まちカド木属性 作:ミクマ
葵はキッチンに立っていた。
シャミ子の持ち帰ったまかない、昨日食べたそれについて考察する。
「あの料理から感じたものは間違いなく魔力……。
身体に悪いという訳ではなく、むしろ癒やしている……」
葵はその手に玉ねぎを持っている。
しかしそれは普通の玉ねぎではなく、己の力を大量に流し込み変質した玉ねぎの様な何かだ。
「おそらく理論としてはこれと同じ」
とはいえ、これをそのまま人に食べさせるのはいくら何でもマズいと、葵はそう感じている。
何が違うのか、どう魔力を練り込んでいるのか。
葵の力は主に植物や自身を活性化させるものだが、他の生物にそれをするのは難しいのだ。
しかし。
「体内に取り込む料理としてならあるいは……これは研究の価値があるな……」
■
「もう四日間調査をど忘れし続けてる……」
シャミ子を見送った桃とミカン、そしてリリスはシャミ子の挙動を怪しむ。
ミカンによれば、シャミ子は昨日店員としての働きを家でもしていたらしい。
そしてリリスはシャミ子の意識に潜れなかったと語った。
シャミ子が何かしらの術をかけられていると踏んだ三人は、喫茶店“あすら”への強行突入を計画する。
「始めよう、シャミ子の就職断固阻止作戦!」
「おー!」
「私もうちょっと前向きな作戦名がいいわ!?」
「……そんなことより、葵は何してるのかな」
「昨日からずっと家にこもってるわね……」
何にせよ、作戦には葵も同行したほうがいいだろうと、三人は喬木家に向かう。
しかしインターホンを押しても返事はない。
「あんな事があったし、やっぱり落ち込んでるのかしら……」
「……鍵は……開いてる」
喬木家からは人の気配を感じられ、そして玄関は開いていた。
落ち込んでいたとしても、話だけでも聞いてもらおうと三人は中に入る。
「葵ー?」
「う……」
「葵!?」
名前を呼ぶと、うめき声がする。
急いでその方向、キッチンに向かった三人が目にした物は──。
壁に寄りかかって座る葵と、流し台に複数並ぶ料理の乗った皿。
「……何してるの?」
「あー……その料理のせい、かな」
「……どういう事?」
「多分……優子が目的忘れてるのも同じ理由……あのまかないで」
「訳が分からないんだけど……」
料理のせいと言われても、それが葵の体調不良にどう繋がるのか分からず、桃達は困惑する。
桃は葵に作戦を説明するも、返ってくるのは不明瞭な返事。
「……ごめん、これじゃ役に立てないかな……」
「……よく分からないけど、駄目そうならよく休んで。ね?」
「ほんとにごめん……料理でヘマしたの久々だ……」
葵はそう言うと深くため息をつき、桃達は並べられた料理を見る。
しかしそこにある物は、少なくとも見た目は美味しそうに思えるものばかり。
「失敗してるようには見えないけど……」
「……とりあえず、自分で全部食べるよ」
「この量を?」
「私、食べるの手伝おうかしら?」
「余にも捧げ物を……」
「駄目だっ!」
気怠そうな葵がいきなり大声で静止し、三人は目を丸くする。
「大声出してごめん。とにかく一人で食べて、休むから。優子の事、お願い」
「……わかった」
■
桃達はシャミ子を連れ戻し、そして魔力料理の説明を聞いた。
魔力を込めて作った料理は適量なら体調を整えるが、摂取しすぎるとハイになったり寝不足になったりするらしい。
そして翌日。シャミ子は桃の、葵はミカンの看病を受けていた。
「つまり、葵が自分で魔力を流し込んだ料理を食べすぎてそうなったのね?」
「あぁ、うん。完全に自爆だよ」
とはいえ、葵は既にほとんど回復していた。
ミカンの要約を聞いた葵はそう返し、気恥ずかしそうにしている。
「もう大丈夫なのよね?」
「そうだね、次からはもっと気をつけるよ。ところで、もっと昨日の話聞いてもいいかな?」
「もう……」
葵に呆れた様子のミカンだったが、その要求に答え話を続ける。
昨日葵の家を後にした三人は、ミカンの魔法少女としての武装であるクロスボウと、リリスの乗り移ったよりしろを使い、あすらの結界を書き換えたらしい。
「よりしろ……前にそんな話聞いたな」
「結構可愛い姿してるのよ?」
よりしろとは、人の形に似せた馬糞人形をリリスが短時間だけ動かせる、という物だ。
そうしてあすらに突入した桃は、そこでバクのような姿の白澤店長、そしてキツネ耳の少女リコに遭遇した。
更に、店の奥でボーッとした様子のシャミ子を発見し、魔力料理の説明を聞きシャミ子を連れて家に戻った、という流れだった様だ。
と、そこまで説明が終わるとミカンの携帯が震える。
「……なんだかシャミ子の家にあすらの人達が来たみたいよ?
