まちカド木属性   作:ミクマ

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凄く気に入ったから

「こんにちはぁ」

 

 とある日、喬木家を訪ねたのは小倉しおん。

 唐突に訪れた彼女を葵は訝しげな目で見たが、とりあえず招くことにした。

 居間のテーブルの前に座らせ、葵としおんは向かい合う。

 

「それで、何の用かな」

 

「それはねぇ」

 

 微笑みを崩さないしおんは、荷物からノートを取り出す。

 葵はそれに見覚えがあった。

 シャミ子が記憶の中で迷子になり、それを桃が助け出した後、桃がしおんに渡していたものだ。

 

「桜さんのノート、だっけ」

 

「千代田さんからお願いされた解読、一部だけどできたの」

 

「へぇ……でも、何で桃じゃなくて俺に?」

 

「それはもちろん、せんぱいに関係することだからぁ……」

 

 そこまで言ったしおんは、今度は荷物の中から何枚かの紙を取り出し葵に差し出す。

 

「読んでみて」

 

 その紙束はどうやら、解読の出来たノートの内容を要約したものらしい。

 しかし、一枚目の内容はミカンの呪いに関するものであり、その力がどのようなものに影響を与え易いか、という物だった。

 これが自身に関係あるのかと葵は眉をしかめる。

 

「……?」

 

「続きも読んでねぇ」

 

 二枚目。呪いを沈静化するために、桜が考えた案がいくつか載っていた。

 その中には、最終的に実践した呪いの方向性を変える結界のプロトタイプと思われる物も。

 そして別案の一つには、『呪いの影響を受けやすいが、効果が大きくなり過ぎない物に誘導する』という物が有った。

 それを見た葵は感づく。

 

「まさか……」

 

「桜さん、理論だけは考えてたみたいだねぇ」

 

 三枚目。

 葵の力を制御する過程で、その影響を受けた樹木の一部を桜は採取し研究していた。

 そして偶然、それがミカンの呪いと呼応していることに桜は気がつく。

 後の内容は、それを利用する呪いの誘導方法だ。

 しかし、10年前にそれを実行するには足りないものが有った。

 

「俺の力を強く受け続けた植物……いや、それだけじゃないな。

 少なくとも、あの時の俺には“コレ”をする技術はない。

 それに、そもそもあの人は俺を騒動に巻き込もうとはしない。

 だからこれは、単純に思いついた事を纏めただけなんだろう」

 

「桜さんを信頼してるんだねぇ」

 

 確信した様子で語る葵を見てしおんは微笑み、そしてもう一つ紙を差し出す。

 そこに書かれている内容は、喬木家の中のとある場所を示していると思われるもの。

 

「これは……?」

 

「私には分からない。

 だけど、それが書かれていた所の近くにこう書いてあったの。

『葵くんが自分から戦うことを決めて、そして十分強くなったら見せる』って」

 

「……」

 

「見てきたらどうかな」

 

「……少し、待っててくれるかな」

 

 ■

 

「どうだったぁ?」

 

「……その紙束の内容、成功の確信はあるのかな」

 

 しばらくの後、居間に戻った所でのしおんの聞い。

 葵はそれに更なる質問で返すと、しおんはクスクスと笑う。

 

「理論は完璧なはずだよ。本当に材料がなかっただけみたい」

 

 その“材料”という単語に葵は思う所がない訳でもないが、しおんはそれを気にする様子もなく、窓越しに庭を見る。

 そこには家庭菜園の他に、サクラの樹が有った。

 それこそが、葵が9年育ててきた“力を受け続けてきた植物”、いわば霊木だ。

 桜の失踪後、葵が苗木の状態で植えたそれ。

 葵が何かに使えないかと考え、自らの力を注ぎながら育てた事で、その樹は変質していたのだった。

 

「アレを使えば、陽夏木さんの呪いを……せんぱいが居なくても誘導できるはず」

 

 ニヤリと笑い、挑戦的な口調でしおんはそう言った。

 

「……やってみようか。指導お願いね」

 

 葵は庭の樹からいくつかの枝を採取してテーブルに置くと、胸に手を当て深呼吸をする。

 桃が初めて闇落ちした時にも使った“技”を、葵は使う。

 それは魔力や身体能力以外にも、“集中力”や“精密操作”といった物にも影響が出るのだ。

 

「せんぱいの奥の手……だね」

 

