まちカド木属性   作:ミクマ

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聞かせてもらったわ

 呪いの原因である、ミカンの心の中に取り憑く悪魔。

 シャミ子はその悪魔と交渉するために、桃と共にミカンの心の中に潜り込もうとしている。

 

「桃は私の護衛役、葵には魔力を分けてもらいます」

 

「万全の状態を保てるよう頑張るからね」

 

「護衛、万全の状態……今からやることは結構危ないの?」

 

 シャミ子と葵の言葉を聞き、ミカンはそう問う。

 リリス曰く、心の中に入ること自体は本人の許しがあれば難しくない。

 しかし、侵入者がそこにいる悪魔から何をされるか分からない。

 そんな解説を聞いたミカンは三人を止めようとするが、シャミ子の意志は固い。

 桃も、葵もそうだ。

 

「シャミ子はミカンを助けたいって。……私も同じ気持ち」

 

「勿論俺も。俺はついていくことは出来ないけれど、それでも優子たちを手伝いたい」

 

「葵だって、絶対に安全って訳じゃないのでしょう……?」

 

「そうだね。でも、それ以上に危険な優子たちを放っておくのはもっと嫌だよ」

 

「ミカンも、それに葵も。多少危険を冒しても帰ってこれると信じて欲しい」

 

 葵は頷き、ミカンは渋々ながらも桃の言葉に同意した。

 しおんが作ったらしい闇落ち安定薬を、桃が吐きそうになりながらも飲んでいる間、ミカンからの聞き取りで悪魔の情報を集める。

 

「……私たち家族は“ウガルル”って呼んでいたわ」

 

 それは古代メソポタミアに関係のある怪物の名前らしいが、リリスは本物ではないだろうと推察する。

 

「似せた形のよりしろに、簡単なルーチンをする使い魔を憑けて娘の護衛にしようとしたんだろう」

 

「使い魔……」

 

 葵達が思い浮かべるのは桜の山で遭遇したアレだが、ウガルルの場合は質の良いミカンの魔力を糧として成長し、そして制御不能になってしまったらしい。

 とりあえずの情報収集を終え、シャミ子達は眠る準備を始める。

 

「それじゃ、葵。お願いしますね」

 

 その言葉と共にシャミ子と桃は手を差し出し、葵はそれを握り返す。

 

「やっぱりこれ、葵が感じられて温かいです」

 

「ありがとう……桃、調子はどうかな」

 

 やはり無意識なしっぽが腕に巻き付いており、葵はそれに微笑んだのだが、次に桃を若干不安げな表情で見る。

 

「何かあったの?」

 

「実はね、今は優子に染めた魔力をそのまま桃に渡しているんだ。

 眷属だから大丈夫だと思ったんだけど……どうかな」

 

「大丈夫、絶好調」

 

「良かった……これで、俺に余裕ができるかな。

 何か他に対応できることがあるかもしれないからね」

 

 そんなやり取りを眺めていたミカンは、微笑みながらも手をモジモジと動かしていた。

 

「……ミカンさん? どうかしましたか?」

 

「……! な、何でもないわ」

 

 向き合っていた桃と葵は、シャミ子による指摘を耳にしてミカンの方を見る。

 

「……ミカン?」

 

「……葵。ミカンにも魔力、渡してあげて」

 

「だ、大丈夫よ。私は何かする訳じゃないんだから……」

 

 桃の提案にミカンは赤面しながら拒否し、そして更に理由(建前)を重ねる。

 

「それに! 葵の手は二つしか無いじゃない。シャミ子と桃で精一杯でしょっ!」

 

「……つまり腕に余裕があればしたいって事?」

 

 桃のそんなデリカシーのない指摘にミカンは更に赤面し、そして葵が一応持ってきた新しいストラップが割れた。

 

 相談の結果。

 シャミ子はそれぞれの手で、桃と葵の手を握り持ち込んだ布団に寝る。

 シャミ子を経由して闇落ちした桃に魔力を渡せる事が判明したため、桃の提案でこうなったのだ。

 桃は少し寂しそうな表情をしていたが、葵の力を感じ取りまた微笑む。

 そしてミカンは片手を葵と繋ぎ、部屋にあるベッドに寝る。

 

「樹に成った果物みたいな気分ね、これ」

 

「ミカンらしい例えだね……いまいちよく分からないけど」

 

「凄く安心するってことよ」

 

 つまりは桃、シャミ子、葵、ミカンの順に並んでいるということだ。

 

 ■

 

「……起きて、シャミ子」

 

「……むにゃ」

 

『問題なくミカンの心に入れたようだな』

 

