まちカド木属性 作:ミクマ
あおいばし @■■■■
最近たまさくらちゃんを見てない気がする
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桃色 @FreshP_0325
あんなことあったし自分から無意識に遠ざかってるんじゃないの?
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あおいばし @■■■■
まさかそんな事……あの低予算感溢れるモフモフが恋しい……
桃色とあおいばしはそんな雑談を送り合う程度の関係である。
あおいばしの中の人である葵は桃色、つまり桃のフォローやらいいねやらの数に軽く引いていたりするのだが、葵も葵で似たような物だ。
■
『明日シャミ子にネットのこと教えるから手伝ってほしい』
桃からスマホのメッセージでそんなことを伝えられた葵は準備をしていた。
とは言っても大したことではない。自身の力を使ったちょっとした小芝居である。
そして翌日、葵は吉田家にいた。
「確かに初心者だけどごく基本的な知識はあります。桃に教えられる謂れはないっ!」
「葵君、桃さん。お疲れ様です、お茶が入りました。優子も座ったらどうですか?」
「あ、はい」
ネットのことを教えようとする桃に、シャミ子は怒るが母と妹、更には葵まで絡んだ作戦によりその場に座らされてしまう。
桃が紙芝居を取り出す中、葵は壁の近くに照明を設置し、床にお父さんボックスとは別の箱を置く。
そして葵が天井から垂れ下がる紐を引っ張ると、照明と箱の前に白い布が落ちてくる。
「何ですかその無駄にスタイリッシュなのは! やっぱり結託してますね!?」
葵はそれには答えず、壁と布の間に立ち照明を付けると指の股に爪楊枝を挟んで座る。
桃と葵が見つめ合い、頷くと葵だけ裏声を作って二人が話し出す。
『魔法少女と木属性のネットリテラシー講座』
「まぞくに問題です。
……まぞくがとても気になる怪しいサイトを見つけてクリックしました」
桃の紙芝居には凄く怪しいサイトっぽい絵が書かれている。
そして垂れ幕の向こうにはヤギらしき黒い影と、剣を持った羊らしき影が出ている。
つまるところ、葵が行っているのは爪楊枝と自らの力を使った影絵芝居である。
「『へっへっへ〜この剣と私の持つ情報があれば、魔法少女をバッタバッタとなぎ倒せるよ!
でも早くしないと誰かに取られちゃうよ〜』
『ほんとですか!? 教えてください!』」
葵はやはり裏声でそんなセリフを喋っている。
そして桃は紙芝居をめくり、謎の契約がなされたらしいサイトの絵を見せる。
次に葵は、羊の影を大きな狼へと変貌させ、今にもヤギに襲い掛かりそうな絵面を作り出す。
「……すると謎の契約が結ばれて、管理者から多額のお金を請求されました」
「『教えてって言ったね? なら18,000,000コロンビアペソを今すぐ払うんだよぉ!』
『そんなお金持ってませんよぉ!』
『払わない悪いまぞくは魔法少女に退治してもらうよ!』
『ひえぇ〜っ』」
「どうしてそんなことがおきるんですか!?」
「インターネットだから」
葵の小芝居を挟みつつ、そんな桃の言葉にシャミ子は怯えている。
「……このような場合、まぞくはどうしますか?」
「急いで電話をかけ身分を明かして謝り倒す」
「不正解。まぞくは死にました」
「わたし死んじゃうの!?」
(……これ俺の芝居いる?)
■
葵が影絵芝居を片付けている中、先程に輪をかけて怯えている様子のシャミ子。
「ネットで調べたいことがあるなら私が調べるよ」
「それだと困る!」
「……さてはシャミ子、うしろめたいことを調べようとしているのかな」
「優子があんまり変な事覚えちゃうと俺泣いちゃうよ」
「ち、違う! プライバシー侵害だ!