「これは桜さんのノートに書いてあったのかな」

 

「今解読できてる範囲には無かったかなぁ……」

 

「……ふぅん。……始めようか」

 

 葵が作るものは、木製の護符のようなものだ。

 溝を彫り込み魔法陣とすることで、葵の魔力の蒸散を防ぐ効果に加え、呪いの力を抑え込む事が出来るらしい。

 とは言っても、何度か呪いを受けるとそれの効果は無くなってしまう様で、定期的な交換が必要だと、そう紙束には書いてあった。

 そして、葵が昼前に始めたそれは、茜色の光が差す頃に完成を迎えた。

 

「お疲れ様ぁ……」

 

「……ふぅ」

 

 息を吐くと共に力を解除すると、葵は作業を思い出して呟く。

 

「……これなら、普通の状態でも加工できそうかな」

 

「この書類、せんぱいに渡しておくから……また作ってみてねぇ。

 ……ところで、さっきの奥の手って技名あったりするのかなぁ……?」

 

「……教えない」

 

「つまりあるんだぁ……まぁ、今日の所はこれでお暇するから。陽夏木さんによろしくねぇ」

 

 葵は玄関に向かうしおんを見送り、そして先程作った物を眺める。

 

「……この見た目はちょっとなぁ……」

 

 加工したそれは、沢山の溝で奇妙な外見になっており、年頃の少女が持ち歩くには相応しくないだろう。

 

「……そうだ」

 

 葵は魔力を込めていない普通の枝の加工を始め、そして──。

 

 ■

 

「葵? どうしたのかしら」

 

 ミカンの部屋を訪れた葵は、今日にあったしおんとのあれこれを話す。

 

「という訳で完成したのがこれ」

 

 葵が差し出したそれは、蜜柑を模した形のストラップだった。

 

「中に件の護符が入っててね。

 それが呪いを受けて大きくなって、外装が割れたら交換って感じ」

 

「ありがとう……加工細かいし、大変だったんじゃないかしら?」

 

 説明を受けたミカンは少し驚いた後納得し、そして今度は葵を心配している様子だ。

 

「問題ないよ、それに俺自身の修行にもなるしね。

 ……でも、正直それのデザイン自信無いんだ。気に入らなかったら……」

 

「そんな事ないわ。凄く気に入ったから、大切にするわね」

 

「いや、呪いを受けたら交換するんだけど……」

 

「だから、出来るだけ壊さないようにするってことよ」

 

 微笑みながらのミカンの言葉に葵は面食らい、そしてつられて笑った。

 

「フフ、それじゃあね。壊れたらすぐに言ってね」

 

「分かったわ」

 

 家に戻った葵は地下室に入ると、本棚から便箋を取り出す。

 これこそが桜が隠していたものであり、別の場所から見つけたそれを、葵は一時的にそこに置いていた。

 

 これを読んでいるという事は、私は何らかの理由で葵くんと会えなくなったんだろうね。

 そして、葵くんは戦うことを決めた。

 あまり危ない事はしてほしくはないけれど、葵くん自身が決めたのなら私はそれを尊重する。

 強くなった筈だって、そう葵くんの事を信じる。

 あのノートの事を知ったのは、グッシーあたりに教えられたのかな?

 確証は持てないけれど、その内容が分かるなら、葵くんにしか出来ないことがあるって分かるはず。

 あなたが助けられる人は沢山いる。

 あと、それとは別に一つ葵くんにお願いがあるの。

 葵くんが私の家に泊まった時に会った子。

 桃ちゃんはこの町に戻ってこないとは思うけれど、もしももう一度会ったのなら仲良くしてあげてほしい。

 

 優子ちゃんと助け合って、元気に生きてね 桜

 

 葵はもう一度その内容を読み込んで深呼吸をすると、あることに気がつく。

 

「……本、増えてない?」

 

 喬木家の本棚にある本は主に葵自身の物と、良子の為の物である。

 その比率としては後者が多かったのだが、その他に見覚えのない本が並んでいた。

 

「世界の黒魔術、生贄の解剖術、幻獣図鑑、呪いのアーティファクト……」

 

 それ以外にも初めて見る本が沢山有ったが、誰のものかはすぐに想像がつき、葵は背筋を震わせる。

 

「──ッ!?」

 

 唐突にスマホが震え、葵は思わず声を出してしまった。

 画面には新着メールの通知が入っており、その内容は──。

 

