まちカド木属性   作:ミクマ

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落ち込んでませんか?

「桜さんの隠し泉?」

 

 喬木家を訪ねてきたシャミ子と桃が発した単語を、葵は繰り返す。

 奥々多魔の山地には桜の所有する私有地があり、そこに魔法少女のエーテル体を回復させる隠し泉が存在する。

 何故かばんだ荘の天井裏に居たらしいしおんが、それを桜のメモ帳から解読したようだ。

 闇落ちで消耗した桃を回復させる為、二人は葵も誘ってそこに行こうとしていた。

 ちなみに、ミカンは転校のための手続きで不参加らしい。

 

「なるほど……」

 

「葵は今日空いてますか?」

 

「大丈夫。山ならちょっと準備が必要だね」

 

 そう言って葵は家の中に戻ろうとするが、桃に呼び止められる。

 

「葵、空いたペットボトルとかある?」

 

「あるけど……何の為に?」

 

 桃はしおんから霊水の採取を頼まれたらしい。

 

「あと、それとは断定できないんだけど……。

 ちょっと前に、“姉が持ってる山の水”の情報を聞かれたんだ。

 その時は何の事か分からなかったけど、多分これのことだと思う。

 だから多めに採ったほうがいいと思って」

 

「ああ……」

 

 その“ちょっと前”について葵は心当たりがあり、そしてもう一つ思い当たることもあった。

 

「……なら、土も採った方がいいかもね」

 

「土?」

 

「そういう場所なら、土にも何か力がありそう。

 水だけじゃなくて、土で喜ぶ人に心当たりがある。その分の容器は俺が持っていくよ」

 

 そう言って葵は家の中に戻り、準備を始める。

 

(桜さんの山……もしかして?)

 

 ■

 

 その山には電車で向かうようで、桃のスマホのナビでたどり着いたのはオンボロな駅。

 錆びついたその看板には“おくおくたま”と書かれており、シャミ子がそれを見て声をあげる中、葵は周りを見渡していた。

 

「……ここ、来たことあります!」

 

「そうなの?」

 

「なんか……乗り越して……葵? どうかしましたか?」

 

「……いや、先に進もうか」

 

 駅を出た三人が道を進んで行くと、看板と低い柵が目に入る。

 その看板には訳の分からない文章で警告が書かれており、それを見た葵は苦笑する。

 

「桜さんらしいなぁ……」

 

「盗難防止の罠って……」

 

「魔力トラップや使い魔だろうね。

 多分姉の性格上、死なない程度に面白くボコられると思う。

 私、今弱ってるから二人が戦って」

 

「私、今から死なない程度に面白くボコられるんですか!?」

 

「りょーかーい。桜さんへの力試しだね」

 

 葵はそこで言葉を切り、そして再び周囲を見渡す。

 

「……やっぱり、桜さんの山ってここだったんだね」

 

「葵、来たことあるの?」

 

「俺の力を制御する訓練の時にね。

 万が一暴走しても影響の少ない場所だって、桜さんに連れてこられたんだ」

 

「そうなんだ……」

 

「たしか……」

 

 葵は二人の元を離れ、若干距離のある樹木に手をつく。

 

「これ、俺がうっかり伸ばしちゃった樹のはず」

 

「うっかりって……大丈夫だったんですか?」

 

「桜さんが鎮めてくれたからね。本当に丁寧に接してくれたよ」

 

 そう思い出を語る葵は笑顔であり、二人もそれにつられて笑う。

 

「なら……葵。泉がどこにあるか知ってたりするの?」

 

「俺が来たのは入り口のこの辺りだけだったよ。

 川を見た覚えはあるけれど……泉は心当たり無いかな。ごめんね」

 

「最初からそのつもりで来たし、大丈夫」

 

「葵、落ち込んでませんか?」

 

「いや、流石にこれじゃ落ち込んだりしないよ……」

 

 シャミ子に心配された葵は、頬を掻きながらそう言ったのだが。

 

「……本当に、大丈夫?」

 

「実は涙を堪えてたりしませんか? 泣いてもいいんですよ?」

 

「二人とも俺の事なんだと思ってるのかなぁ!?」

 

「だって……」

 

「ねぇ?」

 

 赤面しながら叫んだ葵は未だ心配されており、その二人の様子を見た葵は更に顔を染め、そしていきなり奥の方に振り向く。

 

「くぅっ……! ……先進むよ!」

 

「あっ! 待ってください葵!」

 

「葵、怒ってる?」

 

「怒ってないぃぃっ!?

