まちカド木属性   作:ミクマ

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赤っ恥じゃない?

八月✗日 はれ

葵とお話をして、葵のことが沢山分かりました。

葵が何度も泣いていて、それを宥めている間は少しドキドキしました。

葵の知らなかった一面が見られて、嬉しかったです。

 

 桜が丘高校の登校日。

 シャミ子が夏休み中に書いた絵日記の一ページ。

 そこにはそんな内容が書かれており、更には泣き腫らしながら笑う葵が描かれていた。

 それを教室で見せてもった杏里は少々引き気味であった。

 

「……葵に何があったの?」

 

「葵、色々お話してくれたんですよ。……ちょっと、可愛かったかもです」

 

 そんな事を言いながら照れるシャミ子に、杏里はため息をつく。

 

「まあいいけどさ……これ、提出するの?」

 

「そのつもりですけど……」

 

 杏里はそう問うも、シャミ子は何故そんな事を聞くのか分かっていないようだ。

 

「これ、葵赤っ恥じゃない? 高校別とはいえ」

 

「……あっ」

 

 ■

 

 そんな、町中での自身の立場が揺らぐ分かれ道に立たされているとは露知らず。

 葵の高校の登校日は異なる日程のため、彼はあすらでバイトをしていた。

 

「12卓。Aセとカルボナーラ、ロコモコです」

 

「はぁい」

 

 リコにオーダーを伝えた葵は、ドリンクを注ぎ届ける。

 リコの料理には謎の中毒性があり、夏休みということもあり幅広い年齢層が来店していた。

 今まで鍛えていたところとは別の物が要求され、葵はなかなかに疲労を感じている。

 そこで入り口のベルがなり、葵は新たなお客を迎える。

 

「いらっしゃいませ……」

 

「よう!」

 

「……長沼先輩」

 

 そこに居たのは、葵の学校の先輩であり、葵が昨年所属していた生徒会の元同僚であった。

 

「そこの駅でスタンプラリーがあってな、それで喬木がバイト始めたって話を思い出したからついでに顔出したんだ」

 

「スタンプラリー……あ、ご案内します」

 

 葵は駅にそんな感じのポスターが貼られていたことを思い出しつつ、長沼を席に案内する。

 

「こちら、メニューです。お決まりになりましたらお呼びください」

 

「中々様になってるじゃないか」

 

「……失礼します」

 

 長沼は“本命”の趣味以外にも、喫茶店巡りが趣味であるらしく、学校近くの喫茶店に入っている場面をよく目にしていた。

 その後も葵は他のお客に接客をし、しばらくの後に長沼から呼ばれる。

 

「日替わりのBセットをコーラで頼む」

 

「先輩、コーラなんて飲みましたっけ」

 

「最近ハマっていてな、ポンコツ妖怪少女と天才巫女の……」

 

「あぁ、いいです。承りました」

 

 この先輩はクール系の見た目とは裏腹に、かなりディープなアニメオタクであるのだ。

 葵に対しこうやって布教を始めるのは日常茶飯事。

 葵が伝票を書き、立ち去ろうとするとまた呼びとめられる。

 

「ちょっと待て、これを持っていけ」

 

「……今仕事中なんですけど」

 

「更衣室かどこかにでも置けばいいじゃないか」

 

「……分かりましたよ」

 

 長沼がグッズを押し付けるのもよくあることだ。

 葵はとっとと開放されようとそれを受け取り、そして適当な場所に置いた。

 ちなみに、貰った物を放置するのも悪いと、葵は一応それらを一通り眺めている。

 押し付けるだけあって結構面白いと思えてしまうのが、葵は地味に悔しかったりする。

 最近はリリスに捧げて(たらい回して)いることも多い。あちらからも結構好評だ。

 

 長沼は注文したそれを完食し、しばらく休んだあとに会計に入る。

 

「かなり美味かったぞ。喬木は作ってないのだろう?」

 

「そうですね。俺はまだここの味覚えてないので」

 