 ミカンの心の中。

 奇妙な例えではあるが、眠りに入ったシャミ子は闇落ちした桃に起こされる。

 

「視界があまり良くないね。シャミ子、私から離れないで……」

 

 シャミ子の前に立つ桃がそう言うが、シャミ子自身は桃の持つ漆黒の日本刀に興奮している。

 刀を観察しようと興奮するシャミ子に、桃が照れたりしていると、リリスとは別の声が響く。

 

『……し……しもし、テステス、マイクテス』

 

「この声……まさか」

 

「葵ですか?」

 

 少しふざけた調子のその声を耳にした桃は困惑し、対してシャミ子はぱあっと輝く笑顔を見せる。

 

『あ、良かった。聞こえるみたいだね』

 

「どうやって……?」

 

『この前優子が迷子になった時、俺の声が聞こえたって言ってたからね。

 どうやってかって言うのは難しいんだけど……再現できて良かった。

 だけど……二人の声は聞こえるけど、何も見えないんだ。

 だからあまりアドバイスとかは出来なさそうかな』

 

 解説する葵は途中まで嬉しそうな声だったのだが、後半からはトーンが下がっていった。

 

「そんなことないです。葵の声が聞こえると凄く安心できます」

 

「それにこの領域も葵の力に満ちてる。だから自信持って」

 

『そんな簡単に余の一族のマネをされたりしたら、面目丸潰れだぞ』

 

 シャミ子と桃の励まし、そしてリリスによる何処かズレた言葉に、葵は現実でこっそり笑っていた。

 

「葵、現実のミカンの様子はどう?」

 

『大丈夫。静かに寝てるよ』

 

 そんなやり取りをして、シャミ子と桃は進み始める。

 現実の葵は、邪神像からのテレパシーで逐一状況を報告されていた。

 

「この前のごせんぞうとの修行のおかげで、葵のありがたさがよく分かりました!」

 

 シャミ子は道中、ナントカの杖を七変化させながら進み、そしてそんな事を葵に言う。

 

「……シャミ子、あんまり無駄づかいは……」

 

『大丈夫、いくらでも頼って。もちろん桃もね』

 

「……うん。とっても助かる」

 

 そうして二人は淀む視界の中、ミカンに遭遇する。

 当然ミカンは二人には反応せず、更にその周りは黒い力場に守られていた。

 その力場こそが“ウガルル”であり、シャミ子と桃に反応して力を荒ぶらせ襲いかかる。

 

 ■ 

 

(……やっぱり来たな、反撃)

 

 葵は手を繋ぐシャミ子とミカンの両方から、“異物”が自らに入ってこようとするのを感じる。

 

「葵よ、問題はないか?」

 

 テレパシーではなく、邪神像からの声で葵はリリスに心配された。

 このやり取りはシャミ子たちには聞こえていない。

 

「ええ……それにしても、たった10年でここまで強くなるものなんですね」

 

「それだけミカンの魔力の質が良い、という事だ。

 それに儀式は不完全でも、ミカンの両親の“娘を守りたい心”は本物だったのだろう。

 こいつはこんな状態でも、その祈りを守り続けている」

 

「……なるほど」

 

 親心が産んだ悲劇。

 その言葉だけでは、この存在を例えるにはまだ足りないのかもしれない。

 力を暴走させ、望まずして周りに猛威を振るってしまった存在。

 葵とウガルルは何処か近い所はあったが、しかし決定的に違うところがある。

 

(俺は一度生きるのを諦めようとした。

 だけど……この悪魔は祈りを果たそうと、どんな状態でも10年間必死に生きていたんだ)

 

 葵はウガルルを、自身よりずっと強い存在だと認識する。

 そう考えると、葵は自らに入ってこようとする力の一部ををあえて受け入れた。

 

(どんな存在かは俺に見えない。

 だけどこうすれば、少しは理解できるかもしれない。

 皆、君に会いたがっている……勿論、俺も。だから……)

 

 葵が行ったその行動は、意図せずしてウガルルの存在を強固なものとし、そして。

 

『……ずるい武器、天……沼矛〜〜っ!』

 

「──ッ!?」

 

 頭に響いたシャミ子の叫び。

 その瞬間、葵は凄まじい勢いでシャミ子に魔力を吸い取られるのを感じ、思わず声を漏らす。

 

「……大丈夫なのか?」

 

「……はい。続けさせてください」

 

 リリスは葵の様子に気が付き、やはりシャミ子達には伝えずに気遣う。

 実際強がりでも何でも無く、葵に問題はない。

 シャミ子に供給する魔力はかなり多くなっているが、葵の持つ全体量からすれば些細なものだ。

 しかし葵はそれとは別に、この現状に強く心を揺さぶられていた。

 

