まちカド木属性   作:ミクマ

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がんばったね

「ん〜……んんん〜……どう思いますか? このお弁当」

 

 二人で弁当の試作を行っていると、葵はシャミ子から弁当を見せられながら、そう問われる。

 

「美味しそうだよ?」

 

「でも、なんか全体的に地味な色合いです……。

 せっかく遠出するからには、もう少し華が欲しいです」

 

「うぅん……」

 

 悩むシャミ子の言葉に葵は唸る。

 葵自身、学校に持っていく弁当は朝起きて楽に作りやすい物に頼りがちな所がある。

 

「そうだ。葵、別々にお弁当作ってみませんか?」

 

「うん?」

 

「お互いにバリエーション増やすために、別に考えてみたらいいんじゃないかと」

 

「……いいよ。でも俺はずっと作ってきたから、こっちばかり喜ばれちゃうんじゃない?」

 

 シャミ子からそう提案を受けた葵はニヤリとしながらそう返す。

 

「むむむ……」

 

「冗談冗談。

 今回誘ったのは優子な訳だし、優子のお弁当をメインにしたほうが良いんじゃないかな」

 

「それもそうかもです……」

 

「桃のお願いだから、俺もちゃんと作りはするけどね」

 

 本気で悩んでいる様子のシャミ子に、葵はそんなアドバイスをした。

 

「俺、こういう機会の多人数用のお弁当って初めてなんだよね。

 だから、参考にするなら──」

 

 ■

 

「さて、どうするか……」

 

 葵はキッチン……ではなく、居間でチラシを睨んでいた。

 

「奇をてらうか、被り覚悟で作るか……」

 

 食材がない訳ではないのだ。

 シャミ子がどのような物を作ってくるのかを考え、そして今あげた選択肢のどちらにするかを葵は考えていた。

 選択によっては追加の買い出しを検討する必要が出てくる。

 

「何にせよ、気合は入れないとね」

 

 葵が学校のために作っている弁当の中身は、大抵の場合量の作れる常備菜の類である。

 もちろん、それをそのまま持っていくわけにもいかない。

 

「今まで思いつめ過ぎない様にしてたけど……やっぱ地味だよなぁ、アレ」

 

「お兄の料理、いつも美味しいから。何でも喜んでくれると思う」

 

 部屋にいる者は、ブツブツと呟いている葵だけではない。

 テーブルに置かれているノートパソコンを操作していた良子がそう言う。

 

「ありがとう……そうだ、良ちゃんは動物園いいのかな?」

 

 良子の励ましに礼を返し、そしてVIPチケットに人数の余裕があった事を思い出した葵はそう聞く。

 

「うん。明日は図書館に行くから大丈夫。

 ……それに、なんとなく人数が増えそうな気がする」

 

「……? まあ、俺は普通のチケットで入っても良いんだけど……良ちゃんがそう言うなら」

 

「その代わり、今日はお兄とお話したい。お弁当作りの邪魔はしないから」

 

 実際の所、葵は弁当の中身について本気で困っている訳でもない。

 二人で別の弁当を作ることを考えれば、今ある食材でも量的には問題ない。

 本気で作りはするし、多人数で食べる故に被ってもいいだろう。

 良子の言葉を受け、ある意味頭のスッキリした葵はそう考え、脳内で献立をほぼ完成させた。

 

「うん、いいよ。何話そうか」

 

「お兄の……昔のお話」

 

「……!」

 

 おずおずとそう提案する良子を見て、葵は面食らう。

 

「おかーさんとお姉が知ってるお兄のこと、良にも教えて欲しい」

 

「……暗い話になっちゃうよ?」

 

「お兄は良の事、ずっと守ってくれてた。

 だから、お兄の事を支えられるようになりたいの」

 

 良子にそう言われ、葵は目頭が熱くなるのを感じた。

 妹分の手前、なんとか堪えはしたが、隠せてもいないだろうとも考える。

 

