やっぱ黒系だよな……)

 

「さっき、ミカンから話聞いたよ。私も大丈夫」

 

「……うん」

 

「葵が選んだ服、大切にするから」

 

「……ありがとう」

 

 そう言われた葵には否応なしに気合が入る。

 そして葵はいくらか自身の趣味を混ぜつつも、数セットを選んで桃に渡した。

 

「これでどうかな。あと、優子にもいくつか選んでもらうといいと思う」

 

「うん、そうする」

 

 そうして桃と別れた葵は一人で歩きながら考える。

 

(黒もいいけど……何だかんだあのピンク系の魔法少女服も好きなんだよなぁ……。

 ……で、場所が場所だしやっぱり男物は置いて無いよね)

 

 適当に服を眺めつつ歩いていると一人の男性を見つけ、あちらも葵に気が付き近づいてくる。

 ショーン・コネコネ先生だ。

 

「オヤ、喬木君」

 

「コネコネ先生、どうも」

 

「オ連レノ女性達ハ、ドウシマシタカ?」

 

「ある程度一緒に服を見てたんですけれど、やっぱり本人の好みも有るので」

 

「女性ノ買物ハ長イ物デス。気長ニ待ツト良イデショウ」

 

 コネコネは軽く笑いながらそう返した。

 

「はい、そうしますよ。それで、風間くん達はどうなってますかね?」

 

「不利ナ状況ノ中、健闘シテイル様デス。私ハ本当ニ良イ生徒達ヲ持チマシタ。

 ……ソロソロ、昼食ニ近イ時間デスネ。

 風間達ニ、セメテモノ礼トシテ何カ奢ル事ニシマショウ。

 喬木君達モ宜シケレバ、オ連レノ方々ト屋台ノ場所ニ来テ下サイ」

 

「良いんですか? 俺、参加してませんけれど」

 

 それへの返答は言葉ではなく微笑みであった。

 シャミ子達と合流し、支払いを済ませてから向かう旨を葵は伝え、そしてコネコネと別れた。

 

(本当にダンディだ……)

 

 ■

 

 スタンプラリーの二戦目は屋台で何かを売り、それの集客人数での勝負だ。

 堅次達は商品として希少な名水を出し、そして圧勝を見届けていた。

 

「あー……悪いな、せっかくの土産」

 

「うん。税関抜けるのは苦労したけど」

 

「ぐっ! ……す……まん」

 

「冗談ですよ、それに目的は果たしたし。先輩飲んで美味しいって言ってくれたから」

 

 堅次と話している桜が、水の入ったボトルを地面に置きながら話を続ける。

 

「それに実は一個だけ退避させていたのです。これで祝杯を上げましょう。

 まあこれだけ日本産なんですが……。

 後、本当はもう一つ国内で採りたかった水があったんですけど、手こずってしまって」

 

「お前が手こずるってどんなんだ……?」

 

「奥々多魔の山奥に有るって話なんですけど──」

 

 ■

 

 合流した一行は葵の言葉で屋台のある広場に向かっていた。

 各々、特に葵と桃は多数の袋を提げている。

 

「ごはん、ごちそうしてもらえるって本当なんですか?」

 

「あの先生の言うことだから、信頼できるよ」

 

「あのおヒゲの人よね? 何だか凄いダンディな感じの」

 

 そんな雑談をしながら辿り着いた広場では、堅次達が勝負を行っているようだ。

 片方の屋台には人が集まり、もう片方にはコネコネが見える。

 

「来マシタネ。風間達ハマダ勝負ヲシテイマスカラ、先ニドウゾ」

 

 コネコネがいる屋台は“玉川牛”なる牛肉のステーキを売っているらしい。

 

「順ニ焼ケマスカラ、先ズハコノ2皿ヲ」

 

「ありがたくいただきます」

 

 受け取ったそれをナイフとフォークと共に、シャミ子達の元に葵は運ぶ。

 手近な場所に座り、ステーキを切り分けるとカバンの中から密封された爪楊枝を取り出して挿す。

 

「ロースとカルビらしいよ」

 

「……おいしい」

 

「聞いた事無い牛だけど、いいわねこれ」

 

「お兄の学校の先生、優しいね」

 

 それぞれがそんな感想を言い合っている中、シャミ子はフリーズしていた。

 

「優子?」

 

「……ハッ! 宇宙のめくれた部分を見ていました!」

 

「めくれ……? まあ美味しいなら良かった。次取ってくるね」

 

 葵がまた屋台の方に戻り、再び2皿を運ぶ。

 今度はタンとハラミだ。

 ミカンはどこからともなく取り出した、柑橘ベースらしいソースをかけて食べている。

 

「やっぱり合うわね〜」

 

「そうだね……」

 

 葵が若干引きながらもミカンに同意していると、屋台に居たメガネの女生徒が近づいてくる。

 

「次の皿お届けに上がりました! 7皿も注文いただいて……!?