 

 わざとらしくズシンズシンと歩いていた葵の姿が、その悲鳴と共にいきなり消える。

 否。消えたのではなく、落とし穴にかかったのだ。

 落とし穴の底にはスポンジが敷き詰められており、謎の非常用電話と梯子まで備え付けられた、安全性に著しく配慮されたものだった。

 そんな柔らかいスポンジの上に寝そべる葵は、虚無の表情と化していた。

 

「……」

 

「……葵?」

 

「……俺が桜さんに腹立てるの初めてかもしれない」

 

 深いため息をつき、梯子を登った葵はひっそりと自らに強化をかけると、胡散臭い笑顔を見せる。

 

「……二人共、先行こうか」

 

「何で私達の後ろに立つんですか!?」

 

 葵とシャミ子のやり取りを見た桃はクスリと笑い、そしてシャミ子の肩を掴むと、前に押し始める。

 

「大丈夫。この調子だと怪我はしないだろうから、シャミ子前に出て」

 

「安心できません!」

 

「これも修行。新しいけいけんにゃっ!?

 

 そうシャミ子を屁理屈で説得しようとしていた桃は、地面から出てきたネットに包まれ、樹に吊り下げられた。

 

「……『んにゃ』って言うのがかわいかったです」

 

「わかるわかる」

 

「ですよね!」

 

「イエーイ!」

 

 ウインクしながらハイタッチをするシャミ子と葵。

 そんな二人を見た桃さんは赤面し、くだものネットに入れられながら呟く。

 

「……さっきの怒ってる葵だって、ちょっとかわいかったよ」

 

「ゲフッ!?」

 

「確かに……分かります!」

 

 桃からの反撃を食らい、葵が思わず吹き出していると、近くの茂みから音がする。

 

「シンニュ……シンニュ……侵入……シャ……シシシシ侵入……オヒキトリ……オヒキトリ……オヒオヒオヒオヒオヒオヒ」

 

 そこにいたのは、黒いのっぺりとした胴体に平べったい手足、そして胸(?)に勾玉を着けた謎の生命体だった。

 

「あ、ちゃんとしたの出てきた」

 

「なんですかアレ、羊羹の怨念?」

 

「俺的には酢昆布に見えなくも……」

 

「自動で動く使い魔。戦えシャドウミストレスさん!」

 

「ははぁ、これが使い魔……」

 

 感心している葵をスルーし、使い魔はシャミ子に向けて一直線に進む。

 

「何で私なんですか!? 葵は!?」

 

 三人は気がついていないのだが、使い魔は葵が自らにかけている強化を警戒し、弱そうな方から先に襲いかかっているのだ。

 

「葵ぃっ! 助けてください……?」

 

 シャミ子は先程まで葵が居た場所を見るも、そこには居ない。

 その上を見上げたシャミ子が見たもの、それは四肢の先を蔦に引っ張られ、逆さまの“大”の字の状態になっている葵だった。

 

「……俺の大開脚とかどこに需要が……」

 

「需要……?」

 

「……何でもない。それよりその羊羹くん、かなり弱いみたいだから。頑張ってね優子」

 

「無理ですよぉ!」

 

 とある先輩のせいで、“そっち方面”の知識を無駄に貯めてしまった葵の愚痴。

 それの意味を、シャミ子はよく分からなかったようだ。

 実の所、葵は現状から今すぐにでも抜け出せるのだが、桃からの目配せによって待機している。

 

「あー頭に血が上っちゃうー。はやく優子に助けてもらわないとまず〜い」

 