……あ、今のは桃のプライバシーを覗き見たいという意味ではなく……」
慌てた様子で怒涛の言い訳をするシャミ子の事を桃は不審に思うも、二人共そのまま部屋の外に追い出されてしまった。
「あれで良かったの? 桃」
「もう一つ布石は置いておいたから」
「そうじゃなくて……」
「どういう事?」
「……いや、何でもない」
桃は困惑していたものの、二人はそこで別れ葵は自宅に戻った。
葵は適当にスマホを弄り、シャミ子が何か聞きに来ないかと考えていたものの、結局来なかったので少し寂しい思いをしていた。
「大丈夫だろうか優子……」
そんな事を考えつつ、つぶやいたーを眺めていると、“桃色”のつぶやきが急激に減っている事に気がつく。
それを見た葵は桃に向けてメッセージを送る。
『つぶやきどうしたの?』
『シャミ子が私のアカウント知りたいって』
『だからって消す必要あるかな?』
その葵のメッセージの後、しばらく返信が止まる。
『私の元のつぶやきとかシャミ子に言わないでほしい』
『まあいいけど……』
そこまででやり取りは終わり、今度は葵の家にシャミ子が訪ねてくる。
「どうしたのかな優子」
「葵のつぶやいたーのID、教えてください」
そう言われた葵は少々面食らい、そこで桃の気持ちが少しわかったような気がした。
「……わかった。少し待っててね」
とはいえ、“あおいばし”のアカウントは妙なつぶやきやフォローはしていない。
特に何かをしたという訳では無く、葵はしばらく考えた後にそれを教える事にする。
葵の渡したIDの書かれたメモを持ったシャミ子は、笑顔でばんだ荘に戻っていった。
「……本当に大丈夫……な、筈だよな……」
“あおいばし”のあれこれを思い浮かべ、一度は大丈夫だとは思ったものの、やはり葵は不安になってしまう。
そして、大して時間も経たずに一件のフォローリクエストが来ると、葵はそれを了承した。
いつの間にか桃色からのフォローはなくなっていたが、葵はまあいいかと思っていた。
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しゃみこ @syadoumisutoresu
葵ですよね?
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あおいばし @■■■■
そうだよ
でもここでは平仮名で「あおい」か「あおいばし」でお願いね
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しゃみこ @syadoumisutoresu
わかりました
あおいのつぶやいたーってたまさくらちゃん一色なんですね
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あおいばし @■■■■
好きだからね
それよりパソコン使いこなしてるみたいだね 凄いじゃん
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しゃみこ @syadoumisutoresu
ありがとうございます!
実際の所、葵はそこまでつぶやきの多いタイプではないのだが、たどたどしく頑張っている様子のシャミ子とのやり取りをかなり楽しんでいた。
そして、“しゃみこ”のアカウントを眺めていると、いつの間にかフォロワーが二人になっている事に気がつく。
見てみればそれは“桃色”で、今度は自身にフォローリクエストが来ていた。
「そこまでして隠したかったのか……」
葵はそんな事を考え、ならばメッセージの方がいいだろうとそれを送る。
『これでよかったのかな?』
『うん 葵も黙ってくれてるみたいでありがとう』
『桃の気持ちはなんとなくだけど分かるからね』
『シャミ子は私の事を知りたいみたい』
『俺も桃の事もっと知りたいかな』
そこで返信が止まり、葵は自身のメッセージの意味を考え直して崩れ落ちる。
「やっちまった……!」
■
「……私も、葵の事もっと知りたいかな……」
葵はまだ何かを隠している。
千代田桜の失踪に直接繋がる事では無いのだろうが、いつか話してくれる日が来るといいなと、桃はそう考えていた。
■
とある日、桃は邪神像に大量のわいろ、もといお供えを送っていた。
それにリリスが怯える中、桃が問いかける。
「シャミ子のお母さんと葵の話から考えて……過去、あなたはヨシュアさんに持ち運ばれていたようです。