(優子、ここまでの事が出来るようになったんだね)

 

 葵が出来る事はあくまでも回復に過ぎない。

 供給した相手の魔力を常に最大に保つことだけだ。

 これだけの魔力を供給出来るということは、シャミ子がそれだけ強くなっているという証であり、その事実が葵はとても嬉しかった。

 

 ■

 

 混沌を固める天沼矛の力で、ミカンの中に散らばったウガルルの魔力は固められた。

 それは少女のような姿を形作り、シャミ子達の前に現れる。

 彼女は困惑し、そして警戒していたが、交渉の場はここに成立した。

 

『かなり無茶したね。優子、大丈夫かな』

 

「はい! 大丈夫です」

 

 シャミ子は元気に葵の声に答え、そして護衛役の桃が先にウガルルに近づく。

 

「……君が、“ウガルル”?」

 

「んがっ。オレ、形アル。ナンデダ。誰ダオマエ」

 

『あ、ウガルル……ちゃん? の声も聞こえる』

 

 葵は知らぬ声に困惑し、そしてリリスの現況報告と声質からそう推測したのだが、やはりウガルル自身は虚空からの声に警戒している。

 

「誰ノ声ダ、コレ」

 

『はじめまして、ウガルルちゃん』

 

「……オマエ、コノ変ナ魔力ノ奴カ。オレノ魔力、返セ」

 

『くれたのはウガルルちゃんだけどね……まあいいか』

 

 ウガルルの訴えに答え、葵は受け入れた魔力をミカンに返した。

 

「……ヤッパリ変ナ魔力ダ。デモ、オレ強クナッテル」

 

『ふぅん……? 優子、桃。やっぱり俺は警戒されてるから、交渉は任せるよ』

 

 ■

 

 二人にそう声をかけ、ウガルルの発した言葉について葵は現実で考える。

 

(強くなってる……?)

 

 少し考え、そしてすぐに手がかりに行き着く。呪いの誘導だ。

 ミカンに返してもらった護符からは、葵の物に別の力が僅かだが混ざりあっているのを感じる。

 

(つまり、俺の力とウガルルちゃんの力は相性が良い)

 

 しかし、葵自身は呪いを受けやすいわけではない。

 葵は力を自分自身で消費して封じ込め、人に魔力を渡す場合はその者の色に染めている。

 

(魔力弾苦手で、放出の訓練始めてすぐ護符作ったのが幸いしたのかも……。

 で、護符や爪楊枝は漏れ出した俺の力そのものだから……引き寄せる)

 

 そして、引き寄せた上で魔法陣の力で抑え込む。

 

(……もしかして、紐と似たようなものか?)

 

 100の消費を0.1の力にするような浪費の術。

 呪いの力を抑え込むとは、そういうことなのだろうかと葵は考える。

 しかし桜は、ウガルルにそのままそれをした訳ではない。

 

(ウガルルちゃんの魔力とミカンの魔力が混ざり合っているって、さっき聞いたな。

 俺と同じ事をするとミカンに悪影響が出るのか……? 

 いや、それ以前に……)

 

 己から湧き出す力を使い尽くせば、何かしらの問題が出るだろう。

 しかし葵の力は外部からのもので、本来葵自身のものではない。

 故に、いくら浪費しても問題は出なかった。

 

(ウガルルちゃんを消す方向性にいかなかったのも、同じ理由かな。

 呪いとしてミカンの外に出た力ならば……そういうことか。

 まあでも、桜さんは……)

 

 10年前の召喚の直後。

 その時点ではウガルルとの意思疎通が出来たと、葵は情報収集の中そう聞いた。

 意思の有る存在を消すなど、桜は考えもしなかったかもしれない。

 

(うん。たぶんそうだろう)

 

 葵はそう考え笑顔になったが、しかしまだ一つ疑問がある。

 葵の力がウガルルを強くするのならば、呪いを抑え込むどころではない。

 

(……ああ、分かった。

 誘導されたウガルルちゃんの魔力は護符の力に呑まれてしまうけど、さっきのは俺がミカンの魔力に染めてたんだ。

 だからウガルルちゃんを強くした)

 

 護符に込められている莫大な“圧”を持つ力と、呪いとして出た極一部だけの力。

 そのような大差のある状態では、消えこそしないがすぐに抑え込まれてしまうのだろう。

 葵がそんな推察をしている間、桃達は交渉より警戒を解くことを優先していたようだ。

 と、そこでミカンの部屋の玄関から音がする。

 

「うわああああああ!? 何これ!? 下手人は葵か!?」

 