「……俺、本当に……弱いんだよ。良ちゃんにだって、ずっと助けられてきた。

 ごめん、良ちゃん。これからも頼らせてもらってもいいかな」

 

「お兄の事、教えてくれたら良が助けるから。だから大丈夫」

 

 良子はその小さな両手で葵の手を包み込む。

 

(本当に……カッコ悪いな、俺……)

 

 そうして葵は良子に対し、シャミ子達に話した内容をほぼ同様に話した。

 両親の死因はぼかしたが、やはり感づかれているだろうと葵は思う。

 

「お兄の両親って、どんな人だったの?」

 

 その問いに葵は悩む。

 ごく普通の日常を謳歌していた幼き葵に、両親を深く観察するという考えなどは無かった。

 

「そうだね……母は元気で、そして自然な気遣いができる人……だったよ。

 俺が何かにつまづく度に励まして、引っ張っていってくれた」

 

 葵はそこで言葉を切り、また考え始めた。

 その間良子は、真剣な表情で葵も見つめている。

 

「父は……正直な所、仕事に出ていた時間が長くて、あまり印象がないんだ。

 それでも、母と仲が良くて、優しかったことは覚えてる」

 

 両親について、葵の言える事は推察がほとんどだ。

 話せる思い出は曖昧な事しか無い。その上。

 

「親と過ごした時間より、その後のほうがずっと長くなってるからね……。

 記憶が……どんどん薄れていってるんだ」

 

「お兄……」

 

 葵にとっての命の恩人である、姉のような存在と第二の両親。

 その者達との思い出は葵にとって勿論大切なものだが、同時に少し怖くもなる。

 

「……良達のおとーさんの事、お姉はあまり覚えてないみたいだけど……。

 それでも、居たって事はちゃんと覚えてる。お兄も、それでいいんじゃないかな」

 

「……ありがとう」

 

 あと何年経とうが、葵は良子に敵わないのだろう。

 次に聞かれた事は、葵の力について。

 

「お兄の髪の紐って、今はもう頼らなくても大丈夫なんだよね? 

 それでも着けてるのって……」

 

「桜さんがここにいたって知らしめたい……そう思ってるんだ」

 

 桜に助けられた時、葵は髪が凄まじく伸びていた。力の影響だ。

 紐を着けるだけなら、髪以外にも選択肢はある。

 未だ髪を伸ばして纏める為に使っている理由は、それを目立たせるためである。

 

 その後も二人はゆっくりと話を続け、そして良子が語気を弱めにこう言う。

 

「あのね。お兄に一つ……お願いがあるの」

 

「なにかな?」

 

「お兄に……頭、撫でてほしい」

 

 良子のその初心な願いに、葵は少し戸惑う。

 

「今まで、お兄にそうして貰ったことなかったから……」

 

 頭を撫でるという行為は、葵にとって思うところがある。

 シャミ子にも、良子にもした事はない。

 

「だめ……かな」

 

 見つめられた葵は浅く息を吐くと、怯えの混じった表情で良子の頭部におずおずと手を伸ばす。

 もう少し下げれば触れる、という高さで葵が手を止めると、良子が軽く背伸びをした。

 

「あ……」

 

 葵はぎこちなく頭を撫で始める。

 しかしそれは撫でるというより、単に頭の上を滑らせていると言った方が良いだろう。

 しばらくそれを続け、葵が手を戻すと良子が微笑む。

 

「お兄、撫でるの……下手だね」

 

「うっ……」

 

 葵が言葉に詰まっていると、撫でていた腕を良子が抱きしめた。

 

「でも、好き」

 

「良、ちゃん……」

 

「ありがとう、お兄」

 

 そう言って良子は立ち上がり、今度は逆に葵を撫で始める。

 その突然の行動に、葵は一瞬固まった後軽く震えていたが、だんだんと収まっていく。

 

「お兄。怖かった事してくれて、ありがとう。がんばったね」

 

