まちカド木属性 作:ミクマ
新学期初日、通学路を歩く高校生4人。
途中までは葵も一緒だ。
「葵、遠いのに私達と一緒で大丈夫なの?」
「普通に間に合うから問題ないよ」
「ならいいのだけれど……」
葵はそうあっけからんと返すも、ミカンはまだ心配そうだ。
実際の所、この時間だと葵は遅刻こそしないが以前より遅めの登校になる。
シャミ子と桃にこっそり話を通しておき、環境の変わるミカンに少しでも付き添えるように、という考えだ。
「私……きちんと転校の自己紹介できるかしら。呪い体質のこと話しても、引かれないかしら」
今度は自身の事で不安げになるミカンを、三人は励まそうとする。
「大丈夫。みんな受け入れてくれるよ」
「私はミカンさんが今日から同じクラスで、凄く嬉しいし楽しみです」
「あの高校、凄いおおらかだから。
夏休みとはいえ、俺が中に入ってもなぁんにも言われなかったし。
優子の事、俺が迎えに行った時も周りの子が話しかけてくれるんだよ」
葵の高校も相当おおらか……と、言うよりはフリーダムなのだが、それは言わない。
三人の言葉にミカンは赤面し、そして懐からピキリと割れるような音がした。
「あ、また割っちゃったわ……」
「ちゃんと動作してるみたいだね。ガンガン壊してくれて構わないよ」
音の正体は言うまでもなく、葵の作ったストラップである。
葵は今朝、それを多めにミカンに渡した。
壊れた物はその内の一つではなく、先日に渡した物ではある。
壊れた事自体にミカンは少し申し訳なさそうであるのだが、葵にとっては割れている事こそが自信に繋がるのだ。
「ストラップ作るの慣れてきたし、幾らでも渡すから。
学校別の俺が助けられる事なんだから、遠慮しないで言ってね」
「ありがとう……」
葵はお茶目にウインクしながらそう言い、そして四人は駅への分かれ道につく。
「じゃ、頑張ってねミカン。
杏里には色々伝えておいたから、喜んで助けてくれると思うよ」
「私とシャミ子も支えるから」
「もちろんです!」
葵と三人は笑顔で手を振りながら別れ、そして葵は駅への道を往く。
(俺も……頑張らないとね)
あの高校で過ごす事は、凄まじく疲れるのだ。
しかし同時に、それは葵にとって間違いなく楽しい時間と言える。
二本のボトルが入った二つ目のカバンを揺らし、葵は駅へと走って行く。
■
「葵、お帰りなさい」
「ただいま」
帰ってきた葵は、ばんだ荘の前に立つシャミ子に迎えられた。
お互いに微笑みあい、そしてシャミ子はしっぽを激しく振り出す。
「それで、学校はどうでしたか?」
「前と変わりなく、いつも通りだったよ」
いつも通りツッコミの声が響き、前会長からはパシらされる。
持っていったボトルの一つの中身である水を渡せば、素直に喜ばれた。
もう一つの土のボトルを届けると、訝しげな目をされつつも受け取られ、そして妹分の様子を聞かれた。
「あ、でも一つだけ違うことがあったかな」
「なんですか?」
シャミ子はウキウキな様子で詰め寄り、葵はカバンからあるものを取り出す。
「それって……」
「優子のお弁当、すごく美味しかったよ」
二学期から、葵とシャミ子は交互に弁当を作ることになった。
その記念すべき初日はシャミ子によるものだ。
葵の言葉を聞いてシャミ子は一瞬呆けていたが、すぐに満面の笑顔になる。
「……! はい! ありがとうございます!」
「明日は俺だね。楽しみにしててね」
「もちろんです! そして、明後日はまた私です」
「うん、楽しみにしてるよ」
そして葵は桃の部屋に招かれ、シャミ子達の学校の話を聞き始める。
「本当に、皆優しかったわ」
ミカンは感極まった様子でそう語る。