その時に千代田桜を見た記憶はありますか」
「俺も気になってるんですよね。
ヨシュアさんから像が大切なものとは聞いてましたけど、リリス様の話は聞いたことありませんでしたし。
共闘してた事もあくまでそう聞いていただけで、直接見たわけじゃないです」
「ふふふ……聞いて驚け。さっぱりわからぬ」
リリスのその答えに葵は深く呆れた様子でため息をつき、桃はお供えを回収し始める。
リリス曰く、彼女はここ二千年は封印空間の外を観測できず、10年ほど前から外の様子が見えるようになった……ということらしい。
「……2000年間閉じ込められていたってことですか?」
リリスはそれを肯定し、同情した桃がお供えを再開する中、葵も密かに青褪めていた。
葵の経験した“ソレ”はたかが一日やそこらで、その後はずっと桜や吉田家との関わりがあったのだが。
(あれを思い出すだけで……なのにそれが2000年……)
「葵? どうかしましたか?」
葵が密かな考え事をしていると、それをシャミ子に感づかれてしまう。
「いや、何でも無いよ……リリス様、何か欲しいものとかありますか? DVDとか」
「だから若造の同情なぞいらぬ!」
その後、桃はリリスからの所業を思い出してモヤモヤしていたようだが、体を一日リリスに貸すというシャミ子からの提案に乗ることにしたようだ。
それを知らない葵は当然問う。
「体貸すって……そういえばそんなこと言ってたね」
「あの時は学校で、葵はいませんでしたからね……」
「葵、像を完全に固定できる物とかない?」
リリスがシャミ子の体を借りるには、邪神像の底面にあるスイッチを入れる必要があるらしい。
しかし、以前の騒動で桃はそれを埋め立てた。
それを正確に削る為、像を何かに固定したいようだ。
「……万力とかどうかな」
「いいね」
「待て! 余をそんな物に挟む気か!?」
「俺が作った奴です。木製なのに頑丈ですけど、鉄よりは優しいと思いますよ」
「そういう問題ではなぁい!」
■
悲鳴を上げながらもスイッチを掘り起こされたリリスは、次の日無事にシャミ子の体を借りていた。
「今日はおぬしのたっての頼みで、永劫の闇の魔女・リリス様が遊んでやるのだからな!」
色々と言葉を並べているリリスに、桃も葵も青筋を浮かべている。
「……葵。今日一緒に来てくれるよね?」
「……」
歯を噛み締め、唇の端を引きつらせる葵に桃はそう聞くも、返答は沈黙。
そしてしばらくの後、葵が顔を上げて呟く。
「……ほんとにお願い。ずっとコレと付き合ってたら本気で脳の血管が切れそう。
こんな優子見ていたくない。大きな貸しにするから、頼むっ……!」
「……絶対返してもらうからね」
そして結局葵は残り、リリスと桃を見送った。
「本当にごめん桃……」
葵は罪悪感に苛まれていたが、しかしずっと立っている訳にもいかない。
怪しい雲行きの中、葵が今日何をするか考えていると、彼に声をかける者が。
「あら、葵?」
「……ミカン」
「……何だかやつれた感じだけど大丈夫?」
声の方向に顔を向けた葵はミカンにそう心配されてしまう。
「ああ、うん。大丈夫……」
「お兄?」
取り繕おうとする葵であったが、そこで更に良子にも遭遇する。
流石にこんな顔を見せるわけにも行かず、良子の方を向くまでに表情を整える。
「どうしたのかな、良ちゃん」
「お兄はお姉たちについて行かなかったの?」
「そうだね……今日はちょっと桃に任せたんだよ」
嘘はついていないが、本当の事も言っていない為またも葵に罪悪感が積もる。
完全に葵の自業自得でしかないのだが。
そんな葵の言葉を聞いて、良子は控えめに声を出す。
「……あのね、お兄。今日時間あるなら、夏休みの宿題見てほしいの」
「もちろん。良ちゃんの家と俺の家、どっちでする?」
「……お兄の家がいい」
「わかった、行こうか」
「うんっ!」
「それじゃ、ミカン。心配かけたね」
そんな二人のやり取りを見ていたミカンだったが、葵にそう言われると意を決した様に返事をする。
「二人がよければなんだけれど……私も行っていいかしら? 邪魔はしないわ」
ミカンの言葉に、葵は目を丸くし良子の方を見る。
「良ちゃんがよければ……」
「大丈夫です。ミカンさん」
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実際の所、良子の宿題は特につまづく所も無く非常に順調である。