 良子の言葉を聞いた葵は片手で顔を抑え、別の意味での震えを必死でこらえようとする。

 

「これからも、たまにして欲しいな」

 

「うん……うんっ……!」

 

 そんな会話をし、そしてしばらくの後に葵の携帯から音が鳴り出す。

 ビクリと葵が背を伸ばすと良子は離れ、葵は目をこすりながら携帯を持ち上げ画面を見た。

 

「あすら……もしもし」

 

『葵ですよね?』

 

「そうだよ。お弁当の試作、捗ってる?」

 

 リコに弁当のことを教えて貰うといいと、そんな葵の提案でシャミ子はあすらに居た。

 

『……葵? どうかしましたか?』

 

「うん? どうかしたって?」

 

 葵は平然を装ってそう言ったが、内心はかなり焦っている。

 

『……いえ。それで実は──』

 

 ■

 

 翌日。弁当箱を持ち葵は待ち合わせの場所に向かう。

 

「おはよう」

 

「おはよう、葵」

 

「葵……」

 

 葵の挨拶にミカンは元気に答え、桃は浮かれた顔をしていた。

 しかし、二人は葵を見て疑問を浮かべる。

 

「待ってたよ……あれ? シャミ子は?」

 

「それとそのお弁当箱、人数にしては少し小さくないかしら?」

 

「今日のお弁当、優子と別に作ったんだよね」

 

 二人の問いに葵は微笑み、そして昨日のシャミ子とのやり取りを解説した。

 

「という訳で、メインは優子のお弁当。俺のほうが少なくて早く出来たから先に来た」

 

「なるほど、そういう事ね」

 

「とはいえ、俺も引き立てで終わるつもりはないけどね」

 

「うん、楽しみにしてる」

 

「おはようございます!」

 

 自身を持った葵の言葉に、桃が微笑んでいるとシャミ子の挨拶が場に響く。

 シャミ子を視認し、桃はその顔を浮かれフルーツポンチと化させていたのだが。

 

「桃はんおつかれさ〜ん」

 

「……あ、お疲れ様です……え?」

 

 そこには、シャミ子によりかかるリコと重箱を背負った白澤。

 

「申し訳無い……リコくんを止めきれず申し訳ない……」

 

 どうやらこの二人も動物園に行くらしい。

 リコはウキウキであり、そのままのテンションで桃によそ行きな服装の理由を聞き始める。

 葵は昨日の内に電話で二人が来る事を聞いていたのだが、桃の様子を見て止めなかったことを早くも後悔し始めていた。

 

(やっちまったかこれ……)

 

 そもそもの原因は葵がシャミ子をあすらに行かせたことである。

 ピリピリした雰囲気は、モノレールの中でも動物園のエントランスでも止まらず、葵は冷や汗を隠せない。

 リコが来た理由を説明しようとするも、桃はその瞳をどんどん濁らせていく。

 そして、説明を白澤が代わろうとしたものの彼は腰をいわしてしまった。

 

「治りかけの腰がッ……脆弱ですまない……僕を捨てて、動物園を楽しんできたまえ……」

 

「そうですね。このままリコさんに連れ帰っていただいて……」

 

「そんなことできません!」

 

「私、荷物持つわ!」

 

「俺の力、ある程度の回復も出来ますよ!」

 

「えっ、続行するの?」

 

 白澤の提案を拒否し、シャミ子とミカン、そして葵がそう言ったことに桃は困惑している。

 

「葵クン……すまない……落ち着いてきたよ……」

 

「あまり過剰に使うのも良くないので、この辺にしときますね」

 

「すまない……」

 

 葵はそう言って力の行使を止め、白澤をシャミ子とリコに任せると、前を歩く桃とミカンに近づく。

 

「桃」

 

「葵……」

 

「ごめん。元はと言えば、俺が優子をあすらに行かせたからこうなったんだよ」

 

「……葵もお弁当の為にそう言ったんでしょ。だから大丈夫……」

 

「やっぱ二人で作るべきだったかな……」

 