それで、桃が葵にも話を聞きたいみたい」
「……俺に?」
「体調は本当に問題ないのね?」
「……うん。行くよ」
そうして葵は自宅を出て吉田家に向かう。
話に聞いていた通り、そこにはまぞくであるリコと白澤がいた。
家に入った葵を視認した白澤は、何か気がついたように声を上げる。
「初めまして。喬木葵です」
「おや、君は……たまさくらちゃんの着ぐるみショーによく来ていた子だね」
「はい?」
その言葉に葵は困惑するも、すぐある事に気がつく。
(この体型……動き……そして怪我……! ま さ か)
「……どうかしたのかね?」
葵は汗をダラダラと流し、心配されてしまう。
そしてキッチンに向かい、水を一杯飲むと戻ってくる。
しかしその表情は胡散臭い笑顔だったのだが。
「それで、話とはなんです?」
「桜どのの話なのだが……」
「……貴方も桜さんに恩があるんですよね」
白澤は語りだす。
最後に会ったのは10年前のクリスマス。
喫茶店の開店準備中に桜がそこを訪ね、リコを押し付けてまた去っていた。
そう言う情報だった。
「10年前のクリスマス……俺が最後に姿を見たのはもう少し前でしたね」
あの頃葵の“訓練”は、少なくとも日常生活に支障はない段階まで完了していた。
故にそうなると、忙しい桜と会う頻度は減る。
「桜はん……どこにおるんやろ。
コアは動いて逃げるから探すのも難儀やなぁ」
「えっ……動く?」
リコの言葉に桃と葵は困惑し、桃がそう聞く。
リコの知るコアとは動物の形をしているらしい。
(動物……? 何かが引っかかる……)
リコの話を聞いたリリスは、探し方を変えて聞き込む事を提案した。
白澤達の情報はそこで終わりらしい。
二人が帰ろうとする中、白澤は再びシャミ子をアルバイトに勧誘し、シャミ子はそれを了承するも、白澤は桃からのプレッシャーに怯える。
「気にしないでください。私と桃は共闘してるけど、宿敵なんです。
たぶん最近私がいろんな手がかりを見つけてくるから……。
私に主導権を握られそうでイヤなんです」
そんなシャミ子の言葉を聞き、桃が赤面しながら就労を止める。
葵は二人のやり取りを聞いていたが、ふと思い立ち口を開く。
「すみません、白澤さん……俺もそこで働いてもいいでしょうか?」
「葵!? いきなり何言ってるの!?」
「ちょっと……考えがあるんだ。桃」
驚愕した様子の桃を葵は静止し、白澤との会話を続ける。
「当店は今人手不足なのだ。敬語が使えるのならば構わないが……」
「そのかわり、一つお願いがあります……リコさん」
「ウチ? ……なぁに?」
唐突に話を投げかけられたリコは一瞬困惑したようだが、すぐ笑顔になる。
葵は目を閉じあのまかないを思い出した後、目を見開いてこう言う。
「……俺に、魔力料理を教えて下さい」
「……フフ、ええよ。でも、ウチの味覚えるまではホールで堪忍な。葵はん」
「ええ、それはもちろん。では、よろしくお願いします。白澤さんも」
「意欲のある若者を歓迎させてもらうよ、葵クン」
葵は頭を下げ、それを見ていた桃はポカンとしていたが、一瞬の後葵に詰め寄る。
「ちょっと葵! どういうつもり!? 葵もあの変な料理作るの!?」
「アレを俺が作れるようになれば、優子や桃の役に立てるようになる。
店での優子の事は見ておくから、許してほしい」
「葵……分かったよ……」
真剣な表情でそう語る葵を見て、桃は折れた。
そして今度こそ白澤達は帰ろうとし、あるものをシャミ子に渡す。