 シャミ子が危機管理フォームで使い魔から逃げている中、葵はそんな大根演技で急かしていた。

 逃げ惑う内、シャミ子はネットから抜け出した桃と同じ木に登り、そして右手に持つ杖を変化させる。

 

「ナントカの杖……ミカンさんの武器コピーモード!」

 

「え」

 

「なぁっ!? ……ぐぇっ!」

 

 シャミ子がクロスボウもどきから魔力弾を連射して使い魔を倒すと、それを見た葵が驚愕してうっかり蔦を引きちぎってしまった。

 そして葵は頭から地面に落ちて、潰れたカエルのような声を出す。

 変化した杖を観察し、桃は困惑しつつも感心した様子だ。

 

「若干パチモンっぽいけど、性能は大まかにコピーできてる……構造はへんてこだ」

 

「凄いよ、優子。俺、あんなに魔力弾連射とか出来ないよ」

 

「ありがとうございます! おとーさんの杖、便利です!」

 

「そうだね、便利だね」

 

 シャミ子が初勝利に喜び、使い魔に着けられた石を回収すると、そして次に。

 

「あ、あと。勝った場所の土も持って帰ろう。葵、容器貸してください」

 

「……その前に、起こしてほしいかな……」

 

 葵は落下した時の衝撃で、未だ地に伏せていたのだった。

 

 ■

 

 苦節あり、ナビに標された隠し泉の場所にたどり着いた三人。

 

「着きました〜!」

 

「これが……千代田桜の隠し泉……」

 

「泉……泉?」

 

 三人の目の前には、豪快な音を立てる滝。

 

「思ったより滝です」

 

「うん、滝だね」

 

 なかなかの絶景ではあるが、それに三人は困惑を隠せなかった。

 そして葵は二人から離れ、声をかける。

 

「じゃ、俺。この辺り散策してくるから」

 

「へ? どうしてですか?」

 

「なにか目的でもあるの?」

 

 シャミ子と桃は、葵が離れようとする理由に気がついていないらしく、葵は愛想笑いをしながらこう返す。

 

「桜さんの山だし、他に何かあったりするかもしれないからね。

 ……じゃ、ゆっくり()()()()てね」

 

「……あっ」

 

「葵……」

 

 葵が背を向け、手を振りながらそう言い残し去っていくと、そこでようやく二人は気がついたようだった。

 

「さて……」

 

 泉からある程度離れた葵は、そこで一息つく。

 ここに来る電車の中、乗っている途中から気になっていた違和感。

 それは山に入るとグンと強まっていた。

 

「これは……霊脈……?いや、でも……」

 

 この山に満ちる、極めて強い力。

 あのような泉があるのなら、それ自体は不自然ではない。

 しかしその力は霊脈に似ているが、少し性質が異なる様に葵は感じていた。

 

「少し……闇っぽい感じも……だけど、魔法少女が回復するのなら……」

 

 己の身に取り込んだ経験のある、シャミ子と桃の魔力。

 葵はそれらと比較しそう呟くも、確証は得られない。

 

「……潜り、込めるか……?」

 

 魔力を譲渡する要領で、葵は山に満ちる力に切り込もうとする。

 普通ならば、自らの力で相手を染める恐れがあるが、これほどに濃い力ならその心配はない……と、葵はそう考えた。

 

「……よし」

 

 葵は地に手をつくと、浅い部分に力を流し込み始める。

 

「……なんて力だ……」

 

 霊脈を元とする葵のこの力は莫大な“圧”があり、普通は流し込む相手からの圧を押し切らないよう、繊細な調整を必要とする。

 しかし、これは下手をすれば葵の方が押されてしまうかもしれない。

 汗を流しつつ、葵はより深い領域に入り込もうとし、そして──。

 

「騒々しいぞ……我の眠りを妨げるものは誰だ……。

 ……む、汝は……あの小娘の……。

 妙な力を刺し込みおって……暫し眠っているが良い……小僧」

 