『わたしの連絡先登録しておいたから。確認しておいてね、せんぱい』

 

 それを見た葵は焦りながら携帯をいじり、そして確かにメール以外にもしおんの連絡先が登録されていた。

 

「こわっ……」

 

 ──ここまでが、納涼祭の少し後のことであった。

 

 ■

 

「そんな事があったんだ」

 

「なんだか言う機会なかったんだけど……」

 

 とある朝。葵は桃の部屋で朝食を作り、そして二人で食べていた。

 その途中、ミカンが最近身につけているストラップの話になり、葵はそれを説明した。

 

「この前私がうっかり闇落ちした時、呪いが出ないのが変だと思ってたけど……それなら納得」

 

 そこで桃は箸を置き、葵の左手を取り笑いかける。

 

「葵にしか出来ない事、見つかってよかった」

 

「桃……だけど、根本的な解決でもないんだけどね」

 

 もし何らかの要因で護符を作れなくなれば、それによる対策は出来なくなる。

 他にも、もしも護符の許容量を超える大規模な呪いが発動すれば、当然周囲に影響が出るだろう。

 

「それでも、葵がミカンを助けたんだよ」

 

「ありがとう……」

 

「大規模な呪いって言っても、葵の力なら相当に許容量は大きいはず。

 それを超える呪いなんて、姉の結界が効力を失うか、ミカンが気絶するかでもしない限り大丈夫。

 ミカンも強いんだから」

 

「そう……だね。

 ……あ、そうだ。“グッシー”って人、桃知らない?」

 

「グッシー?」

 

 あの手紙に書かれていた内容の内、おそらくは特定の人物を差していると思われる単語ながら、葵には心当たりのないもの。

 それについて葵は桃に問いを出す。

 

「……ごめん。心当たりはない。誰なの?」

 

「えっと……桜さんがそんな人の事を呼んでた……ような気がするんだ」

 

「姉が?……やっぱり、分からない」

 

 アレの存在は桃相手でも秘密にしておきたいと、そんな感情を持ち、重ねて罪悪感を得ながら葵は語る。

 しかしやはり桃にも記憶にはないらしい。

 

 そうして朝食を終え、葵が食器を洗っている中、携帯を見ていた桃がふと声を上げる。

 

「あ、ゴキブリ」

 

「っ!?」

 

 葵はその単語を耳にした瞬間、桃ですら目で追えないような速度で水を止め、懐から爪楊枝を取り出して投げた。

 

「……何これ……葵、何したの?」

 

 先程までゴキブリのいた場所には、木で出来た球体が落ちていた。

 葵はそれを持ち上げ、ベランダに向かう。

 その球体を葵が柵の外に投げると、次の瞬間球体が崩れ、中からゴキブリが出てきて飛び去っていった。

 

「……葵、ゴキブリ嫌いなの?」

 

「あんなの好きな人間いるわけ無いよ!」

 

「まあ私も最近苦手だけど……それで、今の何?」

 

「爪楊枝を球体に成長させた……」

 

 葵はそこで言葉に詰まり、思考する。

 

「ゴキボ……いや、モンスタ……違うな。うん、ウッドカプセル、かな」

 

「何を悩んでたの?」

 

 心底悩んでいた様子の葵だったが、その理由が桃には分からなかったらしい。

 そして、葵は自らの手のひらを見つめ、ウゲぇといった表情になる。

 

「ああばっちい……」

 

「別に直接触った訳じゃなくない?」

 

「そういう問題じゃない……」

 

 葵は肩を落とし、洗面所のハンドソープで手を洗ってから居間に戻り、皿洗いを再開した。

 それを終わらせると今度は、消毒用アルコールをゴキブリのいた場所に噴射する。

 

「そこまで……?」

 

「そこまで!」

 

 作業を完了した葵はとてもスッキリした顔になっていた。

 

「じゃ、そろそろ戻るね」

 

「今日の朝ごはんもおいしかったよ」

 

「ありがとう」

 

 桃に挨拶をし、玄関で靴を履く途中葵はふと思考する。

 

(桃のあの服……あんなのどこで買ってくるんだ……?)