「お近づきのしるしにお土産を……葵クンもどうかね」
「たまさくらちゃん……」
白澤の持っていた袋から出てきた物は、“たまさくらまんじゅう”といくつかの関連グッズだった。
「桃、大好きなんですよね? 葵も」
「っ……好き、ではないです。生活に差し障る程度に気になるだけで」
「俺だって……別にちょっと着ぐるみが恋しいだけで好きなわけでは……」
「葵は何で今更隠すんですか!?」
「なるほど大分お好きなようだな!」
頬を染め髪をいじる桃と、場の面々に背中を向けて呟く葵にシャミ子と白澤がツッコむ。
なんと、たまさくらちゃんは白澤がデザインをしたらしい。
ファンがいることに感動した白澤は、桃と葵に更なるグッツの譲渡を提案し、そして桃が折れる。
「葵クンは着ぐるみが好きなようだから、古くなって交換した着ぐるみとかどうだね!?」
「いえ、着ぐるみは中に人が入ってこその着ぐるみですから」
そんな謎のこだわりを見せる葵に、シャミ子は問う。
「桃も葵も、どうしてそんなにたまさくらちゃんが好きなんですか?
前に二人の間だけで、何だか分かり合ってる感じでしたけど」
「それは……」
シャミ子は以前の事を思い浮かべ、若干ムッとした様子だ。
そして桃と葵は顔を見合わせ、先程より更に照れた表情になる。
「たまさくらちゃんが……お姉ちゃんに似てたから」
「何でだろうね……」
桃の言葉と、それに同調する葵にシャミ子達は困惑しているようだ。
桃は白澤に、たまさくらちゃんのモデルが姉なのかと聞くも、彼は桜の変身した姿を見た事はないらしい。
白澤はたまさくらちゃんのモデルとなった、“妖精”の話を始める。
喫茶店が開店した日、白澤は夜中にショッピングセンターマルマに買い物に行った。
その道中、紅白の首輪をした白ネコに遭遇し、神秘的な雰囲気のそのネコは隣の建物の壁に消えていった。
そこまで白澤が話した所で、唐突にガタンと音がする。
場の面々がそちらを向くと、葵が床に崩れ壁に寄りかかっていた。
「……葵?」
返事はない。葵は顎に手を当てブツブツと何かを呟いている。
シャミ子達は心配しているようだが、良子とリリスが声を上げ白澤に詰め寄る。
良子の要請で、白澤はネコを見た日が10年前の12月28日だと言う。
その話とリコのコアの話を纏め、良子はそのネコこそが桜かもしれないと推理をする。
葵はその間も放置されていたが、良子の話はしっかり耳に入っていた。
(まさか……まさか。まさかまさかまさかっ……!)
葵は声を上げようとするも、パクパクと口を開閉するだけで声が出ない。
良子が取り出した地図により、ネコの消えていった建物が、幼い頃シャミ子の入院していたせいいき記念病院と判明する。
ネコを見た記憶がないか、と桃がシャミ子に詰め寄る中、葵は息を乱しふらつきながらもようやく立ち上がった。
「葵……?」
「優、子は……」
「葵君」
「……清子さん」
取り乱す葵だったが、いなり寿司を持って居間に入ってきた清子に名前を呼ばれる。
清子はいなりをテーブルに置き、葵を支え口を開く。
「どうしたんですか……?」
「優子はネコを見ているはずです」
葵は再び壁に寄り掛かり、話を清子に任せることにした。
10年前、とある日に目を覚ましたシャミ子は病室に白ネコが訪れ、そして会話をしたと言ったらしい。
そしてその時期も白澤の証言の直後であった。
桃が更に慌て、またもシャミ子に詰め寄る中、葵は弱々しく呼吸を繰り返していた。
(どうしてっ……。どうして気がつけなかったっ……!)