今日は委員会の会議があったらしく、ミカンは杏里と同じ、体育祭委員会に入ったようだ。
「ウチの体育祭、夏休み終わってすぐなんですよ」
「それは大変そうだね。ミカンは大丈夫なの?」
「私、魔法少女だから。
体育祭そのものに参加するのは、競技性の問題で無理そうだけれど……。
それでも、みんなで準備できたら仲良くなれると思ったの」
「……なるほど」
微笑みながら話すミカンを見て、葵だけでなくシャミ子と桃も笑顔になる。
「杏里ちゃんとミカンさん、すごく仲良くなってましたね」
「ええ、ずっと気を使ってくれたわ。
……ところで、葵と杏里が仲良くなった時の話。私気になるのだけれど」
「うん? そうだね……」
今度は葵が話を振られ、ミカンの疑問に答えだす。
「初めて会ったのは、杏里の家の精肉店で見かけたってだけなんだよね」
顔は知ってはいたが、ただそれだけの関係だった。
転機はシャミ子達の入学式だ。
その日、学校内で迷子になっていたシャミ子を、杏里が助けたという話。
それはミカンと桃も既に聞いていたらしい。
「で、清子さんの代わりに優子を迎えに行ったんだ」
校門までシャミ子を連れた杏里に、葵は深く礼を言った。
それに杏里は軽く返し、それ以降も学内でのシャミ子を手厚く見守ってもらっていた。
「本当に、感謝しているよ。杏里の社交性には色々と助けられてる。
俺からすると深い恩なんだけど、杏里からしたら当然のことなんだろうね」
仲良くなったきっかけはそんなものだった。
いつの間にか名前で呼びあっている、あっさりしたものだ。
「杏里が居なかったら、優子が高校に行ってる間、ずっと心配しか出来なかったよ」
「杏里ちゃん、本当に優しいです」
葵とシャミ子は目配せし、そして微笑んだ。
そして葵は少し照れた表情になり、咳払いをする。
「ま、こんな所かな。ミカン、委員会頑張ってね」
「ええ、もちろんよ」
「そういえば……葵の学校にも、委員会の業務とかあるんですよね?」
委員会繋がりで、シャミ子にそう聞かれる葵。
「あー……俺はちょっとね。去年、俺が生徒会に入ってたってのは言ったっけ」
「良がそんな事言ってたような……」
「葵、結構優等生なのかしら?」
ミカンにからかうようにそう言われるも、葵は微妙な表情になる。
「うーん。俺は予備役員で、ほとんど雑用みたいなものだったんだよね」
「雑用……?」
「まあ、それなりに教師からの信頼はあるかな。
で。今も前会長のお使いしてて、特例で俺は委員会とか入ってないんだ」
「よく分からないけど、すごい権力なのね……」
「ほんと、あの人にはいろんな意味で頭が上がらないよ……」
■
そうして葵達は日常をすごし、そして数日後。
ミカンは体育祭委員会の業務で学校に残り、シャミ子と桃もそれを手伝っている。
桃が行っているのは、巨大な看板をペンキで塗る作業。
ミカンは、競技の一つである騎馬戦の調整だ。
身長差の問題で安定しないその騎馬に、後ろからペンキを持った女生徒がうっかりぶつかってしまう。
そして上にいるミカンは騎馬から落ち、頭を打って気絶する。
「あ! まって近寄らないで! ミカンは気絶したときが一番……!」
桃の警告は届かず、ミカンから漏れ出した力が渦巻き、そして──。
■
ばんだ荘の前でシャミ子達の帰りを待っている葵。
珍しくいつもとは逆の立場だ。
「遅いな……ん?」
葵が道路の先を眺めていると、そこに人影が見える。
「……ミカン?」
「──ッ!? あ、あおいっ……!」
そこに居たのは、手で顔を隠したミカン。
葵を視認したミカンは小さな悲鳴をあげ、そしてつっかえつっかえに葵の名を呼ぶ。
「えっと……その、これ……」