 

 そんな風にどうでもいい事を考えつつ、部屋を出た葵は奇妙な光景を目にする。

 

「……何してるの?」

 

「あ、葵!」

 

 そこにいたのは、シャミ子と共に自室の玄関ドアを開け、中を覗き込んでいるミカンだった。

 

「葵、またストラップ壊しちゃったわ」

 

 ミカンはそう言って、外装の割れたストラップを葵に差し出す。

 

「まあ元々そういう役割だし、気にしないで欲しいけど……何があったの?」

 

 葵の問いにミカンは沈黙し、そして意を決したように話し出す。

 

「出たのよ……Gちゃんが」

 

「Gちゃん?」

 

「ゴキ……」

 

「シャミ子! 言わないで!」

 

「ああ……」

 

 先程遭遇したばかりのそれを再び耳にし、葵はげんなりする。

 

「それで……Gちゃん、今も隠れてるみたいなの。

 ゴミの隙間に逃げ込んでいったから……って言うか、玄関ドアの修理もまだなのよね」

 

 桃の闇落ちの一件で、大きく破損した玄関ドアからミカンは中を覗き込み、そう言う。

 

「……この前はすみません。朝からドアを壊して無茶なこと頼んで……。

 葵、ドア作れたりしませんか?」

 

「うーん……ドア自体は作れるだろうけど……。

 優子の家の結界に万が一にでも影響が出るかもって、そう考えると……。

 ……ていうか一応借家だし」

 

「別にいいのよ」

 

 申し訳なさそうなシャミ子に葵がそう言うと、ミカンがその言葉を止めシャミ子の肩に手を乗せる。

 

「緊急事態だったでしょ? すみませんじゃなくてありがとうって言ってくれればいい。

 そのかわり、私が困ってる時は助けて頂戴」

 

「カッコいい事言うなぁ……惚れちゃいそうだよ」

 

「からかわないでちょうだい!」

 

 葵がニヤニヤしながら言った言葉に、ミカンが赤面しながらそう返す。

 それを見ていたシャミ子が、先程から持っている箱入りのティッシュを持ち上げ、決意の眼差しになった。

 

「わかりました! まずは手始めにGちゃんを」

 

「つまむ以外でっ!」

 

「……何年経っても、優子のこれだけは理解できない……。

 清子さんも当然のようにやるし……」

 

 柵に寄り掛かりながら弱々しくそう言う葵を見て、ミカンは同情した様子だったが、ふと気がつく。

 

「あら? 葵、一応一人暮らしよね。Gちゃんが出たらどうしてたのかしら」

 

「ああ、それは……」

 

 葵は爪楊枝を取り出し、再びカプセルの説明をする。

 

「便利ねぇ……」

 

「ちょっと前までは、優子と良ちゃんの居ない場所でしか使えなかったんだけどね」

 

「葵、ウチにいる時にGちゃんが出たら、引き攣っておかーさんを見てたのはそういう事だったんですね」

 

 そんな会話をしている内に葵は爪楊枝に魔力を込め、ストラップで足りない分を即席の誘導で補う準備をしていた。

 

「一応確認するけど、俺もミカンの部屋に入って良いんだよね?」

 

「ええ、人手が多ければ助かるわ」

 

 ミカンは葵の質問の意図を読めていないらしい。

 葵は微妙にモヤモヤしながらも、二人に続いてミカンの部屋に入る。

 

「うわぁ……」

 

 葵は思わず声を漏らしてしまったが、彼は悪くないだろう。

 それほどの惨状だった。

 

(桃といい、魔法少女って言うのはズボラなのか……?)

 

 葵はそんなことを考えながら、部屋の掃除に加わる。

 幸いなことに、“布切れ”などは落ちていなかったのだが。

 

「ところで、さっきから言ってるストラップって何なんですか?」

 

 その問いに葵が答えると、シャミ子は心底嬉しそうな顔をした。

 

「葵にしか出来ない事、見つかってよかったです!」

 

「……! 桃にも、同じ事言われたよ」

 

「そうなんですか?」

 

「葵、改めてありがとう」

 

「本当は、根本的な解決が出来たらいいんだけどね」

 

「これで十分よ。後で小倉さんにもお礼、言わなきゃ」

 

 二人の会話を聞いて、シャミ子は一瞬思いつめたような表情になり、そしてミカンに声をかける。

 

「ちょっと心配だったんです。ミカンさんはいつも無茶振りされてる気がして……」

 

「……そんなこと心配してるの? 