 ちょ、ちょちょちょっと! 何かけてるの!?」

 

「十種の柑橘ソースよ? 美味しいわよ」

 

「そんな勝手に……ムグッ!?」

 

 持ってきた3皿を置いた女生徒は、ミカンのかけたソースを見て詰め寄る。

 ミカンはそれに対しソースの名前を答えた後、爪楊枝を挿した一切れを女生徒の口に突っ込む。

 女生徒は何処か複雑な顔で咀嚼し、飲み込むと口を開く。

 

「確かに……美味しいわね……」

 

「でしょう?」

 

 その反応を見たミカンの目がキラリと光った様に葵は見えた。

 ミカンは更に、どこからともなく取り出したカタログを女生徒に差し出す。

 

「うちの自信作よ! よかったら1本あげるわ!」

 

 今度はミカンの方が詰め寄るのを見て、葵は苦笑している。

 

(ミカンらしい……あれ? そういえば……7皿?)

 

「いや〜、これ良さそうな肉だね〜」

 

「杏里ちゃん!? いつの間に……」

 

「ついさっきだよ〜」

 

 葵が声の方を向くと、そこには杏里が居た。

 

「ところで杏里ちゃん……その格好は……」

 

「部活終わったらそのまま来ちゃった。これ食べてもいいかな?」

 

「あ、大丈夫ですよ」

 

 杏里の服装はテニスウェアであり、シューズやラケットが入っていると思われる袋とケースを背負っていた。

 杏里は肉を食べながら何かを考えているようで、携帯で写真を取った後どこかへ連絡を取る。

 そして暫くの後、ミカンから開放され少しやつれたように見えるメガネの女生徒に近づく。

 

「ねぇ! この牛……玉川牛ってあなたの家の牛なの?」

 

「え、えぇ。そうだけど……」

 

「ちょーっとお話があるんだけど……」

 

 そうして二人は少し離れた屋台に向かい、何かを話し出す。

 見ていると女生徒は飛んだり跳ねたりリアクションが騒がしい。

 

(あっちも商談か……それにしても、7皿……。

 杏里とリリス様を合わせた人数分……じゃ、ないよな。コネコネ先生……まさかね)

 

「本当に美味しいですねこれ。それに服も沢山買えました。

 あの先生だけじゃなくて、チケットを貰えた事にもお礼言いたいです」

 

「そうだね」

 

「あのタスキ掛けた人が何か頑張って手に入れたらしいよ。後で話しに行こうか」

 

 一行が食べている間に勝負は決していたようで、2つ目のスタンプが押されていた。

 順調に見えるが、堅次は何か焦っているように見える。

 

「クソ……人数足りるかコレ……?」

 

 実は高不動の策略で、制限時間内にスタンプが集まらないよう仕組まれていたのだ。

 それでも、堅次はスタンプボードを割って分担することを思いついたのだが、スタンプの数に対して人数が足りるか悩んでいる。

 

「大丈夫かな、風間くん」

 

「喬木か……いや……」

 

 堅次としては一人でも人手が欲しいのだが、一度不参加で良いと言った以上覆すのは彼のプライドに関わる。

 

「クッ……喬木」

 

「何かな?」

 

 堅次に名を呼ばれた葵は少しニヤリとした顔で待つ。

 

「……喬木! 手ェ貸してくれ!」

 

 その言葉にいち早く反応したのは葵ではなく、彼の後ろにいたシャミ子達であった。

 シャミ子達は顔を合わせて頷くと、声を上げる。

 

「あのっ! 私達もお手伝いします!」

 

「……! スマン! 恩に切る!」

 

 堅次は一瞬呆けたものの、割られたボードを2枚投げそれを葵と桃がキャッチする。

 そして一行はボードとパンフレット見比べ、場所を確認する。

 

「この場所に行って勝てば良いんだよね? 

 ……あれ? 杏里、この場所テニスコートじゃないかな」

 

「確かにそうだね。じゃあここは私と……」

 

 桃の持っているボードを見せられた杏里は場の面々を確認する。

 

「ちよももテニスできる?」

 

「ボール割っちゃうから無理。ミカンも」

 

「そっかぁ……」

 

「俺がいくよ」

 

「へっ……?」

 

「準備は出来てるんだ」

 

 そう言った葵は、背負ったサックから諸々のテニス道具一式を取り出す。

 

「何で持ってるの?」

 

「複雑な事情が有るから……説明は後で」

 

「じゃ、これは私と葵ね」

 

「こっちは室内っぽいから優子達に……」

 

 そう言って杏里は桃からボードを受け取り、次に葵が自らが持つボードを差し出す。

 そこで、葵の言葉を遮る声が。

 

「ねえっ! よかったら私と組まないかな?」

 

「ちょっ……桜ぁ!?」

 

(桜……!?)

