まちカド木属性 作:ミクマ
「今日は町に出てまぞくを探そう」
「? まぞくならここにいます」
桃のその言葉に、シャミ子はナントカの杖で自分を指差す。
「そうじゃなくて! シャミ子、言ってくれたよね?
この町に潜むまぞくを探し、千代田桜を探し出すって。
葵も、それに協力してくれるんでしょ?」
「うん。どこまで力になれ……」
「葵」
どこまで力になれるかわからない。
葵がそう言おうとした所で桃から静止されると、少しキョトンとした表情の後、その行為の意味を思い当たる。
「あぁ、力いっぱい頑張るよ」
「頼りにしてるから」
葵がまたもネガティブな思考に至ろうとしていた事に桃は勘付き、それを止めたのだ。
そして葵が言い直した言葉に桃は微笑み、またシャミ子の方を向く。
「シャミ子、約束忘れちゃったのかな?」
「忘れてないです! ただ……」
夏休みが始まってまだ数日。
しかし何故か、何ヶ月も立っている様な気がする。
そんなシャミ子の言葉に、場の面々は困惑しながらも同意していた。
(一応時間は経過してるけど、10巻続けてようやく夏休み入る漫画とかあるよね……)
葵がそんなどうでもいい事を考えていると、シャミ子達は玄関に向かっていた。
そしてシャミ子と葵が玄関で靴を履いた所で、桃とミカンがこう言いだす。
「今回、私たちはついていけないわ」
「この町で姉と付き合いのあった昔からいるまぞくは結界で保護されている。
だから、魔法少女が同行すると近づけない。
もし結界を見つけたら、はがさず様子だけ見て帰ってきて。気をつけてね」
シャミ子は桃に頼られた事がとても嬉しいようで、それがしっぽにも現れていた。
そして桃に
「葵って、おとーさん以外に桜さんを知ってるまぞくに会った事はないんですよね?」
「残念ながら、そうだね。
それが縁がないだけなのか、それとも結界のせいなのかは分からないけれど」
「結界……でも、葵は魔法少女じゃないですよね?」
「俺の力は魔法少女とは違うけれど、まぞくのものでもない。
だから、色んな結界にどう認識されてるのか、イマイチ分かってないんだよね。
だから今回はその辺の検証も兼ねてる感じ」
そんな話をしながら歩いていた二人。
シャミ子の提案で、情報通と認識されている杏里に会いに行くことにした。
葵の携帯から先に杏里に連絡し、彼女が部活中であることを確認する。
そして桜が丘高校に向かうも、そこの校門前で葵は立ち止まる。
「優子、任せたよ」
「葵? どうしたんですか?」
「いや、俺ここの生徒じゃないし。そもそも女子校だし……」
「夏休みですし、大丈夫ですよ。
そもそも、私を迎えに来てくれる時には入ってきてるじゃないですか」
「あれはまた別だと思うけど……」
戸惑う言葉にシャミ子はそう言うも、やはり葵はまだ悩んでいるようだ。
そんな葵の腕をシャミ子は掴む。
「私がついてますから、行きますよ!」
突然腕を掴まれ、そして引っぱられた事に葵は驚くも、張り切っている様子のシャミ子の背中を見て葵は微笑む。
ただ、やはり少し不安だったのでサングラスをつけたのだが。
そしてテニスコートに近づくと、シャミ子は声を上げて杏里を呼ぶ。
「シャミ子……と、葵も入ってきたんだね」
この場に葵がいる事を認識した杏里は、少し驚いた様だったがすぐに笑顔をこぼす。
そして杏里の誘導により、テニスコートから多少離れた場所で話を始める。
「本当に俺入ってきて大丈夫?」
「ダイジョーブ。ウチ色々と緩いし、シャミ子一緒な上に夏休みなんだからさ。
で、まぞくのすみかだっけ?」
まだ不安そうな葵を杏里は軽い調子で受け流し、そして本題に移る。
「杏里ちゃんって顔が広いので……」
「いくら私でもそんな都合よく情報が出てくると思うのか〜っ」
「ですよね……」
「まぞくのすみかなんて全然知ってる」
杏里のその言葉にシャミ子も葵も驚愕を禁じ得ず、そしてもう一度問う。
杏里がそれに答える中、葵は密かに息を吐いていた。
(俺のこの10年は一体……)
「たまさくら商店街の──」
■
「まずった……」
現在葵は町のとある場所を一人で歩いている。傍らにシャミ子はいない。
葵には杏里と別れた辺りからの記憶がなく、ここが何処なのかは分かるものの、ここまでどうやって来たのか覚えていない。
空を見るに結構な時間も立っているようだ。
(優子は……まぞくのすみかにたどり着いたのか?)