 ■

 

「……あ……?」

 

 地面に倒れていた葵は目を覚まし、体を起こす。

 

「俺は……力を流し込んで……それで……?」

 

 葵は自らの行為を回想するも、途中からモヤがかかったようになり、それを思い出すことが出来ない。

 

「この山……何なんだ……? ……あ、そうだ。優子と桃……」

 

 山の事を訝しんでいた葵だったが、そこで二人の事を思い出す。

 荷物から携帯を取り出して葵は時間を確認するも、さほどは経過していなかった。

 圏外となっているのでいまいち確証は持てないが、流石に時計が大きくずれていくことはないだろう、と葵は判断する。

 

「……戻るか」

 

 葵が泉に戻ると、桃の服装が変わっていた。杖による着替えらしい。

 

「調子はどうかな、桃」

 

「うん。心なしか、元気……かも。……ありがとう、葵。」

 

 そう呟く桃は若干だが頬を染めていた。

 

「桃が滝にうたれる姿、超面白かったんですよ!」

 

「シャミ子っ!」

 

 二人のじゃれつきを見て葵が微笑ましい気持ちになっていると、桃が葵に向き直して問う。

 

「葵、何か見つかったりした?」

 

「……いや、残念ながら特に何も。何かあると思ったんだけどね」

 

「葵、落ち込んでませんか?」

 

「だから俺の事なんだと思ってるの!?」

 

 本気で心配している様子のシャミ子に葵は冗談半分で叫び、そしてすぐに笑顔になる。

 

「……フフ。水も土も採ったし、そろそろ帰ろうか」

 

「うん」

 

「そうですね」

 

 そうして三人は下山し、そして看板の辺りに差し掛かると。

 

「……汝の力。覚えたぞ……」

 

「……ん?」

 

「葵? どうかした?」

 

「……いや、何でも無いよ」

 

 ■

 

「いっぱい霊水くんできてくれてありがとぉ〜」

 

 桃の部屋に入った三人は、しおんが台所にラボを作っているのを目撃した。

 

「せんぱいもありがとねぇ〜こんなにいっぱい……」

 

「いや、こっちは友達にあげるやつだから……」

 

「つまり私でしょぉ?」

 

「……」

 

 いつのまにか、葵はしおんの“友達”になっていたらしい。

 謎理論に葵が絶句していると、彼が大量に背負う別の容器の中身にしおんが気付く。

 

「そっちは……土かなぁ?」

 

「……ダメだよ。そもそも依頼してないでしょ、小倉さん」

 

「え〜……」

 

 しおんに詰め寄られた葵は壁に追い込まれ、その土を守るべく鉄壁のディフェンスを行う。

 それをしおんは破ろうとしていたが、体力の無さから諦めたらしく、今度はシャミ子の方を向く。

 

「はぁ……はぁ……せんぱいのけちんぼ……ん……それは?」

 

「これは山で拾った戦利品です」

 

 シャミ子が首にかけている石。

 それを見たしおんは疲れが吹っ飛んだように興奮し、シャミ子から石をぶんどった。

 葵はそれを止めようとしたが、背負う物と壁に寄りかかる体勢のせいで間に合わず、石はあっという間にすり潰されてしまった。

 

「……きれいな思い出は心にいつまでも残るから。

 あとあの人には今日中に退去してもらう」

 

「きれいな言葉じゃごまかされないぞ!」

 

 涙目のシャミ子の肩に手を乗せ、桃はそう励ますも逆効果であった。

 それを眺めていた葵は、ポケットに何かが入っている事に気がつく。

 

「……? これは……石?」

 

 葵の手に乗っている物は、真っ白な石。

 葵の目測では断定できないが、限りなく真球に近く見える。

 しおんは未だすり鉢に張り付き、それに気がついていないようだ。

 

「葵……? それなんですか? キレイですね」

 

「山で拾った石、かな。

 ……代わりと言っては何だけど、よかったらあげようか? 初勝利記念に」

 

「……じゃあ、ありがたくいただきます」

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