「うん……?」
「ごめんなさいっ、また明日!」
ミカンは手に持つ何かを葵に押し付け、そして急いで自室に戻っていった。
その間も片手で顔は隠していたが、葵はあるものが見えた気がした。
「泣いてた……か?」
ミカンの指の隙間から潤む目が見え、声も鼻声に感じた葵は困惑を禁じ得ない。
そして、ミカンに渡されたものを葵は確認する。
それは葵がミカンに渡したストラップの中身、魔法陣の刻まれた護符が数個有った。
しかし、元の形が特定できぬほどに膨らんでおり、作った張本人である葵でなければ何か分からなかっただろう。
「まさか、呪いでここまで……」
と、ここで桃からの着信が入る。
『葵、ミカンはもう帰ってる?』
「うん。だけど様子が……」
『事情は帰ったら説明する。ちょっと待ってて』
そこで通話は切れ、指示どおりに葵がしばらく待っていると、シャミ子と桃が到着する。
「何があったの?」
「実は……」
体育祭の準備中、とある事故によりミカンが気絶してしまい、大規模な呪いが発動してしまった。
幸いな事に、葵のストラップにより周りに被害は出ず、ミカン自身にも大事は無かったのだが。
「気絶した時が一番呪いが強いんだっけ……」
「うん。葵のストラップが全部破裂してた」
「なるほど……」
葵は右手に握るそれを見て、納得した声と表情になった。
そして、シャミ子がおずおずと話を続ける。
「委員会の人達、みんなミカンさんを励ましていて……。
杏里ちゃんもそうだったんですけど……それが余計に辛いみたいで……」
シャミ子と桃が暗い顔になる中、葵は考える素振りを見せる。
「……うん。準備してくる」
「へっ……? 準備って……?」
「葵……?」
二人の呼ぶ声に葵は手を振るだけで、家の中に入ってしまった。
そして葵は壁に寄り掛かり、胸に手を当てる。
『桃ちゃんともう一度会ったら仲良くしてあげて』
『優子ちゃんと助け合って生きて』
『あなたが助けられる人は沢山いる』
葵はその3つの言葉を思い浮かべ、そして目を閉じる。
「……二人に供給して、呪いからの反撃も考慮するとして……」
シャミ子達の為に、葵も“次の段階”に進むのだ。
■
ばんだ荘の二階の外廊下、そこに立つシャミ子と桃。
「私も今、丁度そっちに行こうと思ってた」
「やっぱりおんなじ事を考えていたな! さすが私の宿敵だ!」
二人がそんな決意の表情を見せていると、階段から足音が聞こえる。
「待ってたよ。準備は万端」
「葵!」
「優子……」
葵はそこで言葉を切り、シャミ子を眺めると再び口を開く。
「優子。……それが優子の決めたことなんだね」
「はい! これがこの町で、私にしか出来ないことです!」
シャミ子の強い宣言に葵は笑顔になり、今度は奥にいる桃を見る。
「桃。……よろしくね」
「うん、じゃあ……行こう」
シャミ子の先導で三人はミカンの部屋に入る。
寝室で何かを強く握りしめ、放心していたミカンは三人を視認すると驚愕し、そして頬を染めた。
「……大事がなくてよかったよ。俺のそれが、少しでも役に立てた」
「葵……」
ミカンが握りしめる手の隙間からは、紐が覗いていた。
「でも……葵にいつまでもこれを作ってもらうのは……」
「そのために来たんです!」
弱々しいミカンのつぶやきを遮るシャミ子。
「私が、ミカンさんの中に住んでいる悪魔と話をつけます。眷属(仮)も同行する!」
「……うん」
「優子。俺は優子にとっての何かな」
「葵は……信頼できるすごい
「そうりょ……フフ」
シャミ子らしいその答えに葵は微笑む。
(……うん。これが……俺にしか出来ない事。
優子の配下として、優子に指示された役割をやり遂げる)