幼馴染を心配しつつ、葵はこうなった原因を探る。
先程シャミ子に語った、自身に対する結界からの認識。
恐らくそれが関わっているのだろう。
葵は町と吉田家の結界に守られてはいるが、まぞくではない。
「俺の力は……やはり異物……?」
その2つには守られていても、他のまぞくのすみかの結界からは警戒されているのではないか……と、言うのが葵による一つの考察だ。
「ただそれだと優子ごと拒絶されるはず……なら」
葵はまぞく程、町と吉田家のそれによる守りが手厚い訳ではないと、そう認識している。
ならば、他の結界に警戒はされてはいても、魔法少女程の拒絶はされないのではないか……。
「……駄目だな、考えていても確証に到れる気がしない」
結界を含めた桜の行動は、葵にとっての想像の範疇を軽く超えている。
髪を纏める紐に仕込まれた“ソレ”だけは教えられたものの、それ以外は10年経っても理解が出来るものにはなっていない。
葵がトボトボと歩いていると携帯が震え、それに出る。
『葵!? やっと出た!』
「桃……」
『もうシャミ子は帰ってきてて、葵の事心配してるよ。何してるの?』
「……ごめん。帰ったら説明する」
『……分かった。早く帰ってきてね』
そうして通話を切った葵はそこでようやく、自身の携帯に大量の通知が出ている事に気がついた。
通話、メール、メッセージ。
いずれも何度も入っていたようで、桃のみならずミカンの物。更には杏里からまで。
葵はそこで、深くため息をついた。
「何でこうなっちゃうのかなぁ……」
■
「葵っ!」
桃の部屋に入った葵は、玄関でシャミ子に抱き付かれドアに寄りかかる。
葵は呆然となりながらも、涙目で自身を見つめるシャミ子の背を擦る。
「私っ! あすらに入って、それでまぞくの人に会ったんですけど、何でか葵の事をずっと忘れてて、それでっ……」
「大丈夫、大丈夫だから……悪いのは、俺なんだよ」
そのまましばらくシャミ子をなだめ、落ち着いてきた事を確認すると奥の部屋に向かう。
そこにいた桃もミカンも、心配そうな表情で葵を見つめている。
「ごめん、心配かけた」
葵は深く頭を下げた。
その後、何故シャミ子とはぐれたのか、何故電話に出なかったのか。
それについての考えを話し、葵の話を聞いた場の面々はうつむきながら考えている様子だ。
「まぞく程守られず、魔法少女程拒絶もされない……」
「しかし……意識や記憶に干渉されるとは……それもまぞくであるシャミ子にまで……」
それぞれ桃とリリスの反応だ。
葵自身もうつむいていたが、そうしている訳にもいかないと返事をする。
「今まで他のまぞくに会えなかったのもこういう事なんだろうね。
干渉されていることにすら気がつけていなかった。
まぞくの住処でなく、町中なら可能性はあるかもだけれど……」
葵はそこで一旦言葉を切る。
「とりあえず、これで俺が他のまぞくの住処に行けないと、そうハッキリした。
……明日からは優子に任せることにするよ」
葵はその言葉だけなら納得している様に思えるが、しかし実際は自身の唇を噛んでいる。
シャミ子は未だ涙目であるものの、葵を見ておずおずと口を開く。
「葵、私頑張りますから」
「……うん。お願いね」
■
次の日。
喫茶店であるらしいまぞくの住処、そこにアルバイトに向かうシャミ子を見送り、葵は家に戻った。
昨日の出来事を思い浮かべ、葵はまたもため息をつく。
「……駄目だな。優子が頑張ってるんだから、ずっと落ち込んでるわけにもいかない」