 ■

 

 一行が園内をめぐる中、葵は適宜写真をとったり餌をあげたりしていると、とあるオリの前ににたどり着く。

 

「これは……」

 

 その動物を見た葵は固まり、そしてしばらくの後に携帯のカメラを連射し始める。

 

「葵、この動物……えっと、ユキヒョウ。好きなの?」

 

 ミカンにそう問われ、携帯を下ろした葵は顎に手を当て考える素振りをする。

 

「うーん……いるとは聞いていて……それで今日初めてみたんだけど……」

 

「けど?」

 

「何だか凄い惹かれる。もふもふ度とか、尻尾の長さとか……」

 

「桃は小さなネコ科が好きみたいだけど、葵は大きいのが好きなのかしら」

 

「うぅん……」

 

 小さな声で呟く葵を見たミカンは、口に手を当てくすっと笑ってからかう様にそう言った。

 ネコといえば、葵にとってはたまさくらちゃんがまっさきに浮かぶ。

 

(大型のネコ……着ぐるみと通づる……?)

 

 葵がそんな訳の分からない理論を考えていると、ミカンはいつの間にか次の動物の前に居た。

 顔をあげた葵がそれに気がついた所で、また別に話しかける者が。

 

「葵クン」

 

「あ、店長」

 

「少々確かめたいことがあるのだが……」

 

 葵に話しかけた白澤は、正にこっそりと言った雰囲気だ。

 

「君は、自分の経絡に無理やり干渉するような術を使うそうだね」

 

「……はい」

 

「桜どのの助けで一度は狭めたようだが、また開いて縮めるような行為を繰り返していては……」

 

 まぞく特有の第六感と年の功により、白澤は葵の力の危うさを深く察しているらしい。

 

「それでも、俺が……並び立つにはこれを使いこなすしか無いんです」

 

「……今の桃殿は特に不安定だ。

 そんな時に葵クンに何かあれば……それに、桃殿だけではない。

 葵クンを大切に思っている者は沢山いるだろう」

 

「……」

 

「桜どのも君が今元気なことは喜ぶだろうが、無茶をすることは望んでいないはずだ」

 

 そう言い残すと白澤は先に進んでいき、葵は佇む。

 

「……手段を増やさないと……」

 

 ■

 

 いつの間にか桃とリコがはぐれており、一行がその二人を探していると、地面に座るリコと目を雲らせる桃を見つける。

 リコがちょっかいを出したことを知り、白澤はアスファルトにめり込む勢いで土下座を行う。

 リコと白澤は桃の不安定な魔力を心配し、それを正すために薬を飲んでほしいようだ。

 

「と、とりあえずみんなでお弁当を食べて仲直りしましょ!」

 

「沢山作ってきたので……」

 

「俺のもね、ちょっと少なめだけど自信はあるから」

 

 ミカンとシャミ子、そして葵が空気を変えようとそう提案し、一行は弁当を食べ始めるも、桃の顔は晴れない。

 

「……葵、お弁当美味しいよ」

 

「ありがとう……」

 

(やっぱ失敗したかなぁ……)

 

 そしてその途中、シャミ子がVIPチケットの特典である“トラの赤ちゃんとのふれあい”を思い出す。

 誰も彼も忘れていたらしく、一行は急いでふれあいコーナーに向かうも、時間が過ぎて閉まっていたのだった。

 

「あー……桃。代わりと言ってはなんだけど……」

 

 落胆する桃に、葵はこっそり買い漁っていたユキヒョウグッズの入った袋の中から、ぬいぐるみを取り出して差し出す。

 

「こっちも結構モフモフだよ。本物のトラには敵わないだろうけど」

 

「うん……」

 

 葵から桃はそれを受け取り、そして腕に抱いた。

 

「二つ買ったから、よかったらあげるよ」

 

「ありがとう……」

 

 桃はそう礼を言ったものの、やはりまだ落ち込んでいる様子であった。

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