「ふむ……なかなかに気に入ったし、また来るぞ。じゃあな」

 

「ご来店ありがとうございました」

 

 外に出ていく長沼に頭を下げ見送った後、葵は少々考える。

 

(……先輩がリコさんとか店長見たら面倒なことになりそうだなぁ……)

 

 そんな事を考えていると、白澤に話しかけられる。

 

「今のお客様と親しいのかね?」

 

「まあそうですね……」

 

「優子くん達と違う高校と聞いて、少々心配していたのだが……その必要はなかったようだね」

 

「そうなんですか? ……まぁ問題ありませんよ。ありがとうございます」

 

 葵にとって前生徒会の面々、特に元会長は数多の無茶振りの記憶が印象深い。

 しかし葵には、あの環境はなかなかに心地よくもあった。

 

 ■

 

 この日は商店街の納涼祭があり、喫茶店は早めに閉められる。

 もう少しでその時間という所で、シャミ子が店を訪ねてきた。

 

「こんにちは〜……」

 

「優子、いらっしゃい。桃達は一緒じゃないのかな?」

 

「どこかで修行をしているらしいです」

 

「ふぅん……ちょっと心配かな……」

 

 あんな事があった故、葵は桃に対する心配を隠せない。

 シャミ子はカウンター卓に座り、そこにリコがパフェを出す。

 

「これは葵はんからのおごりや〜」

 

「ちょっと!? リコさん!?」

 

「じょーだんや、ホントはマスターから〜」

 

「リコ君!」

 

 シャミ子は夏休みの過ごし方を悩んでいるらしく、あすらの面々にそれを聞く。

 

「高一の夏休み……うーん……」

 

 葵は昨年の出来事を思い浮かべる。

 無茶振り、張り手、無茶振り、歌舞伎、張り手無茶振り張り手張り手──。

 

「葵? どうかしましたか?」

 

「いや、なんでもないよ……まあ、気ままに過ごすのが休みって感じじゃないかな」

 

「気ままに……うーん……」

 

 葵にそう言われたシャミ子はまだ悩んでいる様子で、そんな彼女に白澤が声をかける。

 

「学生の夏休みといえば……ひと夏の労働で流す美しい汗だ」

 

 その言葉の後、シャミ子と白澤は店の外で祭用の特性弁当を売り始める。

 店そのものは既に閉まっており、葵は店のキッチンで魔力料理の修行を始めていた。

 

「葵はんの力はウチと質が違うみたいやけど、基本は同じやね。入れ過ぎ厳禁や〜」

 

「はい……」

 

 普段は生命力に変換しているソレの極々一部を外に流し、調理を行う。

 しかしそれでも多かったようで、食材が光りだす。

 

「これでもか……」

 

「う〜ん、ある程度上手くは行ってるみたいやけど……集中が途切れるとアカンなぁ」

 

 今葵が作っているものはかなり簡単な料理ではある。

 管を絞り、しかし極僅かにだけ出すような集中を続けながらの調理はかなり難しい。

 

「ウチも失敗はちょくちょくするし、気長に行くとええよ〜」

 

「失敗、するんですね」

 

「せやで、でもマスターはその度に許してくれてな〜」

 

 リコは赤面しながら失敗談を話す。

 

「店長、優しいんですね」

 

「せや。ウチの自慢のカレシやで〜」

 

 その単語に葵は固まり、ソレに気がついたリコは葵を見て首を傾げる。

 

「葵はん、どうかしたん?」

 

「い、いえ……リコさんは店長が大好きなんですね」

 

 その言葉を聞いたリコが惚気ている中、葵は冷や汗を流し思考していた。

 

(……え? マジで? ……どう見ても店長にその気無さそうだけど……)

 

 そこで葵はリコを見るも、まだ惚気ている。

 

(……触れるとヤバそうな気がする、そっとしておこう。そしてごめんなさい店長!)