今日何をするか。そう考えながら葵が外に出ると、そこには複雑な表情の桃とミカンがいた。
「葵……大丈夫?」
「昨日あんな事があったし、心配よ」
「大丈夫だよ。それより、優子を待ってる間何してようか」
葵の言動は空元気にしか見えなかったが、桃とミカンは深くは触れない事にした。
そして三人が話し合っていると葵の携帯が震え、それを確認すると微妙な表情になる。
「どうしたの?」
「……ちょっと呼び出し受けた。時間掛かりそうかも」
「行ってきなさいよ。ここは私と桃がいるから」
「……分かった、お願い。行ってきます」
■
「目的はまぞくと交渉することでしょ!?」
「……あっ、そうでした」
葵が用事を済ませ帰ってくると、ばんだ荘が騒がしくなっており、部屋を訪れると桃がシャミ子に詰め寄っていた。
「ただいま、どうしたの?」
「あ、葵! 今日は美味しいコーヒーの淹れ方を教わったんですよ!」
「……シャミ子が目的忘れてたんだよ」
「そうなんだ……まあ、明日こそ頑張ればいいよ。優子」
「葵は甘いんだから……」
「……ところで、葵の持ってるそれはなんですか?」
三人でそんな漫才を繰り広げていたのだが、葵が提げている袋にシャミ子が気が付き、そう聞く。
「お土産だよ。お使いの報酬に貰ってね、学校の近くの喫茶店のお菓子とコーヒーだよ」
そう言って葵は袋をテーブルに置こうとするも、そこには沢山の料理があった。
「どうしたのこれ?」
「あすらで貰ったまかない料理です。すごく美味しいんですよ」
「そうなんだ……」
「ところで、その袋2つともお菓子とコーヒーなんですか?」
「いや、こっちは……良ちゃん」
袋を2つ提げている葵は、シャミ子の問いを否定すると部屋を見渡し良子を呼ぶ。
「お兄、どうしたの?」
「こっちは良ちゃんへのお土産なんだ。ちょっと重いから気をつけてね」
「これ……本?」
葵が片方の袋から取り出したそれは、ラッピングペーパーで包装されていたが、厚みや形から良子はそう推測する。
「俺も中身は知らないんだ」
「そうなんだ……中身見てもいい?」
「もちろん」
葵の言葉を聞いた良子が包装を解き始めると、表紙に漢文の書かれた分厚い本が現れた。
それを見ると、良子は戸惑いながらも目を輝かせ始める。
「これって……すごく珍しい本だよ」
「そうなの?」
「図書館の人に頼んだんだけど、手に入らないって言われた本なの。
これ、本当に良が貰っていいの?」
「うん。タマ先輩も良子ちゃんなら喜んでくれるって言ってたよ。大切にしてあげてね」
「ありがとう、お兄! ……タマさんにもお礼いいたいな」
「俺の携帯貸すよ」
葵は電話をかけ、携帯を受け取った良子は隣の部屋に駆けていき、それを見て葵は微笑みながら呟く。
「……あれを見れただけで呼び出しに答えた価値もあったかな」
「葵、ありがとうございます。
お土産の代わりと言っては何ですけれど、この料理食べませんか?
すごく美味しいんですよ」
「じゃ、いただこうかな」
シャミ子の提案で、テーブルに乗るそれの中から適当にサンドイッチをつまむ葵。
そしてその瞬間、葵は今までに経験の無いような感覚に全身を包まれた。
「美味しいですよね?」
「……そうだね。ちょっと自信が揺らぎそうな位」
「葵の料理も、いつも美味しいですよ」
「ありがとう」
シャミ子の言葉に、葵はまたも笑顔をこぼした。
(この料理……全身、いや心身共に癒やすような……。
管の詰まりを解消するような……癒やし? これは……魔力?)