 大丈夫よ! 桃とはそんな浅い付き合いじゃなくってよ。

 付き合って10年、お互い無茶振りはしあってるわ。

 あんなに根暗な一面は初めて見たけど」

 

「10年……」

 

 桃に対する評を聞いたシャミ子はポカンとし、ミカンと葵はそれを見てニヤニヤしだす。

 

「……妬いてる? 妬いてるの?」

 

「そっ……そんなわけあるか! 宿敵だぞおら〜!」

 

「俺は嫉妬しちゃうなぁ〜」

 

「……葵、あなた桃が関わると性格変わるわよね」

 

「……そうかな?」

 

 葵は深く首を傾げつつも、部屋の掃除は進む。

 そしてある程度のゴミが纏められた所で、三人は外のステーションにそれを運んだ。

 葵は男の意地で、二往復目は一人で運ぶと言い張り、ゴミを置いてばんだ荘に戻る。

 葵が階段を登ると、そこに居たのはずぶ濡れになった桃。

 それを見て葵はすぐに察した。

 

「……足りなかったか……」

 

「……さっきから何してるの?」

 

 葵は事情を説明し、桃を連れてミカンの部屋に入ると、ミカンも察したらしい。

 

「あら? 桃……呪い出ちゃったのね……」

 

「……そういえば。葵さっき、桃の部屋から出てきてませんでした?」

 

「……あっ。Gちゃん騒ぎで気が付かなかったわ」

 

「ああそれは……ムグッ!?」

 

 その事実にようやく気がついた二人が頭に疑問符を浮かべ、葵が説明をしようとすると桃に口を塞がれる。

 

「どうしたんですか?」

 

「んー! んー!」

 

 葵はまだ口を塞がれ続け、もがいている。

 そんな中、葵と桃の様子を見て考えていたミカンが答えにたどり着いたらしい。

 

「朝に桃の部屋から出てきて……その上エプロン……桃、あなたまさか……」

 

「その件について深く追及すると闇落ちするからやめて」

 

「あっ、ズルい! この子ズルいわ!」

 

 桃の抵抗虚しく、葵がずっと着けていたそれのせいでバレてしまったのだった。

 

「桃、葵に朝ごはん作ってもらったんですか?」

 

「……今日は葵の気分だった」

 

「何で隠そうとしたのかな……人に知られるの嫌?」

 

「……そうじゃ、ないけど……」

 

 少し悲しそうな葵に、桃は顔を反らしながらそう言った。

 

 ■

 

 葵のテンションが戻ると、桃は虫よけの結界を作ることを提案する。

 吉田家に貼られている“魔法少女よけの結界”の簡易版で、桃は桜から簡単な結界を教わっていたらしい。

 

「葵って、姉から結界とか術とか教わってたりするの?」

 

「あぁ……俺が教わったのは、この紐と同じ術式だけだね。残念ながら」

 

「そうなんだ……」

 

「ついこの前に小倉さんから教わったのが、初めて覚えた魔法陣。

 桜さんが居なくなる前に、俺が戦いたいって言い出したら……どうなってたんだろうね」

 

 葵の言葉で少ししんみりしながらも、桃は結界の魔法陣を書き始める。

 定規やコンパスを使うそれはまるで製図のようであり、更には桃の口から漫画のアシスタント用語が何度も飛びだしていた。

 数時間後。桃の頼みでシャミ子は魔法陣を杖で突き、魔力を吹き込む。

 そして光と共に結界は起動し、完成したのだった。

 が、まだ荒いシャミ子の魔力で起動させたそれは半日と持たず、わんこそばのごとく運ばれてくる紙にシャミ子は魔力を注ぎ込む羽目になった。

 

「……そうだ桃、一枚それ貰ってもいいかな」

 

「いいけど……」

 

 魔法陣の描かれた紙を貰い、葵は自宅の玄関前でそれに魔力を込めようとする。

 

「……あ、ヤバイこれ」

 

 葵が冷や汗をかく中、魔法陣から凄まじい光が漏れ、次の瞬間それは塵と化してしまった。

 葵について来ていた桃はそれを見ると推察を話し出す。

 

「葵の力を受け止めるには、そこらのチラシとペンのインクじゃダメみたいだね。

 魔法陣を刻まないなら爪楊枝でもなんとかなる。

 だけど、ミカンに渡した護符といい、複雑な物はその素材になる植物が重要……と」

 

「だめかぁ……」

 

 出来る事が増えるかもと思った葵は肩を落とし、落胆したのだった。

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