 

 そしてしばらく葵が汗を流しながらも調理をしていると、リコがキッチンの外を向く。 

 

「マスター達、お弁当売り終わったみたいやね。ちょっと待っててな。優子はんノリええな〜」

 

 葵はその場に残り、しばらく魔力制御を維持しているとリコに呼ばれる。

 

「葵は〜ん。これ見て〜な〜」

 

「はい……?」

 

 葵が声のしたその場所に行くと、そこには浴衣を来たシャミ子がいた。

 シャミ子は少し照れているように見える。

 

「へぇ……凄く似合ってるよ、優子」

 

「ありがとうございます……」

 

「お祭り、行くの?」

 

「はい! 先程貰ったバイト代で豪遊しちゃります!」

 

 心を弾ませている様子のシャミ子を見て、葵は微笑む。

 そしてその後、シャミ子がおずおずと葵に向け口を開く。

 

「あの……葵も一緒に行きませんか?」

 

「あ〜……」

 

 シャミ子の誘いを聞いた葵は口を濁しながらキッチンの方を見る。

 

「……作った魔力料理食べたら、すぐに行くよ。それまで待っててね」

 

「はいっ!」

 

 シャミ子は笑顔で返事をし、そして店の外に駆けていった。

 それを見て葵は再び微笑むと、顎に手を当てて考える。

 

「凄く似合ってて、可愛いけれど……なにか違和感が……」

 

 ■

 

 料理を処理し、あすらを後にした葵はシャミ子を探し始める。

 食べた量がそこそこだったので葵の腹は多少重く、商店街を彷徨っていると放送が耳に入る。

 

『続いては迷子のお知らせです。

 たま市からお越しの、シャドウミストレス優子ちゃん15歳。

 特徴は小柄で天パな巻き角の女の子、配下のお二人がお探しです。

 お心当たりの方は至急本部まで』

 

 そんな呼び出しを聞いた葵は苦笑いをした。

 

「……行くか」

 

 そうしてたどり着いた本部のテントでは、呼び出しを受けていた女の子が叫んでいた。

 

「著しく配慮に欠けた放送をしてるやつは誰だーっ!」

 

 呼び出した側と揉める姿が目に入り、葵は再び苦笑する。

 

「や、待たせたね。シャドウミストレス優子ちゃん15歳」

 

「何で放送を復唱してるんですか!?」

 

 葵のからかいに、シャミ子はプンスカ怒っている。

 そんなシャミ子の横には、浴衣を着た桃とミカンが居た。

 

「二人も来たんだね」

 

「シャミ子と……葵を探して」

 

 葵があすらを出た後、桃とミカンはタッチの差で店を訪れていたらしい。

 

「呼び出しすれば気付いてくれるかなって……」

 

「だからって何で私を迷子のお子様みたいに扱うんですか!?」

 

 変わらず憤慨するシャミ子をよそに、葵は桃達を見て再び口を開く。

 

「似合ってるよ、二人共」

 

「フフ、ありがとう」

 

「……ありがとう」

 

 葵の賛辞にミカンは素直に返し、桃は小声だった。

 そして葵がシャミ子を含め、浴衣姿を眺めていると桃が頬を染めて呟く。

 

「……あんまりジロジロ見ないで」

 

「桃、照れてるのね?」

 

「……」

 

(……やっぱり違和感が……)

 

 先程シャミ子を見て感じたソレを、葵は桃とミカンからも感じている。

 葵はなんの気なしに魔力を練り上げ、目の辺りに集中させる。

 そしてその肌色が目に入った瞬間、葵は闇の奥義も顔負けのスピードで自らの両目を突き、その勢いのまま背中から倒れた。

 周囲の人々は、目の前で行われたそんな奇行に唖然としている。

 

ぬ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ッ!