 その客人は杏里で、彼女は眠る三人を見て悲鳴を上げ、そして葵に詰め寄る。

 

「いらっしゃい。今みんな寝てるから少し静かにね」

 

「何でそんなに平然としているのさ!?」

 

「桃すまぬ、来客フラグだ。がんばれ! マイクオフ!」

 

 杏里に状況を説明するため、こちらからの声を切る葵とリリス。しかし。

 

「……ごめん、杏里。ちょっと集中必要そうな状況だから、話はリリス様からお願い」

 

 葵はミカンの中のウガルルの魔力が、再び散らばっていくのを感じていた。

 先ほどの軽い出迎えの言葉とは対象的に、葵は真剣な表情と声になり、その様子を見た杏里は冷や汗をかきながら頷く。

 あちらからの声はまだ聞こえており、それをBGMとして、葵はウガルルの存在を留めようと更なる集中を始める。

 

『肉の杖! 玉川牛〜っ!』

 

 ウガルルの望みである肉を出そうとしたシャミ子はそんな事を叫ぶ。

 さりげに先ほどの天沼矛(泡立て器)より魔力供給量が多く、彼女らしいと葵は密かに笑っていた。

 

(優子にとっては泡立て器より牛肉の方がイメージ難しいのかな……)

 

 これが終わったら奮発しようと、葵はそんな誓いを立てたのだった。

 

 ■

 

 桃達の説明により、ウガルルは自らの行為が、ミカンや周りを困らせてしまっていた事を知る。

 ウガルルにとってもそれは好ましくない事であり、その行為を止めると彼女は言った。

 

(マズイッ!)

 

 ウガルルの存在を固める柱は“仕事”であり、それが折れてしまった事で急速に魔力が拡散を始める。

 葵はそれを感じ取り、必死で抑えようとするも結果は出ない。

 

「オレ……ミカン守るため生まれタのニ、ミカンずっト困ってタ。

 ミカンきっとオレのコト許さなイ」

 

『ダメだ! ウガルルちゃん!』

 

「葵!?」

 

 ウガルルの言葉を聞いた葵は思わずその叫び声を届ける。

 

『君がこれまでの行為を悔やんでいるのは分かる! 

 それでも生きるんだ。10年経って、俺はようやく未来を見ることが出来た。

 だから、ウガルルちゃんも生きていれば必ず……!』

 

 葵は一種のトラウマを刺激されていた。

 初対面でも、ウガルルが自分と同じ状況に陥るのは見て(聞いて)いられなかった。

 

「でも、オレ……タダの使い魔……だから……」

 

『タダの使い魔は悔やんだりしない! 

 君は使い魔でも、肉を楽しんだり、侵入者に怒ったり、悩んだり、感謝の言葉を喜んでる! 

 だからっ……君は……っ! 生きろ! それが俺から君への……仕事のお願いだ!』

 

「……仕事……オレ……」

 

 あまりにも無理やりな理論だが、その単語に反応して一時的に魔力の拡散が止まる。

 とはいえ、主でも何でも無い葵の言葉は大きな力を持たない。

 

『くっ……!』

 

「葵の熱い言葉聞かせてもらったわ!」

 

「ミカンさん!?」

 

 夢の中、いつの間にか起きていたミカンがウガルルを羽交い締めにする。

 現実の杏里の助けで、ミカンは半覚醒の状態になっていた。

 

「葵の話は滅茶苦茶だけど……それでも一理あるわ! 

 ……ウガルル、貴方に雇い主として命じます。凹んでないでもう一度やり直しなさい!」

 

 ウガルルはその言葉に困惑するも、ミカンは更に説得を続ける。

 

「一回失敗したくらいで心折れて消えるなんて、そんな楽ちんな生き方、私が許さない」

 

『ウガルルちゃん……君にしか出来ない事が必ずある。

 俺も少しずつだけど、最近それが増えてるんだ』

 

「オマエ……」

 

「それにね! 私……大失敗してもこの町の友達に受け入れてもらえたの。

 だから……貴方ももう一度頑張りなさい!」

 

「んが……」

 

 ミカンのその言葉で、ウガルルの魔力は再び固まった。

 しかし、またしばらくすれば蒸散を始めるだろう。

 それを考慮した桃は、現実でウガルルを再召喚し、新しい仕事を与える事を計画した。

 

『……ウガルルちゃん。

 こっちに来たら美味しいお肉食べさせてあげるから、それまで少し待っててね』

 

「ニク……さっきのタマガワギューとかいうヤツ、美味かっタゾ」

 

『うん。だから、もう少しの辛抱だよ』

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