 

 背後から聞こえたその名に思わず反応する者が数人。

 桃達が振り向いたそこには水上桜と、少し離れた場所で桜の行動に驚いている風間之江、そして半泣きの柴崎つつじ。

 驚いた様子の桃が返答をする。

 

「あなたは……?」

 

「私、水上桜っていうんだけど。あなた達に興味有るんだよね。で、どうかな?」

 

 そして、相談の後。

 

「改めて、水上桜。よろしくね〜」

 

「千代田桃。よろしく」

 

「シャミ子です。よろしくお願いします!」

 

 なにか含みの有りそうな一年チームA。ついでに邪神像。

 

「陽夏木ミカンよ。よろしくね」

 

「風間之江。よろしく……ッス」

 

「……柴崎つつじ」

 

 全員他校生の一年チームB。

 

「葵はテニスどんくらいなの?」

 

「最近そこそこ練習してるけど、やっぱまだ浅いよ」

 

 急造テニスコンビチーム。

 そこまで決まった所で、シャミ子があることに気がつく。

 

「あ、あれ!? 良はどこに……!?」

 

「お姉! 良はこの人達と行く」

 

 声の方向には良子の他に二人、小競り合い中の烏山千歳と境多摩だ。

 

「良!? ……えっと、あなた達は……」

 

「タマちゃんだよー。喬木から色々噂は聞いてるわぁ」

 

「……烏山千歳」

 

 二人の自己紹介を聞いた葵は警戒した様子で口を挟む。

 

「タマ先輩……良ちゃんに何させる気ですか?」

 

「妹ちゃんに危ないことはさせないからぁ。前生徒会の面々に誓うわ」

 

「お姉にお兄、良は大丈夫だから」

 

「……優子、タマ先輩がここまで言うなら大丈夫」

 

「そう……ですか……? あのっ! 妹をよろしくお願いします!」

 

 シャミ子は悩んでいた様子だが、良と葵の言葉を聞いて頭を下げながらそう言った。

 烏山千歳、境多摩、そして良子による為政者(?)チームの結成だ。

 聖立川女学院リベンジマッチは、予期せぬ勢力の乱入により混迷を極めていく。

 

 ■

 

 マップを片手にテニスコートに向かう葵と杏里。

 

「それにしても、葵がテニスやってるなんて。何で言わなかったの?」

 

「最近コレ押し付けられてね。練習中だし言う程のものじゃないかなって」

 

 葵は走り、持っているそれを揺らしながら、訝しげな杏里の疑問に答える。

 

「ふーん? それで、何で持ってきてたの?」

 

「その押し付けてきた人がここの生徒でね、持ってこいってメッセージが昨日来たんだ」

 

「……葵。いつの間にこんなお嬢様学校の人と仲良くなったの?」

 

「そこもまた長い話に……」

 

 少しジトっとした目で杏里に見つめられ、葵は苦笑をしながら返す。

 そうこうしている内にテニスコートに到着し、思い浮かべていた人物が見えてきた。

 

「葵さん! お待ちしておりましたわ!」

 

「久しぶりだね」

 

「……あら、お二人で来たんですわね。なら……」

 

「はい」

 

 二人の姿を確認した妃乃が振り返ると、一人の少女が近づく。

 葵はその少女に見覚えがあった。島から戻った後にボールを持っていた人物だ。

 とはいえ、葵はそこは今はどうでも良いと一つの質問をする。

 

「どこか着替える場所ない?」

 

「用意してありますわ。あそこの小屋が完全に空ですから、使ってくださいな」

 

 妃乃はポツンと立っている小屋を指差し、もう片方の手で鍵を揺らしながそう語る。

 葵はそれに従い、そして暫くの後に着替えて出てきた。

 それを見た杏里は笑顔で感想をこぼす。

 

「へー。似合ってるじゃん、葵」

 

「ありがとう……服も靴も違和感なさ過ぎて何度着ても怖いんだけど。何なのコレ?」

 

「フフ、企業秘密ですわ。あと、ラケットはどうでしょう?」

 

「こっちも怖い位にしっくり来すぎてるよ」

 

「ならば、相手にとって不足無し。行きますわよ!」

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