 

 葵が目を抑えながら上げた奇声で、シャミ子達は一応の正気を取り戻し、葵に駆け寄った。

 

「いきなり何をやってるんですか!?」

 

「葵が壊れた……」

 

「最近色々あったせいかしら……」

 

 三人にそう言われ、葵はそこでようやく上体を起こす。

 

「大丈夫大丈夫……」

 

 葵はそう呟いていたが、手に隠されている頬は赤くなっていた。

 平常を装って立ち上がった葵は三人を手で制する。

 

「本当に大丈夫なの……?」

 

「……それより、優子。そろそろ行こうか」

 

 葵はそう言うも、先程の奇行のせいでシャミ子の記憶は吹き飛んでしまったらしい。

 あすらで交わされた約束を葵が思い出させる。

 

「そういえばそうでしたね……」

 

「あ、酷い」

 

 わざとらしく落ち込むふりをする葵。シャミ子には構われていないが。

 二人のやり取りを見たミカンは一歩引いて口を開く。

 

「そうだったの、邪魔してごめんなさいね」

 

「帰ろうミカン。この格好恥ずかしい」

 

「えっ……待て。きさまら、夏から逃げる気か。光属性のくせに」

 

 シャミ子は桃とミカンを謎の理論で引き止め、葵はまた微笑む。

 

「まま、二人も一緒に行こうか」

 

「でも……」

 

「いいから! 一旦ある程度夏を消化してから帰れ!」

 

 赤面するシャミ子が二人の背中を押し、葵はそれに付いて行く。

 シャミ子の勧めで並ぶ屋台を次々と訪れ、葵は元々膨らんでいた腹を更に膨らませる。

 

「屋台荒らしの葵ちゃんの力を見せちゃるよ」

 

 そう言った葵は、己の力を無駄遣いして型抜きやヨーヨー釣りといった、技術系の屋台を荒らし回る。

 

「葵ってこういうの得意だったんですね」

 

「異名にも納得ね……」

 

「ごめん、さっきの嘘。適当に名乗っただけ」

 

「……何でそんなことしたんですか?」

 

 舌を出す葵は三人にジト目で見つめられる。

 

「ちょ〜っとカッコつけたかったんだよね。こういうのやったの初めて」

 

「そうなの?」

 

「去年までは優子は出られなかったし、一人でやってるのもアレだしね。

 だから今年は、皆とココ歩いていられるだけでも嬉しい」

 

「葵……」

 

 型抜きの爪楊枝を高速で乱回転させながら、葵は微笑んだ。

 次に向かったのは金魚すくいの屋台だが、葵は乗り気ではないようだ。

 

「どうしたの?」

 

「う〜ん……自信はあるけど、飼い続けられなさそうかな」

 

「なら、私と葵が掬った子一匹ずつを私が飼う。だから……勝負しよう、葵」

 

 桃に宣戦布告をされた葵は一瞬キョトンとし、そして不敵に笑った。

 

「上等っ!」

 

 ■

 

「また来ましょう!」

 

「ええ」

 

 満足そうに会話をするシャミ子とミカン。金魚の入った袋を持ち微笑む桃。

 

(来年か……また、人数が増えるといいな)

 

 三人に後ろからついていく葵はそんな事を考えていた。

 リリスちゃん約五千歳からの呼び出しがあったり、桃がそれをスルーしようとしながらも、一行は夏を満喫した。

 

 ■

 

 家に帰った葵はキッチンに立つ。

 葵は祭を楽しんだが、こちらも重要な用事だ。

 流石に腹がパンパンなので何も作ろうとはしないが。

 

「魔力を極々僅かにだけ放出し、それを維持しながら料理を作る……」

 

 葵はリコからのアドバイスを思い出していた。

 前者だけなら問題はないのだ。しかしそれをしながら調理をすると崩れる。

 とは言え、手がかりはある。葵は既に似たようなことをやっているのだ。

 

「力の変換、これはもう寝ていようが無意識に出来る。

 だから、周りに影響が出ない程度の僅かな放出も習慣づけられれば……料理の時に集中の必要はなくなる。

 俺は今まで魔力弾は苦手としてきたけど……基本に立ち返るべきかも」

 

 希望は見えている。

 なにより、己の料理が今より更にシャミ子達に喜ばれる光景を思い浮かべれば、葵にとって全く苦ではない。

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