とりわけ葵が見ている必要も無い位なのだが、それを指摘する程野暮でもない。
「お兄、これどうかな」
「大丈夫だよ。流石だね良ちゃん」
「お兄がいつも見てくれてるからだよ」
この純真な笑顔と言葉を見聞きする度、葵は喜びを覚えると同時に、それに見合う存在になれているのだろうかと不安にも思う。
無論そんな事はおくびにも出そうとはしないが。
「今日の予定はこれで終わり……かな」
「お疲れさま」
「お兄のおかげで早く終わった。ありがとう」
「どういたしまして」
「……外、凄い雨だね。お姉たち、大丈夫かな」
「健康ランドに入ってるって連絡が来てたよ」
「そうなんだ……」
大雨の降る外を見て、良子は少し心配そうだった。
そうこうしている内にお昼の時間になっており、ミカンの提案に乗り事前に昼食を頼んだ二人はそれを待っている。
「おまたせ、おそうめんよ」
ミカンの運んできたそれは、当たり前のように蜜柑が乗っており、ついでに葵の希望により刻んだ玉ねぎも別の皿に乗っていた。
三人はつつがなく昼食を終え、休憩に入る。
「雨、どんどん強くなるわね……雷も」
宿題をしている途中から降り始めた雨はどんどん激しくなり、昼食時からは雷まで落ち始めていた。
こうも雷雨がうるさいと、テレビやゲームも音が聞こえにくく満足に時間は潰せない。
そして一際大きい雷が落ちると、喬木家は闇に包まれた。
「きゃっ!?」
「お兄……!」
「大丈夫だよ」
良子が思わず葵に抱きつき、そしてしばらくすると電力が回復する。
「ふう……結構長かったわね……」
「こんな家だし配線がイカれたかもと思ったけど、大丈夫だったみたいだね」
「そういえば……驚いたけど呪いが出なかったわ……」
「それなら……」
ミカンの言葉を聞いた葵は部屋の隅の一点を指差す。
そこには木製と思われる妙な形の何かがあった。
「あれって……?」
停電した瞬間、ミカンの悲鳴を聞いた葵は懐の爪楊枝に力を流し込み、そしてミカンや良子の居ない方に投げていた。
咄嗟の事だったものの、訓練の末に反射の域にまで至ったそれが呪いの対象になり、他の物に影響は出なかったようだ。
ちなみに、少々恩着せがましい感じになりながらもミカンにそれを説明した理由。
「俺の魔力を流した物は呪いの影響を受けやすいみたいだけど、逆に言えば誘導が出来るみたいだね」
「葵……!」
「半分賭けだったけれど、俺がそばにいる時は頑張ってみるよ。ミカン」
「ありがとう、葵。それと……良ちゃん、怖がらせちゃったわね」
「お兄が守ってくれたから大丈夫。ミカンさんもそうでしょ?」
「良ちゃん……」
良子の言葉に感動している様子のミカンだったが、気恥ずかしなった葵がわざとらしく咳をし、話題を切った。
その後、ミカンが思い出したように葵に問う。
「この前シャミ子から聞いたのだけれど、葵ってボードゲームとか結構趣味なのかしら?」
「それなりに好きかな。興味あるなら見る?」
葵の提案でそれらが保管されている場所に向かい、収納を開き出す。
そんな中、別のものが保管されている所をミカンが開けたことに気が付き、声を上げる。
「あ、そっちは違うよ」
「これって……」
「ずっと昔の遊び道具だね。大抵、優子と遊ぶのに使ってた物だよ。
収納には余裕あるし、まあ取っておいてもいいかなって」
「シャミ子との思い出、大切にしてるのね」
「まあね。それより、これとかどうかな」
手頃なゲームを取った葵は元の部屋に戻り、良子も交え雨が止むまでそれで時間を潰したのだった。
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「優子に桃、おかえりなさい」
雨の止んだ後、ばんだ荘の前で葵は二人を迎えていた。
「葵、私がごせんぞじゃないって分かるんですね」
「雰囲気が全然違うからよく分かるよ」
シャミ子の問いにそう答えた葵は次に、何故か怯えた様子の邪神像を持った桃を見る。
それにただならぬ雰囲気を感じ取った葵は、桃に近づき問いかける。
「……何かあったのかな?」
「今日の間に桃とごせんぞは凄く仲良くなったみたいですよ!」
「……?」
葵はよく分からなかったものの、シャミ子が嬉しいならそれで良いのだろうと思った。
そして自宅に戻ろうとするシャミ子の背中を見ていると、葵の背後にいる桃がボソリと呟く。
「……葵が来てくれたら、もっと堅い弱みになってたのに」
「!?」